ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

誰が為に刀を振るう

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誰が為に刀を振るう ◆rb7ZL.QpjU


深い闇に覆われ、腐葉土の匂いに満ちた深夜の森。
市井の騒音が届くはずも無く、本来なら静寂に包まれているはずの場所に現在場違いな音が響いている。
擦れ合う音、足踏みの音、歯軋りの音、下草の潰れる音、空気の切れる音、そして刀同士がぶつかり合う音。
唐突に木々が途切れぽっかりと開けている空間、そこで二人の男が打ち合っている。
二人はまるで刀で語り合っているかのように、言葉を交わさず黙々と刀を振るうのみ。
攻勢にでているのは白い学生服を纏った男、木刀という得物のハンデをものともせず果敢に相手に打ちかかる。
対する道着の男の体捌きには切れがない。どこか迷いのある刀筋は彼自身をゆっくりと窮地に追い込んでいく。
時が経つにつれて増えていく激突音。
小手調べが終わり、戦いは得物を払いあうものから真正面から打ち合うものへと移り行く。
そしてこの展開の変化により、戦いの天秤は大きく傾く。
驚くなかれ、木刀を操る学生服の男が日本刀を用いている道着の男を力で完全に抑え込む状況になったのだ。
その力強い太刀筋は最早得物の不利など毛ほども感じさせない。
道着の男も必死に耐えてはいるが、決着が着くのは時間の問題かと見受けられた。
だがバトルロイヤルの場においてそんな必然の敗北を黙って受け入れる者はいない。
一度の敗北がそのまま自身の死に直結しかねないのだから。
自身の不利を認め、これ以上戦ったところで埒が明かぬと見た道着の男が奇策に打って出る。
おもむろに刀を投げ捨て、暴挙に戸惑う学生服の男に向けて懐から取り出したスタングレネードを投げつけたのだ。しかもその数は三つ。
爆音が連続して響き、辺り一帯に閃光が溢れる。断続的な爆発が付近にいる生物から感覚を奪い、空白の時間を作り出す。
そして数秒後広場に再び夜の闇と静寂が戻った時、そこには一人の男しか残っていなかった。


◇ ◇ ◇


森での打ち合いから数刻後、道着の男こと宮沢謙吾は山小屋の隅で何やら作業を行っていた。
患部を十分に水で冷やし、椅子の足をもぎ取って作った添え木を当てる。
その上から支給品に混じっていた衣服を巻きつけ、最後にカーテンの切れ端で腕を吊る。
やや不恰好ではあるが左腕を覆う簡易ギプスの完成である。

「……よし、こんなものか」

スタングレネードを爆発させ、その隙に這いずるようにして学生服の男から逃れた謙吾。
しかし打ち合いの最中にそれを行うのにはやはり無理があり、痛烈な一撃を左腕に貰ってしまった。
早々から背負ってしまった大きなハンデ、自身の左腕を見つめて謙吾はため息をつく。
――自らの未熟さを恥じるべきか、元より修行不足は承知していたつもりだが同年代に力で抑え込まれてしまうとはな……
――それとも学生服の男に出会ってしまった不運を嘆くべきか……そもそもあの男は一体なんだったんだろうか?
ランプを点け、地図と名簿をぼんやりと眺めながら謙吾は学生服の男との戦いを思い返す。

そもそもの始まりはホールで無作為に、無造作に、無意味に、またたく間に殺された少年少女達。
古式を喪った時の後悔は何だったのか、失われていく命を目の前にして何も出来なかった。
そんな不甲斐ない自分自身に謙吾は落胆し、どうしようもないやるせなさを感じている。
そしてその激情はそのまま下手人達への憤りに転化した。彼らに罰を与えるべきだ、償いをさせるべきだ。
それが散っていった彼らへのせめてもの手向け、自分が彼らのためにできる唯一の事だと謙吾は思う。
この島に降り立った直後の謙吾はそんな義憤でいっぱいだった。そこに、あの男がやってきたのだ。
――戸惑う謙吾に問答無用に襲い掛かってきた学生服の男。
自分の腕に少なからず自身がある謙吾がなすすべも無く追い込まれるほどの強敵だった。
完全に不意をつき、最高のタイミングで切り札を使用したにも関わらず重傷を負わせられる始末だ。
一手でも間違えれば命を落としていたに違いない。最悪の光景を想像し、地図を持つ手が僅かに震える。
物腰で分かる、あの男は間違いなく謙吾を殺すつもりで襲ってきていた。
理性はあるが、温度を感じられない刃。目的を遂行するためには殺人も厭わないという覚悟が感じとれた。
では、あの男を突き動かしているものは一体何なのだろうか? 相対している時は余裕がなく考えることを避けていた疑問。
いくら殺しが肯定されている場とはいえ、無関係な他人を襲う以上そこには何かしらの理由があるはずだ。
六十人強もの他人を蹴落として一人のうのうと生き残る、その事に何ら疑問を感じない利己主義者か?

だがそれは違うと謙吾は断定する。曇りの無い眼、真っ直ぐな太刀筋、相手の男の実直さは筋金入りだった。
彼に限って自身の利益のために他人の命を踏みにじることはしないはずだ。
自分自身のためではない、ならば彼は他人のために戦っているということになる。
元いた場所に大切な人を残してきていて、その人のために何としても生きて戻ろうとしているのか。
もしかするとこの殺し合いにその大切な人が巻き込まれていて、その人を守るために戦っているのかもしれない。
例えば恋人、例えば家族、例えば仲間……そう、例えば幼い頃から共に生きてきた仲間……

――直枝理樹、棗鈴、棗恭介、井ノ原真人、謙吾の手元の名簿にはその四つの名が記されている。

彼らの名前を見つけた時、謙吾は心臓が止まるほどの衝撃を受けた。
いや、比喩でなく真に心臓が一度動きを止めていたとしても何らおかしくはない、それほどに四人の名前が持つ意味は大きい。
チームリトルバスターズの仲間であり、掛け替えの無い幼馴染、謙吾の世界の大半を占めているが彼らの存在だ。
そしてループ世界での生活によりその傾向はますます顕著になっている。
彼らがこの場にいるなら謙吾の取る方針は一つ。
学生服の男が他の誰かのために戦っているように、謙吾も幼馴染達のために何かをしたい。
だが謙吾には分からない。
幼馴染達のために具体的に何をすればいいのか、自分に何が出きるのか、そこで詰まってしまう。
彼らと合流して共に戦いたいのは山々だが片腕が使えない自分は足手纏いになってしまうのではないか?
学生服の男のようにリトルバスターズの敵を自らの手で減らしにかかる。そんな事が自分にできるのか?
リトルバスターズの一員として彼らと共に頑張りたい、チームのために尽くしたい。謙吾のその思いは本物なのだが……

「俺はどうすればいいんだ、恭介……」

頼れるリーダーに聞いても答えは返ってこない。ここには謙吾しかいない、謙吾自身が考えるしかない。
ランプに照らされた薄明かりの中、謙吾は一人暗鬱と悩み続ける――


◇ ◇ ◇


河野貴明の死、兄妹が気づいた時にはすでに手遅れだった。
ノゾミとミカゲの死、対応が遅れ兄妹は何の手を打つ事も出来なかった。
彼らの死を悼んで、妹は固く誓った。もう二度と彼らのような不幸な死者は出さないと。
黎人と綺礼を見つめ難しい顔で考え込んでいる兄、彼もきっと同じ想いを抱いているはずだと妹は考える。
言葉を交わさずとも分かる、清廉潔白にして質実剛健、彼女の頼れる兄はいつだって正しい事を行ってきたのだ。
兄の中から黎人と綺礼を憎悪をこめて睨みつけ、妹は彼らを討つ機会を待つ。
しかし次にやってきたのも好機ではなく悲劇だった。
下手人の次の狙いは河野貴明の身内の少女、柚原このみ。大切な人の死を嘆く彼女に死の影が迫る。
彼女を助ける方法は分からない、でも何もしないで彼女の死を見ていることが正しいはずがない。
後の事はともかくまずは彼女に駆け寄りたい、妹はそう考えた。
だが現在表に出ているのは兄で、そしてその兄は何やら策を考えている様子。
ここは兄に任せるべき。妹は思いを押し殺し、兄の邪魔にならぬように黙って経緯を見守った。
しかし兄は考え込んだまま微動だにしない。
幸いな事にこのみの姉が舞台に上がった事で何とかこのみの命は助かる。
しかし今度は代わりにそのこのみの姉が殺されてしまいそうな状況。
そしてカウントダウンが再び始まるがやはり兄は動かない。
ここにきて流石に妹も我慢の限界。身体の交代を申し入れるが兄からの返答はない。
刻一刻と迫る女性の死、妹は必死に兄を急かす。早く身体を交代してくれ、早く彼女達の下に向かいたいと。
だがようやく口を開いた兄は首輪を撫ぜながら一言。
――刀子、おまえをみすみす殺させるわけにはいかない。
普段の彼を知っている者ならば皆が皆耳を疑うような冷たい声でそう呟いた。
兄の言葉が理解できず半狂乱になる妹。声にならない声を出して兄に懇願する。
彼女達を助けなければ、彼女達を助けなきゃ、彼女達を助けたい、彼女達を助ける、彼女達を……
だが終ぞ兄は動かず、儀式は執行された。
三度飛び散る血飛沫、舞う肉片、倒れ行く胴体、呆然と亡骸を見つめる彼女の知己。
その地獄のような光景を瞼の裏に強く焼きつけ、妹はショックのあまり意識を失った。


◇ ◇ ◇


残心――了。


戦闘態勢を解いて身体を休める。
爆発の衝撃が立ち直った時点で道着の男はすでに場を去っていた。
戦いを優位に進めていたものの、最終的には逃げられてしまった。どうやら詰めを誤ったようだ。
未練はあるが特に彼を追おうとは思わない。
爆発の寸前に放った最後の一撃には確かな手応えが感じられた。
先ほどの戦いを見る限り彼と俺の技量はほぼ互角、だが今回の戦いで彼は傷を負った。
次に相対した時、俺は彼に勝つ自信がある。傲慢かもしれない、だがこれでいいはずだ。
答えを出すのを急ぐことはない。それに先程の爆発だ、俺本人が気づいていないだけで身体に異常があるかもしれない。
この場に留まり、自身の回復を優先するべきだ。
――俺は志半ばで倒れるわけにはいかないのだから。

円を描くように手首を回す。拳の握り開きを繰り返す。腕全体を軽く動かし、それを目で追いかける。
どれも日頃意識せずに行っていること、だからこそ僅かな違和感が如実に現れる。
そしてやはりというべきか、実際の身体の動きと想定していた動作の間に無視できないぶれが見つかった。
経験を活かし対抗策は打ったつもりだったが、残念ながら閃光手榴弾の影響を殺しきる事はできなかったらしい。
どうやら深追いを避けた俺の判断は正しかったようだ。

先ほどの戦いを振り返る。
俺と道着の男、二人の技量にはそれほど差はなかった。だが戦いはこちら優勢で進んでいた、それはなぜか。
精神面の問題、立ち位置の利、実戦経験の数、色々と考えられる理由はあるがそれらは決定打足り得ない。
二人の差は偏に彼は人間だが俺は人妖だったという単純な事実だ。
『牛鬼』の人妖能力がもたらす怪力が真正面からの力のぶつかり合いにおいて俺を圧倒的優位に導いてくれた。
にもかかわらず俺は決着を着ける事に失敗した。原因は彼が土壇場で使用した閃光手榴弾にある。

閃光手榴弾――強烈な閃光と爆音によって対象を一時的に茫然自失状態に追い込む武器。
この武器に苦汁をなめさせられるのも二度目。
一度目は……そう双七君に初めて出会った日、神沢学園保健室前での双七君との戦いの時の事だ。
すず君を救い出ために全身全霊で挑んできた双七君。彼が俺を打ち破るために使った武器のうちの一つが閃光手榴弾だった。
今思えば心優しい彼の事だ、俺を殺さないようにするために殺傷力をもたないその武器を切り札に選んだのだろう。
ああ、あの時の彼は実に良い眼をしていた。覚悟と決意を秘めた眼差しが実に印象深い。
そしてあの後双七君とすず君を生徒会に迎え入れる事になり、そこで日常を共に過ごして彼の人となりを知っていった。
お人よしで義理固く人情に溢れる好漢、口下手な俺には上手く説明できないが彼はともかく良い男なのだ。
なんせ真正面から親友になってくれと言ってくる男なのだ、良い男でないはずがない。彼は俺の大切な親友だ。
そんな誠実な彼にだからこそ刀子は惹かれたのだろう。
そして図らずとも双七君も刀子を好いてくれていて二人は見る見る間に仲を深めていった。
愛し合う二人の様子は実に仲睦まじくて、傍から眺めている俺も温かい気持ちになれたものだった。
もうすぐ俺の魂は一乃谷の宿命に従い消滅する。だが最早心残りは何も無かった。
刀子の回りには彼女を支えてくれる生徒会の仲間達がいる。そして刀子を誰よりも愛してくれる双七君がいる。
俺は妹の幸せを奪ってばかりの駄目な兄だったが、彼ならば誰よりも優しい双七君ならば間違いなく妹を幸せにしてくれる。
妹を残す事に心配はいらない、親友に妹を任せられる俺は果報者だ。
妹と親友は仲間達に温かく見守られながら、助け合い、愛し合い、幸せな未来を歩んでいく。
――そう、妹の幸せは正にこれからだったというのに。

落ち葉の上に打ち捨てられた日本刀を拾い上げる、銘は……今虎徹。
袖で拭って刀身の曇りを取り、感触を確かめるために軽く振るう。
初めて握ったとは思えないほど実によく手に馴染む、良い刀を手に入れられた幸運を感謝する。
そして何時も通りに思い切り振り抜くが、案の定思考と動作の連携に違和感がある。
感覚を取り戻すために刀を振るう、振るう、振るう、振るう、振るう……

だが現実は無情。妹と俺は神沢市の平穏な生活から引き離され、まだ見ぬ他人との殺し合いを強制されている。
一乃谷として俺も刀子も何度か修羅場を潜っている。だが今回の状況は今までのそれとは物が違う。
仲間はいない、愛用の文壱も手元に無い、情報もまるでない。
その上で首の爆弾に絶えず生死を握られている状況、これを最悪といわずして何というのか。
それにこのような大規模な事を仕出かす者達だ、何らかの手段で我々を監視している可能性が高い。
下手な行動を取れば広間で命を落とした四人の後を追うことになるだろう。
最早殺し合いを仕組んだ者達の願いどおり戦い、傷つけあい、殺しあうしかないように思える。
しかしこんな絶望的な状況でも、罪の無い他人を傷つけるのを良しとせず和解を訴える者はいるはずだ。
現に先程の道着の男はこちらと争う事に戸惑いを感じていた。
刑二郎や双七君、生徒会の皆がもし同じ状況に陥ったとしても彼らが進んで他者に襲い掛かるとは到底思えない。
例え命を握られていても最期まで自分の信念を貫き通す。
殺し合いを仕組んだ者達と殺し合いに乗った者達に断固歯向かうのだろう。
そして間違いなく刀子はその部類。妹が罪の無い他人を傷つける事をよしとするはずがない。
――故に俺は戦うのだ。

参拾参、参拾肆、参拾伍……大分感覚が戻ってきた。

誰も殺したくないという人間がこの島から抜け出す方法はあるか?
単独で脱出を図る……論外。
空路は期待できないので自然海路をとる事になるが、正確な地図無しに一人乗りの船舶で海に繰り出すのは自殺行為だ。
ならば複数の人間、例えば殺し合いをよしとしない者達で団結してこの場所からの脱出を図ればいいのでは?
たしかにそれなら成功する可能性はある。だがそれは万に一の確率、限りなく不可能に近い可能だ。
人妖を含む大勢を誘拐してきた手腕と実力、殺し合いの舞台としてまるまる無人島一つを用意できる財力。
俺と妹の精神体にまで首輪を嵌める用意周到さ。殺し合いを仕組んだ者達はかなりの手間と金をかけて今回の事を準備している。
そんな彼らが我々の逃亡を予想していないはずがないのだ、二重三重に対策が打たれているのは間違いない。

まず第一に俺達の首に取りつけられている爆弾が島からの脱出を認めてくれるはずが無い。
首の爆弾がある限りこの殺し合いから逃れる事はできない。
そう、この島から生きて帰る方法はただ一つ、六十三人の屍を越え最後の生き残りになるしかないのだ。
いくら戦闘に長ける人間でも、殺し合いに消極的では最後の一人にはなれるはずがない。つまりいずれ死んでしまうという事。
この島での明暗を分ける決定打は戦闘力ではない。おそらく必要なのは要領の良さ。
他人を騙し、裏切り、見捨る狡猾さ。隙あらば他人に襲い掛かり、打ち倒し、躊躇無く殺す残忍さ。
それが最後の一人になるために必要な資質。俺と刀子に圧倒的に不足しているもの。

……実のところそんな資質を欲しいとは思わない。
理解はできる、自身が導き出した解答なのだ当然間違ってはいまい。
しかしながら自らの信念と間逆の考え、理解していても受け入れがたいものがある。
善良な人間に襲い掛かり傷つけ、それどころか命までもを奪う、そんな悪事を行いたいはずがない。
例え志半ばで倒れるとしても、信念に殉じ目の前の悪に歯向かえるだけ歯向かいたい。
同じ思いを抱く仲間を見つけ、励ましあいながら島からの脱出の糸口を探したい。
――だがそれでは駄目なのだ! それでは妹を救えない!

「ハァァァーーー!」

無心にただひたすら刀を振るう。心を研ぎ澄まして、弱い考えを霧散させる。
自身の欲望は抑え込め。胸の痛みは無視しろ。仲間のため、親友のため、妹の幸せのために戦え。
生徒会の皆と双七君の下に刀子を必ず送り返す、そう決心したではないか。
他人の命を奪う事を厭うな、目的のために六十三人の善良な人々の命を踏み台にしろ。
この島で仲間を作るなんて以ての外だ。
俺は弱い、刀子を守るために仲間を切り捨てなくてはならなくなったとしても、間違いなく躊躇ってしまうだろう。
それは自身の破滅延いては刀子の破滅に繋がりかねない。そうなってしまえば悔やんでも悔やみきれない。
どの道残り少ない生だ、後悔せずに生き抜きたい。俺は身を阿修羅道に堕とし、妹のために戦い抜く!
――敵に名乗る名は無い。俺は一乃谷愁厳としてではなく、人の心を捨てた一匹の妖として戦うのだから。

一刀目、下段に構えた刀を大振りにしかし最大限の速さで振り上げる。
ただし完全には振り切らず、手首の返しを以って素早く下段の構えへと戻す。
そして本命の二刀目、一刀目を避け油断している敵を全力で斬り上げる! 

「一乃谷流――“霧狐”」

想定どおりの刀筋と刀速、異常なし、閃光手榴弾の影響は完全になくなった。
これで万全の体制で闘争を再開できる。しかも幸いな事に刀子の意識が戻る気配はまだ無い。
浅ましい話だが未だに俺は妹には自分の汚れた姿を見られたくないと心のどこかで思っているのだ。
だが今ならばその心配は無用。早急に次の相手を探しに動くべきだ。
今虎徹を鞘におさめて腰に挿し、木刀を仕舞うために支給された鞄を開く。
名簿、地図、食糧、その他もろもろが視界に入るがそれを意図的に無視、木刀を隙間に押し込むのみで鞄を閉じる。
食糧……空腹は思考を鈍らせる。いつかは食事を行わなければならないだろう。
だが、食事中にはどうしても気が緩んでしまうのが生物の宿命であり、殺し合いの真っ最中に気を抜くのは自殺行為。
食事を取るタイミングは慎重に選ぶ必要がある。そして今はその時ではない。
地図……時間をかけて地理を把握したいのは山々だが、できるだけ刀子が目を覚ますまでに事を構えたいという事情がある。
それに手当たり次第に他者に襲い掛かるのが俺の方針だ、地図を眺める暇があるなら一人でも多く参加者に接触するべきだ。
名簿……俺が殺そうとしている六十三人の名が載っている。いわば被害者である彼らの事を考えると胸が痛む。
だからこそ名簿を開く事は許されない。
彼らの名を知り、彼らが歩んできた人生に触れてしまえば、胸の痛みどころではすまないだろう。
支障が出る事は極力避けるべき、最後の一人を目指すのなら名簿だけは絶対に開いてはいけない。
背中に鞄、腰に刀、体調は万全、準備は終わった。
これから俺は最後の一人を目指して再び闘争へと赴く。
もう振り返る事はないかもしれない。だから最後に一つだけ。

――願わくば再び我が妹に幸せが訪れんことを

そして闇のなかに一歩を踏み出した。



【D-5 森 /1日目 深夜】

【一乃谷愁厳@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【装備:今虎徹@CROSS†CHANNEL ~to all people~】
【所持品:木刀、支給品一式、不明支給品(0~2)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:刀子を神沢市の日常に帰す
1:生き残りの座を賭けて他者と積極的に争う

【備考】
【一乃谷刀子@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【状態:精神体、健康、気絶中】
【思考】
1:不明


【E-5 山小屋 /1日目 深夜】

【宮沢謙吾@リトルバスターズ!】
【装備:なし】
【所持品:スタングレネード×2、リトルバスターズジャンパー@リトルバスターズ!、支給品一式】
【状態:肉体的疲労中、左腕骨折(応急処置済み)】
【思考・行動】
1:今後の身の振り方について考える

【備考】
※リトルバスターズジャンパー@リトルバスターズ! は骨折の処置に使用されています。

【備考】
一乃谷刀子・一乃谷愁厳@あやかしびと -幻妖異聞録-は刀子ルート内からの参戦です。
※宮沢謙吾@リトルバスターズ!は共通ルート内からの参戦です。
※E-5の森でスタングレネード×3が破裂し、閃光と轟音を撒き散らしました。


019:希望、あるいは絶望への最初の一歩 投下順 021:熱く、強く、私らしく、たとえ殺し合いの舞台でも
時系列順 022:Battle Without Honor Or Humanity
一乃谷愁厳・一乃谷刀子 037:吊り天秤は大きく傾く
宮沢謙吾 049:胸には強さを、気高き強さを、頬には涙を、一滴の涙を。

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