コンペロリショタバトルロワイアル@ ウィキ

カエシテ

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匿名ユーザー

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たったひとつ前提が変わるだけで、価値と無価値は容易に反転する。俺はそれを何度も目にしてきた。分かっていたはずだったんだ。計画していたことが必ずうまくいくわけではないのだと。

「ふざけんなッ……! 殺し合いって何だよ! こんなの……こんなのッ、予想できるわけないだろォ!!」

 カブール人の少年、ルークは声高に叫んだ。

「何がどんな願いでも叶えるだ……。返せよ……俺の願いを……ッ!」

 願いってやつの重さを俺は知ってるよ。人間が、願いのためなら命まで賭けられるって、とっくに思い知ってる。だから、この催しが理不尽なばかりではないってのも分かる。何人が参加させられているかは分からねえけど、願いの対価としては充分に釣り合っているんだろうさ。

 だけど俺は……カブール人奴隷の解放って願いを、もうすぐ叶えられるとこだったんだぜ!? 真・ハイパーノートを貯め込んで、ヴィクトニア帝国に最後の商談を持ちかけに行くところに、突然こんな催しに呼ばれたんだ。

 とっくに真・ハイパーノートはばら撒いている。賽は投げられたんだ。あとは俺が特務省に乗り込んで、最後の仕上げをするだけで良かったのに……ッ!!

「返せよォォォォォ……ッ!!!!!」

 夜風に乗せて、ルークの叫びが木霊する。

 それは、怒りだ。願いを提示されながらも、理不尽に願いを奪われた少年の怒りだ。

 願いはすでに、手の届くところにあった。人が人を喪わさずとも、皆が利益を得ながらにして、獲得できるものであった。

 だが、自分が音信不通になれば、真・ハイパーノートをばら撒く算段になっている。ただしそれはただの報復措置でしかなく、商談の失敗を意味するものに他ならない。このような殺し合いに招かれて多大なタイムロスが発生した地点で、もう商談を成立させることは不可能だ。

 では、殺し合いに勝ち残ることによって願うか?

 ――論外だ。

 殺し合い――たとえそれが願いを叶えるひとつの方法であろうとも、ルークの流儀とは相容れない。同じ星に生まれた人間同士が、何故願いの権利を奪い合わねばならないのか。

 だから俺は、商売を始めたんだ。

 両親を奪った戦争も、強者が弱者の幸せを一方的に蹂躙する奴隷制も、大嫌いだから。

 カブール人からは奪うより対等に取引した方が得だと知らしめるため。人としての尊厳を、奪われないために。 

 殺し合いはその信念に真っ向から反している。

 なればこそ、ルークは叫んでいるのだ。

「……って、俺の馬鹿! 殺し合いの会場でこんな大声出したら見つかっちゃうよ!」

 しかし、叫ばなければよかった。

 本来はさほど感情的ではないルークであったが、殺し合いに招かれたタイミングが悪すぎた。

 勝利を確信していた時に起こったハプニングに対する動揺。商談に向けて"力"を温存していたが故に、"力"の使用後のような頭の冴えがなかった点。その計画に失敗し、帝国軍を動かせなければ、ハル姉の奪還の失敗に直結するという事実に対する焦燥。

 その何もかもが、ルークに直情的な行動を起こさせるに値する不運だ。

 そして、不運は連鎖する。

「グルルル……グルァッ!」

 出ずるは、茂みの影に隠れて気配を消しながら、ルークへと跳躍するひとつの影。鋭い爪を尖らせた魔物が、その矛先をルークの眼前へと振り下ろす。

「う、うわぁ!? やっぱり~~!」

 身を捩らせて回避するには、気付くのがあまりにも遅すぎた。その爪先はルークの顔面を捉え、即座に脳漿を引き摺り出す――そのはずであった。

「……ッ!! 危ねぇ!!」

 襲撃者の爪先はルークの眼前数センチ地点で静止する。襲撃者が自らその手を止めたのではない。幾重にも重なった"紙幣"が盾となって、その攻撃を止めていた。

 ――その力は、欲望であった。

 願いを、生きる理由を求める、人の果てしない欲望。

 カブール人を下に見ている帝国のヤツらも、奴隷商人共も、あらゆる人と対等に渡り合うため――少年は、望んだ。

 ――もっと。もっとカネを! 世界を買えるだけのカネをよこせッ!

 かくして、カブール神より力は与えられた。全身のあらゆる箇所からヴィクトニア帝国の通貨として用いられる紙幣、1万ベルク札を出せる力。

 全ての紙幣番号が同じという力の欠点も、幾重にも重ねることで盾として用いるのなら関係ない。一枚一枚はただの紙であっても、並の辞書数冊分の厚みを前に、貫通を諦めた襲撃者は一歩後ずさる。重力に任せてベルク札は地に落ち、次第に眼前の襲撃者の姿が露わになっていく。

「って……猫?」

「グルル……」

 そこに佇むのは、子猫と形容するのが最も相応しいであろう四足歩行の獣であった。しかし貫かれたベルク札の枚数は、有する殺傷力が愛玩動物のそれではないことを物語っている。

「……首輪がある。コイツも参加者なのか!?」

 子猫が身に付けている首輪は、自分が装着されたものと同じもの。つまり、殺し合わなくてはならない相手だ。

 戦わずして得られる願いは無いととうに理解している。たくさんの敵対者、協力してくれたカブール人たち、そしてクルツさんの犠牲の上に、自分の願いは存在している。死にたくない、殺したくないという臆病さは、彼らの屍に唾を吐く言葉に他ならない。

 だが、仮にも奴隷解放を主目的として戦っているのだ。無理やり集められた参加者同士の殺し合いという、まさしく剣奴の真似事と言えるようなことに手を染めようとは思わない。

(……でも凶暴な殺人猫ならギリセーフとも思えちまう! こんなの正当防衛だろ~~~!)

 何せ現在進行形で、子猫の追撃がルークへと迫っている。それを捌くのにも力を持続的に使わなくてはならない。

 真・ハイパーノートを作るために毎日限界までカネを出していることで、一日に可能な排出量が増えたとはいえ、決して無尽蔵ではない。特に、戦いの中で攻撃・防御に用いようとすれば相当の枚数を要することになる。このままジリ貧に追い込まれれば、いずれは限界がくるし、仮にその前に撃退したとしても力を消耗すれば他参加者に殺されるリスクが高まる。

(仕方ねえ! 札束ビンタでぶっ飛ばすしか……ごめんよっ!)

 ……と、反撃の一手を繰り出そうとしたその時。

 子猫はふと、追撃にかける足を止めた。そこで直ちに背を向けるほど油断するではないが、振りかぶっていた攻撃の手を止めるルーク。

 子猫は、苦しそうな表情を見せている。冷や汗を流しながら歯を食いしばり、大地を踏みしめている。

(俺は……この状態を知ってる……!)

 それは、我慢している表情だ。身体の奥から込み上げてくる本能を、気合いで抑えている時の様子に似ていた。

(この子猫も、本当は戦いたくないのか……? 分からねえけど……ッ!)

 そして、知っている。

 この状態は長くは持たない。ほんの少しの刺激で爆発し、本能がいっぱい溢れ出ちゃうのだ。

(ほっとくのも可哀想だが……逃げるなら今しかっ!)

 苦しむ子猫の唸り声を背に、ルークは走り出した。


『――チロル。』

 僕の名を呼ぶあの子の優しい声が、まるで残響のように聞こえてくる。雪原や森を一緒に駆け回ったあの思い出も、一緒に魔物を懲らしめたあの思い出も、まだ僕の中に残っている。

 いじめられていた僕を助けてくれたあの子たちは、楽しそうに笑っていた。

 あの子と一緒にいると、胸のずっとずっと奥がすごくあたたかいんだ。僕はあの場所が大好きだった。こんないつもが、ずうっと続いていけばいいのに――

 ――そんな願いは、叶わなかった。

 悪意に脅かされた平穏。あの子を護っていた父の背中は火球の中に消えて、あの子たちはどこか遠くへと連れて行かれた。

 その場に残っていたのは、絶対に離したくない居場所だったのに、喰らいつくこともできない、無力な僕だけ。

 ……また、あの子に会いたい。願いを抱いて飛び出した先には、広大な世界が広がっていた。地平線の彼方まで続く草原も、僕には渡れない海も、僕一人じゃ入ることのできない人間の町も。どこに連れて行かれたのかもわからないあの子を取り戻すのはあまりにも果てしない道だと理解するのに、時間は要さなかった。

 それでも諦めなければ、いつかはあの子のところに辿り着けるかもしれない。だから、頑張ろう。あの子が僕を助けてくれたように、今度は僕があの子を助けるんだ!

 決意と共にふと顔を上げてみれば、視線の先には知らない旅人が歩いていた。道行く人に元気に挨拶をしていたあの子の顔が思い浮かんだ。そしてそんな彼がいない現状にふと、虚しさを感じた。

 それだけなら、良かったのに。魔物の僕が旅人の前に出ていけば、怖がらせてしまうかもしれないし、襲われるかもしれない。だから、何事も無かったかのように僕が立ち去れば、それで全てが丸く収まる。それなら良かったはずなんだ。

 でもその時、僕は自覚してしまった。

 それは、満たされなければ死んでしまう欲望だった。

 それは、あの子がごはんをくれていた時は、抱く必要のない渇望だった。

 それは、もうあの子と一緒にいられなくなることを意味する衝動だった。

 それは――どうしようもなく、本能だった。









 ――おなかが、すいたなあ。









 ……ダメだっ!!

 僕は走った。平原をUターンし、あの子の父親の亡骸のある洞窟へと走った。

 この衝動に従ってしまえば、あの旅人を"こうげき"してしまうと察したから。一度、その一線を超えてしまったら僕は……果たして僕は……まだ"子猫"でいられるのだろうか。あの子と一緒に遊んでもいいと、思えるのだろうか。

 あの子の存在が、僕の中で段々と希薄になっていくと感じた。残響が、空腹の苦しみの中に溶けていく。

(嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!! 僕は人間を食べたくなんかない!!)

 そして――僕は願った。

 霞んでほしくない。無くなってほしくない。

 その一心で、あの子の父親――パパスの遺骸の中から、あの剣を取り出した。

 どうか、いなくならないで。

 この剣に残る温かさが、あの子をつなぎ止めてくれますように。

 もし誰かを襲いそうになってしまったら、この剣の冷たさを思い出そう。パパスを亡くしたあの瞬間の胸の苦しみは、空腹の苦しみなんかよりもずっとずっと締め付けた。

 いつか、あの子にこの剣を渡すことができるその瞬間まで――僕が僕でいられますように。


(……かえして。あの剣を、かえして。)

 この殺し合いに招かれた時、チロルが数年にわたって大切に持ち続けていたパパスの剣は没収されていた。そして同時に――何かが砕け散る音がした気がした。

 人と共に生きてきたが人と切り離された魔物の、最後の理性を繋ぎ止めていた剣。本来の歴史では、チロルは人に害なす魔獣と化してもなお、あくまで作物を荒らすに留まり、人を喰らうという一線だけは超えることがなかった。

 だが、この殺し合いに招かれ、理性の拠り所を失ったことによって、最後のひと押しが与えられてしまった。

 ――ヒト、タベタイ。

 ベビーパンサー。それは『地獄の殺し屋』と呼ばれる魔物、キラーパンサーの幼体である。殺し合いが開始してまもなくルークに対して見せた躊躇――それが、野生に帰った魔物が最後に残していた理性であった。

 そう、これは願いを掴み取るための戦いではない。本来であれば叶っていたであろう願いを、彼らは失ってしまったのだから。

【ルーク@ハイパーインフレーション】
[状態]:力の使用(50万ベルク)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~3
[思考・状況]基本行動方針:殺し合いに乗らないことを前提に、今後の方針を立てる。
1:商談のチャンス、終わっちゃうだろぉ!
[備考]
原作54話、特務省に乗り込む直前からの参戦です。


【チロル@ドラゴンクエストV 天空の花嫁】
[状態]:健康
[装備]:猫の手@ONE PIECE
[道具]:ランダム支給品0~2(※基本支給品は、食料を食べて遺棄しました。)
[思考・状況]基本行動方針:本能のまま、人を襲う
1:……。
[備考]
主人公と別れた数年後、キラーパンサーに成長する前からの参戦です。

【支給品紹介】
【猫の手@ONE PIECE】
キャプテン・クロが身に付けている鉤爪。

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