◆
(時間は掛けられない……!)
引き離された仲間達は恐らく、キャルと戦闘の真っ最中。
キャル自身が姿を変えた大型モンスターと、従えていた巨人の持つ力。
双方の危険性を考えれば、急いで加勢に向かわねばならない。
故に望ましいのは早期決着。
いろはを取り戻した上で、灯花を無力化ないし撤退へ追い込む。
膠着状態にさせない為にも、余計な加減は抜きで槍を突き出す。
何より、相手が子供だとて油断が通じる相手ではない。
キャル自身が姿を変えた大型モンスターと、従えていた巨人の持つ力。
双方の危険性を考えれば、急いで加勢に向かわねばならない。
故に望ましいのは早期決着。
いろはを取り戻した上で、灯花を無力化ないし撤退へ追い込む。
膠着状態にさせない為にも、余計な加減は抜きで槍を突き出す。
何より、相手が子供だとて油断が通じる相手ではない。
数多の魔女を貫き、ウワサを消滅へ追いやったやちよの槍。
そんじょそこらの魔法少女では、ロクな反応も許されない一撃。
生憎と、灯花はそういった並大抵の枠に収まる者に非ず。
幼子特有の柔肌に傷は無く、穂先は数歩手前で押し留められていた。
そんじょそこらの魔法少女では、ロクな反応も許されない一撃。
生憎と、灯花はそういった並大抵の枠に収まる者に非ず。
幼子特有の柔肌に傷は無く、穂先は数歩手前で押し留められていた。
「もー、ベテランさんは相変わらず野蛮だにゃー」
風船のように頬を膨らませた、可愛らしい抗議とは裏腹に。
畳んだ状態の日傘を翳し、槍を自身に触れさせない。
見た目がどうあれ、魔法少女としての固有武器だ。
身体能力が超人の域にまで引き上げられたのもあり、年齢相応の力しか持たないとはならない。
畳んだ状態の日傘を翳し、槍を自身に触れさせない。
見た目がどうあれ、魔法少女としての固有武器だ。
身体能力が超人の域にまで引き上げられたのもあり、年齢相応の力しか持たないとはならない。
幼女の細腕を振るって槍を弾き、あらぬ方へと逸らした。
再度突き刺されるのを待たず、今度は灯花が仕掛ける。
傘の先端部分を刺突剣に見立て突き出すも、軽く身を捩り回避。
リーチではやちよが上だ、薙ぎ払うように振り回す。
日傘で防ぎつつ後退、見えない手に引っ張られたような軽やかさだ。
再度突き刺されるのを待たず、今度は灯花が仕掛ける。
傘の先端部分を刺突剣に見立て突き出すも、軽く身を捩り回避。
リーチではやちよが上だ、薙ぎ払うように振り回す。
日傘で防ぎつつ後退、見えない手に引っ張られたような軽やかさだ。
逃がしはしないと、やちよも地を蹴り飛び掛かる。
加速の勢いを乗せた一撃を見舞うも、敵は日傘を広げて盾に使用。
薄い布一枚張られた程度、突き破れる筈が貫けない。
元々の耐久性に加え、自身の魔力を使いコーティング。
易々と破壊されない強度を手に入れるも、防げたのは直撃のみ。
槍を当てられた衝撃自体は消し切れず、灯花の意思と関係無しに両足が地面から離れた。
加速の勢いを乗せた一撃を見舞うも、敵は日傘を広げて盾に使用。
薄い布一枚張られた程度、突き破れる筈が貫けない。
元々の耐久性に加え、自身の魔力を使いコーティング。
易々と破壊されない強度を手に入れるも、防げたのは直撃のみ。
槍を当てられた衝撃自体は消し切れず、灯花の意思と関係無しに両足が地面から離れた。
「よっと」
しかし慌てず一回転、日傘を掲げ宙へ浮く。
さながらメリーポピンズのように、優雅に着地を決める。
さながらメリーポピンズのように、優雅に着地を決める。
「ふー、やっぱり泥臭いのはわたくし向きじゃないんだよねー。ベテランさんみたいに脳みそまで筋肉が付いてる人は別だけど」
さも疲れたと言うように、これ見よがしにパタパタと手で扇ぐ。
近接戦闘をやれないとは言わないが、向き不向きというのがある。
わざわざ相手の土俵に上がってやる義理はなく、自分の得意な戦法へ出る頃合いだろう。
軽く腕を振るい、周囲に漂うエネルギーを魔力へ変換。
近接戦闘をやれないとは言わないが、向き不向きというのがある。
わざわざ相手の土俵に上がってやる義理はなく、自分の得意な戦法へ出る頃合いだろう。
軽く腕を振るい、周囲に漂うエネルギーを魔力へ変換。
「どーん!」
子供らしい掛け声に合わせ、日傘が文字通り火を噴く。
魔力を練り固めた、灼熱の砲弾を発射。
たった一発で使い魔十数体を纏めて消し去る、膨大な熱量。
打たれ強い魔法少女の体と言えども、軽傷で済むレベルじゃない。
魔力を練り固めた、灼熱の砲弾を発射。
たった一発で使い魔十数体を纏めて消し去る、膨大な熱量。
打たれ強い魔法少女の体と言えども、軽傷で済むレベルじゃない。
横へ跳んで躱すやちよ目掛け、数発連続で魔力弾を射出。
道路や無人の建造物が破壊される光景には目もくれず、持ち前の速さを駆使し回避。
足を動かす間にも槍を数十本纏めて生成し、灯花へ一斉に放つ。
遠距離攻撃の手段を持つのは、こちらも同じだ。
道路や無人の建造物が破壊される光景には目もくれず、持ち前の速さを駆使し回避。
足を動かす間にも槍を数十本纏めて生成し、灯花へ一斉に放つ。
遠距離攻撃の手段を持つのは、こちらも同じだ。
大型の魔女をも剣山に変える本数が、中学生にも満たない少女へ殺到。
惨たらしい死体の完成が起きると、知らぬ者は数秒先の未来へ憐憫を寄せるだろう。
反対に灯花を知る者が見たら、これでもまだ足りないと首を横に振る。
事実、焦燥の欠片も無しに日傘へ魔力を収束。
大振りな動作で振り回すと、火炎が波となって発生。
槍を纏めて焼き尽くす間にも、迎撃の準備は整った。
惨たらしい死体の完成が起きると、知らぬ者は数秒先の未来へ憐憫を寄せるだろう。
反対に灯花を知る者が見たら、これでもまだ足りないと首を横に振る。
事実、焦燥の欠片も無しに日傘へ魔力を収束。
大振りな動作で振り回すと、火炎が波となって発生。
槍を纏めて焼き尽くす間にも、迎撃の準備は整った。
「くふふっ、本物の数のぼーりょくがどういうものかを教えてあげるっ」
手に持つのとは別に日傘を10本生成し、意思一つで操作。
先端へ魔力を掻き集め、やちよ目掛け熱線を発射。
威力と速度の両面で脅威的なソレらを、水魔法による加速で躱し続ける。
先端へ魔力を掻き集め、やちよ目掛け熱線を発射。
威力と速度の両面で脅威的なソレらを、水魔法による加速で躱し続ける。
移動スピードは緩めずに、槍の生成と射出の工程は決して止めない。
熱線を相殺しダメージを防ぎ続けるも、こちらの攻撃も未だ届く様子無し。
梃子摺らされる相手へ眉を顰め、対する灯花もまた無駄にしぶといやちよへ内心で舌を打つ。
神浜市でトップクラスの実力を誇る魔法少女と、マギウスの翼を率いた魔法少女。
譲り合わない実力の持ち主達が、語る術は言葉でなく力しかない。
熱線を相殺しダメージを防ぎ続けるも、こちらの攻撃も未だ届く様子無し。
梃子摺らされる相手へ眉を顰め、対する灯花もまた無駄にしぶといやちよへ内心で舌を打つ。
神浜市でトップクラスの実力を誇る魔法少女と、マギウスの翼を率いた魔法少女。
譲り合わない実力の持ち主達が、語る術は言葉でなく力しかない。
○
今更になって考える程の内容でないのは、百も承知だが。
人ならざる者同士で殺し合う現状を、上弦同士の血戦以外で行い。
懐かしく感じるのは気のせいではあるまい。
既に真紅の騎士と二度斬り合った事実を加味し、尚も今ようやくそう思うのは。
多少なりとも、思考の錆を削ぎ落とせたからか。
至極どうでもいい、些事以外のなにものでもない事を思い浮かべ。
人ならざる者同士で殺し合う現状を、上弦同士の血戦以外で行い。
懐かしく感じるのは気のせいではあるまい。
既に真紅の騎士と二度斬り合った事実を加味し、尚も今ようやくそう思うのは。
多少なりとも、思考の錆を削ぎ落とせたからか。
至極どうでもいい、些事以外のなにものでもない事を思い浮かべ。
「……」
首目掛け飛来す大鎌を、僅かな動作のみで躱す。
鎧に覆われてるからといって、急所であるのに変わりはなく。
ましてこのような、獣同然の相手に命をくれてやる気もさらさらない。
鎧に覆われてるからといって、急所であるのに変わりはなく。
ましてこのような、獣同然の相手に命をくれてやる気もさらさらない。
攻撃を避けられた相手は牙を打ち鳴らし、威圧するかのよう。
澄ました様子の黒死牟へ苛立った、などの自我を持つ存在ではないだろう。
宿すのは召喚者の命令通りに動き、標的を仕留める機械的なプログラムのみ。
数十歩分の距離が開いているも問題無し、再度飛来した大鎌はあっという間に黒死牟の元へ到達。
弾き返せばタイミングをほぼ同じくして、別方向からも襲い来る。
澄ました様子の黒死牟へ苛立った、などの自我を持つ存在ではないだろう。
宿すのは召喚者の命令通りに動き、標的を仕留める機械的なプログラムのみ。
数十歩分の距離が開いているも問題無し、再度飛来した大鎌はあっという間に黒死牟の元へ到達。
弾き返せばタイミングをほぼ同じくして、別方向からも襲い来る。
敵の外見を一言で言うなら、イカだ。
全身が紫で染まり、左耳からはぬいぐるみのような綿が飛び出す。
自然界に生息するイカと違う最大の特徴は、足の先端に生えた鋭利な刃。
先程から黒死牟相手に振るわれるもの以外に、頭頂部からも花のように鎌が突き出ていた。
全身が紫で染まり、左耳からはぬいぐるみのような綿が飛び出す。
自然界に生息するイカと違う最大の特徴は、足の先端に生えた鋭利な刃。
先程から黒死牟相手に振るわれるもの以外に、頭頂部からも花のように鎌が突き出ていた。
デストーイ・ハーケン・クラーケンは上級モンスターだけあって、体躯も非常に大きい。
モンスターパニック映画さながらのサイズでありながら、足を振るう速さも鈍重とは程遠い。
一撃を弾くと既に二撃目が迫っており、それを対処しても三撃四撃が襲来。
バトルフェイズ中に二回攻撃可能の効果が、現実の戦闘へ落とし込まれた結果。
尋常ならざる速さを発揮するのだった。
モンスターパニック映画さながらのサイズでありながら、足を振るう速さも鈍重とは程遠い。
一撃を弾くと既に二撃目が迫っており、それを対処しても三撃四撃が襲来。
バトルフェイズ中に二回攻撃可能の効果が、現実の戦闘へ落とし込まれた結果。
尋常ならざる速さを発揮するのだった。
執拗に腕を振るわれ、防戦一方になるだけの黒死牟ではない。
暴風を発生させる勢いでザンバットソードを振るい、大鎌を纏めて弾き返す。
怯んだ瞬間、すかさず踏み込み得物の間合いへ閉じ込める。
余計な抵抗を許さぬ剣速を乗せ、一刀両断をここに実現。
暴風を発生させる勢いでザンバットソードを振るい、大鎌を纏めて弾き返す。
怯んだ瞬間、すかさず踏み込み得物の間合いへ閉じ込める。
余計な抵抗を許さぬ剣速を乗せ、一刀両断をここに実現。
しかし綿の詰まった頭を斬った手応えは、まるで伝わって来ない。
それも当然、交差させた大鎌がザンバットソードを防ぐのが見えた。
目の前の異形へ、黒死牟は仮面の下で不可解さを抱く。
敵は防御に出る為に必要な動作を、一切行っていない。
にも関わらず、一瞬どころの話ではなく隙を見せた体勢から変わっていた。
奇怪な現象の正体は、デストーイ・ハーケン・クラーケンのモンスター効果。
バトルフェイズ終了後に守備表示へ変わり、前振り抜きで防御体勢へ移ったのである。
それも当然、交差させた大鎌がザンバットソードを防ぐのが見えた。
目の前の異形へ、黒死牟は仮面の下で不可解さを抱く。
敵は防御に出る為に必要な動作を、一切行っていない。
にも関わらず、一瞬どころの話ではなく隙を見せた体勢から変わっていた。
奇怪な現象の正体は、デストーイ・ハーケン・クラーケンのモンスター効果。
バトルフェイズ終了後に守備表示へ変わり、前振り抜きで防御体勢へ移ったのである。
大鎌諸共叩っ斬ろうとするも、死角より迫る殺気へ跳躍。
跳び退いた先へ降り立ち、もう一体の姿を視界に入れまたしても眉を顰めた。
鬼とも異なる、未知の異形だからではない。
戦闘が始まり間もない頃、既に狩り終えた獲物故にだ。
跳び退いた先へ降り立ち、もう一体の姿を視界に入れまたしても眉を顰めた。
鬼とも異なる、未知の異形だからではない。
戦闘が始まり間もない頃、既に狩り終えた獲物故にだ。
モコモコとした綿の胴体を持つも、愛らしさを損なうパーツが複数存在。
足先は動物の特徴と一致しない、鉄製のカギ爪。
全身各部へ回転鋸が取り付けられ、獲物の肉を削り取るのを待ち侘びている。
巻き付けた鎖が動く度、金属音を鳴らす。
足先は動物の特徴と一致しない、鉄製のカギ爪。
全身各部へ回転鋸が取り付けられ、獲物の肉を削り取るのを待ち侘びている。
巻き付けた鎖が動く度、金属音を鳴らす。
デストーイ・チェーン・シープは攻守こそ然程高くない。
しかし相手によって破壊され、墓地へ送られた時に効果を発動。
攻撃力を上げ特殊召喚が可能となるのだ。
黒死牟に斬られ破壊されるも、自前の効果で蘇生を遂げた。
しかし相手によって破壊され、墓地へ送られた時に効果を発動。
攻撃力を上げ特殊召喚が可能となるのだ。
黒死牟に斬られ破壊されるも、自前の効果で蘇生を遂げた。
玩具と刃物を縫い合わせた、悪趣味な獣達が二体。
両方の敵意を集める黒死牟の視線は、デストーイモンスター達へ貼り付けられた『札』に移る。
モンスターの放つ威圧感以上に、札が発する悪しき波動の方が強い。
恐らく、アレを用いて能力を平時以上に高めてあるのだろう。
両方の敵意を集める黒死牟の視線は、デストーイモンスター達へ貼り付けられた『札』に移る。
モンスターの放つ威圧感以上に、札が発する悪しき波動の方が強い。
恐らく、アレを用いて能力を平時以上に高めてあるのだろう。
それを踏まえても、本来だったら対処は全く難しくない。
小手先の術を幾ら重ねたとて、己が剣の餌食に変えるまでのこと。
現実に未だ叶わないのは、纏った鎧による違和感がどうにも拭えない為か。
動き辛さや窮屈さが感じない、なれど慣れぬ筈の感覚が無いが故。
却って着心地の悪さが生じてしまう。
小手先の術を幾ら重ねたとて、己が剣の餌食に変えるまでのこと。
現実に未だ叶わないのは、纏った鎧による違和感がどうにも拭えない為か。
動き辛さや窮屈さが感じない、なれど慣れぬ筈の感覚が無いが故。
却って着心地の悪さが生じてしまう。
言った所で状況が変わるでも無し。
いずれにしても、自我無き獣風情へ長々と手を焼かされる気もない。
早急に片付けようと踏み込み、
いずれにしても、自我無き獣風情へ長々と手を焼かされる気もない。
早急に片付けようと踏み込み、
「――――――」
近付く気配へ、心の臓を貫かれる悪寒を覚えた。
○
「どうしよう……全然壊れない……」
手を伸ばせる距離にいながら、いろはは戦闘へ介入出来ない。
外部からの攻撃を完璧に防ぐも、内部からの脱出も不可能。
己を閉じ込めた鉄檻へ、クロスボウを何発撃ち込んだだろうか。
破壊はおろか、ほんの少しの傷すら付かない。
相応に魔力を籠めれば、大型の魔女やウワサだって貫けるというのに。
物理的な衝撃を与えた所で、突破可能な代物に非ず。
遊戯や遊星といった決闘者なら、デュエルの知識を武器に的確な手札を選べただろう。
いない人間の話をしても、無意味だが。
外部からの攻撃を完璧に防ぐも、内部からの脱出も不可能。
己を閉じ込めた鉄檻へ、クロスボウを何発撃ち込んだだろうか。
破壊はおろか、ほんの少しの傷すら付かない。
相応に魔力を籠めれば、大型の魔女やウワサだって貫けるというのに。
物理的な衝撃を与えた所で、突破可能な代物に非ず。
遊戯や遊星といった決闘者なら、デュエルの知識を武器に的確な手札を選べただろう。
いない人間の話をしても、無意味だが。
「このままじゃ……!」
信頼する仲間達と、妹と同じくらい大切に想っている少女。
彼女達が手を取り合うのではなく、武器を向け合うのを止めたい。
加えて、今こうしてる間にもキャルがココア達を襲っているかもしれないのだ。
一刻も早く駆け付けたいのに、現実は未だ脱出すらままならない。
肝心な時に何もやれない力の無さを痛感し、無意識の内に拳が握られ、
彼女達が手を取り合うのではなく、武器を向け合うのを止めたい。
加えて、今こうしてる間にもキャルがココア達を襲っているかもしれないのだ。
一刻も早く駆け付けたいのに、現実は未だ脱出すらままならない。
肝心な時に何もやれない力の無さを痛感し、無意識の内に拳が握られ、
「――――っ!?」
視界へ映る、ずっと遠く。
こちらへ近付く人影が見え、それが一体誰なのか。
記憶にあるのと同じ人物だと、気付いた途端に心臓を鷲掴みにされた感覚へ陥った。
こちらへ近付く人影が見え、それが一体誰なのか。
記憶にあるのと同じ人物だと、気付いた途端に心臓を鷲掴みにされた感覚へ陥った。
馬の尾のように結んだ黒の長髪を。
一歩進む度に、風へ靡く着物姿を。
額と顎へ焼き付いた、実の兄と酷似した痣を。
日の出が描かれた耳飾りを。
一歩進む度に、風へ靡く着物姿を。
額と顎へ焼き付いた、実の兄と酷似した痣を。
日の出が描かれた耳飾りを。
瞳に映る全ての『鬼』の滅殺が宿る、腰へ下げた鬼滅の刃を。
知らぬ者は一人もいない。
知らぬ者は一人もいない。
「縁壱さん……」
神々の寵愛を一身に受け、人の世に産み落とされた正真正銘の怪物(にんげん)。
輝きを腐らせた日輪にして、遊戯盤の主が遣わす鬼札。
継国縁壱が、こちらへ真っ過ぐに歩いて来る。
急いで逃げるという選択は、誰も取れない。
既に縁壱に視られた以上、首元へ刃が添えられたも同然。
輝きを腐らせた日輪にして、遊戯盤の主が遣わす鬼札。
継国縁壱が、こちらへ真っ過ぐに歩いて来る。
急いで逃げるという選択は、誰も取れない。
既に縁壱に視られた以上、首元へ刃が添えられたも同然。
縁壱の登場へ顔色を変えたのは、いろは以外の三人もだ。
何故、よりにもよって今現れるのかを問いはしない。
疑問ではなく、早急な対処へ思考の全てを回す。
鬼と魔法少女の足掻きを踏み躙るように、縁壱は駆けた。
何故、よりにもよって今現れるのかを問いはしない。
疑問ではなく、早急な対処へ思考の全てを回す。
鬼と魔法少女の足掻きを踏み躙るように、縁壱は駆けた。
数十歩の距離が開いているなど無関係。
瞬間移動の術を用いたとしか思えぬ、驚異的を通り越し異常な速さ。
抜き放たれた日輪刀が、正午前の日差しを浴び一層輝く。
鬼の脅威に怯える無辜の民には、希望を抱かせ。
殺戮遊戯の参加者達には、絶対の死を予感させる刃が奔る。
瞬間移動の術を用いたとしか思えぬ、驚異的を通り越し異常な速さ。
抜き放たれた日輪刀が、正午前の日差しを浴び一層輝く。
鬼の脅威に怯える無辜の民には、希望を抱かせ。
殺戮遊戯の参加者達には、絶対の死を予感させる刃が奔る。
幸か不幸か、悪夢の鉄檻の効果で守られているいろはを除き。
三人も襲い来る死を回避すべく、瞬時の行動へ出た。
しかし、しかしだ。
三人全員が自身の命を繋げたかというと、否。
三人も襲い来る死を回避すべく、瞬時の行動へ出た。
しかし、しかしだ。
三人全員が自身の命を繋げたかというと、否。
参加者の中で誰よりも、縁壱の強さを知る黒死牟。
タイムテレビの映像越しに、桁外れな縁壱の力を確認した灯花。
上記二名と違い、やちよは人伝に危険性を聞いたのみ。
無論、最大限の警戒は払った。
主催者が直々に会場へ解き放った侍を、弱いなどとは決して思わない。
タイムテレビの映像越しに、桁外れな縁壱の力を確認した灯花。
上記二名と違い、やちよは人伝に危険性を聞いたのみ。
無論、最大限の警戒は払った。
主催者が直々に会場へ解き放った侍を、弱いなどとは決して思わない。
なれども、そのほんの少しの認識の差が明暗を分けたのも事実。
生成した槍を重ね合わせ盾に使い、自身も飛び退く。
判断が間違いだとは言えないだろう、相手が縁壱でなかったら。
生成した槍を重ね合わせ盾に使い、自身も飛び退く。
判断が間違いだとは言えないだろう、相手が縁壱でなかったら。
「なっ――」
一振り、やちよの目を以てしてもそうとしか見えなかった剣で。
無数に裁断された槍を突破、日輪刀が迫り来る。
水魔法の加速で後方へ下がり、指先一本分でも死から逃れようと足掻く。
無数に裁断された槍を突破、日輪刀が迫り来る。
水魔法の加速で後方へ下がり、指先一本分でも死から逃れようと足掻く。
日輪刀が疾走。
首は断たれていない、四肢も繋がったまま。
心臓だって貫かれおらず、人間としての致命傷は一つも無し。
だが、魔法少女としての命は。
胸元で青く輝く三日月へ、鬼を滅ぼす牙が突き立てられ。
深く深く、亀裂を生んだ。
首は断たれていない、四肢も繋がったまま。
心臓だって貫かれおらず、人間としての致命傷は一つも無し。
だが、魔法少女としての命は。
胸元で青く輝く三日月へ、鬼を滅ぼす牙が突き立てられ。
深く深く、亀裂を生んだ。
「ぁ――」
崩れ落ちる。
急速に飛び退く意識と、力が抜けて行く感覚。
霞む視界の中に、自分へ手を伸ばす桜色の少女が見え。
割れる寸前の三日月が、真っ黒に染まり出す。
急速に飛び退く意識と、力が抜けて行く感覚。
霞む視界の中に、自分へ手を伸ばす桜色の少女が見え。
割れる寸前の三日月が、真っ黒に染まり出す。
「――――やちよさんっ!!!」
目の前で起きた、悪夢同然の光景に。
いろはも冷静ではいられない。
胸元の、魔法少女を生かす外付けの魂を。
ソウルジェムを斬られたやちよは、仰向けに倒れ虚空を見つめたまま。
今やほんの微かに身動ぎをするのみで、完全に動かなくなるのは時間の問題。
いろはも冷静ではいられない。
胸元の、魔法少女を生かす外付けの魂を。
ソウルジェムを斬られたやちよは、仰向けに倒れ虚空を見つめたまま。
今やほんの微かに身動ぎをするのみで、完全に動かなくなるのは時間の問題。
(治さない、と……はやく、はやく……!)
自分の固有魔法で、ソウルジェムも治せるかは分からない。
深く考える余裕など消え失せ、脳内を占めるのはやちよの元へ駆け付けることだけ。
急いで行かなければならない、なのに鉄檻は一向に消えない。
すぐそこで、大事な人の命が尽き掛けている。
深く考える余裕など消え失せ、脳内を占めるのはやちよの元へ駆け付けることだけ。
急いで行かなければならない、なのに鉄檻は一向に消えない。
すぐそこで、大事な人の命が尽き掛けている。
「いや……このままじゃ、また……」
取り零した少女達の顔が、鮮明に浮かび上がる。
助けられなかった過去の激痛が、再びこじ開けられる。
無力感、焦燥、希望を啄む現実。
正の想い以上に心を震わせる、インキュベーターが目を付けた人間の感情。
絶望が顔を出す時、魔法少女の魂は侵される。
助けられなかった過去の激痛が、再びこじ開けられる。
無力感、焦燥、希望を啄む現実。
正の想い以上に心を震わせる、インキュベーターが目を付けた人間の感情。
絶望が顔を出す時、魔法少女の魂は侵される。
「えっ、なん……!?」
濁り切ったとようやく気付くも、既に遅い。
桜色の髪が解け、鉄檻の中をあっという間に満たす。
自分自身の体の一部に埋もれ、何とか抜け出そうと藻掻く。
桜色の髪が解け、鉄檻の中をあっという間に満たす。
自分自身の体の一部に埋もれ、何とか抜け出そうと藻掻く。
(だ、め……あたま、まっ、しろに……)
だがどういう訳か、意識が保てない。
ドッペルを制御できず、自分の体なのに自由が利かない。
目を閉じてる場合でないと分かってるのに、甘美な眠りに誘われる。
必死に伸ばした手も、やがて力無く落ちた。
ドッペルを制御できず、自分の体なのに自由が利かない。
目を閉じてる場合でないと分かってるのに、甘美な眠りに誘われる。
必死に伸ばした手も、やがて力無く落ちた。
「やち、よ、さ……――」
『やっぱり、言った通りになったじゃない』
『見ないままでいれば、何も知らないままでいれば。こんな思いもしなくて済んだのに』
『馬鹿な“わたし”の為に、もう一度望みの世界を作ってあげる』
『嬉しいでしょう?誰も“わたし”の所からいなくならないんだものね』
聞き覚えのある声が、ありったけの嘲笑を籠めて吐き捨てられ。
何も見えない、誰にも触れられない暗闇に閉ざされ。
次第に聞こえるものも消えていって。
何も見えない、誰にも触れられない暗闇に閉ざされ。
次第に聞こえるものも消えていって。
「だいじょーぶだよ、お姉さま。後はわたくしに任せて。お姉さまは少しだけ……優しい夢を見ていてね」
そんな声が、最後に聞こえた。
○
ドッペルの暴走、と一口に言っても単に自我を失い暴れ回るだけではない。
以前記憶ミュージアムの崩壊に巻き込まれた後、やちよが黒江と共に万年桜のウワサに辿り着いた時。
いろはが操る沈黙のドッペルは、制御下を離れ暴走状態にあった。
だがそれは、水名神社の時のように破壊を齎すものではない。
仲間達がマギウスの翼に去り、妹の手掛かりもロクに掴めず。
何より当時の灯花はいろはの記憶を失くしたままなうえ、ねむも表立っていろはと接触出来なかった。
現実への不安と恐怖に蝕まれ、ドッペルはいろは自身を幸福な夢に閉じ込めた。
みかづき荘の誰も失われず、妹達も里見メディカルセンターでいろはの見舞いを歓迎する。
そんな箱庭を作り上げたのと同じ現象が、此度も起きたのだ。
以前記憶ミュージアムの崩壊に巻き込まれた後、やちよが黒江と共に万年桜のウワサに辿り着いた時。
いろはが操る沈黙のドッペルは、制御下を離れ暴走状態にあった。
だがそれは、水名神社の時のように破壊を齎すものではない。
仲間達がマギウスの翼に去り、妹の手掛かりもロクに掴めず。
何より当時の灯花はいろはの記憶を失くしたままなうえ、ねむも表立っていろはと接触出来なかった。
現実への不安と恐怖に蝕まれ、ドッペルはいろは自身を幸福な夢に閉じ込めた。
みかづき荘の誰も失われず、妹達も里見メディカルセンターでいろはの見舞いを歓迎する。
そんな箱庭を作り上げたのと同じ現象が、此度も起きたのだ。
但し、以前と違うのは沈黙のドッペルに干渉が行われた事。
いろはの意識が途切れる寸前、悪夢の鉄檻を灯花は解除。
魔法少女同士の技術、コネクトと同じ要領で自身の魔力を沈黙のドッペルと混ぜ合わせた結果。
いろはを閉じ込めた夢に、己の意識を介入させたのだ。
尤もこれは、マギウスとして非常に高い実力を持つ灯花だからこそ行えたものだが。
いろはの意識が途切れる寸前、悪夢の鉄檻を灯花は解除。
魔法少女同士の技術、コネクトと同じ要領で自身の魔力を沈黙のドッペルと混ぜ合わせた結果。
いろはを閉じ込めた夢に、己の意識を介入させたのだ。
尤もこれは、マギウスとして非常に高い実力を持つ灯花だからこそ行えたものだが。
怪鳥を出現させたまま眠りに落ちたいろはの頬を、一度だけ愛おしそうに撫で。
手早く二体のデストーイモンスターへ指示を飛ばす。
デストーイ・チェーン・シープの背にいろはを乗せ、次いでモンスターを召喚。
天使の羽が生えた愛くるしいハムスター、ファーニマル・マウスとデストーイ・ハーケン・クラーケンを融合。
手早く二体のデストーイモンスターへ指示を飛ばす。
デストーイ・チェーン・シープの背にいろはを乗せ、次いでモンスターを召喚。
天使の羽が生えた愛くるしいハムスター、ファーニマル・マウスとデストーイ・ハーケン・クラーケンを融合。
「余計な演出とか良いからさっさと出て来てよねっ」
文句を言いつつ跨るのは、顔中に刀身が突き出た虎のぬいぐるみ。
臀部には尾ではなく、日本刀が突き刺さり胸まで突き破っている。
デストーイ・サーベル・タイガーを融合召喚するも、戦闘へ使う為ではない。
予定変更だ、腹を軽く蹴って撤退を促す。
臀部には尾ではなく、日本刀が突き刺さり胸まで突き破っている。
デストーイ・サーベル・タイガーを融合召喚するも、戦闘へ使う為ではない。
予定変更だ、腹を軽く蹴って撤退を促す。
病院前での戦闘でいろはの腕を斬り落とした縁壱を、許すつもりはない。
かといって何の策も無しに勝てる程、手緩い男でないとは灯花も理解している。
いろはの確保が叶った以上、意地を張ってまで残る理由も無し。
かといって何の策も無しに勝てる程、手緩い男でないとは灯花も理解している。
いろはの確保が叶った以上、意地を張ってまで残る理由も無し。
「しゅっぱつしんこー!じゃあねー目玉お化けさん。あの世で、ベテランさんと反省会でもしてねー」
神経を逆撫でする台詞を残し、ついでに魔力弾をばら撒き牽制。
地面の破壊で粉塵と火花が散り、一瞬視界を奪った隙にモンスター達を急加速。
野生動物さながらの速さで走るデストーイ・サーベル・タイガーに並び、デストーイ・チェーン・シープは飛行。
去った後の場で何が起こるかには、最早見向きもしない。
地面の破壊で粉塵と火花が散り、一瞬視界を奪った隙にモンスター達を急加速。
野生動物さながらの速さで走るデストーイ・サーベル・タイガーに並び、デストーイ・チェーン・シープは飛行。
去った後の場で何が起こるかには、最早見向きもしない。
「お前、は……」
あっという間に姿を消した灯花に、黒死牟が意識を割く余裕は剥がれ落ちた。
他でもない、実の弟が目の前でやちよを斬った。
いろはの時とは違う、明確に命を奪う瞬間が瞳に焼き付き離れない。
他でもない、実の弟が目の前でやちよを斬った。
いろはの時とは違う、明確に命を奪う瞬間が瞳に焼き付き離れない。
既に分かり切っていた、今更下らない現実逃避へ出る気だって皆無。
それでも、縁壱が善良な人間を殺したのは。
弟が本来ならば絶対に望まない殺戮を、鬼狩りと信じて疑わずやってのけたのは。
神を名乗る狂人に囚われた傀儡であると強く突き付けられ、目に見えぬ傷を黒死牟へ刻み付ける。
それでも、縁壱が善良な人間を殺したのは。
弟が本来ならば絶対に望まない殺戮を、鬼狩りと信じて疑わずやってのけたのは。
神を名乗る狂人に囚われた傀儡であると強く突き付けられ、目に見えぬ傷を黒死牟へ刻み付ける。
自分でも理解のできない動揺へ襲われる兄を、縁壱は言葉無く見つめる。
奇妙な甲冑を纏い、日を遮断していてもすぐに分かった。
透き通る世界はサガの鎧をも貫通し、尚且つ気配で察せられない筈がない。
奇妙な甲冑を纏い、日を遮断していてもすぐに分かった。
透き通る世界はサガの鎧をも貫通し、尚且つ気配で察せられない筈がない。
数時間ぶりの再会に、兄弟は互いへ言葉らしい言葉を向けられずにいた。
黒死牟は、弟の変貌を改めて見せつけられたが為に。
そして縁壱は――
黒死牟は、弟の変貌を改めて見せつけられたが為に。
そして縁壱は――
「仕留め損ねたか」
ポツリ、と。
兄に向けてではない、ただ事実を確認するように呟き。
直後、縁壱目掛け激流が叩き付けられた。
兄に向けてではない、ただ事実を確認するように呟き。
直後、縁壱目掛け激流が叩き付けられた。
焦りを微塵も浮かべず、跳躍し距離を取る。
数秒前まで立っていた場所が洗われ、削り取られた。
大量の水が地面に染みこみ、奇妙な術を放った者の姿が露わとなる。
地に付けた四本足の先端に、切符鋏が生え。
鞭のように長い尾には、淡く火が灯ったカンテラが揺れる。
蠍を思わせるフォルムなれど、胴体と顔は間違いなく人間のもの。
数秒前まで立っていた場所が洗われ、削り取られた。
大量の水が地面に染みこみ、奇妙な術を放った者の姿が露わとなる。
地に付けた四本足の先端に、切符鋏が生え。
鞭のように長い尾には、淡く火が灯ったカンテラが揺れる。
蠍を思わせるフォルムなれど、胴体と顔は間違いなく人間のもの。
「行って……」
モギリのドッペルを出現させたやちよが、デイパックを投げ渡し。
背を向けたまま言った意味を、黒死牟は暫し理解出来なかった。
聞き間違いでなければこの女は、生命の核へ致命的となる傷を負い。
いつ力尽きてもおかしくない身で、勝てる確率など最初から存在しない男と対峙を選んだ。
たった一人で、縁壱を相手取る気か。
背を向けたまま言った意味を、黒死牟は暫し理解出来なかった。
聞き間違いでなければこの女は、生命の核へ致命的となる傷を負い。
いつ力尽きてもおかしくない身で、勝てる確率など最初から存在しない男と対峙を選んだ。
たった一人で、縁壱を相手取る気か。
「お前は何を……」
「いろはをお願い、あの子の力になってあげて」
「いろはをお願い、あの子の力になってあげて」
強引に遮り言われた内容へ、今度こそ二の句が継げない。
この女は、一体何を言っている。
それを頼むべき相手が、本気で自分だと思ってるのか。
この女は、一体何を言っている。
それを頼むべき相手が、本気で自分だと思ってるのか。
「お願い!早く行って……!」
力が抜け落ちていく感覚へ、立ってるだけでも限界なのだろう。
これ以上の問答すら惜しいと張り上げた声に、黒死牟は何も言えない。
やちよの行動の意味、言葉の意味、己に何を見出してこのような真似に出たのか。
これ以上の問答すら惜しいと張り上げた声に、黒死牟は何も言えない。
やちよの行動の意味、言葉の意味、己に何を見出してこのような真似に出たのか。
ただの一つも理解出来ないまま、背を向け駆け出す。
仮面ライダーサガの資格者の意志に応じ、ククルカンを召喚。
背に飛び乗り、灯花が去った方へ向かわせた。
仮面ライダーサガの資格者の意志に応じ、ククルカンを召喚。
背に飛び乗り、灯花が去った方へ向かわせた。
何をしているのか。
自分がやっている事の意味すら、まるで分からない。
弟の相手を、死に掛けの女に押し付け。
挙句、その女の言葉へ馬鹿正直に従って小娘を追い掛ける。
一体何をやってるのだろうかと、何度問うても答えは出て来ない。
自分がやっている事の意味すら、まるで分からない。
弟の相手を、死に掛けの女に押し付け。
挙句、その女の言葉へ馬鹿正直に従って小娘を追い掛ける。
一体何をやってるのだろうかと、何度問うても答えは出て来ない。
「私も、私のやるべきこと、を、やらないとね……」
去って行った気配へ薄く笑みを零し、消えそうな意識を繋ぎ止める。
自分がもう助からないのは、誰に指摘されずとも分かっていた。
いつ死んでもおかしくのが却って、ドッペルの暴走を食い止めてるとは。
皮肉であるが、己の意思で戦えるのは有難かった。
自分がもう助からないのは、誰に指摘されずとも分かっていた。
いつ死んでもおかしくのが却って、ドッペルの暴走を食い止めてるとは。
皮肉であるが、己の意思で戦えるのは有難かった。
カンテラを割れそうな程に激しく揺らし、激流を発生。
大型の魔女すら飲み込んだ規模だが、きっと眼前の男には通用しない。
ならばより精度と威力を高めた、正真正銘全てを尽くして放つ。
大型の魔女すら飲み込んだ規模だが、きっと眼前の男には通用しない。
ならばより精度と威力を高めた、正真正銘全てを尽くして放つ。
刻一刻と零れていく命の砂を、ハッキリと感じながら。
尚も限界以上に、力を引き出す。
尚も限界以上に、力を引き出す。
「まだ、よ……私、の全部を、使って良いから……!」
叫ぶ、自分の体がどうなったってもう構わない。
少しでもこの男を止められれば、いろは達から引き離せられれば。
それで良いと、願いを聞き届けてくれと叫ぶ。
少しでもこの男を止められれば、いろは達から引き離せられれば。
それで良いと、願いを聞き届けてくれと叫ぶ。
「――――!」
誰かに背中を押された気がした。
知っている、感じるこの力を知っている。
もう二度と会える筈の無い、自分の無力の証。
願いによって奪われた、彼女達が――
知っている、感じるこの力を知っている。
もう二度と会える筈の無い、自分の無力の証。
願いによって奪われた、彼女達が――
「い――っけぇえええええええええええええええええっ!!!!!」
自分の魔力と、ここにいない筈の。
でもずっと、傍にいてくれた彼女達の魔力。
信頼する仲間達の力を借りて放つは、水を練り固めた巨大な槍。
高密度且つ、威力と規模も大きく引き上げた
死に行く身とは思えない一撃が、縁壱目掛け放たれる。
でもずっと、傍にいてくれた彼女達の魔力。
信頼する仲間達の力を借りて放つは、水を練り固めた巨大な槍。
高密度且つ、威力と規模も大きく引き上げた
死に行く身とは思えない一撃が、縁壱目掛け放たれる。
迫る極大の槍を前に、縁壱はいつも通りに刀を構える。
直撃は避けるべき、対処が遅れた際にどうなるかなど頭を捻るまでもない。
しかし、アレはこの世に存在するのだ。
黄泉を流れる、現世のものならざる川が溢れたに非ず。
己が目に見える、己が手で触れられる、確かにここへ存在する。
直撃は避けるべき、対処が遅れた際にどうなるかなど頭を捻るまでもない。
しかし、アレはこの世に存在するのだ。
黄泉を流れる、現世のものならざる川が溢れたに非ず。
己が目に見える、己が手で触れられる、確かにここへ存在する。
故に、斬れぬ道理は無し。
――伍ノ型 陽華突
鬼を焼く火炎の赤が刀身に流れ込む。
切っ先を向け、柄尻を押し放つは最早剣術の速さを凌駕した突き。
銀の弾丸の如き必殺の剣が、槍を真っ向より射抜く。
発生する膨大な熱を浴び、瞬きの猶予すら許さずに蒸発。
切っ先を向け、柄尻を押し放つは最早剣術の速さを凌駕した突き。
銀の弾丸の如き必殺の剣が、槍を真っ向より射抜く。
発生する膨大な熱を浴び、瞬きの猶予すら許さずに蒸発。
渾身の魔法を打ち破って尚、縁壱は止まらない。
得物を何度壊し、術を幾度消し去った所で大元を断たねば終わらない。
防御はおろか、身動ぎする力すらほとんど残っていなくとも。
『鬼』は、この世に存在してはならないから。
得物を何度壊し、術を幾度消し去った所で大元を断たねば終わらない。
防御はおろか、身動ぎする力すらほとんど残っていなくとも。
『鬼』は、この世に存在してはならないから。
細く白い喉を、日輪刀が貫く。
ゴボリと血を吐き、焼ける激痛に口元を震わせ。
ゴボリと血を吐き、焼ける激痛に口元を震わせ。
「ざ、まぁ……みな、さ、い……」
狙われたのがソウルジェムではなかった、悪運へ笑みを浮かべ。
いろはが連れ攫われた時に、彼女のデイパックから落ちたカードを掲げる。
本命をここまで隠すのに苦労したが、結果は成功。
見える景色が戦場となった市街地とは、全く異なっていた。
いろはが連れ攫われた時に、彼女のデイパックから落ちたカードを掲げる。
本命をここまで隠すのに苦労したが、結果は成功。
見える景色が戦場となった市街地とは、全く異なっていた。
強制退出装置。
デュエルモンスターズにおいては自分と相手、それぞれのフィールド上のモンスターを手札に戻す罠カード。
殺し合いの支給品として調整を受けた為、自分ともう一人を選びランダムに別エリアへ転移。
といった効果は無事に発揮され、縁壱はやちよ共々いろは達から大きく引き離されたのだ。
デュエルモンスターズにおいては自分と相手、それぞれのフィールド上のモンスターを手札に戻す罠カード。
殺し合いの支給品として調整を受けた為、自分ともう一人を選びランダムに別エリアへ転移。
といった効果は無事に発揮され、縁壱はやちよ共々いろは達から大きく引き離されたのだ。
日輪刀が引き抜かれ、今度こそ本当に終わりが来た。
視線だけを動かすと、ソウルジェムは砕ける寸前。
短時間とはいえ、我ながらよく持ち堪えられたものだと思う。
視線だけを動かすと、ソウルジェムは砕ける寸前。
短時間とはいえ、我ながらよく持ち堪えられたものだと思う。
不思議なのは黒死牟にいろはを託した、自分自身の判断もか。
会って間もない、いろはから聞いた内容以上の何も知らない男なのに。
誰よりも大切に想っていて、死なせたくない少女を任せるとは。
殺し合いに招かれた直後の自分へ言っても、きっと馬鹿げてると吐き捨てられたに違いない。
会って間もない、いろはから聞いた内容以上の何も知らない男なのに。
誰よりも大切に想っていて、死なせたくない少女を任せるとは。
殺し合いに招かれた直後の自分へ言っても、きっと馬鹿げてると吐き捨てられたに違いない。
だけど、信じてみようと思えたのだろう。
頑なに仲間を作ろうとせず、突き放してばかりだった自分をいろはが救ってくれたように。
彼もいろはへ何かを感じ、心を動かす少女だと少しでも思っているのならば。
託した判断は間違っていない筈だから。
頑なに仲間を作ろうとせず、突き放してばかりだった自分をいろはが救ってくれたように。
彼もいろはへ何かを感じ、心を動かす少女だと少しでも思っているのならば。
託した判断は間違っていない筈だから。
未練はある、まだ生きてやりたい事なら幾らでも言える。
でも不思議と晴れやかで、安堵が広まっていた。
でも不思議と晴れやかで、安堵が広まっていた。
(そっか……あなた達も、こんな気持ちだったのね……)
腕の中で力尽きた命。
助けられず、魔女へ変わり果てた命。
無力感に打ちのめされ、喪失へ嘆く自分達とは反対に。
どうして、彼女達が笑っていたのか。
その理由が今やっと、分かった気がする。
醜悪と忌み嫌っていた自分の願い、自分の本当の力が。
絶望を生み出すのと、真逆だと言うのであれば。
助けられず、魔女へ変わり果てた命。
無力感に打ちのめされ、喪失へ嘆く自分達とは反対に。
どうして、彼女達が笑っていたのか。
その理由が今やっと、分かった気がする。
醜悪と忌み嫌っていた自分の願い、自分の本当の力が。
絶望を生み出すのと、真逆だと言うのであれば。
(いろは…………あなたに…………)
自分の希望を届けたい。
幼い少女のように、純粋な願いを秘めて。
星がまた一つ、輝きを失った。
幼い少女のように、純粋な願いを秘めて。
星がまた一つ、輝きを失った。
○
「……」
骸と成り果てた女を見下ろし、縁壱は暫し立ち尽くす。
鬼をこの手で斬った、それはいい。
命を壊され、悲劇に苛まれる芽を一つ摘んだのは間違っていない。
相手が異形であっても、殺す感触は決して心地良いものではない。
なれど鬼を放置し、死が振り撒かれる方が許しておけなかった。
鬼をこの手で斬った、それはいい。
命を壊され、悲劇に苛まれる芽を一つ摘んだのは間違っていない。
相手が異形であっても、殺す感触は決して心地良いものではない。
なれど鬼を放置し、死が振り撒かれる方が許しておけなかった。
鬼を斬った選択への後悔はないが、疑問が頭から離れない。
足元に転がるこの女も、最後の瞬間に笑みを浮かべた。
命を弄ぶ醜悪な笑みとは違う、安堵と達成感に満ちた笑みをだ。
自分の知る鬼はただの一体も、死の間際にこんな顔をしなかった。
己の死を不条理と信じて疑わず、怨嗟や驚愕を貼り付け。
或いは斬られた事にすら気付かないで、逝った鬼達とはまるで違う。
誰も彼もが同胞の為に命を燃やし、笑いながら死んでいく。
足元に転がるこの女も、最後の瞬間に笑みを浮かべた。
命を弄ぶ醜悪な笑みとは違う、安堵と達成感に満ちた笑みをだ。
自分の知る鬼はただの一体も、死の間際にこんな顔をしなかった。
己の死を不条理と信じて疑わず、怨嗟や驚愕を貼り付け。
或いは斬られた事にすら気付かないで、逝った鬼達とはまるで違う。
誰も彼もが同胞の為に命を燃やし、笑いながら死んでいく。
何かが、おかしい気がする。
具体的にどこがどうと、説明が付くようなものではないが。
ただ少しだけ、この地で斬った鬼を思い出すと。
針で刺されたような痛みが、胸の奥に感じた。
具体的にどこがどうと、説明が付くようなものではないが。
ただ少しだけ、この地で斬った鬼を思い出すと。
針で刺されたような痛みが、胸の奥に感じた。
追跡していた痛ましき巨人と、巨人を操る少女の気配はもう近くにない。
どこまで飛ばされたのか、すぐに見つけられる距離ではないのか。
だとしても、発見次第斬るのに迷いはない。
数多の悲劇の元凶たる始祖と同じ、アレもまた存在してはならないのだから。
どこまで飛ばされたのか、すぐに見つけられる距離ではないのか。
だとしても、発見次第斬るのに迷いはない。
数多の悲劇の元凶たる始祖と同じ、アレもまた存在してはならないのだから。
己の往く道が悪鬼滅殺だと信じて、日輪は孤独に剣を振るう。
刃に染みこむ血が罪の証だと、気付く事も出来ずに。
刃に染みこむ血が罪の証だと、気付く事も出来ずに。
【?????/一日目/昼】
【継国縁壱@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(中)、胸部に裂傷(中)、肩に切り傷(微小)、頬に傷(微小)、ダメージ(小)
[装備]:継国縁壱の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1
[思考・状況]基本方針:鬼狩り
1:鬼である(と縁壱には見えている)者達が死ぬ寸前、柔らかな笑みを浮かべたことに違和感
2:兄上、あなたは鬼となって尚も……
3:死者すら苦しめる巨人を従える鬼(キャル)は絶対に許せない
[備考]
※首輪による制限が行われていません
※思考が矛盾を感じた場合、それを疑問に思わなくなるようプログラムを受けています。
[状態]:疲労(中)、胸部に裂傷(中)、肩に切り傷(微小)、頬に傷(微小)、ダメージ(小)
[装備]:継国縁壱の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1
[思考・状況]基本方針:鬼狩り
1:鬼である(と縁壱には見えている)者達が死ぬ寸前、柔らかな笑みを浮かべたことに違和感
2:兄上、あなたは鬼となって尚も……
3:死者すら苦しめる巨人を従える鬼(キャル)は絶対に許せない
[備考]
※首輪による制限が行われていません
※思考が矛盾を感じた場合、それを疑問に思わなくなるようプログラムを受けています。