かつて、命の大樹から命のエネルギーを奪ったことで絶大な魔力を手に入れた魔王ウルノーガは、そのエネルギーを6つのオーブに注ぎ、『六軍王』と呼ばれる精鋭部隊に分配した。この殺し合いの各地に配置してあるオーブも、それと同じものである。
しかしかつてシルバーオーブを与えられた男ホメロスは異形へと変わったのに対し、クラウドをはじめとするこの世界でオーブを手にした者たちはそうならなかった。両者の差は、たったのふたつだ。
一つは、オーブとの融合を受け入れるかどうか。そしてもう一つは、体内に宿す命のエネルギーの量である。
ホメロスはウルノーガに与えられたオーブの力を受け入れ、自らの力とする意思があった。また、命の大樹崩壊時にウルノーガに同行し、闇のオーブを介して命のエネルギーを相応量吸収していた。この二つの要素を持っていたからこそ、ホメロスは魔物として勇者の前に立ち塞がった。
そして今、クラウドにもその両要素が与えられていた。
自らの死を望むシャドウを模した精神体のマナを拒絶し、クラウドはまだ終わらずに闘う道を選んだ。また、シルバーオーブ自体が共にザックに入れられていたもう一つの宝珠、『いのちのたま』と融合することで大量の命のエネルギーを吸収していた。
その結果生まれたのが――陽介の眼前に立ち塞がる、一体の魔物であった。全身に纏った禍々しいオーラが、先ほどまでのクラウドとは全く性質を異とするものであると、理解させられざるを得なかった。それに加えて、殺し合いの主催者ウルノーガまでもがこの場に存在している。今のクラウドと同じく、絶対的な敵対者。見ようによっては最終目標である主催者の一人を討つこの上ないチャンスなのかもしれないが、クラウドまでもを前にしてもそう言えるほど楽観的ではなかった。
「さあ、クラウド……否、『魔軍兵士クラウド』とでも呼ぶとしようか。どこぞの出来損ないに代わり、今からお前が我のジョーカーだ。さて、まずは手始めに……」
ジョーカー。この殺し合いにおけるその単語の意味は、すでにホメロスから聞いている。主催者の息がかかった刺客であり、殺し合いを円滑に進める役割を背負った参加者だ。つまり、ホメロスは切り捨てられたということ。ドラマとかだったら、そんな奴と、そしてそんな奴に手を貸していた奴の末路はもう分かっている。
「……奴らを殺せ。」
ウルノーガがたった一言、命ずる。そりゃそうなるか、と確定的な未来に納得すると共に、それに伴う死への絶望が襲ってきた。アメノサギリに身体を乗っ取られた足立とて、魔物そのものになったわけではなかった。クラウドはそれほどまでに陽介の常識を超えた存在であり、そんな存在を前にした陽介はもはやペルソナも出せないほど体力も精神力も消耗している。勝ち目なんてゼロに等しかった。
鋭い爪を備えたクラウドの腕が、陽介へと伸びる。
「――ペルソナッ!」
次の瞬間、掛け声と共にアルカナを割る音が響き渡った。
陽介の前に躍り出た黒い影が、クラウドの剛腕とぶつかり合い、そして弾き合う。黒い影は消滅して持ち主のアルカナへと帰り、クラウドはその身に生えた翼をはためかせて空中に留まった。
「何で……アンタが……」
それは、陽介が顕現させたペルソナではない。矢継ぎ早に起こり続けるハプニングに、もはや驚くことしかできなかった。
そしてそれは、見物していたウルノーガにとっても意外な出来事だったようで、珍しく不快感を顕にしながら口を開いた。
「何のつもりだ?ㅤ……足立。」
足立透。八十稲羽市で起きた連続殺人事件の真犯人であり、陽介にとってはかつての想い人の仇でもある人物。そんな奴があろうことか自分を庇うようにしてそこに立っていたのだ。
「あのさぁ、何のつもりってそれこっちの台詞。なに勝手に参加者の魔改造してくれちゃってるワケ?」
ウルノーガよりもさらにいっそう不機嫌そうに足立は返す。
「僕ね、フェアじゃないゲームが嫌いなんだよ。」
「フェアだとも。ジョーカーは参加者を殺さねばならぬ。代わりを任命し、この役立たずを退場させることこそが本来の形だ。」
両者の主張を、ただ眺めていることしかできなかった陽介。聞きたいことは幾つもある。しかし、そもそも
参加者名簿に足立の名前は載っていなかった上、足立の首には参加者の証である首輪もない。そして現在交わされている、ウルノーガと付き合いがあるかのようなやり取り。
導き出される答えはもはやひとつしかなかった。
足立は、この殺し合いの主催者側にいるのだ。
ぽつぽつと怒りが湧き上がってくる。
コイツらのせいで、完二も天城も死んだのだ。
しかし満身創痍の陽介には怒りをぶつける手段はなく、そもそも足立に助けられたという事実もある。
結果的に冷静にならざるを得なかった。
「クラウド!ㅤ元凶はウルノーガじゃねえか!ㅤまんまと言いなりになって、お前はそれでいいのか!?」
よって会話の対象は変わる。互いの過去を見たクラウドは、陽介にとっては足立よりも相互理解が望める人間だからだ。
「どっちだっていい。」
しかし、少なからず、クラウドのことを理解しているからこそ。
「俺の願いを叶えてくれるのなら、俺は悪魔にさえ祈ってみせる。」
それが確かにクラウドの言葉であることに、納得できてしまう。姿かたちが変わったからといって、人格そのものが大きく変わったわけではないのだと理解する。
「……まあ良いだろう。本来なら整合のため首輪を爆破してやるところだが……今回は貴様がそれを助けたことは不問にしてやろう。」
そして、ウルノーガは妥協を見せる。マナにも底が読めない足立と敵対するのは後々面倒だと感じたか。
「しかし、だ。ホメロスは助からぬ。手駒の分際で我に逆らった愚か者はこのゲームから排除するのみだ。」
――或いは、折衷案として譲れぬ主張を通すためか。
陽介はウルノーガの初めて見せた殺意に凍りつくような恐怖を覚え、恫喝など慣れたものとばかりに足立は深い溜め息で返した。
「……そもそもが君の人選ミスだろ。典型的なクソだな。」
「黙れ。貴様の"お気に入り"もこうなりたいか?」
強行とばかりにウルノーガが杖を掲げると、地に伏していたホメロスの身体がふわりと浮き上がり、ウルノーガの眼前へと移動していく。陽介は動けず、足立も動こうとしない。当然、クラウドも黙って見ているのみ。ホメロスに明確に死が迫っているというのに、何も出来ない。
(ちくしょう……)
「死ぬがいい。」
ウルノーガはゆっくりと、手にした杖を振り上げた。
■
(俺は……死んだのか……?)
気が付けばホメロスは、不思議な空間にいた。しかし当人の予測に反し、死んではいない。陽介のディアラマで死を回避して、現実の意識は戻らずとも夢の中で思考している状態。強いて名付けるのなら、精神世界とでも言うべきか。そしてそこには、あの男の姿があった。薄紫の長髪をなびかせ、黒色の鎧をその身に纏った男、グレイグ。ずっとホメロスが劣等感を覚え続けて止まなかった彼との関係は、死の間際にして遂に、ひとつの決着を迎えたはずだった。グレイグはずっと自分を認めていたのだと実感し、心の闇は晴れたはずだった。
それなのに精神世界のグレイグはこちらを見ようともせず、ホメロスの眼には背格好しか映らない。まるで、ホメロスのことは眼中に無いと言わんばかりに。
「グレイグッ!」
声を荒らげて叫ぶ。何度も、何度も。それでもグレイグは振り返らず、ホメロスの声にならない声が精神世界に木霊するばかりだった。
そして同時、理解する。結局、何年もかけて蓄積した鬱屈は、死ぬ直前にグレイグにかけられたたった一つの言葉だけでは完全には晴れなかったのだと。グレイグが前を行き、自分はその背中に羨望の眼差しを向け続ける、その関係に終わりはないのだと。
何故こうなったのか、答えはもう出ている。デルカダール王の立場を利用したウルノーガの手駒を得るための策によって劣等感を植え付けられたからだ。
もしも運命の乱数が僅かにズレていたならば、コインの裏と表のように、始まりが違えばグレイグがウルノーガの配下に成り下がる未来だってあったかもしれない。
この雪辱は、在るべくしてあったものでは無い。
ただ理不尽に与えられ、押し付けられたものなのだ。
そして、だからこそ自分は復讐の道を選んだのだ。グレイグへの消えない劣等感の行き場を、全ての始まりである奴にぶつけることにしか生きがいを見出せなかったのだ。
憎い。ウルノーガが、憎い。
その感情を認めたその時、ホメロスは直感する。現実の、まさに眼前に、復讐の対象であるウルノーガがいることに。
憎しみに焦がれたホメロスの意識が、現実へと戻っていく。
■
「ウルノーガアアアッ!!」
鬼気迫る叫びと共に、ホメロスは意識を取り戻した。
真っ先に視界に飛び込んできたのは、杖を振り上げたウルノーガが驚き戸惑っている姿。
ホメロスの一手分、隙が生まれていた。
ホメロスの腰には『虹』が納まっている。それはかの勇者の剣にも劣らぬであろう名刀だ。
仮にも相手は魔王。その一閃のみで殺すことは出来ないだろう。しかし、されど一太刀。無傷でいられるはずはなく、最期に大きい傷跡を残してやることくらいは出来る。元より無謀な復讐劇には充分過ぎる結果だろう。
居合い抜きの一撃に己の力の全てを込めるため、虹の柄を握り込む。
そしてウルノーガの身体に狙いを澄まし――
「…………ッ!」
――ホメロスはその手を止めた。
実際に復讐の対象であるウルノーガを前にして気付いた。自分の中の憎しみは、ウルノーガに対してさほど向いていないと。
湧かない。湧かないのだ。
仮にウルノーガが配下に選んでいたのがグレイグであったとしても。アイツが自分を超えるために追いかけて来るイメージが全く湧かない。
グレイグの目は常に民の方を向いていた。彼らを守るべく戦っていた。仮にどのような環境に置かれたとしても、それが民のためであるならば道を外すことはなかっただろう。自分が選ばれ、グレイグが選ばれなかったのはただそれだけのことだったのだ。
本当は分かっていた。本当に憎いのが誰なのか。どれほどウルノーガの策略が進行していようと。それがウルノーガに植え付けられた劣等感であろうと。最終的にウルノーガの囁きに耳を貸し、その身体を闇に堕としたのはホメロス自身なのだ。
その責任を、原因に過ぎないウルノーガに擦り付け、復讐に走る。それは何て滑稽なのだろう。グレイグを見る目も変わるわけがない。自己嫌悪に陥る自分の本心からも目を逸らしていたのだから。ああ、それならばまさに道化だ。本当に殺したかった相手は最初からここに居たというのに。
ウルノーガへの復讐という目的が失われ、この世への未練なるものが完全に無くなったと思えたその時。しかしホメロスは、気が付いた。もう一つ、たった一つだけ、守りたいものはあったのだと。
一度闇に堕ちた自分が、光の道を進めたのは何故だったか。考えるまでもなく、その闇を受け入れてくれた者がいたからだ。自分の築き上げてきた屍ではなく、自分という人間を、真っ直ぐに見てくれた者がいたからだ。何もかもを失い、遂に自尊心までもを失ったホメロスに、唯一残っていたのがその心。そしてそれこそが、グレイグにあって、自分になかったものだというのか。
(まさかこの俺に……)
もはや必要の無い虹から手を離す。その重みから解放されたホメロスはもう一度、ウルノーガの眼を真っ直ぐに見据えた。許された行動は一手のみ。その一手の猶予を利用し、或る"呪文"の術式を組み立てる。
("これ"を使う日が来ようとはな。)
ホメロスの身体に激しく輝く光が現れる。それは怒りや憎しみとはほど遠く、優しく温かい光だった。
『――メガザル』
ホメロスが身に纏った光がバラバラに砕け散る。光の粒子が満身創痍の陽介と、瀕死のジャローダを包み込み、そして消えていく。何事か不思議に思う暇もなく、両者の負っていた傷は消え去っていた。
しかしその代償として、ウルノーガが手を下すまでもなくホメロスの命は失われた。結果だけを見れば、まさしくウルノーガの選定通りのホメロスの死。そしてウルノーガに見下されながら崩れ落ちていくその様は、まるで過ぎ去りし時を求めた後の彼の末路のようで――しかし一つだけ、決定的に異なる箇所があった。
ウルノーガの配下ではなく、一人の聖騎士として散れたこと。それはホメロスの本望であり、同時に自己嫌悪を晴らせる唯一の終わり方だった。なればこそ、最後を飾る言葉は憎しみなどではなく、守りたい誰かの盾となる聖騎士の心を思い出させてくれたことへの、率直な想いを込めた一言で締めよう。消えゆく意識の中、ホメロスは誰にも聴こえないほど小さく、呟いた。
(……■■■■■。)
それを口にした瞬間、ずっと背中しか見えなかったはずの男が、心なしか振り返ったような気がした。
【ホメロス@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて 死亡】
【残り52名】
「……つまらぬ。」
ウルノーガが吐き捨てる。自身の手で刑を執行することも叶わず、己の手駒であったことをも否定するような大往生に、ウルノーガの鬱憤が晴れるはずもなかった。
「もうよい。行くぞ、足立。」
「……はいはい。ってことだからさ、陽介くん。せいぜい頑張ってよ。」
「待てッ!ㅤまだ話は――」
まだ聞きたいことはたくさんある。ここで帰してはならないと、陽介は手を伸ばす。しかし足立が掲げたカエレールは陽介も知る通りに効果を発揮する。
「……真実を知りたければ、生き残ってみせなよ。」
最後にそう言い残して、足立はここではない何処かへ行ってしまった。ウルノーガの方も、陽介の知らない呪文で飛んで行ったようだ。
「くっそ……。」
足立を捕まえられなかったことに悔しがり地団駄を踏むも、その暇も無いことを思い出す。まだ何も終わっていない。それどころか、これまでに無い強敵が、まさに目の前に迫っている。
「クラウド……お前……心まで魔物になったわけじゃないんだよな……?」
見るに堪えない異形と化してもなお理性があるように見える目の前の敵に、対話を試みる。
「そうかもしれないし、違うかもしれない。」
クラウドは返す。
「俺は元々、心に魔物を飼っていた。それだけはハッキリしている。」
クラウドの意識からは、深層心理で否定したそとによって殺しへの罪悪感というものが消えていた。
そしてその罪悪感を担っていたのは、かつて取り戻した本来のクラウドとしての心だった。
「言ったよな。俺、お前が羨ましかったんだって。」
そして本来のクラウドというものを、陽介は知っている。星を救ったクラウドの周りには、たくさんの人がいて、その中心でクラウドは笑っていて。夢の中、そんなクラウドを陽介は、羨ましく思っていた。
「今のお前を、俺は羨ましいとは思わねえ。」
そして今。その感情は"リバース"した。ただただ冷淡に、先ほどにも増して人間味の欠片も見えなくなったクラウド。あの本来のクラウドの人格を失っていることは、本来の自分というものにずっと向き合ってきた陽介だからこそ分かった。
「俺は本当のお前に会ってきたんだ。今のお前は本当のお前じゃない。」
「……だったら全てを終わらせた後でもう一度俺を取り戻せばいい。」
クラウドはその場に落ちている『虹』を拾い上げる。リカームドラのような呪文を使って死んだホメロスが遺した武器。まさかクラウドに使われることになるとは思っていなかった。
「今の俺には、その力があるんだ。」
何度も命を救ってくれたホメロスの支給品、シーカーストーンの入ったザックもホメロスの遺体と一緒にクラウドの傍に置いてある。でもジャローダはモンスターボールから出てこっち側にいる。それならば、一緒に戦ってくれるはず――
――などということはなく。
ジャローダはその場から、トラフーリばりのスピードで一目散に逃走を始めた。
「えっ……えええええっ!?」
その変わり身の早さに唖然とする陽介。ホメロスと共に行動していたことで自分にも何かしらの協調が生まれたような気がしており、肩透かしをくらったような気分だった。
しかしジャローダが逃げたのには、明確な理由があった。ジャローダの所有者であったホメロスが死んだ今、ジャローダの所有者は居ない状態――つまり、野生のポケモンである。しかしホメロスの身体が先ほどまでウルノーガの居た場所に引き寄せられたことで、ホメロスの支給品もクラウドのすぐ近くに落ちている。クラウドがそれを手にした瞬間に自分を捕まえていたモンスターボールは持ち主の譲渡が成立し、クラウドが所有者となってしまう。
先ほどの闘いで自分の奇襲を読んでいたクラウドは、少なくともモンスターボールの仕組みを最低限以上理解しているようだった。それがどこまでかは分からないが、もしホメロスのザックの中のモンスターボールをその手に取られれば、今度は自分が陽介に牙をむくこととなる。クラウドのような強者に着いていく方がトウヤへの復讐は果たしやすいのかもしれないけれど、それでもホメロスの仲間だった陽介だけは傷付けたくないから。
だからこそ、逃げ出した。所有者が変わる前に、モンスターボールの効力のある範囲から離れられるように。頑張って、と。ジャローダは陽介に伝わらない言葉を発した。
ジャローダが離脱した今、今度こそ陽介とクラウドは一騎打ちだ。クラウドの能力が強化されていることも、ホメロスやジャローダの支援が期待できないことも、先ほどまでと比べて大きく不利になっているはず。
「……何でだろうな。今のお前には、負ける気がしねえ。」
だけど、人間だった頃のクラウドの方が怖いと思った。今のクラウドは、独りだ。
(なあ、みんな。)
陽介は独りではない。たくさんの別れと共に、幾つもの想いを背負っている。
(俺、戦うよ。)
その言葉の先は、完二であり、天城であり、ホメロスであり、そして、先輩でもあった。
望まずして命を絶たれ、その先の物語を紡げなくなってしまった者たち。
(だから……応援しててくれ。)
俺が今立っているこの地は、彼らの立てなかった場所だから。俺が生きる今日は、彼らが迎えられなかった一日だから。負けられない理由としては、充分すぎるものだよな。
その答えを見出した次の瞬間、身体中から力が湧き出てくるのに気付いた。
――弱さを受け入れ、乗り越えた強い意志が、新たな力を呼び覚ます……
「ペルソナァッ!!」
そして顕現したアルカナを力いっぱい、叩き付ける。同時に生じた破砕音は、この闘いの開戦の合図となった。
■
Nの城を目指すトウヤは、特に急いではいなかった。ランニングシューズも無しに無闇に走ると足への負担が大きい。先のアンドロイドとの戦いのように、相手がポケモンではなくトレーナーである自分を直接狙ってくることもあるこの世界。体力を温存しておくに越したことはない。
確かに、この世界にはレッドやN、更にはレッドの手持ちかもしれないピカチュウなど、心躍るかもしれない相手が数多く存在する。もちろん、仮に彼らが死に瀕する事態が発生するとして、自分が急ぐことでそれに先立って彼らと戦える可能性はあるにはある。しかしその場合も、彼らを殺すに足る実力の持ち主と出会えることにはなり、それはそれで本望である。
そもそも、殺し合いというシステム上後になればなるほど強い相手ばかりが残ることになるのだ。それならばわざわざ急ぐこともあるまい。と、トウヤの思考はスタンスに照らせば合理的で、そして、或いは冷淡とも称されるものであった。
(後になればなるほど強い相手ばかりが残る……。つまり、弱いものほど先に死ぬということ。)
強い弱いというのも、実力の有無のみで語れるものではない。例えば先ほど殺したアンドロイドは、実力でいえば相当な強者だったが
第一回放送を待たずして死んでしまった。生死を分けたのは、自分の勧誘への返答だった。あの時の選択次第では、まだ生き延びており共に戦いに身を投じていたはず。つまり、局面ごとに妥当な選択ができるかどうか、それもまた強さのひとつなのだ。
(そういう意味で言うなら、ベルなんかは真っ先に死にそうなものですが……)
かつての旅で、ベルは実力もないのにプラズマ団の悪行を止めにかかったことは何度もあった。悪を許せない彼女のタチは嫌いではなかったが、少なくともこの殺し合いにおいては賢いとは言えないものなのだろう。ここでは実力がないまま他者と対立した者に待つのは死だ。
(まあ、どうでもいいですね。)
と、考えをやめたその時。
――もし、もう少し速く目的地を目指していたならば、出会えなかったかもしれない。
背後より、ひとつの影がトウヤに高速接近しているのを感じ取った。
「――!!」
参加者の襲撃か、それとも野生のポケモンか。トウヤにとってはどちらでもよかった。前者ならば楽しみであるし、後者であれば新戦力として期待できる。ダイケンキが死んだために空のモンスターボールがひとつ余っており、現在トウヤはポケモンの捕獲に挑める状態である。
答え合わせと、背後の影に向き直る。同時に、それはトウヤに攻撃を加えてきた。
(速い……!ㅤだが……)
トウヤは率直な感想を抱くが、決して見切れない速度ではない。
「オノノクス!」
ドラゴンテールで応戦。敵の放ったリーフブレードと真っ向から衝突し、弾き合う。オノノクスの巨体が、こうかはいまひとつの技で押し勝てない点のみを見ても、敵がかなり強いのは明らかだ。
「……!ㅤまさか……。」
トウヤは敵の姿を確認し――そしてこの殺し合いの世界に来てからいちばんの驚愕の表情を見せた。そして次の瞬間には迷いなく、モンスターボールを足元に投げて瀕死のバイバニラを前に出す。そして一言、指示を出す。
「オノノクス。バイバニラに"きりさく"だ。」
その突拍子もない指示に、オノノクスは驚く。瀕死のポケモン――それも敵ではなく味方に牙を剥く行為など、かつての主であったアイリスの下でも行ったことがない。しかしモンスターボールの効力には逆らえず、その指示は一切の躊躇なく遂行される。瞬きするほどの間に両断されたバイバニラは無色透明が血液をその場に撒き散らすも、トウヤはそれを意にも介さず、空となったモンスターボールを手に目の前のポケモンと視線を合わせる。そして、かつて長く連れ添ったパートナーに告げる第一声としてはとても希薄かつ空虚な、"捕獲対象"への一言を投げかけた。
「あなた相手にボールひとつでは心許ないですからね。」
【バイバニラ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト 死亡確認】
全ての存在は、滅びるようにデザインされている。誰もがいずれ訪れる終わりに向けて歩み始め、その物語を遂げていく。
(――ありがとう。)
それらは全て、かつて一度は終わった物語。
「吼えろ――スサノオ!」
しかし、終わりに続きを求める者がいる限り。
「さて。久しぶりですね――ジャローダ。」
彼らの物語はやり直され、生まれ変わって。
「もしこれが幻想だとしても、俺は俺の現実を創ってみせる。」
……そして、リメイクされていく。
【E-4/一日目 午前】
【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]:健康
[装備]:龍神丸@龍が如く 極
[道具]:基本支給品2人分、不明支給品1~3個、グランドリオン@クロノ・トリガー
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と共に完二の仇をとる
1.魔軍兵士クラウドを倒す
2.死ぬの、怖いな……
3.足立、お前の目的は……?
※参戦時期は足立との決着以降です。主催者陣営に足立がいることを知りました。
※鳴上悠との魔術師コミュは9です(殴り合い前)
※クラウドの過去を知りました。
※ペルソナ『スサノオ』を覚醒しました。
【魔軍兵士クラウド(クラウド・ストライフ@FINAL FANTASY Ⅶ)】
[状態]:HP1/2
[装備]:虹@クロノトリガー シルバーオーブ・LIFE@ゲームキャラ・バトルロワイアル
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:優勝してエアリスを蘇生する。
1.「……。」
※参戦時期はエンディング後です。
※花村陽介の過去を知りました。
※シルバーオーブ・LIFEと融合しています。
※クラウドの近くに、基本支給品、シーカーストーン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド、空のモンスターボール@ポケットモンスター ブラック・ホワイトが入ったザックがホメロスの遺体と共に放置されています。
【E-3/草原/一日目 午前】
【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:虚無感(僅かに回復) 疲労(小) 帽子に穴
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、チタン製レンチ@ペルソナ4
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト×2、カイムの剣@ドラッグ・オン・ドラグーン、煙草@METAL GEAR SOLID 2、スーパーリング@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[思考・状況]
基本行動方針:満足できるまで楽しむ。
1.ジャローダを捕獲する。
2.Nの城でポケモンを回復させる。
3.自分を満たしてくれる存在を探す。
4.ポケモンを手に入れたい。強奪も視野に。
※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。
※名簿のピカチュウがレッドのピカチュウかもしれないと考えています。
【ポケモン状態表】
【オノノクス ♀】
[状態]:HP1/2
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.トウヤに従い、バトルをする。
【ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[特性]:しんりょく
[持ち物]:なし
[わざ]:リーフストーム、リーフブレード、アクアテール、つるぎのまい
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤを殺す。
※現在は野生のポケモンの扱いです
【
支給品紹介】
【シルバーオーブ・LIFE@ゲームキャラ・バトルロワイアル】
シルバーオーブがいのちのたまと融合し、魔軍司令ホメロスがその身に宿していた時のオーブの状態が擬似的に再現されたもの。現在はクラウドの身体と融合している。原作のシルバーオーブ同様、クラウドを倒した時にドロップする。
最終更新:2024年10月06日 00:20