I AM SACRIFICE BLOOD ◆DiyZPZG5M6
「どうして……こんなことを……殺し合いなんてわたしにできないよ……」
見ず知らずの場所に連れてこられ、最後の一人となるまで殺し合え――
その時はドッキリ番組の撮影か何かに呼ばれたのだろうと、事実を楽観的に受け取っていた。
いや、そもそもいきなり連れてこられた時点で事態がおかしいことはわかっていたはず。
でもわたしはその事実を受け止めるのが怖くて、テレビ番組のロケと一種の現実逃避をしていた。
だがそんな都合の良い妄想は血に塗れた冷たい現実にいともたやすく切り裂かれる。
たった三十分にも満たない時間で、四人の人命が一瞬にして奪われたのだった。
その時はドッキリ番組の撮影か何かに呼ばれたのだろうと、事実を楽観的に受け取っていた。
いや、そもそもいきなり連れてこられた時点で事態がおかしいことはわかっていたはず。
でもわたしはその事実を受け止めるのが怖くて、テレビ番組のロケと一種の現実逃避をしていた。
だがそんな都合の良い妄想は血に塗れた冷たい現実にいともたやすく切り裂かれる。
たった三十分にも満たない時間で、四人の人命が一瞬にして奪われたのだった。
「あの二人まで死んじゃうなんて……」
わたしは赤い霧となって消滅した二人の女の子を思い出す。
正確には『二人』と表現するのは間違いかもしれない。
ノゾミちゃんとミカゲちゃん、彼女たちは人に在らざるあやかしの者なのだから。
そしてわたしと浅からぬ因縁がある者だった。
わたしは赤い霧となって消滅した二人の女の子を思い出す。
正確には『二人』と表現するのは間違いかもしれない。
ノゾミちゃんとミカゲちゃん、彼女たちは人に在らざるあやかしの者なのだから。
そしてわたしと浅からぬ因縁がある者だった。
わたし――羽藤桂はいたって普通の女の子。運動能力も成績の人並み。
友達とおしゃべりやショッピングなどを楽しむ普通の女子高生。
趣味は読書と……もう二つ。
どちらも『普通』の女子高生らしくない趣味、落語と時代劇。
落語は有名どころな噺はそらで言えるぐらい記憶しているし、
時代劇も近所のお年寄り顔負けの知識が自慢である。えっへん。
友達とおしゃべりやショッピングなどを楽しむ普通の女子高生。
趣味は読書と……もう二つ。
どちらも『普通』の女子高生らしくない趣味、落語と時代劇。
落語は有名どころな噺はそらで言えるぐらい記憶しているし、
時代劇も近所のお年寄り顔負けの知識が自慢である。えっへん。
そんなどこにでもある日常を普通の毎日を過ごしていたわたしだが、あの夏のできごとを境に一変した。
ことの始まりは母親の死だった。とくに不審な死でもなく過労が祟ってのこと。
お母さんの葬儀やその事務に追われ悲しむ暇もないわたしにある知らせが届く、それは税理士からのものだった。
母子家庭であったわたしのお母さんが亡くなったことで発生する遺産の管理についての話だった。
その話によるとわたしが物心つく前に死んだお父さんの実家が、無人のままわたしの名義で相続されていたらしいのである。
税理士さんの話はわたしにはさっぱりだったけど、とにかく相続税か何やらでややこしいことになるので、
その家を相続するか放棄するかを決めて欲しいとのことである。
とにかくその家を一度見なくては相続も放棄も決められないので、
わたしは夏休みを利用して父の実家にある片田舎の町、経観塚に赴いたのである。
ことの始まりは母親の死だった。とくに不審な死でもなく過労が祟ってのこと。
お母さんの葬儀やその事務に追われ悲しむ暇もないわたしにある知らせが届く、それは税理士からのものだった。
母子家庭であったわたしのお母さんが亡くなったことで発生する遺産の管理についての話だった。
その話によるとわたしが物心つく前に死んだお父さんの実家が、無人のままわたしの名義で相続されていたらしいのである。
税理士さんの話はわたしにはさっぱりだったけど、とにかく相続税か何やらでややこしいことになるので、
その家を相続するか放棄するかを決めて欲しいとのことである。
とにかくその家を一度見なくては相続も放棄も決められないので、
わたしは夏休みを利用して父の実家にある片田舎の町、経観塚に赴いたのである。
経観塚の地で遭遇したあの一件はわたしに非日常の世界をまざまざと見せ付けた。
わたしの一族に秘められたある力を巡った事件である。
わたし――代々羽藤の名に連なる人間は『贄の血』を受け継いでいる。
贄の血は人にあらざる者、つまり鬼や妖怪のような超常存在がその血を口にすると、飛躍的に己の力を増す特殊な体質なのだ。
故に羽藤の人間は古くからその手の存在に狙われてきた一族だった。
そして羽藤の血を受け継ぐ人間であるわたしは経観塚の地でさまざまな妖の者に命を狙われるはめになったのである。
だけどそれら一連の事件はわたしの大切な人たちの協力で一応の解決となり、再び日常が戻ってきた。
はずだった。
わたしの一族に秘められたある力を巡った事件である。
わたし――代々羽藤の名に連なる人間は『贄の血』を受け継いでいる。
贄の血は人にあらざる者、つまり鬼や妖怪のような超常存在がその血を口にすると、飛躍的に己の力を増す特殊な体質なのだ。
故に羽藤の人間は古くからその手の存在に狙われてきた一族だった。
そして羽藤の血を受け継ぐ人間であるわたしは経観塚の地でさまざまな妖の者に命を狙われるはめになったのである。
だけどそれら一連の事件はわたしの大切な人たちの協力で一応の解決となり、再び日常が戻ってきた。
はずだった。
「またこんなことに……」
再び戻って来た日常を謳歌するその矢先に、見ず知らずの場所に連れてこられ殺し合いをさせられる。
できることなら逃げ出したいけどそれは無理というもの。
あのノゾミちゃんとミカゲちゃんですら一瞬にして滅ぼされた。
彼女たちは経観塚でわたしの血を狙って現れた妖怪だった。
わたしからすると自分の命を狙う敵ではあるのだが、なす術もなく消滅させられた二人に複雑な気持ちを抱いていた。
あの二人は人間ではない鬼、妖怪の類、普通の人間には到底太刀打ちできない力を持っている。
だけどあの神崎と名乗った男の人はたった一太刀で彼女たちを滅ぼし、赤い霧へと還元した。
できることなら逃げ出したいけどそれは無理というもの。
あのノゾミちゃんとミカゲちゃんですら一瞬にして滅ぼされた。
彼女たちは経観塚でわたしの血を狙って現れた妖怪だった。
わたしからすると自分の命を狙う敵ではあるのだが、なす術もなく消滅させられた二人に複雑な気持ちを抱いていた。
あの二人は人間ではない鬼、妖怪の類、普通の人間には到底太刀打ちできない力を持っている。
だけどあの神崎と名乗った男の人はたった一太刀で彼女たちを滅ぼし、赤い霧へと還元した。
「あれ……? おかしいよこれ……なんであそこにノゾミちゃんとミカゲちゃんがいたの???」
信じられない出来事で思考が麻痺していたのだろうか、わたしはある奇妙な点に気がついていなかった。
今ごろになってある疑問が噴出する。
それは何か?
あの場に彼女たちが存在していること事態がおかしいのだ。
経観塚の地に纏わる事件が解決したことであの二人は消滅したはずだった。
そしてノゾミちゃんは言っていた『私達は主さまを蘇らせるために忙しいの』と。
彼女たちを使役する山の神ももういないはずなのに……
わからない、脳の中に蜘蛛の巣が張られたように不快な感覚。
理解できないことを無理して理解しようとして脳が煙が吹きそうだった。
これ以上考えても答えが出るわけもなし、結局わたしは二人の存在について深く考えることを止めた。
信じられない出来事で思考が麻痺していたのだろうか、わたしはある奇妙な点に気がついていなかった。
今ごろになってある疑問が噴出する。
それは何か?
あの場に彼女たちが存在していること事態がおかしいのだ。
経観塚の地に纏わる事件が解決したことであの二人は消滅したはずだった。
そしてノゾミちゃんは言っていた『私達は主さまを蘇らせるために忙しいの』と。
彼女たちを使役する山の神ももういないはずなのに……
わからない、脳の中に蜘蛛の巣が張られたように不快な感覚。
理解できないことを無理して理解しようとして脳が煙が吹きそうだった。
これ以上考えても答えが出るわけもなし、結局わたしは二人の存在について深く考えることを止めた。
「……あの子、大丈夫かな」
頭を吹き飛ばされた男の子の傍らで泣き叫ぶ女の子の姿を思い出す。
確か柚原このみと呼ばれた女の子、半狂乱になった彼女はうわごとのように彼の名を呟いていた。
その痛々しい姿にわたしの心も張り裂けそうなぐらい痛む。
そんな彼女に言峰と名乗る男は無慈悲に追い討ちをかける。
わたしの耳にもはっきりと聞こえる電子音、死へのカウントダウンが彼女を襲う。
誰も彼女を助けられない、わたしもその光景を呆然と眺めているだけだった。
だけど、そんな中、自分の命を呈してでも彼女を救おうとした女性がいた。
自分の命と引き換えに首輪の爆破を止めろ――
臆せずにに毅然とした態度で、あの場に居合わせた者すべてに聞こえるほど凛とした力強い声で嘆願した。
神父は彼女の願いを聞き届け、柚原このみの首輪の爆破を停止した。
その代わりに――
確か柚原このみと呼ばれた女の子、半狂乱になった彼女はうわごとのように彼の名を呟いていた。
その痛々しい姿にわたしの心も張り裂けそうなぐらい痛む。
そんな彼女に言峰と名乗る男は無慈悲に追い討ちをかける。
わたしの耳にもはっきりと聞こえる電子音、死へのカウントダウンが彼女を襲う。
誰も彼女を助けられない、わたしもその光景を呆然と眺めているだけだった。
だけど、そんな中、自分の命を呈してでも彼女を救おうとした女性がいた。
自分の命と引き換えに首輪の爆破を止めろ――
臆せずにに毅然とした態度で、あの場に居合わせた者すべてに聞こえるほど凛とした力強い声で嘆願した。
神父は彼女の願いを聞き届け、柚原このみの首輪の爆破を停止した。
その代わりに――
「ひどいよ……なんでこんなこと平気でできるの……?」
自然と涙が溢れてくる、全くの見知らぬ他人の出来事なのにまるで自分のことのように感じられた。
『このみ、雄二――頑張って生きてね』
あの人の最期の声と顔が心に焼き付いていた。
数秒後に迫る自分の死に取り乱すことも無く、自分の運命を受け入れ遺された者の安寧を祈る彼女。
優しい笑顔で彼女は最期の言葉を紡ぐ。
そしてその決意を踏みにじる冒涜の赤い飛沫が辺りを染め上げる。
世界で最も美しいものと最も醜いものを同時に見たような気分だった。
目の前で大切な人を二人も失った彼女の悲しみと絶望は想像に尽くしがたい。
もし、彼女たちに再会できたのならその時は力になってあげたい。
贄の血以外はたいしたことのできないわたしだけど、せめて側にいてあげたい。
『このみ、雄二――頑張って生きてね』
あの人の最期の声と顔が心に焼き付いていた。
数秒後に迫る自分の死に取り乱すことも無く、自分の運命を受け入れ遺された者の安寧を祈る彼女。
優しい笑顔で彼女は最期の言葉を紡ぐ。
そしてその決意を踏みにじる冒涜の赤い飛沫が辺りを染め上げる。
世界で最も美しいものと最も醜いものを同時に見たような気分だった。
目の前で大切な人を二人も失った彼女の悲しみと絶望は想像に尽くしがたい。
もし、彼女たちに再会できたのならその時は力になってあげたい。
贄の血以外はたいしたことのできないわたしだけど、せめて側にいてあげたい。
彼女たちの絆を知らずにわたし程度がそんなこと軽々しく言うのは憚れるけど、それでも……
◆ ◆ ◆
「そういえばここ……どこなんだろう……」
これまで起きた事態をを把握するために考えすぎていたのか、
自分がどこにいて、どこに向かって歩いていたのを完全に意識の外に追いやっていたらしい。
わたしは足を止め、周囲を見渡す。
アスファルトによって舗装された道、学校のグラウンドよりも遥かに広い、だだっ広い敷地。
周りに建物はなく遠くに建物らしき影があるが周りは闇に包まれ詳しいシルエットまではわからない。
ただ一直線に伸びたアスファルトの道が存在しているだけだった。
白線で描かれた矢印や数字、等間隔に設置された白や黄の灯りが道路の輪郭を浮き上がらせ、
ここが普通の道ではないことだけを伺い知ることができた。
自分がどこにいて、どこに向かって歩いていたのを完全に意識の外に追いやっていたらしい。
わたしは足を止め、周囲を見渡す。
アスファルトによって舗装された道、学校のグラウンドよりも遥かに広い、だだっ広い敷地。
周りに建物はなく遠くに建物らしき影があるが周りは闇に包まれ詳しいシルエットまではわからない。
ただ一直線に伸びたアスファルトの道が存在しているだけだった。
白線で描かれた矢印や数字、等間隔に設置された白や黄の灯りが道路の輪郭を浮き上がらせ、
ここが普通の道ではないことだけを伺い知ることができた。
「なんだろうこの道……高速道路じゃないよね……」
ふと見上げると、百メートルほど離れた路上に大きなシルエットが月明かりに浮かび上がっていた。
ここからでは良く見えない、もっとよく近づいてみよう。
ふと見上げると、百メートルほど離れた路上に大きなシルエットが月明かりに浮かび上がっていた。
ここからでは良く見えない、もっとよく近づいてみよう。
百メートルほど歩いても道に終わりは見えない。
そしてわたしの目の前に影の正体が姿を現した。
「飛……行機……? でもこれ……?」
全長およそ二十メートル、高さは五メートルぐらい。
旅客機と比べるとずっと小さなサイズ。
でも旅客機とは違って鋭角的な機首、小さな操縦席、三角形の翼、二つの垂直尾翼。
翼の下にはエンジンは無く、エンジンは尾翼の側に二つ。
そして翼の下にぶら下がった円筒形のミサイル。
明らか普通の飛行機とは異質の、攻撃的なデザインだった。
それはよく映画で見る――軍用の戦闘機だった。
そしてわたしの目の前に影の正体が姿を現した。
「飛……行機……? でもこれ……?」
全長およそ二十メートル、高さは五メートルぐらい。
旅客機と比べるとずっと小さなサイズ。
でも旅客機とは違って鋭角的な機首、小さな操縦席、三角形の翼、二つの垂直尾翼。
翼の下にはエンジンは無く、エンジンは尾翼の側に二つ。
そして翼の下にぶら下がった円筒形のミサイル。
明らか普通の飛行機とは異質の、攻撃的なデザインだった。
それはよく映画で見る――軍用の戦闘機だった。
「そっかあ、ここ滑走路だったんだ」
目の前の物体の正体に気がついたことで今自分がいる場所がわかる。
たしかに滑走路ならこの道路の長さと広さに納得できた。
さっそくわたしは地図を広げてみる。
地図には重要そうな施設がしるされており、学校や病院、コンサートホールなどが記されその中に空港の二文字を発見した。
B-7からC-8に向かって引かれた赤い直線と空港の文字、赤い直線は滑走路を表しているのだろう。
わたしは地図から目を離し、戦闘機を見上げる。
目の前の物体の正体に気がついたことで今自分がいる場所がわかる。
たしかに滑走路ならこの道路の長さと広さに納得できた。
さっそくわたしは地図を広げてみる。
地図には重要そうな施設がしるされており、学校や病院、コンサートホールなどが記されその中に空港の二文字を発見した。
B-7からC-8に向かって引かれた赤い直線と空港の文字、赤い直線は滑走路を表しているのだろう。
わたしは地図から目を離し、戦闘機を見上げる。
「これに乗って……なんて無理、だよね……」
ため息をつくわたし。
もちろんわたしに飛行機を動かす技術もないし、例え動かせても島の外に出た瞬間に首輪が爆発するに違いない。
わたしにとってそれは無用の長物だった。
「それにしてもヘンな色」
そっと機体に手を触れる。ひんやりとした金属の質感。
覚めるような青い塗装がなされていた。こういうのは灰色っぽい塗装が普通だと思っていたのに。
あらためて目をこらし機体を眺める、どうやら機体に何か描かれているようだ。
機首付近に『765』と描かれた数字。
機体側面に英字で『THEiDOLM@STER』
そしてなにより垂直尾翼に描かれた女の人の姿がすごく場違いな雰囲気を醸し出していた。
年の頃はわたしと同じぐらい、煌びやかな服を着ており長くて綺麗な黒髪が印象的だ。
なんでこんな目立つ塗装を戦闘機に施したのか理解できそうにない。
「……この塗装をした人のセンスを疑うよ」
わたしは腰を下ろしもう一度渡されたデイパックを中身を探る。
地図の他にランタン、水や食料そして――
参加者名簿が目に入った。
ため息をつくわたし。
もちろんわたしに飛行機を動かす技術もないし、例え動かせても島の外に出た瞬間に首輪が爆発するに違いない。
わたしにとってそれは無用の長物だった。
「それにしてもヘンな色」
そっと機体に手を触れる。ひんやりとした金属の質感。
覚めるような青い塗装がなされていた。こういうのは灰色っぽい塗装が普通だと思っていたのに。
あらためて目をこらし機体を眺める、どうやら機体に何か描かれているようだ。
機首付近に『765』と描かれた数字。
機体側面に英字で『THEiDOLM@STER』
そしてなにより垂直尾翼に描かれた女の人の姿がすごく場違いな雰囲気を醸し出していた。
年の頃はわたしと同じぐらい、煌びやかな服を着ており長くて綺麗な黒髪が印象的だ。
なんでこんな目立つ塗装を戦闘機に施したのか理解できそうにない。
「……この塗装をした人のセンスを疑うよ」
わたしは腰を下ろしもう一度渡されたデイパックを中身を探る。
地図の他にランタン、水や食料そして――
参加者名簿が目に入った。
わたしは急いで名簿を開く、嫌な予感と期待が入り混じった感覚。
そして見つける、わたしの名前の他に見知った名前が記されていることを。
そして見つける、わたしの名前の他に見知った名前が記されていることを。
「そ、んな……」
経観塚でわたしと関わった人の名前が記されいた。
知り合いの名前を見つけた喜びと、彼女たちも巻き込まれてしまったという悲しみ。
二つの感情が心の中で揺れ動く。
知り合いの名前を見つけた喜びと、彼女たちも巻き込まれてしまったという悲しみ。
二つの感情が心の中で揺れ動く。
「なんとしてもみんなを探さないと――」
カツン
そう思った瞬間、私の背後で音がした。
誰かの足音、機体を挟んで反対側から音がした。
どくんどくんと心臓が激しく脈打つ。
誰かが――いる。
誰かの足音、機体を挟んで反対側から音がした。
どくんどくんと心臓が激しく脈打つ。
誰かが――いる。
「だ……誰かそこにいる……の?」
恐る恐る問いかける。
どうしようどうしよう……!
「何とも奇妙な血の臭いに釣られて来てみれば……ただの小娘か」
鈴を転がすような高い声。闇の中から、機体の影からその人物が私の前に姿を現した。
◆ ◆ ◆
「まったく……妾ともあろう者があのような者共に遅れを取ろうとは嘆かわしい
肝心の九郎とは離れ離れ、しかも契約も解除されていると来ている。あの甲斐性無しのマスターめ……」
肝心の九郎とは離れ離れ、しかも契約も解除されていると来ている。あの甲斐性無しのマスターめ……」
ぐちぐちと愚痴をたれるその人物を月明かりが照らし出す。
青い月光がその白い少女を染め上げる。
わたしの目の前にいる人物は女の子だった。
青い月光がその白い少女を染め上げる。
わたしの目の前にいる人物は女の子だった。
年の頃は小学生の高学年ぐらい。日本人離れした顔つき
青い瞳に長い銀色の髪、透き通った白い肌、白いフリルがついた衣装。
女のわたしが見ても一目で美しいと認識させるほどの美少女だった。
見たところわたしに敵意は無いようだけど……さっきの言葉が気になった。
彼女は奇妙な血の臭いと言った。それの意味することはただ一つ、贄の血だ。
彼女はわたしの血に何かを感じている。わたしは警戒心を解かず、彼女に声をかける。
青い瞳に長い銀色の髪、透き通った白い肌、白いフリルがついた衣装。
女のわたしが見ても一目で美しいと認識させるほどの美少女だった。
見たところわたしに敵意は無いようだけど……さっきの言葉が気になった。
彼女は奇妙な血の臭いと言った。それの意味することはただ一つ、贄の血だ。
彼女はわたしの血に何かを感じている。わたしは警戒心を解かず、彼女に声をかける。
「あの……誰ですか」
「ん? ああすまぬな娘よ、ついついあの馬鹿を思い出してしまってな。変な愚痴をこぼしてしまったようだ」
「は、はあ……」
「しかし汝は面白い血を持っている。人にあらざる外道共を引き付ける血。
位階の低い外道共は言わずもがな、高位の精霊たる妾ですら甘美に酔いしれる臭いだからのう
よくもまあこれまで生きてこられてきたものよ」
「ん? ああすまぬな娘よ、ついついあの馬鹿を思い出してしまってな。変な愚痴をこぼしてしまったようだ」
「は、はあ……」
「しかし汝は面白い血を持っている。人にあらざる外道共を引き付ける血。
位階の低い外道共は言わずもがな、高位の精霊たる妾ですら甘美に酔いしれる臭いだからのう
よくもまあこれまで生きてこられてきたものよ」
女の子は大昔のお姫様のような口調でわたしをまじまじと見つめる。
間違いない、この子はわたしの血の特性に気がついている。
そしてこの子もまた人にあらざる者……!
間違いない、この子はわたしの血の特性に気がついている。
そしてこの子もまた人にあらざる者……!
「あ、あなたも……わたしの血を……」
「はっ! 妾をその辺の下等な物共と一緒にするでないわ!」
「はっ! 妾をその辺の下等な物共と一緒にするでないわ!」
女の子は腕を組み、頬を膨らませ怒る。
その仕草がどことなく可愛らしかった。
その仕草がどことなく可愛らしかった。
「別に妾は汝を獲って喰おうなんて気はないからな。血の臭いに引かれてここに来たまでだ
それに丁度良い……娘よ、一時的ではあるが妾のマスターをやれ」
「はい? ……マスター?」
「どういうわけか九郎と交わした契約が解除されていてな、マスターがいないと妾も満足に力を振るえぬ。
汝は九郎よりも魔術の才は無さそうだが、誰とも契約しないよりはマシだからな」
それに丁度良い……娘よ、一時的ではあるが妾のマスターをやれ」
「はい? ……マスター?」
「どういうわけか九郎と交わした契約が解除されていてな、マスターがいないと妾も満足に力を振るえぬ。
汝は九郎よりも魔術の才は無さそうだが、誰とも契約しないよりはマシだからな」
九郎? 契約? マスター? 何のことを言ってるのかさっぱりわからない。
わたしの疑問をよそにまくし立てる女の子。
わたしの疑問をよそにまくし立てる女の子。
「あの……そもそもあなた誰ですか?」
「なんだ汝は知らぬのか? 妾こそアル・アジフ、かの狂えるアラブ人アヴドゥル・アルハザードによって
記された最強の魔導書『ネクロノミコン』の化身なり!」
「ねこのみかんさん……?」
「違う! ネ・ク・ロ・ノ・ミ・コ・ンだ! 正確に言うとネクロノミコンは英訳された際に付けられた名であり、
アラビア語で書かれた原題、すなわちアル・アジフが妾の真なる名だ」
「えっと……アルちゃんでいいのかな?」
「『ちゃん』付けは余計だがまあいいだろう。汝の名は何と言う?」
「羽藤桂……」
「桂かよかろう、汝の名、我がページにしかと刻んだ。汝に問う、我と契約しこの世の悪を打ち払う魔術師となる覚悟はあるか?」
アルちゃんの翡翠色の瞳がまっすぐわたしを見つめる。
曇りの無い澄んだ瞳、そこにやましいものなど一片も感じられなかった。
「とは言え一時的なもの、本来のマスターと再会するまでの間だけだ。もちろん九郎と再会しても汝を見捨てはせぬ。安心しろ」
「で、でも……」
そんなこと簡単に承諾してもいいのだろうか……
確かに一人でいるよりアルちゃんと一緒にいたほうが安全なのだろうけど……
「あ~~~~~~!!!! はっきりせぬかこの甲斐性無し!!! 契約するのかしないのかはっきりせんか!」
迷うわたしにアルちゃんのカミナリが落ちた。
仕方ないよね、一人じゃ心細いし……
「なんだ汝は知らぬのか? 妾こそアル・アジフ、かの狂えるアラブ人アヴドゥル・アルハザードによって
記された最強の魔導書『ネクロノミコン』の化身なり!」
「ねこのみかんさん……?」
「違う! ネ・ク・ロ・ノ・ミ・コ・ンだ! 正確に言うとネクロノミコンは英訳された際に付けられた名であり、
アラビア語で書かれた原題、すなわちアル・アジフが妾の真なる名だ」
「えっと……アルちゃんでいいのかな?」
「『ちゃん』付けは余計だがまあいいだろう。汝の名は何と言う?」
「羽藤桂……」
「桂かよかろう、汝の名、我がページにしかと刻んだ。汝に問う、我と契約しこの世の悪を打ち払う魔術師となる覚悟はあるか?」
アルちゃんの翡翠色の瞳がまっすぐわたしを見つめる。
曇りの無い澄んだ瞳、そこにやましいものなど一片も感じられなかった。
「とは言え一時的なもの、本来のマスターと再会するまでの間だけだ。もちろん九郎と再会しても汝を見捨てはせぬ。安心しろ」
「で、でも……」
そんなこと簡単に承諾してもいいのだろうか……
確かに一人でいるよりアルちゃんと一緒にいたほうが安全なのだろうけど……
「あ~~~~~~!!!! はっきりせぬかこの甲斐性無し!!! 契約するのかしないのかはっきりせんか!」
迷うわたしにアルちゃんのカミナリが落ちた。
仕方ないよね、一人じゃ心細いし……
「わかったよ……わたし、アルちゃんと契約する!」
「そうか……汝の決意しかと受け取った。では約束通り契約を……だがその前に」
「そうか……汝の決意しかと受け取った。では約束通り契約を……だがその前に」
その瞬間わたしの身体が総毛だった。
アルちゃんの瞳が怪しく輝いたように見えた。
ぞくりと背筋に冷や汗が流れ落ちる。
まるで蛇に睨まれた蛙とはこのこと。
アルちゃんの瞳が怪しく輝いたように見えた。
ぞくりと背筋に冷や汗が流れ落ちる。
まるで蛇に睨まれた蛙とはこのこと。
「ちょっと……すまぬな」
「へ?」
「へ?」
どんっ、と軽く身体を押され思わずバランスを崩れ後ろに倒される。
一瞬何が起ったのかわからなかった。尻餅をついて背中が冷たいアスファルトに触れる。
ひんやりとしたアスファルトの硬い感触が気持ち悪い。
見上げた視線、その先には頬をわずかに桜色に染めたアルちゃんの顔が間近にあった。
「アル……ちゃん……?」
そこで気づく、
わたしの身体はアルちゃんに押し倒され――馬乗りになった状態で地面に組み伏せられていた。
アルちゃんの瞳は潤んだように怪しい光を湛え、妖しく濡れた吐息をわたしの首筋に吹きかけている。
「ゃ……ぁ……」
「ああ……何とも蟲惑的で淫靡な香り、汝が今まで生きていたことが不思議でかなわぬ
ずっと我慢してきたが妾とてその血が持つ理に逆らうのは難しいものよ」
一瞬何が起ったのかわからなかった。尻餅をついて背中が冷たいアスファルトに触れる。
ひんやりとしたアスファルトの硬い感触が気持ち悪い。
見上げた視線、その先には頬をわずかに桜色に染めたアルちゃんの顔が間近にあった。
「アル……ちゃん……?」
そこで気づく、
わたしの身体はアルちゃんに押し倒され――馬乗りになった状態で地面に組み伏せられていた。
アルちゃんの瞳は潤んだように怪しい光を湛え、妖しく濡れた吐息をわたしの首筋に吹きかけている。
「ゃ……ぁ……」
「ああ……何とも蟲惑的で淫靡な香り、汝が今まで生きていたことが不思議でかなわぬ
ずっと我慢してきたが妾とてその血が持つ理に逆らうのは難しいものよ」
アルちゃんは完全に上気しきった表情と声でわたしを見つめている。
「何、すぐに済む。汝がじっとしていれば五分も掛からぬ……」
アルちゃんの右手にはいつの間にかにサバイバルナイフが握られていた。
「いいか……死にたくなければ絶対に動くでないぞ、ほんの少しその首の薄皮を切り裂き滲み出た汝の血を舐めるだけだ」
彼女とて人にあらざる者、今まで必死に贄の血の誘惑から耐えていたのだ。
わたしは身じろぎ一つせずアルちゃんの瞳を見つめる。
「そうだ、できるかぎり痛くはせぬ。だが汝がヘタに動けばこの刃が汝を深く傷つけてしまう
そうなれば妾は汝の血を涸れ果てるまで喰らい続けることになる。だから――決して動くな」
「ん……」
「何、すぐに済む。汝がじっとしていれば五分も掛からぬ……」
アルちゃんの右手にはいつの間にかにサバイバルナイフが握られていた。
「いいか……死にたくなければ絶対に動くでないぞ、ほんの少しその首の薄皮を切り裂き滲み出た汝の血を舐めるだけだ」
彼女とて人にあらざる者、今まで必死に贄の血の誘惑から耐えていたのだ。
わたしは身じろぎ一つせずアルちゃんの瞳を見つめる。
「そうだ、できるかぎり痛くはせぬ。だが汝がヘタに動けばこの刃が汝を深く傷つけてしまう
そうなれば妾は汝の血を涸れ果てるまで喰らい続けることになる。だから――決して動くな」
「ん……」
アルちゃんはゆっくりと刃先を首にあて――その手の動きがとまる。
「どう……した……の?」
「……やはり首筋は怖い……胸元に変えさせてくれ」
わたしの問いにアルちゃんは少し恥ずかしげな表情で言った。
「いい……よ」
「すまぬ……」
アルちゃんはわたしの呼吸によって規則的に上下する胸に視線を移し凝視する。
「そんなに見つめられると恥ずかしいよ……」
「少し……服をずらしてもよいか?」
「う……ん」
「どう……した……の?」
「……やはり首筋は怖い……胸元に変えさせてくれ」
わたしの問いにアルちゃんは少し恥ずかしげな表情で言った。
「いい……よ」
「すまぬ……」
アルちゃんはわたしの呼吸によって規則的に上下する胸に視線を移し凝視する。
「そんなに見つめられると恥ずかしいよ……」
「少し……服をずらしてもよいか?」
「う……ん」
アルちゃんはゆっくりとわたしの胸元のリボンに手を伸ばして掴み、ゆっくりとそれを引く。
しゅるりと衣擦れの音がして、はだけたリボンが地面に落ちる。
アルちゃんの十本の指がわたしの襟をつかみ開いてゆく。
ふと視線を外し空を仰ぎ見る、戦闘機の尾翼に描かれた女の人と目線が合ってしまう。
まるでこれから行われることを見られているようで、恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
しゅるりと衣擦れの音がして、はだけたリボンが地面に落ちる。
アルちゃんの十本の指がわたしの襟をつかみ開いてゆく。
ふと視線を外し空を仰ぎ見る、戦闘機の尾翼に描かれた女の人と目線が合ってしまう。
まるでこれから行われることを見られているようで、恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
「どうした桂?」
「べっ……別に何でもない……よ。早くして……誰かに見られたら誤解されちゃうよ……」
「そのわりには妾に押し倒された時一切抵抗しなかったのは不思議よのう」
アルちゃんは唇を吊り上げにんまりと意地悪に笑う。
「べっ……別に何でもない……よ。早くして……誰かに見られたら誤解されちゃうよ……」
「そのわりには妾に押し倒された時一切抵抗しなかったのは不思議よのう」
アルちゃんは唇を吊り上げにんまりと意地悪に笑う。
「いくぞ……桂」
「うん……アルちゃん」
「うん……アルちゃん」
はだけた胸元、小さめの胸の一部が露になる。
トクントクンと心臓が波打っているのが自分の耳にもはっきりと聞こえるのわかった。
ナイフの切っ先が胸元にあてがわれ、ゆっくりと刃を縦に引かれる。
「ッ……」
ちくりとした痛みが感じる。
ほんの数ミリの赤い筋が引かれ、ぷつぷつと赤い雫が浮かび上がって行く。
ぴちゃ……ぴちゃ……
アルちゃんの仔猫のような小さな舌がわたしの血に触れる。
「ん……んんっ……」
舌が肌に触れる感覚が何ともこそばゆく無意識に声を上げてしまう。
頭の中にあるイメージが浮かび上がる。
二本の赤い糸が絡まり合い一本の線に繋がり合う感覚。
他人に自分の血を与えたときに幾度となく感じたイメージ。
贄の血を介してわたしとアルちゃんが繋がり合う感覚だった。
トクントクンと心臓が波打っているのが自分の耳にもはっきりと聞こえるのわかった。
ナイフの切っ先が胸元にあてがわれ、ゆっくりと刃を縦に引かれる。
「ッ……」
ちくりとした痛みが感じる。
ほんの数ミリの赤い筋が引かれ、ぷつぷつと赤い雫が浮かび上がって行く。
ぴちゃ……ぴちゃ……
アルちゃんの仔猫のような小さな舌がわたしの血に触れる。
「ん……んんっ……」
舌が肌に触れる感覚が何ともこそばゆく無意識に声を上げてしまう。
頭の中にあるイメージが浮かび上がる。
二本の赤い糸が絡まり合い一本の線に繋がり合う感覚。
他人に自分の血を与えたときに幾度となく感じたイメージ。
贄の血を介してわたしとアルちゃんが繋がり合う感覚だった。
数分が経ち、血が止まったわたしの胸から唇を離したアルちゃんは静かに言った。
「羽藤桂――妾は汝と契約する」
わたしは正式に……といっても本当のマスターが見つかるまでの間だけど、
アルちゃんとの契約を交わすことになった。
でも……本当にこれでよかったのかなあ……?
アルちゃんとの契約を交わすことになった。
でも……本当にこれでよかったのかなあ……?
【B-7 空港 滑走路 深夜】
【羽藤桂@アカイイト】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、ランダムアイテム×3
【状態】:健康
【思考・行動】
基本方針:島からの脱出 殺し合いに乗る気は皆無
1:アルと協力する
2:知り合いを探す
3:柚原このみが心配
4:ノゾミとミカゲの存在に疑問
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、ランダムアイテム×3
【状態】:健康
【思考・行動】
基本方針:島からの脱出 殺し合いに乗る気は皆無
1:アルと協力する
2:知り合いを探す
3:柚原このみが心配
4:ノゾミとミカゲの存在に疑問
【アル・アジフ@機神咆哮デモンベイン】
【装備】:サバイバルナイフ
【所持品】支給品一式、ランダムアイテム×2
【思考・行動】
基本方針:大十字九郎と合流し主催を打倒する
1:桂と協力する
2:九郎と再契約する
【装備】:サバイバルナイフ
【所持品】支給品一式、ランダムアイテム×2
【思考・行動】
基本方針:大十字九郎と合流し主催を打倒する
1:桂と協力する
2:九郎と再契約する
【備考】
※桂とアルが契約しました。マギウススタイル及び、アルの制限の詳細は次の書き手に任せます
※桂はノゾミEND以外のルートから参戦です。誰のENDを迎えたかは次の書き手に任せます
※滑走路に如月千早のペイントが施されたF-15E戦闘機が放置されています
※桂とアルが契約しました。マギウススタイル及び、アルの制限の詳細は次の書き手に任せます
※桂はノゾミEND以外のルートから参戦です。誰のENDを迎えたかは次の書き手に任せます
※滑走路に如月千早のペイントが施されたF-15E戦闘機が放置されています
006:Piova | 投下順 | 008:Spicy Drop Marble Jenka |
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羽藤桂 | 044:契約、そして | |
アル・アジフ |