満ちる季節の足音を(前編) ◆wYjszMXgAo
◇ ◇ ◇
劇場の側を通り過ぎ、俺たちが目指したのはG-6、歓楽街の東寄りに鎮座している施設。
普遍的なイメージとは存外異なっていて派手なオブジェや輝くネオンサインなどはなく、むしろ西洋の神殿を近代的にしたと言った方がしっくり来るその佇まい。
周囲の建物からは明らかに存在感の違うそれは、一般にカジノと呼ばれる遊戯施設だ。
正確に言うならラスベガスに多いカジノホテルで、一階から地下にかけて存在するカジノの上に、宿泊施設がくっついた構造になっている。
……まあ、とりあえずメインの施設はカジノなのでどうでもいいといえばどうでもよくはあるんだが。
普遍的なイメージとは存外異なっていて派手なオブジェや輝くネオンサインなどはなく、むしろ西洋の神殿を近代的にしたと言った方がしっくり来るその佇まい。
周囲の建物からは明らかに存在感の違うそれは、一般にカジノと呼ばれる遊戯施設だ。
正確に言うならラスベガスに多いカジノホテルで、一階から地下にかけて存在するカジノの上に、宿泊施設がくっついた構造になっている。
……まあ、とりあえずメインの施設はカジノなのでどうでもいいといえばどうでもよくはあるんだが。
とはいえ、目的はカジノのゲームなんかではない。
その中の一角、地下への階段に隣接するように設けられている小部屋こそが俺の求めていたものだ。
その中の一角、地下への階段に隣接するように設けられている小部屋こそが俺の求めていたものだ。
「……ビンゴ。地図には発電所があるから電気は通ってるとは思ったけど……、試しに来てみて正解だったな」
「……何? これ……。見たことないものばかり……」
カジノというのは大金をやり取りする性質上、非常に警備に力を入れている。
意外に思うかもしれないが、カジノの町として有名なラスベガスはアメリカで一番治安の整っている場所とされているくらいなのだ。
……つまり、だ。
俺は警備用、治安維持用の設備がおそらく施設の中でもトップクラスだと読んだのだが、まさしくその通り。
意外に思うかもしれないが、カジノの町として有名なラスベガスはアメリカで一番治安の整っている場所とされているくらいなのだ。
……つまり、だ。
俺は警備用、治安維持用の設備がおそらく施設の中でもトップクラスだと読んだのだが、まさしくその通り。
このカジノのセキュリティの中枢、コントロールルームに俺とトルタは足を踏み入れている。
……ここならば、少なくとも参加者に対してはかなり有効な対策を取ることができるはずだ。
当初の計画通りに線路上を移動するにはリスクが大きすぎる現状、活動拠点にする価値はある。
おそらくは主催連中の監視下に置かれていることを差っ引いても、だ。
……ここならば、少なくとも参加者に対してはかなり有効な対策を取ることができるはずだ。
当初の計画通りに線路上を移動するにはリスクが大きすぎる現状、活動拠点にする価値はある。
おそらくは主催連中の監視下に置かれていることを差っ引いても、だ。
このカジノの殆ど全域をカバーするように設けられた監視カメラの画像は、それだけでも相手の接近を察知するのに役に立つ。
また、このカジノの従業員用、機械のメンテ用の通路や裏口の見取り図が手に入れられたのも大きい。
ボタン一つで動かせる火災対策用の隔壁や消火ガスの噴出口も何箇所かに仕掛けられており、相手の行動の妨害に使えるだろう。
また、このカジノの従業員用、機械のメンテ用の通路や裏口の見取り図が手に入れられたのも大きい。
ボタン一つで動かせる火災対策用の隔壁や消火ガスの噴出口も何箇所かに仕掛けられており、相手の行動の妨害に使えるだろう。
……俺達の身の安全を確保する為にも、とにかく今は落ち着いて休める場所が必要だ。
無謀と勇気は紙一重、こんな状態でのこのこうろつき回っても鴨が葱を背負っているのと同じこと。
俺たちの休息は、長い目で見れば必ず理樹たちのためになる。……その筈だ。
無謀と勇気は紙一重、こんな状態でのこのこうろつき回っても鴨が葱を背負っているのと同じこと。
俺たちの休息は、長い目で見れば必ず理樹たちのためになる。……その筈だ。
それに、ここを真っ先に探していた関係上詳しくは見ていないのだが、このカジノの景品はどうやら強力なアイテムらしい。
上手く使えばかなり有利にことを進められるかもしれない。
防弾チョッキや銃と言ったものから伝説の武器の名前を冠したもの。
ラヴクラフトの神話に出てくる本なんていう怪しい代物まで置いてある。
……他にも、ざっと目を通しただけでも色々なものが置かれており、もしかしたらトルタや俺の治療に使える何かしらがあるかもしれない。
が、現状一番俺の気を引いたのは『USBメモリ』という景品の存在だ。
上手く使えばかなり有利にことを進められるかもしれない。
防弾チョッキや銃と言ったものから伝説の武器の名前を冠したもの。
ラヴクラフトの神話に出てくる本なんていう怪しい代物まで置いてある。
……他にも、ざっと目を通しただけでも色々なものが置かれており、もしかしたらトルタや俺の治療に使える何かしらがあるかもしれない。
が、現状一番俺の気を引いたのは『USBメモリ』という景品の存在だ。
……必要な獲得枚数は、10000枚。
1000枚で入手できる防弾チョッキと比べても、単なるUSBメモリにしてはレートが高すぎる。
となると、あの中には重要な情報が入っている可能性は高いのではないか。
それこそ首輪の設計図のようなものが、だ。
1000枚で入手できる防弾チョッキと比べても、単なるUSBメモリにしてはレートが高すぎる。
となると、あの中には重要な情報が入っている可能性は高いのではないか。
それこそ首輪の設計図のようなものが、だ。
ちなみにカジノのコインを入手する方法は主に物々交換で、
支給品1つで250枚(複数個支給されたものは、250に現在の個数/支給時の個数をかけた枚数)。
首輪1つで500枚、らしい。
ちなみに交換した支給品は無くなってしまう訳ではなく、新たな景品になるとのこと。
支給品1つで250枚(複数個支給されたものは、250に現在の個数/支給時の個数をかけた枚数)。
首輪1つで500枚、らしい。
ちなみに交換した支給品は無くなってしまう訳ではなく、新たな景品になるとのこと。
……とはいえ、何故かカジノに放置されていた500枚のコインがあったので、一応はこれを元手にするつもりだ。
コインや景品の交換方法は、自動販売機みたいな機械の横に設置されたボックスで出し入れされるようだ。
まあ、棚とかに置いておいたら簡単にかっぱらわれちまうだろうし、当然といえば当然なんだが……、
……支給品扱いの『馬』を押し込んだりする光景はシュールだと思う。
いや、スターブライトを交換するつもりはないぞ? 今のところは。
まあ、棚とかに置いておいたら簡単にかっぱらわれちまうだろうし、当然といえば当然なんだが……、
……支給品扱いの『馬』を押し込んだりする光景はシュールだと思う。
いや、スターブライトを交換するつもりはないぞ? 今のところは。
……しかしまあ、首輪を通貨代わりにしている辺り、いい趣味してるぜ、連中。
強力なアイテム欲しさに殺し合いを進める連中も出てくるだろう。
……とりあえず、俺の手にあるこのティトゥスの首輪は交換するつもりはない。
後々の研究の為にも、これひとつは確保しておくべきだろう。
強力なアイテム欲しさに殺し合いを進める連中も出てくるだろう。
……とりあえず、俺の手にあるこのティトゥスの首輪は交換するつもりはない。
後々の研究の為にも、これひとつは確保しておくべきだろう。
そして、どうにかコインを入手したとして、それを増やす為には、ゲームをする事が必要だ。
とはいえこの施設は無人。スロット以外のゲームをするにはどうしたらいいのだろうか。
そんな疑問を抱いたが、コイン交換の機械を調べてみればその答えは書いてあった。
とはいえこの施設は無人。スロット以外のゲームをするにはどうしたらいいのだろうか。
そんな疑問を抱いたが、コイン交換の機械を調べてみればその答えは書いてあった。
『ディーラーロボ“メカコトミ”・起動スイッチ』
そんな説明書きとともにあからさまな赤いスイッチが設置されている。
何か妙な物が飛び出してきそうなのですぐに押しはしなかったが、おそらくあれを押せばゲームの相手が出てくるのだろう。
何か妙な物が飛び出してきそうなのですぐに押しはしなかったが、おそらくあれを押せばゲームの相手が出てくるのだろう。
……まあ、こんな理由で俺はここを拠点に選ぶことにした。
これからどうするのかのプランはあるが、今しばらくは体力の回復に努めるつもりだ。
このコントロールルームから周囲を警戒しつつ、余裕があればカジノの景品を狙う。
当面できるのはそれ位だろう。
これからどうするのかのプランはあるが、今しばらくは体力の回復に努めるつもりだ。
このコントロールルームから周囲を警戒しつつ、余裕があればカジノの景品を狙う。
当面できるのはそれ位だろう。
……トルタの怪我を考えても、俺自身の体調を考えても、無理はできない。
せめて、こいつくらいは……守ってやりたいと思う。
その為にセキュリティの優れていると睨んだカジノへやってきた。
ついていた事にティトゥスの持っていた支給品も動き回らずにできる選択肢を増やしてくれるアイテムだったため、
俺は躊躇い無くひとまずの戦線からの撤退を選ぶことができたのだ。
せめて、こいつくらいは……守ってやりたいと思う。
その為にセキュリティの優れていると睨んだカジノへやってきた。
ついていた事にティトゥスの持っていた支給品も動き回らずにできる選択肢を増やしてくれるアイテムだったため、
俺は躊躇い無くひとまずの戦線からの撤退を選ぶことができたのだ。
……ただ。
俺一人で行動していたのなら、同じくらいの怪我を負っていても無茶をし続けたのかもしれない。
理樹の、鈴のためならばそんな事は屁でもないと言わんばかりに。
……俺の中で、確実にトルタの存在は大きくなってきている。
――――それが望ましいことなのかどうか。俺にそれを判断する事はできない。
俺一人で行動していたのなら、同じくらいの怪我を負っていても無茶をし続けたのかもしれない。
理樹の、鈴のためならばそんな事は屁でもないと言わんばかりに。
……俺の中で、確実にトルタの存在は大きくなってきている。
――――それが望ましいことなのかどうか。俺にそれを判断する事はできない。
理樹たちを救う、という観点だけで考えればデメリットは大きい。
彼女に気を使うあまり、あいつらを失ってしまったとしたら。
……それは全て、俺の責任に他ならない。
たとえそれが俺の与り知らない、手の届かない場所で起こった悲劇であってもだ。
彼女に気を使うあまり、あいつらを失ってしまったとしたら。
……それは全て、俺の責任に他ならない。
たとえそれが俺の与り知らない、手の届かない場所で起こった悲劇であってもだ。
……だが、それでも俺は彼女を見捨てる気にはなれない。
ここに来るまでのやりとりで、俺は強く強くそれを思い知らされてしまったのだから。
ここに来るまでのやりとりで、俺は強く強くそれを思い知らされてしまったのだから。
俺がトルタを見捨てない、第二の理由。
俺は、情けないことに――――、寂しかったのかもしれない。
……だから、彼女というパートナーが、とても嬉しいものに感じられる。
彼女に甘えそうになる。
彼女に甘えそうになる。
ずっと、ずっと。
あいつらを強くする為に、頑張ってきた。
あいつらを強くする為に、頑張ってきた。
バスターズのあいつらの理樹への気持ちを弄ぼうと。
謙吾を傷つけ、古式を侮辱しようと。
鈴を一人引き離し、追い詰めようと。
……俺自身が現実とあの世界の狭間で藻掻こうとも。
謙吾を傷つけ、古式を侮辱しようと。
鈴を一人引き離し、追い詰めようと。
……俺自身が現実とあの世界の狭間で藻掻こうとも。
それがあいつらの為になるのなら、と、それだけを胸に。
……俺は、一人で手を汚してきた。
……俺は、一人で手を汚してきた。
だって、そうだろ?
俺はあいつらより年上で、リーダーなんだ。
俺が面倒を見てやらなくちゃいけないだろ。たとえ、誰に理解されなくてもな。
俺はあいつらより年上で、リーダーなんだ。
俺が面倒を見てやらなくちゃいけないだろ。たとえ、誰に理解されなくてもな。
なのに、笑っちまうよな。
……心のどこかで、俺はそれを誰かに受け止めて欲しかったのかもしれない。
支えて欲しかったのかもしれない。
……心のどこかで、俺はそれを誰かに受け止めて欲しかったのかもしれない。
支えて欲しかったのかもしれない。
……リーダーであるなら、一人なのが当然なのにな。
ランキングバトルのように、一番上、頂点にいるのはたった一人だ。
絶対的な、あいつらを導く為の存在なんだから。
ランキングバトルのように、一番上、頂点にいるのはたった一人だ。
絶対的な、あいつらを導く為の存在なんだから。
だけど――――。
謙吾と真人のような、互いに磨き合うライバルでもいい。
理樹と鈴のような、それぞれを支え合い、理不尽に立ち向かえる関係でもいい。
理樹と鈴のような、それぞれを支え合い、理不尽に立ち向かえる関係でもいい。
……結局俺には、そんな存在がいなかった。
だからこそ、肩を並べられる彼女を気に留めているのかも、な。
……俺の弱さを認めてくれた、彼女に。
だからこそ、肩を並べられる彼女を気に留めているのかも、な。
……俺の弱さを認めてくれた、彼女に。
……だけど、だからこそ俺は躊躇わずに決断しよう。
それが彼女を突き放すことになるとしても。
なに、何度もやってきたことじゃないか。
……これでいいんだ。
それが彼女を突き放すことになるとしても。
なに、何度もやってきたことじゃないか。
……これでいいんだ。
……きっと、一番彼女の為になれることだから。
◇ ◇ ◇
「……トルタ、使い方は覚えたか?」
「うん、大丈夫だと思う。
……恭介は凄いね、こんなのを簡単に使いこなせるなんて……」
……恭介は凄いね、こんなのを簡単に使いこなせるなんて……」
ケイタイ電話、という物を手にしたまま、私は機械の海の中で恭介と向かい合う。
……周りのそれらの使い方をメモしながら私に説明してくれた後、恭介が手渡したのはやはり機械だった。
あのティトゥスという侍の持っていたその機械は、遠くの人間と話ができるものらしい。
このカジノに備え付けられた『電話』からかけたそれは、確かに私の手元にあるケイタイ電話に繋がって話すことができた。
……周りのそれらの使い方をメモしながら私に説明してくれた後、恭介が手渡したのはやはり機械だった。
あのティトゥスという侍の持っていたその機械は、遠くの人間と話ができるものらしい。
このカジノに備え付けられた『電話』からかけたそれは、確かに私の手元にあるケイタイ電話に繋がって話すことができた。
……電話、という機械は聞いたことがあるような気も無いような気もする。
少なくとも、手紙でのやりとりが主なピオーヴァでは見かけたことはない。故郷でも同じくだ。
……恭介曰くこの殺し合いの参加者は、いくつかの違う世界や時代から連れて来られた可能性が高いらしい。
それを否定する材料はない。
いろいろ、私の知っている常識や物理法則と違うことが多すぎるからだ。
少なくとも、手紙でのやりとりが主なピオーヴァでは見かけたことはない。故郷でも同じくだ。
……恭介曰くこの殺し合いの参加者は、いくつかの違う世界や時代から連れて来られた可能性が高いらしい。
それを否定する材料はない。
いろいろ、私の知っている常識や物理法則と違うことが多すぎるからだ。
何にせよ、これからどうするかという具体的な話をするに当たって、それが必要なものになるみたいだ。
手に入れたものを早速組み込む辺り、何というか、恭介らしいと苦笑する。
まだちょっと使うには不安があるけど、恭介のメモを見て使えば何とかなるだろう。
手に入れたものを早速組み込む辺り、何というか、恭介らしいと苦笑する。
まだちょっと使うには不安があるけど、恭介のメモを見て使えば何とかなるだろう。
「別にそうでもないさ。住む時代や世界が違えば、文化だって違う。
俺のいた場所ではたまたまこういうのが普及していただけさ。
……お前の歌や料理の方が、どんな場所でだって通用する凄いものだと思うぞ」
俺のいた場所ではたまたまこういうのが普及していただけさ。
……お前の歌や料理の方が、どんな場所でだって通用する凄いものだと思うぞ」
「そう……かな」
何となく頬をかき、気恥ずかしくなったので話題を戻すことにする。
「……で、これをどう使うの? 恭介の方が使いこなせるんだから、あなたが持っていたほうがいいと思うけど……」
……そう、私が持つ意味はなんだろう。
私が覚えたのなんて、せいぜい相手に電話をかけるだけ。
『電話帳』という機能をようやく理解できたくらいだ。
他にも色々機能があるみたいだけど、どうにも使いこなせそうにない。
私が覚えたのなんて、せいぜい相手に電話をかけるだけ。
『電話帳』という機能をようやく理解できたくらいだ。
他にも色々機能があるみたいだけど、どうにも使いこなせそうにない。
「ああ。……それを今から説明する。聞いてくれ」
こくりと頷くと、それを確認した恭介は腕を組んで私と目と目を合わせる。
「……まず第一に、俺たちは消耗が酷い。
だから、今までのミッションをそのまま遂行する事は難しいだろう」
だから、今までのミッションをそのまま遂行する事は難しいだろう」
……意外な言葉から、恭介の話は始まった。
あまりにも唐突なその言葉に一瞬私は呆然としてしまう。
あまりにも唐突なその言葉に一瞬私は呆然としてしまう。
「……え? 諦めるの、恭介。……そんなのでいいの?」
「いや、基本方針に変更はない。
……ただ、それを固める幾つかのプランを変更する」
……ただ、それを固める幾つかのプランを変更する」
真剣な顔付きの恭介に、私も自然生唾を飲み込む。
……何だろう、嫌な予感がする。
……何だろう、嫌な予感がする。
「……とりあえず、俺もお前もしばらくは休息に時間を使おう。
とりあえず2~3時間。
……そのくらいは休んでおかないと、満足に動くこともできないだろ。
その間はここで周囲を監視しながら、ついでにカジノでのアイテム回収を狙うつもりだ。
一番怪我の浅い如月にはカジノ周辺の施設を哨戒、探索してもらう。あいつも了承済みだ。
……ここまではいいな?」
とりあえず2~3時間。
……そのくらいは休んでおかないと、満足に動くこともできないだろ。
その間はここで周囲を監視しながら、ついでにカジノでのアイテム回収を狙うつもりだ。
一番怪我の浅い如月にはカジノ周辺の施設を哨戒、探索してもらう。あいつも了承済みだ。
……ここまではいいな?」
確認を促す恭介に肯定の意思を見せてみれば、彼はしばらく目を瞑った後、吐き出すようにゆっくりと続きを告げ始めた。
「……そして、問題は3時を過ぎてからの行動だ。いいか?」
「……うん」
「……今度は俺一人が周囲の探索に出て、他の参加者との接触を行なう。つまり、ミッションの再開だ。
如月は俺と入れ替わりでここで休憩。
以下、俺と如月は3時間おきにローテーション。
放送と、その合間の時に情報交換しつつ交代って事だな」
如月は俺と入れ替わりでここで休憩。
以下、俺と如月は3時間おきにローテーション。
放送と、その合間の時に情報交換しつつ交代って事だな」
――――あれ?
……何か今、おかしくなかった……?
……何か今、おかしくなかった……?
……『俺一人』……って、何?
「え……? 恭、介。私は……?」
言い間違い、だよね?
……それとも意地悪言ってるだけ?
……それとも意地悪言ってるだけ?
……もう、そうなら酷いよ、恭介。
私だって――――、
私だって――――、
「トルタ。……お前は、ここで待機していてもらう」
あっさりと、恭介は私の逃避を切り捨てる。
……なんで? どうして?
……なんで? どうして?
ううん、分かってる。でも、感情がそれに納得してくれない。
「……どういう、こと?
ねえ、恭介。……それって、私が役に立てないって事?」
ねえ、恭介。……それって、私が役に立てないって事?」
だから、その感情をねじ伏せるように。
恭介は容赦なく事実を口にした。
恭介は容赦なく事実を口にした。
「……ああ。参加者を探して歩き回るには、足の怪我は致命的過ぎる。
言いたくないが、敢えてはっきり言うぜ。
このミッション……、今のお前は正直、足手まといだ」
言いたくないが、敢えてはっきり言うぜ。
このミッション……、今のお前は正直、足手まといだ」
とん、と力が抜けて椅子に体がもたれかかる。
……ああ、何となくこうなるかもとは思ってた。
考えなくても分かる当然の選択肢だっていうのにね。
……ああ、何となくこうなるかもとは思ってた。
考えなくても分かる当然の選択肢だっていうのにね。
……だけど恭介は見捨てるなんて口だけで、仲間をどんな時もカバーしてみせる人なんだって、いつの間にかどこかで信じていたんだろう。
そんな幻想に縋るように、私はうわごとの様にいつか聞いた言葉を繰り返す。
そんな幻想に縋るように、私はうわごとの様にいつか聞いた言葉を繰り返す。
「……でも、恭介。……信頼される為には、二人でいることが必要だって……」
「ああ。だけど、現状メリットよりもリスクの方が上回っているって話さ。
……新たに誰かと組もうにも、お前みたいに信頼できる奴と出会える可能性はまず0だろう。
如月は信頼できるけど、それも奴が俺たちがゲームに乗っていないと思っているからこそだしな。
……これ以上のミッションの遂行は、俺一人でしかできないって訳だ」
……新たに誰かと組もうにも、お前みたいに信頼できる奴と出会える可能性はまず0だろう。
如月は信頼できるけど、それも奴が俺たちがゲームに乗っていないと思っているからこそだしな。
……これ以上のミッションの遂行は、俺一人でしかできないって訳だ」
……死刑宣告。
全部の可能性を、理性と理論で真っ向から撃破される。
……だから、どうしようもないと理解してしまった。
全部の可能性を、理性と理論で真っ向から撃破される。
……だから、どうしようもないと理解してしまった。
――――打ちのめされて空っぽになるかと思ったけど、どうやら私は自分が考えていたより嫌な人間だったみたいだ。
何か不快なものがどんどん私の中から生まれて来る。
惨めさと、理不尽への怒りと悔しさと。
……誰にも見せたくない感情が、湧き出しては沈殿していく。
何か不快なものがどんどん私の中から生まれて来る。
惨めさと、理不尽への怒りと悔しさと。
……誰にも見せたくない感情が、湧き出しては沈殿していく。
……きつく言い過ぎたな。……だけどこれは、」
……何か言おうとする恭介が、鬱陶しい。
そんな感情を彼に抱く自分を嫌悪する。
そんな感情を彼に抱く自分を嫌悪する。
「私の為、って? ……嫌だよ、何の役にも立てないまま、こんな……っ!!」
彼は気を使ってくれたのだ。
なのにこんな、八つ当たりじみた言葉をぶつけてしまう。
なのにこんな、八つ当たりじみた言葉をぶつけてしまう。
「そんな事はないさ。お前は……、」
何かを言おうとした恭介は、だけどそれを飲み込み、別のことを口にした。
……何だろう。
少し気になったけど、続く言葉を聞いて、そんな疑問はすぐにどこかに消えてしまった。
……何だろう。
少し気になったけど、続く言葉を聞いて、そんな疑問はすぐにどこかに消えてしまった。
「……いや、何でもない。
それよりもお前にもやってもらいたいことがある。お前にしか頼めないことだ」
それよりもお前にもやってもらいたいことがある。お前にしか頼めないことだ」
……私にしか頼めないこと。
現金なことに、それだけで私の頭はある程度冷えたようだ。
……だけど、それだけで感情が収まったわけでもない。
現金なことに、それだけで私の頭はある程度冷えたようだ。
……だけど、それだけで感情が収まったわけでもない。
「……如月に頼めばいいんじゃないの?」
いじけたような声、ううん、いじけた声そのものが漏れ出てくる。
……そんな自分が気に食わなくて、更に感情は沈んでいく。
……そんな自分が気に食わなくて、更に感情は沈んでいく。
「いや、無理だ。……これはお前にしか頼めない。
……俺の背中を預けられるパートナーは、お前だけなんだ」
……俺の背中を預けられるパートナーは、お前だけなんだ」
……僅かな喜びを、その言葉に抱く。
気がつけば私は先を促していた。
気がつけば私は先を促していた。
「……言ってみて」
「……俺は後で他の連中と接触した際に、有能かつ本当に信頼できると判断した奴をここに送るつもりだ。
トルタ、お前にはそいつらに俺たちへの絶対的な信頼を築かせて欲しい。如月も含めて……な」
トルタ、お前にはそいつらに俺たちへの絶対的な信頼を築かせて欲しい。如月も含めて……な」
絶対的な信頼?
……単なる共闘関係でなく、まず疑われないような関係って事かな。
恭介が私に何をして欲しいのか、うっすらと理解する。
……単なる共闘関係でなく、まず疑われないような関係って事かな。
恭介が私に何をして欲しいのか、うっすらと理解する。
「ここに……って、カジノに?」
「ああ、そういう連中が集まっているなら色々心強いだろ?
……如月みたいにお人好しで腕も立つなら護衛にはちょうどいいし、首輪の解除に貢献できそうな能力も持っている。
そんな連中を利用して身の安全を確保すると同時、いずれ俺たちが暗躍するときに疑われる要素を消しておくんだ。
こいつらなら信頼できる、まさか裏切るはずはない。
……そう思わせたならお前の、いや、俺たちの勝ちだ。
脱出の可能性が出てきたのなら、そのまま仲間のままでもいい訳だしな。
信頼を築いて損はしない。
……それに、カジノのアイテムには正直、とんでもない枚数を稼がないと手に入らないものもある。
だったら人海戦術で責めた方がいい」
……如月みたいにお人好しで腕も立つなら護衛にはちょうどいいし、首輪の解除に貢献できそうな能力も持っている。
そんな連中を利用して身の安全を確保すると同時、いずれ俺たちが暗躍するときに疑われる要素を消しておくんだ。
こいつらなら信頼できる、まさか裏切るはずはない。
……そう思わせたならお前の、いや、俺たちの勝ちだ。
脱出の可能性が出てきたのなら、そのまま仲間のままでもいい訳だしな。
信頼を築いて損はしない。
……それに、カジノのアイテムには正直、とんでもない枚数を稼がないと手に入らないものもある。
だったら人海戦術で責めた方がいい」
……つまり、終盤に実際に動くことを考えて、そのための仕込みをして欲しいってことか。
恭介は更に、私への協力を呼びかける。
恭介は更に、私への協力を呼びかける。
「……そしてもう一つ。
その携帯電話を利用して、他の参加者と接触してもらいたいんだ」
その携帯電話を利用して、他の参加者と接触してもらいたいんだ」
「他の参加者……?」
「ああ、その携帯電話には何人か、名簿と一致する奴の名前が登録されている。
……って、事はだ。
他の奴の携帯電話もどこかに支給されている可能性があるんじゃないか?」
……って、事はだ。
他の奴の携帯電話もどこかに支給されている可能性があるんじゃないか?」
「あ……!」
……他の人間のケイタイ電話。
それが支給されているって言う事は、その人たちとも連絡が取れる――――、そういう事?
それが支給されているって言う事は、その人たちとも連絡が取れる――――、そういう事?
「その通りだ。
……とりあえず電話帳に登録されている奴にかけて、話の通じそうな奴だったらそのままそいつと定期的に連絡を取ればいい。
俺たちの所在はバラさずに、な。
ヤバい匂いがしたらさっさと切って、二度とその番号からの電話には出るな。
……こっちの居場所さえ喋らなきゃ、電話越しじゃどうにもできない。
その一点さえ肝に銘じて行動すれば、情報だけを手に入れることも可能なんだ」
……とりあえず電話帳に登録されている奴にかけて、話の通じそうな奴だったらそのままそいつと定期的に連絡を取ればいい。
俺たちの所在はバラさずに、な。
ヤバい匂いがしたらさっさと切って、二度とその番号からの電話には出るな。
……こっちの居場所さえ喋らなきゃ、電話越しじゃどうにもできない。
その一点さえ肝に銘じて行動すれば、情報だけを手に入れることも可能なんだ」
……確かに、情報交換だけを目的にするならかなり安全な手段だと思う。
場所さえ言わなければ、ここに向かわれることもない。
……やる価値はある、と思う。
ただ、もし信頼できそうな相手なら、いずれ共闘するかもしれない。
場所さえ言わなければ、ここに向かわれることもない。
……やる価値はある、と思う。
ただ、もし信頼できそうな相手なら、いずれ共闘するかもしれない。
「……もし何度か連絡して、信頼できると判断したらここに呼ぶの?」
……そんな疑問を恭介にぶつけてみる。
「……場合によるな。その辺りの判断はお前に任せるさ。
あんなこと言っといてなんだが、俺はお前の事を信頼してる。
だからこそ、たとえミッションに直接参加しなくても、お前には他の連中の信頼を繋ぎ止める楔になってもらいたいんだ」
あんなこと言っといてなんだが、俺はお前の事を信頼してる。
だからこそ、たとえミッションに直接参加しなくても、お前には他の連中の信頼を繋ぎ止める楔になってもらいたいんだ」
……私を信頼してくれている。
その言葉を聞いて、ようやく細波だっていた私の心は落ち着いてくれた。
出来るかどうかは分からない。
でも、演技には自信がある。誰であっても騙し通してみせる。
……それが必要だと言うのなら、私はそれを叶えたい。
やりとげてみせたい。
その言葉を聞いて、ようやく細波だっていた私の心は落ち着いてくれた。
出来るかどうかは分からない。
でも、演技には自信がある。誰であっても騙し通してみせる。
……それが必要だと言うのなら、私はそれを叶えたい。
やりとげてみせたい。
「……納得して、くれたか?」
気遣うような恭介の目つきにようやく気付く。
……馬鹿だな、私。
恭介だって色々考えて、あの言葉を口にしたんだろうに。
……馬鹿だな、私。
恭介だって色々考えて、あの言葉を口にしたんだろうに。
「…………、うん」
だから素直に頷いて、恭介の言葉を待つ。
「……あとは、そうだな。
切り札についても説明しておくぞ」
切り札についても説明しておくぞ」
「……切り札?」
聞き返す。
お互いの持ち物は全部知っているのに、そんなものあったっけ?
特に私には思いつかないんだけど、何だろう。
お互いの持ち物は全部知っているのに、そんなものあったっけ?
特に私には思いつかないんだけど、何だろう。
「いいか? ……絶対にこれは誰にも口外するな。
如月にもだ。
……いざという時、絶対にお前が生き延びる力になるはずだから、な」
如月にもだ。
……いざという時、絶対にお前が生き延びる力になるはずだから、な」
――――耳元で、周囲を気遣うように告げるその声色には強い芯のようなものがあり、有無を言わさずに頷かされる力を持っていた。
それを見届けると恭介は、私の手の中にあるケイタイ電話を操作し、一つの画面を呼び出していく。
……言葉の圧力に押されたのか、それをとても大切なものだと思った私はその手順を心に刻み込む。
それを見届けると恭介は、私の手の中にあるケイタイ電話を操作し、一つの画面を呼び出していく。
……言葉の圧力に押されたのか、それをとても大切なものだと思った私はその手順を心に刻み込む。
……そして表示されたものは、私を絶句させるに充分なものだった。
『――――禁止エリア進入アプリ。
このアプリを作動させた場合、このアプリがインストールされた携帯電話から
半径2mまでに存在する首輪は禁止エリアに反応しなくなります。
効果の持続時間は1時間、3時間、6時間の3種類。それぞれ1回ずつしか使用できません』
半径2mまでに存在する首輪は禁止エリアに反応しなくなります。
効果の持続時間は1時間、3時間、6時間の3種類。それぞれ1回ずつしか使用できません』
「……恭介、これ……!」
……ようやく、私は気付く。
この携帯電話を渡したり、自分だけがミッションに行くと告げたり。
今さっきからの恭介の言動は全て、私を生かすための算段だったということに。
この携帯電話を渡したり、自分だけがミッションに行くと告げたり。
今さっきからの恭介の言動は全て、私を生かすための算段だったということに。
私の驚愕を無視して、彼は淡々と『緊急事態』の際の対策を告げていく。
……気遣ってくれた嬉しさよりも、怖さが強いくらいに淡々と。
……気遣ってくれた嬉しさよりも、怖さが強いくらいに淡々と。
「……いざ何かが起こっても禁止エリア内部に逃げ込めば、最低でも10時間は生存が期待できる。
禁止エリアに比較的近いカジノを拠点に選んだのもその為だ。
……その脚で移動はきついかもしれないけど、ここのセキュリティと如月のスターブライトを使えばどうにかなるんじゃないか?」
禁止エリアに比較的近いカジノを拠点に選んだのもその為だ。
……その脚で移動はきついかもしれないけど、ここのセキュリティと如月のスターブライトを使えばどうにかなるんじゃないか?」
……どうして、なんだろう。
どう考えてもおかしい。
こんな道具、自分が生き残るために使うべきだろうに、なんで私に渡すのか。
いや、彼の頭脳ならもっともっと有効な使い方だって思いつくだろうに、私を生き延びさせるなんてつまらないことに使うのか。
何にせよ、彼の行動は大切な人に尽くしているにしても――――、あまりに自分を顧みなさ過ぎていた。
どう考えてもおかしい。
こんな道具、自分が生き残るために使うべきだろうに、なんで私に渡すのか。
いや、彼の頭脳ならもっともっと有効な使い方だって思いつくだろうに、私を生き延びさせるなんてつまらないことに使うのか。
何にせよ、彼の行動は大切な人に尽くしているにしても――――、あまりに自分を顧みなさ過ぎていた。
……思えば、自分ごと相手を撃て、とか。
一人だけ車で逃げられたのに、助けに戻ってきた、とか。
一人だけ車で逃げられたのに、助けに戻ってきた、とか。
それが自分のできること全てを尽くす事だとしても、限度というものがある。
理解できなくて、許せなくて、哀しくて。
理解できなくて、許せなくて、哀しくて。
――――気付けば、私は恭介に疑問をぶつけていた。
「どうしてここまでしてくれるの?
ううん、どうして自分の命が計算に入ってないの!?
答えてよ、恭介っ!!」
ううん、どうして自分の命が計算に入ってないの!?
答えてよ、恭介っ!!」
……だけど、恭介の表情は変わらない。
薄笑いを浮かべて、どうしようもないと諦めるような顔のまま。
ただ彼は、どこか遠くを見つめている。
薄笑いを浮かべて、どうしようもないと諦めるような顔のまま。
ただ彼は、どこか遠くを見つめている。
「……どうして、か」
「ねえ、何で笑ってるの? どうして、どうして!?」
子供が駄々を捏ねるように、恭介の服を掴む。
そんな私に呆れたのか、あるいは彼自身最初から話すつもりだったのか。
……彼は、答えを紡ぎだす。
そんな私に呆れたのか、あるいは彼自身最初から話すつもりだったのか。
……彼は、答えを紡ぎだす。
――――今までの彼の行動、全ての根源にある事実を。
「……簡単さ。大切な奴に未来があるなら、俺の命なんて惜しくはない。……だって、」
泣きたがっている様な笑み。
「俺は、―――――――――だからな」
「……え?」
……今、何て言ったの?
一瞬、理解が遅れた。
恭介の言葉をなぞるように口を動かしても、当然意味は変わらない。
それでも、一言一言を飲み込む為に、噛み砕いていく。
恭介の言葉をなぞるように口を動かしても、当然意味は変わらない。
それでも、一言一言を飲み込む為に、噛み砕いていく。
――――俺は、すでに死んでいるはずの人間だからな。
「……とっくに死んでるはずの命が、最後の輝きで誰かを助けられる。
だったら俺は本望だ」
だったら俺は本望だ」
……全身が麻痺しているように、体が動かない。
嘘、と言いたくなるのに、恭介の目はどうしようもない真実だと語っていて、それを許さない。
嘘、と言いたくなるのに、恭介の目はどうしようもない真実だと語っていて、それを許さない。
恭介、あなたはだって今、ここにいるのに。
……理解する。
彼は生きている者に希望を継ごうとしているんだ。
理樹に、鈴に、そして私に。
それこそ、散り行く最後の花が実を残すように。
彼は生きている者に希望を継ごうとしているんだ。
理樹に、鈴に、そして私に。
それこそ、散り行く最後の花が実を残すように。
……そして、恭介は語り始める。
悲しい事故の話を。
そこに生まれた一つの奇跡の話を。
そこに生まれた一つの奇跡の話を。
何度も何度も繰り返される時間。
大切な誰かを弄び、傷つけ、侮辱しながらも、希望である二人をただ強くすることを望んだたった一人の旅路。
大切な誰かを弄び、傷つけ、侮辱しながらも、希望である二人をただ強くすることを望んだたった一人の旅路。
――――そこにはどれだけの苦しみと覚悟があるんだろう。
いつしか私は、泣いていた。
私自身の事ではないのに。
いつしか私は、泣いていた。
私自身の事ではないのに。
「……って、こういう訳だ。……信じられないかもしれないけどな。
だからトルタ、……あの時みたいなことになったら、躊躇わずに撃っちまっても別に構わないんだ」
だからトルタ、……あの時みたいなことになったら、躊躇わずに撃っちまっても別に構わないんだ」
……だって。
何が哀しいって、恭介は、自分自身が救われることを最初から考えてないのだから。
何が哀しいって、恭介は、自分自身が救われることを最初から考えてないのだから。
「そうだな、次に俺が窮地に立たされたとしても、さっさと見捨てて――――、」
パチン。
「……トルタ?」
――――恭介が、頬を押さえて呆然とこちらを見ている。
「勝手なこと、言わないで……」
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