◆
日陰となり、日光の入り込まない一室。
薄暗く、どこか肌寒さも漂わせる場所も黒死牟には都合が良い。
煩わしい喧騒を耳に入れる事無く、思考の沼に意識を沈ませられる。
薄暗く、どこか肌寒さも漂わせる場所も黒死牟には都合が良い。
煩わしい喧騒を耳に入れる事無く、思考の沼に意識を沈ませられる。
鬼狩りであった頃は、加入した動機が何処まで行っても我欲に過ぎなかったとはいえ。
組織の歯車なのは変わらず、時に複数人で動く事も珍しくなかったが。
始祖に魂を売り渡し、鬼になってからの数百年はほとんどが一人。
集団での反乱を抑えるべく、無惨の手で共食いの習性を植え付けられてるのもあり。
一部の例外を除き、鬼は基本的に群れず行動する。
黒死牟もその例に漏れず、青い彼岸花の捜索や柱の排除等々。
同胞の鬼と共同で当たった事例は、上弦最強の実力もあって一度もない。
組織の歯車なのは変わらず、時に複数人で動く事も珍しくなかったが。
始祖に魂を売り渡し、鬼になってからの数百年はほとんどが一人。
集団での反乱を抑えるべく、無惨の手で共食いの習性を植え付けられてるのもあり。
一部の例外を除き、鬼は基本的に群れず行動する。
黒死牟もその例に漏れず、青い彼岸花の捜索や柱の排除等々。
同胞の鬼と共同で当たった事例は、上弦最強の実力もあって一度もない。
そうして今、極僅かな時間に過ぎないだろうが。
再び孤独な時間へ、身を浸らせる。
思えば屠り合いが始まってからは、最初に会った娘が常に傍らへ引っ付いていたか。
ころころと表情を変え、幾度も自分へ向けた困り顔の笑みが頭に浮かび。
目の前にいなくても存在を意識させる娘に、煩わしさを覚えるのも束の間。
一人を望むに至った最たる理由が、毒のように精神を蝕む。
再び孤独な時間へ、身を浸らせる。
思えば屠り合いが始まってからは、最初に会った娘が常に傍らへ引っ付いていたか。
ころころと表情を変え、幾度も自分へ向けた困り顔の笑みが頭に浮かび。
目の前にいなくても存在を意識させる娘に、煩わしさを覚えるのも束の間。
一人を望むに至った最たる理由が、毒のように精神を蝕む。
(縁壱……お前が本当に……)
紅渡、櫻井戒。
屠り合いを良しとせず、神へ抗う道を選んだ者達。
レイや士、ココアが信頼を向けた善良な参加者であり。
弟の手でその生涯に幕を閉じられた、犠牲者でもある。
屠り合いを良しとせず、神へ抗う道を選んだ者達。
レイや士、ココアが信頼を向けた善良な参加者であり。
弟の手でその生涯に幕を閉じられた、犠牲者でもある。
「……」
分かっていた、そうなるだろうと考えてはいた。
縁壱から見れば黒死牟と無惨のみならず、目に映る一切合切が滅ぼすべき悪鬼。
頸を落とさぬ理由はなく、まして誰も彼もが縁壱の剣から逃れる術を持つ筈がない。
鬼滅の刃は腐り果て、神の愉悦を満たす虐殺者に堕ちて尚も。
人として現世に産声を上げながら、人ならざる強さを持つのだけは変わっていない。
世の理を狂わせるのみならず、安寧までもを終焉へ導く破壊者として縁壱は存在するのだ。
縁壱から見れば黒死牟と無惨のみならず、目に映る一切合切が滅ぼすべき悪鬼。
頸を落とさぬ理由はなく、まして誰も彼もが縁壱の剣から逃れる術を持つ筈がない。
鬼滅の刃は腐り果て、神の愉悦を満たす虐殺者に堕ちて尚も。
人として現世に産声を上げながら、人ならざる強さを持つのだけは変わっていない。
世の理を狂わせるのみならず、安寧までもを終焉へ導く破壊者として縁壱は存在するのだ。
こうなると予想は出来た。
慌てふためき、信じられぬと現実を拒絶する気はない。
だけど、覆せない事実は黒死牟の心をどうしようもなく波立たせる。
例え神に弄ばれ、縁壱の思考に異変が生じた結果だとしても。
気味が悪く、いっそおぞましい程に非の打ち所のない人格者だった弟が。
本来ならば手を取り合う、善の側へ属する者を斬った。
明確に告げられた縁壱の罪へ、自身の見えない部分が剥がれ落ちる痛みを覚え。
情報開示が終わるや、背後からの声も全て黙殺し部屋を後にした。
慌てふためき、信じられぬと現実を拒絶する気はない。
だけど、覆せない事実は黒死牟の心をどうしようもなく波立たせる。
例え神に弄ばれ、縁壱の思考に異変が生じた結果だとしても。
気味が悪く、いっそおぞましい程に非の打ち所のない人格者だった弟が。
本来ならば手を取り合う、善の側へ属する者を斬った。
明確に告げられた縁壱の罪へ、自身の見えない部分が剥がれ落ちる痛みを覚え。
情報開示が終わるや、背後からの声も全て黙殺し部屋を後にした。
尤も、一人になったとて弟への形容し難き想いは燻ったまま。
生前に抱いた妬みと憎悪とは違う、黒死牟自身にも未だ判別が付けられないナニカ。
死ぬ気は失せた、しかし弟をどうしたいか。
弟へ何を思ってるかは、未だ答えが出せず。
重い足取りで窓へ近付き、街並みをぼんやりと見下ろす。
大正の世を遥かに超越し発展を遂げた、令和の世の光景。
神の国と言われても、事情を知らねば納得しかねない建造物群を眺め、
生前に抱いた妬みと憎悪とは違う、黒死牟自身にも未だ判別が付けられないナニカ。
死ぬ気は失せた、しかし弟をどうしたいか。
弟へ何を思ってるかは、未だ答えが出せず。
重い足取りで窓へ近付き、街並みをぼんやりと見下ろす。
大正の世を遥かに超越し発展を遂げた、令和の世の光景。
神の国と言われても、事情を知らねば納得しかねない建造物群を眺め、
「――っ」
蠢く、悪しき波動の巨人を見付けてしまった。
○
ソレを見た時、マコトは真っ先にガンマイザーを連想した。
姿形が似ているどうこうの話ではない、鳥肌が立つ程のプレッシャーを受けたが為に。
敵意をぶつけられたのでないにもかかわらず、全身の強張りが抑えられない。
眼魔世界に存在した15の護り神同様、人の尺度で計るのが憚れる。
但し無機質なガンマイザーと違い、巨体が発するのは絶大な負の波動。
どれ程の苦痛を、嘆きを、絶望を掻き集めれば。
ここまで痛ましい怪物を生み出せるのか、想像しただけでも嫌な汗が背を伝う。
姿形が似ているどうこうの話ではない、鳥肌が立つ程のプレッシャーを受けたが為に。
敵意をぶつけられたのでないにもかかわらず、全身の強張りが抑えられない。
眼魔世界に存在した15の護り神同様、人の尺度で計るのが憚れる。
但し無機質なガンマイザーと違い、巨体が発するのは絶大な負の波動。
どれ程の苦痛を、嘆きを、絶望を掻き集めれば。
ここまで痛ましい怪物を生み出せるのか、想像しただけでも嫌な汗が背を伝う。
「そこで止まれ!何者だ?」
眼魂を片手に握り、いつでも変身可能に備える。
だが戦闘を仕掛ける真似には出ず、警戒を露わにしつつも対話を望む。
巨人は存在感に反し、マコトを襲う様子は現状見られない。
であれば、こちらも今は矛を収めておく。
使役する本人だろう、肩に乗った少女と視線が交差した。
だが戦闘を仕掛ける真似には出ず、警戒を露わにしつつも対話を望む。
巨人は存在感に反し、マコトを襲う様子は現状見られない。
であれば、こちらも今は矛を収めておく。
使役する本人だろう、肩に乗った少女と視線が交差した。
「んなピリ付いてんじゃないわよ。まっ、こいつにビビる気持ちは分かるけど」
鋭利な視線も意に介さず、小馬鹿にするような返事が降って来た。
見上げる位置から嘲笑を延々と浴びせる気は無いらしく、軽やかに飛び降りる。
衝撃緩和のマットなど敷かれておらず、自殺行為同然だが無問題。
何かを唱えたかと思えば、激突の寸前でふわりと一瞬宙へ浮く。
地面に花を咲かせる末路を回避し、猫耳を揺らす少女を真正面からマコトは見た。
見上げる位置から嘲笑を延々と浴びせる気は無いらしく、軽やかに飛び降りる。
衝撃緩和のマットなど敷かれておらず、自殺行為同然だが無問題。
何かを唱えたかと思えば、激突の寸前でふわりと一瞬宙へ浮く。
地面に花を咲かせる末路を回避し、猫耳を揺らす少女を真正面からマコトは見た。
(嫌な目をしているな……)
暗く澱み、それでいて執着らしき衝動も見え隠れする。
覚えがないとは言わない。
妹の肉体を取り戻す為に、身も心も鬼へ変えた嘗ての己のように。
視野を狭めた者特有の目だと、在りし日の自分を重ねたと向こうは気付く様子もなく。
値踏みするかの視線を無遠慮にぶつけ、自身の望みを口にする。
覚えがないとは言わない。
妹の肉体を取り戻す為に、身も心も鬼へ変えた嘗ての己のように。
視野を狭めた者特有の目だと、在りし日の自分を重ねたと向こうは気付く様子もなく。
値踏みするかの視線を無遠慮にぶつけ、自身の望みを口にする。
「別に喧嘩売ろうって訳じゃないわ。ただちょっと聞きたいことが――」
質問を最後まで言い切る前に、複数人が駆け寄る気配を察知。
ロビー前での見張りを請け負ったマコトのみならず、施設内部にいた者達も。
尋常ならざる、負の念で構成された巨人の接近に気付いた。
十人以上の参加者が続々と顔を出し、少女も流石に面食らう。
これだけの人数が一ヶ所に集まったのかと驚き、見知った顔を発見。
ロビー前での見張りを請け負ったマコトのみならず、施設内部にいた者達も。
尋常ならざる、負の念で構成された巨人の接近に気付いた。
十人以上の参加者が続々と顔を出し、少女も流石に面食らう。
これだけの人数が一ヶ所に集まったのかと驚き、見知った顔を発見。
「キャルちゃん!?キャルちゃんも病院から離れてたの!?」
「イロハ!?ってことは……ああうん、やっぱアンタも一緒よね。イロハがいるなら当然かぁ」
「何を納得している……」
「イロハ!?ってことは……ああうん、やっぱアンタも一緒よね。イロハがいるなら当然かぁ」
「何を納得している……」
桜色の髪の少女に続き、六眼の侍の姿を確認。
聖都大学附属病院での戦闘にて、強制的に引き離された仲間達。
思わぬ再会に少なからず衝撃を受けるが、徐々に安堵で顔が綻ぶ。
そう簡単に死ぬような奴らでないと、分かっていたが自分の目で無事を確かめられればそれに越した事はない。
見覚えのある顔がこの二人で打ち止めなのは、残念でならなかった。
聖都大学附属病院での戦闘にて、強制的に引き離された仲間達。
思わぬ再会に少なからず衝撃を受けるが、徐々に安堵で顔が綻ぶ。
そう簡単に死ぬような奴らでないと、分かっていたが自分の目で無事を確かめられればそれに越した事はない。
見覚えのある顔がこの二人で打ち止めなのは、残念でならなかった。
「ユウセイ達は一緒じゃないのね。どこ行ったのよアイツら……」
「うん……もしかしたらキャルちゃんと先に会えたのかも、って思ったけど……」
「悪いけど、こっちもアイツらがどうなったかは知らないわよ。あの後会えたマトモな奴って言ったら、リュウガだけだし」
「うん……もしかしたらキャルちゃんと先に会えたのかも、って思ったけど……」
「悪いけど、こっちもアイツらがどうなったかは知らないわよ。あの後会えたマトモな奴って言ったら、リュウガだけだし」
ブラックホールへ飲み込まれた遊星と結芽。
病院へ残ったのかどうかも定かではない、承太郎と天津。
未だに仲間達は行方が知れず、現状は手掛かりらしい手掛かりもない。
病院へ残ったのかどうかも定かではない、承太郎と天津。
未だに仲間達は行方が知れず、現状は手掛かりらしい手掛かりもない。
「待ってくれ、若しかして万丈に会ったのか!?」
「アンタは……ああ、セントって奴ね。茶髪で良い奴だけど馬鹿っぽい男なら、確かに会ったわよ」
「間違いねぇな、万丈だ」
「どういう判断基準なんですか、その万丈さんは」
「アンタは……ああ、セントって奴ね。茶髪で良い奴だけど馬鹿っぽい男なら、確かに会ったわよ」
「間違いねぇな、万丈だ」
「どういう判断基準なんですか、その万丈さんは」
キャルの辛口な説明に納得する戦兎へ、それでいいのかとレイも思わざるを得ない。
いろはと気楽に接し合い、純粋に無事を喜ぶ。
そんな姿を目の当たりにしても、一同からは未だ警戒の色が消えなかった。
言葉無く佇む巨人を操るのが眼前の少女だと、その一点が全身の強張りを解かせない。
いろはと気楽に接し合い、純粋に無事を喜ぶ。
そんな姿を目の当たりにしても、一同からは未だ警戒の色が消えなかった。
言葉無く佇む巨人を操るのが眼前の少女だと、その一点が全身の強張りを解かせない。
自分がどんな目で見られてるのに、気付いてかいないのか。
今度はこっちの質問に答える番だと口を開く。
これだけの人数が集まってるなら、一人くらいは知ってる可能性がないとも言い切れない筈。
今度はこっちの質問に答える番だと口を開く。
これだけの人数が集まってるなら、一人くらいは知ってる可能性がないとも言い切れない筈。
「次はあたしから聞きたいんだけど、アンタ達の中でコロ助…コッコロってチビエルフに会った奴はいないの?」
「――っ」
「――っ」
投げ掛けた問いへ、空気が引き締まるのがハッキリ分かった。
何も知らないなら起こり得ない反応に、キャルも顔色が変わる。
何も知らないなら起こり得ない反応に、キャルも顔色が変わる。
「ちょっと何よその態度……もしかして、コロ助に何かあったの!?」
「キャルちゃん、えっと……」
「キャルちゃん、えっと……」
キャルの仲間であるコッコロの情報なら、確かに全員持っている。
病院で情報を交換し合った際、外見の特徴も幾つか教えられたのだ。
該当する少女が、何をやったか。
事実を共有してるだけに、簡単に教えて良いものかと迷いが生じた。
病院で情報を交換し合った際、外見の特徴も幾つか教えられたのだ。
該当する少女が、何をやったか。
事実を共有してるだけに、簡単に教えて良いものかと迷いが生じた。
「一旦頭を冷やせネコ娘。生憎キャットフードは持っていないが、まずはこっちの話を聞け」
「なによこのキザ野郎!」
「ちょ、ストップストップ!士もこんな時くらい、カッコ付けな態度は控えてくださいよ!」
「なによこのキザ野郎!」
「ちょ、ストップストップ!士もこんな時くらい、カッコ付けな態度は控えてくださいよ!」
今にも飛び掛からんばかりの、殺気立ったキャルをどうにか宥める。
飄々とした士の態度は却って逆効果だ、相棒をジト目で睨みつつ対話役を交代。
慎重に言葉を選び、レイが事情を説明する。
飄々とした士の態度は却って逆効果だ、相棒をジト目で睨みつつ対話役を交代。
慎重に言葉を選び、レイが事情を説明する。
「確かに私達は、あなたの言うコッコロと特徴の一致する少女に会いました。念の為に聞きますが、銀髪のショートヘアに尖った耳の女の子ですよね?」
「そうよ!そいつ!コロ助とどこで会ったの?ってか何で一緒にいないのよ!?」
「落ち着いてください。順を追って説明しますから」
「そうよ!そいつ!コロ助とどこで会ったの?ってか何で一緒にいないのよ!?」
「落ち着いてください。順を追って説明しますから」
掴み掛かりそうな勢いに怯まず、冷静に努めて事情を話す。
定時放送が始まる少し前、まだ5人が6人だった頃。
移動中の自分達を襲って来た、二人の少女と一人の男。
出来る限り刺激しないよう、しかし確固たる事実として伝える。
キャルの言うコッコロは、殺し合いに乗っている事を。
定時放送が始まる少し前、まだ5人が6人だった頃。
移動中の自分達を襲って来た、二人の少女と一人の男。
出来る限り刺激しないよう、しかし確固たる事実として伝える。
キャルの言うコッコロは、殺し合いに乗っている事を。
「……アンタ、何言ってんの?」
全てを聞き終えたキャルは、乾いた声色でそう言うのが精一杯。
言っている意味が理解出来ない、いや理解したくないのか。
両目を見開き呆然とするのも一瞬、怒り一色へ表情が早変わり。
自分の仲間を貶す内容を平然と吐かれ、認められる筈がないだろう。
言っている意味が理解出来ない、いや理解したくないのか。
両目を見開き呆然とするのも一瞬、怒り一色へ表情が早変わり。
自分の仲間を貶す内容を平然と吐かれ、認められる筈がないだろう。
「デタラメ言ってあたしを騙そうって魂胆?舐められたもんね……!」
「私だって、デタラメであれば良かったって思いますよ。だけど……」
「……っ」
「私だって、デタラメであれば良かったって思いますよ。だけど……」
「……っ」
コッコロ達の襲撃が原因で、レイ達は仲間を一人失った。
共有した時間は短くとも、本当だったら最後まで共に戦い。
元いた世界へ帰れる、そんな未来は永遠に来ない。
悔し気に目を逸らすレイを前に、キャルも歯をキツく噛み締める。
刺々しい空気が両者の間に流れる中、おずおずと話しかける者が一人。
共有した時間は短くとも、本当だったら最後まで共に戦い。
元いた世界へ帰れる、そんな未来は永遠に来ない。
悔し気に目を逸らすレイを前に、キャルも歯をキツく噛み締める。
刺々しい空気が両者の間に流れる中、おずおずと話しかける者が一人。
「あの!キャルちゃん、だよね?私からも良いかな?」
「……なによ」
「……なによ」
ジロリと睨まれ怯み掛けるが、頭を振ってココアは自身を奮い立たせる。
大事な友達が殺し合いに乗っていると知り、ショックを受けるのは当然だ。
その気持ちはココアにも痛いくらい分かる。
だからこそ、傷付いてるキャルを放って置けない。
大事な友達が殺し合いに乗っていると知り、ショックを受けるのは当然だ。
その気持ちはココアにも痛いくらい分かる。
だからこそ、傷付いてるキャルを放って置けない。
「私も、そうなんだ。メグちゃんっていう友達が、コッコロちゃん達と一緒に襲って来て。それで、小鳩さんも死んじゃって……」
「……」
「悲しいし、何で?ってずっと思ってる……」
「……」
「悲しいし、何で?ってずっと思ってる……」
いきなりキレたり、女の子相手に鼻の下を伸ばしたりしたけど。
苺香の死に怒り、共に戦って来た大事な仲間だった。
どうして小鳩が死ななければならないのか、どんな理由を聞かされても納得は出来ない。
苺香の死に怒り、共に戦って来た大事な仲間だった。
どうして小鳩が死ななければならないのか、どんな理由を聞かされても納得は出来ない。
「だから、メグちゃんにはもう誰も殺させたくない!私なりに考えたけど、やっぱりメグちゃん達は間違ってると思う!」
マヤの死がメグの心を壊し、誤った結論へ辿り着かせてしまったのだろうか。
理解出来ないとは言わない、マヤやリゼに帰ってきて欲しいと思ったのはココアも同じ。
しかし、だからといって関係無い人達を殺していい理由にはならない。
戒を始め、この地で出会った仲間に幾度も助けられた故に。
元の世界の友達も、一緒に殺し合いを止めようとする仲間も。
どちらも大切に想うココアは、メグのやり方を認められなかった。
理解出来ないとは言わない、マヤやリゼに帰ってきて欲しいと思ったのはココアも同じ。
しかし、だからといって関係無い人達を殺していい理由にはならない。
戒を始め、この地で出会った仲間に幾度も助けられた故に。
元の世界の友達も、一緒に殺し合いを止めようとする仲間も。
どちらも大切に想うココアは、メグのやり方を認められなかった。
「今のままじゃきっと、メグちゃんもコッコロちゃんも絶対辛い思いをする筈だから。だから――」
「分かった、もういいわ」
「分かった、もういいわ」
だから一緒に、メグとコッコロを止めようと。
ココアの言葉を待たず、キャルは背を向けた。
ついさっきまでの苛立った声色は消え失せ、気味が悪い程に静か。
思わぬ反応へ目を白黒させ、人を寄せ付けない雰囲気の後ろ姿を見つめる。
ココアの言葉を待たず、キャルは背を向けた。
ついさっきまでの苛立った声色は消え失せ、気味が悪い程に静か。
思わぬ反応へ目を白黒させ、人を寄せ付けない雰囲気の後ろ姿を見つめる。
「キャルちゃん……?待って、どこに……」
「決まってんでしょ」
「決まってんでしょ」
振り返ったキャルが浮かべるのは笑み。
人懐っこさは微塵もない、昏い喜びに満ちた。
ゾッとするような顔で、歌うように告げる。
人懐っこさは微塵もない、昏い喜びに満ちた。
ゾッとするような顔で、歌うように告げる。
「コロ助を利用してる、メグとかいうカス女をぶっ殺しに行くのよ」
ココアが断じて受け入れられない、殺害宣言を。
「えっ?なっ、えっ!?」
「あたしの仲間はどいつもこいつも。馬鹿が付くくらい優しい奴らなのよ。当然コロ助だってそう」
「あたしの仲間はどいつもこいつも。馬鹿が付くくらい優しい奴らなのよ。当然コロ助だってそう」
仲間だと偽って近付き、裏切って殺そうとまでした。
最低と言う他ない自分を、美食殿の三人は只の一度も拒絶せず。
危ない橋を渡ってまで、助け出してくれた。
陛下の傍だけが居場所と思ってたのに、三人は自分が帰って来て良い場所をくれた。
何度思い返しても、己には勿体ない程の幸福だ。
最低と言う他ない自分を、美食殿の三人は只の一度も拒絶せず。
危ない橋を渡ってまで、助け出してくれた。
陛下の傍だけが居場所と思ってたのに、三人は自分が帰って来て良い場所をくれた。
何度思い返しても、己には勿体ない程の幸福だ。
「そんなコロ助が殺し合いに乗る理由なんざ、騙されてるか脅されてるか、それか洗脳してるクソ野郎がいるってことでしょ?なら簡単じゃない。メグって女と、一緒にいた変態キモ男をぶっ殺せば良いだけよね」
「ま、待って!メグちゃんは洗脳なんて……!」
「は?じゃあなに?コロ助がやったって言いたいの?」
「そ、それは……」
「ま、待って!メグちゃんは洗脳なんて……!」
「は?じゃあなに?コロ助がやったって言いたいの?」
「そ、それは……」
言葉に詰まるココアを睨むキャルの目は、徐々に険しさを増していく。
一触即発な二人を見ていられず、周囲の者もどうにか宥めるべく言葉を紡ぐ。
一触即発な二人を見ていられず、周囲の者もどうにか宥めるべく言葉を紡ぐ。
「落ち着いて二人とも!わたし達も、どうしてコッコロちゃん達がそんなことしたのか分からないけど……」
「言い争っても事態は解決しません。原因を探す為にも、まずは――」
「言い争っても事態は解決しません。原因を探す為にも、まずは――」
「うるっさいのよ!!!!」
落ち着かせる為の言葉も、キャルに冷静さを取り戻す効果はなく。
金切り声を張り上げ、全員を睨みつける。
レイだけでない、仲間の筈のいろはまでも敵意をぶつけられた。
金切り声を張り上げ、全員を睨みつける。
レイだけでない、仲間の筈のいろはまでも敵意をぶつけられた。
普段のキャルであれば、きっとこうはなっていなかった。
コッコロが殺し合いに乗ったのを聞き、ショックを受けるにしろ。
苛立ちを露わにしたとしても、殺意を撒き散らしはしない。
物言わぬ巨人、地縛神と呼ばれるソレを召喚し早数時間。
嘗て、不動遊星への復讐心に囚われた鬼柳京介と同じように。
心の闇に囚われた挙句、増幅する負の念がキャルを変えてしまった。
コッコロが殺し合いに乗ったのを聞き、ショックを受けるにしろ。
苛立ちを露わにしたとしても、殺意を撒き散らしはしない。
物言わぬ巨人、地縛神と呼ばれるソレを召喚し早数時間。
嘗て、不動遊星への復讐心に囚われた鬼柳京介と同じように。
心の闇に囚われた挙句、増幅する負の念がキャルを変えてしまった。
コッコロを利用し、殺し合いの道具に使う者達へ。
そのような連中を庇い、自分を邪魔する者達へ。
苛立ちが憤怒へ変わるのに、時間は掛からなかった。
そのような連中を庇い、自分を邪魔する者達へ。
苛立ちが憤怒へ変わるのに、時間は掛からなかった。
「ああそう、どいつもこいつも……そんなにあたしが間違ってるって言いたいわけ?」
自分の中で声が聞こえる。
邪魔する者は全員殺せ、仲間を利用するクズを庇う奴らを生かす価値はない。
守る為には、立ち塞がる一切合切を消すのが一番だと。
それを間違いだとは思わない、拒絶しようとも思わない。
だってその通りじゃないか。
邪魔する者は全員殺せ、仲間を利用するクズを庇う奴らを生かす価値はない。
守る為には、立ち塞がる一切合切を消すのが一番だと。
それを間違いだとは思わない、拒絶しようとも思わない。
だってその通りじゃないか。
「残念よイロハ。アンタはお人好しだし、コロ助とも仲良くなれると思ったのに」
「キャルちゃん待って!わたしは――」
「もう遅いのよ!」
「キャルちゃん待って!わたしは――」
「もう遅いのよ!」
咄嗟に伸ばし掛けた手は届かず、キャルの殺意は一気に最高潮へ達する。
全員気は緩めていない、武器や変身ツールに手を伸ばす。
巨人に指示を出す前に無力化は難しくない。
だが先に動きを見せたのは巨人ではなく、キャル自身の方。
全員気は緩めていない、武器や変身ツールに手を伸ばす。
巨人に指示を出す前に無力化は難しくない。
だが先に動きを見せたのは巨人ではなく、キャル自身の方。
「きゃあっ!?」
「くっ!?」
「くっ!?」
携えた魔導書を媒介に、術式の構築を素早く完了。
敵が一塊になってるなら好都合、一番近くにいたココアを対象に魔法を放つ。
標的に出来るのは単体のみだが、命中すれば範囲内の全員を麻痺させる術だ。
連鎖するように動きが鈍り、絶好の隙が生み出される。
ウルトラゼットライザーを取り出し、流れる動作でメダルを装着。
敵が一塊になってるなら好都合、一番近くにいたココアを対象に魔法を放つ。
標的に出来るのは単体のみだが、命中すれば範囲内の全員を麻痺させる術だ。
連鎖するように動きが鈍り、絶好の隙が生み出される。
ウルトラゼットライザーを取り出し、流れる動作でメダルを装着。
「チェンジ!モンスターフォーム!」
『Antique Gear Megaton Golem!』
デュエルモンスターズのNPCをメダル化し、新たに得た機械仕掛けの巨人兵。
古代の機械超巨人(アンティーク・ギア・メガトン・ゴーレム)へ、あっという間に姿を変える。
三階建ての建造物すら優に追い越す巨体は、見掛け倒しに非ず。
外見通りの重量をとくと味合わせてやるべく、遥か上空へ跳躍。
同時に傍らの巨人へ指示を出せば、キャルに続き高く跳び上がった。
古代の機械超巨人(アンティーク・ギア・メガトン・ゴーレム)へ、あっという間に姿を変える。
三階建ての建造物すら優に追い越す巨体は、見掛け倒しに非ず。
外見通りの重量をとくと味合わせてやるべく、遥か上空へ跳躍。
同時に傍らの巨人へ指示を出せば、キャルに続き高く跳び上がった。
「おいまさか……!」
引き攣った戦兎の声に、誰もが内心同意。
跳んだ際に起きた風だけで、吹っ飛ばされかねない勢いだ。
ここから二体が何をする気か、分からない者は一人もおらず。
跳んだ際に起きた風だけで、吹っ飛ばされかねない勢いだ。
ここから二体が何をする気か、分からない者は一人もおらず。
「ブッ潰れろ蟻んこども!!!」
全員が咄嗟に動きを見せ、次の瞬間に大質量が二つ落下。
地面はおろか、研究所や周辺一帯の建造物にまで多大な被害が発生。
キャルの視界の端々で、瓦礫が無数に宙を舞う。
足をどけて見下ろすが、瞳に映るのは原形を留めていないアスファルトだけ。
どこへ行ったとあっちこっちを探す必要はない。
地面はおろか、研究所や周辺一帯の建造物にまで多大な被害が発生。
キャルの視界の端々で、瓦礫が無数に宙を舞う。
足をどけて見下ろすが、瞳に映るのは原形を留めていないアスファルトだけ。
どこへ行ったとあっちこっちを探す必要はない。
「ったく、メチャクチャしやがる……」
「ぐっ……、お前達も無事か?」
「う、うん。モニカちゃんが助けてくれたから……」
「ぐっ……、お前達も無事か?」
「う、うん。モニカちゃんが助けてくれたから……」
悪態を吐き捨て立ち上がる士に続き、マコトも痛みを押し殺し構える。
近くでは學へ手を貸すモニカがおり、多少の傷こそ見られるも致命傷は回避に成功。
少し視線をズラせば、レイに庇われたココアが見えた。
近くでは學へ手を貸すモニカがおり、多少の傷こそ見られるも致命傷は回避に成功。
少し視線をズラせば、レイに庇われたココアが見えた。
「ふん、何人か足りないけどいいわ。メグってカス女を庇う奴は、一番にぶっ殺したいもの」
「っ!メグちゃんをそんな風に言わないで…!」
「はあ?コロ助を利用するクズを、他にどう言えってのよ?」
「っ!メグちゃんをそんな風に言わないで…!」
「はあ?コロ助を利用するクズを、他にどう言えってのよ?」
メグが殺し合いに乗ったのは、ココアだって否定できない。
かといって執拗に罵倒され、黙ってるのもお断りだ。
悲しさと怒りの混じった反論も、冷たく切って捨てられる。
キャルにとっては最早、コッコロがメグやパンツ一枚の変態露出男に利用されてるのは事実。
他の可能性を聞き入れる精神では、とっくになくなっている。
かといって執拗に罵倒され、黙ってるのもお断りだ。
悲しさと怒りの混じった反論も、冷たく切って捨てられる。
キャルにとっては最早、コッコロがメグやパンツ一枚の変態露出男に利用されてるのは事実。
他の可能性を聞き入れる精神では、とっくになくなっている。
「……全員構えろ。話を聞いてくれる段階は、もう終わったみたいだ」
戦兎含め、各々変身は完了してある。
言われるまでもない、向こうが説得を聞き入れるのは不可能。
ここから先どうすべきか、分からない筈がない。
言われるまでもない、向こうが説得を聞き入れるのは不可能。
ここから先どうすべきか、分からない筈がない。
「一人残らず殺してやるわ!あたしの邪魔をした自分を恨むのね!」
戦って切り抜ける以外に選択の余地はないと。
叩き付けられる爆発的な殺気へ、嫌でも理解する他なかった。
叩き付けられる爆発的な殺気へ、嫌でも理解する他なかった。
○
「っ、大分飛ばされたみたいね」
「……」
「……」
髪へ纏わり付く細かな破片を振り払い、槍を支えに立ち上がる。
節々が痛むも、動けない程ではない。
軽く肩を動かすやちよの近くで、邪魔な瓦礫を払い除けるのは黒死牟。
着物の上から身に纏うは、ファンガイアの王を守護する鎧。
屋外に吹き飛ばされる寸前、迅速に仮面ライダーサガへの変身を完了。
徐々に正午が近付く日差しを避け、日中での活動を可能に。
節々が痛むも、動けない程ではない。
軽く肩を動かすやちよの近くで、邪魔な瓦礫を払い除けるのは黒死牟。
着物の上から身に纏うは、ファンガイアの王を守護する鎧。
屋外に吹き飛ばされる寸前、迅速に仮面ライダーサガへの変身を完了。
徐々に正午が近付く日差しを避け、日中での活動を可能に。
周囲を見回しても、自分達以外の者は発見出来ず。
違う場所へ飛ばされたのだとすぐに切り替え、ソウルジェムを掌に翳す。
魔力を探るやちよを無言で見据え、仮面の下で重い口を開く。
違う場所へ飛ばされたのだとすぐに切り替え、ソウルジェムを掌に翳す。
魔力を探るやちよを無言で見据え、仮面の下で重い口を開く。
「お前は……」
「…?どうかしたの?」
「あの娘から……私を引き離したいと……考えないのか……」
「…?どうかしたの?」
「あの娘から……私を引き離したいと……考えないのか……」
移動中、常に思考の端で疑問が渦巻いた。
無事に到着し、いろはとの再会を泣いて喜ぶやちよを見て。
疑問は解消されず、余計に膨らんだ。
無事に到着し、いろはとの再会を泣いて喜ぶやちよを見て。
疑問は解消されず、余計に膨らんだ。
いろはの話やエボルトが語った内容で薄々察したが、実物を前にし改めて理解。
七海やちよという女は、黒死牟が考えていた以上に環いろはへ並々ならぬ感情を抱いている。
単純な仲間意識では足りない、友情を結ぶよりも遥かに強く。
自らの人生に無くてはならない程の、稚雑な喩えに当て嵌めるなら。
やちよにとって、もう一つの心臓とも言うべき存在。
七海やちよという女は、黒死牟が考えていた以上に環いろはへ並々ならぬ感情を抱いている。
単純な仲間意識では足りない、友情を結ぶよりも遥かに強く。
自らの人生に無くてはならない程の、稚雑な喩えに当て嵌めるなら。
やちよにとって、もう一つの心臓とも言うべき存在。
同性間の感情へ、関心を全く抱かない黒死牟であっても気付くくらいに。
傍目にもやちよの態度が、分かり易いのか。
或いは察しが付く程に、いろはの存在が自身へ根を張り離れないのか。
後者の可能性は、相も変らぬ不可解な己への苛立ちが募る為深く掘り下げない。
傍目にもやちよの態度が、分かり易いのか。
或いは察しが付く程に、いろはの存在が自身へ根を張り離れないのか。
後者の可能性は、相も変らぬ不可解な己への苛立ちが募る為深く掘り下げない。
「あなた……いえ、そうね」
まさか、この男からそういった問いを投げかけられるのは予想外。
数度の瞬きで驚きを表すも、相手の顔は仮面に隠れ見えない。
何を思っての質問か、単なる気まぐれか。
どのような理由であれ、自分が返すべき答えは――
数度の瞬きで驚きを表すも、相手の顔は仮面に隠れ見えない。
何を思っての質問か、単なる気まぐれか。
どのような理由であれ、自分が返すべき答えは――
「警戒はしてるわよ。あなたの事を全部知ったわけじゃないもの」
それはそうだろうと内心で思う。
たとえ鬼の脅威を誰よりも知り、悪鬼滅殺の元に憎悪の刃を振るう。
鬼殺隊の人間でないにしろ、相応に敵意や警戒をぶつけるのは至極当然の流れ。
おかしいのは、命を拾われたからといって。
自分を助けると言い、事実幾度も手を伸ばし続けたあの娘くらいのもの。
だからやちよの言葉は、何も間違っていない。
たとえ鬼の脅威を誰よりも知り、悪鬼滅殺の元に憎悪の刃を振るう。
鬼殺隊の人間でないにしろ、相応に敵意や警戒をぶつけるのは至極当然の流れ。
おかしいのは、命を拾われたからといって。
自分を助けると言い、事実幾度も手を伸ばし続けたあの娘くらいのもの。
だからやちよの言葉は、何も間違っていない。
「でも、いろはだって理由もなくあなたと一緒にいたいって思った訳じゃない。そうでしょ?」
「……」
「……」
理由が何かは、理解出来ないが知っている。
故に口を噤む黒死牟へ、誰を重ねたのか。
復讐心に身を焦がした魔法少女か、誰にも見付けられない透明人間になった魔法少女か。
己の願いで仲間を殺し続けた魔法少女なのか。
僅かに目を細め、思い浮かべた姿を察する術は持たない。
故に口を噤む黒死牟へ、誰を重ねたのか。
復讐心に身を焦がした魔法少女か、誰にも見付けられない透明人間になった魔法少女か。
己の願いで仲間を殺し続けた魔法少女なのか。
僅かに目を細め、思い浮かべた姿を察する術は持たない。
「それにあなたがいろはを傷付けないで、傍にいたのも本当でしょう?だから分かるのよ。ああ、またあの子が頑固になってるんだなって」
何度突き放しても、拒絶を重ねても食い下がり。
とうとう根負けして、果てに心を救われたやちよだからこそ。
実感の籠った笑みを浮かべられ、黒死牟に返す言葉は出て来ず。
無機質な仮面の奥で開き掛けた口を、結局は閉じるしかなく。
あの娘も、この女も。
何を考えているのか、何故自分に向ける言葉がそれなのかと。
自問を繰り返す度に燻る、理解の及ばない感情ばかりが膨れ上がり、
とうとう根負けして、果てに心を救われたやちよだからこそ。
実感の籠った笑みを浮かべられ、黒死牟に返す言葉は出て来ず。
無機質な仮面の奥で開き掛けた口を、結局は閉じるしかなく。
あの娘も、この女も。
何を考えているのか、何故自分に向ける言葉がそれなのかと。
自問を繰り返す度に燻る、理解の及ばない感情ばかりが膨れ上がり、
「っ!この反応……まさか……!」
終ぞ答えは出ないまま。
やちよが血相を変えた事で、次なる闘争へ我が身を投げ出すのを余儀なくされた。
やちよが血相を変えた事で、次なる闘争へ我が身を投げ出すのを余儀なくされた。
○
「痛っ……」
叩き付けらた箇所を擦ると、じんわり鈍い痛みが走った。
暴風で吹き飛ばされたにしては、軽傷と言う他ない。
魔法少女への変身が遅れていたら、悲鳴をマトモに出せたかも怪しい。
ピッチリと素肌へ貼り付くシースルー越しに、打った部分を撫でる。
軽傷故に魔法を使って治す程でもない、それより仲間との合流がいろはには最優先。
暴風で吹き飛ばされたにしては、軽傷と言う他ない。
魔法少女への変身が遅れていたら、悲鳴をマトモに出せたかも怪しい。
ピッチリと素肌へ貼り付くシースルー越しに、打った部分を撫でる。
軽傷故に魔法を使って治す程でもない、それより仲間との合流がいろはには最優先。
「キャルちゃん……何があったの……?」
ぶっきらぼうで素直になれない所もあったけど、優しさにいろはは触れた。
喪失への嘆きを吐き出させてくれたキャルが、何故ああも豹変したのか。
コッコロが殺し合いに乗った事実へ、深く傷付いたのだとしても。
病院で見せた顔が嘘のような殺意には、流石に疑問を覚える。
喪失への嘆きを吐き出させてくれたキャルが、何故ああも豹変したのか。
コッコロが殺し合いに乗った事実へ、深く傷付いたのだとしても。
病院で見せた顔が嘘のような殺意には、流石に疑問を覚える。
「あの怪物のせい……?」
思い当たる原因はやはり、キャルが従えていた巨人。
アレを見ていろはが思い浮かべたのは、自身の妹が変貌した存在。
エンブリオ・イヴを取り込んだ三人目のマギウス、アリナ・グレイだった。
狂気の世界の実現を目論んだ彼女を重ねる程に、巨人が内包する力は邪悪そのもの。
キャルの精神へ悪影響を与えた可能性は、決して低くない。
アレを見ていろはが思い浮かべたのは、自身の妹が変貌した存在。
エンブリオ・イヴを取り込んだ三人目のマギウス、アリナ・グレイだった。
狂気の世界の実現を目論んだ彼女を重ねる程に、巨人が内包する力は邪悪そのもの。
キャルの精神へ悪影響を与えた可能性は、決して低くない。
仮に病院にいた際。
遊星がキャルの持つ三つ目の支給品、地縛神に気付いていたら。
防げた事態だったかもしれないが、最早後の祭りだ。
遊星がキャルの持つ三つ目の支給品、地縛神に気付いていたら。
防げた事態だったかもしれないが、最早後の祭りだ。
とにかくキャルを止める為、仲間達を傷付けさせない為にも。
合流を急がねばと、魔力探知を用い、
合流を急がねばと、魔力探知を用い、
「えっ」
反応した魔力へ、弾かれたように振り向く。
本当なら、もうこの世にいる筈のない。
取り零してしまい、二度と会えない『彼女』の存在を。
確かにすぐ傍から感じ取り、信じられない想いで見た。
本当なら、もうこの世にいる筈のない。
取り零してしまい、二度と会えない『彼女』の存在を。
確かにすぐ傍から感じ取り、信じられない想いで見た。
自分と同じ、凄惨な殺し合いの地にいるとは分かっていた。
分かっていたけど、いざ本人を見ると。
体中を駆け巡る衝撃で、声がどうしようもなく震えてしまう。
分かっていたけど、いざ本人を見ると。
体中を駆け巡る衝撃で、声がどうしようもなく震えてしまう。
「灯花ちゃん……?」
「お姉さま……」
「お姉さま……」
声に震えが混じっているのは、向こうも同じだった。
結わえた茶髪も、可愛らしく垂れ下がった瞳も。
か細く自分を呼ぶ声も全て、記憶に焼き付くのと同じ。
助けられなかった、本当の妹のように大切に想っていた少女。
里見灯花が、そこに立っている。
結わえた茶髪も、可愛らしく垂れ下がった瞳も。
か細く自分を呼ぶ声も全て、記憶に焼き付くのと同じ。
助けられなかった、本当の妹のように大切に想っていた少女。
里見灯花が、そこに立っている。
「灯花ちゃん……っ」
脳が命令を下すよりも早く駆け、あっという間に距離はゼロに。
自分の腰までしかない小さな体を、目いっぱい抱きしめる。
あの時と、ワルプルギスの夜をイブに喰わせるマギウスの作戦を。
涙ながらに阻止した時と変わらない、灯花の存在を体と心の両方で感じる。
自分の腰までしかない小さな体を、目いっぱい抱きしめる。
あの時と、ワルプルギスの夜をイブに喰わせるマギウスの作戦を。
涙ながらに阻止した時と変わらない、灯花の存在を体と心の両方で感じる。
「灯花ちゃん……本当に、灯花ちゃんなんだね……っ!」
「あ、お姉さま……わたくし……」
「灯花ちゃんもねむちゃんも、ういも助けられなくて……それでも、頑張って生きようって思ったけど……でも……!」
「あ、お姉さま……わたくし……」
「灯花ちゃんもねむちゃんも、ういも助けられなくて……それでも、頑張って生きようって思ったけど……でも……!」
生きる事を、諦めようとは思わなかった。
助けられなかった傷を背負って、自分らしく戦おうという決意は嘘じゃない。
だけど、もし叶うのなら。
万年桜の下で四人が揃う光景を、実現させたかった。
助けられなかった傷を背負って、自分らしく戦おうという決意は嘘じゃない。
だけど、もし叶うのなら。
万年桜の下で四人が揃う光景を、実現させたかった。
「お姉さま……ごめんね……お姉さまが悲しむって、傷付くって分かってたのに……!」
灯花もまた、頬を濡らして抱きしめ返す。
大好きな姉を守る為に、命を懸けてアリナを止めようとした選択は後悔していない。
いろはだけには生きていて欲しいと、ねむもういもきっと同じ事を言う筈だ。
それでも、自分達の喪失による傷痕がどれ程かを知れば。
多くは語らなくともあの戦いの後で、いろはがどんな思いで生きて来たかを知ってしまえば。
溢れる涙を止める術は、灯花にも分からない。
大好きな姉を守る為に、命を懸けてアリナを止めようとした選択は後悔していない。
いろはだけには生きていて欲しいと、ねむもういもきっと同じ事を言う筈だ。
それでも、自分達の喪失による傷痕がどれ程かを知れば。
多くは語らなくともあの戦いの後で、いろはがどんな思いで生きて来たかを知ってしまえば。
溢れる涙を止める術は、灯花にも分からない。
「灯花ちゃんは悪くないよ……ただ、わたし……っ」
「うん、うん!分かってる。お姉さまがわたくし達にどれ程の愛をくださったか、ぜーんぶ分かってる!」
「うん、うん!分かってる。お姉さまがわたくし達にどれ程の愛をくださったか、ぜーんぶ分かってる!」
優しくて、同時に残酷な人だと思った。
彼女が救われる為なら、自分の幸福なんてどうだっていい。
自分の居場所が未来になくても、彼女が幸せだったら構わない。
抱いた決意は揺るがない筈だったのに、紙の砦のように崩れ落ちていく。
彼女から与えられる温もりを、どうしたって手放したくない。
彼女が救われる為なら、自分の幸福なんてどうだっていい。
自分の居場所が未来になくても、彼女が幸せだったら構わない。
抱いた決意は揺るがない筈だったのに、紙の砦のように崩れ落ちていく。
彼女から与えられる温もりを、どうしたって手放したくない。
しかし灯花の内心とは打って変わって、先に少しだけ顔を離したのはいろはの方だった。
「ごめん、灯花ちゃん。少しだけ待ってて」
「お姉さま?」
「今、一緒に戦ってくれる人達が大変なことになってるの。わたしも、そこにいかないと」
「お姉さま?」
「今、一緒に戦ってくれる人達が大変なことになってるの。わたしも、そこにいかないと」
灯花との再会は喜ばしいし、話したい事は数え切れないくらいある。
だが今はまだ駄目だ、キャルを止める為に仲間達が戦ってる真っ最中。
自分も急いで彼らの元へ赴かねばならない。
その旨を告げると、露骨なまでに灯花の顔色が曇った。
だが今はまだ駄目だ、キャルを止める為に仲間達が戦ってる真っ最中。
自分も急いで彼らの元へ赴かねばならない。
その旨を告げると、露骨なまでに灯花の顔色が曇った。
「……ねえお姉さま。それって本当に、お姉さまがやらなきゃいけないこと?わたくしとねむ、ついでにベテランさんを抜かせばほとんどの人が会ってちょっとの関係でしょ?」
「一緒にいた時間の長さなんて関係ないよ。わたしには皆、大事な仲間の人達だから」
「一緒にいた時間の長さなんて関係ないよ。わたしには皆、大事な仲間の人達だから」
叱るではなく、あくまで諭すように告げるが灯花が納得した様子はない。
むしろ余計に眉を吊り上げ、面白くなさそうに頬を膨らませる。
むしろ余計に眉を吊り上げ、面白くなさそうに頬を膨らませる。
「お姉さまのお優しい所も大好きだけど、魔法少女でもないうぞーむぞーの為に頑張る必要なんてあるの?」
「灯花ちゃん、あのね――」
「それに」
「灯花ちゃん、あのね――」
「それに」
喉を突き掛けた言葉が沈み、閉口を余儀なくされる。
遮られただけでなく、至近距離で自分の顔を覗き込む灯花が。
沸々と苛立ちを募らせ、憎々し気に表情を歪ませているからだ。
遮られただけでなく、至近距離で自分の顔を覗き込む灯花が。
沸々と苛立ちを募らせ、憎々し気に表情を歪ませているからだ。
「あの目玉がいっぱいのお侍さんと、いつまで一緒にいる気?」
「えっ……?灯花ちゃん、どうして黒死牟さんのこと……」
「えっ……?灯花ちゃん、どうして黒死牟さんのこと……」
殺し合いの会場で灯花と会ったのは、今が初めて。
自分が今まで何をして来て、誰が一緒だったかはまだ一言も口にしていない。
なのに何故知っているのかという、当然の疑問への答えはなかった。
こんなに近くにいるのに、自分ではない誰かを睨みつけて吐き捨てる。
自分が今まで何をして来て、誰が一緒だったかはまだ一言も口にしていない。
なのに何故知っているのかという、当然の疑問への答えはなかった。
こんなに近くにいるのに、自分ではない誰かを睨みつけて吐き捨てる。
「全部知ってるよ……お姉さまのことをなーんにも分かってないくせに!馴れ馴れしくして!お姉さまをちゃんと守れない、役立たずのくせに!勝手にお姉さまのお傍に居座って!」
「と、灯花ちゃん落ち着いて!」
「くふふっ、けど良いもんねー。わたくしが来たからにはもう、目玉お化けさんもベテランさんも用済みだにゃー」
「待って灯花ちゃん、それどういう――っ!?」
「と、灯花ちゃん落ち着いて!」
「くふふっ、けど良いもんねー。わたくしが来たからにはもう、目玉お化けさんもベテランさんも用済みだにゃー」
「待って灯花ちゃん、それどういう――っ!?」
ありったけの怨嗟を、ここにいない男へ叩き付けたかと思えば。
一転、不気味なくらいに微笑む。
情緒がまるで安定しない灯花へ困惑を隠せず、呼びかけ続けるも無意味だ。
フワッと軽やかに飛び退き、名残惜しそうな顔でいろはの手を抜け出す。
追い掛けようと一歩足を動かすのと、灯花が右手を掲げるのは同じタイミングだった。
一転、不気味なくらいに微笑む。
情緒がまるで安定しない灯花へ困惑を隠せず、呼びかけ続けるも無意味だ。
フワッと軽やかに飛び退き、名残惜しそうな顔でいろはの手を抜け出す。
追い掛けようと一歩足を動かすのと、灯花が右手を掲げるのは同じタイミングだった。
「魔法カードはっつどー」
「なっ、きゃあっ!?」
「なっ、きゃあっ!?」
手にしたカードが光を発し、いろはの驚愕を無視して効果が発動される。
どこからともなく黒い檻が出現、抵抗の隙も無く閉じ込めた。
標的に選ばれたのは勿論いろはだ、僅かな隙間から手を伸ばすも届かない。
訳が分からず原因を作った本人を見るも、動揺の欠片も無いケロッとした表情。
どこからともなく黒い檻が出現、抵抗の隙も無く閉じ込めた。
標的に選ばれたのは勿論いろはだ、僅かな隙間から手を伸ばすも届かない。
訳が分からず原因を作った本人を見るも、動揺の欠片も無いケロッとした表情。
「ごめんねお姉さま。狭っ苦しいけど、ちょーっとだけ我慢してね?出られない代わりに、誰もお姉さまを傷付けられないから」
「灯花ちゃん何言ってるの!?どうしてこんなこと……」
「お話してあげたいのは山々だけどー、お邪魔虫さん達の駆除が先かにゃー」
「灯花ちゃん何言ってるの!?どうしてこんなこと……」
「お話してあげたいのは山々だけどー、お邪魔虫さん達の駆除が先かにゃー」
あくまでにこやかな笑みを崩さず、余裕ぶって背後を見やる。
接近する存在には気が付いていた。
しかも、都合良く目当ての二人がやって来る。
青い衣装の魔法少女と、白い装甲の剣士。
片や元いた世界で、片や殺し合いでそれぞれ自分のストレスを煽った連中がだ。
接近する存在には気が付いていた。
しかも、都合良く目当ての二人がやって来る。
青い衣装の魔法少女と、白い装甲の剣士。
片や元いた世界で、片や殺し合いでそれぞれ自分のストレスを煽った連中がだ。
「いろは……!」
「思ったより早かったねー、ベテランさん。でも、もう若くないんだから体に負担を強いるのはオススメしないよー?」
「里見灯花……あなた、いろはに何をする気?」
「ベテランさんには教えてあげませーんっ」
「思ったより早かったねー、ベテランさん。でも、もう若くないんだから体に負担を強いるのはオススメしないよー?」
「里見灯花……あなた、いろはに何をする気?」
「ベテランさんには教えてあげませーんっ」
とことん舐め腐った態度の灯花へ、駆け付けたやちよの敵意も膨れ上がる。
参加させられた時間軸こそ違えど、双方への認識は然して変わらない。
友好的な関係になるとはどちらも思っておらず、火花を散らす再会は必然と言えよう。
まだいろはの記憶を取り戻す前から、各地のウワサを潰して回った邪魔な手合いだ。
ドッペルの実験で使い潰して、キッチリ排除するのに一切抵抗はない。
参加させられた時間軸こそ違えど、双方への認識は然して変わらない。
友好的な関係になるとはどちらも思っておらず、火花を散らす再会は必然と言えよう。
まだいろはの記憶を取り戻す前から、各地のウワサを潰して回った邪魔な手合いだ。
ドッペルの実験で使い潰して、キッチリ排除するのに一切抵抗はない。
そしてもう一人、視線は白い鎧の者へ。
仮面ライダーというやつだろうが、記憶のあるどの戦士とも一致せず。
なれど片手に下げた、蝙蝠が噛み付いた大剣は別。
どこぞで変身する道具を手に入れ、今や侍ならぬ西洋の剣士かぶれのつもりか。
仮面ライダーというやつだろうが、記憶のあるどの戦士とも一致せず。
なれど片手に下げた、蝙蝠が噛み付いた大剣は別。
どこぞで変身する道具を手に入れ、今や侍ならぬ西洋の剣士かぶれのつもりか。
「目玉お化けさんもご苦労さまー。もうあなたはお役御免だから、消えちゃっていいよー。こんりんざい、お姉さまには近付かないなら見逃してあげてもいいけど?」
「何を言っている……?」
「何を言っている……?」
血相を変えたやちよをの後を追って来てみれば、いろはは拘束されていて。
おまけに何故か、初対面の童女から邪険に扱われる始末。
結芽を思わせる小生意気さだが、向こうと違って刺し貫くような敵意が言葉へ多大に含まれている。
どんな理由で恨みを買ったか、とんと理解出来ない。
フェントホープで斬り合った少年といい、この小娘といい。
揃いも揃って、自分へ悪感情を向ける意味がまるで分からなかった。
まだ露骨に他種族を見下す、真紅の騎士ことデェムシュの方が分かり易い。
おまけに何故か、初対面の童女から邪険に扱われる始末。
結芽を思わせる小生意気さだが、向こうと違って刺し貫くような敵意が言葉へ多大に含まれている。
どんな理由で恨みを買ったか、とんと理解出来ない。
フェントホープで斬り合った少年といい、この小娘といい。
揃いも揃って、自分へ悪感情を向ける意味がまるで分からなかった。
まだ露骨に他種族を見下す、真紅の騎士ことデェムシュの方が分かり易い。
「耳を貸す必要はないわよ。急いで無力化して、いろはを助け出せば済む話だもの」
「そんなことさせるわけないでしょー?」
「そんなことさせるわけないでしょー?」
元からマトモな会話は期待しておらず、戦闘も覚悟の上。
戦意十分に槍を突き付けられた灯花に、焦りは全くと言って良い程見られない。
言葉一つで大人しくなる展開など、最初から考えていない。
軽く手を振って合図、瓦礫の山を蹴散らし巨体が現われる。
わざわざ戦闘が始まってから、ご丁寧に召喚手順を踏む必要も無し。
予めドローとモンスター召喚を経て、融合召喚に漕ぎ付けた一体を従える。
戦意十分に槍を突き付けられた灯花に、焦りは全くと言って良い程見られない。
言葉一つで大人しくなる展開など、最初から考えていない。
軽く手を振って合図、瓦礫の山を蹴散らし巨体が現われる。
わざわざ戦闘が始まってから、ご丁寧に召喚手順を踏む必要も無し。
予めドローとモンスター召喚を経て、融合召喚に漕ぎ付けた一体を従える。
「んもー、わたくしの前衛をサボって遊びにいくなんて……ほんっと能力以外信用できないんだから!」
誰ぞへの愚痴を零しながら、魔法少女の衣装を身に纏う。
そこいらの雑魚なら、適当なモンスターへ指示を出すだけで片が付く。
だがベテラン魔法少女の七海やちよと、そのベテラン複数人でも苦戦必至だろう男が相手だ。
元々持ち得る力を振るい、蹴散らすのに躊躇は入り込まない。
そこいらの雑魚なら、適当なモンスターへ指示を出すだけで片が付く。
だがベテラン魔法少女の七海やちよと、そのベテラン複数人でも苦戦必至だろう男が相手だ。
元々持ち得る力を振るい、蹴散らすのに躊躇は入り込まない。
「ちゃっちゃと潰してあげる。お姉さまにくっつく悪い虫の排除も、大事な役目だもんねー」
互いに生まれ落ちた世界から続く因縁。
直接相対する前より、負の念をぶつけ続けた相手。
遅かれ早かれ、激突は避けられなかったろう。
その機会が今やって来た。
直接相対する前より、負の念をぶつけ続けた相手。
遅かれ早かれ、激突は避けられなかったろう。
その機会が今やって来た。
「灯花ちゃん……!」
囚われ、無力を噛み締める少女を中心に。
巨大獣が猛威を振るう裏で、もう一つの闘争が始まる。
巨大獣が猛威を振るう裏で、もう一つの闘争が始まる。
○
「おはようございます。案外早いお目覚めで」
「……っ!?」
「……っ!?」
最悪の目覚めが視界一杯に飛び込む。
怪人染みた装いの、背丈の異様に大きい男。
顔立ちこそ整ってはいるが、まともな感性の持ち主なら好んで近付かない。
人とまぞくが緩い関係を結ぶ、多魔市とは確実に相容れない。
そんな男に顔を覗き込まれた桃の心境たるや、察するに有り余る。
怪人染みた装いの、背丈の異様に大きい男。
顔立ちこそ整ってはいるが、まともな感性の持ち主なら好んで近付かない。
人とまぞくが緩い関係を結ぶ、多魔市とは確実に相容れない。
そんな男に顔を覗き込まれた桃の心境たるや、察するに有り余る。
「な、なに、痛っ!?」
混乱に突き動かされるまま、慌てて距離を取ろうと藻掻くも無駄に終わった。
全身の自由が利かないばかりか、剥き出しの肌を走る鋭い痛み。
電気を流されたのに近い感覚は、日常生活で起こる静電気等とは全く別物。
顔だけを動かし、原因が即座に判明。
体のそこかしこへ貼り付けられた、気味の悪い札。
当然このような、悪趣味極まるファッションを桃がする筈がない。
誰がやったかは明白、反射的に睨みつけるも相手はどこ吹く風。
全身の自由が利かないばかりか、剥き出しの肌を走る鋭い痛み。
電気を流されたのに近い感覚は、日常生活で起こる静電気等とは全く別物。
顔だけを動かし、原因が即座に判明。
体のそこかしこへ貼り付けられた、気味の悪い札。
当然このような、悪趣味極まるファッションを桃がする筈がない。
誰がやったかは明白、反射的に睨みつけるも相手はどこ吹く風。
「ンンン、これは失礼。意識の無い女子(おなご)へすべきでないとは承知の上で、枷を付けさせてもらった次第」
「ふざけてるの?」
「ふざけてるの?」
同年代どころか、大の大人でも怯むだろう威圧感を瞳に籠める。
だが男に堪えた様子はまるで見られず、片手でスッテキを弄ぶ。
ファンシーな意匠を知らない訳がなく、魔法少女への変身手段まで奪われたと理解。
変身せずとも常人を超えた力を有する桃であっても、拘束に用いた札は簡単に破れない。
シャミ子達まぞくに近いと言えば近いが、吐き気がする程の邪悪な念が秘められている。
生かすも殺すもこの男次第、一体何をされるのか想像もしたくない。
だが男に堪えた様子はまるで見られず、片手でスッテキを弄ぶ。
ファンシーな意匠を知らない訳がなく、魔法少女への変身手段まで奪われたと理解。
変身せずとも常人を超えた力を有する桃であっても、拘束に用いた札は簡単に破れない。
シャミ子達まぞくに近いと言えば近いが、吐き気がする程の邪悪な念が秘められている。
生かすも殺すもこの男次第、一体何をされるのか想像もしたくない。
「ご心配なく。今のところは拙僧が手を出す気はありませぬ」
「じゃあ解いて欲しいんだけど……」
「そうつれない事を申されるな。何せこれより――」
「じゃあ解いて欲しいんだけど……」
「そうつれない事を申されるな。何せこれより――」
言葉を区切って、桃とは別の方をじっと見やる。
姿が見えずとも感じずにはいられない、悪意を煮詰めた魂の波動を。
計算高く、それでいて刹那的。
目先の悪意へ引き寄せられ、温めた計画を平然と投げ捨てる。
一度滅んでも治せぬ悪癖なれば、此度の優先順位も変動。
今頃は愛しの姉と再会してるだろう童女ではなく、もう一つの戦場に赴くべき。
姿が見えずとも感じずにはいられない、悪意を煮詰めた魂の波動を。
計算高く、それでいて刹那的。
目先の悪意へ引き寄せられ、温めた計画を平然と投げ捨てる。
一度滅んでも治せぬ悪癖なれば、此度の優先順位も変動。
今頃は愛しの姉と再会してるだろう童女ではなく、もう一つの戦場に赴くべき。
「拙僧が手ずから、舞台に花を添えて御覧に入れましょう!」
悪夢さながらのステージを、更なる地獄に変えるべく。
いざ往かん、異界の邪神の元へと。
いざ往かん、異界の邪神の元へと。