☆
堂島は梨花と共に学校へ向かっていた。
地図を見たとき、沙都子が寄りそうなめぼしい施設が学校であり、堂島もまた善ならばそういう一般人を保護しに向かってもおかしくないとふんだからだ。
地図を見たとき、沙都子が寄りそうなめぼしい施設が学校であり、堂島もまた善ならばそういう一般人を保護しに向かってもおかしくないとふんだからだ。
「佐神善、ですか?」
「ああ。私は一応医者の端くれでね。昔、彼の手術を請け負ったんだ」
「堂島はお医者さんなのですか。エライエライのです」
「そんな大層なものじゃないさ。全ての手術を成功させられたわけじゃないしね。もしそれができれば私も胸を張っていられたんだろうがね」
「みぃ...でもそれは仕方のないことなのです。神様でもみんなを救うことはできないのです。堂島は悪くないのです。...僕の住む雛見沢という村は小さな村なのです。そこに来てくれた入江というお医者さんは外から来たけれど、みんな入江のことが大好きなのです。
お医者さんはいてくれるだけでもみんな大助かりなのですよ」
「ははっ、そう言ってもらえると気が楽になるよ。感謝以上に非難されやすい職業なものでね」
「ああ。私は一応医者の端くれでね。昔、彼の手術を請け負ったんだ」
「堂島はお医者さんなのですか。エライエライのです」
「そんな大層なものじゃないさ。全ての手術を成功させられたわけじゃないしね。もしそれができれば私も胸を張っていられたんだろうがね」
「みぃ...でもそれは仕方のないことなのです。神様でもみんなを救うことはできないのです。堂島は悪くないのです。...僕の住む雛見沢という村は小さな村なのです。そこに来てくれた入江というお医者さんは外から来たけれど、みんな入江のことが大好きなのです。
お医者さんはいてくれるだけでもみんな大助かりなのですよ」
「ははっ、そう言ってもらえると気が楽になるよ。感謝以上に非難されやすい職業なものでね」
道中、堂島は語りかけてくる死者の声から耳を背けるように、梨花となんてことない雑談をしながら歩いていた。
「それで、その佐神くんという子なのだがね。非常に優しい子なんだが融通がきかなくてね。この会場でも無茶してやしないかと心配なんだよ」
「堂島は佐神が大好きなのですね」
「ん?...ハハッ、そうかもしれないね。彼のような子がしっかりと成長していると、救えてよかった、自分が医者なんだと実感できるからね」
「堂島は佐神が大好きなのですね」
「ん?...ハハッ、そうかもしれないね。彼のような子がしっかりと成長していると、救えてよかった、自分が医者なんだと実感できるからね」
梨花との会話、というよりは己が医者であること、そして善のことを話している間は堂島にとって救いであった。
その間だけは自分が数々の命を救った存在であることを疑わずに済んだから。
今まで斬ってきた命も数々も、少しだけ軽くなっている気がしたから。
その間だけは自分が数々の命を救った存在であることを疑わずに済んだから。
今まで斬ってきた命も数々も、少しだけ軽くなっている気がしたから。
だが、そんな憩いの時間も終わりが訪れる。
「こいつは...!」
学校にたどり着いた彼らの見た光景は凄惨の一言だった。
ほんの数時間前までは整っていたであろう学び舎は破壊の爪痕が深々と刻まれており、一目で廃墟だとわかる有様だ。
二人は悟る。ここで大規模な戦闘があったのだと。
ほんの数時間前までは整っていたであろう学び舎は破壊の爪痕が深々と刻まれており、一目で廃墟だとわかる有様だ。
二人は悟る。ここで大規模な戦闘があったのだと。
「古手くん。この辺りでちょっと身を隠していてくれないか」
堂島は梨花に避難を促し、自身は校舎へと足を運んでいく。
「ッ...!?」
2階に上がったあたりで鼻を衝く匂いに堂島は顔をしかめる。
そして傍の部屋から漏れる喘ぎ声に至っては舌打ちすら漏れた。
そして傍の部屋から漏れる喘ぎ声に至っては舌打ちすら漏れた。
(まったくこんな状況でなにをやっているんだ)
強姦か全てを放棄しての交わりか。
なんにせよ堂島の守りたい「善良なる者」の行いには程通い。
なんにせよ堂島の守りたい「善良なる者」の行いには程通い。
梨花を置いてきてよかった。子供である彼女にあの行為やこれより先に起こるであろう正義の執行も悪影響が過ぎる。
堂島は変身し、足音を殺しつつジリ、ジリ、と声のする教室へと距離を詰めていく。
堂島は変身し、足音を殺しつつジリ、ジリ、と声のする教室へと距離を詰めていく。
(執行対象を間違えないよう、どういう状況かをこの目で確かめてから執行したい...もう少し近くから...)
「そんなに中を知りたいか?ならば見に行くといい」
背後からの声に、咄嗟に振り返る。
振るわれる蹴撃を剣で防御するも威力を殺しきれず後方―――教室の中へと吹き飛ばされる。
振るわれる蹴撃を剣で防御するも威力を殺しきれず後方―――教室の中へと吹き飛ばされる。
「もっとぉ!もっとくれよぉ!!」
「ウフフ、どんどん手ごま候補ちゃんが集まってくる...やっぱりここにきて正解だわぁ」
「ウフフ、どんどん手ごま候補ちゃんが集まってくる...やっぱりここにきて正解だわぁ」
吹き飛ばされた先の部屋で堂島は状況を確認する。
こちらに背を向け、男の下半身に馬乗りになり一心不乱に腰を上下させ嬌声を上げる少女と、堂島を見て獲物を見つけた肉食獣のような眼光を光らせる黒ゴスロリの少女。
そして今しがた自分を蹴り飛ばしたハイグレ姿の青髪美女。
こちらに背を向け、男の下半身に馬乗りになり一心不乱に腰を上下させ嬌声を上げる少女と、堂島を見て獲物を見つけた肉食獣のような眼光を光らせる黒ゴスロリの少女。
そして今しがた自分を蹴り飛ばしたハイグレ姿の青髪美女。
(さて。この中で執行対象は誰か...)
まずはまぐわっているあの二人。こちらに顔すら向けないことから自我を失っている可能性がある。
青髪の美女。前者と違い意識はあるようだがハイグレ一枚でしかも立ち止まった際には股間をV字になぞり上下させていることからこちらも正常ではないと思われる。というかアレが正常では困る。
ゴスロリの少女。彼女はこの中で一番異変がなく、むしろこの状況を生み出したような言動をした。
青髪の美女。前者と違い意識はあるようだがハイグレ一枚でしかも立ち止まった際には股間をV字になぞり上下させていることからこちらも正常ではないと思われる。というかアレが正常では困る。
ゴスロリの少女。彼女はこの中で一番異変がなく、むしろこの状況を生み出したような言動をした。
(決まりだな)
狙うはゴスロリの少女。
堂島は剣を構え少女へと横なぎに振るう。
堂島は剣を構え少女へと横なぎに振るう。
ドンッ
切り裂くはずの斬撃は、しかし横合いからの衝撃で止められた。
「っ...!」
乱入してきた影に堂島は息を呑む。
少女になにかしらの方法で止められる可能性も考慮していなかったわけじゃない。
しかし、妙なのだ。乱入した影はまるで堂島の太刀筋を知っているかのように剣の腹を拳で打ち止めている。
少女になにかしらの方法で止められる可能性も考慮していなかったわけじゃない。
しかし、妙なのだ。乱入した影はまるで堂島の太刀筋を知っているかのように剣の腹を拳で打ち止めている。
(何者だ)
たなびいていたマントが払われ、堂島と影は対面する。
その顔を見た瞬間、堂島は呆気にとられ仮面の下の口をポカンと開けた。
「佐神...くん...?」
★
「日ノ元士郎、日ノ元明、ドミノ・サザーランド...この三人が善くんの知ってる吸血鬼なのねえ」
ミスティ様にそう尋ねられた僕は頷いた。
彼らのことを教えるのにさほど時間はかからなかった。
日ノ元士郎は元々敵同士だし、知ってることもほとんどないため隠す理由もなかった。
明とドミノに関しては―――僕の甘えなのかもしれない。
彼女たちなら今の僕も受け入れてもらえる。そんな心の緩みだったかもしれない。
彼女たちなら今の僕も受け入れてもらえる。そんな心の緩みだったかもしれない。
けれど。
あの人のことだけは教えられなかった。
だって、あの人は、先生は、僕にとって――――
だって、あの人は、先生は、僕にとって――――
☆
「佐神くん...きみはなにをやっている?」
己の剣を止める善に堂島は思わず問いかける。
彼はこれまで誰かを護るために戦っていたはずだ。
なのに、なぜ彼女を護る?
彼女はどう見たって人を傷つけるやつだろう?きみが一番許せないタイプのやつのはずだ。
なのに―――!
彼はこれまで誰かを護るために戦っていたはずだ。
なのに、なぜ彼女を護る?
彼女はどう見たって人を傷つけるやつだろう?きみが一番許せないタイプのやつのはずだ。
なのに―――!
「答えろよ、佐神くん!」
「ア...アァ...」
「ア...アァ...」
堂島の恫喝に、善は歯を鳴らし呻き声を上げる。
「ウアアアアアア!!」
慟哭とともに善は堂島の頭部を殴りつけ、ミスティから距離を取らせる。
「あ...待ってくれよぉ善、もっと、もっと欲しいよぉ」
「はいはい、ちょーとお待ちなさい」
「はいはい、ちょーとお待ちなさい」
ミスティは善に縋りつこうとする薫の臀部に触れ電撃蟲を入れる。
「あひゃあああああああ!これ、これええええ!!」
「うふふ、いま面白そうなことになってるのよぉ。だからお静かにね。エスデスちゃんもよぉ」
「うふふ、いま面白そうなことになってるのよぉ。だからお静かにね。エスデスちゃんもよぉ」
人差し指を唇に当てて可愛らしい仕草を見せるも、当の薫は電撃虫に夢中で全く見てもいない。
ミスティは気分を害することもなく、椅子に腰かけ、エスデスを手招きし傍らに膝まつかせる。
ミスティは気分を害することもなく、椅子に腰かけ、エスデスを手招きし傍らに膝まつかせる。
まるで闘技場かなにかのように見物に回るミスティたちに堂島は怒りを抱くがいまはそれどころではない。
振るわれる善の右拳を反射的に剣で防ぎ、その隙を着き左拳で堂島の側頭部を打ち抜く。
振るわれる善の右拳を反射的に剣で防ぎ、その隙を着き左拳で堂島の側頭部を打ち抜く。
ミスティは眼前の戦闘をゲームのように眺め、悪戯めいた笑みを浮かべる。
(なるほどねえ。あの子の『スイッチ』...ようやくわかってきたわあ。どうりで己を満たすための性欲とは相性が悪いわけねえ)
累の父との戦闘とは比べ物にならないほどの猛攻を見せる善にミスティはふむふむと感心する。
堂島の攻撃を防いだ時は、ミスティが命の危険に晒されていた。すなわち、彼は誰かを護ると決意した時こそが『スイッチ』たりえる。
信じられぬことだが、己のためでなく他者のためにしか戦えない人間だということだ。
堂島の攻撃を防いだ時は、ミスティが命の危険に晒されていた。すなわち、彼は誰かを護ると決意した時こそが『スイッチ』たりえる。
信じられぬことだが、己のためでなく他者のためにしか戦えない人間だということだ。
「それにしてもあの男の狼狽えよう...ふふっ」
ミスティは堂島と善の取っ組み合いを眺め、クスクスと愉快気に笑みをこぼす。
「ッ...佐神、くん...!」
堂島は尻餅を着き、それに馬乗りになり善は堂島へと殴打を続ける。
防御すら取らず拳を受け続ける堂島にも構わず、ひたすら振り下ろされる拳。
防御すら取らず拳を受け続ける堂島にも構わず、ひたすら振り下ろされる拳。
(佐神くん...きみは...)
一方的に打ちのめされる肉体。しかし、堂島の脳髄を支配するのは痛みによる危険信号ではなく。
(きみの拳は、こんなにも弱かったか...!?)
拳の威力は堂島の装甲を通じて中にまで響いている筈なのに、痛いと思えない。
ここに連れてこられる直前の戦いでも。
その前の芭藤との戦いの後で受けた拳も。
更にその前、彼が吸血鬼に成りたての、死にかけの身体で放った一撃さえも響いてきたというのに。
ここに連れてこられる直前の戦いでも。
その前の芭藤との戦いの後で受けた拳も。
更にその前、彼が吸血鬼に成りたての、死にかけの身体で放った一撃さえも響いてきたというのに。
今、振るわれ続けている拳はなんだ。まるでそよ風ではないか。
堂島は身体を捩り力づくで善の体勢を崩し、善の背中を蹴り飛ばす。
善の身体は教室から放り出され、堂島はその後を追い教室から飛び出る。
善の身体は教室から放り出され、堂島はその後を追い教室から飛び出る。
(なんだこの手ごたえのなさは...?)
両手足を地に着け、こちらを見上げる善と目が合う。
(なぜそんな怯えたような眼をしている)
彼がいつも戦うときはどうだった。
たとえ四肢を切り刻まれても、圧倒的な実力差を見せつけても、呆れるほどに強いまなざしをしていたじゃないか。
それがどうして、こんなにも弱弱しい目になっている。
まるで見せたくないものを見せてしまった子供のようではなないか。
たとえ四肢を切り刻まれても、圧倒的な実力差を見せつけても、呆れるほどに強いまなざしをしていたじゃないか。
それがどうして、こんなにも弱弱しい目になっている。
まるで見せたくないものを見せてしまった子供のようではなないか。
「ど、堂島...!?」
聞こえてきた声に、善と堂島は同時に振り返る。
視線の先にいたのは、梨花。
道中の会話から堂島という人間のことはある程度窺えたものの、それで全幅の信頼を寄せられるわけではない。
自分には魔法の杖のセットが配られている。
もしも校舎内に沙都子がおりなんらかのトラブルに巻き込まれている場合、堂島を頼るよりも自分の手で救った方が確実で手っ取り早い。
そう考え、彼女は堂島から少し遅れて校舎に足を踏み入れていた。
自分には魔法の杖のセットが配られている。
もしも校舎内に沙都子がおりなんらかのトラブルに巻き込まれている場合、堂島を頼るよりも自分の手で救った方が確実で手っ取り早い。
そう考え、彼女は堂島から少し遅れて校舎に足を踏み入れていた。
善は彼女の姿を認めるなりそちらへととびかかろうとする。
「くっ!」
堂島は咄嗟に善のマントを掴み、地面に押し倒す。
「逃げろ古手くん!いまの彼は何をするかわからない!」
「その声、やっぱりあなたが堂島なの!?」
「ッ、ああそうだ。詳しい話はあとでする。とにかく今はここから―――」
「ガアアアアア!!」
「その声、やっぱりあなたが堂島なの!?」
「ッ、ああそうだ。詳しい話はあとでする。とにかく今はここから―――」
「ガアアアアア!!」
拘束を解こうとする善を堂島は力づくで抑え込む。
「やめろ佐神くん!」
「佐神...彼があんたの言ってた佐神善なの!?」
「そうだ、だが今の彼は正常じゃないんだ!いいから早くここから逃げるんだ!」
「佐神...彼があんたの言ってた佐神善なの!?」
「そうだ、だが今の彼は正常じゃないんだ!いいから早くここから逃げるんだ!」
梨花の口調が今までと違うことにすら気づかないほど必死に堂島は善を拘束する。
だが梨花は逃げなかった。
だが梨花は逃げなかった。
「事情は分からないけれど、今の彼が異常と云うなら...これでどうかしら!?」
梨花は手に持つ杖を振るい善へと魔法をかける。
その光を浴びた善は微かに呻き声を上げたかと思うと、変身体が解け、暴れまわっていたのがウソだったかのように俯き動かなくなる。
その光を浴びた善は微かに呻き声を上げたかと思うと、変身体が解け、暴れまわっていたのがウソだったかのように俯き動かなくなる。
「ふういんの杖。ちゃんと彼にも効いたみたいね」
梨花はいまの善の状態をワザップと似たような状態だと判断した。
それは当たらずも遠からず、といったところで、ミスティに額に埋め込まれた黒針がふういんの対象となり、思考の暴走が一時的とはいえ抑え込まれたのだ。
それは当たらずも遠からず、といったところで、ミスティに額に埋め込まれた黒針がふういんの対象となり、思考の暴走が一時的とはいえ抑え込まれたのだ。
落ち着きを取り戻した善の様子に堂島はホッと胸をなでおろす。
「助かったよ古手くん。その杖はなんなんだい?」
「それよりもあなたたちのことを教えてもらいたいのだけど?」
「ああ、それは...」
「それよりもあなたたちのことを教えてもらいたいのだけど?」
「ああ、それは...」
「吸血鬼(ヴァンパイア)、よねえ。堂島正さぁん」
堂島の代わりに、教室から出てきたミスティが答えを告げる。
「まったく善くんてばぁ、一人だけ知り合いを隠してたなんてなかなかの腹黒ねえ。それとも熱い男同士の友情ってやつかしらあ?」
「...彼に何をした?」
「身体に聞いてあげたのよぉ。こことここでたぁくさん咥えこんでねえ」
「...彼に何をした?」
「身体に聞いてあげたのよぉ。こことここでたぁくさん咥えこんでねえ」
己の下腹部を弄り唇を舌でペロリと舐めながらミスティは言外に伝える。
彼の身体の純潔を奪ったのだと。
彼の身体の純潔を奪ったのだと。
堂島はそんな彼女に殊更に嫌悪を抱くも、しかし思考は冷静に努めて状況を分析する。
こちらはいまの善と梨花の二人を守りながらの戦いを余儀なくされ、一方で相手にはそういう縛りはない。
また、蹴りを受けた時の衝撃から図るにエスデスは恐らく自分と同クラスである上に、未だにミスティの戦闘力も計り知れない。
こちらはいまの善と梨花の二人を守りながらの戦いを余儀なくされ、一方で相手にはそういう縛りはない。
また、蹴りを受けた時の衝撃から図るにエスデスは恐らく自分と同クラスである上に、未だにミスティの戦闘力も計り知れない。
堂島はミスティたちに聞こえないよう梨花に耳打ちをする。
「...佐神くんの容体が気になる。さっきの杖、もう一度頼めるかい。それともほかに逃走に向いているものがあれば...」
「二つあるわ。一つは相手の速度の遅くする杖。もう一つは相手を一定距離吹き飛ばす杖よ」
「...わかった。ならばそれで―――」
「二つあるわ。一つは相手の速度の遅くする杖。もう一つは相手を一定距離吹き飛ばす杖よ」
「...わかった。ならばそれで―――」
「作戦タイムを許した覚えはないわよぉ?」
ミスティの声が割り込むのと同時、エスデスが床を蹴り瞬く間に距離を詰め、氷で足を包み堂島へと蹴撃をかける。
堂島はその飛び蹴りを刀で受け防御。甲高い音が鳴り響き、周囲に風が吹き荒れる。
堂島はその飛び蹴りを刀で受け防御。甲高い音が鳴り響き、周囲に風が吹き荒れる。
「ハハッ、私と力で釣り合うとはな!佐神善といい吸血鬼とやらは私を楽しませてくれる!」
「吸血鬼でもないのにそのパワー、気になるところではあるが」
「吸血鬼でもないのにそのパワー、気になるところではあるが」
堂島がエスデスを抑えている隙をつき、梨花がエスデスへと向けて杖を振るう。
「いまは道を開けてもらおうか!」
梨花が振るったのは吹き飛ばしの杖。その効果の前には肉体の強さなど意味を為さず。
エスデスは遥か後方―――ミスティのもとへと吹き飛ばされた。
エスデスは遥か後方―――ミスティのもとへと吹き飛ばされた。
「あらぁ?」
突如、戻ってきたエスデスに目を瞬かせるミスティ。
その隙を突き、梨花はボミオスの杖をミスティへと振るう。
ミスティは為すすべなくその光を受け、行動がゆっくりになる。
その隙を突き、梨花はボミオスの杖をミスティへと振るう。
ミスティは為すすべなくその光を受け、行動がゆっくりになる。
「こおぉぉれええぇぇはあぁぁぁ?」
「なるほど、これは強力だな」
「あまり過信はできないわ。あと何回使えるかもわからないし...私としてはこの隙に逃げたいのだけれど」
「...そうだな」
「なるほど、これは強力だな」
「あまり過信はできないわ。あと何回使えるかもわからないし...私としてはこの隙に逃げたいのだけれど」
「...そうだな」
ミスティを護るように前に進み出るエスデス。
動けないミスティ。
この両者と背後の梨花と善の存在を観て最適解を考える。
動けないミスティ。
この両者と背後の梨花と善の存在を観て最適解を考える。
「ほう、そう来るか」
堂島の選択肢を目にしたエスデスは感嘆を漏らす。
彼の選択肢は梨花と善を連れての逃走。
彼の選択肢は梨花と善を連れての逃走。
「確かにご主人様がこの有様では私も離れられんし、善の様子を診る以上は私の相手をしないのは得策だな」
仮にエスデスがこの場を離れれば、堂島は梨花を向かわせミスティを殺すこともできる。
堂島たちが手を下さずとも、自分が離れた隙を突き何者かがここに訪れればミスティは殺されるだろう。
となれば、エスデスはここで待機する他ないだろう。
堂島たちが手を下さずとも、自分が離れた隙を突き何者かがここに訪れればミスティは殺されるだろう。
となれば、エスデスはここで待機する他ないだろう。
ならば、と息を胸いっぱいに吸い、校舎を出ていく堂島たちの背に向けて声として吐き出す。
「獲物はそっちに逃げたぞ父さん!!」
エスデスの叫びに合わせたかのように、堂島達の眼前に巨大な影が降り立つ。
「俺の家族を困らせるナ"ア"ア"ア"ア"ア"!!」
雄たけびと共に現れた累の父が、砂塵をまき散らし堂島達の元へと姿を現す。
(まだ手駒がいたのか!)
すぐに剣を振り累の父を斬ろうとする堂島だが、その背後から雨あられと氷の粒が降り注ぐ。
「クソッ!」
彼一人であれば、この程度では身を護る装甲を貫けないため無視して累の父に攻撃を仕掛けることができる。
しかし、いまは人間である梨花と衰弱している善を守る立場にある。
故に、堂島は攻撃を中断し二人の防御に回らざるを得なかった。
しかし、いまは人間である梨花と衰弱している善を守る立場にある。
故に、堂島は攻撃を中断し二人の防御に回らざるを得なかった。
「ガア"ア"ア"ア"ア"ア"ア!」
累の父は降り注ぐあられにも怯まず堂島へと拳を振り上げる。
鬼である彼はこの程度の傷であればたちまちに自己再生できるため障害になりえないのだ。
鬼である彼はこの程度の傷であればたちまちに自己再生できるため障害になりえないのだ。
拳が堂島へと迫るその瞬間、梨花のふきとばしの杖が光を放ち累の父を後方へと吹き飛ばす。
「堂島!佐神にかけたふういんは長持ちはしないわ!いったん近くへ身を潜めて!」
「近くと言われてもな...クソッ、仕方ない!」
「近くと言われてもな...クソッ、仕方ない!」
一旦、あられが止んだ隙を突き、キョロキョロと周囲を見回し、舌打ちと共に剣を地面にたたきつけ砂塵を巻き上げる。
再び降り注ぐあられが砂塵をかき消した時にはすでに堂島たちの姿はそこにはなかった。
再び降り注ぐあられが砂塵をかき消した時にはすでに堂島たちの姿はそこにはなかった。
「どこ行ったア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!」
「ふっ、あそこから逃げ延びるか...まあ、手負いの善がいるのだ。そう遠くへは行っておるまい。まったくどこへ身を隠したのやら」
「ふっ、あそこから逃げ延びるか...まあ、手負いの善がいるのだ。そう遠くへは行っておるまい。まったくどこへ身を隠したのやら」
困惑する累の父の叫びを聞いたエスデスは不敵な笑みを浮かべ、周囲の探索を累の父に任せると、自分は動けないミスティを守るべく彼女の傍に立ち股間のラインに合わせてV字に両腕を引きながら周囲を警戒するのだった。
☆
「...このすぐ上にあいつらがいると思うと生きた心地がしないわね」
「だが彼女も主を護るためにそう下手な動きはとらないだろう。...下手に騒がなければ大丈夫なはずだ」
「だが彼女も主を護るためにそう下手な動きはとらないだろう。...下手に騒がなければ大丈夫なはずだ」
学校の一階、その一室。
堂島達はあろうことかエスデスたちの真下の部屋に隠れていた。
堂島達はあろうことかエスデスたちの真下の部屋に隠れていた。
外は累の父が見回っており、エスデスの氷による追撃もあることを考えれば校内へと逃げるしか選択肢はなかった。
「しかし古手くん。さっきまでとは随分―――」
「堂島。私のことは後で教えてあげる。いまは彼に時間を割きなさい」
「堂島。私のことは後で教えてあげる。いまは彼に時間を割きなさい」
堂島はこの校舎に来るまでの年相応の幼さを見せる梨花と目の前にいる梨花がまるで別人のように豹変していることが気にかかった。
しかし、いまは何をおいても善の容体を確認するのが先である。
堂島は、床に座り己の目を抑え俯く善に、片足を地に着けて目線を合わせて呼びかける。
しかし、いまは何をおいても善の容体を確認するのが先である。
堂島は、床に座り己の目を抑え俯く善に、片足を地に着けて目線を合わせて呼びかける。
「佐神くん。いったいここでなにがあったんだい?」
「......」
「......」
掌を目から離し、顔を上げた善の瞳を見た堂島は息を呑んだ。
彼が10歳のころ、手術の成功率を伝えた時の目に戻っていた。
全てに絶望し、希望を灯さない薄暗い目に。
彼が10歳のころ、手術の成功率を伝えた時の目に戻っていた。
全てに絶望し、希望を灯さない薄暗い目に。
その痛ましさを表情に浮かべるのを堪え、宥めるように堂島は言い聞かせる。
まるで、医者が子供の患者に言葉を選ぶ時のように。なるべく笑顔で努めて、優しい言葉をかけながら。
まるで、医者が子供の患者に言葉を選ぶ時のように。なるべく笑顔で努めて、優しい言葉をかけながら。
「安心しなさい。ここには私たちしかいない。何を聞かされても私は受け止めるから」
「ぁ...」
「私は医者だよ?きみが想像できないほどの経歴の患者を診察したことはいくらでもある。だから隠す必要はないんだよ」
「ぁ...」
「私は医者だよ?きみが想像できないほどの経歴の患者を診察したことはいくらでもある。だから隠す必要はないんだよ」
きっと、よく人を観ることができる善には自分の気遣いなど見透かされている。
それを自覚しながらも、堂島は善への接し方を崩さない。
いまの善にはそれがどうしようもなく温かくて、善は子供のように涙を流しながらもこれまでの顛末を語る。
それを自覚しながらも、堂島は善への接し方を崩さない。
いまの善にはそれがどうしようもなく温かくて、善は子供のように涙を流しながらもこれまでの顛末を語る。
学校から逃げてきた沙都子に、叔父を助けてほしいと頼まれてここまできたこと。
鉄平を助ける為に、エスデスと戦ったこと。
彼女にどうにか勝利を収め、力を使い果たしたところをミスティたちにエスデス共々捕らえられたこと。
そして―――頭部と股間に黒針を撃ち込まれ、洗脳された薫と交わらされたこと。
鉄平を助ける為に、エスデスと戦ったこと。
彼女にどうにか勝利を収め、力を使い果たしたところをミスティたちにエスデス共々捕らえられたこと。
そして―――頭部と股間に黒針を撃ち込まれ、洗脳された薫と交わらされたこと。
(あの女―――っ!)
ギリ、と梨花の歯が食いしばられる。
梨花の予想通りに沙都子はこの学校を訪れていた。
その沙都子がまさに命の危機に晒されていたとなれば怒りを抱くのも当然である。
あの鉄平が沙都子を助けていた、沙都子もまた鉄平を助けようとしていたなど意味が解らないところもあったが、目下梨花の怒りはエスデスへと向けられている。
エスデスを洗脳し、あのような醜態を晒させているミスティにはお礼を言いたいくらいだ。
尤も、沙都子を助けてくれた善にまで同じような仕打ちをしている時点で好感はとても抱けないのだが。
梨花の予想通りに沙都子はこの学校を訪れていた。
その沙都子がまさに命の危機に晒されていたとなれば怒りを抱くのも当然である。
あの鉄平が沙都子を助けていた、沙都子もまた鉄平を助けようとしていたなど意味が解らないところもあったが、目下梨花の怒りはエスデスへと向けられている。
エスデスを洗脳し、あのような醜態を晒させているミスティにはお礼を言いたいくらいだ。
尤も、沙都子を助けてくれた善にまで同じような仕打ちをしている時点で好感はとても抱けないのだが。
「...よく話してくれたね」
善の肩に手を乗せ宥める。
「きみはこのまま隠れていなさい。あとは私がなんとかするから」
善の話を聞いたとき、堂島はほっとしていた。
彼はなにも変わっちゃいなかった。
誰かを護るために戦って。誰かを護るために傷ついて。
ここで行われていた淫行も、洗脳され自意識を奪われていたからにすぎない。
精神分析に則っても法律に則っても、彼が悪いと判断する者はいないだろう。
そんな者がいれば、その者こそが人の痛みが解らぬ悪党だ。
彼はなにも変わっちゃいなかった。
誰かを護るために戦って。誰かを護るために傷ついて。
ここで行われていた淫行も、洗脳され自意識を奪われていたからにすぎない。
精神分析に則っても法律に則っても、彼が悪いと判断する者はいないだろう。
そんな者がいれば、その者こそが人の痛みが解らぬ悪党だ。
このまま彼が戦いから降りてくれればいいのだが、と内心で思いつつ剣を握りしめ、ミスティたちのもとへと向かおうとする堂島の腕を善は掴む。
瞬間、堂島の背筋に凍りつくような悪寒が走る。
エスデスによる襲撃ではない。
そんな外的要因ではなく、医者としての経験値が訴える内的要因。
そんな外的要因ではなく、医者としての経験値が訴える内的要因。
「なにか不安があるかい?大丈夫、私は医者だ。どんな病気だって治してみせるさ」
悪寒から目を背けるように、そんなかつて現実に捨てられた子供じみた理想さえも口を突いて出る。
「困難だったきみの手術を成功させ命を救ったのは私だぞ?今度もきっと上手くいくさ」
かつての功績を引っ張り出す、という普段やらない行為にすら縋るように口を廻す。
それでも悪寒は消えない。和らぐどころか増していく警鐘に、堂島はひたすら綺麗ごとを口にして誤魔化し続ける。
それでも悪寒は消えない。和らぐどころか増していく警鐘に、堂島はひたすら綺麗ごとを口にして誤魔化し続ける。
「だから―――」
「先生」
「先生」
それでも。
「お願いです」
現実は逃がしてくれない。堂島の脳内で「止めろ」「ソレを言うな」といくら訴えかけても、時間が止まる訳でもなければ現実に影響するわけでもない。
「僕を殺してください」
彼の最も恐れていた言葉が、善の口から零れ落ちた。
「―――――ッ」
バカなことを言うな。こんなことで絶望するな。きみには帰るべき場所があるだろう。
そんな子供でも分かる綺麗ごとが口を衝いて出そうになる。
けれど、出かかった言葉は喉元に詰まり出されるのを拒み続ける。
そんな子供でも分かる綺麗ごとが口を衝いて出そうになる。
けれど、出かかった言葉は喉元に詰まり出されるのを拒み続ける。
「わかるんです。たぶんあと少しで僕は理性を失い、梨花ちゃんを薫ちゃんのように襲い、ドミノや明、沙都子ちゃんにも同じようなことをしてしまう。ミスティに彼女たちを捧げてしまう...!」
善の瞳は逃がしてくれない。現実を見ろと。
ふういんの杖には使用回数の制限と制限時間があり、いつまでも善に使えるわけではない。
その時間も直ぐそこに迫っている。
果たして、善のこの状態はミスティを脅す、あるいは殺すことで解除できるのか?
或いは、殺し合いが終わるまでに治療することはできるのか?
いくらなんでも可能性が低すぎる。
拘束しようにも、いざとなれば手足を引きちぎって再生できる善には効果が薄い。
そんな微かな希望に縋り、もしも善が梨花やここにいない者たちを手にかければ、最も苦しむのは誰だ?
その時間も直ぐそこに迫っている。
果たして、善のこの状態はミスティを脅す、あるいは殺すことで解除できるのか?
或いは、殺し合いが終わるまでに治療することはできるのか?
いくらなんでも可能性が低すぎる。
拘束しようにも、いざとなれば手足を引きちぎって再生できる善には効果が薄い。
そんな微かな希望に縋り、もしも善が梨花やここにいない者たちを手にかければ、最も苦しむのは誰だ?
堂島は歯を食いしばりギュッと目を瞑る。
自分が救った命が誰かを傷つけた経験はある。
救った命がほどなくして不幸な事故で亡くなるなんて猶更だ。
けれど。
自分が救った命を、誰かを助ける為に戦い続ける優しい命をこの手で断った経験などない。あるはずもない。
救った命がほどなくして不幸な事故で亡くなるなんて猶更だ。
けれど。
自分が救った命を、誰かを助ける為に戦い続ける優しい命をこの手で断った経験などない。あるはずもない。
「先生」
善の縋りつくような目に耐えかねて。やがて堂島は決意と共に剣を強く握りしめ、目を開いた。
「...佐神くん。最後に一つ聞かせてくれ」
☆
「まったくヒドイ目に遭ったわぁ...ん、ありがと」
身体の自由を取り戻したミスティはエスデスに肩を叩かせながら階段を下りていく。
堂島達が逃げた先は凡そ見当はついていた。それでもエスデスを向かわせなかったのは、エスデスが彼らのもとへ向かった隙を突かれるのを防ぐためである。
堂島達が逃げた先は凡そ見当はついていた。それでもエスデスを向かわせなかったのは、エスデスが彼らのもとへ向かった隙を突かれるのを防ぐためである。
「なっ、なあミスティ様。善を見つけたら...」
電撃蟲を取られた薫がもじもじとミスティに窺いを立てる。
「ええ。蟲ちゃんも善くんのオチンポも好きなだけ味合わせてあげる。当然、堂島さんのオチンポもね」
「ほっ、ほんとか!?ミスティ様、俺頑張るよ!」
「ほっ、ほんとか!?ミスティ様、俺頑張るよ!」
薫はミスティとの約束を取り付けた途端、一目散に駆けていく。
そんな彼女をミスティは止めなかった。薫は斥候兵の役割も兼ねていたからだ。
そんな彼女をミスティは止めなかった。薫は斥候兵の役割も兼ねていたからだ。
「善―――!!どこだ善――――!!」
薫は善たちの潜んでいると思しき教室の扉を次々と開けていく。
ほどなくして目標対象は見つかった。
「ここかあ!善、またザーメンたくさんくれえ!今度はお前も一緒にビリビリやって...」
薫の目に飛び込んできたのは、床や天井の至る箇所を染め上げる赤、赤、赤。
充満する鉄っぽい臭い。飛び散った何かの肉片。
その中で彼は、堂島正は立ち尽くしていた。
その純白だった装甲をどす黒い赤に染め上げて。
下半身を失い、脳髄を露出させ俯く善を見下ろしながら。
充満する鉄っぽい臭い。飛び散った何かの肉片。
その中で彼は、堂島正は立ち尽くしていた。
その純白だった装甲をどす黒い赤に染め上げて。
下半身を失い、脳髄を露出させ俯く善を見下ろしながら。
「あっ、あっ、お前ぇ!なにしてんだよ!」
薫は殊更に慄き怒号を上げる。
善の下半身がないということはオチンポが存在しないということ。
即ち善のザーメンはもう二度と手に入らないということだ。
善の下半身がないということはオチンポが存在しないということ。
即ち善のザーメンはもう二度と手に入らないということだ。
「返せよ!善のザーメン返せよぉ!でなけりゃあお前のザーメン寄越せえええええ!!!」
鬼のような形相と共に叫びをあげ堂島へと襲い掛かる薫。
堂島はそんな彼女を羽虫の如く冷めた目で見つめながら、その頭部を剣の柄で殴打し血だまりに沈めた。
堂島はそんな彼女を羽虫の如く冷めた目で見つめながら、その頭部を剣の柄で殴打し血だまりに沈めた。
「ぎゃぶっ」
奇声を上げ気絶する薫。
ほどなくして遅れてやってきたミスティが惨々たる光景に目を見開く。
ほどなくして遅れてやってきたミスティが惨々たる光景に目を見開く。
「酷い有様...残酷なことするわねえ。善くんはあなたの名前を私に教えないほどに慕っていたというのに」
「私もこんな形で切ることになるとは思わなかったよ。だが彼きっての頼みでね。このまま仲間たちを手にかけたくない、正気のうちに殺してくれというね」
「その割には悪趣味な斬り方をするのねえ。それともぉ、そう言って私の油断を誘って、善くんが逃げられる隙を伺ってるのかしらぁ?」
「私もこんな形で切ることになるとは思わなかったよ。だが彼きっての頼みでね。このまま仲間たちを手にかけたくない、正気のうちに殺してくれというね」
「その割には悪趣味な斬り方をするのねえ。それともぉ、そう言って私の油断を誘って、善くんが逃げられる隙を伺ってるのかしらぁ?」
堂島のこめかみが仮面の奥でピクリと動く。
「うふふ。善くんが教えてくれたのよぉ。『遺灰物(クレメイン)』って心臓部分を潰されない限り、吸血鬼は死なないって」
「......」
「図星でしょう?でもね、無駄なの。私の黒針は時間経過なんかで解けはしない。私が改めて改造しなければ善くんは永遠にザーメンタンクのままなのよぉ。残念でしたぁ」
「......」
「図星でしょう?でもね、無駄なの。私の黒針は時間経過なんかで解けはしない。私が改めて改造しなければ善くんは永遠にザーメンタンクのままなのよぉ。残念でしたぁ」
ミスティはクスクスと笑う。そんな彼女に堂島は怒りや焦りを露わにするでもなく。
「ハッハッハッ」
嗤った。仮面の下からでもわかるほどにミスティを虚仮にするように。
「親玉ぶっていても所詮は見た目通りのお子様だな」
「...どういう意味かしらぁ」
「佐神くんはもうすぐ死ぬよ。そうなるように斬ったからね」
「だから、遺灰物が無事な限りは...」
「彼の言葉が吸血鬼の全てだとなぜ解る?」
「...どういう意味かしらぁ」
「佐神くんはもうすぐ死ぬよ。そうなるように斬ったからね」
「だから、遺灰物が無事な限りは...」
「彼の言葉が吸血鬼の全てだとなぜ解る?」
今度はミスティのこめかみがピクリと動いた。
「情報収集は複数人と照らし合わせなければ正確性は増さない。1人にいくら喋らせたところで情報の真偽を確かめようがないからね」
「...それでも自分が死ぬルールくらいは間違えようがないでしょう」
「遺灰物を壊されたら死ぬ。確かにそれは間違いない。じゃあ他に死ぬルールが無いとでも?彼のような人を甚振るのを嫌う人間が、そもそも吸血鬼としては比較的幼い彼が、人体実験を介したルールまでも把握していると思うのかい?」
「まるで自分が経験のあるような言い方ねぇ。薫ちゃんすら殺さなかった甘い貴方がそんなこと」
「したさ。佐神くんが軽蔑するくらいにはね」
「...それでも自分が死ぬルールくらいは間違えようがないでしょう」
「遺灰物を壊されたら死ぬ。確かにそれは間違いない。じゃあ他に死ぬルールが無いとでも?彼のような人を甚振るのを嫌う人間が、そもそも吸血鬼としては比較的幼い彼が、人体実験を介したルールまでも把握していると思うのかい?」
「まるで自分が経験のあるような言い方ねぇ。薫ちゃんすら殺さなかった甘い貴方がそんなこと」
「したさ。佐神くんが軽蔑するくらいにはね」
堂島はあっけらかんと言い放つ。
「私は医者だ。その経験を吸血鬼の戦いに活かすためになんでも試したさ。どの程度刻めば再生限界は訪れるのか。
訪れた後どの程度で死ぬのか、死なないのか。遺灰物の破壊以外に殺せる術はないのか。その他にもいくらでもね。
結果、私が見つけたのはここさ」
訪れた後どの程度で死ぬのか、死なないのか。遺灰物の破壊以外に殺せる術はないのか。その他にもいくらでもね。
結果、私が見つけたのはここさ」
堂島はトントン、と己の頭部を指でたたく。
「脳を失った哺乳類は例外なく死に至る。それは再生限界が訪れた吸血鬼も同じさ。だから切り刻んだ」
「...それでも、彼を早く楽にしてあげない理由がわからないわ」
「...それでも、彼を早く楽にしてあげない理由がわからないわ」
話からして堂島は善に恨みつらみがないのはミスティにもわかる。
だからこそ謎だった。
善の命に見切りをつけたなら、わざわざ苦しませるような真似をして、早く楽にしてやらないことが。
だからこそ謎だった。
善の命に見切りをつけたなら、わざわざ苦しませるような真似をして、早く楽にしてやらないことが。
「彼の最後の頼みさ。自分が死ぬ前に病巣(きみたち)を切除してほしい、とね」
ぽたり、ぽたり。
剣を握る堂島の掌から血が滴り落ちる。
―――それは、堂島正の『悪』への狂気じみた憎悪の証。
堂島が床を強く踏み込むのと同時、エスデスはミスティを護る騎士のように立ちふさがった。
その背後で。
「残念ね...おとなしくしてたら二人仲良く快楽の奴隷にしてあげたのに」
ミスティは妖艶に笑う。その中指に嵌められた指輪を見せつけながら。