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果てを求めて

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契約/果てを求めて ◆S71MbhUMlM



歩く


歩く


歩く


……歩き続ける

この道の先には、何があるのだろう?
そこに道がある以上、先には何かがある
このまま歩き続けていれば、その何かに辿りつけるのだろう

ああ…、だが、本当に、この道の先には何かがあるのか?
道の先には何かがある、……だが、今歩いているこれは、『本当に道なのだろうか?』
正しい道を踏み外せば、その先に待つのは何も無い。
無論、歩けばそこに道は出来る。
だが、その先に何かがあるという保障はあるのか?
先に待つのは、千尋の谷か、雲を穿つ頂か、はたまた果て無き大海か。


……いつか、何処かで誰かが言った。
人の身に余る望みを抱けば、待っているのは破滅のみだと。
翼無き人の身では、谷は見下ろせず、頂は越えられず、大海には沈むしかない。
たどり着く先には何も無い。
ただ、夢破れ、膝を付いた者の亡骸が転がるのみ。

それは、理。
矮小たる人の身には変える事の出来ない理。
決して届かぬ夢を追うものに、等しく与えられる滅びの理。

だが……もし、翼を得る方法があるとしたら?
人たる身で、谷を見下ろし、頂を越え、大海を渡る事が出来るのならば?
ならば、届く。
例え、その翼を得る為にどのような苦難が待とうと、そこには翼があるのだ。

ならば、そこに至る事を躊躇う必要などあるだろうか。



歩く


歩く


歩く


……歩き続ける

どんなに遠回りであろうと、
行き止まりで引き返す事になろうと、
この道は、確かに翼へと繋がっているのだから。

言峰綺礼を信じる気などカケラも無い。
あの男は、決して信じていけない部類の人間なのだから。
この戦いの果てに願いが叶う保障などは無い。
確かに嘘は付かないが、真実を告げていると信じられるはずも無い。

……だが、




『聖杯戦争』

その理、七騎のサーヴァントを用いて行われる儀式。
一つの聖杯を賭け、七人のマスターとサーヴァントの戦争。

キャスター

ランサー

バーサーカー

アーチャー

そして、セイバー

五騎のサーヴァントは既に失われていた。
そして、この地にてアサシンのサーヴァントが敗れた。
つまり、勝者は確定した。

サーヴァント・ライダーと、そのマスターである間桐桜

この組が、第5次聖杯戦争の勝者ということになる。
無論、真実は異なる。
間桐桜は既に死に、聖杯戦争の勝者も存在しないことになる。

……本当に?

間桐桜が死んだとて、ライダーが死んだ訳では無い。
この場にはその存在は無いが、かといって死んだと論ずるだけの根拠が無い。
……死んだのならば、アサシンを殺す必要などないのだから。
聖杯戦争が終結したのであれば、聖杯は必ず現れる、その事実に、偽りは無い筈だ。
言峰とて、根源的なルールには手が出せない、出せるのなら、そもそも迂遠な儀式など行う必要も無い。
なら、するべき事は変わらない。
この戦争を終え、聖杯を手にする。 ライダーならば、手を貸してくれる。
その後に、士郎自身がライダーに殺されるかもしれないが、そんな事はどうでもいい。

そこに、確かな奇跡が存在しているのだから。



キシキシと、鉄の擦れる音がする。
ギチギチと、不出来な人形のように間接が鳴る。
フラフラと、夢遊病者のように歩く。
一秒前の記憶が無い。
一分前に辿った道が思い出せない。
一時間前に何をしたのか定かでない。

代償

奇跡には、代償が必要だ。
衛宮士郎という存在を越えた力を用いた代償が、彼の身体を責め立てる。

確か駅に向かった筈だが、それが何時のことなのかが思い出せない。
そもそも、どちらの駅に向かうか決めたのかすら定かではない。
今何処を歩いているのか、どれだけ歩けばいいのか。
後、どれだけ、衛宮士郎は存在出来るのか。

……どうでもいい。


この殺し会いの果てに、聖杯を手にする。
その為に、他の全ての人間を殺し尽くす。
その事に、迷いは無い。
ただ、『衛宮士郎』という存在そのものが、異議を唱えているだけ。
衛宮士郎という人間を構成する要素が、自身の間違いを責め立てているだけの事。
取るに足らない事だ。

するべき事はいくらでもある。
だが、その為の効率的な手段が存在していない。
だから、一つ一つ行うしかない。
できる事を、やる事しか出来ない。
今は、ただ歩く。

その時、

何処かの駅に辿りつくまで、歩くのみという士郎の次の思考は、

「ガッー!?」

視界を白く染める衝撃よって、遮断された。




断末魔の声と共に、目の前で倒れた男を見下ろす。
容易く、いとも容易く、
椰子なごみは衛宮士郎を無力化することに成功した。

きっかけはささいな事。
黒須太一の放ったNYP兵器、ウイルスの効果から何とか回復し、どこか一時身を休める場所を探していた彼女の視界に、線路沿いを歩く士郎の姿が見えた。
太一の帰還の可能性を考え、その場を離れたのが裏目に出たということになる。
幸いな事に、士郎は未だなごみに気付いている様子は無い。
故に、撤退こそが上策。

…だが、

上策であるから何だというのだ?
使用していた銃こそ黒須太一に奪われはしたものの、まだ武器は存在していた。
先ほど銃を用いても、まるで歯の立たなかった相手であることなど、なごみの頭には無い。
目の前にいるのは、対馬レオの仇であるかもしれない相手。
それを目の前にして、どうして大人しく見ている事など出来ようか。
デイパックの中に入っているもう一丁の拳銃、コルト・パイソンに弾丸を装填する。
これで、処刑の準備は完了した。
ただ、この距離で撃ったところで、当たる可能性は殆ど無い。
元より、銃など触れたことも無い上に、コルト・パイソンの反動は女性には大きすぎる。
もっと、近寄らなければ、

そうして、衛宮士郎の背後より忍び寄ったなごみだが、途中で士郎の様子がおかしい事に気付く。
動きはフラフラと夢遊病者のようであり、不審に思ったなごみがワザと立てた音にも反応する気配が無い。
そういえば、と、先ほど彼の探し人の死を告げた時の反応を思い出し、合点する。
そうして、近づいていき、ポケットから出したスタンガンを押し当て、今に至る。

「………」

いとも容易く、レオの仇かもしれない相手を、無力化出来た。
スタンガンによって倒れたが、どうやら意識までは失っていないようだ。
うめきながら、手足をぎこちなく動かしている。
恐らく、手足が痺れているものと判断して、横に立ち、そのまま士郎の腹を蹴り、仰向けにする。

「聞きたい事は一つだけ……センパイを殺したのはアンタですか?」

余分な会話などするつもりは無い。
士郎の口から漏れたうめき声など気にもせず、問いかける。
直に殺してしまう訳には行かない。
こうなった以上は、どの道殺すのではあるが、仮に士郎がレオの仇であるなら、出来る限り苦しめて殺さなければならない。
今ここで撃って殺してしまう訳にはいかないのだ。

「何とか言ったらどうですか?」

答えない士郎に業を煮やし、再び士郎の腹を二、三度蹴りつける。
そうして、
「違う……」
とだけ、士郎の口から漏れる。

「そうですか」

落胆は、少しだけ。
そもそも、黒須太一の根拠の無い勘が、士郎が犯人だと言っていただけだ。
可能性はゼロではなかったが、期待しただけ無駄だったという訳だ。

「じゃあとっとと死んでください」

もう用は無い、と拳銃を構えるなごみ。
無駄な時間を費やした。
恐らくほっといても壊れていた廃人を相手に、とんだ無駄足を踏んだようだ。
早くしないと、レオの仇が死んでしまうかもしれないのだから。
そうして、引き金を引く直前、

「お前も…その、センパイを生き返らせる為に優勝を目指すのか?」

衛宮士郎の、はっきりとした声が聞こえた。
一瞬、そのまま構わず撃ち殺してしまおうと考え、ふと思い直す。
“お前『も』”
つまりは……そういう事なのだろう。
先ほどの別れ際に、なごみが何の気なしに呟いた一言、あれに縋った訳だ。
何て、滑稽な姿だろう。
守れなかったと知って、今度は生き返らせるとか。
何て、無様で、

「キモイですね」

別に、このまま殺すのは簡単。
でも、その前に真実を告げよう。
余分な時間を使わされた御礼に、何に縋ったのか教えてあげるべきなのだろう。

「言っておきますが、死者蘇生の力って言うのは、眉唾物の話です。
 微妙にオカシイ女が言っていた戯言で、しかもその女もさっき死んだと言ってましたね」

おそらく、ただのデタラメ。
そんな、意味の無いモノに縋ろうとした滑稽な存在。
それが、衛宮士郎だと。
そう、告げた。


さて、どうなる?
守るべき相手を守れず、それでも縋った言葉がまやかしだとしたら、どのように崩壊するのか?
先ほど黒須太一に抉られた傷口の痛みが、その崩壊を望む。
……だが、

「そうか」

期待とは裏腹に、衛宮士郎の答えは静かであった。
少なくとも、希望を打ち砕かれた者の浮かべる表情ではない。

「……はい?」

どういう事だろう。
何故、そんなに平然としているのか。

「……アンタ、言葉の意味理解してます?
 デタラメだって言ってるんですよ、そんな言葉は」
「デタラメじゃ、…無い」
「は?」

「死者の蘇生は、確かに存在している。
 実在する、奇跡だ」



死者の蘇生

それは、実在するとされる『奇跡』
衛宮士郎達の用いる『魔術』よりも上位の概念、『魔法』の域の奇跡。
普通の魔術師にとって、魔法の域に到達することは、悲願である。
それも、魔術師個人の悲願では無い、その魔術師の家系。
衛宮士郎の10年
マキリの500年
アインツベルンの1000年
百年千年と続く妄執の果てにすらも、辿りつけぬほどの領域。
これから先の衛宮士郎という存在の全てを賭してもたどり着かぬ奇跡。

だがそれでも、それは確かに存在している。
谷よりも峰よりも大海よりもなお遠い、星の彼方ではあっても、存在はしているのだ。

故に、衛宮士郎が迷う事など無い。


「魔術師? あんたバカですか?」

素直な感想が、なごみの口から漏れる。
普段からやたら身体能力の高い生徒会の人間との付き合いはあるが、それでも『魔術』なんてのは馬鹿げている。
ときたま顧問の祈先生がよくわからない事をやっているが、同様だ。
平然と、魔術師なんて名乗る相手など、唯の気狂いにしか思えない。

「……無駄な、時間を使いましたね」


そんなものは無い。
あるなんて、思えない。
何故なら、

(センパイ…お父さん…)

願ってしまうから。

敬愛していた、目標であった父。
自分の、唯一の居場所である対馬レオ。
それが、帰ってくる。
母の再婚話とて、父が蘇るのなら、立ち消えるだろう。
父と、母と、レオと、想像の中にしかなかった幸福が、そこにはある。

願ってはいけないのか。
殺し合いの最中に、幸福な夢を見てはいけないのか。
たとえ、僅かな間であれ、殺し合いを忘れたとて、

それを、誰が責めることができようか。


「そう……か」
「……えっ!? うあっ!?」

瞬間
その言葉とともに、動けない筈の士郎の腕が動く。
勢いよく伸ばされた腕はなごみの腕を掴み、そのまま引っ張る。
その勢いに負け、なごみの身体は傾き……そのまま地に倒れ伏しそうになる。

「くっ!」

何とか、銃を握ったままの右手を開き、地面に手を突いて倒れる事を防ぐ。
が、その時既に士郎は半ば以上起き上がっており、そのままの勢いで、なごみの手を踏みつける。
なごみの口からは痛みで苦痛の声が漏れるが、それ以上はどうにもならない。
ただ、士郎の事を見上げる形に睨みつけるしかない。

形勢、逆転。

正しく、その言葉が浮かんでくる図式だろう。
いまや、殺すものと殺されるものの関係は、はっきりと入れ替わった。
だが、だからといって、これで勝負が付いた訳では無い。
まだ、彼女の手には、

「ウザイですよ! アンタ!」

スタンガンがあるのだから。
邪魔だからと、ポケットにしまっておいた品であるが、それが幸いした。
この姿勢からでも手に取り、士郎に当てる事が出来るのだから。
そして、その彼女の手を、

士郎の『左手』が、掴み上げた。

「……え?」

なごみの口からは、思わず困惑の声が漏れる。
布越しとはいえ、電流は伝わる。
スタンガンは確かに士郎の身体に押し当てられているのに、

何故平然としていられるのだろうか?

なごみの困惑に構わず、士郎はそのまま左手でスタンガンを掴みあげ、奪い取る。

彼の腕に巻かれているのは、聖マルティーンの聖骸布、かつて軍人であった聖マルティーンが、主と半分に分け合ったとされる外套であり、信仰に生きた聖人の身を守り続けた、一級の概念武装である。
唯のスタンガン程度など、どうという事は無い。
武器ごと手を握られたなごみは、思わず苦痛に顔を歪める。
右手は踏みつけられ、左手は握られて、膝を付いた姿勢。

決着は、付いた。

そのまま士郎はなごみの手からスタンガンを奪い取り、二、三度と彼女の首筋に当てる。
なごみに抵抗する手段などある筈も無く、

「っ……ぁ……センパ…イ……」

彼女は、意識を奪われた。


……なごみに油断があったのは事実。
だが、そもそもスタンガンで動けない筈の相手が、いきなり動くなど誰も思うまい。
この時のなごみの不幸は二つ。
一般的な女子高生であるなごみに、スタンガンについての知識など存在しない。
スタンガンは確かに対人において強力な武装である。 だが、相手を一撃で気絶させるような効果は、普通のスタンガンには存在しない。
違法改造されている品ならばその範疇ではないが、今なごみの手にあるものでは、一時的に相手の筋肉を弛緩させるのが関の山だ。
それでも、二度三度と用いていれば完全に動きを封じる事も出来たかもしれないが…この場合は相手が悪かった。
元より士郎は、自身を蝕む魔術の反動によって、限界に近かったこともあり、簡単に倒れた。
そして、既にその殆どが人ではなくなりつつある肉体は、常人よりも遥かに早く回復したのだ。
なごみにスタンガンの知識が無かった言と、衛宮士郎という肉体の持つ二つの特異性が、なごみの不幸であった。




香ばしい、匂い。
嗅ぐだけで食欲を誘う、香り。
多種多様な香辛料の香りと、炊き上がる寸前のご飯の香り。
なごみにとって忘れる筈も無い、カレーの香り。

「……は?」

勢いよく身体を起こし、左右を見る。
見覚えは無いが、クリーム色の壁紙に、暖色のカーテン……何処かの民家。
その、ソファーの上に、毛布一枚をかけて眠らされていたようだ。
ご丁寧に、靴は脱がされている。

「ん? 起きたのか?」

そして、先ほどからの匂いの先には、片腕を赤い布でぐるぐる巻きにした、くすんだ赤色の髪の男が一人。
どう見ても先ほど殺しあっていた相手、衛宮士郎である。
その、殺しあっていた相手が、何故だか台所に立って料理をしている。

「悪いけど、荷物は預からせてもらった」

少し表情を厳しくしながら、なごみに言う士郎。
それは、正しい。
正しいが、そもそも根本が間違っている。

予想外すぎる状況に、思わず固まってしまったなごみに構わず、士郎は黙々と用意を続け、やがて二皿のカレーを手に、ソファと台所の中間辺りにあるテーブルに、移動する。
予めそこに用意してあったであろうスプーンに、自家製ドレッシングを塗したであろうサラダの入れられたボウル。
グラスには水が入れられ、後は食べるだけという状況だ。

そして、そこに向かう士郎の動きには、まるで隙が無い。
少なくとも、武器の無いなごみには、どうしようもない。

そんななごみに構わず、士郎は席につくと、行儀良く手を合わせて、
「頂きます」
の言葉とともに、平然と食事しだす。
なごみの方に意識は向けながらも、普通に食事を続ける。

一先ず、逃げる

まず、なごみの頭に浮かんだのはその単語であった。
この家は普通の近代住宅であり、窓は大きい。
靴が無い事を覗けば、逃げだす事には問題は無い。
だが、何しろ荷物一式が無いのだ。
武器無しで歩く事など自殺行為であり、地図が無ければ満足に移動も出来ない。

仕方なく、とはいっても何が仕方ないのか不明だが、テーブルに移動する。

「誰が食べると思うのですか?」

毒でも入っているかもしれない。
しかし、残念ながらその可能性は低い。
わざわざ毒殺などしなくても、あの場で殺せば良かったのだから。
だから、恐らくは罠ではない。
しかし、だからと言って食べないといけない理由も無いのだが……

(……この男、出来るっ!!)

なごみの本能が、ソレを許さない。
目の前にあるカレー。
入っているのは一般的な具材だが、多少煮込みすぎではあるが、そのサイズ、形とも完璧だ。
加えて、匂いの中に、多種多様な香りが隠されている。
これを、冷まして貶めてしまうことは許されない。

ゴクリ、と唾を飲み込む。
そして、無意識にスプーンを手に取り、一口。
クワッ!と、なごみの瞳が見開かれる。

「……家庭料理ですね。
 ごく一般的なカレー、鶏肉、にんじん、玉ねぎ、ジャガイモ、隠し味に醤油数滴と
 カレールゥではなくカレー粉を用いて評価しますが、少々煮込み時間が長すぎます、人様に勧めるのは関心しません」

(煮込み始める際に、水ではなく恐らくは肉に使用した鶏のガラを出汁にしている。
 それもおそらくは圧力鍋を使用して骨が崩れるまで…でないとこのコクは出ない……。
 更に、使用しているハーブは数種類、記憶にある範囲ではコリアンダー、タイム、ローリエなど……。
 加えて、カレー粉で味を付けるのではなくガラムマサラで風味を整えているっ…………!!)

恐ろしい、相手。
無論、カレーという分野で負ける気など毛頭ないが、……恐らくこの男、何処かの料理屋の見習いではなく、完全な家庭料理の範疇。
その、多種多様な分野を歩んでおきながら、カレーを学ぶなごみに驚愕を与えるとは……。

「ん、そうか…自信作だったんだけどな……」

心なしか、落ち込む士郎。
その光景が、微妙になごみの心に痛みを与える。
多少の失敗があったとはいえ、コレだけのモノに対して、偽りの文句を口にするのは重大な犯罪だと。

「ですが……美味しい、とだけは言っておきます。 
 家庭の味、懐かしい、味……」

正直な心を、告げる。
これは、ご馳走であると。
「美味しい」その一言を。

「ん、そうか」

少し、安心したような笑みを、士郎は浮かべる。
その表情には、一片の偽りも無い。
それに安堵を覚えかけて……

(って、そうじゃない……!)

忘れるな、相手は敵。
この殺し合いの果てに、殺さなければならない相手なのだから。
それも、直前まで殺しあっていた相手。

「……リセルシアも、こんな風に騙し討ちにしたんですか?」

ピタリっと、スプーンを口に運んでいた士郎の動きが止まる。
そして、数秒の沈黙の後、下ろされる。

「違う……いや、違わない、か。
 俺が彼女を騙した事には変わりが無い」

どのように言いつくろうと、衛宮士郎がリセルシア・チェザリーニを殺したことには変わりが無い。
彼女を騙した事実は、変わる事が無い。

「じゃあ、何で私を殺さなかったんです?
 余裕? それとも慈悲のつもりですか?」

ならば、何ゆえか、
衛宮士郎に、椰子なごみを生かす理由など、あるのか。
それこそ、強者の余裕でしかないのではないか。

「お前は…その、対馬…レオの為に戦うんだろ?
 じゃあ、やっぱり、そいつを生き返らせるのか?」

だが、士郎の返答は、疑問であった。
自分と同じ目的ではないのか。
違うのなら、何が目的なのか。

「……耳が遠いんですか? さっきも言った筈ですが? 
 センパイの敵を取る。 センパイを殺した奴を、苦しめて苦しめて、殺してやるんです!」

そして、なごみの返答は単純だ。
する事は変わらない、敵を討つ。
その為に、他人がどうなろうと知ったことか。

「……その先には、何も無い、ぞ」

理想論だ。
士郎とて、桜の敵が目の前にいれば殺すだろう。
サクラノミカタとして、それがやるべき事なのだから。

「だから何です?
 私には、センパイしか居なかった!
 私には、センパイの側にしか居場所は無いんです!」

そう、理想論。
そんな言葉では、人は止まらない。
止める事など、できよう筈が無い。

「それで、アンタは何をしているんです?
 死者の蘇生?そんな寝言なんか言ってないで、守りたい相手を守れなかったのですから、さっさと死んだらどうですか?」

なごみの口からあふれ出す呪詛。
少し前に黒須太一の口からなごみに向けられたソレが、今度はなごみの口から士郎に向けられる。
八つ当たりに過ぎない。

そして、その呪詛は、なごみ自身をも蝕む。

守れなかった。

大切な人だったのに。

それでも、なごみには、この憎悪を止める術など無い。

自身が傷つく程度で止まるなら、とうに止まっている。

だから、進むしか無い。

もう、他に、するべきことなど無いのだから。




……そう、

「手を……組まないか?」

するべき事は、決まっている。
だから、そこに進むために、歩かなければならない。

「……は?」
「方法は、ある」

死者の蘇生は存在している。
そして、

「聖杯だ」


士郎の右手がグラスに添えられる。 先ほどまでなごみの使用していた、変哲の無いグラスだ。
そして、軽く目を閉じ、小さく
“強化、開始”
とだけ、呟いた。

それで終わり。
見た目には何の変化も起きていない。
だが、その事をなごみが言及する前に、士郎はそのグラスを持ち上げ、思いっきり床に叩きつける。
テーブルの下はフローリングであり、カーペットも引かれていないそこに叩きつければ、当然、

……割れなかった。
グラスは、硬い音を立てて落ちただけ、ヒビすら入っておらず、逆にフローリングの床に痕が付いている。
驚愕に眼を開くなごみに、そのグラスが手渡される。
“試してみろ”
そう言う意味だろうと判断し、グラスを取る。
そして、驚愕に支配されながらも、摘んだり、指で弾いたりしながら…やがて、なごみも床に叩きつける。
やはり、結果は変わらず、グラスは硬い音を立てて床の上を弾んだ。

「…………」

床に落ちたグラスには構わず、士郎は今度は自分のグラスを手に取ると、同じように、幾分遠くに、投げつける。
今度は、当然のように、甲高い音を立てて割れた。

「これが、魔術。
 俺が使える中で最も簡単な、“強化”の魔術だ」

未だに驚愕しているなごみに、士郎は告げる。

……信じない訳にはいかないだろう。
少なくとも、マトモな現象では無いと。
“魔術”というものの、存在を。

“死者の蘇生”という奇跡を。
“聖杯”とかいう怪しい物体が、存在するかもしれない事を。

「言峰の手に聖杯があるなら、奪い取る」

優勝しても叶わないなら、その時は奪う。
する事は変わらない。
優勝して、聖杯を手にし、桜を取り戻す。
その為に、道を広げなければならない。


「…………」

なごみに言葉は無い。
彼女はまだ懐疑的だ。
だが、そこにあるのは甘い夢、理想。
ソレを、何故拒めようか…
少なくとも、望む事を、止められない。

……ただし、

「一つ、聞かせて貰えます?」

その前に、一つの前提がある。

「何で、私にソレを言うんです?
 リセルシアは殺したんでしょ?
 他にも何人殺したのか知りませんが、何故私だけ?」
 同情ですか? アンタなんかに同情されるなんてまっぴらゴメンですね」

この状況で、自分の身の危うさには、触れない。
くだらない理由ならばゴメンだと、雄弁に言っていた。

「…………」

理由は、様々だ、先ほど不覚を取ったり、野菜を煮込む時間を間違えたりなど、士郎の肉体は徐々に崩壊している。
直す方法は無いが、せめて最後まで持たせなければならない。
少なくとも、先ほどのように簡単に隙を付かれては、どうにもならない以上、協力者は必要だ。
そして、彼女は殺し合いに乗っており、しかも士郎自身よりも弱い。
最適な相手と言えるだろう。

……だが、

“だまれっ!! あたしはセンパイのために戦うっ! あたしの居場所を何度も奪わせてなんてたまるかっ……! だから、お前はここで死ねっ!!”
“っ……何でも。センパイを殺した相手の情報なら、何でも知りたい”
“私はセンパイのために生きる。センパイのために復讐する”
“っ……ぁ……センパ…イ……”

「…………桜は、俺の事を先輩って、呼んでいた。
 ……それだけだ」

結局は、それだけ。
自分を先輩と呼んだ少女が居た。
その少女とは似ても似つかないが、一つだけ、“居場所”という単語。
その言葉にどれだけの想いが込められているのか、士郎には知る由も無い。
だが、それが、士郎の前でしか笑う事の出来なかった少女の姿に、何故だか重なる。
無論、それは幻、一瞬の幻想に過ぎないが、……充分だ。

「……キモイですね。
 綺麗な思い出にしがみついて、現実が見えていないです」

優勝し、生き返らせる。
それが望みなら、余分な事など考えるな。
思い出は、所詮思い出、過去にしがみつく者に、未来など無い。
くだらない、事だ。

……けれど、思い出にしがみついているのは、誰だったのだろう。

元より、届かぬもの。

遥かに遠くにあるもの。

そこに至る道は見えず、今いる場所さえ定かでは無い。

ならば、その思いだけを、

遥かなる思い出だけを頼りに、進むしかないのではないか?


「……もう一つだけ、答えて下さい。
 その、……聖杯とかいう怪しい物体が、なかったらどうするんです?」

考えておかなければならない事柄。
魔術も死者の蘇生も存在したとして、それがなければどうにもならない。
そして、聖杯だけは、士郎の知る事実ではなく、状況からの推測に過ぎない。
もし、そうだとして、それで衛宮士郎はどうするのか。

「……その、時は」



「言っておきますが、役に立たなくなったらその時は見捨てますよ」

夕暮れ。
もうじき放送が響く時間帯。
返却されたデイパックを手に、椰子なごみは歩く。
衛宮士郎と共に。
目的は、北。

これから夜の時間帯、森の中は絶好の狩場となるが、同時に危険すぎる。
市街地ならば、隠れるところは多く、さらに直線が多い為に士郎の力が発揮しやすい。
加えて、電車を用いれば移動も早いが……それは危険が伴うので最終手段でもある。
南でも良いが、橋は遠い。
地図に無い橋もあるだろうが、手間は多い。

行き着く先は何処になるか。
少なくとも、これから先は闇が広がるのみ。


それでも、進む以外に道などないのだ。


【D-8 民家(マップ北西)/一日目 夕方】

【椰子なごみ@つよきす-MightyHeart-】
【装備】:スタンガン、コルト・パイソン(6/6)
【所持品】:支給品一式、357マグナム弾13
【状態】:肉体的疲労(中)、右腕に深い切り傷(応急処置済み)、全身に細かい傷
【思考・行動】
 基本方針:他の参加者を皆殺しにして、レオの仇を討つ、そして、優勝する。
 0:移動しながら、放送を待つ
 1:殺せる相手は生徒会メンバーであろうと排除する
 2:衛宮士郎と共に、他の参加者を殺しつくす。
 3:役に立たなくなったら、衛宮士郎を切り捨てる。
 4:黒須太一を残酷に殺す
 5:伊藤誠、ブレザー姿の女(唯湖)、京都弁の女(静留)、日本刀を持った女(烏月)も殺す
 6:出来るだけ早く強力な武器を奪い取る
 7:死者の復活には多少懐疑的。
【備考】
 ※なごみルートからの参戦です。




“自力で、桜を生き返らせる”

答えは、決まっていた。
それが、不可能なくらいは知っている。
だから、どうした?




……いつか、何処かで誰かが言った。
人の身に余る望みを抱けば、待っているのは破滅のみだと。
翼無き人の身では、谷は見下ろせず、頂は越えられず、大海には沈むしかない。
そこには何も無い。
ただ、夢破れ、膝を付いた者の亡骸が転がるのみ。

……だが、だから何だと言うのだ?

見下ろせずとも、谷は下れば良い。

越えられずとも、頂は登れば良い。

大海に沈むのなら、泳いで越えれば良い。

……それは、人たる身には不可能な事ではある。

だが、不可能だからなんだというのだ?

不可能であれ、何であれ、そこに道があるのだから、進むしか無い。

死者の蘇生。

遠く、瞬くほどにしか見えぬ星。
だが、それは確かにそこに存在しているのだ。
ならば、ソレを目指す事に、何の不都合があろう。


道は遥かに。 


遠い残響を頼りに、少年は荒野を目指す。



【衛宮士郎@Fate/staynight[RealtaNua]】
【装備】:ティトゥスの刀@機神咆哮デモンベイン、木製の弓(魔術による強化済み)、赤い聖骸布
【所持品】:支給品一式×2、維斗@アカイイト、火炎瓶×6、木製の矢(魔術による強化済み)×17、
屍食教典儀@機神咆哮デモンベイン
【状態】:強い決意(サクラノミカタ)、肉体&精神疲労(小)。魔力消費小。身体の剣化が内部進行。脇腹に痛み。ずぶ濡れ。
【思考・行動】
 基本方針:サクラノミカタとして優勝し、桜を生き返らせる
 1:なごみとともに、参加者を撃破する
 2:優勝して言峰と交渉、最終的には桜を生き返らせる。(場合によっては言峰も殺す)
【備考】
 ※登場時期は、桜ルートの途中。アーチャーの腕を移植した時から、桜が影とイコールであると告げられる前までの間。
 ※左腕にアーチャーの腕移植。赤い聖骸布は外れています。
 ※士郎は投影を使用したため、命のカウントダウンが始まっています。
 ※士郎はアーチャーの持つ戦闘技術や経験を手に入れたため、実力が大幅にアップしています。
 ※維斗の刀身には罅が入っています
 ※現在までで、投影を計二度使用しています
 ※今回の殺し合いが聖杯戦争の延長のようなものだと考えています



174:Little Busters! (後編) 投下順 176:instant servant
174:Little Busters! (後編) 時系列順 176:instant servant
159:I have created over athousand blades 衛宮士郎 :想いの果て
椰子なごみ :想いの果て

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