外道【ドーパント】 ◆LuuKRM2PEg




 その名を呼ばれた時、志葉丈瑠はただ茫然と立ち尽くすしかなかった。

「十臓……それに、流之介……ッ!?」

 あの放送で呼ばれたことによって丈瑠に与えた衝撃は、鈍器で頭部を殴られるのと同じくらいの威力を誇っている。
 サラマンダーという男が呼び上げた十八人の中には、あの池波流之介と腑破十臓が含まれていた。何もなかったはずの自分を信じていた男と、全てを無くした自分にとって最後に残されたものであるはずの男。
 一瞬だけ嘘だと信じたかったが、暁美ほむらの名前も呼ばれている。だから、十臓と流之介が死んでいるのは紛れもない真実だ。
 認めたくなかった。嘘だと信じたかった。だが始まりの地で加頭順は六時間ごとに死者を発表すると言っていて、その証拠に二人の名前が呼ばれてしまう。その時点で丈瑠は二人の死が真実として受け入れるしかなかった。

「――――――――」

 呆然と立ち尽くす彼の言葉はもう声になっておらず、酸素を求める魚のように口をパクパクと開閉させるしかない。その胸に開いた穴の大きさは果てしなく、志葉丈瑠という男の表情を激しく歪ませていた。
 偽者であるにも関わらず外道集との戦いで自分を主君と認めた流之介の姿、幾度となく繰り広げた十臓との死闘、志葉薫が現れて何もかもを失った自分、そして最後に残ったのが斬り合いだと悟って十臓との戦いに赴いた自分。
 様々な思いと記憶が丈瑠の中を縦横無尽に駆け巡り、そして爆発した。その刹那、これまで培ってきた全てが足元から崩れ落ちていくかのような感覚に襲われてしまう。
 そしてようやく丈瑠は、自分と戦う前に腑破十臓が死んでしまったらという可能性を全く考慮していなかったことに気付いた。あの血祭ドウコクや筋殻アクマロのような強者がいる以上、十臓を超える可能性がある戦士は数え切れないほどいるかもしれなかった。
 十臓がそいつらに殺される光景をどうして考えなかったのか、流之介がもうこの世にいない可能性を何故今まで想像していなかったのか、自分が暁美ほむらを殺したように二人が殺されている時が来ることを何ゆえ視野に入れていなかったのか。
 胸を満たす動揺によって疑問が次々と増えていく。これでは一体何の為にこれまで戦ってきたのか、十臓がいなくなった今自分に何が残っているのか、どうして剣を振るわなければいけないのか、どうして二人が殺されなければいけないのか?


 どうして、彼らが死んで自分なんかが生きているのか?

 一体誰が、彼らを殺したのか?

 どうして自分から何もかも、消えてしまうのか?

 彼らを失った自分に、何が残っているのか?

 今更剣を振るって、何になるのか?

 何故、流之介と十臓があの見せしめにされた男達のようにならなければならないのか?

 心に開いた空洞を埋める為だけに、戦うことすらも許されないのか?

 このまま、壊れてしまうしかないのか?


 不意に、丈瑠の脳裏に首を吹き飛ばされた三人の男の姿が蘇る。首輪が爆発して、死んでいく彼らの姿がゆっくりと流之介と十臓に変わっていく。
 否、それだけでなく家臣達の首が吹き飛ばされていく光景が幻となって丈瑠の目に映った。千明が、茉子が、ことはが、源太が、爺が、薫が、黒子達が皆死んでいく。
 自分だけを残して死んでしまう。
 こんなのは嘘だ。嘘に決まっている。でも、嘘とは思えない。流之介と十臓が死んだように、こうしている間にもみんなは殺されているかもしれなかった。
 考えれば考えるほど、丈瑠の胸の中には虚脱感が湧き上がってしまう。

「十八人か……ぐふっ。それにしてもあのほむらってガキだけじゃなくシャンプーって奴もくたばってやがったか!」

 そして今、背後からその声が聞こえてくるまで、丈瑠は同行者の存在を忘れてしまっていた。
 茫然となったまま力なく振り向いた彼は、同盟を結んだパンスト太郎という男を見つける。その男が何故、妙に勝ち誇ったような笑みを浮かべているのか、まともに思考が働かない今の丈瑠には理解できなかった。
 ただそれでも、この胸の蟠りを何とかしたいと無意識の内に思って、藁にも縋るように言葉を紡ごうとする。
 その一言が、来るまでは。


「それにしても、たった六時間で死ぬなんてこの島に集められた奴らは案外弱いんだな! この分だと優勝して願いを叶えるだけじゃなく、世界征服をするのも時間の問題かもな! ぐふっ!」

 そんな嘲りに満ちたパンスト太郎の言葉によって、丈瑠の心に亀裂が生じる。ただでさえ崩壊寸前だった彼の心に、更なる傷を与えた。
 そこで終わっていれば、もしかしたらまだ幸せだったかもしれない。この時に終わっていれば、まだ後戻りできたかもしれなかった。例え流之介や十臓が死んでいて、ほむらが死ぬきっかけを丈瑠は作っていたとしても。
 しかし世界はそれを許したりしなかった。もしかしたら、それは侍というかつての使命を忘れて人斬りの外道になることを選んだ、丈瑠への罰かもしれない。
 尤も、その答えを知る者はどこにもいないが。

「おい侍野郎、お前が狙ってた十臓って奴は死んじまったのは残念だが……手間が省けてよかったじゃねえか!」
「……ッ!」
「これで後はドウコクとアクマロって奴だけだな! どうせなら、そいつらとオカマ野郎達が潰し合ってくれれば最高なんだけどな!」

 何を言っているのか。
 この男は流之介と十臓が死んだのがそんなに嬉しいのか、唯一残った物までもが奪われたのがそんなに喜ばしいのか。他者を傷つけることに何の躊躇いもないこんな半妖に、流之介を笑う資格などあるのか。こんな半妖が生きて、何故十臓が死んでしまったのか。
 それがこの世界の理だというのか? 外道のような間違った存在が生きて、侍のような正しい存在が死ぬのが正しいとでもいうのか?
 そんな世界を守る為に影武者の使命を背負って、そして全てを失ったのか? だとしたら、俺が今まで守ってきたのは外道どもが笑う世界だったのか?
 こんな自分に尽くしてくれた流之介を侮辱するような奴を生かす為に、剣を振るってきたのか?


 今の丈瑠は混乱のあまりに気付いていない。
 丈瑠にとって十臓は倒すべき相手なのはパンスト太郎も知っているが、何故倒そうとしているのかという理由をパンスト太郎は知らなかった。
 当然である。丈瑠は情報交換の際に外道衆達のことを出来る限り話したが、あくまでもどれだけ強いかということだけ。丈瑠の正体が影武者であることも、今の丈瑠が全てを失っていることもパンスト太郎は知らない。
 当然である。何故なら、丈瑠はそんなことを一切話していないのだから、たった数時間しか同盟を結んでいないパンスト太郎が知っている訳がない。
 そして丈瑠が放送で呼ばれた流之介に対して、未だに未練を抱いていることを知らなかった。パンスト太郎は勿論の事、丈瑠自身も。
 そしてパンスト太郎も決して悪意があって、丈瑠に話しかけたわけではない。彼は彼なりに丈瑠の奮起を促そうとしていたのだが、今の丈瑠はその優しさを優しさとして受け止められるほどの余裕はなかった。
 全てはただ、あまりにも悪すぎる偶然のせいで起こってしまった悲劇……


「……黙れ」
「何?」
「お前に……何が分かる」
「おい、何を言ってるんだよ侍野郎」

 パンスト太郎の声が聞こえてくるが、その意味は届かない。
 視界が揺れて、心臓が異様なペースで鼓動していく。荒れ狂う感情によって凄まじい吐き気が襲いかかり、今にも胃が破裂しそうだが丈瑠は耐えた。それは侍となるために鍛え上げた精神力の賜物だろうが、気付く者は誰もいない。
 今となっては腑破十臓の遺品とも呼べる刀である裏正をゆっくりと握り締めながら、丈瑠は立ち上がった。

「ぐふっ……何の真似だ」

 その鋭い視線が突き刺さってくるが、関係ない。
 十臓が死んでしまった今、本当の意味でもう何も残っていないのか。いや、俺はまだ生きているからそんなはずはない。だが十臓がいなくなって空いた場所を、一体何で埋めて斬ればいいのか?
 腕が震えるのに伴って、丈瑠の思考はより混乱していく。感情の高ぶりと共に疑問が湧き上がっていくが、やはり何一つとして解き明かされることはない。
 その答えを求めるかのように歩みを進めて、そして裏正を握る力が更に強くなる。掌と柄が擦れ合って皮が捲れていくが、丈瑠は一切構いもしなかった。

「俺のような半端物や、お前のような半妖もどきが生きて……」
「あ?」
「何故、あいつらが死ななければならない!?」

 その叫びを最後に、丈瑠の視界は血のような赤で染まった。






 侍野郎、志葉丈瑠から放たれる殺気は尋常ではないとパンスト太郎は察する。一体何があったのかはわからないが、今の侍野郎はとんでもなくヤバいと本能が警鐘を鳴らしていた。
 とにかく今は目の前のこいつを落ち着かせなければならないと思い、パンスト太郎はデイバッグに腕を伸ばす。それはほんの少し、数秒にも満たないだけ力を伸ばせば誰でも届くような距離だった。
 せっかく休むのだから少しでも楽になりたいと思って、全ての荷物を離れた場所に置いていた。変身する為のポットもパンスト太郎はそこに入れている。
 気で硬化させたパンストを使って裏正を奪おうとも考えたが、先程の戦いであの切れ味はそれなりにあることを知った。油断した状態ならともかく、こんな状態の丈瑠に通じるとは限らないと瞬時に判断した彼は、変身を選ぶ。
 それこそが、最大の失敗であったことも知らずに。

「……ぐふっ?」

 空気を斬るような低い音が聞こえた瞬間、パンスト太郎は怪訝な表情を浮かべる。
 おかしい。あと少し腕を伸ばしさえすればデイバッグに届くはずなのに、届かない。力を込めて伸ばそうとした瞬間、肩に灼熱が押し付けられたかのような痛みに襲われ、身体がほんの少しだけ軽くなっていくのを感じる。
 そして、赤い液体が噴水のように目の前から噴き出してきた。これは一体どこから溢れてきているのかと思考するが、一瞬で答えに辿り着く。
 これは自分の身体から溢れ出てきている血液であり、右肩から先にあったはずの腕はもうとっくに斬り落とされていた。如何に肉体を鍛えていようとも変身していない以上はただの人間に過ぎないので、裏正のような妖刀の前ではこうなるしかない。

「あ、あ、あ……がああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああぁぁああ!?」

 その結論に至った瞬間、地獄が始まる。
 悲痛な叫びと共に全身の神経を激痛が蹂躙して、そのまま力なく倒れてしまう。意識は一瞬でブラックアウトしようとするが、絶え間なく続く痛みと彼の精神力がそれを許さなかった。
 そのまま勢いよく地面に倒れ、溢れ出る血液が血溜まりのように広がっていく。悲鳴をあげてその場を転がり回るパンスト太郎は失った右腕を取り戻そうと左手を伸ばすが、次の瞬間にはそれも斬り落とされてしまった。
 失血による悪寒が更に激しくなり、ついには吐き気すらも覚えてしまう。視界が霞んでいく中、パンスト太郎はゆっくりと頭上を見上げて下手人である丈瑠の顔を見た。同盟相手であったはずの男の表情はこれまでとは違って、昔話に出てくるような怪物のように大きく歪んでいる。
 まさに、外道と呼ぶに相応しいほど、今の丈瑠はおぞましかった。

「てめ、え。何で、だ……ぐふっ」

 息も絶え絶えになる中、パンスト太郎は必死に問いかけるが答えは返ってこない。
 八宝菜への憎しみも、絶対に優勝するという決意と戦意も、ほんの少しだけ丈瑠に感じた絆も、何もかもが闇に飲み込まれていく。次の瞬間、薄れゆく意識の中で丈瑠が裏正を振り下ろしてくるのを見たが、その頃にはもう全ての感覚が無かった。
 パンスト太郎の胸に刃が突き刺さるのが先か、それとも意識を完全に失ってしまうのが先だったのかはわからない。誰も理解することもないまま、パンスト太郎は呆気なく最後を迎えてしまった。




 一体どれだけの間、裏正を振るっていたのかはわからない。
 それを数える余裕や選択など丈瑠にはなかったし、わざわざ教えてくれる者もこの場にはいなかった。
 斬らなければ今度こそ本当に終わってしまう。何もかもが消えてなくなってしまう。斬らなければならなかった。流之介を雑魚と笑ったこの半妖を許すわけにはいかなかった。
 もしもこのままそんな狂気に囚われていれば、丈瑠は救われていたかもしれない。しかしそんな救いにもならない救いさえも、彼は掴めなかった。首から離れていく男の頭と家臣達の首が吹き飛んでしまう幻が被って見えてしまい、丈瑠の意識は唐突に蘇る。

「……あ、あ、あ」

 ようやく裏正を振り回す両腕の動きが止まるが、もう遅かった。
 つい先程まで喋っていたはずのパンスト太郎は地面に倒れたきり、微塵にも動かない。放送によって冷静な判断力を奪われていた丈瑠といえども、目の前で倒れているのはバラバラにした肉塊であると一目で理解できた。



「お、俺は……俺は……!」

 激情に駆られたまま力任せに裏正を振るった両手を見つめる。飛び散った血と肉片が十指どころか両腕にも付着していて、まるで幾度となく屠ってきたナナシ連中のように赤く染まっていたが、それは疑いの余地もなく丈瑠自身の腕だった。
 この会場にも存在する三途の池に手を突っ込んだかのように生臭くて、とても赤い。まさに、侍が守るべき人々に絶望を齎してきた外道衆とそっくりだった。

『謝りはしない……。怨め! 外道の俺を!』

 不意に、シャンゼリオンに変身した涼村暁にぶつけたあの言葉を思い出す。
 自分のやっていることは間違っていることは知っているし、シンケンジャーの敵になる覚悟もあった。弁解をするつもりも許してもらおうとも思っていない。裏正を手にした時から、ずっと決めてきたはずだった。
 白にも黒にもなれない半端な自分に嫌気を感じていた。そんなだから、ほむらにも暁にも勝てなかった。そもそも、誰かを裏切ろうともしないくせにどうして外道になれると思ったのか。
 外道になるには、どんな汚い手段を使ってでも生き残らなければならないと、これまでの戦いで知ったはずなのに。

「そうか……もう、後戻りはできないか……」

 しかしそう呟いた瞬間、心のざわめきが一気に収まっていくのを感じる。
 そうだ。いずれはこの男も斬る必要があった。外道となるのならば、同盟を結んだ相手だろうと躊躇なく斬り捨てる冷酷さが不可欠だったのだ。
 アヤカシ達も、腑破十臓も、骨のシタリも、薄皮太夫も、油目マンプクも、筋殻アクマロも、血祭ドウコクも……皆、そうしてきたからこそ外道となっている。ならば自分も、外道になるからには一切の躊躇いは許されなかった。

「感謝するぞパンスト太郎……お前のおかげで、俺は迷いを断ち切って外道になることができそうだ」

 そう語る丈瑠からは、もう一切の温情が感じられない。シンケンジャーの殿として皆を導く為に持ち合わせていた厳しさの中にある優しさも、もう欠片も残っていなかった。
 丈瑠はパンスト太郎の支給品と自身の支給品を纏めてから、その手にT-2メタルメモリを握り締める。

「俺はもう、迷わない……ただ戦う為だけの外道になろう……お前も俺を恨みたければ、いくらでも恨めばいい。あの世で俺が来るのを精々楽しみにしてるんだな」
『METAL』

 響き渡るガイアウィスパーを耳にした彼は、起動させたガイアメモリを勢いよく放り投げた。そのまま吸い込まれるかのように体内へ侵入していき、志葉丈瑠の肉体を一気に変貌させていく。
 そのまま一瞬で、メタル・ドーパントへの変身を遂げた。

「ドーパントメタル……参る!」

 そう言い残したメタル・ドーパントは、太陽の光が差し込んできた森の中を駆け抜ける。その日差しの下を歩けるような輩ではないと自負しているが、それでも止まらなかった。
 彼はもう迷わない。例え梅盛源太が現れたとしても、もう躊躇う事はないだろう。何故なら、同盟を結んだ相手も冷酷に斬り捨てたのだから。

「源太に涼村暁……お前達は今、どこにいる? 俺は必ず、お前達を斬ってみせよう……」

 この島の何処かにいるであろう幼馴染と、自身に煮え湯を飲ませた男のことを考える。
 思いを寄せれば寄せるほど、彼の殺意と決意はより強く燃え上がっていき、足も次第に速くなっていた。
 外道になる覚悟を決めたドーパントはもう、止まらない。


【1日目/朝】
【F-6/森】


【志葉丈瑠@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、メタル・ドーパントに変身中、もう二度と止まらないという強い覚悟
[装備]:裏正@侍戦隊シンケンジャー、T2メタルメモリ@仮面ライダーW、水とお湯の入ったポット1つずつ(変身3回分消費)、支給品一式、力の源@らんま1/2、パンスト太郎のランダム支給品0~2
[道具]:支給品一式×2
[思考]
基本:殺し合いに乗り、戦う
0:例え誰が相手だろうと決して迷わずに斬る。
1:他の参加者を探して、斬る。
2:例え源太が相手でも容赦はしない。
3:涼村暁は絶対に斬る。
[備考]
※参戦時期は、第四十六、四十七幕での十臓との戦闘中です
※パンスト太郎を殺害した事で、人斬りへの迷いを断ち切りました。


【パンスト太郎@らんま1/2 死亡確認】
【残り47人】

※【F-7/川岸】に放置されたパンスト太郎の遺体は原形を留めていないほど破壊されています。


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最終更新:2013年03月15日 00:02