契約、そして◆guAWf4RW62
周囲を囲む大きなビルの群れ。
普段なら夜であろうとも賑わう筈の街が、今は恐ろしい程に静まり返っている。
ビルの明かりは一つの例外も無く消灯されており、頼りになるのは月の光だけ。
わたし――羽藤桂はアルちゃんと共に中心街の一角を歩いていた。
普段なら夜であろうとも賑わう筈の街が、今は恐ろしい程に静まり返っている。
ビルの明かりは一つの例外も無く消灯されており、頼りになるのは月の光だけ。
わたし――羽藤桂はアルちゃんと共に中心街の一角を歩いていた。
「……駄目だな、九郎の魔力を全く嗅ぎ取れん。
普段なら造作も無く見付けられるものを……これが『制限』とやらか、忌々しい」
普段なら造作も無く見付けられるものを……これが『制限』とやらか、忌々しい」
言葉を洩らしたアルちゃんの表情には、確かな怒りが表れている。
本人から聞いた話によると、アルちゃんは魔力の残り香から人を探し出す事も可能らしい。
けれどあの神父達が施した制限の所為で、今はそれが出来なくなっているみたいだった。
本人から聞いた話によると、アルちゃんは魔力の残り香から人を探し出す事も可能らしい。
けれどあの神父達が施した制限の所為で、今はそれが出来なくなっているみたいだった。
「こうなれば、魔力探知に頼らず捜し出すしか無いようだの。徒歩では効率が悪い……駅に向かうぞ、マスターよ」
「駅に向かうのは構わないけど……マスターってわたしの事?」
「汝以外に誰が居るというのだ。契約を結んだ以上、汝は妾(わらわ)のマスターだ」
「駅に向かうのは構わないけど……マスターってわたしの事?」
「汝以外に誰が居るというのだ。契約を結んだ以上、汝は妾(わらわ)のマスターだ」
案の定、マスターとはわたしの事らしい。
だけど、わたしは何が何だか未だ良く理解出来ていなかった。
だけど、わたしは何が何だか未だ良く理解出来ていなかった。
アルちゃんとは一体どういう存在で、契約を結ぶとどうなるのか。
そんな事も知らないままに行動するのは、余りにも不用意なように思えた。
わたしは正確に状況を把握すべく、アルちゃんへと疑問を投げ掛ける。
そんな事も知らないままに行動するのは、余りにも不用意なように思えた。
わたしは正確に状況を把握すべく、アルちゃんへと疑問を投げ掛ける。
「そもそも、契約って何なの? アルちゃんって一体何者? きちんと説明してくれないと全然分からないよ」
「ふむ……そうだな。要点だけ掻い摘んで説明をしてやろう。
先程も云った通り、我が名は『アル・アジフ』。アヴドゥル・アルハザードによって記された、世界最強の魔導書なり」
「ふむ……そうだな。要点だけ掻い摘んで説明をしてやろう。
先程も云った通り、我が名は『アル・アジフ』。アヴドゥル・アルハザードによって記された、世界最強の魔導書なり」
魔導書――名前から考えて、何かの本の一種だろうか。
だけど、わたしは改めてアルちゃんをじっと眺め見る。
吸い込まれる程に澄んだ翡翠色の瞳。
銀が掛かった長く美しい髪に、小中学生程度の背丈。
今目の前に居る少女は、何処からどう見ても人間そのものだった。
だけど、わたしは改めてアルちゃんをじっと眺め見る。
吸い込まれる程に澄んだ翡翠色の瞳。
銀が掛かった長く美しい髪に、小中学生程度の背丈。
今目の前に居る少女は、何処からどう見ても人間そのものだった。
「えーと、つまりアルちゃんは、不思議な力を秘めた本だって事だよね。だけど、どうして本が人間みたいな姿をしているの?」
「ふふっ……妾を二流三流の魔導書と一緒にされては困る。妾程の魔導書ともなれば魂を持ち、カタチを持つのは当然と云えよう。えっへん」
「ふふっ……妾を二流三流の魔導書と一緒にされては困る。妾程の魔導書ともなれば魂を持ち、カタチを持つのは当然と云えよう。えっへん」
アルちゃんが自慢げに胸を逸らす。
小さな身体で行うそのポーズは、何だかとても可愛らしく見えた。
小さな身体で行うそのポーズは、何だかとても可愛らしく見えた。
「さて、次は契約について説明するぞ。基本的に、我ら魔導書は術者に依存している。
いかな超一流の魔導書でも、人間と契約しなければ本来の力を発揮出来ない。故に妾は人間と契約を交わし、邪悪な者共を狩るのだ。
そして汝は、一時的とは云え妾の契約相手――マスターに選ばれた訳だ」
いかな超一流の魔導書でも、人間と契約しなければ本来の力を発揮出来ない。故に妾は人間と契約を交わし、邪悪な者共を狩るのだ。
そして汝は、一時的とは云え妾の契約相手――マスターに選ばれた訳だ」
アルちゃんは話を要点のみに絞って、順番に説明してくれた。
それでようやく、わたしは大体の状況を理解する事が出来た。
つまりアルちゃんは、わたしと契約する事で力を引き出して、殺し合いを止めようとしているのだ。
それでようやく、わたしは大体の状況を理解する事が出来た。
つまりアルちゃんは、わたしと契約する事で力を引き出して、殺し合いを止めようとしているのだ。
わたしは過去数回、人ならざるモノと接した経験がある。
だから、何となく感じ取れる。
アルちゃんは人間を遥かに凌駕した、本当に凄い存在なんだって。
それだけの力を持ったアルちゃんなら、この殺し合いを止める事だって出来るかも知れない。
でも、わたしは――
だから、何となく感じ取れる。
アルちゃんは人間を遥かに凌駕した、本当に凄い存在なんだって。
それだけの力を持ったアルちゃんなら、この殺し合いを止める事だって出来るかも知れない。
でも、わたしは――
「本当にわたしなんかで良いの? わたし、凄い事なんて何も出来ないよ?
ドジだしアルちゃんの足を引っ張るだけかも知れないよ?」
ドジだしアルちゃんの足を引っ張るだけかも知れないよ?」
そう。
わたしには贄の血以外、何の力も無い。
嘗て鬼達との戦いで生き延びられたのだって、皆が守ってくれたからだ。
そんなわたしが同行した所で、アルちゃんの足手纏いにしかならないように思えた。
わたしには贄の血以外、何の力も無い。
嘗て鬼達との戦いで生き延びられたのだって、皆が守ってくれたからだ。
そんなわたしが同行した所で、アルちゃんの足手纏いにしかならないように思えた。
「そんな事は無いぞ。汝は戦う為に生まれてきたに違いない。きっとそうだ。決定」
適当な口調で強引に押し切ろうとするアルちゃん。
だけど黙りこくるわたしを見て、流石にそんな雰囲気では無い事を察したのか。
アルちゃんは暫くの間沈黙を守っていたが、やがて静かに口を開いた。
だけど黙りこくるわたしを見て、流石にそんな雰囲気では無い事を察したのか。
アルちゃんは暫くの間沈黙を守っていたが、やがて静かに口を開いた。
「……では、一つ問おう。汝はこの催し事に抗うつもりか?」
今までとは打って変わって、問い掛けるアルちゃんの表情は真剣そのもの。
わたしは少々気圧されながらも、無言で首を縦へと振る。
するとアルちゃんは鋭い目付きになって、再び言葉を投げ掛けてきた。
わたしは少々気圧されながらも、無言で首を縦へと振る。
するとアルちゃんは鋭い目付きになって、再び言葉を投げ掛けてきた。
「甘く考えるなよ。殺し合いを止めようと積極的に動き回れば、その分だけ汝の生き延びられる可能性は小さくなるぞ。
自分から危険に首を突っ込むという事だからな。それでも汝は、抗う意志を捨てずにいられるか?」
「――――っ」
自分から危険に首を突っ込むという事だからな。それでも汝は、抗う意志を捨てずにいられるか?」
「――――っ」
思わず息を飲む。
アルちゃんの云っている事は事実だと思う。
只でさえ弱いわたしが保身以外の事にまで手を回せば、自らの首を締める結果になるのは想像に難しくない。
アルちゃんの云っている事は事実だと思う。
只でさえ弱いわたしが保身以外の事にまで手を回せば、自らの首を締める結果になるのは想像に難しくない。
だけど。
そこでわたしは、殺し合いが始まった時の事を思い返す。
泣き叫ぶ女の子、無情にも命を奪われた強き女性。
人を人とも思わぬ狂気のオープニングセレモニー。
あんな光景はもう見たくない。
大切なものを失って悲しむ人達の姿なんて、もう二度と見たくないから――力の限り叫んだ。
そこでわたしは、殺し合いが始まった時の事を思い返す。
泣き叫ぶ女の子、無情にも命を奪われた強き女性。
人を人とも思わぬ狂気のオープニングセレモニー。
あんな光景はもう見たくない。
大切なものを失って悲しむ人達の姿なんて、もう二度と見たくないから――力の限り叫んだ。
「それでも、だよ! わたしはとても無力だけど、もう人が傷付き悲しむ所なんて見たくないもん!」
退くつもりは無い。
何の力も無いわたしだけど、これだけは絶対に譲れない。
わたしの視線とアルちゃんの視線が交差する。
そのまま経過する事数秒。
アルちゃんは表情を緩めると、確信に満ちた声で云った。
何の力も無いわたしだけど、これだけは絶対に譲れない。
わたしの視線とアルちゃんの視線が交差する。
そのまま経過する事数秒。
アルちゃんは表情を緩めると、確信に満ちた声で云った。
「そうか。ならば、やはり汝は我がマスターとなるに相応しい」
「え――――」
「え――――」
唐突な言葉に一瞬思考が停止する。
わたしが呆然とする中、アルちゃんはゆっくりと言葉を紡いでゆく。
わたしが呆然とする中、アルちゃんはゆっくりと言葉を紡いでゆく。
「汝は素晴らしい目をしておる。己の非力を識り、死を恐れ、それでも尚邪悪に立ち向かおうという目だ。
その目、その意志こそが、邪悪を打ち破る為に一番大切なものだ」
その目、その意志こそが、邪悪を打ち破る為に一番大切なものだ」
翡翠色の瞳が真っ直ぐにわたしを射抜く。
アルちゃんの目には何の不安の色も無く、在るのは確かな自信だけだった。
出会ったばかりなのにも関わらず、アルちゃんはわたしの事を完全に信頼してくれたのだ。
なら、応えないと。
わたしもちゃんと、信頼に応えないと。
アルちゃんの目には何の不安の色も無く、在るのは確かな自信だけだった。
出会ったばかりなのにも関わらず、アルちゃんはわたしの事を完全に信頼してくれたのだ。
なら、応えないと。
わたしもちゃんと、信頼に応えないと。
「もう一度問うぞ。汝、我と契約しこの世の悪を打ち払う魔術師となる覚悟はあるか? 」
「……うん。わたし、アルちゃんのマスターとして頑張ってみる!」
「……うん。わたし、アルちゃんのマスターとして頑張ってみる!」
以前と同じ問い。
けれど今度はもう迷わずに、はっきりと答えを口にする事が出来た。
これが本当の意味での契約。
わたしはアルちゃんと力を合わせて、この惨劇に立ち向かってゆく。
アルちゃんはわたしの返事が気に入ったのか、満足気な微笑みを浮かべた。
けれど今度はもう迷わずに、はっきりと答えを口にする事が出来た。
これが本当の意味での契約。
わたしはアルちゃんと力を合わせて、この惨劇に立ち向かってゆく。
アルちゃんはわたしの返事が気に入ったのか、満足気な微笑みを浮かべた。
「……ふん、少しはマシな面構えになったな。これから先が楽しみだ。
まあ九郎には及ばんし、契約はあくまで一時的なものに過ぎぬがな」
まあ九郎には及ばんし、契約はあくまで一時的なものに過ぎぬがな」
アルちゃんと出会って以来、九朗さんという人の名は度々耳にする。
聞く所によれば、アルちゃんが最優先で探している人物の筈。
九朗さんと面識の無いわたしは、興味の赴くままに問い掛ける。
聞く所によれば、アルちゃんが最優先で探している人物の筈。
九朗さんと面識の無いわたしは、興味の赴くままに問い掛ける。
「九郎さんって人、アルちゃんの話に良く出てくるよね。一体どんな人なの?」
「以前にも云ったが、九郎は妾本来のマスターだ。あやつとてまだまだ未熟だが、成長速度は大したもの。
一戦一戦を乗り越える度、別人のように強くなりおるわ」
「以前にも云ったが、九郎は妾本来のマスターだ。あやつとてまだまだ未熟だが、成長速度は大したもの。
一戦一戦を乗り越える度、別人のように強くなりおるわ」
九朗さんの話題になると、アルちゃんは流暢な口調で語ってくれた。
それに、と言葉を続けてゆく。
それに、と言葉を続けてゆく。
「あやつは魔術師としての素質があるだけでは無く、精神の強さが素晴らしい。
大十字九郎とは、どんな苦難にも、どんな邪悪にも、決して屈さずに立ち向かっていける男なのだ」
大十字九郎とは、どんな苦難にも、どんな邪悪にも、決して屈さずに立ち向かっていける男なのだ」
力強い声。
言葉の一つ一つから、揺ぎ無い信頼と強い想いが伝わってくる。
九朗さんについて語るアルちゃんの姿は、まるで恋人を自慢している少女のようで。
自然にわたしの口から言葉が零れ落ちた。
言葉の一つ一つから、揺ぎ無い信頼と強い想いが伝わってくる。
九朗さんについて語るアルちゃんの姿は、まるで恋人を自慢している少女のようで。
自然にわたしの口から言葉が零れ落ちた。
「……アルちゃんは、九郎さんの事が好きなんだね」
「にゃあっ!?」
「にゃあっ!?」
瞬間、アルちゃんの顔が真っ赤に染まった。
これが漫画の世界の出来事なら、ボンという効果音が出ていたかも知れない。
これが漫画の世界の出来事なら、ボンという効果音が出ていたかも知れない。
「わわわ、妾が九郎の事を好いているだと!? い、いきなり何を申すのだ!」
「だって九郎さんの事を話してる時のアルちゃん、とっても楽しそうだよ?」
「にゃああああああああああ!?」
「だって九郎さんの事を話してる時のアルちゃん、とっても楽しそうだよ?」
「にゃああああああああああ!?」
アルちゃんは猫のような声を上げると、更に頬を紅潮させた。
わたしの視線から逃れるように俯いて、肩をぷるぷると震わせる。
僅かの間、場に流れる沈黙。
再びアルちゃんが顔を上げた時、火山が大爆発を巻き起こした。
わたしの視線から逃れるように俯いて、肩をぷるぷると震わせる。
僅かの間、場に流れる沈黙。
再びアルちゃんが顔を上げた時、火山が大爆発を巻き起こした。
「違ぁ――――う! マスターよ、それは断じて違うぞ!
九郎はガサツで甲斐性無しでだらしなくていい加減で、オマケに大の付く莫迦だ!
対する妾は愛くるしい美貌に雪のような白い肌!
更には最強の魔導書と呼ばれるに相応しい深淵たる知識!
ほれ見てみよ! まるで釣り合いが取れていないではないか!
大体千年以上もの悠久を生きてきた妾が、二十やそこらの小僧に恋い焦がれるなど有り得ぬわ!」
九郎はガサツで甲斐性無しでだらしなくていい加減で、オマケに大の付く莫迦だ!
対する妾は愛くるしい美貌に雪のような白い肌!
更には最強の魔導書と呼ばれるに相応しい深淵たる知識!
ほれ見てみよ! まるで釣り合いが取れていないではないか!
大体千年以上もの悠久を生きてきた妾が、二十やそこらの小僧に恋い焦がれるなど有り得ぬわ!」
癇癪を起したかのように、アルちゃんはガアー!と一気に捲し立ててくる。
その姿は、思春期の少女そのものだ。
アルちゃんに対する先程までのイメージが、音を立てて物凄い勢いで崩れていく。
その姿は、思春期の少女そのものだ。
アルちゃんに対する先程までのイメージが、音を立てて物凄い勢いで崩れていく。
「とにかくだ、妾は断じて恋心など抱いておらぬ! 分かったか!? 分かったならうんと頷け!」
今にも掴み掛かって来そうな勢いで吠えるアルちゃん。
一も二も無く、わたしはコクコクと縦に頷いた。
一も二も無く、わたしはコクコクと縦に頷いた。
「……分かれば良い。では、疾く駅に向かうぞ」
「わ、待ってよアルちゃん!」
「わ、待ってよアルちゃん!」
アルちゃんはそう云うと、照れを隠すように早足で駅へ向かって歩き始める。
置いてけぼりにされないよう、慌ててわたしもアルちゃんの後を追って行った。
置いてけぼりにされないよう、慌ててわたしもアルちゃんの後を追って行った。
それから二十分程歩き続けて、無事わたし達は駅に辿り着く事が出来た。
駅は随分と時代遅れな造りで、自動改札機すら置いていない。
照明器具もまばらに設置されているだけで、未だ月明かりの方が頼りになるくらい。
そんな環境下で、わたしとアルちゃんは電車の到着をじっと待っていた。
駅は随分と時代遅れな造りで、自動改札機すら置いていない。
照明器具もまばらに設置されているだけで、未だ月明かりの方が頼りになるくらい。
そんな環境下で、わたしとアルちゃんは電車の到着をじっと待っていた。
「ちなみにマスター、汝の支給品は何だったのだ?」
「あっ……。そう云えば、未だ調べてなかったよ」
「あっ……。そう云えば、未だ調べてなかったよ」
アルちゃんに質問されて、わたしは何を支給されたか確かめていなかった事に気付く。
『備えあれば憂い無し』を座右の銘としているわたしにあるまじき失敗だ。
勿論わたしとしては、殺し合いを積極的に行う人なんて居ないと信じたい。
けれどそう希望通りに行くとは限らない訳で、いざという時に支給品が何かも知らないのでは話にならないだろう。
わたしは慌てて鞄に手を伸ばして、中にあるものを確認する。
『備えあれば憂い無し』を座右の銘としているわたしにあるまじき失敗だ。
勿論わたしとしては、殺し合いを積極的に行う人なんて居ないと信じたい。
けれどそう希望通りに行くとは限らない訳で、いざという時に支給品が何かも知らないのでは話にならないだろう。
わたしは慌てて鞄に手を伸ばして、中にあるものを確認する。
「これは――――」
最初にわたしが発見したのはお札の束だった。
お札は全部で六枚あって、それぞれに複雑な文字が刻みこまれている。
お札は全部で六枚あって、それぞれに複雑な文字が刻みこまれている。
「ふむ……その札、多少ながら魔力を帯びておるな」
「へえ、そうなの?」
「へえ、そうなの?」
短く答えて、わたしはお札をじっと眺め見る。
云われてみれば確かに、何か不思議な力を纏っているように感じられた。
どう使えば良いのか分からないけど、状況によっては役立ったりするのかな?
云われてみれば確かに、何か不思議な力を纏っているように感じられた。
どう使えば良いのか分からないけど、状況によっては役立ったりするのかな?
「む、電車が来たようだぞ」
わたしが考え込んでいる最中、横でアルちゃんが声を上げる。
見れば、遠くから電車が走って来ている所だった。
わたしは思考を中断させて、大急ぎで鞄に札を仕舞い込もうとする。
だけど、慌てていたのが不味かったのか。
つい手を滑らせて、札を前方へ落してしまいそうになってしまう。
見れば、遠くから電車が走って来ている所だった。
わたしは思考を中断させて、大急ぎで鞄に札を仕舞い込もうとする。
だけど、慌てていたのが不味かったのか。
つい手を滑らせて、札を前方へ落してしまいそうになってしまう。
「ダメッ…………!」
わたしは素早く上体を伸ばして、何とか札を掴み取る。
しかし重心を前に傾け過ぎた所為で、その場に踏み止まれなかった。
ホームで電車を待っている最中、前方に転倒してしまえばどうなるか、答えは一つ。
わたしはホームから落下して、そのまま背中から線路に叩き付けられた。
しかし重心を前に傾け過ぎた所為で、その場に踏み止まれなかった。
ホームで電車を待っている最中、前方に転倒してしまえばどうなるか、答えは一つ。
わたしはホームから落下して、そのまま背中から線路に叩き付けられた。
「あぐっ…………!?」
「う、うつけがっ!」
「う、うつけがっ!」
衝撃に一瞬息が詰まったものの、打ち所が良かったのか、足を挫いたりはしていない。
だけど上体を起こしたわたしの目に、一つの巨大な影が映る。
線路上を進む電車が、一直線にわたしへ向かって突っ込んで来ていた。
だけど上体を起こしたわたしの目に、一つの巨大な影が映る。
線路上を進む電車が、一直線にわたしへ向かって突っ込んで来ていた。
「く、このっ――――!」
これが魔術というものだろうか。
アルちゃんの手から、バーレーボール大の光弾が勢い良く放たれる。
光弾は正確に電車へと命中し、激しい火花を巻き散らした。
しかしその程度では、電車の勢いを緩める事すら叶わない。
アルちゃんの攻撃など無かったかのように、鋼鉄の巨体が駆け続ける。
アルちゃんの手から、バーレーボール大の光弾が勢い良く放たれる。
光弾は正確に電車へと命中し、激しい火花を巻き散らした。
しかしその程度では、電車の勢いを緩める事すら叶わない。
アルちゃんの攻撃など無かったかのように、鋼鉄の巨体が駆け続ける。
「あ…………」
電車の車体は、もう後十メートル程の所にまで迫っていた。
今から起き上がって逃げようとした所で、とても間に合わないだろう。
わたしは呆然としたまま、迫り来る死をただ眺める事しか出来ない。
けれどそこで突然閃光が煌めいて、闇夜を鋭く切り裂いた。
今から起き上がって逃げようとした所で、とても間に合わないだろう。
わたしは呆然としたまま、迫り来る死をただ眺める事しか出来ない。
けれどそこで突然閃光が煌めいて、闇夜を鋭く切り裂いた。
「これ、は……?」
視界に映る溢れんばかりの白。
わたしの身体を眩い光が覆っていた。
どういう訳か、体の節々から力が湧いてくるような感覚がする。
わたしの身体を眩い光が覆っていた。
どういう訳か、体の節々から力が湧いてくるような感覚がする。
「翔べ、マスター!」
何処からともなく聞こえてくるアルちゃんの声。
悩んでいる暇なんてある筈が無い。
わたしは素早く立ち上がると、全力で地面を蹴り飛ばした。
次の瞬間、凄まじいまでの浮遊感がわたしの身体を襲う。
悩んでいる暇なんてある筈が無い。
わたしは素早く立ち上がると、全力で地面を蹴り飛ばした。
次の瞬間、凄まじいまでの浮遊感がわたしの身体を襲う。
「え…………えええええええええっ!?」
わたしは飛んでいた。
それはもう、鳥のように。
高さにして三メートル以上も跳躍したわたしは、迫る電車を間一髪の所で飛び越える。
それはもう、鳥のように。
高さにして三メートル以上も跳躍したわたしは、迫る電車を間一髪の所で飛び越える。
「わわっ、ととっ……」
わたしは何とか空中で態勢を立て直して、そのままホームへと降り立った。
それに遅れる形で、電車も勢いを緩めて停車する。
状況が良く理解出来ないけれど、兎にも角にも助かったらしい。
それに遅れる形で、電車も勢いを緩めて停車する。
状況が良く理解出来ないけれど、兎にも角にも助かったらしい。
「はあ、怖かったよぉ…………」
わたしは安堵の息を洩らした後、ようやく思考を巡らせる。
多分、アルちゃんが何かしてくれたんだと思う。
あれ程の跳躍、わたしだけの力では絶対に不可能だ。
アルちゃんに聞けば、何が起こったのか分かる筈。
そう思って前後左右を見渡したものの、アルちゃんの姿は何処にも見当たらなかった。
多分、アルちゃんが何かしてくれたんだと思う。
あれ程の跳躍、わたしだけの力では絶対に不可能だ。
アルちゃんに聞けば、何が起こったのか分かる筈。
そう思って前後左右を見渡したものの、アルちゃんの姿は何処にも見当たらなかった。
「アルちゃん、何処に行ったの?」
アルちゃんを探し出すべく、わたしはホームの中を歩き始めようとする。
けれど、何か違和感がある。
ふと視線を横へやると、一枚の鏡が壁に設置してあった。
鏡の中のわたしの目が、驚愕に大きく見開かれる。
けれど、何か違和感がある。
ふと視線を横へやると、一枚の鏡が壁に設置してあった。
鏡の中のわたしの目が、驚愕に大きく見開かれる。
「な……何なの、この格好!?」
鏡に映っているのは、突拍子も無い格好をしている自分の姿。
わたしは水着のような黒いボディコンスーツを身に纏っていた。
背中には、少し歪んだ形をした翼。
目を凝らして良く見てみると、スーツや翼には解読不能の文字がびっしりと書き込まれてあった。
わたしは水着のような黒いボディコンスーツを身に纏っていた。
背中には、少し歪んだ形をした翼。
目を凝らして良く見てみると、スーツや翼には解読不能の文字がびっしりと書き込まれてあった。
「これもアルちゃんの力、なのかな? それにしても……」
不意に視線が胸の辺りへと吸い込まれる。
そこに在るのは、今の格好に不釣り合いな慎ましい膨らみ。
その大きさは、サクヤさんや鳥月さんのソレと比べるべくも無い。
大人のサクヤさんはともかく、鳥月さんならわたしと同年代の筈なのに、どうしてこうも違うのか。
何だかずるい。
そこに在るのは、今の格好に不釣り合いな慎ましい膨らみ。
その大きさは、サクヤさんや鳥月さんのソレと比べるべくも無い。
大人のサクヤさんはともかく、鳥月さんならわたしと同年代の筈なのに、どうしてこうも違うのか。
何だかずるい。
「誰も……居ないよね」
左右をキョロキョロと見直してみたけど、人の姿は何処にも見当たらない。
うん、大丈夫。
きっと誰も見てないよね。
抜け目無く周囲の安全を確認したわたしは、心の中に燻っている劣等感を払拭すべく動き出した。
うん、大丈夫。
きっと誰も見てないよね。
抜け目無く周囲の安全を確認したわたしは、心の中に燻っている劣等感を払拭すべく動き出した。
「えいっ」
両手で膝を掴み、そのまま両腕の付け根付近で胸を挟み込んでみる。
胸を思い切り強調した、前屈みのポーズだ。
こうすれば、わたしだってちゃんと胸があるように――
胸を思い切り強調した、前屈みのポーズだ。
こうすれば、わたしだってちゃんと胸があるように――
「……………」
――お願い、答えは聞かないで。
何時の時代だって、世界は不平等に出来ている。
無いものは無かった。
どれだけ頑張っても、平地は山に見えないのと同じだったのだ。
何時の時代だって、世界は不平等に出来ている。
無いものは無かった。
どれだけ頑張っても、平地は山に見えないのと同じだったのだ。
「はあ…………」
とにかく、こんな事をしてる場合じゃない。
未だ電車が出発する気配は無いけれど、余り悠長に構えていると乗り過ごしてしまうだろう。
わたしは若干気落ちしながらも、再びアルちゃんの捜索活動へ戻ろうとする。
そこで突然聞こえて来る謎の声。
未だ電車が出発する気配は無いけれど、余り悠長に構えていると乗り過ごしてしまうだろう。
わたしは若干気落ちしながらも、再びアルちゃんの捜索活動へ戻ろうとする。
そこで突然聞こえて来る謎の声。
「――マスターよ、危ない所だったな」
「ひゃああああっ!?」
「ひゃああああっ!?」
わたしは大慌てで顔を上げて、きょろきょろと前後左右を見渡した。
だけど何処にも人影は見受けられない。
だけど何処にも人影は見受けられない。
「何処を見ておる。此処だ此処、己が足元をしっかりと見てみるが良い」
「え、足元……? あ――」
「え、足元……? あ――」
云われた通り、視線を下へと向ける。
するとそこには、手の平サイズにまで縮んだアルちゃんの姿があった。
アルちゃんは単純に小さくなっただけで無く、体型までもがデフォルメされている。
するとそこには、手の平サイズにまで縮んだアルちゃんの姿があった。
アルちゃんは単純に小さくなっただけで無く、体型までもがデフォルメされている。
「……貴女、アルちゃんなの? 何だか凄く小さくなっちゃったね」
「ああ、妾の力を汝に与えたからな。これこそが、妾の得意とする『マギウス・スタイル』だ」
「ああ、妾の力を汝に与えたからな。これこそが、妾の得意とする『マギウス・スタイル』だ」
案の定、わたしを助けてくれたのはアルちゃんだったらしい。
『マギウス・スタイル』とは多分、今のようにわたしを変身させた状態の事だろう。
この状態になったお陰で、わたしは人間離れした動きが出来たのだ。
アルちゃんはわたしの肩に飛び乗った後、吟味するような目でこちらを眺め見る。
『マギウス・スタイル』とは多分、今のようにわたしを変身させた状態の事だろう。
この状態になったお陰で、わたしは人間離れした動きが出来たのだ。
アルちゃんはわたしの肩に飛び乗った後、吟味するような目でこちらを眺め見る。
「ふむ……魔術師としての素質が無い所為か、九朗程の力は感じられぬし、肌の変色も起こっておらんな。
これでは妾が直接戦った方が、未だ効率が良いかも知れぬ」
「そういうものなの? もっと詳しく聞かないと良く分かんないや。
でも話は後にして、先ずは電車に乗り込まない? 急がないと乗り遅れちゃうよ」
これでは妾が直接戦った方が、未だ効率が良いかも知れぬ」
「そういうものなの? もっと詳しく聞かないと良く分かんないや。
でも話は後にして、先ずは電車に乗り込まない? 急がないと乗り遅れちゃうよ」
話を聞くのは、電車に乗ってからでも遅くないだろう。
わたしが促すと、アルちゃんは肩から飛び降りて元の大きさに戻った。
同時に閃光が煌めいて、わたしの服装も普段通りに戻る。
わたしが促すと、アルちゃんは肩から飛び降りて元の大きさに戻った。
同時に閃光が煌めいて、わたしの服装も普段通りに戻る。
「マスター、少し良いか?」
「うん? 何かな、アルちゃん」
「駅に書置きを残してはどうだ? 妾達の知っている情報を書き留めておけば、他の者達の助けになるだろう」
「うん? 何かな、アルちゃん」
「駅に書置きを残してはどうだ? 妾達の知っている情報を書き留めておけば、他の者達の助けになるだろう」
それは確かにその通りだった。
誰が信頼出来るか、出来ないか。
右も左も分からないこの島に於いて、そういった情報は生死を左右するくらい重要なものだと思う。
わたしはアルちゃんと共に、以下の情報を紙へと書き込んだ。
誰が信頼出来るか、出来ないか。
右も左も分からないこの島に於いて、そういった情報は生死を左右するくらい重要なものだと思う。
わたしはアルちゃんと共に、以下の情報を紙へと書き込んだ。
『1.千羽烏月、浅間サクヤ、若杉葛、ユメイ、大十字九郎、ウィンフィールドは信頼出来る。
2.ティトゥスは殺し合いに乗っている可能性が極めて高い。
3.ドクター・ウェストは天才だが大莫迦。信頼出来るかはグレーゾーン。
4.空港に軍用の戦闘機が放置してある。
5.この紙の筆者である羽藤桂とアル・アジフは殺し合いに乗っていない。今から電車に乗って、別の場所へ向かう予定』
2.ティトゥスは殺し合いに乗っている可能性が極めて高い。
3.ドクター・ウェストは天才だが大莫迦。信頼出来るかはグレーゾーン。
4.空港に軍用の戦闘機が放置してある。
5.この紙の筆者である羽藤桂とアル・アジフは殺し合いに乗っていない。今から電車に乗って、別の場所へ向かう予定』
……天才だけど大莫迦って、一体どんな人なんだろう。
一抹の疑問が残ったものの、電車の発車までもう時間が殆ど無い。
わたしは紙を改札に置いてから、アルちゃんと一緒に電車へと乗り込んだ。
一抹の疑問が残ったものの、電車の発車までもう時間が殆ど無い。
わたしは紙を改札に置いてから、アルちゃんと一緒に電車へと乗り込んだ。
【B-7 電車内 深夜】
【羽藤桂@アカイイト】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、ランダムアイテム×2、魔除けの呪符×6@アカイイト
【状態】:健康、アル・アジフと契約
【思考・行動】
基本方針:島からの脱出、殺し合いを止める。殺し合いに乗る気は皆無
1:アルと協力する
2:知り合いを探す
3:柚原このみが心配
4:ノゾミとミカゲの存在に疑問
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、ランダムアイテム×2、魔除けの呪符×6@アカイイト
【状態】:健康、アル・アジフと契約
【思考・行動】
基本方針:島からの脱出、殺し合いを止める。殺し合いに乗る気は皆無
1:アルと協力する
2:知り合いを探す
3:柚原このみが心配
4:ノゾミとミカゲの存在に疑問
【アル・アジフ@機神咆哮デモンベイン】
【装備】:サバイバルナイフ
【所持品】:支給品一式、ランダムアイテム×2
【状態】:魔力消費小、羽藤桂と契約
【思考・行動】
基本方針:大十字九郎と合流し主催を打倒する
1:桂と協力する
2:九郎と再契約する
3:戦闘時、自分で戦うかマギウススタイルになるかの判断は、後続の書き手氏任せ
【装備】:サバイバルナイフ
【所持品】:支給品一式、ランダムアイテム×2
【状態】:魔力消費小、羽藤桂と契約
【思考・行動】
基本方針:大十字九郎と合流し主催を打倒する
1:桂と協力する
2:九郎と再契約する
3:戦闘時、自分で戦うかマギウススタイルになるかの判断は、後続の書き手氏任せ
【備考】
※桂達が電車に乗り込んだのは、大十字九朗達がF7で電車に乗ったのとほぼ同時刻です。
※マギウススタイル時の桂は、黒いボディコンスーツに歪な翼という格好です。肌の変色等は見られません。
使用可能な魔術がどれだけあるのか、身体能力の向上度合いがどの程度かは、後続の書き手氏にお任せします。
※桂はノゾミEND、鳥月END以外のルートから参戦です。誰のENDを迎えたかは次の書き手に任せます
※魔除けの護符は霊体に効果を発揮する札です。直接叩き付けて攻撃する事も可能ですし、四角形の形に配置して結界を張る事も出来ます。
但し普通の人間相手には全く効果がありません。人外キャラに効果があるのかどうか、また威力の程度は後続任せ。
※B-7の駅改札に、桂達の書いたメモが残されています。
※桂達が電車に乗り込んだのは、大十字九朗達がF7で電車に乗ったのとほぼ同時刻です。
※マギウススタイル時の桂は、黒いボディコンスーツに歪な翼という格好です。肌の変色等は見られません。
使用可能な魔術がどれだけあるのか、身体能力の向上度合いがどの程度かは、後続の書き手氏にお任せします。
※桂はノゾミEND、鳥月END以外のルートから参戦です。誰のENDを迎えたかは次の書き手に任せます
※魔除けの護符は霊体に効果を発揮する札です。直接叩き付けて攻撃する事も可能ですし、四角形の形に配置して結界を張る事も出来ます。
但し普通の人間相手には全く効果がありません。人外キャラに効果があるのかどうか、また威力の程度は後続任せ。
※B-7の駅改札に、桂達の書いたメモが残されています。
043:王達の記録 | 投下順 | 045:まこまこクエスト~狸と筋肉とスライムと呪われし血脈 |
032:月光カプリッチオ | 時系列順 | 021:熱く、強く、私らしく、たとえ殺し合いの舞台でも |
007:I AM SACRIFICE BLOOD | 羽藤桂 | 053:Destiny Panic! |
007:I AM SACRIFICE BLOOD | アル・アジフ | 053:Destiny Panic! |