はじめに
近頃、油圧警告灯がむやみに点灯するようになり、原因の一つとしてオイルポンプとオイルプレッシャーリリーフバルブ(オイルポンプスプリングシート)を疑った。その辺りはオイルクーラーとオイルフィルターの取り付け の「追記」(https://w.atwiki.jp/fiat500-onlinemanual/pages/349.html#%E8%BF%BD%E8%A8%98)でその他の原因とともに述べているので参照されたい。
この部分の不具合は潤滑不良からエンジンの破損に直結するが、点検するのはかなり面倒で、クランクケースの後方に位置する遠心式オイル清浄機兼Vベルトプーリーとタイミングチェーンカバーを外す必要がある。その手順については本Wiki「オイルフィルターの清掃」に詳しいのでここでは触れない。
今回の点検の結果、オイルポンプ内部のギアに傷や摩耗は見られなかったが、リリーフバルブに異常が見つかった。その詳細も前述「オイルクーラーとオイルフィルターの取り付け」の追記に書いたのでここでは分解手順のみ記す。
注)なお、まぁさんによる旧版には「オイルポンプ不良 」という項目があるが、その「オイルポンプ」は「フューエルポンプ」または「燃料ポンプ」の誤記である、本稿で扱っているのはエンジンの潤滑を司るエンジンオイルをエンジン内部に圧送するオイルポンプのことである。
分解
リリーフバルブの取り外し
タイミングチェーンカバーの裏側には、オイルポンプとオイルプレッシャーリリーフバルブ、スプリングが一体となったアッセンブリーがM6ボルト4本で取り付けられている。このAssyを外してオイルポンプ内部のギアや中空軸を点検するにはボルト回すことになるが、六角頭がスプリングに近すぎて作業がしづらいので先にリリーフバルブとスプリングを外す方が楽だ。
クランプで押し下げ
リリーフバルブはスプリングを圧縮した状態でポンプギアのシャフトにサークリップで留められている。ヘインズのマニュアルには親指でリリーフバルブを押し込むと説明されているが(英語版p35/日本語版p39、写真15.1b)この整備士はよほどの力持ちなのだろう(写真では圧力で親指が直角に逆反っている!)。
また、このようにサークリップを外すとクリップをすっ飛ばしてしまう可能性がある。クランプを使えば片手がフリーになるのでクリップを押さえる事ができる。それができないときは中空軸にマイナスドライバーなどを差し込んでおけばたとえ弾けても飛んでいくことはない。

また、このようにサークリップを外すとクリップをすっ飛ばしてしまう可能性がある。クランプを使えば片手がフリーになるのでクリップを押さえる事ができる。それができないときは中空軸にマイナスドライバーなどを差し込んでおけばたとえ弾けても飛んでいくことはない。

↑Haynes FIAT 500 Owners Workshop Manualより
実際に手でやるのはかなり厳しいし、うっかり指が滑ったりすると、スプリングで弾かれたバルブが飛び出して危険だと思われる。Cクランプ(シャコマン)またはFクランプを2本使って押し下げるのが安全だし、力も要らない。
下の動画では押し下げ量を稼ぐためにクランプの爪にナットをかませているが、リリーフバルブの表面を傷つける恐れがあるので小さな木片など柔らかいもののほうが良い。私はFクランプ逆さまに使い、保護キャップのある方で押し下げている。

下の動画では押し下げ量を稼ぐためにクランプの爪にナットをかませているが、リリーフバルブの表面を傷つける恐れがあるので小さな木片など柔らかいもののほうが良い。私はFクランプ逆さまに使い、保護キャップのある方で押し下げている。

クランプは1本でも押し下げ可能だが、クランプが逃げないように針金で縛り、かつ反対側は親指で押さえてリリーフバルブを均等に押し下げるようにする。一旦押し下げてしまえば親指は離しても良い。このとき針金でリリーフバルブの表面を傷つけないように注意。


分解手順
リリーフバルブとポンプの分解作業手順は以下の通り。
1.クランプでリリーフバルブを押し下げ、シャフトのサークリップをペンチやマイナスドライバーで外す。リリーフバルブ円盤の両側を均等に締め付けて軸をこじないように気をつける。
2,バルブとスプリングを抜き取り、ポンプの上面プレートを留めている4本のM6(レンチ10mm)ボルトを外す。ネジ固定剤が付いているとかなりきつい。
3,上面プレートを外すと2つのギア(一つはギアのみ、もう一つは長い中空軸付き)が露出する。
2,バルブとスプリングを抜き取り、ポンプの上面プレートを留めている4本のM6(レンチ10mm)ボルトを外す。ネジ固定剤が付いているとかなりきつい。
3,上面プレートを外すと2つのギア(一つはギアのみ、もう一つは長い中空軸付き)が露出する。
以上でポンプは完全にバラバラになる。


点検と修理
点検箇所
構造としては「ギアポンプ」で、2つのギアが噛み合いながら回転してオイルを一方方向に圧送する。ギアの歯に欠け、傷、摩耗などが無いかをよく点検すること。軸のない方のギアに裏表はないが、対のギアとの当たりを考えると復旧するときにはできるだけ元通りの方向に組み込むのが望ましい。
オイルプレッシャーリリーフバルブの円盤は、常に回転するスプロケットにスプリングで押し付けられているので摩耗している可能性がある。円盤に摩耗による異常な段が付いていたり、異物の噛み込みで傷があったり、欠けやクラックがあったりしないかをよく点検する。スプリングのヘタリや曲がりもチェック。
下の写真は不調だった私のリリーフバルブの状態。




部品
もしも異常があり、部品を交換する場合は以下のようにバラでもAssyでも入手可能。ただしD/F/L等の500ccエンジン用とR/126の600ccエンジンではギアの厚みが違うので注意。前者は10mm厚、後者は14mm厚で互換性はない。また、ジャルディニエラもプレッシャーバルブとスプリングの形状が違うようであるが現物を見たことがないので判らない。
- ギアのみ(軸なし、軸付きのセット)
- リリーフバルブ
- スプリング
- ギアと上面プレートのセット
- ポンプとリリーフバルブ、スプリングのコンプリートAssy
再組み立て
オイルポンプの組み立て時にはギアと軸にエンジンオイルを十分塗っておく。
ギアの周囲にワセリンを詰め込むという情報もあるが、これは組み立て直後のポンプの空転でオイルが送られなくなるのを防ぐ効果がある。(https://rangerover.morimori-forest.com/index.php?ERR1990%20%E3%82%AC%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88%20%E3%82%AA%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%82%BF%20%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%20V8)。どこか外国サイトでワセリンの代わりにグリスを使っちゃダメというのを見たことがあるが、また別のある動画ではモリブデングリスを塗って組んでいるのもあるし、グリスの添加剤とエンジンオイルとの相性の問題だと思われる。薬局などで売られている純粋なワセリンが無難かと(旧車の場合、シールやパッキン、Oリングなどの膨潤、収縮、劣化などの心配もあるし、、、)。ちなみに、上のYoutube動画ではモリブデン入のアッセンブリーペーストを使用しているようだ。
ポンプ取り付けのM6ボルト4本は一旦タイミングチェーンカバーを閉じたら増し締めができないのでLoctiteなどのネジ固定剤を塗布しておく。締め付けトルクは10Nm(1.02kgf・m)。
リリーフバルブをギアを軸に再組込するときにも2つのクランプの押し下げ量を均等にしないと軸やバルブに傷をつけたり破損したりする恐れがあるので注意。
タイミングチェーンカバーをクランクケースに取り付けるときにも、オイルをリリーフバルブの円盤にたっぷり塗布。


最後に
繰り返しになるが、オイルポンプとリリーフバルブの異常はオーバーヒートに直結するし、最悪の場合はエンジンブローに至るので、油圧警告灯が以前より頻繁に点灯する場合にはまず第一に点検するべき場所である。
リリーフバルブは前述のように回転摺動しているスプロケットに押し付けられているので摩耗や傷が付きやすく、そのような場合は定格より低い油圧でオイルを逃してしまう恐れがあるから、円盤の表面の状態に注意する必要がある。また、確率は低いがポンプギアの摩耗や歯欠けでも同じように油圧は上がらなくなる。油圧が上がらなければいくら油温が低くても、新しく硬いオイルであっても、結局は警告灯が点いてしまう。(そこに目をつむってオイルクーラーとオイルフィルターの取り付けをしようとするのは愚の骨頂だと思うが、、、LOL)
by Okapon