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ナルト忍法帖

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時は少し遡り、イリヤ達一向がゼオン・ベルと激突している最中。
うずまきナルトもまた、砂瀑の我愛羅と熾烈な戦闘を繰り広げていた。
ナルトは我愛羅から距離を取りつつ、両手で印を組んで最も慣れた術を行使する。



「影分身の術!!」



ボン、と音を立てて現れるナルトの分身たち、その数は十を超える。
目的は攻撃や攪乱の為ではない、回避する際の足場とするためだ。
ナルト本体が組体操の様に積み重なった分身たちの身体を蹴って空中へと駆け上がる。
その二秒後、大地は分身達ごと砂の濁流に飲み込まれた。



「無駄だ……!」



だが、空中に昇った程度で逃れられる程我愛羅の砂は甘くはない。
即座に砂を操作し、空中にいるナルトへと襲い掛からせる。
掴まれば当然命はない魔手。しかし対するナルトは笑みすら浮かべており。
慌てる事無くもう一度印を組み、そして叫ぶ。



「影分身の術!!」



空中に現れる二体の影分身。
物理的に無理のない体勢ならば、空中でも影分身たちの向く方向や体勢は調整が効く。
その特性を活かしてナルトは分身たちに己の身体を抱えさせ、そして命じた。



「行くってばよ!!!」



砂が到達する数瞬前。
本体のナルトが命じるのと同時に、分身たちは抱えていたナルトを投擲した。
人間砲弾もかくやの勢い。タッチの差で砂はナルトを取り逃がす。
更に、ナルトが狙ったのは単なる我愛羅の攻撃の回避ではない。
矢のように空中を突き進み、勢いそのままに本丸である我愛羅を狙う。
……否、狙おうとした。



「いっ!?ちょちょっ、ズレてるってばよォッ!?」



だが、不安定な空中で投擲したためか、座標は大幅にズレが生じており。
我愛羅の脇をナルトはすり抜け突き進む、地面へと向かって。
このままでは自爆だと考えたナルトは、慌てて印を組んだ。



「影分身の術!」



新たな分身が現れ、ナルトを受け止める。
それと並行して我愛羅の方に何かを投げつけた。
それを目にした我愛羅だったが、構わないと考えた。
どうせ自分の絶対防御を敗れはしないのだから。
砂を操作し、投擲物ごとナルトを撃ち抜ける態勢を作る。




「砂手裏剣!!」



砂の散弾が、投擲物を撃ち抜く。
その瞬間、濛々と煙が立ち込め、我愛羅の視界を塞いだ。
煙玉か。視界は塞がれたが単なる目くらましだ。問題はない。
砂から伝う振動で敵が此方に向かってきている事は把握している。
どうやら砂時雨はやり過ごしたらしいが、何をしようと無駄でしかない。
ナルトは体術使いの下忍の様に、砂の盾を上回るスピードを奴は出せないのだから。
そう思いながら、振動を感知した方向に砂を槍の様に放つ。
此方の位置を把握できていないとタカを括っているのであろう相手を、一息に貫く。
どしゅッという音が響いた後、手ごたえを感じ取ってほくそ笑んだ。
これで奴は重傷を負ったはず、後は嬲り殺しの時間だ。
そう考えるが、直後に背後から振動を感知し笑みが消え失せる。



「フン────」



どうやら、また分身の術でやりすごしたらしいと我愛羅は悟る。
涙ぐましい小細工で凌いだとしても、全ては無駄でしかないと言うのに。
影分身しか能のないナルトに自分の砂の盾を突破する術はない。
砂の盾を突破されぬ限り、我愛羅の勝ちは揺らがない。
恐らく支給されなかったのだろう、“前回”の様に、起爆札を使ってくる様子もない。
ますます自分の勝ちは揺らがぬ物に────



(………待て、“前回”とは何だ?)



記憶の混濁。不自然な既視感。
うずまきナルトと戦うのは今回が初めての筈なのに、奇妙な感覚に襲われる。
まるで、以前に戦った事があるような。本気でぶつかり合った事があるような。
考えて見れば、何故自分はナルトの同行者を殺さなかった?
脱出された様だが、僅かな時間とは言え自分の砂は連中を飲み込んだ。
その時に即座に砂瀑大葬を放っていれば、一気に五人殺害できたかもしれない。
それなのに自分は何故、取り巻きを押し流すにとどまったのか。



(うずまきナルトとの戦いに拘ったとでも言うのか?俺が……?)



そんな筈はない。我を愛する修羅にとって、この世の全ては敵の筈。
そこに優劣をつけるとするなら、それは敵の強さだけである筈だ。
あのうちはの末裔の様な真の孤独を知り、それ故に強い者ならばともかく
それ以外の要因によって、殺すべき敵に優先順位を設けるなど……
我愛羅の脳裏が、思考と動揺に埋め尽くされる。
この程度の相手ならば戦闘中に考え事に耽っても問題ないと言う自負故の行動だった。
だが結果だけ述べるならば、彼はこの瞬間誤った選択肢を選んだ。



「─────がッ!!!……ッ!?な、なにが………ッ!!!」



風が、吹き抜けた。
その感覚と共に凄まじい衝撃が我愛羅を襲い、砂の盾を突き破って吹き飛ばされる。
何が起きたのか分からなかった。砂の盾での防御は十全だったはず。
それなのに、何故自分は大地に伏せ、転がっている?
まさかうずまきナルトに、自分の砂の盾を突破できるほどの術があったとでも言うのか?




────ボカン!



また知らない記憶が脳裏を駆け巡り。
そうか、と我愛羅の口から呟きが漏れる。
起爆札だ。奴は隠し持っていた起爆札を使ったのだろう。
背後は守鶴が普段尾で隠している最も脆い部分。
それが無意識のうちに砂の盾にも反映されてしまっていたのだろう。
同じ手に引っかかってしまったのは不覚と言わざるを得ない。



「く……っ!」



砂の盾によりダメージ自体は殆ど無い。
だが、身体を襲った動揺と衝撃による平衡感覚への影響は大きく。
しかも肉体への影響はそれだけではない。強い眠気をも我愛羅を苛んでいた。
恐らく、煙玉と合わせて眠り玉でも投げていたのだろう。意外に頭の回る男だ。
はぁはぁと荒い息を吐き、生まれたての野生動物の様な状態で立ち上がる。
一言で言って舐め過ぎた。己のマヌケさに苛立ちながら、眼前に立つ敵を睨む。



「お前は一体……何なんだ………!」



見ていると知らない光景が過り、光景が過るたびに憎しみが揺らぐ。
化け物の自分と相対しているのに、その瞳に恐怖や憎しみは存在せず。
殺意を感じないのに、不条理ともいえる強さを発揮する。
理解不能だった。我愛羅の目には、ナルトこそ正体不明の怪物の様に映った。
だから、側頭部が痛むように片手で押さえながら、ナルトへと言葉を投げつける。



「俺を止めると言うなら、俺を殺しに来い!
化け物である俺を殺して、英雄にでもなって見せろ!そうでなければ、俺は止まらん!
その気が無いのなら、さっさと俺に殺されて、負け犬として骸を晒せ……!」



終わらない苦しみの中で絞り出すように、我愛羅は叫んだ。
生れてこの方、戦う相手から憎しみ以外の感情を向けられた事がない。
だから目の前の敵を知っている相手へ変えようとする、殺意を向けてくる相手へと。
そうしなければ“恐ろしい”と、恐怖を感じそうだったから。
だが、うずまきナルトがそんな我愛羅の願いに応えることは無く。
苦笑と共に、言葉を返した。どっちにしてもそりゃ無理だと。



「あん時は殺してでもお前を止めるって言ったけどさ。
今の俺はお前を殺して英雄に何かなるつもりも、敗けて負け犬になるつもりもねーよ」
「何故だ……!お前は何故……俺を……!」
「一人ぼっちの苦しみがハンパーじゃねーのは、俺も知ってんだってばよ。
だから、みすみすお前を一人ぼっちの暗闇に行かせる訳にはいかねぇ。ただそんだけだ」



揺るがぬ気勢を露わにして、ナルトは真っすぐ我愛羅に立つ。
その瞳を見ていると、我愛羅は頭を強く殴られた様な衝撃を覚えた。
ナルトの瞳の奥には、我愛羅が味わってきた物ときっと同じ痛みがあったのだ。
それに気づいて、どうしようもなく胸が痛む。
彼をこれまで支えていた憎しみが霞の様に薄れ、頼りのない物となっていく。
揺れる我愛羅に、ナルトは微笑みながら言葉をかけた。





「………何回でも言ってやるから。心配すんなよ、我愛羅。
お前が自力で止まれないならそれでいい。俺が…お前の憎しみごと止めてやる!」



語るナルトの態度には、殺意は愚か敵意すら宿ってはいない。
友に語り掛ける様に朗らかで穏やかで、けれど決して変わる事のない不変の力強さが感じられた。
じっと見つめていると自分がこの世に存在してもいいのだと、そう言われている様で。
あの日自分が殺した夜叉丸の顔が、ナルトの顔と重なる。



「そうか…ならば……止めて見せるがいい………!」



初めて敵から殺意や敵意、害意以外の物を受け取り。
動揺を見せながらも、我愛羅は臨戦態勢を解かなかった。
夜叉丸を殺したあの夜から、常に憎しみが己を支え、憎しみに従い生きてきたのだ。
簡単にこれまでの生き方を棄てることなど出来はしない。
だから我愛羅もまた、真っすぐにナルトの瞳を見つめながら訴えた。
語る言葉が真実だと証明して見せろと、この砂瀑の我愛羅の憎しみを超えて見せろと。
俺に勝って見せろと───止めたいのならば殺せ、とはもう彼も言わない。
今ならば何となく、目の前のこの男と雌雄を決する事に拘った理由がわかる気がする、と。
思いを馳せながら印を組んだ。その際一瞥した相手の表情は、変わらず穏やかで。
けれど決して尽きず揺るぎのない物を抱いた、そんな表情を浮かべていた。



────流砂瀑流!!



だから、我愛羅もまた本気でナルトへとぶつかる。
今胸の内に残った憎しみと殺意、そしてチャクラを結集させ、最大規模の術を放つ。
流砂は影分身の応用で逃げられる公算が高い。それ故に範囲の広いこの術だ。
砂塵の波濤を作り出すこの術であれば、幾ら影分身を生み出そうと無意味。
うずまきナルトの抵抗ごと飲み込んだ後、砂漠大葬でカタをつける。
傍から見れば分身しか能のないナルトには、これが最も確実な方法と言えるだろう。



「うわああああああっ!!」



成す術がない、と言った様相で、ナルトが砂へと飲み込まれていく。
我愛羅はその様を、一瞬たりとも見逃さずに凝視していた。
傍から見れば大口を叩いておいてあっけなく、情けない様相ではあったけれど。
この程度でうずまきナルトがどうにかなる訳はない。
我愛羅は既にその確信を抱いていたから、彼は決して手を緩めない。
受ければナルトであっても間違いなく即死となる術、砂漠大葬の発射準備に入る。
これで勝負を決めると言う決意を胸に、チャクラを砂へと送り込む──!






────亥 戌 酉 申 未 !
────口 寄 せ の 術 ! ! !






         ド    ロ    ン   ッ  !!!





────ズゥゥゥゥンッッッ!!!
腹の底まで響く地響きが、大地を鳴動させる。
瀑砂がナルトを殺すよりも早く、彼は口寄せの術により我愛羅の砂を打ち破ったのだ。
二人の立つ大地がせりあがり、空が一気に近くなった。
砂の津波をも物ともしない強大な蝦蟇親分の頭部を踏みしめ、二人の少年は向かい合う。
その時我愛羅は無意識のうちにほんの僅かにだが、微笑んでいた。
敵ながら見事だと、目の前の少年を見ていると何故だかそう思ったのだ。
しかしだからこそ敗けられぬと印を組む。相対する少年もまた、呼応する様に印を組んだ。
それを切欠として、二人の人柱力の戦いは最終局面へと至る────、





          ■     ■     ■




賭けに勝った。
ナルトは口寄せの術が成功した瞬間、そう考えた。
我愛羅に勝てるか否かは、この術が成功するか否かにかかっていたのだ。
ナルトは印を組ながら、呼び出したガマ親分───ガマブン太に向けて叫ぶ。



『なんじゃあナルト~!性懲りもなく呼び出して、お前ワシに何の用……』
「ガマオヤビン!跳んでくれ!今はそれだけで良いってばよ!」
『いきなり呼び出しておいて何を言っとるんじゃ小僧ォ!
……っちゅうかこのチャクラ、あの守鶴のガキもまさかおるんか!?』
「そうだ!急がねーとまたあの化け狸が出てきちまう!だから飛んでくれ!頼む!!」
『ちぃっ!相変わらずめんどくさい事に巻き込まれちょるのぉっ!!!』



第二の関門もこれで突破した、とナルトは印を組ながら力強く微笑む。
ガマ親分も、また守鶴を相手にするのは御免なのだろう。
訳の分からない状況に困惑しつつも、何時もよりはすんなりと要請を聞き入れてくれた。
やりとりをしている間にも我愛羅が作り出した砂が襲ってくるのを影分身の肉壁で耐える。
数秒しか保たない防御だが、今はそれだけの時間が稼げれば充分!




『そぉらあッ!!』
────現在居る場所は禁止エリアに指定されています。




数十メートルの巨躯を誇るガマブン太の跳躍。
それによって、ナルトと我愛羅の二人は遥かな上空へと運ばれる。
禁止エリアに設定されているほどの上空だ。下を見れば島が一望できたかもしれない。
だが、そんな事は我愛羅にとってどうでもよかった。
跳躍である以上数秒で大地へと舞い戻るのだ、首輪の爆死を心配する必要はない。
だが、跳躍の衝撃と空気抵抗によって砂が散ってしまった。これは明確に不味い。
数秒間の間、大地の砂を使った物量攻撃が展開できない事を意味するからだ。
今我愛羅が即座に扱えるのは、背中に背負った瓢箪に内包された砂のみ。



────問題はない。この数秒をやり過ごすには充分だ。



乃亜のハンデについて考えれば、巨大な蝦蟇を長時間口寄せするのは不可能なはず。
着地して大地に着けば、砂分身などで口寄せの時間が切れるまでやり過ごせばいい。
ガマが消えれば、ナルトに勝ち目は無くなるのだから。
だから、この数秒。着地までの十秒足らずを守りきれば、自分の勝ちだ。
刹那に満たぬ短い時間で、我愛羅はその結論に辿り着き、即席の砂の盾を作り出す。



────やっぱり、我愛羅の奴は凄ぇな。



冷静で的確な判断力に、ナルトは心中で賞賛の声を上げざるを得なかった。
直感的に分かる。恐らくガマ親分を呼び出せるのはあと十秒程。
それを過ぎれば、最早自分に我愛羅に対抗する術はない。
一瞬でその事を見抜いた我愛羅は、きっとこれから凄い忍になるだろう。
しかし、だからこそ負ける訳にはいかない。この島にはもっと凄い魔人が跋扈している。
そんな島で憎しみを頼りに戦っても、優勝する事はきっとできない。
だから、うずまきナルトはここで我愛羅に勝たなければいけないのだ。
我愛羅に襲われて命を落とすかもしれない他の参加者を守る為に。
未来に、誰からも認められる忍になるであろう我愛羅自身を守る為に。




────ナルト君。人は大切な何かを守りたいと思った時に…
────本当に…強くなれるものなんです。



印を組ながら、ナルトは己の内に宿した獣へ、強く強く願う。
今はただ、自分に勝つための……皆を守れるだけのチャクラを!
そう心中で叫ぶと共に、莫大なチャクラがナルトの内から溢れ出す───!



─────多重影分身の術!!



な、と。
我愛羅の鉄面皮が歪み、驚愕へと染まる。
二人の現在の大地である蝦蟇の背中を埋め尽くすナルトの大軍勢。
明らかに通常の影分身ではない。通常の影分身でこんな規模はありえない。



(くっ───防御を!!)



現在の砂の盾では不足。一瞬で判断を下し。
己のチャクラと瓢箪に詰めた砂を総動員し、砂の盾を更に強固な物にしようとする。
だがその時には既に足裏にチャクラを籠め、蝦蟇の頭を走り抜けたナルト達が迫っていた。
凄まじい物量。それも一体一体が尾獣のチャクラを宿した影分身達の一斉攻撃。




「う!」
「ず!」
「ま!」
「きィ!!」



「「「「「ナルト四千連弾─────ッ!!!」」」」」




怒涛の猛攻が、砂の盾と我愛羅を襲う。
盾を隔てているのに、袋に詰められ袋越しに殴打されている様な衝撃に翻弄される。
盾が盾の役割を果たせていない事実に、我愛羅の全身が総毛だった。
単なる体術ではない。敵の拳や蹴りは防げても、纏うチャクラに砂の盾が削られていく。
それに何より、攻撃の物量が桁違いだ。とてもではないが、砂の再生が追い付かない。
それもその筈、ナルトのこの攻撃は前回の反省を活かした、両手両足を用いた連打。
如何な絶対防御とて、瓢箪の中に詰められる量の砂で守り切れるものでは断じてない。
ぴしぴしと砂の盾に亀裂が入り、ずぅんという衝撃が走ると共に砕け散った。



(凌ぎ切った………!)



だが、我愛羅の表情に絶望はない。
瓢箪の砂を全て使い切って作った砂の盾が無くなったが、視界は開けた。
そのお陰で、先ほどの衝撃が砂の盾が破られた事だけを示す物ではないと気づいたからだ。
先ほどの衝撃は、着地の衝撃。であれば、今は既に大地の砂を利用できる状況という事だ。
ならば砂を操作し、蝦蟇の身体を昇らせるまでの攻防を凌げば逆転も可能となる。
後一手、後一手凌げば、勝利は目前だと我愛羅は最終防衛ラインを生み出す。
可能なら使える術の中でも最硬絶対防御を誇る守鶴の盾を作りたかったが、生憎の砂不足。
それ故に彼はもう一つの防御術、砂の鎧を選択した。
オートで防御ができる砂の盾と違い、防御力が低いわりに消耗が大きい術ではある。
だが、影分身を用いた体術くらいしか攻撃能力のないナルトならば十分凌ぎきれる。
“前の戦い”でも、砂の鎧を一撃で破壊できる術をナルトは見せなかったから間違いない。




───風遁無限砂塵大突破!!
「うわあああああああああッ!!!」



チャクラをかき集め、砂の消耗を抑えた高威力の風遁を用い、近場の分身達を吹き飛ばす。
これでチェックだ。再び周囲の分身達が集う頃には大量の砂が自分を守っている。
更にタイミングよく、ドロンと音を立てて蝦蟇も消え失せた。
落下しながらほくそ笑む。これで本当に、自分の勝利は確定的だ。
無理に守勢に入る必要も無かったかと、周囲の砂を操作する事に意識を割り振ろうとする。
その時だった、数メートルの距離を隔てた位置で同じく落下するナルトと目が合ったのは。



(な、に………!)



勝機が無くなった瞬間だと言うのに、ナルトの瞳に絶望はなく。
彼の周囲には三体の影分身が集い、内の一体が本体と見て取れるナルトに手を添えており。
影分身の補助を受けた右の掌に、圧縮されたチャクラが高速回転しているのが見て取れた。
何だそれは、何だその術は。そんなものは知らない。
まさか、最初に自分を吹き飛ばしたのは起爆札ではなく───
我愛羅の思考が一瞬硬直し、完全に無防備となる。その隙をナルトは見逃さなかった。
影分身達に投げ飛ばされ、生まれた一瞬の勝機に切り込む様に。
うずまきナルトは決着の一撃を放つ────!




「行くぜ、我愛羅────!!!」




四代目火影が考案し生み出され。
木の葉崩しの一件後、伝説の三忍自来也より伝授された正真正銘の切り札。
会得難易度Aランクの超高等忍術にして、うずまきナルトの代名詞───!




─────螺 旋 丸 ッ ! ! !




砂の鎧をビスケットのように砕き。
着弾した螺旋丸は、一撃で我愛羅の意識を刈り取る。
ナルトが口寄せを行ってから僅か二十秒足らず、勝敗はこれ以上なく圧倒的に決した。





          ■     ■     ■




胸に走る痛みに呻きながら、瞼を開く。
横たわった身体が、目に飛び込んでくる青い空が。
自分は敗れたのだと言う事実を我愛羅に教えていた。
そして、敗れたというのに、自分はまだ生きているのだという事も。



「よう、目、覚めたか我愛羅?」



傍らから声を掛けられ、其方に首だけ動かすと。
目の覚めるオレンジ色が視界に飛び込んでくる。
更にもう少し視線を上にあげると、そこにはうずまきナルトの穏やかな微笑があった。
自分を倒した相手だと言うのに、殺意も憎しみも何処かに霧散しており。
それでも胸の中に今なお渦巻くのは、何故と言う疑問の声だった。
仰向けに倒れたまま、静かに我愛羅はナルトへと問う。
何故、自分を殺さなかったのかと。そう問いかけると少しナルトは考えて。
それに答える前に此方も一つ聞きたい事があると返してきた。



「……まだ、殺し合いをやる気か?お前の中の憎しみは、今も続いてんのか?」



その問いかけを聞いて。
我愛羅が想起したのは、かつての夜叉丸から与えられた言葉。
心の傷は、他者から与えられる愛情に依って癒す事ができると言う言葉だ。
その瞬間全ての点と点が線で繋がり、合点がいった気がした。
自分はきっと戦いの中で、ナルトから愛を受けていた。そして、それに気づいたから……
もうこの身は、何も憎んではいない。



「いや………」



かつてない程穏やかな気分で。
その言葉を躊躇することなく、我愛羅は口にした。




「もういい…やめだ」




何もかも投げ出して、身一つで大地に横たわる。
けれど、そこに劣等感や屈辱や負い目などは存在せず。
ずっと背負っていた重たい荷物を降ろしたような、奇妙な解放感だけがそこにあった。
それを聞いて「そっか」と、少し安堵したようにナルトは呟き。
それじゃあ今度はこっちが答える番だなと口を開く。



「お前には話してなかったけど、実は俺ってば夢があるのだ!
火影になって、里の奴らみーんなに俺を認めさせてやるって野望がな!」
「………?」




微妙に自分が問いかけた事と話が繋がっていない。
ナルトの言葉からそんな印象を受けつつも、続く彼の言葉を黙って傾聴する。
朗らかで、しかし強い意志を感じさせる声色でナルトは続けた。



「そんでさ!そんでさ!我愛羅もきっとスゲー忍者になるだろうから……
俺がサスケの馬鹿をブッ倒して火影になった時には、お前もいて欲しいって思ったんだ」



砂の国の、風影として。
人柱力の怪物である自分が成れると、本気で信じているかのように。
ナルトは真っすぐに我愛羅の瞳を見つめ、そう告げた。



「───フッ」



自然と、笑みが零れた。
人柱力で、化け物である自分が、里の長?風影?
認められる筈がない。荒唐無稽な話と言わざるを得なかった。
あぁ、しかしやはり不思議な男だとナルトに対し、我愛羅は思うのだ。
この男が言うなら、自分は本当に風影になれるのかもしれない、と。
そして木の葉と砂、二つの国の長として並び立つ。
限りなく現実味の薄い話である筈なのに、不思議な説得力を感じさせる。



────ナルト、お前が火影になったら一緒に杯を交わそう。



そして、夢物語であると感じる感情以上に、我愛羅はナルトの語る未来を信じたくなった。
そんな未来があればいいと、生れて初めて未来に希望を抱く事ができた。
あぁ、であるならば………



「……俺の、負けだ」



自分が敗れたのは、必然だったのだろう。
うずまきナルトは、今の自分にはない…夜叉丸の言っていた強さを持っていた。
そして、自分も何時かナルトの様に強くなりたいと、そう思ったのだ。
自分だけを…我を愛する修羅は、もういない。



「……世話かけさせやがって!」



憑き物が落ちた顔の我愛羅を見て、ナルトも破顔する。
きっともう大丈夫だと、そう思えた。乃亜によって狂わされた道は、今戻ったのだ。
その事を確信すると、彼は支給された刀…鏡花水月を支えに立ち上がった。
今しがたの戦闘は、勝利したナルトにとっても消耗は激しく。
そんな状態でも、これはやっておかなければならない、そう考えて我愛羅に手を差し出す。
差し出した手の中指と人差し指を、奇妙に折り曲げて。
我愛羅が意図が分からないと言う顔でそれを見つめると、ナルトは静かに語った。
木の葉のアカデミーで教わった、和解の印だと。



「組み手とかやった後にはこうするってイルカ先生から教わったんだ!
これが終わったらその後は……俺と一緒に、また全部新しく一から始めようぜ、我愛羅」




そう言って「さあ、我愛羅も」と、ナルトは和解の印を促してくる。
我愛羅にとって戦いとは相手を殺す事だったから、少しの戸惑いを覚えた。
戦った相手とこんな事をする日が来るとは、と言い知れぬ感慨を抱きながら。
しかし拒絶することなくゆっくりと立ち上がって、その手を伸ばした。
この印を結べば、きっと新しい“何か”が始まると、無邪気に少年たちは信じていた。






────オレの第六感(カン)が告げていた………
────ここに来れば、オレが今一番殺(ヤ)りたい男がいるってな。
────何をしてでも必ず刺して、最悪の病気にしてブッ殺すって言ったよなァ?







凶刃が、全てを貫くまでは。






          ■     ■     ■




ガムテープを顔中に巻き付けた闖入者は、ナルトの背後より現れた。
必然的に先に気が付いたのは我愛羅の方だ。
気づいた瞬間、彼は残ったチャクラを総動員してナルトを守るべく動く。
その速さは間違いなくこれまでの人生の中で最高と呼べる速度のもの。
コンマ数秒の内にチャクラを練り上げ、印を組み、彼が持つ最硬の防御術が始動する。



────最硬絶対防御、守鶴の盾。



ナルトが驚きの声を上げるのも気にせず、砂で作られた狸の化身が我愛羅達を守る。
一目見て刺客は相当な手練れだと確信した。それ故の絶対防御。
ナルトと戦った時とは違い周囲に豊富に砂があるからこそできる、防御における奥の手だ。
敵の獲物は刃渡りのそう大きくないナイフ。
如何に切れ味が優れて居ようと、この守鶴の盾ならば十分に防御できる。
できる、はずだった。



「───ナルトッ!!」



今まさに己の殺意を突き立てようと笑う相手と目が合い、ゾクリと悪寒が走る。
この盾では駄目だ。この盾では、守れない。直感的に理解。
その悪寒に突き動かされる様に、砂に包まれ守られたナルトの身体を引き寄せ庇う。
殺人者の握るナイフが守鶴の盾に触れたのは、我愛羅がナルトを庇ったのと殆ど同時。
その瞬間、絶対防御だった筈の守鶴の盾が崩れ落ちる。
正しく砂の城であるかのように崩壊し、殺意の白刃を素通りさせてしまう。
その時ようやく認識が状況に追いついたナルトが杖にしていた剣を構えようとするが。
振りかざされた鏡花水月は、ナイフに触れた瞬間砕け散った。
剣の素人が咄嗟に振るった剣で、達人が扱う異能殺しの短刀を受け止められるはずもない。
小癪な抵抗を砕いたナイフは悠々と砂の中を突き進み───貫く。
ナルトを庇った我愛羅の首を、一息に。



「がは……っ!」



貫かれると共に我愛羅は認識した、この刃は危険だということ。
刃渡り20センチほどの刀身に籠められた力は、あらゆる忍術を否定する。
自分の守鶴の盾すら破ったのだ、性能の高さに関しては疑う余地はない。
そしてその刃が自分を貫いたその後に、向かう先は決まっている。
霞む視界の中で、目を見開いて自分の名を絶叫するナルトを見る。
自分は良い。此処で殺されるとしても、それは当然の報いなのだろう。
だが、ナルトは違う。この男は、自分を最後に闇の中から救ってくれたこの“友”だけは…
我愛羅は、吼えた。吼えながら、己を貫いた下手人に思いを馳せる。

一目見ただけで分かった、このガムテープの怪人は、自分と同じだと。
憎しみによって駆動し、他者を殺さずには存在できない。
けれど同時に、瞳の奥にはナルトと同じものがある事も感じ取れた。
きっとこの少年にも夢があるのだろう。その為に、殺し合いに乗っているのだろう。
目指す夢の先には、他者の幸福…つまりは少し前までの我愛羅と違って、
この怪人然とした少年もまた、うずまきナルトの様に他者へ愛情を与えようとしている。
だがその愛情は、うずまきナルトの歩む道とはどうしようもなく交わらない。
だからこそ、我愛羅はナルトに救われた身として、ナルトの夢に魅せられた身として。
彼の夢をこそ守る事を決めた。それ故に、ガムテの夢を阻むべく動く。
お前がでしゃばるべき夢ではないと、最後の力を振り絞って。





「────驚愕(なに)っ!?」



敵の異能(チート)を殺し、そのままブッ殺した。
そう確信していたガムテープの少年、ガムテの顔が驚愕に染まる。
ルールブレイカーを突き刺し、異能を使えぬ筈の少年が。
首を掻き斬り、即死でもおかしくないはずの少年から砂塵の狗が飛び出し、ガムテを襲う。
不味い、このままでは残った腕が断たれる。ガムテの第六感が告げていた。
その為、一旦死にぞこないからルールブレイカーを引き抜き、攻撃に対処しようとした。
だが、それは叶わなかった。ガムテにとって更なる不条理が起きたからだ。
異能を解除し今は既に制御を喪ったはずの砂たちが、何故か再び流動し始めるではないか。
化け狸の砂の塊は崩れ落ちた筈なのに、考えている間にも砂が固まり始め。
このままでは本当に残った腕も持っていかれる、ガムテは決断を迫られた。
刹那の内に決定を下し、ルールブレイカーを一旦放棄して腕を砂の塊より引き抜く。



「キャハッ☆退場(おちま)~いッ!」



そして自由になった手をランドセルに突き入れ、目にも映らぬ速さで取り出した刀で一閃。
一秒足らずで愚者(フール)の悪足掻きを粉砕し、ルールブレイカーを回収しようとする。
ガムテも気づいていたからだ。目の前の隈取が狙ったのは自分への迎撃ではなく。
異能(チート)殺しのナイフを、その手から奪うことが目的だったのだと。
そうはいかない、面食らっているのりまきアナゴが体勢を立て直す前に回収させてもらう。
そうすれば、後は今しがたブッ殺した隈取に気を取られている間に刺して終わりだ。
冷徹に、冷酷に、ガムテは我愛羅の最後の抵抗を踏み躙る事を試みる。しかし───、



「ママ……?」



“母“が、割れた子供達の王の覇道を阻む。
確かにチート殺しのナイフでブッ殺したはずなのに。
自分の第六感もこれはただの砂に戻ったと、そう告げていたのに。
それなのに砂は狸の化身から、妙齢の女性へと形を変えて。
ガムテはその姿に、在りし日の己の“母”の姿を幻視する。
綺麗だったママ。とても怖くなったママ。自分の性器を切り取ったママ。
そして、いつも自分に痛みと言う名の愛情を与え続けたママ。
その記憶がガムテの脳裏を駆け巡り───ほんの僅かな間隙を作った。



「………ッ!?チィッ!!」



そしてそれは、ガムテにとって最大級のミスだった。
砂の女性に導かれる様に、大量の砂の濁流がガムテ目掛けて突っ込んできたからだ。
如何なあらゆる魔術契約を解除する裏切りの魔女の宝具と言っても。
流れ込んできた砂の制御を解除する事は出来ても、砂その物を消すことはできない。
例え神域の魔術師であろうと、母の愛情は断てない。
結果、ガムテの肉体は土砂に押し流され、ルールブレイカーも砂の奥深くへ埋まる。
更に丁度埋まった地点に流砂が発生し、その中に沈み込んだ事で速やかなる回収は事実上不可能となった。



───母様……………



崩れ落ち横たわったまま、砂の母を我愛羅は仰ぎ見る。
これは自分のチャクラで作られたものではない。
そして、守鶴が作り出した物でもないだろう。
根拠は無いが、何故だかそう確信する事が出来た。
そして、それの意味する所は、つまり。
母は、ずっと自分の傍らで守り続けてくれたのだ。
ずっと……我愛羅が気づかなかっただけで、そこにいてくれたのだ。
我愛羅が、生れて初めて我ではなく誰かを守ろうと思った時に、手を貸してくれたのだ。





────お前は母から愛されていた。




闇に落ちていく視界の中、死んだはずの父の声が耳朶を打つ。
夜叉丸があの夜突き付けてきた話とは明確に矛盾するけれど。
それでも、その言葉きっと真実なのだろうと、そう思えた。
同時に、母様は凄いと我愛羅は言葉にはできないまま感嘆の言葉を呟く。
だって友を守るだけではなく、父からの薬をも、自分に届けてくれたのだから。
今わの際に、夜叉丸が死んだ夜から終ぞ得られなかった愛情を受け取って、我愛羅は幸福だった。



「我愛羅………ッ!!」



しかし、それでも心残りが無い訳ではない。明確に二つあった。
一つは、自分と運命を共にすることになった守鶴のこと。
何時自分を乗っ取るか分からない恐ろしい怪物だった。
だが実際に自分の巻き添えで死なせてしまう事になると、どうにも憐れだった。
もしかしたら、ナルトの語った夢の未来の先では。
守鶴と共に夜更かしをする未来もあったかもしれないのに。

そして、残ったもう一つ。
もう殆ど見えなくなって闇に落ちていく視界の中で、微かに見えた友の姿。
共に火影と風影となり並び立つと言う願いは、もう果たされることは無い。
それがどうしよもなく悔しく、口惜しかった。
だから、だからせめて、と。彼は貫かれたはずの声帯を必死に震わせて。
最期に、友へと言葉を遺す。




「ナルト……お前は、火影になる男だ…………」




それだけを伝えて、安堵したように瞼を閉じる。
眠る少年の顔は、憎しみや体を奪われる恐怖に歪んだものではなく。
年相応の少年の寝顔の様な、安らかな物だった。




【我愛羅@NARUTO-少年編- 死亡  ガムテ100ドミノ取得】





事切れた我愛羅の身体を抱きかかえて、必死に名前を呼ぶ。
そうすれば、我愛羅が帰って来ると自分に言い聞かせている様だった。
瞼の端に涙を溜めて、必死に必死に呼びかける。
ナルトにはどうしても納得ができない。何故、我愛羅が此処で死ななければならないのか。
今、殺し合いに乗るのをやめると言ってくれたばかりなのに。
憎しみから、自由になってくれたと思ったのに。
その我愛羅が、なぜ死ななければならないのか。



「ハァイ☆隙アリ~~~!!」



そんな行き場のない悲しみの奔流を遮る様に。
嘲りの感情を含んだ声色が、周囲に響き渡り。
そして、ナルトの肝臓のある位置に───凶刃が突き刺さった。
極道技巧”ヤマイダレ”。
隙だらけのナルトの背中を輝村照(ガムテ)が見逃すはずがない。
凡夫は見逃しても殺しの王子様(プリンス・オブ・マーダー)は見逃さない。
砂に飲まれた後、冷静に第六感に従い、窒息する前に砂を掻き分け脱出したのだ。
視界や気道を塞がれても問題なく行動できるガムテにとっては朝飯前の芸当。
そしてたった今ヤマイダレを怨敵である忍者に食らわせ、それだけでは終わらない。
ダメ押しにドスドスドス!!と急所を全てめった刺しにした。
異能殺し(ルールブレイカー)でない以上、念には念を入れる必要があるからだ。



「先生ェから教(おち)えても貰わなかったか?
戦場で死人に気を取られてちゃいけまちぇ~ん!ってなァ~
楽勝(ヌルゲー)すぎて心底(マジ)嘲笑(ウケ)たわぁ~!!!」



ゲラゲラゲラと下卑た笑い声を上げながら、薬で強化された肉体でナルトを蹴り飛ばす。
瀕死のナルトに抵抗できる余地はなく、面白い様に転がった。
第六感が告げていた。此奴はもう死ぬ、ここから“うずまきナルトに”逆転する術はないと。
異世界の忍者であってもパパの才能を受け継いだ自分にかかればこの通り。
後は殺し屋の流儀に従い、全力で悪罵(アオ)りながらトドメを刺すだけだ。
ナルトの首を切り離すべく、ガムテは最高速度で刃を振り上げる。
最後まで手を抜くことは無い。油断する事もない。それでこその“プロ”だ。
その矜持のもと、情け容赦のない終末へと至る刃を無慈悲に振り下ろす───、



「……………アリ?」



────ゴッ!!!と頬に衝撃と熱が奔る。
己が殴り飛ばされたのだとガムテが認識したのは、地面に着地してからだった。
素早く受け身を取り、体勢を立て直して殴り飛ばした張本人へと視線を向ける。
立っていたのは、間違いなく致命傷を負っていた筈のうずまきナルト。
彼が、怒りと殺意に染まった表情で、ガムテを睨んでいた。



「非実在(アリエネ)ェ………」



呆然と呟く。
最初に戦った時は、自分の知る忍者と違い異能(チート)を使うだけのバカに思えた。
未知のエネルギーを扱う事を除けば、自分の知る忍者の方が余程強いと考えていた。
その見立て通り、うずまきナルトの仲間と見られた忍者はあっさり殺せた。
だが、今目の前にいるうずまきナルトは、巨大な獣と相対している様な威圧感を感じる。
ともすれば、少し前にブッ殺した吸血鬼より強大な怪物(モンスター)だ。
方針を変更する、此処は逃げの一手。最低でもこいつとはゼオンと二人で当たらねば。
第六感が鳴らす警鐘に従い、ガムテは逃走しようとする。
だが、当然それをうずまきナルトが許す筈がない。




「  カ   ッ  !  !  ! 」



ナルトが咆哮を上げると共に、凄まじい圧力がガムテを襲った。
見えない空気の大砲を叩きつけられたように、後方へ吹き飛ばされる。
不味いと思った。こんな芸当ができる相手が、大人しく此方が吹き飛ぶのを待つ訳はない。
その危惧は、直後に現実のものとなる。



「ブッ殺す………!!」



怒りに燃えるナルトの顔が視界の端に映ると。
コンマ数秒後、一発で内臓が破裂しそうな蹴りがガムテに着弾した。
薬(ヤク)を決めた状態でも血反吐を漏らし、今度は空中へと打ち上げられる。
敵の落下を待たず、すぐさまナルトは追撃の体勢に移行。握りこぶしを作る。
地面に落ちてきた所を、顔面がグチャグチャになるまで叩きのめすためだ。
ガムテに付けられた致命傷は、既に九尾の人柱力としての生命力で完全に治癒している。
ヤマイダレを受けズラされた肝臓も、九尾のチャクラが自動で元の位置に戻してしまった。
それ故に、眼前の敵に殺意を叩き付ける事に何の支障もない。
だから目論見通り落下してきたガムテ目掛けて、ナルトは容赦なく拳を振るう。



「な~~~んつってェ☆」



しかし、殺意を向けたとて、それが相手に届くかどうかは別の話。
振るわれた拳を、あろうことか空中でガムテは受け止めていた。
殺し屋は何でも殺す。ナルトの拳の威力をも、殺したのだ。
そのまま掴んだナルトの腕に蛇の様に絡みつき、身体を半回転。
勢いを乗せた両足の蹴りで、ナルトの顔面を蹴り飛ばす。
ぶちゅり、何かを潰す感触と音が伝わり、今度はナルトが吹き飛んでいく。
それを眺めながら、ガムテは華麗な着地を決めた。
ガムテもまた選ばれし怪物。このぐらいの芸当は出来て当然なのだ。
でなければ、破壊の八極道を名乗れはしない。



「そんじゃあ、まったねェ~~~ン☆」



一貫してお道化た調子で、今度こそ逃走しようとするガムテ。
プロは退き際を弁える者だ。でなければどんな強者もあっけなく失敗(ミス)って死ぬ。
その鉄則に従い、ガムテはその場を後にしようとした。
もう先程の様に衝撃波を受けても対処できる。あれ以外に遠距離攻撃がなければ問題ない。
逃走成功は確実だと、彼の第六感も告げていた──実体のない橙色の手に身体が掴まれるまでは。



「……ッ!?!?絶体絶命(ヤッベ)ェ……ッ!!!」



ガムテの表情が、焦燥を感じさせるものへと変わる。
濃いオレンジ色の腕は、がっしりとガムテの両腕ごと体を捉えて離さない。
何某かの異能のエネルギーによって作られたのだろう。それ故に対処が一瞬遅れた。
こんな事もできるとは、驚愕が脳裏を過る中で、掴まれた腕に身体が引き寄せられる。
地獄の回数券(ヘルズ・クーポン)をキメた自分の膂力でも、数秒での脱出は不可能。
殺しの天才ガムテをしてそう言う他ない、人を遥かに超えた力だった。
そして、ガムテが引き寄せられる先に待つのは、勿論たった一人しかいない。




「───螺旋丸………!!」



ガムテの反撃から一瞬で回復し、彼を捕え引き寄せたナルトの姿は先ほどの物ではなく。
狐の形をしたオレンジ色のエネルギーを、彼は纏っていた。
変貌を遂げた姿を見て、ガムテは敵が先程までとは別次元の怪物になった事を見抜く。
それを裏付ける様に、ナルトが添えた右手にオレンジ色のエネルギーが集まり始めた。
螺旋丸と呼んでいた、忍術(チート)を放とうとしているのだ。
不味い。今のナルトが放つあの一撃は、薬(ヤク)をキメた自分を殺しうる威力だ。
そう考えて何とか脱出しようとするが、余りにも時間が足りず。
あの異能(チート)殺しのナイフさえあれば、そう思っても全てが遅い。
成すすべのないネバーランドの王の前に、情け容赦なく絶死の光球が突き付けられ───




衝撃と閃光が、空間を染め上げた。




          ■     ■     ■




死だけは何とか回避した。
だがその代償は、右足首から先の喪失。
短距離の移動ならば兎も角、怪物と化したナルトを相手に逃げ切るのは難しいだろう。
下手に逃げれば、今度こそ何もできずに殺される可能性が高い。
ゼオンが援軍に来てくれれば一番だが、今の自分の状態を見れば助けてくれるものか。
最悪、足手纏いと判断され始末される恐れがある。
であれば、選択肢は一つしかなかった。



「ま、試合終了(ブザービート)ってワケじゃないよなァ?」



限りなく差し迫った死を前に、ガムテはそれでも不敵な笑みを崩さない。
そう、この程度、ママや極道(キワミ)から貰い続けた痛みに比べれば何でもないのだ。
だから歯を食いしばり、喪った足先をランドセルから取り出した支給品に添える。
それはゼオンから貸し出された、二振りの刀の内の一本。
人間国宝(ニンコク)関が鍛えた短刀(ドス)。それを素早く足首に埋め、隻脚となる。
ぶちぶちと神経が切れる音が響き、発狂しそうな痛みに襲われる中で、ガムテは狂い笑む。
この短刀は乃亜に奪われていた、父(パパ)である極道から受け取った物なのだ。
それが己の元へ戻り、身体を支えると言う高揚感に比べれば、痛みなど愛撫に等しかった。
ドスを支えに立ち上がると、ゼオンから借りたもう一振りの刀も静かに抜き放つ。
“閻魔“の銘を持つ、四皇の最強生物にすら消えない傷を刻み付けた大業物だ。
抜いた瞬間力を吸われる様な感覚に襲われるが、無視する。
妖刀村正程度ではダメなのだ。あの程度の刀では怪物(ナルト)は殺せない。
故に、この一刀でなければ。ガムテが何よりも信頼を置く第六感が、そう告げていた。



「さ~て、待望(おま)た。こっちの準備はオッケーよん」



変わらぬ道化の所作で隻腕隻脚となった殺しの王子様は、妖狐と対峙する。
今迄はただガムテが戦う準備を整えるのを待っていた獣であったが。
仮に尚も逃げようとしていれば、間違いなく自分を殺しにかかっていただろう。
その上、足の刀が“馴染む”までは、長距離移動は不可能。
それの意味する所はつまり、ガムテが生き残る事を望むのであれば。
逃げるのではなく相手を殺し、勝利するしかないという事だった。
だが、ガムテはその事実に絶望を覚えない。物心ついた時から、ずっとやって来た事だ。




「さぁ……愉しい死亡遊戯(ゲーム)の時間だ」



誰かを殺さなければ生きられない。
殺られたままでは生きられない。
それが、割れた子供達(グラス・チルドレン)
そんな生き物になってしまった以上、それ以外の生き方は選べない。
ましてガムテは割れた子供達の王だ。王として、王冠を被った責務を果たさねばならない。
今しがた殺した忍者も、瞳を見れば割れた子供であったのは見て取れたが。
それでも忍者への憎悪だけでなく、乃亜に乞う大望の為に容赦なく殺した。
ガムテの同胞を想う気持ちは本物ではあるけれど。
目的を果たすためなら、当て馬として扱える王としての冷酷さも彼は持っていたから。
すべては、割れた子供達の全員を救うという大義の為に。彼は戦う。彼は殺す。
停止不能の怪物として────忍者を殺す。




「ブッ殺してやる…………ッ!!!」




対するナルトも、もう止まることはできない。
汲み尽くせない悲しみと怒りと憎悪に染まった瞳は相手の理解の全てを拒絶している。
真正面から全てを捻じ伏せ、叩き潰す。我愛羅を殺したことの重みを、分からせてやる。
彼の脳裏を占めるのはもうその感情だけで。それ故に殺しあう以外の道は両者にない。
どうしようもなく、二人の少年は分かり合えない。



「いいぜ、そろそろ決めようか。忍者と極道─────」




しかし、分かり合えぬからこそ。
殺しあうしかないからこそ。




「何方が活きるか、死滅(くたば)るか………!!」




それでこそ、忍者と極道だ。





【一日目/日中/D-6】

【うずまきナルト@NARUTO-少年編-】
[状態]:チャクラ消費(大、九尾チャクラにより回復中)、尾獣化(一尾)、怒り(極大)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品×3、煙玉×2@NARUTO、ファウードの回復液@金色のガッシュ!!、
城之内君の時の魔術師@DM、エニグマの紙×3@ジョジョの奇妙な冒険、
マニッシュ・ボーイの首輪
[思考・状況]
基本方針:乃亜の言う事には従わない。
0:───ブッ殺してやる……!!
1: シカマルを探す。
2: 仲間を守る。
3:殺し合いを止める方法を探す。
4: 逃げて行ったおにぎり頭を探す。
5:ドラゴンボールってのは……よくわかんねーってばよ。
6:セリム…すまねぇ
[備考]
※螺旋丸習得後、サスケ奪還編直前より参戦です。
※セリム・エリスと情報交換しました。それぞれの世界の情報を得ました。

【輝村照(ガムテ)@忍者と極道
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)、左手欠損、隻脚
[装備]:地獄の回数券(バイバイン適用)@忍者と極道、関の短刀@忍者と極道、閻魔@ONE PIECE
[道具]:基本支給品、魔力髄液×9@Fate/Grand Order、地獄の回数券@忍者と極道×2、
[思考・状況]基本方針:皆殺し
0:ブッ殺すか───やってみな!
1:村正に慣れる。短刀(ドス)も探す。
2:ノリマキアナゴ(うずまきナルト)は最悪の病気にして殺す。
3:この島にある異能力について情報を集めたい。
4:シュライバーを殺す隙を見つける。
5:じゃあな、ヘンゼル。
6:ジャックに思うとこはなくもないが……。
[備考]
原作十二話以前より参戦です。
地獄の回数券は一回の服薬で三時間ほど効果があります。
悟空VSカオスのかめはめ波とアポロン、日番谷VSシュライバーの千年氷牢を遠目から目撃しました。
メリュジーヌとルサルカの交戦も遠目で目撃しました。


※破戒すべき全ての符@Fate/Grand Orderは砂山の下の何処かに埋まりました。直ぐに取り出すのは不可能です
※会場に張り巡らされた認識阻害の結界により、ガマ親分の姿を周囲の参加者は基本的に視認できていないでしょう



【タイム風呂敷@ドラえもん】
時計のトレードマークのふろしきで、赤色を表に被せると古い人・物の時間を巻き戻すことができるが、青色を表に被せると新しい物の時間を進行することができる。
本ロワでは制限により、使用回数は5回までとする。
一度使用すれば3時間使用不能となる。

【閻魔@ONE PIECE】
大業物21工の内の一振り。ワノ国に伝わる伝説的名刀。
四皇百獣のカイドウにも傷をつけたその斬撃の威力は「地獄の底まで切り伏せる」とまで謳われるほどである。
正し、その攻撃力は閻魔自体の『持ち主の覇気を強制的且つ過剰に引き出して斬撃に乗せる』という妖刀とほぼ同じ理屈を持つ特性に由来するもので、
極めて制御が難しい。乃亜の調整により平時よりその特性は抑えられている物の、それでも長時間振るえば命の保証はない。

【関の短刀@忍者と極道
人間国宝(ニンコク)刀匠が鍛えた短刀(ドス)。
人体を軽く焼き殺す忍者の炎と熱を受けても全く影響を受けない強靭さ。
音速を超えた忍者の貫手暗刃を切り裂く鋭利さを誇る。
輝村極道がガムテに与えた一本。




124:新世界の神となる 投下順に読む 126:次回「城之内死す」デュエルスタンバイ!
時系列順に読む
120:メチャメチャ哀しい時だって、ふいに何故か うずまきナルト 127:遠くへ行け遠くへいけと僕の中で誰かが唄う
エリス・ボレアス・グレイラット
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
ディオ・ブランドー
勇者ニケ
我愛羅 GAME OVER
121:INSANE ゼオン・ベル 134:幸運を。死にゆく者より敬礼を。
輝村照(ガムテ) 127:遠くへ行け遠くへいけと僕の中で誰かが唄う

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