第一回放送 ◆LuuKRM2PEg
現在時刻、午前六時。
漆黒の闇に覆われていた殺し合いの舞台となった孤島に、ようやく日の光が差し込んできた。あれだけ煌いていた星達の光も太陽の前では飲み込まれるしかなく、空の色がゆっくりと青で染まっていく。
冷たい空気は清々しくなっていき、呼吸をする全ての人間に気持ちよさを感じさせるかもしれない。しかし、この世界はそんな優しい世界ではなかった。
それを象徴するかのように、全てのエリアの上空に映像が映し出される。それらの映像は全て立体的で、所謂ホログラフィーと呼ばれる三次元映像だった。
「ご機嫌よう、参加者の諸君。この度は六時間という長きに渡る時間をよく生き残ってくれた。それについてはおめでとうと言っておく……おっと申し遅れた、私の名はサラマンダー。訳あって、この企画の協力者を務めさせて貰っている。以後、よろしく」
映像に映し出されている背丈の高い男の声は首輪から発せられている。そのおかげで、例え放送を行っている男の姿が見えなくとも内容だけは把握出来た。
炎のように赤い髪はウェーブがかかっていて、右目だけは白い仮面のような物に覆われている。黒いシルクハットと仕立てのいいスーツ、それに胸元に飾られた宝石のような緑色のブローチからは、紳士という雰囲気を醸し出していた。
その男、サラマンダーは不敵な笑みを浮かべながら一礼し、そのまま言葉を続ける。
「さて、この島に集められた66人で行う生き残りを賭けた戦いを、君達はどう乗り越えただろうか? これより、
オープニングの際に
加頭順が予め告げた放送の時間に入る。
君達は分かっているかもしれないが、これから呼ばれるのは戦いの勝敗を分ける禁止エリアだけでなく、諸君らの大切な知人も含まれているかもしれないから心して聞いてくれ。
聞きたくなければそれでも構わないが、その結果どうなろうとも我々は一切の責任を負わないから、そのつもりでいて欲しい」
そうして、サラマンダーによって呼ばれていく。
この殺し合いに集められて、無情にも生き残る事が出来なかった者達の名前が。
やや大げさ気味に両目を見開いたサラマンダーの言葉は続く。
「それから続いて、禁止エリアを発表しよう。念の為に行っておくが、メモに残しておいた方がいい。うっかり聞き逃して、それが原因で負けてしまっては目も当てられないからな……
それでは、発表する。七時に【G-6】、九時に【C-3】、十一時に【D-9】……以上、三つだ。どうか、気を付けたまえよ」
それから数秒の間を空けたサラマンダーは、不敵な笑みをそのままに最後の言葉を告げた。
「そして、最後に君達へのちょっとしたボーナスがある事を教えてあげよう。もしも君達が勝ち残るのならば、午前十一時からこの会場のとある施設に君達の移動に役立つある物が用意される。
それさえあれば、遠く離れた施設まで一瞬で着けるだろう。何が用意されるのかは、見つけるまでのお楽しみだ……それでは参加者の諸君、健闘を祈る」
そうして、サラマンダーの姿はこの世界より消滅する。
殺し合いの第二幕は、こうして始まった。
◆
一切の光が差し込んでこない暗闇の中を掻き分けるように、
サラマンダー男爵は歩いている。長きに渡る間、キュアアンジェによって封印されたからこのような場所は慣れていると思ったが、この闇は見ているだけで気分が悪くなった。
砂漠の使途の王、デューンが持っていた威圧感を遥かに上回っており、ここにいては一秒先の命すらも保障されないと嫌でも思い知らされてしまう。尤も、逃げ出す事なんて出来るわけがないが。
やがて歩を進めるサラマンダー男爵の前に、この殺し合いの案内人である加頭順がその姿を現す。
「ご苦労様です、サラマンダー男爵」
「加頭君……こういう事は慣れてないので少し不安だったが、何か不備があったかね?」
「いえ、上出来ですよ。我々が指定する条件を全て満たしてくれたのですから」
順は労いの言葉をかけてくるが、その表情は能面のように感情が感じられないので胡散臭いことこの上ない。それどころか、あのデューンが嫌う『心』という物が欠片も感じられなかった。
「脱落者、禁止エリア、そしてボーナスの正体を隠す……これで充分です」
「そのボーナスとやらで、反撃される恐れはないのかな?」
「いえ、あの首輪がある限りは不可能ですよ……ボーナスの前で役割以外の何を願おうが」
ボーナスとは、サラマンダー男爵の生きる世界とはまた別の世界に存在する、時空魔法陣という物らしい。詳しいシステムは知らないが、その上に乗れば遠く離れた場所まで一瞬で跳べるようだ。
しかしあくまでも翠屋と警察署間の移動だけであって特定のエリアに飛ぶ事は出来ないのに加えて、二人以上の参加者を仕留めた者でなければ使えないようだ。しかも、一度誰かが使ってしまってはその時点で消滅してしまうと聞いている。
それの一体どこがボーナスなのかとサラマンダー男爵は思ったが、それを問い詰める気にはなれなかった。
「それではサラマンダー男爵、引き続きエクストリームメモリの監視をお願いします。私はこの辺りで失礼させて頂きますので」
そう言い残すと、用件は全て伝え終えたからなのか順は背中を向けて闇の中に溶け込むように消えていく。彼の動作がまるで血も涙もないロボットのように思えてしまい、サラマンダー男爵の警戒心が更に強くなった。
無論、それを表に出すつもりはない。向こうが最低限のコミュニケーションすら取る気がないのなら、こちらも積極的に関わるつもりはなかった。今は順から頼まれた、園咲来人という少年が閉じ込められたエクストリームメモリの監視を続けるしかない。
気に入らない連中ではあるが、それと同時にあまりにも強大でおぞましすぎる。だからサラマンダー男爵は順の言葉に従わざるを得なかった。
一体何時から、私はこんなに不甲斐なくなってしまったのか……自嘲するように溜息を吐きながら闇の中を進むサラマンダー男爵は、その耳で足音を察知する。
振り向いてみると、薄汚れた白衣を身に纏った眼鏡の男が不敵な笑みを浮かべていた。箒のように逆立った金髪は闇の中では酷く浮いているが、決して輝いてはいない。
慇懃無礼という言葉が似合う笑顔を向ける男、
ニードルの前でサラマンダー男爵も同じような表情を浮かべた。
「これはこれはニードル君、私に何か用でもあるのかな?」
「クク……サラマンダー男爵、貴方も中々酷いお方だ。この状況にいても、まだそのような態度でいられるとは」
「何?」
「キュアムーンライト……
月影ゆりと言いましたっけ? 彼女はとても面白い事をしてくれましたね。仮面ライダーと同じ正義の使者でありながら仲間を殺すとは、素敵な余興ですよ」
「……ッ」
その名を出された事で、サラマンダー男爵の表情はほんの少しだけ歪む。その瞬間、彼は自身の迂闊さに後悔してしまった。
こうして感情をむき出しにしてしまったせいで、ニードルの笑みが余計に邪に染まってしまったからだ。
「おや、貴方ともあろうお方がどうなされたのです? まさか、彼女がキュアマリンを殺した現実を未だに受け入れてないのでしょうか?」
「……それが彼女の意思ならば、私は何も言わないさ。参加者である彼女達がどうしようが、ゲームマスターである我々は基本的に干渉しないのが、マナーではないのかな?」
「それもそうですね。いやはや、これは失敬」
「それよりも、君こそいいのかな? タイガーロイド……いや、三影英介という男は君の仲間だったと聞いたが」
「あんなガチガチの思想家、私とて愛想を尽かしています。むしろ、
一文字隼人には感謝しなければなりませんよ……いい厄介払いをしてくれたのですから」
「そうか。ならば君は私に負けないくらいの薄情者だね」
「お褒め頂き、光栄に存じ上げます」
サラマンダー男爵が何を言っても、ニードルが動じる気配はない。
むしろ、サラマンダー男爵の反応を楽しんでいるかのように、ニードルはニタニタと吐き気を催すような笑顔をずっと向けていた。
「それにしても、まさかあの本郷猛も早々と敗れ去るとは……いやはや、この戦いは私の予想を遥かに超えている事態ばかり起こりますよ。まあ、あのゼクロスすらも凌駕しかねない参加者がこれだけ集まったのですから、今更驚いても仕方がありませんが……!」
一言一言が紡がれる度に、目の前の怪人に対する嫌悪感が募っていく。
加頭順とはまた違うベクトルで不愉快極まりない男で、できるならばこの場で捻り潰してやりたい。しかしここで騒ぎを起こすなんて愚か極まりないし、何よりも無駄な争いはサラマンダーの主義に反する。
「もういいかな? 私はそろそろエクストリームメモリの監視に戻らなければならないからね」
「これは失敬。余計な時間をかけさせたようですね……ただ、最後にもう一つだけ」
「まだ何かあるのかな?」
「あまり妙な事は考えない方がいいですよ。我々を束ねているあのお方の恐ろしさは、貴方自身がご存じでしょうから」
それだけを言い残すと、ニードルは再び闇の中へと消えていった。
何を今更、なんてサラマンダー男爵は口にするつもりはない。ここで余計な事を言ってはニードルに付き合わされて無駄に時間を浪費するだけでなく、気分が更に悪くなってしまう。そうなるならここで別れた方が遥かにマシだった。
やはりデューンや順、それにニードルのような内面の読めない輩はどうしても好きになれないとサラマンダー男爵は思う。何故、BADANという組織を裏切って主催者に加担したのか。そしてその果てに、ニードルは何を得ようと考えているのか。
だが、そんな事を気にしても仕方がないと思ったサラマンダー男爵は、エクストリームメモリが封印されている場所に歩を進める。
「それにしても、まさか君が砂漠の使徒と似たような道を進むとはね……驚いたよ、キュアムーンライト」
かつて必死にサラマンダー男爵を説得したプリキュアの一人、月影ゆりが褒美目当てにこの殺し合いに乗ってしまい、来海えりかの命を奪った。その直前に起こったデューンとの戦いを考えればそれも仕方がないかもしれないが、サラマンダー男爵を驚かせるには充分だった。
そして、その事実を知ったサラマンダー男爵の心に、得体の知れないざわめきが生まれている。失望か、怒りか、恨みか、悲しみか……その正体は、彼自身にもわかっていない。
ただ、確かな事は一つだけ。キュアムーンライトがキュアマリンを殺したという事実を受け入れる事を、サラマンダー男爵の心は抵抗していた。無論、それに意味などないのは彼自身承知しているが。
「他のプリキュア達……それにルー・ガルーが今の君を知ったら、さぞ嘆くだろうな」
そう呟くサラマンダー男爵の顔は、何処か寂しげな雰囲気を放っていた。
【全体備考】
※主催側には【サラマンダー男爵@ハートキャッチプリキュア!】及び【ニードル@仮面ライダーSPIRITS】がいます。
※サラマンダー男爵の参戦時期は劇場版終了後で、ニードルの参戦時期は少なくともBADAN脱走後からです。
【ボーナスについて】
※午前十一時より、翠屋と警察署付近に【時空魔法陣@仮面ライダーSPIRITS】が設置されます。具体的な場所は、後続の書き手さんにお任せします。
※時空魔法陣で移動できるのはあくまでも翠屋から警察署間であって、首輪がある限り施設のない特定のエリアに移動する事は出来ません。また、一度誰かが使用したらその時点で消滅します。
※時空魔法陣が使用できるのは他参加者を二人以上殺害した参加者に限られます。
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最終更新:2013年03月15日 00:00