Chapter:蒼き雷霆
(電子の波となって)
シアン:
『G…V…』
不思議な感覚だった――わたしは、確かにあの人――アシモフに撃たれて死んだはず…
それなのに、今のわたしにははっきりと意識があった
世界のありとあらゆる物が、電子と音のゆらめきで感じ取れる…
ああ――そうか…
シアン:
『“わたし”は…謡精(モルフォ)に…なったんだ』
モルフォはわたしの第七波動(セブンス)…
わたしの心そのもの…
だから、体を失くして心だけの存在になったことで
モルフォと一つに、モルフォそのものになったんだ
シアン:
『そうだ…GVは…』
彼に“意識”を集中させる…
今のわたしには肉体がない…すべてを電子と音の波で捉えられる
だからこそ、彼の状態については身体があった以前よりもはっきりと知覚できた
シアン:
『……! まだ、生きている…!』
彼の命は、消えかかってはいるもののかろうじて、この世界に繋ぎとめられていた
でも、一体なぜ…? 彼もわたしと同じように撃たれたはず…
わたしは、さらに意識を広げていく…深く…広く…
意識が、電子の波となって彼の身体を外面、そして内面をなぞっていく
シアン:
『これ…は……』
それはひしゃげ、かつての面影を失ったペンダント…
…わたしが彼に作ってあげた、あのペンダントだ…
彼は、これを下げていてくれたの…? こんな、何の効果もないただのペンダントを…
このペンダントが…彼の命を守った…の…?
――ああ…よかった…
わたしは…今まで、守られているばかりなのが嫌だった…
わたしに自由をくれた彼を、わたしも助けてあげたかった
…わたしは、最期の最期で彼を助けてあげることができたんだ…
胸に満ちる温かな安堵の気持ち――
シアン:
『違う…まだ…だ……』
…彼はまだ助かってはいない…
ペンダントのお蔭で致命傷はまぬがれているけど…全身の出血がひどい
このままでは、彼はすぐに……
シアン:
『…それなら…』
本体を失ったわたしは…どうせこの姿を長くは維持できない…
だったら、出来ることは一つしかない――
わたしは、電脳の体を彼の肉体に重ねた
シアン:
『GV…わたしの命は…あなたと共に生き続ける…』
わたしの意志(ココロ)が、電子の流れとなって彼の生体電流と混ざり合う
わたしのココロが、彼の中に溶け込み、一つとなっていく――
シアン:
『これからは…ずっと…』
『わたしの歌が…あなたの翼(チカラ)になる…』
……
…………
(Chapter:蒼き雷霆)
少女の歌(ねがい)が翼(チカラ)になり彼は立ち上がる
怒りと悲しみを背負い
蒼き雷霆(アームドブルー)は迸り、謡精(ディーヴァ)の歌声が胸の底に響く
(目覚めるGV)
……
GV:
ボクは…どうして…?
…これ…は…!?
うわああああああッ!!
シアン:
『泣かないで…GV…』
ボクの内側に響く声…
GV:
モル…フォ…? いや、この感じは…
何故だろう…ボクには理解できた――
GV:
シアン…なの…か…?
シアン:
『そうだよ…GV』
『わたしの心は、ずっとあなたと共にある…』
彼女の想いが、記憶が、ボクの中に流れ込んでいく――
今までに感じたことのないボクの内に満ちる第七波動(セブンス)の高まり…
シアンは…ボクを助けるために……
……
腕の中で、シアンの亡骸は光となって消えていった…
シアン:
『もう、離れない…』
『GVのことは、わたしが守ってあげる』
GV:
シアン…!
ボクの中で、彼女の魂がささやきかける
シアン:
『…泣いている場合じゃないよGV…』
『あなたが、今したいことは何?』
GV:
ボクは……
…アシモフを…ヤツを止めなければ…!
もう二度と、こんな悲劇は起こさせはしない…!
シアン:
『…行きましょう…GV?』
『わたしの歌が、あなたの翼(チカラ)になる』
(ミッションスタート)
GV:
アシモフ…!
カレラ:
待っていたで候…ガンヴォルトッ!!
GV:
…カレラ
お前も生き返っていたか
カレラ:
死してなお、小生の渇望は埋まっておらぬッ!
カレラ:
小生は…小生を倒した貴殿と…今ひとたび拳を交えたかった!
何があったかは知らぬが…今の貴殿は鬼神がごとし気迫!
感じるぞ…主の並外れた第七波動を…! 実に楽しみだ…
さあッ! こころゆくまで死合おうではないか!
(カレラ戦闘開始)
GV:
お前に付き合っているヒマはない…
カレラ:
ぬははははッ! 相変わらずのつれぬお言葉ッ!
なれば、小生をのしてみせぃ!
GV:
ああ…そうさせてもらう…!
シアン:
『GV…あなたは負けない…』
『わたしの歌が、あなたを守る限り…』
カレラ:
ヌゥ…? 女の…声?
何だ…貴殿……!? 何を背負っておる…?
GV:
…………
カレラ:
だが…良い! 良いぞ、その気迫!!
小生が求めるのはそれなのだ!
強敵を打ち砕くからこそ、価値がある!!
天よ! 小生に与えたまえ!! この鬼神をねじ伏せる力を!!
(無限の跳躍)
シアン:
『わたしの翼とあなたの翼がひとつになった今なら…』
『あなたは飛べる――! 無限の跳躍(ジャンプ)で!』
(動き出す軌道エレベーター)
シアン:
『GV、軌道エレベーターが動き出そうとしているわ』
GV:
アシモフ…脱出するつもりか…!
(アシモフとの再会)
アシモフ:
まさか生きていたとはな…どういうマジックだ? GV?
GV:
アシモフ…お前の好きにはさせない…
シアン:
『GVは…わたしが守る…!』
アシモフ:
その第七波動(セブンス)のパターン…
なるほど…電子の謡精(サイバーディーヴァ)をその身に取り込んだか
惜しいぞ、GV…
その力があれば、私に代わり新たな時代のリーダーとなれただろうに
GV:
そんなことに興味はない…!
アシモフ:
どうやら育て方を間違ってしまったようだな…
仕方あるまい…
今のお前は、我々の前に立ちはだかる――敵だッ!
迸れ、蒼き雷霆(アームドブルー)…
我が敵を貫き滅ぼせ…
(雷霆衝突)
GV:
その姿は…
アシモフ:
雷撃の第七波動(セブンス)がお前だけの物だと思っていたのか?
かつて、南米の奥地で世界で最初の第七波動(セブンス)能力者が発見された――
その者の第七波動(セブンス)は、電子を自在に操る“蒼き雷霆(アームドブルー)”…
雷撃による高い戦闘能力と電磁場を利用した機動力…
そして何より、電子技術が支配する現代社会において――
あらゆる電子機器を意のままに操れる雷撃の第七波動(セブンス)はまさに究極の能力
当時、旧来の発電方法に限界を迎えていた皇神(スメラギ)の連中は…
新たなエネルギー資源のキーとしてこの力に目をつけたのだ
皇神はエネルギー研究のため、雷撃能力者を量産する計画を打ち立てた
始まりの能力者から雷撃の能力因子を複製(クローニング)し、他の実験体へ移植するプラン――
“プロジェクト・ガンヴォルト”
だが、雷撃の能力因子に適合する者は極めて少なく、生きた成功例はわずか2名…
…その成功例が、この私とお前というわけだ
GV:
……
アシモフ:
GV…私もお前と同じ境遇だ
お前ならば分かるだろう? 世界は偏見に、差別に満ち溢れている…
力無き無能力者たちが、いかに我々を迫害してきたか…
能力者と無能力者は、決して相容れることはできない――
……では、滅ぼすしかあるまい?
GV:
そんなに無能力者にケンカを売りたいのなら、一人でやっていろ…!
お前は…身勝手な理由で無関係なシアンを殺した!
それだけは…絶対にゆるさない!
迸れ! 蒼き雷霆よ(アームドブルー)!
響け! 謡精(ディーヴァ)の歌声よ!
ボクの――
ボクとシアンの怒りと悲しみを受け取れぇッ! アシモフッ!!
アシモフ:
…やはり、敵対をやめぬか…
ナンセンスだよ! GV!!
(決着)
アシモフ:
…さすがだ…ガンヴォルト…
その力…お前こそ…新たなる世界のリーダーにふさわしい…
GV:
…そんなものになるつもりはない…
ボクはただ、シアンの仇をとっただけだ…
アシモフ:
ああ…そうだろう…な…
…だが…能力者の台頭は…もは…や…止めら…れん…
力を…手にした…お前は…
その流れに…抗うにしろ…乗るにしろ…
いずれ……逃れられぬ戦いに…巻き込まれていく…ことに…なる…だ…ろう…
GV:
……
アシモフ:
お別れ…だ……GV…
能力者の…未来は…お前に…
…託す…
グッドラック…
(エピローグ 長き夜が明ける)
……
…………
――軌道エレベーター“アメノサカホコ”のふもと
ジーノとモニカは、GVたちの帰りを待っていた
やがて…
GVとアシモフ…二人を乗せた軌道エレベーターが地上へと帰還する
ジーノ:
GV!!
って…お前…それ…
モニカ:
そ…そんな……
ジーノ:
アシモフ…!?
まさか…死ん…で…?
GV:
…………
GVは応えようとしない…モニカはそれを無言の肯定と受け取った
アシモフは冷たく事切れていた…
モニカ:
…いやっ!!
そんなっ…そんな……
アシモフ……
ぼろぼろと涙を浮かべ、モニカはその場に力なくくずおれる
GVは、仲間たちに振り返ることもなく軌道エレベーターの外へ去っていく
ジーノ:
お…おい、GV? なんだよ! 何があったってんだ!?
アシモフはどうして…!?
それに…シアンちゃんは!?
シアン:
『彼に…ふれないで…!』
ジーノ:
…!?
彼に近づこうとしたジーノが、不可視の“何かの力”によって阻まれる
それは、傷ついた彼の心を守りたいという少女(シアン)の無垢なる願い…
戦いの末、傷つき、多くを失ったGVにただ一つ残ったものだった…
…………
――夜が明ける
蒼き雷霆(アームドブルー) ガンヴォルト…
長い夜が明け、ようやく訪れた朝に
彼は何を思うのだろう
電子の謡精(シアン)は、優しく彼に語りかける
シアン:
『GV…これからは…どこまでも…ずっと…一緒だから…』
『あなたは、どこへ行きたい…?』
GV:
…ボクは……
…………
GVが何かをつぶやいたようだったが、ジーノはそれを聴き取ることはできなかった
遠ざかる彼の姿を、ただ立ち尽くし、眺めるしかない
やがて、彼の姿は立ち昇る朝日の中へと消えていった――
『――GV…わたしはずっと、あなたのそばに……』
最終更新:2014年10月06日 04:05