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おおきく振りかぶって(前編)

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おおきく振りかぶって(前編) ◆LxH6hCs9JU



 ちーちゃんはお歌が上手だねぇ――


 ――そんな風に褒めてくれた初めての人は、いったい誰だったろうか。
 母か、父か、近所のおばさんか、通行人のおじさんか、ひょっとしたら自分か。
 歌を好きになり、歌うことに誇りを抱き始め、歌を人生の中心に据えるようになったのは――いつからだったろうか。
 屋外のキャンプ場。調理道具などが保管されている管理小屋の前。
 乾燥機に入った衣服が乾くのを待ちつつ、如月千早は物思いに耽っていた。

(……スースーする。少し、寒い、かも)

 口には出さず、心中でのみ下半身の不快感を愚痴る。
 数時間前のことだ。キャンプ場での惨劇跡に遭遇した千早は、思い出すのも散々な事態に陥ってしまった。
 そのときの失態で服はカレーと血液と尿と土に塗れてしまい、洗濯せざるを得ない有り様に。
 このキャンプ場に洗濯機が備わっていたのは幸いだった。あのままの姿で行動するのは拷問すぎる。

(……こんな恥ずかしい格好、誰にも見られたくないし)

 顔を俯ける千早の後背は、どこか陰鬱としている。
 理由は語るまでもなく、仮として身につけているこの悪趣味な服のせいだ。

 如月千早――年齢15歳、身長162センチ、2月25日生まれの魚座、職業アイドル。
 歌に対する情熱を殺意に転化し、共にアイドル活動をする友人のために、ゲームに『乗っていた』少女。

 容姿端麗な顔立ちは疲労にやつれ、さらっとしたロングヘアは土埃に塗れている。
 それら最悪なコンディションを差し引いても、千早の姿は美人の体を守っていた。
 しかし、身につけている衣服に観点を置けば。
 金ぴかのパーカーにシーツの腰巻という二つのアイテムが、千早の女としての質を落としているのが現状。
 しかもシーツのほうは元々布生地が薄く、風が吹きぬけるたびに寒気を覚えるのが厄介だ。

(……早く着替えたい)

 そもそも千早は、普段こういったスカートを履かないだけに、私服のパンツルックが余計に恋しく思えた。

 視線を空に投げると、瞼の隙間に朝焼けが染み込んで来る。
 ゲームに乗ることを決め、鈴と出会い、己の未熟さを痛感して――あっという間に夜は終わってしまった。
 殺傷兵器を手にしながら誓った決意は、鈴に殺されると思った恐怖は、いったいなんだったのか。
 こうやってただ服の乾燥を待っていると、かつての葛藤や懊悩が馬鹿らしく思えてくる。
 今、この瞬間だけは平和を確信しつつ、千早は乾燥機の稼働音が止まるのを耳にした。

「ん……しょっ、と」

 乾燥機の前に、洗濯していた衣類を並べる。
 長袖のブラウス、タートルネックのセーター、ボトムパンツ……ブラジャー、ショーツ。
 結局、身につけていたものは全部洗ってしまった。仕方がない。ついた汚れは泥や血だけではなかったのだから。
 特に気にしていたショーツの汚れだが、ほんのり湿っている程度で、履く分には問題なさそうだ。
 本当ならじっくり天日干ししたいところだが、状況が状況なので断念するしかないだろう。

(それじゃあ、さっそく……)
「やあやあそこの綺麗なお嬢さん。ちょっと俺とお話しなぁい?」

 さっさとシーツを取り払ってしまおう――と手をかけた直前で、聞きなれぬ男声を耳にした。
 反射的に背後を振り向く。するとそこには、利発な顔立ちをした、眼鏡のよく似合う少年が立っていた。
 若干目を細め、足をクロスさせ、歯を覗かせ、顎に手を当て、格好つけているような姿勢が気になったが、それよりも。

(くっ……いつの間に)

 衣服に気を取られている間に、他者の接近を許してしまった。その失態に、千早は歯噛みする。
 少年に言葉は返さず、咄嗟に洗濯機の横に立てかけておいたライフル――89式5.56mm小銃に目をやる。
 三歩ほど跨ぎ、手を伸ばせば届く距離にあるそれを、構えるべきか否か。
 刹那の逡巡に、千早は動きを止めるが――少年の口は止まらない。

「やや、いきなり声かけちゃって驚かせちゃったかなぁ? 俺の名前は鮫氷新一。気さくにシャークと呼んでくれ」
「……如月、千早です」
「千早ちゃん! なんとまぁ、綺麗な響き! センスある親御さんに感謝だね! 
 でもその金ぴかの服はいただけないなぁ。せっかくのスタイルが台無しになっちゃってる。
 でも……まぁ……パーカーかぁ……こういうのは得てして……着やせするタイプだったり……」

 止まらない、どころか、加速する。
 饒舌にもほどがある少年はおそらく年上だろうが、礼節を弁えた大人というわけではない。
 こちらの心境お構いなしに喋り続ける少年は、友人には持ちたくないタイプだなぁ、と千早は思っていた。
 そんな千早の気心を知る由もなく、目的不明の少年の不可解な言動が続く。

「パワー計測! んんんんんんん…………かぁ!」

 なにやら奇声を発したかと思えば、突如自分の眼鏡の渕を押し始め、ぐぬぬ……と唸り出す。
 奇怪だ。奇怪以外のなにものでもない。変を通り越して気持ち悪い。
 千早は初対面の男性に対し、失礼は承知で悪評を連ねていた。
 千早の腰が若干引けてくると、少年のほうも奇妙な唸りをやめ、肩を落とす。
 なにやら落胆したような声で、少年は呟く。

「なんだぁ、戦闘力たったの72か。……ゴミめ」
「――~~~っ!?」

 少年の独り言のようなか細い声を聞き逃さず、千早の顔が炎上した。
 72。その数値の意味を瞬時に理解し、そして少年がなにに落胆しているのかも悟り、激昂する。

「あ、いやいやこっちの話。それはそうと千早ちゃん。いや、ここはフレンドリーにちひゃーと呼ぼうか?
 ちひゃーも、俺のことは気軽にシャークと呼んでくれていいからさ。やっぱこういう状況だし、絆は大事じゃん?」

 72――この数値は、千早にとって忌むべき文字列なのである。

「絆を深めるには、一にも二にもスキンシップ! これ宇宙の真理ね!
 そう……特に男女はこれ絶対なわけよ。まずはお互いのことを名前で呼び合うところから。
 ほらほら、いきなりで恥ずかしいのわかるけどさ、俺みたいに気楽に気楽に。ね、ちひゃー」

 同じ72の所持者に、高槻やよいという13歳の少女が存在する。千早と同じく、765プロに所属するアイドルだ。
 また、参考として72の上位――74の所持者たる双子のアイドルがいるのだが、彼女らはまだ弱冠12歳。
 765プロの所属アイドルの中では、72の所持者たる千早は、二つ年下のやよいと並び最下層に席を置いている。
 それが彼女のコンプレックスでもあり、決しては押してはならない禁断のツボでもあった。

 さて、ここでクエスチョン――『72』とは、いったいなにを意味する数値か?

「あれぇー? どうしちゃったのちひゃー? ……あ、ひょっとして着替える直前だった!?
 や、や、ごめんよちひゃー! 俺ったら空気が読める紳士を心がけていたはずなのに、とんだ失態だぁ!
 さささっ、どうぞどうぞ続きをば! あ、俺? 俺は大丈夫。見ないから。シャークの名に誓って。……ゴクリ」

 アンサー――千早のバストサイズである。

「――くっ!」
「っおげぇ!?」

 喋りながら――馴れ馴れしいことに――千早のすぐ側まで歩み寄って来ていた少年目掛け、蹴りを叩き込む。
 狙ったのは股間だった。故意に狙った。そこが男性の急所であると理解して狙った。少年は跳ね上がった直後蹲った。
 しかし千早の怒りは治まらず、悶絶する少年の背中目掛け、渾身の力で踏みつける。あひぃ、と少年が鳴いた。

「ちょ、いた!? いだっ、いだいってちょ、ちびゃ! ぎょぉっ!?」

 何度も何度も、その場でスタンピング。怒りの靴底を浴びせ続ける。
 こんな失礼な男性は見たことがない。ストーカーまがいの悪質なファンのほうがまだ礼儀を弁えている。
 そもそも、パーカーに覆われていた千早のバストサイズを見抜いたのはどういう異能か。

(そういえば……)

 以前、プロデューサーにこんな逸話を聞いたことがある。
 曰く、アイドルはバストサイズを詐称してはならない。
 なぜか――よく訓練されたアイドルオタクの前では、書類上の数値などまるで役に立たないからだ。
 彼らはグラビア写真集を見るだけで、被写体の女性の真のバストサイズを測定できるという。
 俗に『おっぱいスカウター』と呼ばれる異能の力を持つ者……まさか実在していたとは。

「ぢょ、ぢょ、踏みつけきついっス! あ、っていうかなんかそのスカート……シーツ? チラチラって……」

 蹲った状態から這い起きようとする少年を、しかし構わず踏み続ける千早。
 普段よりも暴力的になってしまっているのは、やはり生殺与奪の概念が頭に蟠っているからだろうか。
 とはいえ、この怒りを発散させたいがために、注意力が散漫になってしまっていたのも事実。
 千早はそれを、すぐ後悔することになる。

「あ」

 僅か、抵抗を試みた少年が、腕を伸ばした。
 うねうねと蠢動する五指が絡め取ったのは、千早がスカート代わりとしていたシーツである。
 きつめに巻いていたとはいえ、こうも踏みつけを激しくしては、巻きが緩まるというもの。
 言うなれば必然の結果。少年の手が、千早の腰からシーツという名の最後の砦を奪い取ったのは。

「うお……」

 はためく白。地に落ちる布。剥がれる幕。露出される恥部。
 仕方がないことだった。あの恐怖体験で失禁を催してしまった千早は、履かない、という選択しか取れなかった。
 鈴が金ぴかのパーカー以外になにか見つけてくれていれば、彼女の運命も変わったのだろうか。それも今さらだ。
 事実だけを述べる。シーツを奪われ、一糸纏わぬ千早の下半身が、少年の視線に晒された。描写は割愛。

「ッ!!?@/~~~~~!」

 あまりの事態に動転し、頭が真っ白になる千早。
 今ばかりは怒りを忘れ、女としての素直な羞恥心に従うまま、悲鳴をあげようとしたところで、

「うおおおおおおおおおおおありがとおおおおおおおおおおおお神さまああああああああああ!!」

 千早の恥部を凝視する少年の、歓喜の咆哮が木霊した。
 その予想外のリアクションに、悲鳴は押し留められ、沸々と煮えたぎる感情が再燃。
 なんだろう。なんでこの少年はこんなんなんだろう。あきれる。理解できない。
 しかしそれよりも先に湧き上がってきたのは、殺意。

 ――この男を殺したい。生理的にそう思った。

「…………くっ!!」

 さっきよりも強く、全体重をかけるようにして、少年の背中を踏みつける。
 背中に強烈な打撃を与え続ければ、素人でも呼吸困難くらいには陥らせられるが、少年はなぜか抗わない。
 それどころか、ぐへへっ、ぐへへっ、と下劣に喉を鳴らし、千早の恥部を見上げている。
 その態度が、千早の激情をさらに駆り立てた。

「ッ! 変態ッ! この、変態ッ! 変態ッ! 変態ッ! 変態ッ! 変態ッ! 変態ッ!」
「ぐぼっ!? ありがとうございますっ! ありがとうございますっ! ありがとうございますっ!」

 踏みつけられているというのに、なぜか感謝し始めた。駄目だこの少年、早くなんとか殺してしまわないと。
 歌のためだとか、春香のためだとか、そういう建前を抜きにしても、この少年はここで死んでおくべきだ。
 そう強く思った千早は、今度こそ洗濯機に立てかけておいたライフルに手を伸ばそうとするが――

「ちはやー!!」

 遠方から来る女声が耳を劈き、手を止めた。
 この声は鈴――数時間前に同行することを決めた少女、棗鈴のものだ。
 それも、声の張り上げ方からしてただ事ではない様子。
 まさか、鈴の下にもこの少年のような変態が現れたのだろうか。

「くっ」

 千早は女として、変態に対する敵意を燃やす。
 鈴は仲間というわけではない。組むとは言ったが、切り捨てる予定もあった。
 が、もし鈴が変態に襲われているのだとしたら――助けに入るしかない。同じ女として、見捨てることはできない。
 千早はライフルを握り締めると、追い縋ろうとしてきた変態(鮫氷新一)の顔面をサッカーボールキック。
 変態が沈黙したのを確認し、すぐ鈴の下に向かおうとして――着替えるのを忘れていたことに気づき、とりあえずショーツとボトムパンツを確保して現場に向かった。


 ◇ ◇ ◇


「あたしはせつなを殺さなくちゃならない。復讐だからだ。というわけで、おまえも協力しろ」
「俺は渚を探さなきゃならん。親バカだからだ。というわけで、おまえも協力しろ」
「嫌じゃぼけ!」
「俺もだボケ!」

 場所はキャンプ施設の広場、そのど真ん中。
 人目も気にせず、口論に没頭する二人の男女がいる。

 シックな黒の学生服を纏い、艶のある長髪を鈴つきリボンでポニーテールに纏め上げた猫目の少女。
 歳不相応に跳ね上がった頭髪に凶悪な目つきを兼ね揃え、しかしその強張った印象を可愛らしいエプロンで中和する男性。

 少女の名は棗鈴。『きようらせつな』に復讐することを誓い、千早に協力を申し出た、一応の仲間。
 男性の名は古河秋生。愛娘である『ナギサ』を探し求め、つい先ほどここを訪れた、要注意人物。

 睨み合う子供と大人を見比べ、千早は思わず溜め息をつく。
 俯き気味の顔が、自身の首から足元まで、ストン、目線を流し落とす。甦るは、72の悪夢だ。
 金ぴかのパーカーは既に着替え、今の千早はパンツルックの私服姿に戻っている。
 鈴の叫びに誓い呼び出しをくらって数分。要点が一大事ではないと知った千早は、とりあえず着替えを済ませたのだった。
 そして今、鈴と秋生なる男から改めて事情を聞く。

「なにか使えるものがないか、もう一度見て回ってたんだ。そしたら、このおっさんが声をかけてきた」

 服を洗濯機にかけ、キャンプ場を離れること役二時間。大した収獲もなく帰還した千早と鈴は、一旦別れたのだ。
 千早は乾いた服を回収し着替えを済ませる。その間、鈴はキャンプ場から持って行けそうなものを見繕っていたそうだ。
 単独行動中の鈴に話しかけてきたのが、この、娘を探しているという父親、古河秋生。
 名簿の中には、たしか古河渚という名があった。秋生が探しているナギサとは、おそらく彼女のことだろう。

「で、なぎさを探すのに協力しろって脅された」
「脅してねぇよ」
「けどあたしはせつなを殺さなきゃいけない。だから無理だ、代わりにせつなを殺すのに協力しろって脅した」
「脅されてもねぇよ」
「そしたら断られた。納得できないのでもう一度脅したら、いつの間にか言い争いになってた」
「だーかーらー、脅しても脅されてもねぇよ! もうちょっと言葉整理してから説明しやがれっ!」
「んなー!? 髪引っ張るなあほ!」

 鈴のポニーテールをぐいぐい引っ張りながら、秋生は子供っぽく喚き散らす。
 鈴の説明のしかたはともかくとして、大体の事情はのみ込めた。
 秋生は愛娘を捜索するための人手が欲しい。だから鈴に声をかけた。
 せつなを殺したい鈴は、そんなことには構っていられないので断った。ここまではいい。
 問題なのは、断る際の理由として、鈴が『せつなを殺す』という目的を喋ってしまったことだ。

(普通、こういうのは他人には隠しておくものじゃ……)

 さくらを謀殺したせつなに復讐を果たす。
 相応の理由があるとはいえ、鈴がやろうとしていることは人道に逸れた行いだ。
 良識のある大人に告げればもちろん止められるだろうし、鈴自身が危険人物と捉えられる危険性もある。
 鈴がそのあたりを考慮したのかどうかはわからない。だが、この古河秋生という大人に限って言えば、

「だあぁぁぁ! 俺ぁさっさと渚を見つけてやらなきゃなんねぇってのによぉぉぉ!」

 赤の他人である鈴に道徳を説くよりも、我が子を心配する心のほうが強いようだ。
 当然といえば当然。誰にだって、守りたい人、大切な人はいる。
 秋生の場合は渚、鈴の場合は理樹、千早の場合は春香。その人の存在が、己の行動理念を定める。
 そして秋生は、娘の捜索という道を選び取った。
 これが『他者の殺害』という奉仕活動でなかったのは、彼が少なからず真っ当である証拠か。

「あの……お互いがお互いの探し人も探したらいいんじゃないでしょうか?
 私と鈴さんが渚さんを見つけたら、あなたのことを伝えます。あなたが清浦刹那を見つけたら」
「おまえの命を狙ってる奴がいるぞ、とでも伝えておきゃいいのか?」
「あっ……ええと、それは……」
「条件が釣り合わねぇんだよ。俺は渚を守るためなら阿修羅をも凌駕するつもりだが、殺し合いなんかにゃ興味ない。
 どんなに悪劣非道な輩がいようが、んなもんは徹底的にガン無視だ。もちろん、渚を傷つける奴はぶっ飛ばすけどな」
「……別にせつなを殺してくれと頼んでるわけじゃない。一緒に捜してくれれば、それでいい」
「そうですよ。清浦刹那と一緒に渚さんを捜せば――」
「途中、その刹那とかいうのを見つけたらどうする? おまえ、渚を捜すのやめるだろ?
 それじゃ駄目だ。捜すのは渚一人。復讐なんてやめちまえ。そのほうが真剣に渚を捜せるからな」
(あっ)

 そこで、千早は気づいた。
 一見、娘のことしか頭になく、他人になど構ってられないといった風な秋生だが、こうは解釈できないだろうか。
 鈴の『清浦刹那に対する復讐』という目的意識を、『古河渚の捜索』に挿げ替え、やめさせようとしている。

 千早とて、復讐など愚かな行いだとは思っている。が、状況が状況だ。忠言を下す気にもなれない。
 鈴が復讐に動く限り、千早は鈴に身の安全を守ってもらえる。生還の可能性が上昇するのだ。
 我が身を思えば、忠言など吐けるはずがない。鈴が復讐をやめるということは、拠り所を失うということなのだから。

「……それでもやっぱり、せつなは殺さなきゃいけない。なぎさを捜してたら、せつなが殺せない。だから――」
「あ、そうだ。閃いたぞ俺は。双方が納得する、極上の解決手段ってやつをなぁ!」

 秋生は唐突に大声を上げ、鈴の言葉を遮る。次いで自分のデイパックを探り出し、なにを取り出そうとしているようだ。
 その様子を観察していると、ふと、秋生が支給品のデイパックを二つ持っていることに気がついた。
 どこかで死人から回収した? 誰かの預かりもの? それとも仲間がいる? 瞬時にいくつかの可能性が浮かぶが、

「た、し、か、フカヒレの奴がいいもん持ってやがったなぁ~」

 フカヒレ、という単語で仲間のものだろうという結論が導き出された。
 しかし、フカヒレなどという名前の参加者は覚えがない。
 ニックネームだろうか、と思い至ったところで連想されたのは、先ほどの変態である。

(鮫氷新一……さめ……シャーク……フカヒレは高級食材……鮫のヒレ……あっ)

 薄らと、デイパックの持ち主と先ほどの変態の正体が重なり、千早は僅かに焦った。
 そして秋生は、フカヒレなる参加者のデイパックからある支給物資を取り出す。
 それは、一本のバットと白球が一つ。
 その、紛れもない『野球道具』を鈴に示して、こう叫ぶ。

「と、言うわけでだ――野球やろうぜ!」
「ちはや、こいつ馬鹿だ!」

 千早は頭を抱えた。


 ◇ ◇ ◇


055:二人目のルースカヤ 投下順 056:おおきく振りかぶって(後編)
052:鬼神楽 時系列順
042:World Busters! 如月千早
042:World Busters! 棗鈴
036:To hell ,you gonna fall 鮫氷新一
036:To hell ,you gonna fall 古河秋生

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