Crossing The River Styx ◆eQMGd/VdJY
杉浦碧が立ち去ってから数十分後、山辺美希は旅館を出る準備を始めていた。
あれは駄目だ。少し前に捨てた対馬レオに近い部類の人間はいらない。
下手なものを引き寄せてくる前に、ここで切り捨てた方がいいだろう。
と言っても、有効利用できるうちはきっちり働かせたい。
離れ離れになっても、美希の為に働かせる方法は無いかと、旅館を見回す。
頭に指を当て暫しの間唸り続けていたが、ふと何かに納得したように両手を叩く。
旅館のロビーから外に出て、耳を澄まして誰もいないことを確かめる。
風一つ吹かない事を確認すると、美希は周囲の置物を次々に床へ叩き付け始めた。
いい仕事していそうな壺を、旅館の窓ガラスに投げつけ。
名匠が残したであろう掛け軸に、容赦なく切り込みを残し。
綺麗に手入れされていた絨毯を、泥水で湿らせていく。
綺麗だった旅館のロビーは、数分後には地震でも起きたかのように崩壊していた。
一仕事終えた美希は、額を手の甲で拭いながら爽やかな笑みを浮べる。
美希の狙いは「旅館に襲撃者が現れた」と言うシチュエーションだ。
戻ってきた碧に迂闊な事をしたと戒めさせると同時に、敵の存在を匂わせる事。
またもう一つ。碧の正義感ならば、美希を探して島中を駆けずり回るはず。
そうすれば、いつかは誰かと接触し、場合によっては碧は殺し合いに巻き込まれるだろう。
人間など、死を迫られれば刃を構えるものだ。自分の命は惜しいもの。
仮に碧がそこで朽ち果てても、一人ぐらいとは刺し違えるかもしれない。
全てが上手くいくとは考えていないが、使い捨てるよりマシだ。
身体の呼吸が整ったのを確認すると、美希は用心しながら業務員用出口へと回った。
ここで碧と鉢合わせしては、せっかくの仕掛けが台無しになる上、変な目で見られかねない。
案内板の指示通り業務員用出口まで辿り着くと、ゆっくりとドアを開けていく。
外に気配は無い。出て行くならば今しかないだろう。
美希は旅館から慌てる事無く脱出すると、躊躇う事無くある場所へと走る。
辿り着いた先は駐輪場。あるのは、旅館が客用に貸し出しているマウンテンバイクが数台。
あれは駄目だ。少し前に捨てた対馬レオに近い部類の人間はいらない。
下手なものを引き寄せてくる前に、ここで切り捨てた方がいいだろう。
と言っても、有効利用できるうちはきっちり働かせたい。
離れ離れになっても、美希の為に働かせる方法は無いかと、旅館を見回す。
頭に指を当て暫しの間唸り続けていたが、ふと何かに納得したように両手を叩く。
旅館のロビーから外に出て、耳を澄まして誰もいないことを確かめる。
風一つ吹かない事を確認すると、美希は周囲の置物を次々に床へ叩き付け始めた。
いい仕事していそうな壺を、旅館の窓ガラスに投げつけ。
名匠が残したであろう掛け軸に、容赦なく切り込みを残し。
綺麗に手入れされていた絨毯を、泥水で湿らせていく。
綺麗だった旅館のロビーは、数分後には地震でも起きたかのように崩壊していた。
一仕事終えた美希は、額を手の甲で拭いながら爽やかな笑みを浮べる。
美希の狙いは「旅館に襲撃者が現れた」と言うシチュエーションだ。
戻ってきた碧に迂闊な事をしたと戒めさせると同時に、敵の存在を匂わせる事。
またもう一つ。碧の正義感ならば、美希を探して島中を駆けずり回るはず。
そうすれば、いつかは誰かと接触し、場合によっては碧は殺し合いに巻き込まれるだろう。
人間など、死を迫られれば刃を構えるものだ。自分の命は惜しいもの。
仮に碧がそこで朽ち果てても、一人ぐらいとは刺し違えるかもしれない。
全てが上手くいくとは考えていないが、使い捨てるよりマシだ。
身体の呼吸が整ったのを確認すると、美希は用心しながら業務員用出口へと回った。
ここで碧と鉢合わせしては、せっかくの仕掛けが台無しになる上、変な目で見られかねない。
案内板の指示通り業務員用出口まで辿り着くと、ゆっくりとドアを開けていく。
外に気配は無い。出て行くならば今しかないだろう。
美希は旅館から慌てる事無く脱出すると、躊躇う事無くある場所へと走る。
辿り着いた先は駐輪場。あるのは、旅館が客用に貸し出しているマウンテンバイクが数台。
先程露天風呂に向かう途中、ちらりと見えたのを覚えていたのだ。
幸い鍵は掛かっておらず、すんなりサドルに腰を下ろす事が出来た。
ゆっくりとペダルを漕ぎ出す。顔をあげる度に当たる風がくすぐったい。
目指すは中心街。当初目指していた北だ。
幸い鍵は掛かっておらず、すんなりサドルに腰を下ろす事が出来た。
ゆっくりとペダルを漕ぎ出す。顔をあげる度に当たる風がくすぐったい。
目指すは中心街。当初目指していた北だ。
◇◇◇
電車に揺られる中、ユメイの瞳は惚けた様子で過ぎ去っていく景色を流し続けていく。
この殺し合いの場に降ろされてから暫く、こんな時間など何処にも無かった。
怒涛の様に過ぎていった六時間。自分は一体何をしていたのだろうか。
足元を見る。床に転がっているのは、仮面を被った巨漢と裸の男。
気絶する前は、仮面の男の方に追いかけられていたのは覚えている。
目を閉じると聞こえてくる「うぅまうぅー」と言う呻き声が、ユメイの恐怖心を煽る。
次に、正気に戻った瞬間目に飛び込んできた。蛇を持つ裸の男。
同じく目を閉じればその形状がしっかり浮んでくるが、全力で想像をかき消す。
ともかく、今ここにいるのは自分を含め三人と言う訳だ。
念のために車両の一つ一つを調べて回ったが、人の気配は何処にもない。
つまり、何が起こっても誰も助けてくれないし、誰も逃げ出せないと言う事だ。
勿論逃げ出そうと思えば窓ガラスを破り、外へ飛び出せばいい。
だがそんな行為、今のユメイには選べない。ここで死んでは、桂に巡り逢う事など叶わないから。
激しく動く心臓に、ユメイの呼吸の温度が上昇していく。
少なくとも仮面の男の方が目を覚ませば、ユメイはきっと殺される。
ならば目を覚ます前に殺してしまうべきなのだが、ここで問題なのが裸の男だ。
二人が味方同士であるならば、何としても二人同時に殺さねばなるまい。
万が一、片方ずつ手に掛けているうちに、もう片方が目を覚ましたら危険すぎる。
だが、同時に殺せる様な武器を、ユメイは所持していなかった。
この殺し合いの場に降ろされてから暫く、こんな時間など何処にも無かった。
怒涛の様に過ぎていった六時間。自分は一体何をしていたのだろうか。
足元を見る。床に転がっているのは、仮面を被った巨漢と裸の男。
気絶する前は、仮面の男の方に追いかけられていたのは覚えている。
目を閉じると聞こえてくる「うぅまうぅー」と言う呻き声が、ユメイの恐怖心を煽る。
次に、正気に戻った瞬間目に飛び込んできた。蛇を持つ裸の男。
同じく目を閉じればその形状がしっかり浮んでくるが、全力で想像をかき消す。
ともかく、今ここにいるのは自分を含め三人と言う訳だ。
念のために車両の一つ一つを調べて回ったが、人の気配は何処にもない。
つまり、何が起こっても誰も助けてくれないし、誰も逃げ出せないと言う事だ。
勿論逃げ出そうと思えば窓ガラスを破り、外へ飛び出せばいい。
だがそんな行為、今のユメイには選べない。ここで死んでは、桂に巡り逢う事など叶わないから。
激しく動く心臓に、ユメイの呼吸の温度が上昇していく。
少なくとも仮面の男の方が目を覚ませば、ユメイはきっと殺される。
ならば目を覚ます前に殺してしまうべきなのだが、ここで問題なのが裸の男だ。
二人が味方同士であるならば、何としても二人同時に殺さねばなるまい。
万が一、片方ずつ手に掛けているうちに、もう片方が目を覚ましたら危険すぎる。
だが、同時に殺せる様な武器を、ユメイは所持していなかった。
支給されたバズーカでは致命傷を与えられない上、轟音で目を覚ましてしまう可能性がある。
ならば他の支給品はと調べてみたが、どれも武器になるとは思えない。
そこで、ユメイは裸の男の手に注目する。握られているそれは、やけに長い刀だった。
なるべく男の身体を見ないようにしつつ、そっと刀に手を伸ばす。
心臓や首目掛けて刀を上から突き立てれば、余程の人間で無い限り死ぬ。
ゆっくりと腰を下ろし、裸の男に触れないように。
ふと、ユメイは伸びた指の震えをみて動きを止める。背中から、一筋の汗が腰に流れていく。
いつの間にか、この二人を殺す事を前提として頭が回転していたのだ。
震える指を頬に添え、首を振りながら纏わりついた影を振るい落とす。
勝手に決め付けていたが、少なくとも裸の男に襲われた記憶は無い。
いや、別の意味でショックを与えられたが、それは殺意があっての事ではないだろう。
ならばこちらの裸の男は殺し合いに乗っている訳ではないのだろうか。
指を唇から離し、恐る恐る指を全裸の男へと差し出したところで、それは唐突に中断される。
この島での最初の放送が、遂に流れ始めたのだ。
紡がれていく言葉の一つ一つが、この島にいるであろう全ての人間に届けられるのだろう。
それは勿論、ユメイの耳にもしっかりと注ぎ込まれていく。
精神を揺さぶるような問い掛けから始まり、次に禁止エリア。
ユメイは手を伸ばすのを止め、目を閉じて羽藤桂の無事を祈り続ける。
いまさら願った所で意味が無いのだが、そうせずにはいられなかった。
やがて知らないなが淡々と告げられていく。そう、どの名前も知らないものばかり。
この時点で、ユメイは胸を撫で下ろし涙ぐんでいた。
少なくともまだ、心の底から大切な人達は生きているのだ。この島のどこかで。
不謹慎だと理解はしていたが、それでもユメイの心の波紋は治まりつつあった。
ならば他の支給品はと調べてみたが、どれも武器になるとは思えない。
そこで、ユメイは裸の男の手に注目する。握られているそれは、やけに長い刀だった。
なるべく男の身体を見ないようにしつつ、そっと刀に手を伸ばす。
心臓や首目掛けて刀を上から突き立てれば、余程の人間で無い限り死ぬ。
ゆっくりと腰を下ろし、裸の男に触れないように。
ふと、ユメイは伸びた指の震えをみて動きを止める。背中から、一筋の汗が腰に流れていく。
いつの間にか、この二人を殺す事を前提として頭が回転していたのだ。
震える指を頬に添え、首を振りながら纏わりついた影を振るい落とす。
勝手に決め付けていたが、少なくとも裸の男に襲われた記憶は無い。
いや、別の意味でショックを与えられたが、それは殺意があっての事ではないだろう。
ならばこちらの裸の男は殺し合いに乗っている訳ではないのだろうか。
指を唇から離し、恐る恐る指を全裸の男へと差し出したところで、それは唐突に中断される。
この島での最初の放送が、遂に流れ始めたのだ。
紡がれていく言葉の一つ一つが、この島にいるであろう全ての人間に届けられるのだろう。
それは勿論、ユメイの耳にもしっかりと注ぎ込まれていく。
精神を揺さぶるような問い掛けから始まり、次に禁止エリア。
ユメイは手を伸ばすのを止め、目を閉じて羽藤桂の無事を祈り続ける。
いまさら願った所で意味が無いのだが、そうせずにはいられなかった。
やがて知らないなが淡々と告げられていく。そう、どの名前も知らないものばかり。
この時点で、ユメイは胸を撫で下ろし涙ぐんでいた。
少なくともまだ、心の底から大切な人達は生きているのだ。この島のどこかで。
不謹慎だと理解はしていたが、それでもユメイの心の波紋は治まりつつあった。
◇◇◇
放送が終わり、そろそろ電車が駅に到着しようとした所で、車体の速度が緩まってく。
やがて電車が小刻みに何度か揺れると、遂にはその場で停止してしまう。
最終地点である駅まで、もう少しだというのにどうした事だろうか。
悩むユメイの耳に、車内アナウンスで時間調整の旨が届けられる。
つまり、この三人の状況のまま待機しなければならないという事。
いっそ窓を割って飛び出そうかとも考えたが、最悪な事に地面はかなり遠い。
気持ちを持ち直し、床に転がる二人の男に少しだけ視線を送る。
先程は中断してしまったが、全裸の男をどうするか考えねばなるまい。
目が覚めて姿を見た途端、ユメイは無我夢中でしてしまったのだ。
沈黙を守り続けているが、目を覚ませば怒りをぶつけてくる可能性がある。
謝って許してもらえればいいが、最悪これがきっかけで襲われる恐れもあるのだ。
屈強な男から逃げられるほど、ユメイは自分の体力には自身が無い。
それか仮面の男に追いかけられた時に、嫌と言うほど理解させられた事実。
ではやはり、二人とも殺してしまうべきだろうか。
いま桂が生きていても、次の瞬間には死んでいるかもしれないのだ。
そうならない為にも、桂に接触しそうな危険は自分が振り払わねばならないだろう。
桂に降りかかる汚れや穢れなど全て、この身体が代わりに浴びる。
だが、このひ弱な女の身体が、果たしてどれだけ桂の日除け傘となれるだろうか。
もっと確実な。例えばそう、大きな力を味方にできないだろうかと。
再び視線が床に転がる男達に向けられる。今度はしっかりと二人の姿を見定めて。
動悸が激しく乱れ、体中の毛穴から蒸発した空気が噴き出されていくのが解かる。
止まっていた電車が再び動き出す。最終地点は、もう目の前だった。
やがて電車が小刻みに何度か揺れると、遂にはその場で停止してしまう。
最終地点である駅まで、もう少しだというのにどうした事だろうか。
悩むユメイの耳に、車内アナウンスで時間調整の旨が届けられる。
つまり、この三人の状況のまま待機しなければならないという事。
いっそ窓を割って飛び出そうかとも考えたが、最悪な事に地面はかなり遠い。
気持ちを持ち直し、床に転がる二人の男に少しだけ視線を送る。
先程は中断してしまったが、全裸の男をどうするか考えねばなるまい。
目が覚めて姿を見た途端、ユメイは無我夢中でしてしまったのだ。
沈黙を守り続けているが、目を覚ませば怒りをぶつけてくる可能性がある。
謝って許してもらえればいいが、最悪これがきっかけで襲われる恐れもあるのだ。
屈強な男から逃げられるほど、ユメイは自分の体力には自身が無い。
それか仮面の男に追いかけられた時に、嫌と言うほど理解させられた事実。
ではやはり、二人とも殺してしまうべきだろうか。
いま桂が生きていても、次の瞬間には死んでいるかもしれないのだ。
そうならない為にも、桂に接触しそうな危険は自分が振り払わねばならないだろう。
桂に降りかかる汚れや穢れなど全て、この身体が代わりに浴びる。
だが、このひ弱な女の身体が、果たしてどれだけ桂の日除け傘となれるだろうか。
もっと確実な。例えばそう、大きな力を味方にできないだろうかと。
再び視線が床に転がる男達に向けられる。今度はしっかりと二人の姿を見定めて。
動悸が激しく乱れ、体中の毛穴から蒸発した空気が噴き出されていくのが解かる。
止まっていた電車が再び動き出す。最終地点は、もう目の前だった。
◇◇◇
ペダルから足を離し、美希は用心深く周囲を窺う。
到着したのは中心街。なかなかに都会的な街並みだ。
自転車は置き去りにしようか考えたが、デイパックに詰め込めるのが判明し破棄を取りやめる。
ゴーストタウンの様な街を、一台の自転車がゆっくりと滑り続けていく。
ここまでの道のりは美希の想像よりも遥かに楽なものだった。
旅館から山里まで舗装された道が続き、山里から中心街までもまた綺麗な道路。
とは言え、ほんの僅かだが疲労感があるのは否めない。
途中で放送を聞くため移動を停止したが、地図に諸々書き込むだけで済ましている。
あとはひたすら、周囲に気を配りつつペダルを踏み続ける行為の連続。
美希にとって必要な情報は禁止エリアと殺された総数。
他の情報など、美希にとってはなんの意味を成さないのだ。
例えば対馬レオが死んだ事も、右の耳から左の耳に流していい位の事。
いま必要なのは、上手く操れて、且つ身を守る立派な盾。
そしてその盾を探すために、美希は敢えて人通りの多そうな大通りを走り続けた。
が、成果を得る事は無く、やがて自転車は駅に到着する。
ここまでで誰とも会えなかった以上、即座に次の目的地に移るべきだろう。
しかし、自転車では身体に疲労が蓄積していく。
大事な場面で疲れていましたなど、馬鹿な結果は望んでいない。
ならば疲れずに移動できる手段を考える。それが電車だ。
無論、大きな交通手段だけあって他人との接触の恐れもあるが、それもまたいい。
都合のいい人間がいれば、品定めをして捕獲する手間も省けるもの。
また襲ってきたとしても、同じ車両に閉じ込められない限り、逃げる手段はある。
最悪、乗るまでしなくても駅周辺で根城を構えていればいい。
そこまで計算した所で、美希は音を立てないように自転車を止める。
停車してドアが開放している電車の向こうで、人影が見えたのだ。
何時でも乗れるよう、自転車を近くの建物の壁に立てかけ、そっと様子を窺う。
視線の先には、和服らしい物を着た女性が視線を下ろし立っていた。
目線を辿っていくと、良くは判らないが誰かの露出した肌が見え隠れする。
もう少し近付けば確認できるが、気付かれては面倒だ。
これがもし、予想の範疇であれば無防備な様子で近付いていただろう。
到着したのは中心街。なかなかに都会的な街並みだ。
自転車は置き去りにしようか考えたが、デイパックに詰め込めるのが判明し破棄を取りやめる。
ゴーストタウンの様な街を、一台の自転車がゆっくりと滑り続けていく。
ここまでの道のりは美希の想像よりも遥かに楽なものだった。
旅館から山里まで舗装された道が続き、山里から中心街までもまた綺麗な道路。
とは言え、ほんの僅かだが疲労感があるのは否めない。
途中で放送を聞くため移動を停止したが、地図に諸々書き込むだけで済ましている。
あとはひたすら、周囲に気を配りつつペダルを踏み続ける行為の連続。
美希にとって必要な情報は禁止エリアと殺された総数。
他の情報など、美希にとってはなんの意味を成さないのだ。
例えば対馬レオが死んだ事も、右の耳から左の耳に流していい位の事。
いま必要なのは、上手く操れて、且つ身を守る立派な盾。
そしてその盾を探すために、美希は敢えて人通りの多そうな大通りを走り続けた。
が、成果を得る事は無く、やがて自転車は駅に到着する。
ここまでで誰とも会えなかった以上、即座に次の目的地に移るべきだろう。
しかし、自転車では身体に疲労が蓄積していく。
大事な場面で疲れていましたなど、馬鹿な結果は望んでいない。
ならば疲れずに移動できる手段を考える。それが電車だ。
無論、大きな交通手段だけあって他人との接触の恐れもあるが、それもまたいい。
都合のいい人間がいれば、品定めをして捕獲する手間も省けるもの。
また襲ってきたとしても、同じ車両に閉じ込められない限り、逃げる手段はある。
最悪、乗るまでしなくても駅周辺で根城を構えていればいい。
そこまで計算した所で、美希は音を立てないように自転車を止める。
停車してドアが開放している電車の向こうで、人影が見えたのだ。
何時でも乗れるよう、自転車を近くの建物の壁に立てかけ、そっと様子を窺う。
視線の先には、和服らしい物を着た女性が視線を下ろし立っていた。
目線を辿っていくと、良くは判らないが誰かの露出した肌が見え隠れする。
もう少し近付けば確認できるが、気付かれては面倒だ。
これがもし、予想の範疇であれば無防備な様子で近付いていただろう。
だが、目の前の光景を見る限りそんな安直な行動は出来ない。
近付かなかった理由。それは、女性の手には鞘から抜かれた刀が握られていたのだ。
仮に床に転がる人間を殺した後だったならば、身を隠しやり過ごしておきたい。
これから殺すのであったとしても、同じようにまた身を伏せておくつもりだ。
もしかしたら女性が隙を見せて、殺せる瞬間を垣間見せる可能性だってある。
しかしそれでも美希は動くつもりなど無い。殺せるならば「100%」でなければ。
この島で生き抜いて行く限り、いつか必ず自分で人を殺す瞬間が訪れる。
が、それまで無駄な危険地帯に足を踏み入れる必要など無い。
そして逆に考える。もしまだ床に転がる人間が生きていて、利用できるならばと。
自分にとって最大限利益をもたらす結果を求め、美希は脳を絞る。
そう。美希のする事は、いま目の前で何かが起こるのを待ちわびるばかりなのだ。
近付かなかった理由。それは、女性の手には鞘から抜かれた刀が握られていたのだ。
仮に床に転がる人間を殺した後だったならば、身を隠しやり過ごしておきたい。
これから殺すのであったとしても、同じようにまた身を伏せておくつもりだ。
もしかしたら女性が隙を見せて、殺せる瞬間を垣間見せる可能性だってある。
しかしそれでも美希は動くつもりなど無い。殺せるならば「100%」でなければ。
この島で生き抜いて行く限り、いつか必ず自分で人を殺す瞬間が訪れる。
が、それまで無駄な危険地帯に足を踏み入れる必要など無い。
そして逆に考える。もしまだ床に転がる人間が生きていて、利用できるならばと。
自分にとって最大限利益をもたらす結果を求め、美希は脳を絞る。
そう。美希のする事は、いま目の前で何かが起こるのを待ちわびるばかりなのだ。
◇◇◇
停車してから暫く時間が経った。
放送によれば、この車両はもう少しここに留まるらしい。行動を起こすならば今だろう。
ユメイの頭の中を、様々な言葉が巡り続けていく。
臆病な本音が、必死でユメイの視界に覆いかぶさる。
そしてそれをまた、願いと義務とが強引に剥がしては破く。
再び腰を下ろし、全裸の男が握っていた刀を優しく奪い取る。
少しだけ触れた体温は、火傷するくらい熱いものだった。
未だに苦悶の表情を続ける全裸の男に謝罪し、ユメイはゆっくりと鞘から光りを抜き出す。
重い。力一杯の両手で支えても、足元がおぼつかない。
だがこの重さならば、失敗する可能性は低いだろう。
摺り足で身体を揺らし、立ち位置をしっかりさせる。股の下には、屈強な男の身体。
事と次第によっては、二度と桂に顔向けできなくなるだろう。
だが、それでもユメイはやらねばならない。
桂を抱きしめる事が叶わない。その地獄で桂が救えるならば。
少しだけ風が吹く。緊張したユメイに突き刺さる空気は、肌を破くように刺激する。
痛みで理性が舞い戻る。まだ止められると。
汚れた自分を見て、桂は何を思うのかと。
刃を振りかざすのではなく、手を差し伸べるべきだと。
悩んでいても時間は過ぎていく。何時男達が目を覚ますか判らない。
ゆっくりと深呼吸。
せめぎ合う二つの本音を、ユメイは一色に染める。瞳にぶれは無い。
両手に持った刀をゆっくりと自分の胸の位置で固定し、刃を床に向ける。
そして、一瞬……
放送によれば、この車両はもう少しここに留まるらしい。行動を起こすならば今だろう。
ユメイの頭の中を、様々な言葉が巡り続けていく。
臆病な本音が、必死でユメイの視界に覆いかぶさる。
そしてそれをまた、願いと義務とが強引に剥がしては破く。
再び腰を下ろし、全裸の男が握っていた刀を優しく奪い取る。
少しだけ触れた体温は、火傷するくらい熱いものだった。
未だに苦悶の表情を続ける全裸の男に謝罪し、ユメイはゆっくりと鞘から光りを抜き出す。
重い。力一杯の両手で支えても、足元がおぼつかない。
だがこの重さならば、失敗する可能性は低いだろう。
摺り足で身体を揺らし、立ち位置をしっかりさせる。股の下には、屈強な男の身体。
事と次第によっては、二度と桂に顔向けできなくなるだろう。
だが、それでもユメイはやらねばならない。
桂を抱きしめる事が叶わない。その地獄で桂が救えるならば。
少しだけ風が吹く。緊張したユメイに突き刺さる空気は、肌を破くように刺激する。
痛みで理性が舞い戻る。まだ止められると。
汚れた自分を見て、桂は何を思うのかと。
刃を振りかざすのではなく、手を差し伸べるべきだと。
悩んでいても時間は過ぎていく。何時男達が目を覚ますか判らない。
ゆっくりと深呼吸。
せめぎ合う二つの本音を、ユメイは一色に染める。瞳にぶれは無い。
両手に持った刀をゆっくりと自分の胸の位置で固定し、刃を床に向ける。
そして、一瞬……
その研ぎ澄まされた刃を――
【おおむね変態チーム】
【B-7 駅構内/1日目 朝】
【B-7 駅構内/1日目 朝】
【大十字九郎@機神咆吼デモンベイン】
【装備】:手ぬぐい(腰巻き状態)。ガイドブック(140ページのB4サイズ)
【所持品】:支給品一式、不明支給品×1(本人確認済。不思議な力を感じるもの)
【状態】:悶絶、気絶、疲労(大)背中にかなりのダメージ、股間に重大なダメージ、ほぼ全裸。右手の手のひらに火傷。
【思考・行動】
0:気絶
【備考】
※神宮司奏・浅間サクヤと情報を交換しました。
※第二回放送の頃に、この駅【F-7】に戻ってくる予定。
※第一回放送を聞き逃しました
【装備】:手ぬぐい(腰巻き状態)。ガイドブック(140ページのB4サイズ)
【所持品】:支給品一式、不明支給品×1(本人確認済。不思議な力を感じるもの)
【状態】:悶絶、気絶、疲労(大)背中にかなりのダメージ、股間に重大なダメージ、ほぼ全裸。右手の手のひらに火傷。
【思考・行動】
0:気絶
【備考】
※神宮司奏・浅間サクヤと情報を交換しました。
※第二回放送の頃に、この駅【F-7】に戻ってくる予定。
※第一回放送を聞き逃しました
【橘平蔵@つよきす -Mighty Heart-】
【装備】:マスク・ザ・斉藤の仮面@リトルバスターズ!
【所持品】:支給品一式、地方妖怪マグロのシーツ@つよきす -Mighty Heart- 不明支給品0~1】
【状態】:気絶中、肉体的疲労(大)左腕に二箇所の切り傷
【思考・行動】
基本方針:ゲームの転覆、主催者の打倒
0:許せ…若人よ
2:女性(ユメイ)が目を覚ましたら、次の協力者を増やす
3:生徒会メンバーたちを保護する
4:どうでもいいことだが、斉藤の仮面は個人的に気に入った
【備考】
※自身に掛けられた制限に気づきました。
※遊園地は無人ですが、アトラクションは問題なく動いています。
※スーツの男(加藤虎太郎)と制服の少女(エレン)を危険人物と判断、道を正してやりたい。
※第一回放送を聞き逃しました
【装備】:マスク・ザ・斉藤の仮面@リトルバスターズ!
【所持品】:支給品一式、地方妖怪マグロのシーツ@つよきす -Mighty Heart- 不明支給品0~1】
【状態】:気絶中、肉体的疲労(大)左腕に二箇所の切り傷
【思考・行動】
基本方針:ゲームの転覆、主催者の打倒
0:許せ…若人よ
2:女性(ユメイ)が目を覚ましたら、次の協力者を増やす
3:生徒会メンバーたちを保護する
4:どうでもいいことだが、斉藤の仮面は個人的に気に入った
【備考】
※自身に掛けられた制限に気づきました。
※遊園地は無人ですが、アトラクションは問題なく動いています。
※スーツの男(加藤虎太郎)と制服の少女(エレン)を危険人物と判断、道を正してやりたい。
※第一回放送を聞き逃しました
【ユメイ@アカイイト】
【装備】:物干し竿@Fate/stay night[Realta Nua]
【所持品】:支給品一式、メガバズーカランチャー@リトルバスターズ!、不明支給品0~2
【状態】:健康、決意。
【思考・行動】
基本方針:桂を保護する
0:この刃を――
1:桂を捜索する
2:烏月、サクヤ、葛とも合流したい
【備考】
※霊体化はできません、普通の人間の体です。
※月光蝶については問題なく行使できると思っています。
※メガバズーカランチャーを行使できたことから、少なからずNYPに覚醒していると予想されます。
【装備】:物干し竿@Fate/stay night[Realta Nua]
【所持品】:支給品一式、メガバズーカランチャー@リトルバスターズ!、不明支給品0~2
【状態】:健康、決意。
【思考・行動】
基本方針:桂を保護する
0:この刃を――
1:桂を捜索する
2:烏月、サクヤ、葛とも合流したい
【備考】
※霊体化はできません、普通の人間の体です。
※月光蝶については問題なく行使できると思っています。
※メガバズーカランチャーを行使できたことから、少なからずNYPに覚醒していると予想されます。
【B-7 駅周辺/1日目 早朝】
【山辺美希@CROSS†CHANNEL ~to all people~】
【装備】:投げナイフ1本
【所持品】:支給品一式×2、投げナイフ4本、ランダム支給品0~2(本人確認済み)
ノートパソコン、MTB
【状態】:恐怖(芝居)、健康、呆れ
【思考・行動】
基本方針:とにかく生きて帰る 集団に隠れながら、優勝を目指す
0:結末を見てから動く。
1:場合によっては、駅を拠点に他に利用できそうな人間を探す
2:太一、曜子を危険視
3:刀を持った人間が危険だと言う偽情報を、出会った人間に教える
【備考】
※ループ世界から固有状態で参戦。
※つよきす勢のごく簡単な人物説明を受けました。
【山辺美希@CROSS†CHANNEL ~to all people~】
【装備】:投げナイフ1本
【所持品】:支給品一式×2、投げナイフ4本、ランダム支給品0~2(本人確認済み)
ノートパソコン、MTB
【状態】:恐怖(芝居)、健康、呆れ
【思考・行動】
基本方針:とにかく生きて帰る 集団に隠れながら、優勝を目指す
0:結末を見てから動く。
1:場合によっては、駅を拠点に他に利用できそうな人間を探す
2:太一、曜子を危険視
3:刀を持った人間が危険だと言う偽情報を、出会った人間に教える
【備考】
※ループ世界から固有状態で参戦。
※つよきす勢のごく簡単な人物説明を受けました。
080:血も涙もないセカイ | 投下順 | 082:サクラノミカタ |
080:血も涙もないセカイ | 時系列順 | 082:サクラノミカタ |
061:D6温泉を覆う影 | 山辺美希 | 095:アリス・イン・ナイトメア |
062:楽園からの追放 | ユメイ | 095:アリス・イン・ナイトメア |
062:楽園からの追放 | 橘平蔵 | 095:アリス・イン・ナイトメア |
062:楽園からの追放 | 大十字九郎 | 095:アリス・イン・ナイトメア |