「...さすがに撒けたようね」
梨花は時折後ろを振り返るのを繰り返しながら走り続け、ジョルノたちを振り払ったことを確認するとようやく一息をつくことにした。
非常に疲れたが、あのわけのわからない男、ワザップジョルノはこれくらい引き離しておかないと安心できない。
さてこれからどうしようかと思った矢先のことである。
非常に疲れたが、あのわけのわからない男、ワザップジョルノはこれくらい引き離しておかないと安心できない。
さてこれからどうしようかと思った矢先のことである。
「きみ、どうしたんだい?」
「っ!?」
「っ!?」
不意に横合いから声をかけられ、梨花は反射的に怯む。
「あ、あうぅ...こ、殺さないでほしいのです」
しかしそこは百年の経験が活かされたのか。
梨花は普段やっているように咄嗟に年相応の仮面を被ることができた。
梨花は普段やっているように咄嗟に年相応の仮面を被ることができた。
「おっとすまない。驚かせてしまったね。私は堂島というものさ。きみは?」
「僕は古手梨花というのです。雛見沢に住んでいるのです」
「古手くんか。...なにかから逃げていたようだが、よければ話を聞かせてくれるかい?」
「僕は古手梨花というのです。雛見沢に住んでいるのです」
「古手くんか。...なにかから逃げていたようだが、よければ話を聞かせてくれるかい?」
しゃがみ込み、目線を合わせて尋ねる堂島に、梨花はおずおずと口を開いた。
「みぃ、逃げていたのではないのです。友達が巻き込まれているので探し回っていただけなのです...」
「お友達?」
「はいなのです。沙都子という僕と同じくらいの女の子なのです」
「お友達?」
「はいなのです。沙都子という僕と同じくらいの女の子なのです」
沙都子の名を口にするのに躊躇いはなかった。
というのも、別に沙都子を蔑ろにしている訳でもジョルノの『梨花を陥れている黒幕が沙都子の可能性がある』という指摘に思うところがあったわけでもない。
梨花は己の非力さを誰よりも知っている。
仮に眼前の男が殺し合いに乗った者であれば、沙都子を天秤にかけるような取引すらなく殺される程度の存在だ。
それは逆のことも言える。この男が沙都子を殺す際にも梨花という人質など必要なく、どう考えてもただの子供二人に対して取引など持ち掛ける意味などない。
なので、梨花は下手に情報を隠すよりは『心配そうに声をかけてきた』という善意に賭ける他なかったというのが実情である。
というのも、別に沙都子を蔑ろにしている訳でもジョルノの『梨花を陥れている黒幕が沙都子の可能性がある』という指摘に思うところがあったわけでもない。
梨花は己の非力さを誰よりも知っている。
仮に眼前の男が殺し合いに乗った者であれば、沙都子を天秤にかけるような取引すらなく殺される程度の存在だ。
それは逆のことも言える。この男が沙都子を殺す際にも梨花という人質など必要なく、どう考えてもただの子供二人に対して取引など持ち掛ける意味などない。
なので、梨花は下手に情報を隠すよりは『心配そうに声をかけてきた』という善意に賭ける他なかったというのが実情である。
梨花の触れた『沙都子』という少女の情報と、己が斬った少女の特徴を照らし合わせ、堂島は彼女が『沙都子』ではないと判断する。
「...すまないが、私は見かけていないね」
「みぃ...残念なのです」
「よければ一緒に探そうか?私も探している子がいてね」
「いいのですか?」
「ああ。おっさんもこんなところで一人では寂しくてね」
「みぃ...残念なのです」
「よければ一緒に探そうか?私も探している子がいてね」
「いいのですか?」
「ああ。おっさんもこんなところで一人では寂しくてね」
堂島が見るに、この少女は非常に無力な存在だ。それはヒーローが守るべき者である。
幸いにも、先に遭遇した青年とは変身体でしか邂逅していない。
ならばこうして人間体でいれば余計な諍いも起きないはずだ。
幸いにも、先に遭遇した青年とは変身体でしか邂逅していない。
ならばこうして人間体でいれば余計な諍いも起きないはずだ。
『なら彼と出会い、変身を余儀なくされたらどうするんです?』
またも脳裏に声が響く。纏わりつく死者の声が。
『ええ、言わなくてもわかってますよ。その時は口封じとして彼を、そして目の前の彼女も殺すのでしょう?今まで通り、その場しのぎのお粗末な考えで』
「......」
「......」
堂島は、声には応えなかった。
梨花は微かに陰りの見えた堂島の表情に気が付いたが、下手に刺激して離別されても困るため黙っていた。
梨花は微かに陰りの見えた堂島の表情に気が付いたが、下手に刺激して離別されても困るため黙っていた。
☆
堂島と梨花が去ってから幾ばくか経過した頃。
真島とまどかは足跡を辿りここまで訪れていた。
真島とまどかは足跡を辿りここまで訪れていた。
「ボクシング、ですか」
「ああ。昔は俺も姉も虐められていてな。護身用にと始めたんだ」
「なんか、かっこいいです。そういう目標のもとに頑張るって」
「そんなたいそうなものじゃないさ。途中、なにもかもがどうでもよくなってボクシングから離れていたしな。
荻原と出会えていなければまたボクシングに関わろうともしなかったし、お前のことも助けようとすら思えなかったはずだ。所詮、俺はそんな他者に左右される程度の男さ」
「でも、あの人にも怯まず立ち向かったのは今までの真島さんがあるからだと思います。やっぱり真島さんはかっこいいです」
「〜〜〜〜〜お前も荻原も、人が恥ずかしくなることをよく平然と言えるな」
「ああ。昔は俺も姉も虐められていてな。護身用にと始めたんだ」
「なんか、かっこいいです。そういう目標のもとに頑張るって」
「そんなたいそうなものじゃないさ。途中、なにもかもがどうでもよくなってボクシングから離れていたしな。
荻原と出会えていなければまたボクシングに関わろうともしなかったし、お前のことも助けようとすら思えなかったはずだ。所詮、俺はそんな他者に左右される程度の男さ」
「でも、あの人にも怯まず立ち向かったのは今までの真島さんがあるからだと思います。やっぱり真島さんはかっこいいです」
「〜〜〜〜〜お前も荻原も、人が恥ずかしくなることをよく平然と言えるな」
ここが殺し合いだとは思えぬほどに平穏な会話を弾ませる二人だが、彼らは決して目的を見失っていない。
他者に凶行を働きかねない堂島を止めるという目的は。
他者に凶行を働きかねない堂島を止めるという目的は。
「〜〜〜〜〜〜〜」
「〜〜〜〜〜〜〜」
「〜〜〜〜〜〜〜」
ふと、二人の耳に男の声が届く。
数は二人、なにやら言い争っているようにも聞こえる。
数は二人、なにやら言い争っているようにも聞こえる。
身を隠しながら様子を見よう、と真島はまどかに小声で指示を出し、抜き足差し足で徐々に声の出所へと向かっていく。
「だぁかぁらぁ!言ってんだろうが!俺はあの嬢ちゃんの自殺を食い止めただけだってえの!」
「証拠もなしに信じると?自分を知れ...そんなオイシイ話があると思うのか?貴様のような『現行犯』に」
「だったらあの嬢ちゃんともう一度状況を検分させろ!そうすりゃわかる!」
「『貴方が現行犯である』。これ以上に確たる証拠はないでしょう。わかったならさっさと刑務所にぶちこまれる覚悟をしておいてください。いいですねっ!!」
「証拠もなしに信じると?自分を知れ...そんなオイシイ話があると思うのか?貴様のような『現行犯』に」
「だったらあの嬢ちゃんともう一度状況を検分させろ!そうすりゃわかる!」
「『貴方が現行犯である』。これ以上に確たる証拠はないでしょう。わかったならさっさと刑務所にぶちこまれる覚悟をしておいてください。いいですねっ!!」
まどかたちが辿り着いた先にあったのは、両手足を拘束された中年を引きずる金色コロネのような奇抜な髪形の少年という珍妙な場面だった。
しばしその様子を伺っていた二人だが、言い争いはずっと同じような意見を繰り返しているばかりで状況は依然変わらず。
痺れを切らした二人は身を隠すのを止め、中年たちの前に姿を現した。
しばしその様子を伺っていた二人だが、言い争いはずっと同じような意見を繰り返しているばかりで状況は依然変わらず。
痺れを切らした二人は身を隠すのを止め、中年たちの前に姿を現した。
「あの、どうかしたんですか?」
「―――ッ、おいお前たち、こいつから離れろ!俺みたいにわけわからん理由をつけられて拘束されるぞ!」
「あなたを侮辱罪で訴えます!」
「―――ッ、おいお前たち、こいつから離れろ!俺みたいにわけわからん理由をつけられて拘束されるぞ!」
「あなたを侮辱罪で訴えます!」
まどかたちに嚙みつかんばかりの勢いでまくし立てる中年―――英吾の頭を掴み、少年・ワザップジョルノは地面に組み伏せた。
「おい、少しやりすぎじゃないのか?」
幾度もかわされる問答を伺っていたことから、英吾がここにはいない誰かに攻撃を仕掛け、それを見ていたワザップが現行犯と称して彼を拘束しているという大まかな顛末はわかっている。
しかし、こうも躊躇いなく暴力が振るわれれば、いやでも心証は悪くなってしまう。
しかし、こうも躊躇いなく暴力が振るわれれば、いやでも心証は悪くなってしまう。
「この男は現行犯ですよ。容赦も同情も必要ないでしょう」
「でも、その人は『自殺を止めたかった』って言ってますよね?」
「そんなものは苦し紛れのでっち上げ...ちょっと待ってください。いま、貴女はなんて言いました?。僕らもこの男もまだ貴女たちになにも伝えてませんよね?」
「あっ...さっきまで様子を伺っててそれで聞いてました」
「でも、その人は『自殺を止めたかった』って言ってますよね?」
「そんなものは苦し紛れのでっち上げ...ちょっと待ってください。いま、貴女はなんて言いました?。僕らもこの男もまだ貴女たちになにも伝えてませんよね?」
「あっ...さっきまで様子を伺っててそれで聞いてました」
ワザップの問いかけにまどかは素直に答える。
瞬間、ワザップの瞳に殺意が宿る。
瞬間、ワザップの瞳に殺意が宿る。
「貴女たちを盗聴罪で訴えます!理由はもちろんお分かりですね?あなたたちが僕らのプライバシーの侵害したからです!
覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい!貴女たちは犯罪者です!刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!」
覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい!貴女たちは犯罪者です!刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!」
突如、ワザップは豹変しスタンド『ゴールドエクスペリエンス』を発現させる。
「なんだこいつは!?」
異端なる存在に驚愕しつつも、真島は咄嗟にボクシング特有のファイティングポーズを取り、それに倣いまどかも魔法少女へと変身する。
そのまどかの変身姿を見ていた英吾もまた驚愕するも、すぐに意識を取り戻しまどかたちへと叫ぶ。
そのまどかの変身姿を見ていた英吾もまた驚愕するも、すぐに意識を取り戻しまどかたちへと叫ぶ。
「クッソ、またかよ!おいお前たち、こいつの相手はするな!早く逃げろ!」
「『ゴールドエクスペリエンス』!!」
「『ゴールドエクスペリエンス』!!」
ワザップのスタンドが拳によるラッシュを仕掛けながら、あっという間に距離を詰め真島のもとへと肉薄する。
迎え撃とうとする真島。しかし、まどかは真島とスタンドの間に割って入り、両手を広げて立ちはだかる。
迎え撃とうとする真島。しかし、まどかは真島とスタンドの間に割って入り、両手を広げて立ちはだかる。
「鹿目ッ!?」
まどかの急な行動に、真島は目を見開くだけで、彼女を守ろうとするも身体が追い付かない。
スタンドはまどかごと真島を殴りつけるべくそのラッシュを振るう―――が。
まどかの眼前にまで迫ると、拳はピタリと止まった。
スタンドはまどかごと真島を殴りつけるべくそのラッシュを振るう―――が。
まどかの眼前にまで迫ると、拳はピタリと止まった。
「...なぜ、よけようともしないのですか?怖くないのですか?」
そう尋ねるワザップだが、問いかけるまでもなく彼は理解している。
彼女はビビっている。殴られる恐怖に目を瞑りながら、しかしそれでも決して退こうとはしなかった。
彼女はビビっている。殴られる恐怖に目を瞑りながら、しかしそれでも決して退こうとはしなかった。
「...怖いですよ。でも、誰も傷つけあうのを望んでいないのに、傷つけあうことになるのは、もっと怖かったから...」
まどかはワザップの「この男は現行犯である」という言葉と英吾の「早く逃げろ」という言葉。その両方を聞き逃さなかった。
そして彼女なりに彼らの言葉を刷り合わせれば、彼らは二人とも殺し合いに乗っておらず、なにか悲しい勘違いによるすれ違いが起きているのではないかという推論を導き出すことができた。
そして彼女なりに彼らの言葉を刷り合わせれば、彼らは二人とも殺し合いに乗っておらず、なにか悲しい勘違いによるすれ違いが起きているのではないかという推論を導き出すことができた。
ならば、怒っている者―――ワザップの怒りを自分が受け止めれば、彼も落ち着いて話ができるようになるかもしれない。
それで自分が傷つくのは怖いけれど、それでも殺し合いが起きるよりは断然いいと判断し、スタンドの拳を甘んじて受ける決意をした。
それで自分が傷つくのは怖いけれど、それでも殺し合いが起きるよりは断然いいと判断し、スタンドの拳を甘んじて受ける決意をした。
「......」
沈黙するジョルノを真島は油断なく見据える。
まどかの言いたいことはわかるが、かといってこのまま彼女が理不尽に殴られるのを黙って見ている訳にもいかない。
もしもこのままジョルノが私刑を続けようとするならば拳を振るう所存だ。
まどかの言いたいことはわかるが、かといってこのまま彼女が理不尽に殴られるのを黙って見ている訳にもいかない。
もしもこのままジョルノが私刑を続けようとするならば拳を振るう所存だ。
やがてワザップは静かに口を開く。
「とある学者はこの言葉を残しました。『「勇気」とは「怖さ」を知ることである』と。...君の名前は?」
「鹿目まどかです」
「カナメマドカ、君は『恐怖』を抱きながらも『正義』と『信念』に基づき抗った。君の信念に基づいたその行動!僕は敬意を表するッ!!」
「鹿目まどかです」
「カナメマドカ、君は『恐怖』を抱きながらも『正義』と『信念』に基づき抗った。君の信念に基づいたその行動!僕は敬意を表するッ!!」
突如姿勢を正し、声を張り上げるワザップにまどか達は驚くも、スタンドを収めたことから停戦が相成ったのだと判断する。
緊張の糸が切れ、はあぁ、と息を吐き後ろへと倒れこみそうになるまどかを真島が肩に触れ支える。
緊張の糸が切れ、はあぁ、と息を吐き後ろへと倒れこみそうになるまどかを真島が肩に触れ支える。
「まったく...無茶するやつだよお前は」
しょうがないやつめ、とほほ笑む真島に、まどかもまたティヒヒ、とはにかむのだった。
☆
父と母。それは外面を取り払えば雄と雌のつがいである。
雄と雌のつがいとなれば、本能のみの存在になれば交わるのはある種必然。
「オ゛レの家族はどこだああああああああ!!!」
そうなれば、その香りを嗅ぎつけた『思考を奪われ本能のみで家族を探し求める者』が惹きつけられるのもなにもおかしなことではない。
「はぁ〜い、こっちよこっちぃ」
「ギ?」
「ギ?」
声のした方へと顔を向ける累の父。視線の先にある一室の窓から伸ばされひらひらと振られる掌が一つ。
その手が引っ込むと、累の父はそれにつられて、ズシ、ズシ、とその重厚な足音を響かせ部屋へと向かう。
その手が引っ込むと、累の父はそれにつられて、ズシ、ズシ、とその重厚な足音を響かせ部屋へと向かう。
「ごめんなさいねえ、ちょうどいまこの子のお昼寝タイムなのよぉ」
累の父を部屋に迎え入れたミスティは、床に大の字で寝転がる薫を足元に敷きながら妖艶な笑みを浮かべる。
「家族を探してるんですってぇ?話くらいは聞いてあげてもいいけどぉ」
「オ゛レの家族はどこだああああああああ!!!」
「...あら。思ったよりも話が通じないみたいねぇ」
「オ゛レの家族はどこだああああああああ!!!」
「...あら。思ったよりも話が通じないみたいねぇ」
いま、この瞬間、家族を知らないならば用はないと言わんばかりに拳を握りしめミスティへと襲い掛かる累の父。
「仕方ないわねえ...善くん、おねがぁい」
パチン、と指を鳴らせば、彼女の後ろからのそりと基礎の変身体となった佐神善が現れ、ミスティの代わりに累の父の拳を受け止める為に駆ける。
累の父と、善の拳が衝突―――しかし、拮抗は続かない。
累の父の拳はあっさりと善の拳を弾き飛ばし、そのまま左腕によるボディーブローで善の腹部を打ち、ミスティの方へと飛ばす。
累の父と、善の拳が衝突―――しかし、拮抗は続かない。
累の父の拳はあっさりと善の拳を弾き飛ばし、そのまま左腕によるボディーブローで善の腹部を打ち、ミスティの方へと飛ばす。
「あらぁ?」
真横を通り過ぎ、後方の壁に叩きつけられた善の姿に、ミスティはキョトンとした表情を浮かべる。
「知らないナラァ...喰わせロ"オオオオォォォ!!!」
(妙ねえ。私の見立てだと、体力の消耗を考慮してもこんなにあっさりトばされるはずがなかったのだけれど)
(妙ねえ。私の見立てだと、体力の消耗を考慮してもこんなにあっさりトばされるはずがなかったのだけれど)
エスデスとの戦闘と薫とのまぐわいによる消耗はあるとはいえ、休憩がてら支給されていた遺灰物も食わせ、変身体を維持できる程度にはもう体力も回復している。
自分の予想以上に累の父のパワーが強かったのだろうか。
自分の予想以上に累の父のパワーが強かったのだろうか。
「まあそれならそれで、エスデスちゃぁん」
累の父の巨大な口腔が眼前にまで迫ろうとも微塵も動揺せず。
その名前を呼べば、たちまちに氷の壁が累の父とミスティの間に割って入った。
その名前を呼べば、たちまちに氷の壁が累の父とミスティの間に割って入った。
「うんうん。あなたはちゃあんと使いモノになるわねえ」
背後から現れ、足元に片膝を着き頭を下げるハイグレ姿のエスデスを見下ろし、うんうんと頷きご満悦な表情を浮かべるミスティ。
「その調子でその子の拘束もおねがぁい」
「かしこまりましたご主人」
「かしこまりましたご主人」
エスデスは立ち上がり、さりげない仕草で身体を密着させつつミスティの腹部に手を添える。
「ダメよォ、ご褒美はちゃんとお仕事を片付けてから」
人差し指をエスデスの唇に添え「待った」をかける。
お預けに微かに不満げに頬を膨らませながらも、後の『ご褒美』を期待するかのように目に輝きを取り戻しながら累の父へと向かう。
悠然と歩いてくるエスデス向けて、累の父は咆哮と共に拳を振り下ろす。
エスデスはそれを跳躍で交わし、踵落としをそのまま頭部へと叩き込む。
お預けに微かに不満げに頬を膨らませながらも、後の『ご褒美』を期待するかのように目に輝きを取り戻しながら累の父へと向かう。
悠然と歩いてくるエスデス向けて、累の父は咆哮と共に拳を振り下ろす。
エスデスはそれを跳躍で交わし、踵落としをそのまま頭部へと叩き込む。
「ガア"ア"ア"ア"アアア!!」
地面に押し付けられ絶叫を上げる累の父の頭部、両手足を氷で拘束し動きを封じ、エスデスはミスティへと振り返る。
ミスティはにこりと微笑み手招きすればエスデスはまるで子犬のような表情でかけよりミスティの身体にピタリと寄り添った。
ミスティはにこりと微笑み手招きすればエスデスはまるで子犬のような表情でかけよりミスティの身体にピタリと寄り添った。
「えらいえらい。ご褒美よぉ、好きな時に使いなさい」
ふやけて使えなくなった茄子の代わりの茄子を渡せば、エスデスはそれをいとおしそうに受け取り頬ずりをし始める。
(ずいぶん従順になったわねえ)
ハイレグ光線銃を使うまではずっと敵意を飛ばしていた彼女がこうも順応してしまうとは非常に滑稽な光景だ。
それだけ光線銃の洗脳力が強いのか、あるいはもとより精神的にはマゾヒストのケがあったのか。
それだけ光線銃の洗脳力が強いのか、あるいはもとより精神的にはマゾヒストのケがあったのか。
「まあちゃんと仲良くなれたのはいいことだわぁ。...それよりも」
振り返り、未だに沈黙する善のもとへと足を運ぶ。
「しっかりなさぁい、善くん。エスデスちゃんと戦ってた時のあなたはこんなものじゃあなかったでしょう」
エスデスとの戦闘で見せた彼の闘争心と殺意は見ているだけのミスティすら肌が泡立つほどのものだった。
それが今やどうだ。確かに従順で戦闘も行うが、あくまで行っている、というだけ。あの時見せた脅威はすっかり形をひそめている。
ただのザーメンタンクならいいが、彼には戦闘も求めている。このままではロクな手ごまにならないだろう。
それが今やどうだ。確かに従順で戦闘も行うが、あくまで行っている、というだけ。あの時見せた脅威はすっかり形をひそめている。
ただのザーメンタンクならいいが、彼には戦闘も求めている。このままではロクな手ごまにならないだろう。
「そんな調子だとご褒美は遠のくばかりよぉ...ほら、ぴゅー、ぴゅーってまたしたいのでしょう?」
俯く善の顎を持ち上げ、甘い吐息をふぅ、とかける。
「ガ...」
それを吸い込んだ善は小さく呻き声をあげ立ち上がるも、しかしその足元は覚束ない。
(この子の『スイッチ』は性欲にはなりえないのかしら)
生物とは24時間すべてを気を抜かずにいられるものではない。
戦闘に身を置く者には『スイッチ』とでも称するべき気持ちの切り替え機能が備わっている。
戦闘に身を置く者には『スイッチ』とでも称するべき気持ちの切り替え機能が備わっている。
相手への敵意を認める。
過去を回顧し怒りで己を高ぶらせる。
人を殺めた時の感触を想起し悲しみを抱く。
過去を回顧し怒りで己を高ぶらせる。
人を殺めた時の感触を想起し悲しみを抱く。
人によって千差万別だが、ミスティは善、エスデス、薫の三名の『スイッチ』を黒針で性欲に切り替えた。
徹底的に苛め抜き精神を壊した薫と、もとより嗜虐趣味だったエスデスは性欲のスイッチが上手く切り替わった。
彼女たちはこれからも性欲を満たすためならば如何な戦闘すらもこなすだろう。
が、善にはイマイチ嚙み合っていないようだ。命令はちゃんと聞くし、まぐわえと命令すれば素直にまぐわう。
しかし戦闘だけがかみ合わず、これでは今の薫に刀を持たせた方がマシにすら思える。ならば彼の『スイッチ』とはなんなのか。
徹底的に苛め抜き精神を壊した薫と、もとより嗜虐趣味だったエスデスは性欲のスイッチが上手く切り替わった。
彼女たちはこれからも性欲を満たすためならば如何な戦闘すらもこなすだろう。
が、善にはイマイチ嚙み合っていないようだ。命令はちゃんと聞くし、まぐわえと命令すれば素直にまぐわう。
しかし戦闘だけがかみ合わず、これでは今の薫に刀を持たせた方がマシにすら思える。ならば彼の『スイッチ』とはなんなのか。
(...もう少し様子見ね)
もしも善がこのまま戦闘員になりえないのならば、ザーメンタンクに割り切って運用するべきだ。
「その保険としてぇ...おまたせしたわねえお父様ぁ?」
拘束した累の父を見下ろし、ミスティは妖艶な笑みを浮かべ累の父の下半身をまさぐる。
「これだけ大きな身体だもの。さぞご立派な...あらぁ?」
ミスティは己の手のひらの感触を不思議に思う。
累の父には男にあるはずのモノがなかった。
累の父には男にあるはずのモノがなかった。
これはミスティの知る由もないことだが、累の父―――つまりは『鬼』の元締めである鬼舞辻無惨。
彼は自ら人間を鬼に変えつつも、内心では鬼が増えるのを快く思っていなかった。
鬼を悪戯に増やすということは、それだけ陽の光を克服できていない現実を直視させられるからだ。
そんな彼が、配下の鬼たちが勝手に交尾し数を増やすのを快く思うはずがなく、万が一にも鬼が子孫を増やすかもしれない性器を残しておくはずもない。
彼は自ら人間を鬼に変えつつも、内心では鬼が増えるのを快く思っていなかった。
鬼を悪戯に増やすということは、それだけ陽の光を克服できていない現実を直視させられるからだ。
そんな彼が、配下の鬼たちが勝手に交尾し数を増やすのを快く思うはずがなく、万が一にも鬼が子孫を増やすかもしれない性器を残しておくはずもない。
そして累の父の製作者である累本人。彼もまた干しがる家族というものは世間一般からはズレていた。
『親が子のためにわが身を投げ出すほどの無償の愛』。それが累の求めていたものだった。
そこに父と母の性行為などあるはずもなく、累も累の父に性器を必要としなかった。
『親が子のためにわが身を投げ出すほどの無償の愛』。それが累の求めていたものだった。
そこに父と母の性行為などあるはずもなく、累も累の父に性器を必要としなかった。
故に父と銘打たれながらも、彼には性器に相当する器官が存在しなかった。
(まあ私の黒針で生やしてあげることもできるけどぉ、善くんの例もあるしここはぁ)
累の父のこめかみに触れ、トン、と黒針を一突き。
「ガ!?」
「お父様ぁ、私たちはここにいるわよぉ?」
「お父様ぁ、私たちはここにいるわよぉ?」
累の父の視界が滲み、己を見下ろすエスデスとミスティが別のモノに変貌していく。
「ムス...メ...ツマ...!」
豊満な胸を見せつける累の母と控えめな身体つきの少女、累の姉。
それは彼が求めていた家族そのものだった。
それは彼が求めていた家族そのものだった。
「ええそうよぉ。あなたの娘のミスティと妻のエスデスちゃんよぉ」
「オオ...オオオオオ!!!!」
「お父様ぁ、私たち家族を守ってくれるのよねえ?」
「家族...守る!護る!!護ルウウウウウウウ!!!」
「オオ...オオオオオ!!!!」
「お父様ぁ、私たち家族を守ってくれるのよねえ?」
「家族...守る!護る!!護ルウウウウウウウ!!!」
ガシャガシャガシャ、と今にも己を拘束する氷を砕かん勢いで暴れだす累の父。
そんな彼を見てミスティは己の成功を確信する。
そんな彼を見てミスティは己の成功を確信する。
彼女の黒針が累の父にもたらした変化は『認識』。
脳を操り視界にも変化を齎したことで、いまの累の父はエスデスを妻、ミスティと薫を娘、善を息子と認識させられている。
本来ならば『息子』である累の指示に従い『妻』を折檻するところだが、いまその命令を下すものはいない。
故に、累の父は本当の意味で家族を守ろうとする習性を得ることができたのだ。
脳を操り視界にも変化を齎したことで、いまの累の父はエスデスを妻、ミスティと薫を娘、善を息子と認識させられている。
本来ならば『息子』である累の指示に従い『妻』を折檻するところだが、いまその命令を下すものはいない。
故に、累の父は本当の意味で家族を守ろうとする習性を得ることができたのだ。
「さあてと、戦闘員の補填が決まったところでぇ」
体力の回復のために仮眠をとっている薫と、息を荒げつつ膝まづく善へと艶めかしい視線を向けながら振り返る。
「よかったわねえ、善くん。これでまたい〜っぱい楽しめるわよぉ」
☆
「う、うぅん...」
「おはようございます、荻原さん」
「おはようございます、荻原さん」
ニタァ、と特徴的な笑みを浮かべて覗き込んでくるドレミーの顔が視界いっぱいに映り込み、結衣は思わずうひゃあと素っ頓狂な悲鳴をあげて飛び退く。
一拍おいて、キョロキョロと周囲を見回し、ドレミーの他にもプロシュートがいたことで自分がどうなっていたかを思い返し、新たな殺し合いに巻き込まれていたことを思い出す。
そしてそれは最初に出会った参加者のことを思い出してしまう訳でもある。
一拍おいて、キョロキョロと周囲を見回し、ドレミーの他にもプロシュートがいたことで自分がどうなっていたかを思い返し、新たな殺し合いに巻き込まれていたことを思い出す。
そしてそれは最初に出会った参加者のことを思い出してしまう訳でもある。
「......」
「...どうした、またメソメソと泣くんじゃねえのかマンモーニ」
「マンモ...?あたしは荻原ですよプロシュートさん」
「『ママっ子』、つまりは『甘ったれ』という意味ですね」
「...どうした、またメソメソと泣くんじゃねえのかマンモーニ」
「マンモ...?あたしは荻原ですよプロシュートさん」
「『ママっ子』、つまりは『甘ったれ』という意味ですね」
ドレミーの補足に結衣は更に表情を曇らせる。
プロシュートの言う通りだ。
薫に助けてもらって何ができたかといえばなにもない。また出会った人たちに助けられてばかりだ。
いくら能天気な彼女でも、自分を客観的に見ればとても褒められたものではないことくらいは理解している。
プロシュートの言う通りだ。
薫に助けてもらって何ができたかといえばなにもない。また出会った人たちに助けられてばかりだ。
いくら能天気な彼女でも、自分を客観的に見ればとても褒められたものではないことくらいは理解している。
「...それでお前はどうするつもりだ」
「えっ?」
「もう落ち着く時間は充分に作ってやったんだ。ここから先も同じことを繰り返すのかって聞いてんだ」
「えっ?」
「もう落ち着く時間は充分に作ってやったんだ。ここから先も同じことを繰り返すのかって聞いてんだ」
心なしか苛立ちが混じっているような声音に結衣は縮こまり言葉を詰まらせる。
当然だ。自分では正しいことをしたとは思っているが、それでもプロシュートなりに決着を着けようとしたのを止められたのだ。
不満が出るのは当然だろう。
当然だ。自分では正しいことをしたとは思っているが、それでもプロシュートなりに決着を着けようとしたのを止められたのだ。
不満が出るのは当然だろう。
「...でも、アタシ、プロシュートさんにも、誰にも殺しなんてしてほしくなくて...」
「俺が聞いてんのはそっちじゃあねえ。今度はお前を無視して引き金を引きゃあいいだけの話だからな」
「だっ、ダメですってばぁ!人殺しなんて...」
「話を逸らすんじゃあねえ。お前、マジでわかってないとは言わねえだろうな」
「俺が聞いてんのはそっちじゃあねえ。今度はお前を無視して引き金を引きゃあいいだけの話だからな」
「だっ、ダメですってばぁ!人殺しなんて...」
「話を逸らすんじゃあねえ。お前、マジでわかってないとは言わねえだろうな」
決して怒鳴り散らさず、しかしドスの効いた低い声音は結衣を委縮させる。
(そっちじゃないって言われてもアタシにはわかりませんよぉ...)
「えーと、プロシュートさん。よければ彼女に説明をしても?」
「...チッ」
「...チッ」
ドレミーの申し出にプロシュートは舌打ちをする。
それがドレミーに向けられているのか自分に向けられているのかわからず、結衣は更に委縮する。
それがドレミーに向けられているのか自分に向けられているのかわからず、結衣は更に委縮する。
「実はですね、あなたの夢を少々拝見させていただきまして。そこで見た内容を彼にお話しさせて頂いたのです」
「あたしの夢、ですか?」
「はい。悪夢でしたね〜、益子さんのことは」
「そんなあっさり言わないでください!...そうです、益子さんがあたしを逃がすために...死」
「いえ。彼女は生きてる可能性の方が高いと思いますよ?」
「あたしの夢、ですか?」
「はい。悪夢でしたね〜、益子さんのことは」
「そんなあっさり言わないでください!...そうです、益子さんがあたしを逃がすために...死」
「いえ。彼女は生きてる可能性の方が高いと思いますよ?」
あっけらかんと言い放たれる希望への言葉に結衣は思わず顔を上げる。
「なにも不思議なことではありません。彼女はあの悲鳴からして、捕らえられ慰み者にされているのでしょう。ならば殺されているよりも生きている可能性の方が高いかと」
慰み者。その意味が解らないほど結衣はお子様ではない。
しかし、生存を諦めていた者が生きているかもしれないという事実は結衣の胸に希望を実らす。
しかし、生存を諦めていた者が生きているかもしれないという事実は結衣の胸に希望を実らす。
「―――プロシュートさん、ドレミーさん!あたし、益子さんを助けたいです!だからお願いします、あたしと一緒に来てください」
頭を下げて二人に頼み込む結衣。そんな彼女に対しての返答は―――拒絶でもなく肯定でもない沈黙。
プロシュートは銃を己の手の中で弄び、ドレミーはそんな彼と結衣を見ながらにたにたと笑みを浮かべている。
プロシュートは銃を己の手の中で弄び、ドレミーはそんな彼と結衣を見ながらにたにたと笑みを浮かべている。
「つまりはあれだな。オメーは見知らぬ女一人のために、俺たちにもゴスロリのガキ共のペットになれと、そう言いてえわけだな」
「えっ、あたしそんなつもりじゃ...」
「でなけりゃあ、頼み込めば俺たちが無償で動いてくれるとでも思ってんのか、あ?」
「だからぁ、あたしは益子さんを助けたいだけなんですってばぁ!」
「えっ、あたしそんなつもりじゃ...」
「でなけりゃあ、頼み込めば俺たちが無償で動いてくれるとでも思ってんのか、あ?」
「だからぁ、あたしは益子さんを助けたいだけなんですってばぁ!」
数時間前とは違う調子のプロシュートとのやり取りに結衣は困ったように眉をハノ字に曲げる。
どうしてプロシュートさんは益子さんを助けてくれないんだろう。どうしてここまで拒絶するんだろう。
そんな結衣を見かねてプロシュートは「ハァ」と大げさにため息をついて見せた。
どうしてプロシュートさんは益子さんを助けてくれないんだろう。どうしてここまで拒絶するんだろう。
そんな結衣を見かねてプロシュートは「ハァ」と大げさにため息をついて見せた。
「いいかオギワラ。俺はオメーがどこで不殺を貫こうが誰を助けようが知ったことじゃあねえ。俺が気に入らねえのは最初から誰かが助けてくれるだろうってオメーの性根だ」
プロシュートが人差し指を結衣の額にグリグリと押し付ける。
「適材適所っつーのは大事なことだ。向いてないやつができねーことをウダウダやるよりは向いてるやつに任せた方が効率がいいからな。
だがな、思考放棄して自分でやれることすら投げ出して他人におっかぶせるっつーのはワケが違う!そいつはただの甘えだ。オメーはその甘えに益子って女の運命委ねてんだよ!」
「あ、あたしにできること...?」
「さっきも言ったがな。俺はギャングでドレミーは妖怪だ。見知らぬ女一人をタダで助ける義理も情もねえ。だからオメーは俺たちを『納得』させてみせろ」
だがな、思考放棄して自分でやれることすら投げ出して他人におっかぶせるっつーのはワケが違う!そいつはただの甘えだ。オメーはその甘えに益子って女の運命委ねてんだよ!」
「あ、あたしにできること...?」
「さっきも言ったがな。俺はギャングでドレミーは妖怪だ。見知らぬ女一人をタダで助ける義理も情もねえ。だからオメーは俺たちを『納得』させてみせろ」
結衣の額から指を離し、弾丸を一つ取り出すと、その手で銃を弄りシリンダーを廻す。
ピタリ、と回転が止まったところで銃を結衣に差し出した。
ピタリ、と回転が止まったところで銃を結衣に差し出した。
「弾は一発。こいつでテメーの頭を撃て。生き残れたらオメーの運と覚悟は認めてやる」
「ええっ!?頭撃ち抜いたらあたし死んじゃいますよ!?」
「いえいえ問題ありません。こちらはロシアン・ルーレットですよ」
「ええっ!?頭撃ち抜いたらあたし死んじゃいますよ!?」
「いえいえ問題ありません。こちらはロシアン・ルーレットですよ」
ロシアンルーレット―――名前の通り、ロシア発祥とされるギャンブルの一つである!
ルールは簡単!シリンダーの中の6つの穴のうち一発だけ実弾を入れ、あとは引き金を引くだけ!
成功者には覚悟と豪運、敗北者には死と不運、逃亡者にはマンモーニの称号が与えられる命がけのギャンブルだ!
ルールは簡単!シリンダーの中の6つの穴のうち一発だけ実弾を入れ、あとは引き金を引くだけ!
成功者には覚悟と豪運、敗北者には死と不運、逃亡者にはマンモーニの称号が与えられる命がけのギャンブルだ!
「俺たちに命を張らせてえっつーんだ。ならオメーもそれに釣り合うモノを支払う義務ってモンがあるよなぁ。お前が俺に付きまとうのは勝手だが、少なくとも俺は、後ろにチョロチョロついてくるだけのマンモーニの指図に従うつもりは一切ねえ」
「同感ですねえ。私も多少のお願いならまだしも命を賭けろというのはちょっと...」
「同感ですねえ。私も多少のお願いならまだしも命を賭けろというのはちょっと...」
結衣はゴクリ、と唾を飲み込み掌に収まる凶器の重さを実感する。
銃を撃てば人は死ぬ。たった一発の弾丸で、命はあっさり掻き消える。それは自分も例外ではない。
銃を撃てば人は死ぬ。たった一発の弾丸で、命はあっさり掻き消える。それは自分も例外ではない。
「嫌だっつーんなら逃げてもいいんだぜ。幸い、俺は無償で人助けをしてくれるかもしれん女を一人知っている。レオーネって金髪の女...そいつに『プロシュートからの紹介だ』って言えば話は通るだろうよ」
「死のリスクをとるだけが勇気ではありませんからねえ。案外、一歩引いて遠目から見た方が見えるものがあるかも」
「死のリスクをとるだけが勇気ではありませんからねえ。案外、一歩引いて遠目から見た方が見えるものがあるかも」
提示された逃げ道に結衣の心は傾きそうになる。
プロシュートもドレミーも、逃げ道自体には賛同してくれている。
仮にここで実弾を引いて死んでしまえば薫へと手を差し伸べる者はいなくなってしまう。
それならば安全策としてレオーネという人を頼るのも間違いではない。
プロシュートもドレミーも、逃げ道自体には賛同してくれている。
仮にここで実弾を引いて死んでしまえば薫へと手を差し伸べる者はいなくなってしまう。
それならば安全策としてレオーネという人を頼るのも間違いではない。
(でも、あたしは)
引き金に指をかけ、己のこめかみに突きつける。
動悸は収まっていない。荒ぶる呼吸も整っていない。
緊張で脳髄は委縮しジワジワと熱が発されるように思考が白くなる。
それでも。
動悸は収まっていない。荒ぶる呼吸も整っていない。
緊張で脳髄は委縮しジワジワと熱が発されるように思考が白くなる。
それでも。
(すぐにでも益子さんを助けてあげたいんです!)
目をギュッと瞑り、引き金を強く引いた。
―――ガチン。
弾丸は発射されない。結衣は賭けに勝利した。それはプロシュートたちの目にも明白な事実だった。
なのに。
―――ガチガチガチガチン
「なっ!?」
「ほぉ」
「ほぉ」
追加で連続して引かれた引き金に、プロシュートもドレミーも顔を強張らせる。
はあ、はあ、はあ、と結衣の荒い呼吸が空気に溶け、やがてゴトリ、とやけに大きな音を立てて銃がテーブルに置かれた。
「プロシュートさん、ドレミーさん...これでわかってくれましたか。アタシが本気で益子さんを助けたいってこと!」
涙目になりながら見上げてくる結衣の目にプロシュートのこめかみから一筋の汗が伝う。
プロシュートは結衣を見誤っていた。荻原結衣という少女の人を慈しむ心の深さを。
彼女の生きた別の時間軸では、己の命をチップにしてでも争いを止めようとしたほどの芯のブレなさを。
プロシュートは結衣を見誤っていた。荻原結衣という少女の人を慈しむ心の深さを。
彼女の生きた別の時間軸では、己の命をチップにしてでも争いを止めようとしたほどの芯のブレなさを。
そんな彼の様子を見てドレミーはくすくすと笑う。
ただの一般人が期せずして猛者を押しているのが愉快だったのだ。
ただの一般人が期せずして猛者を押しているのが愉快だったのだ。
「どうするんです?彼女は見事に賭けに勝利しましたよ」
「...ここでゴネりゃあ俺の方がマンモーニだな」
「...ここでゴネりゃあ俺の方がマンモーニだな」
ギャングとは面子の生物だ。面子を護るためなら命すら張るときもある。
一般人の少女に、一度ならまだしも五回も引き金を引かせて尻をまくって逃げたとなればそれこそ首を括って死にたくなるだろう。
一般人の少女に、一度ならまだしも五回も引き金を引かせて尻をまくって逃げたとなればそれこそ首を括って死にたくなるだろう。
「案内しなオギワラ。ただし!俺は俺のやり方でやらせてもらう―――わかったな」
「はい!あたしもあたしのやり方でやらせてもらいます兄貴ィ♪」
「はい!あたしもあたしのやり方でやらせてもらいます兄貴ィ♪」
すっかり元の調子に戻った結衣にプロシュートは内心でため息を吐く。
またホワイトの時のようにトドメを指せる場面で邪魔されないように殺し方を考えておくかと頭の片隅で思いながら。
またホワイトの時のようにトドメを指せる場面で邪魔されないように殺し方を考えておくかと頭の片隅で思いながら。
そんなプロシュートに銃を渡しつつ、ドレミーは結衣に聞こえないように耳元で囁く。
「優しいんですね」
「あ?」
「弾丸、一つも入れてなかったんでしょう?」
「あ?」
「弾丸、一つも入れてなかったんでしょう?」
手際の良さと場の空気に圧されていた結衣は気づかなかったが、ドレミーは横から見ていたため気づくことができた。
プロシュートが弾を込めるフリをしてポケットに弾丸を隠していたことに。
プロシュートが弾を込めるフリをしてポケットに弾丸を隠していたことに。
プロシュートは見当違いな感心を抱くドレミーに対してフン、と鼻を鳴らす。
「アホか。実弾を減らすのが勿体なかっただけだ」