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OVER MASTER (超越) 8

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OVER MASTER (超越) 8 ◆Live4Uyua6



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 真紅色の虚無の空、黒き星が瞬き、時折、マイナス色を持つ超次元の図形が浮き出ては掻き消える。
唐突に、不可解に、無秩序に、狂気の音楽家エーリッヒ・ツァンの編み出した悪夢の旋律が、存在しえない方向から流れてくる。
まともな物質と言えば地面全体に張られた青銅の円盤くらいか。
だが、そこからはおぞましい触手がうねり這い出し、不規則なダンスを踊っていた。


 ここは極一部の者だけの知るドーム空間。一番地どころか、九条むつみさえ、その存在を感知していない。
ナイアは一番地に霊脈を用意したように、シアーズ財団に隠れ家を備えていた訳だ。

 シアーズ財団はエイボンの書を横領したものの、それを理解できる魔術師がいなかった。
そこで彼らはエレメント技術を応用し、エイボンの書のデータの具現化を試みた。
要するにアル・アジフのような本の精霊を作ろうとした訳だ。
だが、結果はこのドームを瞬く間に怪現象で埋め尽くし、感受性豊かな研究員2名を狂死させる惨事となった。
これはシアーズの技術不足と共に、魔導書が不完全な英語写本だったことに起因する。
いまや、この空間に踏み入れることは、魔導書の本質に触れるのと同義に近い。
人間ならば徐々に精神を削り取られ、やがて正気を失うだろう。

 だが、かつて覇道鋼造が語ったように、機械は魔導書を読んでも狂わない。
ゆえに、ここには自我を抑えた何体ものアンドロイドが棒立ちしていた。彼らは頭蓋に機械の触手を突き刺されている。
アンドロイドはこの異次元空間にアクセスして高速演算し、触手を通して膨大な情報をやり取りしている。
つまり、ドーム自体が量子コンピューターのCPUになっているのだ。


 ちなみに、貴重な元データの魔導書本体は大仏に格納し直した。この状況下で一番地に故障中と誤魔化し続けるわけにもいくまい。


 アリッサは腕を組みながら、辺りを見渡す。この程度の量の狂気なら気にするまでも無い。
そして、量産アンドロイドからの電磁波を感知し、極秘プロジェクトの進展状況の確認を始める。
 計画の名は『プロメテウス』、これはギリシア神話のプロメテウスが人間の手に、ゼウスが人から奪った炎を渡し直した神話に準えている。
目的はナイアの作った星詠の儀そのものをトレースし、シアーズ財団のものとすること。
人工の黒曜の君は既に実現し、人工HiMEの設計図も作り終えている。
もっとも、新しく首輪をつけて儀式をやり直し、という都合良い人工HiMEは今後の課題なのだが。

 そして、残る課題は媛星のトレースのみ。あと50年ほどすれば、シアーズの、シアーズによる、シアーズのための星詠の儀を実現できる。
もし、財団が望むなら儀式を何度も繰り返し、あの悪魔さえ支配できるかもしれない。


 シアーズ財団の最優先課題は、人工媛星の設計図を元の世界に持ち帰ることだ。
それに比べれば、ここでの星詠の儀の成功は、シアーズによる資源問題の解決や世界平和を半世紀早めるに過ぎない。
一番地、特に神埼黎人は予想以上に切れ者だった。シアーズ側の失態もあって、儀式乗っ取りは一番地の自滅待ちの状況である。
まだ、全てを諦めた訳ではない。だが、最悪の場合、彼らの知に敬意を表し、華を譲るのも吝かではない。
なに、最長でもたかだか300年の天下だ。

 現在、反抗側との交渉は考慮の外である。彼女の嘘発見機能には『安易に交渉するな』発言は反応しなかった。
確かに、鬼道や言霊で自己暗示を掛けていた可能性もあり、油断はできない。
それでも、反抗側は殺人ゲームを憎んでいる上、人工儀式に必要な魔導書を破棄する気でおり、あまり交渉できる相手ではない。
勿論、仮に儀式が破綻したなら、一番地と反抗側をほどほどに殺し合わせ、シアーズに有利な状況で脱出の交渉するつもりである。

 突然、量産アンドロイドが連絡用の高音パルスを放つ。とある研究員からの臨時報告だ。
彼女はそれを受け取ると、数秒間、意外そうな表情をした後に、

「ほう、怪物Xは実在するのか。ならば、最終的な交渉相手は一番地であろうな」

 意地の悪い笑みを浮かべた。量産人形たちに纏わりつく触手は肥大と収縮を繰り返していた。



 ・◆・◆・◆・


 アリッサはアンドロイドの集団から離れ、前へ前へと歩を進める。時折出没する、人知を超えた矛盾だらけの怪異。
だが、それは永遠の胎児、生まれながらの亡霊であり、彼女は無力なノイズと看做して素通りする。

 そして、少女は何もない殺風景な目的地にたどり着いた。ここが彼女の戦闘訓練スペースであり、
記録係の量産MYU型が1体だけぽつんと立っていた。
そして、緋眼のアリッサは虚空に右手を差し込んで、一振りの刀を抜き出した。

            カミノ コトノハ
 その名は魔剣、『real of the Word』、星詠の儀を行うための擬似エレメント。
ただし、カモフラージュのため、外見は神崎の持つ弥勒ではなく、ある女魔法剣士の愛用する古青江を模していた。
オリジナルの能力は異空間に存在する魔力を利用して、神の力を制御するというもの。
これは妹の魔法少女と合体すれば、星すら砕く魔法の巨人を招喚できるほどだった。
そのため、これを模した擬似エレメントは、極めて優秀なHiME⇒魔力変換プロトコルを実現した。
 念のために言うが、魔剣そのものをコピーしたのではなく、魔法の巨人も呼び出せない。
あくまで擬似エレメントで魔導書を制御するために、この形態が適しただけである。


 彼女が軽く手首を傾けると、刀は"絶対自由"と刻まれた銘と共に輝きを見せる。
その刹那、翼竜、黒犬、巨大鸚鵡と雑多なオーファン計36体が具現化した。

 それはあまりにも都合の良い能力。実際、この能力は制限されていた。
だが、多様な強化を組み合わせれば、相乗効果で抜け道が生まれる。
西園寺世界は悪鬼+アンリマユ+魔導書+死体の捕食で1体のゾンビを造った。
ならばこちらは、媛星+優秀なプロトコル+優秀な魔術回路+魔導書+オーファン召喚技術でオーファン大量召喚だ。
もっとも、それでも完全に制限を克服したわけではない。シアーズ本来の技術と異なり、オーファンの連続召喚は不可能なのだ。
ただ、召喚から時間さえ空ければ、いくらでも36体まで欠員補充は可能である。


 アリッサは小さな手で指をパチンと鳴らす。すると、大人しかったオーファンの雰囲気が一変し、
彼女に向かってうなり声を上げ始める。金髪の少女はオーファンたちを俯瞰して不敵に笑う。

「迷える子らよ、我が肝臓をついばみ尽すつもりで襲って来い」


 シアーズ財団総帥はナイアとの会話から、彼女の隠れた意図を、そしてゲーム展開を読み取った。
第二幕は開幕する。その時、シアーズの力だけで、多様な世界の住人たちや支給品とやり合えるとは思えない。
ならば、あの悪魔は確実に彼らと戦うためのヒントを用意する。総帥はそう考え、それに相応しい人材を送り込んだのである。


 ・◆・◆・◆・


「戦闘時間12分24秒18。損傷率0%。被弾率――」

 記録係のアンドロイドは頭部の触手を小刻みに振動させながら、抑揚のない声で戦闘結果を伝える。
アリッサは刀一本で、視界を埋め尽くすオーファン36体を一掃してしまった。白熱の閃光と魔術結界を駆使しての完全勝利だ。
彼女は自分で計算済みの報告を聞きながら、エネルギーの充填、ややむっつりした表情で顎に手を当てる。
既に少女の関心は己の戦果ではなく、深優・グリーアに向いていた。

 シアーズの職員たちは深優を、アンドロイドの分際で人間に逆らう堕天使だとか、ペドフィリアに溺れた失敗作などと酷評していた。
だが、緋眼のアリッサは深優本人に対してたいした興味は持っていない。
財団にとって利用できるなら喜んで手を握り、邪魔になれば容赦なく始末するだけだ。

――私がアリッサ様の死を否定するという事は、同時にこの力を、アリッサ様への想いも、否定することになります

 さて、深優の発言をどう解釈すべきなのだろう。初めは、深優は故人に瓜二つの自分を絶対に攻撃できないと思っていた。
だが、むしろ激しく憎悪するのか、冷淡にあしらうのか、それとも割り切れずに戦意喪失するのか。
余計な感傷を振り回されるアンドロイドはいちいち面倒だ。
なに、こちらが万全を期せば、旧型の深優に敗れることは無いはず。それは問題ない。

 新型のアリッサにとって気になるのは、深優の呼び出したチャイルド・カマエルの方だ。
あれの最大出力は瞬間的にSランクに到達していた。


 その時、高音のパルスがアリッサの思考を中断した。記録係はただ職務に忠実に外からの神託を告げる。

「追加報告、シアーズ技術開発総括より、サンダルフォンの改造の許可が下りました。
 オペレーターの指示に従って、儀式魔術を展開してください」

 緋眼のアリッサは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、確実性という愉悦の美酒を堪能する。
すぐさま、彼女の背中に展開される、黄金のエンジェルフェザー。
その翼は亡きアリッサ・シアーズ、つまりは碧眼のアリッサの、そして、深優・グリーアのエレメントにも相似していた。



「来なさい、我が子よ」



 少女の翼が高周波で空気を震わせる。あのオーファンだけは、この彼女本来の擬似エレメントによって制御されていた。

 その時、天に掛けられた光体、黒き星々の中でただひとつ、黄金に輝く明星がゆっくりと地に舞い降りてくる。
全長十数m、カグツチに匹敵する巨体、人間に近いシェルエット、金属の組み合わさった機械的なテクスチャー、
それが異世界の歌い手、サンダルフォンだった。
二対の翼から溢れる黄金の光は赤い空間を白く染め、混沌の音楽は秩序の旋律に飲み込まれる。
その姿が天使に似ているのは当然だ。碧眼のアリッサのチャイルド、メタトロンに似せて作られたオーファンなのだから。

 エイボンの書の得意分野は改造を含む儀礼魔術だ。前の書物の所持者もこれで多くの改造手術を作り出してきた。
それに加え、言峰の世界からトレースした、お遊戯レベルの魔術も多少は意味をなす。
アリッサは巨大な天使を見上げ、黄金の下肢に頬を摺り寄せる。

「全身全霊で汝を育ててやろう。赤竜カグツチを玉座から突き落とし、カマエルに塵を舐めさせる圧倒的な力をくれてやる。

 全てはシアーズの栄光のために!」



 幼き彼女はペンローズ型有機意識回路にプロテクトをかける。
そして、この異形空間、エイボンの書の純粋なコピーに魔術回路をシンクロさせ、儀礼に必要な知識を複製する。
そう、人間の指示により、能力制限の網に掛からぬよう、大胆かつ狡猾に。
そして、『real of the Word』の白い輝き、サンダルフォンの透明な咆哮とともに、金色の少女の詠唱が始まった。


 ・◆・◆・◆・


舞台を覆う夜空の天蓋に支配者の声が響き渡る。
星を見上げる者も、虚空に願いを祈る者も、寝所で愛を語る者にも、また暗闇の中で謀る者も、穴倉で絶望する者には等しく渡る。



『――十二回目の放送の時間だ。

 僕は言霊で部下を自我なき操り人形に変えた。
 もはや、彼らと交渉することも、投降させることもできない。
 それをどう捉えるかは君たちの自由だ。

 そして、禁止エリアだが、

 2:00より、H-2
 4:00より、C-2

 以上だ』



広く深く、全てを治める王の様な、その身すらも納める狂信者の様な、艱難辛苦の谷間を超える支配者の声が舞台の上に響き渡る――……





【ギャルゲ・ロワイアル2nd 第二幕 連作歌曲第四番 「Happy-go-lucky (幸運)」】 へと、つづく――……


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