第二回放送(裏) ◆gry038wOvE
薄暗い闇の中で、安楽椅子にもたれながらゆらゆらと揺れている男がいた。
欧州貴族風の出で立ちに、よく見ると周囲は多くの資料で埋め尽くされている書斎のような場所であったため、一見するとここがヨーロッパかどこかなのかと勘違いするような光景であった。
実を言うと、ここがどこなのかはまだ判明しない。
そもそも、我々の世界の常識で見て良い場所なのか……と考えても悩まされる場所だ。我々の住まう地球のどこかなのか、
あるいは宇宙の果てにたどり着いた時、またそこにある大量の地球のどこかなのか。
それとも、ここは星ですらない次元の狭間なのか。
もしかすれば本当に欧州のどこかなのか。
一見するとありえない例も挙げられたが、それを否定し切れる材料はない。
とにかく、そのどこだかもわからない場所で、その男は、既に殺し合いから十二時間が経過しようというのに、妙に落ち着いた面持で本を読んでいた。
紳士の立ち振る舞いか、あるいは数百年生きた者の余裕か、彼は「その出来事」の後でも、いやに落ち着いて見えた。
(キュアムーンライト……)
キュアマリンに続き、また、敵が一人死んだ。
決して、喜ばしいことではなかった。
そう、彼────
サラマンダー男爵にとっては、キュアムーンライト・
月影ゆりの死は決して喜ばしいことではなかった。
四百年という年月、己の存在を探し続けたサラマンダー男爵にとって、僅か数時間の出会いでしかなかった現代のプリキュアは、本来大して目に映るものではなかったはずだ。
しかし、どうやらあの戦いはサラマンダー男爵にとって、特別なひと時だったらしい。
キュアムーンライトが殺し合いに乗ったと知った時も、彼女がこうして“妹”を庇って死んだと知った時も、彼は心の中の動揺を抑えることができなかった。
落ち着いているようで、決して落ち着いてはいないのだ。
本人は、平然と本を読んでいるように見えても、その中に出てくる言葉を読み流しており、ほとんど頭に入ってはいなかった。
そのうち、自分が管理している機械の方に目を向け始めた。
「お前はいいよなぁ……」
机上の鳥籠の中で羽ばたくエクストリームメモリを見つめながら、サラマンダー男爵は言う。この籠は、特殊性でエクストリームメモリは決してこの籠から逃れられない。
この中に更に、
フィリップという少年が存在し、仮面ライダーダブルの変身を助けているというのがまた面白い。この薄暗い部屋の中に籠があり、籠の中にエクストリームメモリがあり、エクストリームメモリの中には人がいる。脱しても脱しても、その先には檻があり、決して逃れられない。
……だが、それでも抵抗できるだけマシに見えた。
とにかく、この籠の中にいるエクストリームメモリやフィリップには、いま明確な目標があり、それを果たそうとしている。
二人には、
左翔太郎を助けたいという気持ちがあり、そのために必死に羽ばたくことを許されている。フィリップに至っては、変身時の協力して仲間を助けることまでも許されているのだ。
サラマンダー男爵にはゲームに干渉することは勿論、ゲームに干渉しようとすることさえできず、ゲームが終わるのを待っている。
こうして、「エクストリームメモリが殺し合いの会場にあってはならない」という
ルールを管理するのが彼の仕事であり、はっきり言えば殺し合いを前にほぼ何もできないのである。
別に殺し合いを止めたいとは思っていない。知らないところで、好きにやればいい。
ただ、できることならプリキュアとの決着をもっとマシな形でつけたいというのがサラマンダー男爵の想いであった。
(ま、無理か……。状況が状況だからな)
彼がこうして、ゲームの主催者に協力するのは、また特別な事情があるからであった。
退屈そうに、資料を眺め、安楽椅子に揺られる。たまに、こうしてエクストリームメモリを見つめ黄昏る。
時には、他の仲間に呼ばれ、先ほどの放送のように駆り出され、半ば機械的に殺し合いの扇動をする。与えられた通りの台本をおおまかに記憶し、その通りに読み上げるだけだ。
「おい、仕事だ」
そして、その仕事は不意に訪れる場合がある。今回がそれだ。
ドアノブが開けられ、闇の向こうから、暗い声色の女性の声が聞こえる。
この一室に、ノックもなく入ってくる女性……といえば、サラマンダー男爵の中では決まっていた。
主催陣と参加者に関する資料もここにあり、その中でも、男性の部屋に容赦なく入ってくるのは彼女くらいしかいまい。
なんと呼べばいいだろうか。
一応、彼女の名前は
ラ・バルバ・デ、と云う。殺戮集団グロンギの怪人の一人ではあるが、彼女は積極的な殺人をしない。
彼らが行う「ゲゲル」という理解不能な殺人ゲームのゲームマスター──すなわち、今のサラマンダー男爵の立場にある者である。
サラマンダー男爵の中では、彼女の額にあるバラのタトゥから、「バラのタトゥの女」と覚えられていた。彼の頭の中ではあくまで「バラのタトゥの女」という通称の後に、ふと「ラ・バルバ・デ」という名前が思い出されるようになっていたのだ。
彼女と口を利くことになるのは珍しい。彼女はどちらかといえば無口で、特にグロンギの仲間以外に口を出すことはなかった。
「私の放送の順番は終わったはずだが?」
サラマンダー男爵が、机上に置いてある紅茶のカップに手をかけて、それをバルバに差し出す。バルバは、白い手袋ごしにそれを受け取り、両手でカップを持って、上品に紅茶を口に入れた。
彼女は、バラのタトゥを持つ美しい女性の姿をしていたが、サラマンダー男爵は彼女の中から感情のようなものを見出すことができなかった。
まあ、感情がないわけではないのだろう。
彼女の資料を見た限りでは、「クウガ」以上に「リント」に興味を示す不思議な人物らしい。特に、参加者の中では「
一条薫」という者に対する執着が深く、現在のところでは彼の行動に対する動揺はほぼなさそうだと言っていい。
彼女は、紅茶を飲みほしてカップをサラマンダー男爵に手渡すと、また呟く。
「放送ではない。戦いの準備だ」
「戦い?」
疑問だった。
サラマンダー男爵の知る情報では、参加者への干渉は不可能なはずである。
だから、殺し合いにおいては傍観という立場にあり、こうして放送の準備をしているのだ。
何故、今戦いがあるのだろうか。
その理由はすぐに、バルバの口から語られた。
「我々の中に、裏切り者が出た」
バルバは、ぼそっと可愛げなく呟いた。
笑みもなく、乾いた言葉が、主催の間で出た裏切り者の存在を示した。
そして、殺し合いを円滑に進めるため、これを討たせようとしていた。
★ ★ ★ ★ ★
「放せ! 年寄をなんだと思ってるんじゃ!!」
バルバに案内された一室に来たサラマンダー男爵の目には、汚い黒い和服を着た小さな老人が、先ほどエクストリームメモリを入れていた籠に入れられて監禁されている姿が映った。
他には、サラマンダー男爵とバルバを除けば、彼しか見当たらなかった。ただ、誰かの気配は他にもあった。
サラマンダー男爵は、その姿を見て呆れたようにため息を吐く。
(裏切ったのはこの老人か)
……何となく予想はついていた。
彼が主催者に協力した理由は、「大量の女性モノの下着を渡された」という実にくだらないものだった。それに惹かれて殺し合いの主催者となり、それから先は彼もほとんど遊んでいたらしい。
そんな理由で殺し合いの主催など長続きするわけがないし、その参加者に親しい知り合いがいるというなら尚更である。
実のところ、主催陣営には、「何故連れてこられたのかわからない」者も数名いて、この老人もその一人だった。
サラマンダー男爵は、自分もまたその一人だと感じていたし、この男に対する憐みは尽きなかった。
「よう、じいさん……なんだっけ? 白菜さん……だったかな」
「そうか。八宝斎さんとやら、今度は一体どうしたんだ?」
サラマンダー男爵は、この男にも多少興味はあったし、比較的フレンドリーな風に話しかけていた。その実、サラマンダー男爵の彼に対する感情は乾いたものでしかなかったので、サラマンダー男爵の目に感情はなかった。
人と話しているというより、猫に話しかけているようだった。
「それは、我々の口から説明しよう」
ラ・バルバ・デとともにこの殺し合いの主催を行うグロンギ怪人──
ラ・ドルド・グが、闇の中から口を出す。先ほどからこの部屋で感じていた人の気配は、彼か。
宗教の教徒のように肌を布で覆った外見は、かなり印象深いものだった。
確か、グロンギの「ラ」の階級の者は、高い戦闘力を誇りながらも、あくまでゲームマスターとして君臨し続ける者ばかりだったはずだ。
ラ・ドルド・グも、コンドルの怪人でありながら、あくまでこの場ではこうしてゲームの行く末を見守るだけの存在であった。
「そして、暴力により反逆を企てようとした」
ドルドの言葉に、バルバが付け加える。
ドルドのゆっくりとした言い回しに、腹が立ったのだろうか。
二人とも、日本語慣れしたのがかなり最近であるため、いずれも少しゆっくりとした口調であるのは変わらないが、バルバの方が少し聞き取りやすかった。
「……で、私に何をさせようというんだ?」
大方、予想はついていたが、サラマンダー男爵は彼ら二人に聞いた。
「ゲゲルを侵した者をどうするかは決まっている。死だ」
すなわち、この老人をサラマンダー男爵の手で殺せという事だった。
時刻は12時を回った。放送が始まる時刻である。
この状況を面白がりそうな
ニードルは、放送を読んでいる頃だろう。
サラマンダー男爵としても、なぜ突然自分がそんなことをさせられるのか、状況が飲めなかった。
他にも適任はいるはずだ。
この時間は、ニードルや
加頭順以外はほとんど開いているはずなのだ。
「待ちたまえ。事情も知らずに殺してしまうのは、私の主義に合わない」
だが、疑問を抱きつつも、結局、彼を殺すことに抵抗はしない。
ただ、彼の事情も聞いておきたいと思っていた。
「……好きにしろ。ただし、放送が終わるまでには確実に殺せ」
ドルドはそう言って、しばらくサラマンダー男爵を見つめた。
サラマンダー男爵は、また八宝斎に対して、飄々とした口調で幾つか質問をすることにした。
「……なあ、じいさん。なんだって裏切ろうなんて考えたんだ?」
「ふざけるな! お前たちが、ワシの可愛い乱馬とパンスト太郎を……!」
八宝斎にとって、乱馬は弟子であり、パンスト太郎は彼が名前をつけた子のようなものだった。
実際は、八宝斎の日頃の行いもあって、乱馬にもパンスト太郎にもかなり嫌われていたし、パンスト太郎に至っては、八宝斎が原因で人生を狂わされた挙句、この殺し合いに乗る結果になってしまったのだが、八宝斎は彼らが嫌いではなかったし、むしろ彼らには好意的な感情を抱いていたはずだ。
パンスト太郎の名前も、八宝斎自身は良かれと思ってつけた名前であった。
(殺し合いに参加させるって時点で、普通は抵抗するもんだが……)
乱馬やパンスト太郎はこの殺し合いに巻き込まれ、八宝斎はその殺し合いの主催者に嬉々として協力していた者である。
その立場からわかるが、八宝斎には本来、今さら刃向う資格などないはずだ。
サラマンダー男爵には理解しがたかったが、八宝斎自身は乱馬やパンスト太郎ならば問題なく勝ち進むだろうと考えていたのである。
八宝斎も、彼らの強さはよく理解している。ともに巻き込まれている
天道あかねについても同様だった。
で、結局のところ、八宝斎は彼らに対する「修行」として、この殺し合いで戦いを架していた。
内容の性質の悪さはわかっていたが、強者と戦う絶好のチャンスでもあり、乱馬たちが更に強くなる手助けをしているつもりもあった。
だから、死ぬなど一切思っていなかったのである。
「
シャンプーちゃんが死んだ時からずっとそうじゃ……! この殺し合いはおかしい!! 乱馬たちでは全然勝ち残れないではないか!」
「あのなぁ、じいさん……そりゃ自分の知り合いが必ず勝てるなんて保障がどこにもないだろ……だいたい、女の下着なんかで殺し合いに協力したあんたも共犯だろう」
「女の下着“なんか”とは何じゃ!! ブラジャーとパンティーにはワシの夢が」
ズガンッ。
サラマンダー男爵のステッキが八宝斎の頭を貫き、結果として彼らの会話──そして、八宝斎の一生はそこで終了した。
これ以上の会話は無駄である……とはっきりわかったのだ。
サラマンダー男爵は、八宝斎の目線があった場所に身体の高さを合わせるのをやめた。きっちりとした姿勢で、彼はバルバたちの方を向く。
そして、血の滴るステッキを抜き、上品にハンカチで拭っていく。
放送が終わるまで、まだ少しあったかもしれない。
「……おい。何故、私にこの役目をやらせた?」
サラマンダー男爵は問う。
バルバとドルドは、そのまま黙っている。──彼らは知ったうえで黙っているのだろうか。
それとも、知らないから黙っているのだろうか。
あくまで彼らは詳しい事情を知らず、上からの命令でサラマンダー男爵を呼び寄せただけ……という可能性もあるだろう。
グロンギは、強引に他人に殺人を強要するような集団ではないはずだ。
純粋に殺人を愉しみ、彼らはゲームマスターとしての行動をする。
ゆえに、サラマンダー男爵は彼らに問うても無駄だとわかり、そちらに目を向けるのをやめた。
それと同時に、なぜ自分がこの役目を担うことになったのか、サラマンダー男爵は理解した。
「………………なるほど。オリヴィエか」
サラマンダー男爵は悟る。
八宝斎が裏切った理由は、要するに親しい人間の死によるものだった。
サラマンダー男爵もまた同じように、キュアムーンライトの死に動揺をしていた。
同じように裏切る可能性を孕み、それを生み出すか生み出さぬかの瀬戸際にあった者たちだ。
そして、サラマンダー男爵にはそれを生み出せない理由があった。それによって、彼は忠実にゲームマスターとして行動し続けた。
オリヴィエ……その存在が、サラマンダー男爵の行動を制限していたのである。
「私が逆らったら、オリヴィエを殺めるのは私自身……この老人が今度はオリヴィエになる……そう言いたいんだろう?」
これだけの兵たちを集め、その強さに制限まで施す主催者には、洗脳くらい、造作もないことである。
あるいは、もっと性質の悪いものでは、意思を持ちながら、身体が動かせずにオリヴィエの命を殺めさせられるという方法もあるかもしれない。
それがどんな方法によるものかはわからない。
八宝斎はサラマンダー男爵に対する見せしめであり、また、サラマンダー男爵がこの手で、オリヴィエを殺害する暗示ともとれた。
少なくとも、「あのお方」と呼ばれる真のゲームマスターならどんな冷酷な手を使うかわからない。
「……心配せずとも、私には逆らう気はないと伝えておけ。こうはなりたくないからな」
サラマンダー男爵は、その籠の中で息絶え、血の海を伸ばしていく八宝斎を見ながらそう言った。
おそらく、彼は純粋に八宝斎を憎む気持ちも持っていたことだろう。そのため、突発的に八宝斎を殺した。
彼が下着という実にくだらない目的で殺し合いの主催に回り、都合よく掌を返す姿が、サラマンダー男爵には許しがたかった。
支え合う仲間を人質にされ、抗うこともできない彼には……。
★ ★ ★ ★ ★
「美味いか?」
ラ・ドルド・グはラ・バルバ・デにそう訊いた。
あの場の死体を片づけ、自分たちの部屋に戻った二人であるが、バルバは支給された紅茶を飲んでいた。
殺し合いの現場では、
桃園ラブと
巴マミが飲んでいたあの紅茶を温めたようなものである。
サラマンダー男爵に言われたとおりに報告する必要はなかった。あの場での出来事は、加頭が仕掛けた道具で撮影・録音が施されており、加頭は放送終了後にそれを回収して主催者に見せる予定だった。
「……飲むか?」
「いや、いい」
ドルドは、バルバに差し出されたティーカップを拒否する。
だいたい、布で口も覆われているため、彼が紅茶を口に流し込むことは困難だった。
バルバは、この紅茶が少し気に入っているようだった。サラマンダー男爵に差し出された紅茶が、案外美味かったせいだろうか。
ドルドはそれを無視して、自分が気になったことを口にする。
「このゲゲル、ダグバにしては調子が悪いな」
現在、殺し合いの場ではガドルが三人、ダグバが二人を殺害している。
しかし、グロンギの王たるダグバがこの人数でガドルに負けているとは、グロンギ族の彼らとしては考え難いことである。
少なくともガドルは、ダグバに見合うほどの実力を持ってはいない。
あくまでダグバから見ればガドルは格下にすぎない存在のはずだ。
「……それだけ、制限の力が強力ということだ」
「制限か。余計なものがなければ、今頃ダグバが殺し合いの覇者となっていたかもしれん」
「……さあな。このゲゲルには、なかなか面白いリントも参加している」
バルバも一通り資料は読んでいた。
彼女が興味を惹くのは、やはりリントに関する記述だ。
ダグバがこの短時間で全員を殺せたかという点においては、バルバも断言はできなかった。
それだけ、この場にいるリントたちは強い。
場合によっては、リントでない者──たとえるなら外道衆やアンノウンハンドなども存在しており、ダグバが勝ち進んでいくには障害となるものも多く見られた。
「それに、もう封印は解かれた」
机上に広げられた革紙に、グロンギの紋章が描かれている。
これはバルバの所持品である。
バルバのタトゥーと同じ紋章。
ダグバのタトゥーと同じ紋章。
この二つが白色で描かれた下に、一つ真っ赤な紋章があった。
それは、彼らと同様の階級の戦士であることを意味していた。
「……時が来て、奴の封印が完全に解かれれば、ダグバもどうなるかわからない」
時が来て、バルバの指定した条件が満たされれば、ダグバと同じ「ン」の戦士が解放される──その戦士の紋章こそが、この革紙に描かれている赤い紋章である。
そう、その条件を満たすか満たさぬか。
それがバルバの提案した、この殺し合いの中でのザギバス・ゲゲルであった。
それは誰も封印を解くことが無ければ、その
イベントが起きることなくゲームそのものが終了する可能性のあるものだったが、
バラゴによって封印が解かれた今、特定の条件を満たせばその戦士が解放されるようになっていた。
あとは、バルバもドルドもゆっくりとそれを待つだけだった。
★ ★ ★ ★ ★
「結局、俺は“父親”か……」
エクストリームメモリを見つめながら、サラマンダー男爵は呟く。
子の命を狙われた父は、身動きが取れない。
たとえ、好敵手がこのまま全員死ぬとしても、彼はここで彼女たちの動向を眺めるスタンスはやめようとしないだろう。
(しかし、あいつも父親をああまで望んでいたとはな……)
月影ゆりの行動を思い出す。
彼もまた、父のために生きた子だった。
親子──その言葉の持つ深さに、サラマンダー男爵は思わず我を忘れていたことに気づき、また別の方向に気を向けた。
「フィリップ……か」
エクストリームメモリに監禁されているフィリップも同様だ。
フィリップには長らく父や母がいなかった。
彼の場合は求めたのが母だったが、そんなことはどうでもいい。
結局、彼が見つけた父や母、姉──すべては、一時だけの幻だった。
今はもう、ここで再び出会えるかもしれなかった冴子を含め、誰もいない。
「……」
八宝斎には子はいなかったが、産湯につけたパンスト太郎を、彼はどう思っていたのだろう。
その死が彼を無茶な行動に走らせた。
また、己の力を自負するほど超人的な身体能力を有する八宝斎には、反逆しても逃げ切れるという自信があったのだろう。
何せ、爆弾を放り込まれても死なない男だ。
だから、ああして実行してみせた。
そして、結果的にあの籠に捕えられ、ほとんど身動きもとれないままあっさりと逝った。
(まあいい……終わるまで、せいぜい数日の辛抱だ)
サラマンダー男爵は、そう言い聞かせて、本棚から一冊、適当な本を取り出した。
安楽椅子に揺られながら、彼はそのページをめくっていく。
※主催には、【ラ・バルバ・デ(バラのタトゥの女)@仮面ライダークウガ】、【ラ・ドルド・グ@仮面ライダークウガ】がいます。
※主催には、【八宝斎@らんま1/2】もいましたが、サラマンダー男爵によって殺害されました。
※1日目の昼にバラゴが解いたグロンギ遺跡の封印が原因で、ゲーム内でバルバたちが指定した条件が発動すると「ン」のグロンギ怪人が復活します。その条件は不明です。
(バルバとドルドは、それが今回におけるザギバス・ゲゲルと考えています)
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最終更新:2014年03月18日 21:21