「ふぅ……」
額に浮かんだ汗を拭い、疲労が吐息となって零れる。
消耗が激しい状態で固有魔法を使い続ければ、そうなって当然だろう。
とはいえ自分はもとより、仲間の負傷は放置して良いものじゃない。
動く度に走る鈍い痛みが大分薄れ、代わりにソウルジェムには濁りが蓄積。
グリーフシードが手元にあったのは運が良い、慣れた手付きで浄化。
引き続き回復を行おうとしたが、向こうが首を横に振った。
消耗が激しい状態で固有魔法を使い続ければ、そうなって当然だろう。
とはいえ自分はもとより、仲間の負傷は放置して良いものじゃない。
動く度に走る鈍い痛みが大分薄れ、代わりにソウルジェムには濁りが蓄積。
グリーフシードが手元にあったのは運が良い、慣れた手付きで浄化。
引き続き回復を行おうとしたが、向こうが首を横に振った。
「でもまだ……」
「こんぐらい治れば大丈夫だ。それにお前だってバテそうだろ?なら休んどけって」
「こんぐらい治れば大丈夫だ。それにお前だってバテそうだろ?なら休んどけって」
立ち上がって軽く腕を回し、平気だとアピール。
強がりではなく、自分の状態は万丈自身が一番良く分かっている。
ボクサー時代に始まり、パンドラボックスを巡る戦いで痛みには慣れた。
完治せずとも、動き回れる程度に傷が塞がれば問題無し。
加えて地球外の遺伝子が影響しており、常人以上に回復も早い。
強がりではなく、自分の状態は万丈自身が一番良く分かっている。
ボクサー時代に始まり、パンドラボックスを巡る戦いで痛みには慣れた。
完治せずとも、動き回れる程度に傷が塞がれば問題無し。
加えて地球外の遺伝子が影響しており、常人以上に回復も早い。
「……ごめんなさい。あの、ありがとうございます」
「謝んなよ。つーか礼言うなら俺の方だろ」
「謝んなよ。つーか礼言うなら俺の方だろ」
気を遣われ申し訳なさそうにするいろはへ、何でもないように返す。
レイ達の話や戦闘中の様子しか知らなかったが、遠慮しいな性格なのだろうか。
自分の周りにいた異性とはタイプが違い、少々やり辛さを覚える。
良く言えば自分以外の為に積極的になれる、捻くれた言い方だと自分を二の次にしがち。
僅かなやり取りで垣間見た少女の本質へ、反応に困り後頭部を掻く。
レイ達の話や戦闘中の様子しか知らなかったが、遠慮しいな性格なのだろうか。
自分の周りにいた異性とはタイプが違い、少々やり辛さを覚える。
良く言えば自分以外の為に積極的になれる、捻くれた言い方だと自分を二の次にしがち。
僅かなやり取りで垣間見た少女の本質へ、反応に困り後頭部を掻く。
『無茶に定評があるのはイリヤさんで慣れてますが、いろはさんも中々ハラハラさせる方ですねー。ねぇ?そこんとこどうなんです?』
「……」
「……」
離れた位置で壁に寄り掛かる黒死牟が、問いに返すのは沈黙。
何故それを聞く相手が自分なのかを、尋ねた所でロクな答えが返って来ないだろう。
フヨフヨと浮かぶ、面白ステッキを鬱陶し気に見やる。
何故それを聞く相手が自分なのかを、尋ねた所でロクな答えが返って来ないだろう。
フヨフヨと浮かぶ、面白ステッキを鬱陶し気に見やる。
『かーっ!小粋なトークの一つも出来ないなんて、殿方失格じゃないですか!そんなんじゃ公式ハーレム建築士の蛇王院さんに、いろはさんを盗られるのも時間の問題ですよ!』
「お前は何を言っている……」
「そもそも蛇王院さんがそんなことするわけないでしょ……」
「お前は何を言っている……」
「そもそも蛇王院さんがそんなことするわけないでしょ……」
一体何の話をしてるのか理解出来ないし、出来ても不愉快になるだけとは察しが付く。
相棒のおちゃらけた発言は今に始まったものでなく、イリヤも呆れ交じりに言う。
二人分の冷たい視線がぶつけられるも、サラリと受け流す。
この程度で怯んでいては、趣味のマスター弄りは務まらない。
相棒のおちゃらけた発言は今に始まったものでなく、イリヤも呆れ交じりに言う。
二人分の冷たい視線がぶつけられるも、サラリと受け流す。
この程度で怯んでいては、趣味のマスター弄りは務まらない。
『まあおふざけは一旦これくらいにして、そろそろ真面目な話をしましょうか』
「常に真面目にやって欲しいんだけどなぁ」
「常に真面目にやって欲しいんだけどなぁ」
イリヤのジト目も華麗に見なかった事にして、音頭を取り意識を集める。
各々負傷はある程度治り、痛みで集中力が薄れる事態にはならない。
情報整理を始めるには丁度良い頃合いだ。
各々負傷はある程度治り、痛みで集中力が薄れる事態にはならない。
情報整理を始めるには丁度良い頃合いだ。
『さっきは言う暇もありませんでしたが、私達は別のエリアでレイさん達に会ったんです』
「そうなんですか!?」
「そうなんですか!?」
暴風に吹き飛ばされ、別行動を余儀なくされた仲間達。
無事を確かめようにも手掛かり無しでお手上げだったがまさか、イリヤ達と会っていたとは。
驚きつつも安堵するいろはだが、話はこれで終わりじゃない。
定時放送前に桜ノ館中学校で別れた後、イリヤ達に何があったか。
万丈や、街で合流した天津達から齎される情報の数々。
それはいろはは勿論、黒死牟にも軽くない動揺を与える内容だ。
無事を確かめようにも手掛かり無しでお手上げだったがまさか、イリヤ達と会っていたとは。
驚きつつも安堵するいろはだが、話はこれで終わりじゃない。
定時放送前に桜ノ館中学校で別れた後、イリヤ達に何があったか。
万丈や、街で合流した天津達から齎される情報の数々。
それはいろはは勿論、黒死牟にも軽くない動揺を与える内容だ。
「灯花ちゃん……」
妹のように大切に想う二人の少女、内の片方が自分の目が届かぬ所で何をして来たか。
参加を知った時から覚悟はしており、再会時の様子で薄々察しは付いていた。
だが実際に聞かされ、やはりショックは隠せない。
参加を知った時から覚悟はしており、再会時の様子で薄々察しは付いていた。
だが実際に聞かされ、やはりショックは隠せない。
天津やポッピーを痛め付け、別の場所ではねむ共々イリヤ達を殺そうと襲った。
加えて万丈も言葉を濁したが、滅を手に掛けた可能性は否定出来ない。
フェリシアを殺された件で怒りはあるも、真意を知る前に脱落者となったヒューマギア。
万丈達を生かす為に足止めを買って出た最後を知り、もし彼が生きていれば争い以外の道も有り得たと思うとやり切れない。
更には幻徳の死因までもが、灯花との戦闘で負った傷であったなら。
ゲームに抗う善良な人物を殺した事実に他ならない。
加えて万丈も言葉を濁したが、滅を手に掛けた可能性は否定出来ない。
フェリシアを殺された件で怒りはあるも、真意を知る前に脱落者となったヒューマギア。
万丈達を生かす為に足止めを買って出た最後を知り、もし彼が生きていれば争い以外の道も有り得たと思うとやり切れない。
更には幻徳の死因までもが、灯花との戦闘で負った傷であったなら。
ゲームに抗う善良な人物を殺した事実に他ならない。
(やっぱり灯花ちゃんはあの時みたいに……)
魔法少女…いろはの救済を実現する為に、どんな犠牲も厭わない。
記憶を取り戻し、ねむと共に計画の最終段階を実行に移した時と同じ。
切り捨てた無数の屍を積み上げ、魔法少女が救われる未来への階段創り出す。
当たって欲しくなかった予感は現実と化し、気付けば拳を強く握り締めた。
リンボの手で思考を弄られた可能性があるにしろ、灯花が多くの間違いを犯したのも事実。
起きてしまった過去は変えられないと分かっているも、責める矛先は止められなかったいろは自身に向かう。
記憶を取り戻し、ねむと共に計画の最終段階を実行に移した時と同じ。
切り捨てた無数の屍を積み上げ、魔法少女が救われる未来への階段創り出す。
当たって欲しくなかった予感は現実と化し、気付けば拳を強く握り締めた。
リンボの手で思考を弄られた可能性があるにしろ、灯花が多くの間違いを犯したのも事実。
起きてしまった過去は変えられないと分かっているも、責める矛先は止められなかったいろは自身に向かう。
「そう、か…………」
地の底から這い出るように低く、一言では到底言い表せぬ感情を籠めた呟き。
自分が思うのが何か、黒死牟自身にも分からない。
齎されたのは屠り合いでまた一つ、弟が悪鬼滅殺の刃に血を啜わせた罪。
人に仇為す魑魅魍魎に非ず、殺戮遊戯の主へ抗う正しき魂の持ち主が犠牲者。
空条承太郎を殺したのは、縁壱だという。
自分が思うのが何か、黒死牟自身にも分からない。
齎されたのは屠り合いでまた一つ、弟が悪鬼滅殺の刃に血を啜わせた罪。
人に仇為す魑魅魍魎に非ず、殺戮遊戯の主へ抗う正しき魂の持ち主が犠牲者。
空条承太郎を殺したのは、縁壱だという。
仲間意識を抱いたつもりはなく、死を嘆く関係を築いてもいない。
自身の過去を知らぬとはいえ、矛を納めた病院地下でのやり取りに不可解さと煩わしさを覚えた程度。
ただあの男は、多くを語らずとも死した戦友の意思を背負って神へ挑む戦士だと。
本来は縁壱が守り、志を共にする善の側に立つ人間なのは疑いようもない。
しかし現実はどうだ、猿渡一海に託された想いを果たせず承太郎は死んだ。
人も化生も見境なしに斬る、虐殺者へと腐り落ちた弟に斬られた。
そんな馬鹿なと頭を振る段階はとうに失せ、事実を事実として受け入れる。
取り乱しはしない、ただ縁壱の罪を知る度に見えぬ傷が刻まれる耐え難き苦痛だけは。
どうあっても、慣れそうにはなかった。
自身の過去を知らぬとはいえ、矛を納めた病院地下でのやり取りに不可解さと煩わしさを覚えた程度。
ただあの男は、多くを語らずとも死した戦友の意思を背負って神へ挑む戦士だと。
本来は縁壱が守り、志を共にする善の側に立つ人間なのは疑いようもない。
しかし現実はどうだ、猿渡一海に託された想いを果たせず承太郎は死んだ。
人も化生も見境なしに斬る、虐殺者へと腐り落ちた弟に斬られた。
そんな馬鹿なと頭を振る段階はとうに失せ、事実を事実として受け入れる。
取り乱しはしない、ただ縁壱の罪を知る度に見えぬ傷が刻まれる耐え難き苦痛だけは。
どうあっても、慣れそうにはなかった。
抱く感情のベクトルに違いはあれど、笑顔になれる類とは程遠い。
知らないままが良かったと言う気はないが、必然的に室内の空気は重苦しいものへ。
流れを少しでも変えるべく、万丈が振ったのは数少ない朗報。
知らないままが良かったと言う気はないが、必然的に室内の空気は重苦しいものへ。
流れを少しでも変えるべく、万丈が振ったのは数少ない朗報。
「でもよ、もう一人のねむって奴は仲間って言って良いんだよな?」
「あ、うん。鋼牙さんのこと信頼してるみたいだったし、わたしも大丈夫だと思う」
「ねむちゃん……そうなんだ……」
「あ、うん。鋼牙さんのこと信頼してるみたいだったし、わたしも大丈夫だと思う」
「ねむちゃん……そうなんだ……」
参加しているマギウスの片割れ、ねむも灯花と同じ道に進んでいたらと不安はあった。
実際途中まではその方針だったらしく、直接手に掛けていないが御伽龍児の死に無関係とは言えない。
だがイリヤの話によると、エーデルフェルト邸での一件を経てねむなりに変わろうとしている。
考えを改めるよう灯花を説得し、戦闘時には遊戯達を守ろうと奮戦したのは記憶に新しい。
安堵と共に、ねむを守って受け入れてくれた鋼牙達への感謝が湧き上がる。
イリヤ以外の現在位置が不明、その一点は頭を悩ませるが。
実際途中まではその方針だったらしく、直接手に掛けていないが御伽龍児の死に無関係とは言えない。
だがイリヤの話によると、エーデルフェルト邸での一件を経てねむなりに変わろうとしている。
考えを改めるよう灯花を説得し、戦闘時には遊戯達を守ろうと奮戦したのは記憶に新しい。
安堵と共に、ねむを守って受け入れてくれた鋼牙達への感謝が湧き上がる。
イリヤ以外の現在位置が不明、その一点は頭を悩ませるが。
ねむだけでなく、レイ達の動向も知る事が出来た。
まさかあの後、士と共に街へ戻っていたのは予想外。
天津とも合流し、別ルートから仲間を捜索中とのこと。
トラブルに見舞われず、ココア達と再会出来ればと思わずにはいられない。
まさかあの後、士と共に街へ戻っていたのは予想外。
天津とも合流し、別ルートから仲間を捜索中とのこと。
トラブルに見舞われず、ココア達と再会出来ればと思わずにはいられない。
衝撃的な内容を提供したイリヤ達と反対に、いろは達が話せる情報は多くない。
キャルの暴走に端を発する戦闘の詳細は、既に士達から説明済。
言えるものといえば黒死牟が接触した、死体を集めて回るNPCの存在。
もう一つ、紅渡の首輪と支給品を手に入れた事くらいか。
キャルの暴走に端を発する戦闘の詳細は、既に士達から説明済。
言えるものといえば黒死牟が接触した、死体を集めて回るNPCの存在。
もう一つ、紅渡の首輪と支給品を手に入れた事くらいか。
首輪を手に入れる為に死体損壊を行わねばならない点について、黒死牟以外は当然ながら抵抗が皆無ではない。
しかし解析用のサンプルや、危険なプレイヤーの戦力増強を防ぐといった目的も理解出来ない面々じゃなかった。
少々複雑さはあれど、あえて突っ掛かる真似はせずに話を進める。
一応良い面で考えるなら件のNPCがいれば、リンボのように死体を利用する参加者の手数を減らせる点だろう。
しかし解析用のサンプルや、危険なプレイヤーの戦力増強を防ぐといった目的も理解出来ない面々じゃなかった。
少々複雑さはあれど、あえて突っ掛かる真似はせずに話を進める。
一応良い面で考えるなら件のNPCがいれば、リンボのように死体を利用する参加者の手数を減らせる点だろう。
これで全員、桜ノ館中学校での戦闘に至るまでの情報は共有。
話は既存の内容からピックアップ、殺し合いに乗ったプレイヤーの中でも特に危険視せねばならない者。
矛先はやはりと言うべきか、ほんの数十分前に自分達を圧倒した星狩り。
話は既存の内容からピックアップ、殺し合いに乗ったプレイヤーの中でも特に危険視せねばならない者。
矛先はやはりと言うべきか、ほんの数十分前に自分達を圧倒した星狩り。
『改めて言う事でもないですが、エボルトさんは我々の敵に回ったと見るしかありませんねー』
「あの野郎……戦兎が死んですぐやりたい放題しやがって……!」
「あの野郎……戦兎が死んですぐやりたい放題しやがって……!」
心底憎たらし気に万丈が拳を打ち付け、宿敵への怒りが再熱。
一応ゲームに否定的なスタンスだったのは、最早過去。
エボルトは明確に自分達の敵となり、今後も脅威として立ち塞がるのが確実。
4人全員がその強さを存分に味合わされ、否が応でも身が引き締まる。
一応ゲームに否定的なスタンスだったのは、最早過去。
エボルトは明確に自分達の敵となり、今後も脅威として立ち塞がるのが確実。
4人全員がその強さを存分に味合わされ、否が応でも身が引き締まる。
「最初に会った時も強かったけど、でも……」
「うん……魔力、とは少し違うけどあんな力が……」
「うん……魔力、とは少し違うけどあんな力が……」
クラスカード回収やエインズワースとの攻防。
神浜市での魔女やウワサとの戦い。
加えて、殺し合いでぶつかって来たプレイヤー達。
イリヤもいろはも今日初めて戦闘に身を投じた訳でなく、強敵と呼べる存在にも覚えがある。
しかしエボルトは正に別格、文字通り手も足も出ず劣勢を強いられた。
反撃に打って出て押し切る筈が、相手は更なる力を引き出し逆転劇をリセットしたのだ。
薄れた傷の痛みがぶり返し、堪らず負傷箇所を擦る。
神浜市での魔女やウワサとの戦い。
加えて、殺し合いでぶつかって来たプレイヤー達。
イリヤもいろはも今日初めて戦闘に身を投じた訳でなく、強敵と呼べる存在にも覚えがある。
しかしエボルトは正に別格、文字通り手も足も出ず劣勢を強いられた。
反撃に打って出て押し切る筈が、相手は更なる力を引き出し逆転劇をリセットしたのだ。
薄れた傷の痛みがぶり返し、堪らず負傷箇所を擦る。
もっと悪い話として、エボルトがエーデルフェルト邸で手に入れた黒い板も非常に厄介。
ラストパンドラパネル・ブラック。
真の力を取り戻した星狩りが、更なる進化を遂げる為のキーアイテム。
基本的に考え事が苦手な万丈でも、宿敵の脅威までうろ覚えになりはしない。
そんな物まで殺し合いに組み込んだゲームマスターへ、自分を棚に上げ馬鹿と吐き捨てるのもそこそこに。
語彙力が大いに不足すれど、知る限りのエボルトの脅威を教える。
ラストパンドラパネル・ブラック。
真の力を取り戻した星狩りが、更なる進化を遂げる為のキーアイテム。
基本的に考え事が苦手な万丈でも、宿敵の脅威までうろ覚えになりはしない。
そんな物まで殺し合いに組み込んだゲームマスターへ、自分を棚に上げ馬鹿と吐き捨てるのもそこそこに。
語彙力が大いに不足すれど、知る限りのエボルトの脅威を教える。
「月を吸収って……」
『地球を滅ぼす生命体とは本人の言ですので納得はいきますが、加減ってものを知らないんじゃないですかね……』
『地球を滅ぼす生命体とは本人の言ですので納得はいきますが、加減ってものを知らないんじゃないですかね……』
旧世界消滅の危機を阻止すべく、死闘を繰り広げた本人の証言だ。
「マジヤベェ」だの「マジつえー」だの、小学生並の表現が多大に含まれたがさておき。
ラストパンドラパネルを完成させたエボルトが、如何に危険かは十分伝わった
「マジヤベェ」だの「マジつえー」だの、小学生並の表現が多大に含まれたがさておき。
ラストパンドラパネルを完成させたエボルトが、如何に危険かは十分伝わった
「やっぱりあの黒い板を拾わせたのが……」
『状況が状況なだけに、仕方ないと思いますよ?チノさん共々危なかったですし』
『状況が状況なだけに、仕方ないと思いますよ?チノさん共々危なかったですし』
復讐に燃える魔女の襲来時、介入したエボルトが己が身へ取り込んだ支給品。
アレが具体的に何かは知らなかったが、所有者を強化する類とは分かった。
せめてラストパンドラパネルをこっちで拾っていれば、何より自分が勝っていたらエボルトの力も幾分削げただろうに。
ルビーが言うように余裕がない状況であったけど、自身の敗北が司の死にも繋がった為にアッサリと割り切れない。
アレが具体的に何かは知らなかったが、所有者を強化する類とは分かった。
せめてラストパンドラパネルをこっちで拾っていれば、何より自分が勝っていたらエボルトの力も幾分削げただろうに。
ルビーが言うように余裕がない状況であったけど、自身の敗北が司の死にも繋がった為にアッサリと割り切れない。
「けど、その黒い板はまだ未完成なんですよね?」
『それにもし完成させたしても、龍我さんが言う程の強さは出せないんじゃないかと。自称神がその辺きちっと考えてれば、ですが』
『それにもし完成させたしても、龍我さんが言う程の強さは出せないんじゃないかと。自称神がその辺きちっと考えてれば、ですが』
救いと言って良いかは不明だが、完成に必要なロストボトルは3本不足。
それに旧世界の時と同じ強さをエボルトが得れば、ワンサイドゲーム以前に殺し合いそのものが崩壊しかねない。
会場丸ごと吸い込める規模のブラックホールを生成、それだけで全てに決着が付く展開を運営側が受け入れるだろうか。
ポッピーが言うようにゲームクリエイターの矜持を黎斗が持ち合わせるなら、まず間違いなく避けたがるだろう。
であれば何もかもが旧世界と同じ、とは限らない。
それに旧世界の時と同じ強さをエボルトが得れば、ワンサイドゲーム以前に殺し合いそのものが崩壊しかねない。
会場丸ごと吸い込める規模のブラックホールを生成、それだけで全てに決着が付く展開を運営側が受け入れるだろうか。
ポッピーが言うようにゲームクリエイターの矜持を黎斗が持ち合わせるなら、まず間違いなく避けたがるだろう。
であれば何もかもが旧世界と同じ、とは限らない。
「でも龍我さん達って前に勝ってるんじゃなかった?」
『ということはもしかして、弱点とかも知ってたりします?』
『ということはもしかして、弱点とかも知ってたりします?』
戦兎を始め、地球の仮面ライダー達に敗北を喫した。
とはエボルト本人が口にしており、必ずしも倒せない存在ではない。
期待を籠めて万丈を見やれば、付け入る隙はあると頷く。
仮面ライダーエボルがフェーズ4に至る為に、必須となる鍵。
エボルトリガーこそ、唯一と言って良い弱点。
とはエボルト本人が口にしており、必ずしも倒せない存在ではない。
期待を籠めて万丈を見やれば、付け入る隙はあると頷く。
仮面ライダーエボルがフェーズ4に至る為に、必須となる鍵。
エボルトリガーこそ、唯一と言って良い弱点。
「戦兎の親父さんが言ってたけどよ、アレを攻撃されるとエボルトはまともに動けなくなる」
葛城忍の真意を知る前の一戦と、パンドラタワー頂上で幻徳が決死の反撃に出た時。
計二回、エボルトリガーへのダメージで動きを封じられた。
特に後者は幻徳が命懸けで隙を作ったからこそ、新世界創造という勝利へ漕ぎ付けられたのだ。
絶対的存在と思えた強敵の対策に、一筋の光明が差すも、
計二回、エボルトリガーへのダメージで動きを封じられた。
特に後者は幻徳が命懸けで隙を作ったからこそ、新世界創造という勝利へ漕ぎ付けられたのだ。
絶対的存在と思えた強敵の対策に、一筋の光明が差すも、
「奴が大人しく……三度目の隙を見せるとは思えんがな……」
「そりゃ、まあそうだけどよぉ……」
「そりゃ、まあそうだけどよぉ……」
口を挟まずにいた黒死牟の、淡々と紡がれる正論で冷水を浴びせられた。
実際言ってる事は間違っておらず、旧世界での敗因を警戒するのは当然である。
殺し合いでの首輪と同じで、エボルトリガーはエボルトにとっての急所だ。
手を出されないよう最大限に気を張るのは、何も不自然じゃあない。
感情を得て以降は計画に遊びを入れる傾向が見られたものの、毎度毎度相手の油断に期待しては自分達の方が痛い目を見る。
立ち行かない現状に悩みは尽きないが、倒せる可能性が見出せただけでも遥かにマシだろう。
実際言ってる事は間違っておらず、旧世界での敗因を警戒するのは当然である。
殺し合いでの首輪と同じで、エボルトリガーはエボルトにとっての急所だ。
手を出されないよう最大限に気を張るのは、何も不自然じゃあない。
感情を得て以降は計画に遊びを入れる傾向が見られたものの、毎度毎度相手の油断に期待しては自分達の方が痛い目を見る。
立ち行かない現状に悩みは尽きないが、倒せる可能性が見出せただけでも遥かにマシだろう。
『話は変わりますが、美遊さんに関して一つ気になる事があります』
エボルトへの対策から美遊の件に移り、イリヤも自然と姿勢を正す。
人質として囚われた親友は今や、悪趣味なハンティングゲームの標的。
一方的に狩られる兎じゃないとは知ってるけど、プレイヤー達も油断ならない強者ばかり。
親友への不安が尽きない中で、ルビーの話にしかと耳を傾ける。
人質として囚われた親友は今や、悪趣味なハンティングゲームの標的。
一方的に狩られる兎じゃないとは知ってるけど、プレイヤー達も油断ならない強者ばかり。
親友への不安が尽きない中で、ルビーの話にしかと耳を傾ける。
『檀黎斗曰く、美遊さんはジョーカーなる存在へ変えられたとのことでした。残念ながらソレが具体的にどういったものかはルビーちゃんも知りませんが……一人、情報を持つ可能性の高い人がいます』
「それって……あ!もしかして橘さん!?」
「それって……あ!もしかして橘さん!?」
桜ノ館中学校で情報開示の場を設けた際、橘の口からアンデットに付いて軽い説明があった。
BORADのライダー達による戦いの記録を、事細かに伝えては長くなるのであくまで基本的な部分のみだが。
ラウズカードなる物を用いて、不死の生物を封印したと確かに言っていた。
慌ててデイパックを漁り、放送後に転送されたカードを取り出す。
ジョーカーである美遊は不死の存在故、これを使って封じるのが争奪戦のクリア条件。
定時放送を聞いた時は怒りと焦燥で思い出す余裕もなかったが、橘が言っていたカードと同じであるならば。
BORADのライダー達による戦いの記録を、事細かに伝えては長くなるのであくまで基本的な部分のみだが。
ラウズカードなる物を用いて、不死の生物を封印したと確かに言っていた。
慌ててデイパックを漁り、放送後に転送されたカードを取り出す。
ジョーカーである美遊は不死の存在故、これを使って封じるのが争奪戦のクリア条件。
定時放送を聞いた時は怒りと焦燥で思い出す余裕もなかったが、橘が言っていたカードと同じであるならば。
『美遊さんが現在どういった状態なのか、元の体に戻せるのかどうか等々。詳しく聞けるかもしれません』
「橘さんはわたし達が出て行った後、チノちゃんっていう子を追い掛けたんですよね?」
「うん。だけどさっきの放送で……」
「橘さんはわたし達が出て行った後、チノちゃんっていう子を追い掛けたんですよね?」
「うん。だけどさっきの放送で……」
エーデルフェルト邸で別行動を取った三人の内、ロゼは力尽きたらしい。
零に続きまたしても仲間を喪い、しかも蘇生の恩恵に与った友人は殺戮者に変貌。
チノが受けるだろう精神的な傷は計り知れず、おまけに並行世界とはいえココアも殺された。
せめてリゼの意思を継いだ橘との合流が叶っていればと、願わずにいられない。
零に続きまたしても仲間を喪い、しかも蘇生の恩恵に与った友人は殺戮者に変貌。
チノが受けるだろう精神的な傷は計り知れず、おまけに並行世界とはいえココアも殺された。
せめてリゼの意思を継いだ橘との合流が叶っていればと、願わずにいられない。
『いやはやしかし、捜索対象は多いのに居場所の手掛かりが少な過ぎますねー』
「場所がはっきり分かってるのは、蛇王院さん達くらいかな……?」
「場所がはっきり分かってるのは、蛇王院さん達くらいかな……?」
遊星と結芽の生存は放送で確認し、蛇王院も無事。
ポセイドン相手に生き延びた海馬と明石も、脱落を免れた。
デッキ返却に向かったベクターを含め、一同はC-4エリアで合流を果たせた可能性が高い。
ひょっとすると遊戯も、一先ずの目的地でそこへ向かったと考えられる。
事ある毎に仲間と引き離されがちなデスゲームで、集団を形成している貴重な面々だ。
美遊達の捜索と並行し、一度彼らと合流するのも手か。
ポセイドン相手に生き延びた海馬と明石も、脱落を免れた。
デッキ返却に向かったベクターを含め、一同はC-4エリアで合流を果たせた可能性が高い。
ひょっとすると遊戯も、一先ずの目的地でそこへ向かったと考えられる。
事ある毎に仲間と引き離されがちなデスゲームで、集団を形成している貴重な面々だ。
美遊達の捜索と並行し、一度彼らと合流するのも手か。
一通りの話が終わり、それぞれ一旦肩の力を抜く。
研究所前やエーデルフェルト邸での、戦闘の消耗が抜け切らない内に。
定時放送が終わって間もない頃、桜ノ館中学校での騒乱だ。
出発を急ぎたい内心と裏腹に、疲労は未だ纏わり付く。
もう暫く休むべきか、そう考える人間達を尻目に立ち上がる者もいた。
研究所前やエーデルフェルト邸での、戦闘の消耗が抜け切らない内に。
定時放送が終わって間もない頃、桜ノ館中学校での騒乱だ。
出発を急ぎたい内心と裏腹に、疲労は未だ纏わり付く。
もう暫く休むべきか、そう考える人間達を尻目に立ち上がる者もいた。
「黒死牟さん?」
長髪を揺らす背に向けて、名を呼ぶも振り向かない。
ただ沈黙を貫き去る気はないらしく、こちらを見ないままボソリと告げる。
ただ沈黙を貫き去る気はないらしく、こちらを見ないままボソリと告げる。
「確かめるものができた……私だけで行く……」
「えっ、でも……」
「えっ、でも……」
唐突に自分一人で出掛けると言われ、困惑が生じる。
行くと言ってもどこに向かう気なのか、自分達が一緒では駄目なのか。
困り顔で口を開こうとするも、疑問を持つのはいろはだけじゃあない。
行くと言ってもどこに向かう気なのか、自分達が一緒では駄目なのか。
困り顔で口を開こうとするも、疑問を持つのはいろはだけじゃあない。
『一匹狼キャラを気取るのは勝手ですが、説明不足じゃ誰も納得しませんよ。そんなんじゃあヒモ卒業は一生無理です!と、ウチのイリヤさんが仰っています』
「言ってないから!?なに冤罪おっ被せてるの!?あ、で、でも、ちゃんと行先は教えて欲しいかな……」
「鈍らねぇようにスパークリングでもすんのか?ったく、しゃあねぇな。このプロテインの貴公子が揉んでやっか!」
「た、多分それは違うと思いますよ……?」
「言ってないから!?なに冤罪おっ被せてるの!?あ、で、でも、ちゃんと行先は教えて欲しいかな……」
「鈍らねぇようにスパークリングでもすんのか?ったく、しゃあねぇな。このプロテインの貴公子が揉んでやっか!」
「た、多分それは違うと思いますよ……?」
一人が言えば自分も自分もと続き、やいのやいのと喧しい。
途端に賑やかとなる一室へ、黒死牟も辟易と顔を顰める。
無視して出て言っても良いが、そうなった際に後々余計面倒になると。
そう察せるくらいには、馴れ馴れしく接する人間がここには多い。
億劫さを隠さずに振り返り、何をする気か伝える。
途端に賑やかとなる一室へ、黒死牟も辟易と顔を顰める。
無視して出て言っても良いが、そうなった際に後々余計面倒になると。
そう察せるくらいには、馴れ馴れしく接する人間がここには多い。
億劫さを隠さずに振り返り、何をする気か伝える。
「枷が外れたこの身へ……尚も下らぬ干渉が起こるか否か……確かめる機会と見ただけだ……」
「それって、首輪が外れたけど本当に大丈夫か確かめたいってことですか?」
「隣接する場所は……丁度禁止区域らしい……ならば……足を踏み入れるのが手っ取り早い……」
「それって、首輪が外れたけど本当に大丈夫か確かめたいってことですか?」
「隣接する場所は……丁度禁止区域らしい……ならば……足を踏み入れるのが手っ取り早い……」
エボルトとの死闘で一度は消滅の危機に瀕したが、陽光の克服に成功。
肉体が崩壊し支えを失い、意図せず首輪も外れた。
鬼としての枷と、屠り合いの参加者としての枷。
両方から解き放たれたが故に、念押しで確かめておきたい。
首輪を外す参加者が現れ、運営側による何らかの妨害などが起こらないのか。
偶然にも隣のエリアは禁止区域に指定されており、黒死牟には好都合。
限られた者以外立ち入れなくなった場所に、足を踏み入れれば不調が発生しないかどうか分かる。
肉体が崩壊し支えを失い、意図せず首輪も外れた。
鬼としての枷と、屠り合いの参加者としての枷。
両方から解き放たれたが故に、念押しで確かめておきたい。
首輪を外す参加者が現れ、運営側による何らかの妨害などが起こらないのか。
偶然にも隣のエリアは禁止区域に指定されており、黒死牟には好都合。
限られた者以外立ち入れなくなった場所に、足を踏み入れれば不調が発生しないかどうか分かる。
「私以外は入れぬ以上……同行する意味もないだろう……」
「スパークリングじゃないなら、それを先に言えって。紛らわしいなお前」
「むしろ何で龍我さんはその発想になるの……?」
「スパークリングじゃないなら、それを先に言えって。紛らわしいなお前」
「むしろ何で龍我さんはその発想になるの……?」
肩透かしを食らったように座り込む万丈に構わず、今度こそ背を向けようとし。
自分を見上げる少女と視線が合う。
黒死牟の強さは傍らにいただけあって、疑う気はない。
鬼を滅ぼす太陽も今や、暖かく照らすに過ぎない。
彼なら大丈夫と信じたい一方で、万が一が起きてしまったら。
浮かんだ嫌な想像図が、いろはに不安を抱かせる。
自分を見上げる少女と視線が合う。
黒死牟の強さは傍らにいただけあって、疑う気はない。
鬼を滅ぼす太陽も今や、暖かく照らすに過ぎない。
彼なら大丈夫と信じたい一方で、万が一が起きてしまったら。
浮かんだ嫌な想像図が、いろはに不安を抱かせる。
「……」
それに気付き、だからといって律儀に何ぞ言葉を残す意味はない。
自身へ向かう全てを黙殺し、さっさと出て行けばいい。
足を取られる筈がなく、不要の二文字を当て嵌め切り捨てる以外にどうしろという。
自身へ向かう全てを黙殺し、さっさと出て行けばいい。
足を取られる筈がなく、不要の二文字を当て嵌め切り捨てる以外にどうしろという。
「戻るつもりがないと……言った覚えもない……」
だからこうして、呻くように小さく零した己が。
まっこと理解を遠ざけ、自身への不可解さばかりが塵の山の如く積もり。
釈然としなさで湧き上がる苛立ちに、顔を顰める。
地に還る亡者の如し、微かな声量であったが腹立たしい事に。
いろはは一字一句聞き取り、両目を見開くのも一瞬。
まっこと理解を遠ざけ、自身への不可解さばかりが塵の山の如く積もり。
釈然としなさで湧き上がる苛立ちに、顔を顰める。
地に還る亡者の如し、微かな声量であったが腹立たしい事に。
いろはは一字一句聞き取り、両目を見開くのも一瞬。
「あの!気を付けてください。ここで待ってます、から」
「…………」
「…………」
嬉しそうに綻ばせた顔で、送り出す言葉を紡がれる。
沈黙を挟んだ後、何も言わずに屋敷を後にした。
姿が見えなくなるまで、己の背に掛かる視線が誰のものかなど。
振り返らずとも分かり、今更深く考えもしなかった。
沈黙を挟んだ後、何も言わずに屋敷を後にした。
姿が見えなくなるまで、己の背に掛かる視線が誰のものかなど。
振り返らずとも分かり、今更深く考えもしなかった。
◆◆◆
会場北部は雪原地帯だけあって、他のエリアに比べ気温も低い。
時折吹く風には白い粉が混じり、肌を撫でる度に体温を奪い去っていく。
適度に積もっているも、移動を極端に制限する程に非ず。
そんな雪道を黒死牟は一人進む。
歩けども歩けども、自分以外の参加者に遭遇しないのは当然の話。
この場所はA-2、既に禁止区域として機能するエリアだ。
時折吹く風には白い粉が混じり、肌を撫でる度に体温を奪い去っていく。
適度に積もっているも、移動を極端に制限する程に非ず。
そんな雪道を黒死牟は一人進む。
歩けども歩けども、自分以外の参加者に遭遇しないのは当然の話。
この場所はA-2、既に禁止区域として機能するエリアだ。
辿り着いて早十数分、異変らしい異変は一向に起きない。
肉体に不調が現れる気配が無ければ、喧しい狂人の言葉も聞こえなかった。
肉体に不調が現れる気配が無ければ、喧しい狂人の言葉も聞こえなかった。
(変わりがないのは……こちらもか……)
自分の掌に視線を落とし、声に出さず独り言ちる。
次いで六眼が向かうのは腰に下げた、二振りの得物。
内の片方、己が体内より生成した妖刀。
柄と鍔は当然、鞘に納めた刀身も強度を保ったまま。
半ば程まで抜いてみても結果は同じ、仮に戦闘が起きれば即座に獲物を喰らうだろう。
次いで六眼が向かうのは腰に下げた、二振りの得物。
内の片方、己が体内より生成した妖刀。
柄と鍔は当然、鞘に納めた刀身も強度を保ったまま。
半ば程まで抜いてみても結果は同じ、仮に戦闘が起きれば即座に獲物を喰らうだろう。
冷たい大地と正反対に、頭上から降り注ぐのは暖かき陽光。
一日の始まりを告げる福音であり、生きとし生ける生命への祝福。
貧富の差に関係無く、生物が誰しも享受する幸福が太陽の恵み。
されどそこへ唯一含まれぬ異形こそ、鬼である。
人を捨て、悲しみを生み出す悪鬼へ堕ちた罪に裁きを下すかの如く。
陽の光は鬼を焼き、灰も残さず地獄へ還す。
人々が活力を抱いて日々を送る時、鬼は陰に身を潜め縮こまる以外に何も出来ない。
一日の始まりを告げる福音であり、生きとし生ける生命への祝福。
貧富の差に関係無く、生物が誰しも享受する幸福が太陽の恵み。
されどそこへ唯一含まれぬ異形こそ、鬼である。
人を捨て、悲しみを生み出す悪鬼へ堕ちた罪に裁きを下すかの如く。
陽の光は鬼を焼き、灰も残さず地獄へ還す。
人々が活力を抱いて日々を送る時、鬼は陰に身を潜め縮こまる以外に何も出来ない。
始祖は、それが我慢ならなかった。
完璧と豪語する肉体を持つ己が何故、太陽に怯えねばならない。
消滅と隣り合わせの生で妥協するなど、真っ平御免。
千年という年月を掛けて悲願を達成せんとし、その果てに人間の手で討たれた。
皮肉な事に、自分の死後に陽光を克服する鬼が現れるとは。
鬼舞辻無惨も、考え付かなかったろう。
完璧と豪語する肉体を持つ己が何故、太陽に怯えねばならない。
消滅と隣り合わせの生で妥協するなど、真っ平御免。
千年という年月を掛けて悲願を達成せんとし、その果てに人間の手で討たれた。
皮肉な事に、自分の死後に陽光を克服する鬼が現れるとは。
鬼舞辻無惨も、考え付かなかったろう。
黒死牟とて、よもや己が太陽で死なぬ体になるとは思わなかった。
星狩り相手に斬り結んだ時は、思考を一々回す余裕が皆無。
しかし一時の休息が訪れ、剣を抜く機会は先延ばしとなるこの瞬間。
改めて、天に居座る日輪を拝める現実へ向き合う。
星狩り相手に斬り結んだ時は、思考を一々回す余裕が皆無。
しかし一時の休息が訪れ、剣を抜く機会は先延ばしとなるこの瞬間。
改めて、天に居座る日輪を拝める現実へ向き合う。
夜にしか生きられない体になると理解し、尚も始祖に首を垂れる道を選んだ。
人が人として受け取る幸福、それが一体何の役に立つ。
陽光を浴びれば、この身に強さが宿るのか。
未来永劫衰えぬ心技を我が物とし、何者にも負けぬ絶対的存在へなれるのか。
人間であるが故の誇りなど、糞の役にも立たない。
人道を説いた所で無意味、力を齎した始祖の方が救世主も同然。
人が人として受け取る幸福、それが一体何の役に立つ。
陽光を浴びれば、この身に強さが宿るのか。
未来永劫衰えぬ心技を我が物とし、何者にも負けぬ絶対的存在へなれるのか。
人間であるが故の誇りなど、糞の役にも立たない。
人道を説いた所で無意味、力を齎した始祖の方が救世主も同然。
そうして何の迷いも抱かず捨て去った過去が、今になって追い付いた。
「鬱陶しいな……」
素知らぬ顔で地上を照らす輝きに、六眼を細め呟く。
姿を捉えるのは簡単で、手が届きそうな程近くへ見えるのに。
何度伸ばしても、指先すら触れる事叶わず。
無謀にも近付けば、愚かしさを突き付けるように焼き滅ぼす。
祝福の輝きなどとんでもない、寄れば燃やす業火に等しい。
姿を捉えるのは簡単で、手が届きそうな程近くへ見えるのに。
何度伸ばしても、指先すら触れる事叶わず。
無謀にも近付けば、愚かしさを突き付けるように焼き滅ぼす。
祝福の輝きなどとんでもない、寄れば燃やす業火に等しい。
「……」
なのに、目障りと吐き捨てても。
言葉へ出したのが全ての筈が、目を逸らす気になれない。
感激に打ち震える心など、残ってはいないだろうに。
継国巌勝が不要と捨てた光景を、黒死牟が見ていることが。
無価値と断じた人間の在り方が、自分の元へ戻って来たことが。
始祖の呪いを踏み砕いてでも生きる選択を、他ならぬ黒死牟自身が掴み取った結果だ。
言葉へ出したのが全ての筈が、目を逸らす気になれない。
感激に打ち震える心など、残ってはいないだろうに。
継国巌勝が不要と捨てた光景を、黒死牟が見ていることが。
無価値と断じた人間の在り方が、自分の元へ戻って来たことが。
始祖の呪いを踏み砕いてでも生きる選択を、他ならぬ黒死牟自身が掴み取った結果だ。
終わってたまるかと、終焉に否定を叩き付けたのを悔やむ気はない。
ただ幕切れを覆した事実を、今一度噛み締める。
ただ幕切れを覆した事実を、今一度噛み締める。
(縁壱……お前の目には……)
どう映るのだろうか。
正しき道に背を向けて、人を喰らい夜の闇に生きる鬼が。
存在してはならない化け物が、我が物顔で日の下を歩く。
道理のまかり通らぬ光景に、思うべきものはないのか。
矛盾を極めた有様を前にしても、生ける全ての滅殺以外に意識を割けぬくらいに。
お前の目は、神に穢されているのか。
正しき道に背を向けて、人を喰らい夜の闇に生きる鬼が。
存在してはならない化け物が、我が物顔で日の下を歩く。
道理のまかり通らぬ光景に、思うべきものはないのか。
矛盾を極めた有様を前にしても、生ける全ての滅殺以外に意識を割けぬくらいに。
お前の目は、神に穢されているのか。
黒く澱んだ日輪へ、幾度目かの魂に亀裂が入る苦痛を味わい。
ふと思考の片隅に芽吹く、小さな問いかけ。
ふと思考の片隅に芽吹く、小さな問いかけ。
もしもあの娘の命を、拾わなかったら。
あの娘から離れ、一人を選んでいたら。
伸ばされた手を振り解き、あの娘を拒絶していたならば。
あの娘から離れ、一人を選んでいたら。
伸ばされた手を振り解き、あの娘を拒絶していたならば。
環いろはと会わなかったら、自分は今ここにいるのだろうかと。
我が事ながら神経が粟立つ疑問を抱いたのを、自覚する寸前、
我が事ながら神経が粟立つ疑問を抱いたのを、自覚する寸前、
「……っ」
矮小とは正反対の気配が、肌を叩く感覚があった。
思考を沈ませる間も、襲撃の可能性に警戒しなかったつもりはない。
顔を上げ睨み付けるは真正面、感じ取った存在はそこにいる。
血の臭いに非ず、闘気でなければ殺気とも違う。
弟との再会を切っ掛けに得て、今や上級魔族にも引けを取らない程扱いに長ける力。
魔皇力の操作(コントロール)に付随する、魔力探知。
六眼が射抜く姿は未だ朧気ながら、捨て置けぬ存在感だ。
思考を沈ませる間も、襲撃の可能性に警戒しなかったつもりはない。
顔を上げ睨み付けるは真正面、感じ取った存在はそこにいる。
血の臭いに非ず、闘気でなければ殺気とも違う。
弟との再会を切っ掛けに得て、今や上級魔族にも引けを取らない程扱いに長ける力。
魔皇力の操作(コントロール)に付随する、魔力探知。
六眼が射抜く姿は未だ朧気ながら、捨て置けぬ存在感だ。
事が起きれば、秒と掛けずに得物は抜ける。
近付くと徐々に輪郭がハッキリし、ソレが何なのか分かった。
近付くと徐々に輪郭がハッキリし、ソレが何なのか分かった。
巨木、である。
この場を決して離れまいと、幾重にも根を張り鎮座。
幹は巨人の剛腕を重ねる太さ。
四方八方へ伸びた枝に無数の葉を生やし、陽光を遮る緑の天蓋の役目を担う。
この場を決して離れまいと、幾重にも根を張り鎮座。
幹は巨人の剛腕を重ねる太さ。
四方八方へ伸びた枝に無数の葉を生やし、陽光を遮る緑の天蓋の役目を担う。
神社境内に生え、しめ縄が巻かれていれば御神木と判断したろう。
生憎と周囲に鳥居は立っていないばかりか、小屋の一軒も見当たらない。
目の前の大木以外、雪に覆われたエリア。
参加者が滅多に来ないだろう最北端且つ、身を隠す建造物がないとくれば。
早々に禁止区域へ指定を受けるのも納得だが、余計に眼前の存在が異様に思える。
生憎と周囲に鳥居は立っていないばかりか、小屋の一軒も見当たらない。
目の前の大木以外、雪に覆われたエリア。
参加者が滅多に来ないだろう最北端且つ、身を隠す建造物がないとくれば。
早々に禁止区域へ指定を受けるのも納得だが、余計に眼前の存在が異様に思える。
天を突くように聳え立つソレへ、黒死牟が感じたのは神々しさではない。
恐らく大半の者が同じ感想を抱く筈だ。
歪、だと。
恐らく大半の者が同じ感想を抱く筈だ。
歪、だと。
巨木は二本、黒死牟の前に存在した。
偶然近くに生えただとか、然して珍しくもない光景とは全く異なる。
パーツの違う人形を組み合わせるように、異性同士の肉体が混ざり合うように。
鵺と呼ばれる、複数の獣の特徴を持つ妖のように。
無理やり一つにさせられたとしか思えぬ姿で、そこにあった。
二本目だろう大木の枝には花はおろか、葉の一枚も付いていない。
童子を攫う化生の魔手の如き迫力を、小心者が見れば怯えを露わに逃げ去ること違い無し。
偶然近くに生えただとか、然して珍しくもない光景とは全く異なる。
パーツの違う人形を組み合わせるように、異性同士の肉体が混ざり合うように。
鵺と呼ばれる、複数の獣の特徴を持つ妖のように。
無理やり一つにさせられたとしか思えぬ姿で、そこにあった。
二本目だろう大木の枝には花はおろか、葉の一枚も付いていない。
童子を攫う化生の魔手の如き迫力を、小心者が見れば怯えを露わに逃げ去ること違い無し。
数歩近付くと、内包する魔力もまた奇妙だと気付く。
星狩りや辺獄を名に冠する陰陽師のように、個人の力が膨大なんじゃあない。
複数のナニカが押し込められ、単体が発する魔力と錯覚したらしい。
大木自身が意思を持って、こちらを襲う様子は見られない。
かといってゲームマスターが何の意味も無く、力の集合体と思わしきモノを置くのも不自然。
疑問が胸につっかえ、視線を動かすと一点で止まる。
星狩りや辺獄を名に冠する陰陽師のように、個人の力が膨大なんじゃあない。
複数のナニカが押し込められ、単体が発する魔力と錯覚したらしい。
大木自身が意思を持って、こちらを襲う様子は見られない。
かといってゲームマスターが何の意味も無く、力の集合体と思わしきモノを置くのも不自然。
疑問が胸につっかえ、視線を動かすと一点で止まる。
(果実か……?)
コケモモやアケビ等、人間が食っても問題無い木の実は多い。
山へ入った者が栄養補給や、脱水症状を防ぐ際に重宝する自然の恵み。
鬼と化し間もない頃は視界に入れるだけでも嘔吐がせり上がったが、知識として忘れてはいない。
では大木が実らせたのもその類かと言うと、肯首はしかねる。
記憶にあるどれとも一致しない、毒々しい紫の皮に覆われ中身は見えない。
風が吹く度、鈴のように揺れる一つをもぎ取り翳す。
山へ入った者が栄養補給や、脱水症状を防ぐ際に重宝する自然の恵み。
鬼と化し間もない頃は視界に入れるだけでも嘔吐がせり上がったが、知識として忘れてはいない。
では大木が実らせたのもその類かと言うと、肯首はしかねる。
記憶にあるどれとも一致しない、毒々しい紫の皮に覆われ中身は見えない。
風が吹く度、鈴のように揺れる一つをもぎ取り翳す。
黒死牟の内より湧き上がるのは、果実を食したいという欲求。
三大欲求に背を押され齧りつくのは簡単だが、極めて冷静な部分が安易な選択を取らせない。
そもそもの話、食欲が湧くこと自体が明らかな異常だ。
鬼は基本的に人間の肉しか食えず、それ以外の食事へ激しい拒絶感を抱く。
鼻孔を突く匂いはおろか、視界に入れるだけで嘔吐を誘発する程に肉体が受け付けない。
にも関わらず、果実へ魅せられるのに似た感覚を覚えている。
もとより鬼の食人衝動も抑え付けられる男だ、実を食えという訴えを黙殺し眺め続け、
三大欲求に背を押され齧りつくのは簡単だが、極めて冷静な部分が安易な選択を取らせない。
そもそもの話、食欲が湧くこと自体が明らかな異常だ。
鬼は基本的に人間の肉しか食えず、それ以外の食事へ激しい拒絶感を抱く。
鼻孔を突く匂いはおろか、視界に入れるだけで嘔吐を誘発する程に肉体が受け付けない。
にも関わらず、果実へ魅せられるのに似た感覚を覚えている。
もとより鬼の食人衝動も抑え付けられる男だ、実を食えという訴えを黙殺し眺め続け、
|警告、それを食べれば身の安全は一切保障できない|
発せられた自分ではない声と、予兆無しに現れた気配。
これ程に接近を許し、存在を一切感じ取れなかった何者か。
弾かれたように振り向き、六眼が射抜くのは記憶にない存在。
これ程に接近を許し、存在を一切感じ取れなかった何者か。
弾かれたように振り向き、六眼が射抜くのは記憶にない存在。
|……|
威圧感を籠めた鬼を前にし、無表情で佇む少女。
15を過ぎて数年といった所か、屠り合いで会った中ではレイやココアと近しいだろう齢。
薄手の白い服装越しに、女らしい膨らみが強調。
周囲を彩る雪化粧とは少し違う、薄桃混じりの白い髪。
頭頂部には動物の耳にも似た触覚が、クリオネのように揺れ動く。
15を過ぎて数年といった所か、屠り合いで会った中ではレイやココアと近しいだろう齢。
薄手の白い服装越しに、女らしい膨らみが強調。
周囲を彩る雪化粧とは少し違う、薄桃混じりの白い髪。
頭頂部には動物の耳にも似た触覚が、クリオネのように揺れ動く。
こちらを見つめる瞳に、感情らしい感情は窺えない。
強いて言うなら、観察されている。
役に立つかと値踏みするのとも、また別種の。
世の理を知らぬ幼子が、「これは何だろう」と不思議がってるのに近い。
強いて言うなら、観察されている。
役に立つかと値踏みするのとも、また別種の。
世の理を知らぬ幼子が、「これは何だろう」と不思議がってるのに近い。
名前を知らず、顔も今初めて知った少女に向け口を開く前に。
黒死牟の意識は、頭部と胴体を繋ぐ細い首へ向かう。
屠り合いの参加者を縛り付ける枷は、どこにも見当たらない。
己以外に首輪を外した者と、そう判断を下すには疑問が残る相手だ。
衣服で隠す白い肌、その更に下を透過し肉体構造を把握。
人に近しい見た目であれど、人とは異なる造りだった。
黒死牟の意識は、頭部と胴体を繋ぐ細い首へ向かう。
屠り合いの参加者を縛り付ける枷は、どこにも見当たらない。
己以外に首輪を外した者と、そう判断を下すには疑問が残る相手だ。
衣服で隠す白い肌、その更に下を透過し肉体構造を把握。
人に近しい見た目であれど、人とは異なる造りだった。
「お前は……」
何者なのかと、至極当然の疑問が口を突いて出るのを待たず。
フワッと生温い風を起こし、少女が距離を詰めて来た。
戦闘を仕掛けるつもりか、いいや敵意の類はまるで感じられない。
では何だと直接言葉で聞くより先に、顔を近付けられる。
スンスン、そう動物のように鼻を鳴らしにおいを嗅ぐ。
意図の読めない行動を訝しく思うのも束の間、向こうから話を切り出した。
フワッと生温い風を起こし、少女が距離を詰めて来た。
戦闘を仕掛けるつもりか、いいや敵意の類はまるで感じられない。
では何だと直接言葉で聞くより先に、顔を近付けられる。
スンスン、そう動物のように鼻を鳴らしにおいを嗅ぐ。
意図の読めない行動を訝しく思うのも束の間、向こうから話を切り出した。
|あなたからいろはの匂いがする。どうして?|
「…………」
こいつは一体何を言い出すのだろうか。
質問の意味が分からず、憮然とした表情で口を噤む。
それ以上の問い掛けが憚れる相手にも、少女はお構いなし。
間近で顔を覗き込み、パッチリ開いた瞳が返答を要求。
質問の意味が分からず、憮然とした表情で口を噤む。
それ以上の問い掛けが憚れる相手にも、少女はお構いなし。
間近で顔を覗き込み、パッチリ開いた瞳が返答を要求。
|その魔力、少しだけどいろはのものに間違いない。あなたはいろはと会ったの?|
「だとしたら……なんだという……。お前はあの娘の……既知の者か……?何故……ここにいる……?」
疑問を持つのは黒死牟とて同じだ。
名を出した以上、いろはの関係者だと明らかになっても。
何者なのかは不明であり、余計に分からなくなる。
外見の特徴を見るに柊ねむではなく、里見灯花とも当然別人。
深月フェリシアや梓みふゆは既に脱落、仮に運営側の手で蘇生されたなら放送でマヤ共々紹介を受けただろうに。
名を出した以上、いろはの関係者だと明らかになっても。
何者なのかは不明であり、余計に分からなくなる。
外見の特徴を見るに柊ねむではなく、里見灯花とも当然別人。
深月フェリシアや梓みふゆは既に脱落、仮に運営側の手で蘇生されたなら放送でマヤ共々紹介を受けただろうに。
|私は……ウワサ。ううん、それも正しく当て嵌まらない。ウワサとしての私はもう、あの子達と共に死んでいるから|
「……?」
質問へ答えているようで、微妙に答えにはなっていない。
ウワサ、うわさ、噂か。
詳しくは知らないが聞き覚えはある、いろはが元々戦っていた異形の存在。
少女の外見は人間に非常に近いが、それを言うなら鬼だって過去の姿を保つ個体は珍しくない。
加えて彼女自身が、自分で言った内容を否定し始めた。
ウワサ、うわさ、噂か。
詳しくは知らないが聞き覚えはある、いろはが元々戦っていた異形の存在。
少女の外見は人間に非常に近いが、それを言うなら鬼だって過去の姿を保つ個体は珍しくない。
加えて彼女自身が、自分で言った内容を否定し始めた。
|解答を模索中……結果抽出。死んだ私という存在をデータで再現し、別の私を似せた器(アバター)へインストールした。それがここにいる私|
「何を言っている……?」
|私を元々生んでくれたのはいろは達だけど、今の私の創造主は檀黎斗ということになる。……この結論は、頭にノイズが走る感覚を覚える。データ照合、不愉快に該当|
作り物染みた表情が僅かに歪み、どこか吐き捨てる口調になった。
大正の世で一度目の死を迎えた黒死牟には、聞き慣れない単語が幾つかあったものの。
弟を傀儡へ貶め、絶大な怒りの矛先である男の名で察しが付く。
大正の世で一度目の死を迎えた黒死牟には、聞き慣れない単語が幾つかあったものの。
弟を傀儡へ貶め、絶大な怒りの矛先である男の名で察しが付く。
「屠り合いの裁定者が遣わした……小間使いか……」
|その表現は正しくない。私はゲームマスターの気まぐれで、この場所に縫い付けられたに過ぎないもの|
会場に解き放たれたのは、何も正規のプレイヤーだけじゃない。
首輪がない理由も、参加者じゃないからで説明が付く。
宝生永夢や花家大我と元々仲間のポッピーのように、少女はいろはを前々から知るウワサということか。
首輪がない理由も、参加者じゃないからで説明が付く。
宝生永夢や花家大我と元々仲間のポッピーのように、少女はいろはを前々から知るウワサということか。
疑問が解消された所で、手に持ったままの果実を思い出す。
警告を発したのなら、具体的にどういったものかを知っているのか。
率直に尋ねると、コクリと小さく頷かれる。
警告を発したのなら、具体的にどういったものかを知っているのか。
率直に尋ねると、コクリと小さく頷かれる。
|データ照合、ヘルヘイムの森の実が該当。摂取した生物の遺伝子を組み替え、インベスに変える。地球上のあらゆる生物にとって劇薬。既存の生命体に当て嵌まらない者が摂取した場合は、その限りでもない|
これまた初めて聞く言葉がチラホラ。
「へるへいむ」「いんべす」、そのどちらも黒死牟は知らない。
ただ内容から察するに、生物を鬼に近しい化け物へ変える効果があるのだろう。
黒死牟は実の誘惑を自力で拒否したが、全ての参加者が同じとは限らない。
食欲を抑えられず無我夢中で齧りついた結果、本人の意思と無関係に人間をやめさせられた。
といった事態が起きないと、誰が断言出来よう。
「へるへいむ」「いんべす」、そのどちらも黒死牟は知らない。
ただ内容から察するに、生物を鬼に近しい化け物へ変える効果があるのだろう。
黒死牟は実の誘惑を自力で拒否したが、全ての参加者が同じとは限らない。
食欲を抑えられず無我夢中で齧りついた結果、本人の意思と無関係に人間をやめさせられた。
といった事態が起きないと、誰が断言出来よう。
「……」
藪をつついて蛇を出す必要はあるまい、警告に従うのが利口。
しかし果実の危険性を理解して尚、放り捨てずにじっと視線を落とす。
脳裏へ浮かべるは都市での騒乱を経た後、民家での一場面。
魔女の卵を取り込んだ己と、少女の説明。
しかし果実の危険性を理解して尚、放り捨てずにじっと視線を落とす。
脳裏へ浮かべるは都市での騒乱を経た後、民家での一場面。
魔女の卵を取り込んだ己と、少女の説明。
(試してみるか……)
魔皇力を即座に活性化可能に集中し、果実を握る手に力を籠めた。
潰れるより早く、掌から捕食。
経口摂取を必要としない、鬼が行う食事方法。
皮ごと体内に吸収された果実は、瞬く間に消化し溶けていく。
数秒、数十秒、丁度一分が経過。
身動ぎせずに不調の有無を確かめ、異変は一つも起きなかった。
潰れるより早く、掌から捕食。
経口摂取を必要としない、鬼が行う食事方法。
皮ごと体内に吸収された果実は、瞬く間に消化し溶けていく。
数秒、数十秒、丁度一分が経過。
身動ぎせずに不調の有無を確かめ、異変は一つも起きなかった。
少女の説明が間違いでないと、断言出来る参加者は二人。
駆紋戒斗とデェムシュ、ヘルヘイムの森に生える果実で力を得たオーバーロード達。
実の誘惑に負け口にした人間がインベスへ変わる事象は、沢芽市で複数確認された。
自我を保ちオーバーロードとなった個体以外、細胞変化に抗えず暴れ回るだけの獣と化す。
しかし黒死牟は始祖に最も近いとされる程、流れる鬼種の血が濃い元上弦の壱。
加えて上級ファンガイアにも引けを取らない、高純度の魔皇力を宿している。
キマイラと呼ばれるファントムが、ヘルヘイムの森の実を単なる餌で食らったのと同様に。
強靭な人外としての己を既に確立する為、果実が齎す変貌が発生しなかったのだ。
駆紋戒斗とデェムシュ、ヘルヘイムの森に生える果実で力を得たオーバーロード達。
実の誘惑に負け口にした人間がインベスへ変わる事象は、沢芽市で複数確認された。
自我を保ちオーバーロードとなった個体以外、細胞変化に抗えず暴れ回るだけの獣と化す。
しかし黒死牟は始祖に最も近いとされる程、流れる鬼種の血が濃い元上弦の壱。
加えて上級ファンガイアにも引けを取らない、高純度の魔皇力を宿している。
キマイラと呼ばれるファントムが、ヘルヘイムの森の実を単なる餌で食らったのと同様に。
強靭な人外としての己を既に確立する為、果実が齎す変貌が発生しなかったのだ。
(人間には毒であっても……この体には都合が良い……)
グリーフシードの捕食時と同じく、果実も黒死牟の糧となる。
星狩りに熱波を浴びた際の傷は再生を終えたが、疲労は蓄積された。
魔皇力の操作の集中による、体内を蝕むブラッド族の猛毒を除去。
済んだ傍から負傷箇所を修復し、鬼と言えども消耗は相応に発生。
時間経過で回復を待つ気だったが、思いがけず運を拾ったか。
星狩りに熱波を浴びた際の傷は再生を終えたが、疲労は蓄積された。
魔皇力の操作の集中による、体内を蝕むブラッド族の猛毒を除去。
済んだ傍から負傷箇所を修復し、鬼と言えども消耗は相応に発生。
時間経過で回復を待つ気だったが、思いがけず運を拾ったか。
人間にとっては自身の首を絞めかねない罠、一方で人ならざる参加者には栄養補給の場。
体力の充填を実感し、
体力の充填を実感し、
|……|
伸びた白い手に顔を掴まれた。
右手は頬に添えられ、左手は髪を掻き分け頭部に置く。
至近距離の顔は瞳が閉じられ、長いまつ毛が微かに震えていた。
こちらの様子を眺めるだけだった少女の、唐突過ぎる行動に数秒硬直。
何を考えてるのか分からないが、この体勢を永遠維持したいとも思わず。
まして少女へ、「好きにやれ」と言った覚えもない。
鬱陶しそうに払い除け相手を見やるも、向こうは悪びれた様子が無し。
右手は頬に添えられ、左手は髪を掻き分け頭部に置く。
至近距離の顔は瞳が閉じられ、長いまつ毛が微かに震えていた。
こちらの様子を眺めるだけだった少女の、唐突過ぎる行動に数秒硬直。
何を考えてるのか分からないが、この体勢を永遠維持したいとも思わず。
まして少女へ、「好きにやれ」と言った覚えもない。
鬱陶しそうに払い除け相手を見やるも、向こうは悪びれた様子が無し。
「何のつもりだ……」
|いろはのことを知りたいけど、言葉で聞くより記憶を覗いた方が手っ取り早い。だから、あなたの記憶を見た」
サラリと告げた内容は、黒死牟を顰め面へ変えるのに十分な効果があった。
視界の共有で、見聞きした全てが始祖に把握された事はあれど。
無惨以外の者に記憶を暴かれるなど、当たり前だが初。
まさか屠り合いよりも前、生き恥を晒し続けた果ての末路までもを見たのか。
惨めな最期と自身が最も理解しているが、かといって誰ぞ彼ぞにぶち撒ける気は毛頭なし。
視界の共有で、見聞きした全てが始祖に把握された事はあれど。
無惨以外の者に記憶を暴かれるなど、当たり前だが初。
まさか屠り合いよりも前、生き恥を晒し続けた果ての末路までもを見たのか。
惨めな最期と自身が最も理解しているが、かといって誰ぞ彼ぞにぶち撒ける気は毛頭なし。
|いろは、ずっと戦ってたんだ……|
勝手に脳内を覗かれ不快に思う鬼に構わず、少女の意識はここにいない者へ向かう。
悪意を持って無視したのでなく、黒死牟本人への関心が薄いのだろう。
苛立ちをぶつけたとて、霞のようにすり抜けるなら。
口に出しても無意味だと理解するのに、時間は掛からなかった。
悪意を持って無視したのでなく、黒死牟本人への関心が薄いのだろう。
苛立ちをぶつけたとて、霞のようにすり抜けるなら。
口に出しても無意味だと理解するのに、時間は掛からなかった。
眉尻を下げ、憂いを含んだ表情の裏で何を考えてるのか。
場所が変わろうと、自分を曲げずに戦う生き方への頼もしさ。
妹達への想いを失わず、変わらぬ愛への安堵。
度重なる戦闘で、彼女を傷付けた者達への憤怒。
肝心な時に傍にいれず、守る事も共に戦う事も出来ない歯痒さ。
重なり合ったそれらを一つ一つ言葉へ出さないが、次第に表情が曇り出す。
場所が変わろうと、自分を曲げずに戦う生き方への頼もしさ。
妹達への想いを失わず、変わらぬ愛への安堵。
度重なる戦闘で、彼女を傷付けた者達への憤怒。
肝心な時に傍にいれず、守る事も共に戦う事も出来ない歯痒さ。
重なり合ったそれらを一つ一つ言葉へ出さないが、次第に表情が曇り出す。
|灯花がいろはを大事に想うのは嬉しい。でも、いろははずっと悲しんでる……|
少女が思い出すのは、記憶を失いいろはと敵対していた頃の灯花。
後に病室での幸福な日々と、自分というウワサを生み出した瞬間を思い出したけど。
4人が再会する未来は消失し、終ぞ満開の桜を並んで見る機会は無かった。
妹達が生き返って、いろはともう一度会うだけなら良い。
しかし灯花はいろはの望まない行為に手を染め、ねむとも本気で殺し合ったという。
環姉妹と二人のマギウス、彼女達の守護こそが己の存在意義。
故に4人がバラバラになる現実に、心が軋む痛みを訴える。
後に病室での幸福な日々と、自分というウワサを生み出した瞬間を思い出したけど。
4人が再会する未来は消失し、終ぞ満開の桜を並んで見る機会は無かった。
妹達が生き返って、いろはともう一度会うだけなら良い。
しかし灯花はいろはの望まない行為に手を染め、ねむとも本気で殺し合ったという。
環姉妹と二人のマギウス、彼女達の守護こそが己の存在意義。
故に4人がバラバラになる現実に、心が軋む痛みを訴える。
影が差す顔で立ち尽くすこと数秒、記憶を読み取った鬼ともう一度視線を合わせる。
表情へ大きな変化は表れていないが、心なしか真剣味が増したように思えた。
表情へ大きな変化は表れていないが、心なしか真剣味が増したように思えた。
|いろはに伝言を頼みたい。「灯花はきっと、いろはが手を伸ばすのを待ってる」、そう伝えて欲しい|
「…………それを頼む相手が私で正しいと……本気で思っているのか……?」
|記憶と照らし合わせて、総合的に判断した結果。少なくとも、あなたはいろはの敵じゃない|
眉間に皺を寄せ、頼む相手を選べと吐き捨てるが。
きっぱりと言い返されて、余計に渋面を浮かべそうになった。
禁止エリア内で少女と接触可能な者が限られ、尚且つ屠り合いでいろはと面識がある参加者と考えれば。
自分を当て嵌めるのは分からんでもないが、素直に承諾する男と本気で思ってるのだろうか。
弟の襲撃時と、沈黙のドッペルの中にいた時。
既に二人、魔法少女が黒死牟にいろはを託した。
煩わしい鎖が絡み付き、知るかの三文字を冷徹に叩き付ければ済むだろうに。
一向に捨てようとしない己が、つくづく腹立たしい。
きっぱりと言い返されて、余計に渋面を浮かべそうになった。
禁止エリア内で少女と接触可能な者が限られ、尚且つ屠り合いでいろはと面識がある参加者と考えれば。
自分を当て嵌めるのは分からんでもないが、素直に承諾する男と本気で思ってるのだろうか。
弟の襲撃時と、沈黙のドッペルの中にいた時。
既に二人、魔法少女が黒死牟にいろはを託した。
煩わしい鎖が絡み付き、知るかの三文字を冷徹に叩き付ければ済むだろうに。
一向に捨てようとしない己が、つくづく腹立たしい。
|それに、いろはが待ってる所へ戻るのではなかった?|
「…………」
煽る意図は微塵もなく、不思議そうに尋ねる姿へ。
不機嫌を口に出すのさえ億劫になり、小さくため息を零す。
友好的な態度とは言い難いが、肯定の証と受け取ったらしい。
少女の中では既に、黒死牟の口から伝言が届くと決定。
但し、行かせる前にもう少々言っておきたいものはある。
不機嫌を口に出すのさえ億劫になり、小さくため息を零す。
友好的な態度とは言い難いが、肯定の証と受け取ったらしい。
少女の中では既に、黒死牟の口から伝言が届くと決定。
但し、行かせる前にもう少々言っておきたいものはある。
|記憶を見た時、灯花があなたに激しく敵意を抱いてるのは分かった。でも、灯花に危害を加えるのは厳禁|
「戯けたことを……童女だからとて……戯れで済む相手でなかろう……」
少女の守護対象に灯花も含まれてるからといって、自分に迎撃を封じるのは論外。
幼き身に不釣り合いな敵意に加え、イリヤ達との戦闘で見せた力。
元々戦いに慢心を持ち込む性質でなくとも、子供に過ぎぬと甘く見れる類じゃあない。
そも、半日以上を生き延びた事実を思えば相応の実力者なのは確か。
戦うなと言われてるのに等しく、先程の頼み以上に頷けない。
幼き身に不釣り合いな敵意に加え、イリヤ達との戦闘で見せた力。
元々戦いに慢心を持ち込む性質でなくとも、子供に過ぎぬと甘く見れる類じゃあない。
そも、半日以上を生き延びた事実を思えば相応の実力者なのは確か。
戦うなと言われてるのに等しく、先程の頼み以上に頷けない。
|灯花に手を出す気?|
お気に召す答えじゃなかったのか、少女の視線に険しさが滲み出す。
明確に口に出さないだけで、灯花相手に剣を振るうのへ躊躇しないと告げられた。
自分というウワサを生みだしてくれた4人を傷付ける者は、誰であろうと許せない。が、
明確に口に出さないだけで、灯花相手に剣を振るうのへ躊躇しないと告げられた。
自分というウワサを生みだしてくれた4人を傷付ける者は、誰であろうと許せない。が、
|オールスキャン、開始。全システム、正常に作動。プレイヤーとの戦闘行為不可、データ損傷に非ず。戦闘フォーム使用不可、不調ではなく仕様。……困った、あなたを倒して止めるのが不可能|
「……」
拗ねた顔で漏らす呟きへ、六眼に幾度目かの呆れが宿る。
伝言を頼んだかと思えば今度は、実力行使に出る気だったのか。
それじゃあ頼んだ意味がないだろうと、正論を視線に乗せる。
事情は分からないが、攻撃を仕掛けるのは不可能らしい。
特に憐憫も抱かず眺めていると、ややあって少女なりに考えを纏め終える。
伝言を頼んだかと思えば今度は、実力行使に出る気だったのか。
それじゃあ頼んだ意味がないだろうと、正論を視線に乗せる。
事情は分からないが、攻撃を仕掛けるのは不可能らしい。
特に憐憫も抱かず眺めていると、ややあって少女なりに考えを纏め終える。
|結論、あなたが傷付けばいろはは悲しむ。いろはが悲しむのは私も望まない。それに……いろはとねむは灯花を諦めない|
知った顔で断言する少女に、何ぞ言い返しはしない。
面倒と感じたのもそうだが、黒死牟自身がいろはと十数時間行動を共にし。
己の消滅に本心の涙を流した事も、未だ理解の全てが追い付かぬ程に諦めを知らない事も。
知っているが故、反論らしい反論も喉奥から出て来なかった。
そのように思うこと自体、黒死牟にとっては苛立つ理由なのだが。
面倒と感じたのもそうだが、黒死牟自身がいろはと十数時間行動を共にし。
己の消滅に本心の涙を流した事も、未だ理解の全てが追い付かぬ程に諦めを知らない事も。
知っているが故、反論らしい反論も喉奥から出て来なかった。
そのように思うこと自体、黒死牟にとっては苛立つ理由なのだが。
|もう一つ。ゲームに賛同したプレイヤーに私のことは知られないようお願いする。この子達も、利用されるのは本意じゃない|
大木を見上げて言う少女には、黒死牟とは違うナニカが見えているのか。
頼まれずとも、わざわざ屠り合いに乗った者に聞こえる場で話すつもりはない。
頼まれずとも、わざわざ屠り合いに乗った者に聞こえる場で話すつもりはない。
「話が済んだなら……私はもう行く……」
|そう。次に来る時があったら、いろは達も連れて来て。私はここを動けないし、この体も檀黎斗が戯れで造った狭い入れ物。いつまで保つか分からないから|
寂し気に自分の掌へ視線を落とす少女を、暫し見やった後。
別れの言葉も残さず、背を向け来た道を戻る。
二度目に訪れる機会が、本当にあるかどうかは不明。
仮にあったとしても、その時までに誰が首輪を外せているのだろうか。
別れの言葉も残さず、背を向け来た道を戻る。
二度目に訪れる機会が、本当にあるかどうかは不明。
仮にあったとしても、その時までに誰が首輪を外せているのだろうか。
絡み合った大木の気配は徐々に薄まり、やがて禁止エリアの外へ出る。
去り行く後ろ姿を、感情の籠らぬ瞳がずっと追いかけていたと。
気付きながら、一度も振り返らなかった。
去り行く後ろ姿を、感情の籠らぬ瞳がずっと追いかけていたと。
気付きながら、一度も振り返らなかった。