Wっくわーるど/イチポンドノフクイン ◆7pf62HiyTE


Passage 08 佐倉杏子の懺悔



「兄ちゃん、大丈夫か?」



 ビルから杏子が出てきて翔太郎の身を案じる。



「流石にちょっとやばかったが……だが大した事はねぇよ」



 と、腹部に仕込んでいたあるものを見せる。



「そのベルトは……」
「ああ、霧彦のベルトだ」


 そう、翔太郎は密かに霧彦のガイアドライバーを防具代わりに仕込んでいたのだ。気休め程度ではあったが防具としては十分使えた。
 あかねの蹴りについても都合良くドライバーのベルト部を滑ってくれたお陰で翔太郎自身にかかるダメージを軽減出来たのだ。
 とはいえ流石に無数の箸袋で目くらましをしなければ直撃しベルト共々倒されていただろうが――姫矢の所持品からそれを見つけた時は何に使うんだと頭を抱えたが無事に使えて安堵していた(本当に使うとは翔太郎自身も思わなかったが)


「はい、こいつは返すよ」


 そう言って預かっていたダブルドライバーを翔太郎に渡す


「あ、そうだフィリップの兄ちゃんから頼まれたんだった」
「何だっ……がばっ!?」


 と、杏子の拳が翔太郎の顔面に炸裂した。


「何しやがる!?」
「無茶したからじゃねぇか?」


 幾ら翔太郎のスタンスを理解しているとはいえ翔太郎の行動は無謀以外の何者でもない。だからこそフィリップは翔太郎を殴る――それが出来る状態じゃないから杏子に代役を頼んだのだ。


「全く……」
「ところで兄ちゃん、あの姉ちゃんの道着が解体されたって事は……」
「!! 今アイツは……」


 思い返して欲しい、伝説の道着を身につけた瞬間、あかね自身が身につけていた服は全て弾け飛んだ。
 そして伝説の道着を解体したならば――今現在あかねは――全裸になってなければならない。


「……流石にマズイんじゃねぇか?」
「仕方ねぇ、俺の上着を……」

 と、あかねの方に視線を向けるが――全裸ではなく道着のままだった。


「ちっ……どうやら外れていたか……」


 確実に入ったと思われた一撃だったが命中箇所はボタンから少しズレていたらしい。故に道着は解体されなかったのだ。


「まぁいい、気絶してりゃ解体は……」


 そう言ってゆっくりと近づく翔太郎だったが――



 ――Nasca――



 響くガイアメモリの作動音――



「なっ……」
「まさか……」




 そう、あかねの手にはナスカのメモリが握られていたのだ。
 翔太郎が殴り飛ばした先――丁度そこにナスカのメモリが落ちていたのだ。
 朦朧とした意識の中でそれを掴み――作動させ――
 そのまま自身の身体に挿入――
 ほどなくあかねの身体はナスカ・ドーパントへと変化したのだ――



「まずいぜコイツは……行くぜフィリップ!」



 ドーパントに変化したなら話は別だ。Wとなって迎え撃つしかない。ドライバーを装着しフィリップに――



「させると思う?」



 だがナスカ・ドーパントが瞬時に間合いを詰めドライバーへとその手を――



「ちっ、ドライバーが狙いか……」



 翔太郎はドライバーを奪われまいとそこに意識を集中させる――だが、



 ナスカ・ドーパントは突如狙いを変えそのまま駆け抜けた。



「なっ……」
「大丈夫か兄ちゃん!!」
『翔太郎、無事か!?』
「やべぇ……メモリが奪われた……」


 そう、ナスカ・ドーパントの手にジョーカー、メタル、トリガーのメモリがあった。


「これでもう変身出来ないわね」
「ぐっ……」
『まずい翔太郎、今の彼女は伝説の道着で潜在能力を高めた状態のままナスカに変身している、つまり……』
「戦闘能力は今までの非じゃねぇって事か……」



 ドーパント及び仮面ライダーに変身する際、来ている衣服もそのまま変化する――
 そして今現在あかねは伝説の道着を着用したままナスカ・ドーパントへと変身した――
 つまり、伝説の道着も一緒にナスカ・ドーパントの一部となったのだ。
 当然、伝説の道着によりあかねの潜在能力が100%引き出された状態でだ。
 加えて言えば――唯一の弱点だった解除ボタンもドーパントの肉体に変化した事でガードが堅くなっている。
 それでなくても全力で殴らなければ作動しなかったそれが並大抵のパワーでは作動しなくなったという事だ。
 つまり今のあかねは弱点を克服した最強クラスの格闘家のままナスカ・ドーパントへと変身したというわけだ。
 T2ではあるが元々ナスカメモリはミュージアムの幹部が所有するゴールドメモリにラインナップされていたものだ。
 ゴールドという事は通常よりも強大な力を持つのはおわかりだろう。
 無論、強大故にそうそう簡単にその力を引き出せるわけではないが――潜在能力を限界まで引き出されている今のあかねならば――



「がはぁっ!!」



 壁に叩き付けられた事で全身に激痛が奔る――



『大丈夫か翔太郎』
「ああ……今、奴の動きが見えなかった……」



 その力を引き出せるというわけだ――そう、レベル2の領域である超加速すら使用出来る様になったのだ。
 その高速移動により翔太郎の背後に回り殴り飛ばしたというわけだ。



「くっ……どうすりゃいい……メモリを奪われたままにはしておけねぇ……だが……」



 メモリはWの生命線、奪われたままには出来ない。だが取り戻すには最強クラスとなったナスカ・ドーパントを相手にしなければならない。


「下がってな、兄ちゃん」


 と、傍らに杏子が立つ。



「杏子……」
「変身出来ないんだろ? だったら黙って見てな」
「わかってんのか杏子、今のアイツは……」
「チンケな道着来てパワーアップしていい気になっているだけだろ? 幾らパワーを得たって中身は変わってないんだったら何の問題はないさ」


 そう口にする杏子だが本心ではない。幾ら中身が変わっていないとはいえ、今の彼女が厄介な相手である事に違いは無い。


「要するにアイツからメモリを取り戻せばいいんだろ? 楽勝っしょ」
「簡単に言うけどなぁ……」
「別にあたしが戦っている間に逃げろっていうつもりはないさ、はいこれちょっと預かっててくれない」


 と、自身の持っているデイパックを渡す。


「ちゃんと中のもの大事に持っててくれよ、よーく確認して……特に食料とかね」
「………………わかった、だが気をつけろよ……」


 言われた通り中身を確認しつつそう口にする翔太郎を余所に杏子は視線をナスカ・ドーパントへと向ける。


「というわけで選手交代だ、あたし個人としてもあんたに用があるんでね」


 そう言って抜き取っておいたサンドイッチをくわえる。


「ちょっと、これから戦うって時に何食べてるのよ?」


 そうツッコムナスカ・ドーパントだったが、


「何って腹減ってんだからしょうがねぇだろ」
「さっきも食ってただろうが……ていうか戦いながら食うなよ……食べ物を粗末にす」
「しねぇよばーか」



 と言いながら槍を棒高飛びの様に使って高く飛び――そのまま槍を分割(鎖で繋がっている)して刃をナスカ・ドーパントへと飛ばす。



 だが、ナスカ・ドーパントはそれをブレードで易々と防ぐ。



 しかし既に杏子は背後に回り込み柄の部分でナスカ・ドーパントを叩こうと――



 その瞬間にはナスカ・ドーパントの姿は消えていて――



 杏子の背後に無数の光弾が迫ってきた――超加速で回り込み光弾を発射したのだ。



「甘いんだよぉ!!」



 だが、杏子はその光弾を全てはじき返していく。
 その立ち回りを見てナスカ・ドーパントは驚愕する。
 先程も感じたが杏子の動きはあかね自身が知る格闘家よりもずっと精錬されている。
 しかし見た所自分より年下の少女にしか見えない。



「貴方……何者?」
「ああ? 只の魔法少女だ」
「それの何処が魔法よ!?」



 魔法少女、その可愛らしい言葉はロミオとジュリエットのジュリエットに憧れるあかねから見ても甘美に聞こえる。
 だが、その魔法少女のやっている事は時には力任せに、時にはトリッキーに槍を振り回し戦うだけじゃなかろうか。
 正直な話、格闘魔法少女と言われた方がまだ納得出来る。



「うるせぇな、大体アンタにとっちゃ只の敵なんだからそんなのどうだって良いだろ!」



 そんなナスカ・ドーパントの言葉に思わずそう返してしまう杏子であるが、




「それよりあんた……さっきから聞いてりゃ死んだ彼氏を生き返らせる為に殺し合いに乗ったらしいじゃねぇか?」
「貴方も探偵さんや梅盛さんと同じ様に説得するつもり?」



 今更何も知らない他人に何を言われようと引くつもりは全く無い。ナスカ・ドーパントはそう考えながら杏子へと間合いを詰めつつ仕掛けていく。



「いいや、あたしには兄ちゃん達みたいに殺し合いに乗るのはやめろなんていう資格なんてねぇからそれを言うつもりはねぇよ。それがあんたの望みだったら勝手にすればいいさ」



 そう言いながらナスカ・ドーパントの攻撃を次々と防いでいく。



「それであんたが良い目に遭おうが悪い目に遭おうが自分の所為、つまりは自業自得、それだけの話さ」



 そう言いながら再び槍で斬りかかろうとする。



「だったら放っといてくれる? 貴方にとっては私がどうなっても構わないんでしょ?」



 しかしナスカ・ドーパントは何事もなくそれを回避する。



「まぁそうなんだけど……あるバカの話を聞く気はないかい?」
「……?」
「戦いながらでも構わないさ、勝手に話すから……ちょっとばかり長い話になる……」



 ナスカ・ドーパントの攻撃をかわしつつ杏子は話し始める。



「その女の子の父親はとある教会で人々に説教を説いていた……正直すぎて優し過ぎる人だった……新しい時代を救うのは新しい新興が必要だって口にしていた」



「何を言っているんだ杏子の奴……」


 杏子の話は近くにいる翔太郎の耳にも届いている。


『翔太郎、杏子ちゃんが何か話しているのかい? 僕も興味がある、君が復唱してくれないか?』
「ああ、判った……」



「それで教義にない事まで信者に説教する様になった……でも誰も話を聞いてくれなかったし本部からも追放されてしまった」



『当然だろうね、客観的に見れば新手の宗教団体と変わらない。そんな胡散臭い宗教を信じる方がどうかしている』



「お陰で一家揃って食うのに困る程だったさ」
「あなたみたいに?」
「………………続けるぞ……だけど間違った事なんて言ってなかった……人と違う事を話しただけだ……ちゃんと聞けば正しい事だって誰にだってわかった筈なんだ……なのに誰も相手にしてくれなかった……」



「聞きもしねぇで正しいかなんて決められねぇからな……それにしてもよくあの攻撃の中で話出来るな……」



「誰もわかってくれないのがその少女には我慢出来なかった……だから……」



「『みんなが親父の話を真面目に聞いてくれますように……そう悪魔にお願いしたんだ』……」
『なるほど、その悪魔がキュウべぇ、そして杏子ちゃんは魔法少女になったと』



「おかげで教会の信者は増えていった……その代わりその女の子は怪物と戦う羽目にはなった……幾ら説法が正しくても怪物は退治できるわけじゃない……だからそこは自分の出番だって女の子は意気込んでいたさ……」



「『表と裏から世界を救うって』……だがな……」
『そう、そんなチャチな嘘で塗り固めた所でいずれは……そしてその時には……』



「そう……ある時カラクリがバレた……魔法の力で集まったのを知った時、父親はブチ切れたよ……娘の少女を人の心を惑わす魔女だって罵った……」
「……それ自業自得じゃないの?」
「全く笑い話さ、毎晩怪物と戦っていたのにさ……それで父親は壊れてしまった……酒に溺れて頭がイカれて……最後は家族を道連れに無理心中さ……少女1人を置き去りにしてね……少女の祈りが家族を壊しちまった……」




「『他人の都合も知りもせず、勝手な願い事をしたせいで、結局誰も不幸になった』……」
『なるほど……それが……』
「ああ……杏子、あんたのビギンズナイトか……」
「だから誰があたしの話をしたって言ったんだ! 知り合いのバカの話だって言ってんだろ!!」



 嘘だ――杏子はそんな他人の行動を安易に侮辱する様な奴じゃない。
 つまり、自分自身に起こった事をさも他人の出来事の様に語っていただけなのだ――もっとも、翔太郎とフィリップにはバレバレだった様だが。



「……それでその女の子の話がどうかしたの? 他人の不幸を人に聞かせるなんて良い趣味じゃないわね」
「ちょっと待て……おいアンタ、本気で気付いてねぇのかよ!?」



 一方、あかねの方はそれが本気で杏子の知り合いの話だと思っている様だ。



「わからねぇか? 今のあんたがどことなくその女の子と同じ事をしようとしているって言っているんだよ……」
「何ですって……」
「言った筈だ……他人の都合も知りもせず勝手な願い事をしたせいで誰もが不幸になったって……願い事が叶ってその彼氏が戻ったとしても……あんたも彼氏も幸せになんてなれないって事さ……」
「そんな事、やってみなけりゃわからないじゃないの」
「奇跡ってのはタダじゃないんだ……それを祈れば同じだけ絶望がまき散らされる……そうやって差し引きをゼロにしてバランスは成り立ってんだよ……」



『そうだ……あの時死んだ僕がデータ人間として生き返ったからこそ僕の家族は……そして消滅するはずだった僕が戻れたのも若菜姉さんのお陰……』


 翔太郎経由で伝えられた杏子の言葉はフィリップの胸にも刺さる。


「フィリップ……」


 そんな翔太郎達を余所に、



「……言いたい事はわかるわ、でもね、さっきも言ったけど私達もそうなるとは限らないわ。大体さっきから何? 説得するつもりなんて無いって言っておきながら説得しているんじゃないの?」
「別に? ただあんたがその子と同じ間違いをしそうだから口を出しただけさ、そういうの見ていられないんだよね……まぁ、自業自得といえばそれまでだけど……」



 と、ナスカ・ドーパントの攻撃をかわしつつ、



「アンタの自業自得に『そいつ』まで付き合わせるわけにはいかねぇんだよ!」



 目を見開いて言い放った。



「あんたが後生大事に抱えているその腕……それが持っているもの……それだけはアンタに持っていかせるわけにはいかねぇ!」
「……!」



 ナスカ・ドーパントは抱えている乱馬の腕が未だに力強く握っている『それ』を見る。
 それは山吹祈里の持っていたリンクルンだ。プリキュアの力を与えるらしいそれを何故杏子は欲しがっているのだろうか?



「貴方と『これ』が一体何の関係があるの? 私のものってわけじゃないけど別に貴方のものってわけじゃないでしょ、だから渡す理由なんて……」
「ああ、確かにあたしのものじゃねぇ……だけどそいつはあたしの……」



 そういってナスカ・ドーパントが繰り出す無数の光弾をすり抜け――



「『友達』のものだぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 最後まで自分よりも他人のことを気遣って逝ったせつな――


『自分を幸せにする為に生れてきたの。でも、自分を責め続けたって本当の意味で幸せにはなれないわ……杏子だって自分を責めたり傷つけたりしないで、幸せになってもいいの』


 散々悪行を重ねてきた自分を説得し最期に『友達』とまで言ってくれたせつな――
 正直、それに今更応えられはしないだろう。幸せになるには余りにも罪を重ねすぎた――
 皆の為に犠牲になるつもりではあってもそれはせつなが望むものではないだろう――

 だが――


『ラブや美希、それにブッキーって呼ばれてる祈里って子の事……お願いね』


 その最期の願いは裏切れない。どんな人物かは詳しく聞けなかったが同じプリキュアでリンクルンを所持しているのは確かだ。


 その最中、乱馬の腕がリンクルンを掴んでいるのを見た――
 最初は何故それがあるのかはわからなかった。だが、フィリップの推測等からリンクルンの所持者がダグバに殺された可能性が高く、それを乱馬が奪還したと見て良いだろう。
 そしてそれをあかねが持ち出した――


 早い者勝ちという考えもあり、今までの杏子だったらとやかく言うつもりはなかった。
 だが、今は違う。せつなから託されているのだ。
 アレは間違いなくせつなの友達が持っていた物だ、せつなの友達なのだ、きっとせつな同様自分よりも他人の為に戦う様なお人好しに決まっている。
 だから彼女が他人の為に戦って散ってもそれをどうこういうつもりはない。
 しかし――その彼女の所持品を殺し合いに乗った悪人が持ち悪用する――


 それはそれを持っていたせつなの友達やせつなが望む事ではないだろう?


 結局死なせてしまった以上、せつなの約束は破ってしまった事になる。だが、残された彼女の想いまでは穢させない――自分を『友達』と言ったせつなの為にも――
 『友達』の『友達』は『友達』なんて安っぽい理屈が通じるとは杏子は思わない。だがきっとせつなはそう言うだろう。
 だからこそ、『友達』の物を取り戻すのだ――



「(姫矢の兄ちゃんやせつなから受け継いだ力を使えばもっと簡単だったかもな……けど、コイツ相手には使わねぇ……絶対にだ!)」



 しかし杏子は未だそれらを使う気にはならなかった。まだ自身が使って良いのかという事に抵抗があったのもある――
 だが、目の前のあかねは、テッカマンランスやガドル、そしてダグバと違い他人の為に戦っている――
 そんな相手にネクサスやプリキュアの力を使う気になどならなかったのだ――



 だが問題は無い。相手の動きは大体見切った。くぐり抜けた修羅場はこちらの方が大きい、猛攻をすり抜けほんの一撃乱馬の腕を叩き落とせば良い。
 それを回収すれば今度は翔太郎のメモリを取り戻す、2対1になればまだ立て直し様がある。
 多少のダメージならば何の問題は無い、最悪の場合の保険もかけてある――



「でぃりゃぁぁぁぁぁぁ!」



 マズイ、非常にマズイ――捨て身覚悟の杏子の突撃にナスカ・ドーパントは焦燥した。
 伝説の道着が幾ら強化するとは言えそれは潜在能力を100%引き出すもの、つまりは強化に限界はあるという事だ。
 突撃は速度は速くレベル2のナスカの力をもってしても対応しきれない――



 それが意味するのは――ナスカ・ドーパントの敗北である。



 だが――伝説の道着で真の力を得た事に加え、ナスカで得た力もある。
 それだけの力を得て負ける事など許されるのか?
 敗北した瞬間、メモリも道着も失うのは必至、それはイコール詰みである。



 それは乱馬を『守れない』と同義である――



「いや……いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」





 ――何故、佐倉杏子はここに来て自身の罪、つまりは自身の身勝手な決断で全てを失った事を告白したのだろうか?





 勿論、それは眼前の少女が自身と同じ過ちを犯そうとしていたのを見て、自身と同じ結末になるのが見るに耐えなかったというのもあるだろう――





 だが、もしかしたらそれは少女の為ではなく自分自身が悔い改める為だったのかも知れない――



 懺悔――つまり、神の前で自身の罪を告白し悔い改める、あるいは許しを請うというものである――
 だが――これはあくまでも1つの考え方に過ぎないが――
 懺悔とは結局の所、告白者自身が新たな一歩を踏み出す為のものではなかろうか?
 生まれ変わる――という程大げさな事をいうつもりはない。
 袋小路に嵌まってしまい一歩も進めなくなった状況から抜け出す、新たな扉を開いたは良いが足がすくんで動けない――
 その状況で一端心を落ち着け清め、小さな一歩を踏み出す――そんな程度の話でしかないのだ。





 勿論、杏子自身がそこまで考えていたとは限るまい――彼女自身も知らず知らずに何気なくやってしまった程度のものだろう――






 そして――





 佐倉杏子は――





 壁に十字にめり込まれた形で――





 左胸にナスカブレードを突き刺され――





 磔にされていた――





 さながらそれは人々を救おうとした聖人の様に――





「はぁ……はぁ……」



 震えが止まらない――
 無論、いずれはやらなければならなかった。それは理解している。
 だが何だろうか? 心の奥底から湧き上がる嫌な感情は――
 『守る』為には後何度同じ事を繰り返さなければならないのだろうか――



 呆然と立ち尽くすナスカ・ドーパント、だがまだ終わってはいない。気持ちを落ち着けて残る者達と対峙せねばならな――





 その時――一陣の風が駆け抜けた――



「!?」



 風が吹きすさぶ方向を見る――そこには――



「あれは……」



 ドッペルゲンガーか何かなのか?



 そう、青色の戦士――ナスカ・ドーパントがそこにいたのだ――








Passage 09 フィリップの意味



『翔太郎、状況はどうなっている?』
「杏子の奴殆ど防戦一方だ……くっ、メモリさえあれば……」


 翔太郎は自身の過ちを悔やんだ、また自身の勝手な決断で取り返しのつかないミスをしてしまうのかと――
 だが悔やんだ所で最早どうにもならない。今はまだ杏子が持ちこたえているが、杏子が破れてしまえば自分達は全滅、良くてメモリをそのまま持ち逃げされてしまうだけだ。
 そもそも持久戦自体出来る状況ではないのだ、このナスカ・ドーパントとの戦いにはタイムリミットがあるのだ。
 焦る翔太郎はどうすれば良いのかと考える。変身せずに飛び込んだ所で自殺行為以外の何者でもない、それどころか杏子から預かり物をしている以上、それを守る為にも飛び込むことすら出来ないのだ。
 悔しそうに戦うのを見つめるしかできない翔太郎を余所に、


『翔太郎、メモリを使うんだ』


 相棒がそう口にした。


「メモリって俺のメモリは全部アイツに……」
『本当に全部なのかい? 君の手元にはもう1本メモリがある筈だ』
「………………まさか、霧彦のメモリか?」


 フィリップは霧彦が所持していたメモリを使えと言っているのだ。


『ドライバーの方は?』
「さっき蹴りを受けたが破損とかはなかったぜ」
『使えるならば問題は無い……』
「……だがコイツはミュージアムの……それも幹部が使っているメモリだぜ?」


 しかし翔太郎自身、街を泣かせた敵ともいうべきミュージアムのメモリを使う事に抵抗があった。
 メモリによる汚染も心配だったし何より本来なら敵側のドーパントに変身したくはなかった。
 無論、フィリップも翔太郎の考えている事は理解している。


『翔太郎……僕と君が初めて出会ったあの夜……ビギンズナイトの時に僕が言った言葉を覚えているか?』



 それは全ての始まり、2人が出会ったビギンズナイトの夜――
 翔太郎が持っていたダブルドライバーと6本のメモリを見て究極の超人が生まれる事に対し狂った様に笑うフィリップに対し、


『何がおかしい? この悪魔野郎……お前達の作ったメモリの所為でこの街がどんなに泣いてるかわかってるのか!?』


 そう激昂する翔太郎だったが、


『拳銃を作っている工場の人間が犯罪者か? 違うだろう、使って悪事をする人間が悪い、より効果の強いメモリを見たいだけなんだ』

 そう平然と言い放つフィリップだった――



「ああ、そんな事も言っていたな……」
『要するにそういう事だ、メモリを使う事が罪じゃない、メモリを使って悪事をする事が罪だ……それに君だってわかっている筈だ、園咲霧彦の最期の戦いを……それは悪のものだったのか?』
「いや……アイツは人々を守る為に戦った……2度共な……」


 フィリップの言おうとしている事は理解している、出来うる限り使うべきではないがこの状況を切り抜けられる可能性がある手段はこれ以外にないのも事実だ。
 だがそれでも踏ん切りが付かないのだ。


『翔太郎……僕のもう1つの名前……フィリップの意味……君はよく知っている筈だ』
「ああ……忘れるわけねぇだろ……俺やおやっさんが大好きな男の中の男の名……」


 翔太郎や荘吉の原点ともいうべきハードボイルド探偵、フィリップ・マーロウ――
 自分の決断で全てを解決する男だ――


『園咲来人という名前と過去を消され、その時まで何1つ決断しなかった僕に鳴海荘吉が与えてくれた名だ……自分自身で決断しろとね……』


 ビギンズナイトで2人は罪を犯した――
 翔太郎は勝手な決断をした事、フィリップは決断をせずに生きてきた事、


『翔太郎、決断をしない事もまた罪だ……後は……』
「その先は必要ねぇよ……男の仕事の八割は決断だ、後はオマケみたいなもんだ……」


 意を決しガイアドライバーを装着するため一端ダブルドライバーを外そうとしたが、



『待ってくれ翔太郎、ダブルドライバーを装着したままドライバーを装着してくれないか?』
「は? そりゃ出来なくはねぇが……」


 フィリップの意図がわからず思わず不思議そうな顔をする。

『僕も付き合わせてくれないか?』
「そりゃいいけどよ……けど別にWに変身するわけじゃねぇからこうやって話す事しか……」
『それでも構わない、僕も君と共にそのメモリを……』
「だからなんでだよ!?」
『そのメモリは冴子姉さんのメモリでもあるんだ』


 園咲冴子が使用していたのはタブーのメモリである。だがミュージアムを裏切った事で一時期そのメモリを失った事があった。
 だが彼女はミュージアムを裏切ろうとした霧彦を始末した際にナスカのメモリを確保していた、そして隠していたそのメモリを手中に収め――ナスカ・ドーパントとして舞い戻ってきたというわけだ。


『非科学的だとは思うが……姉さんの力を借りたいと思う、君だって園咲霧彦の力を借りるつもりだったんだろう?』
「それがお前の決断が……いいぜフィリップ!」



 その言葉と共にダブルドライバーを装着したままガイアドライバーを装着する。
 幸い、ナスカ・ドーパントと杏子は戦いに夢中で此方には一切気付いていない。



『翔太郎、あくまでも君が使うのは……』
「わかっている、確実にやれるタイミング……そこで仕掛ける!」



 その最中、杏子がナスカ・ドーパントに突撃を仕掛ける。



『まだか翔太郎?』
「まだだ……」



 だが、寸前の所でナスカ・ドーパントのカウンターが炸裂しナスカブレードを刺されたまま壁へと叩き付けられる――



「今だ! 行くぜフィリップ!!」



 ――Nasca――



 作動させたメモリをドライバーへと挿入、メモリ内部の記憶が翔太郎の身体をナスカ・ドーパントへと変化させる――



「うぉぉぉぉぉぉ!!」



 そのエネルギーは強い、霧彦や冴子はこのエネルギーにずっと耐えてきたというのか? 今更ながらにその事実に驚愕する――



「霧彦……」
『冴子姉さん……』



 翔太郎は耐える――フィリップは祈る――



「俺達に……!」
『力を……!』



 それはある種の爆発とも言うべき一瞬の加速――



 瞬時にもう1体のナスカ・ドーパントの側を駆け抜けた――



「どうして同じドーパントが……?」



 何故自分と同じナスカ・ドーパントがいるのか、それを理解できないでいる。



「同じだと……違うな……コイツは子供達の笑顔を守る為に戦い風となった男が遺した力だ……力だけをコピーしたそいつと一緒にするんじゃねぇ……」



 そう言って変身を解除しメモリを抜き取る――時間にしてみれば10秒にも満たない時間だ。



「探偵さん……あなただったの?」



 もう1体のナスカ・ドーパントの正体が翔太郎だったのを見て問いかける。



「ああ」
「どうして変身を解いたの? 同じドーパントなら条件は一緒だったんじゃ……」



 翔太郎が変身を解いた理由をナスカ・ドーパントは理解できないでいる。



「ドーパントになって戦うつもりなんて最初からねぇよ……」



 そう、フィリップも翔太郎もナスカ・ドーパントとなって戦うつもりなどなかった。
 当然だ、ドーパントに変身する事に抵抗云々関係無く長時間変身するべきではない。
 ゴールドメモリのパワーはそれだけ危険なのだ。変身出来て数十秒、それ以上の変身は命に関わりかねない。



「俺が欲しかったのは……」



 と、3本のメモリ――ジョーカー、メタル、トリガーを取り出す。



「そのメモリは!?」
「そうだ、俺が……いや俺達がナスカに変身したのは最初からメモリを取り戻す為だけだ……取り戻したぜ……Wをな!」



 翔太郎達の狙いは最初からWのメモリの奪還だったのだ。ナスカ・ドーパントのスピードならば短時間でそれを成す事が出来る。
 後は目の前のナスカ・ドーパントが隙を見せたタイミングで仕掛けた――そういうことだ。



『やったね翔太郎……ゾクゾクするよ』
「行くぜフィリップ」



 そう言ってメモリを構えるが――



「くっ……変身なんて……」



 だがそれを阻止するべくナスカ・ドーパントが突撃をかけようとするが――



 次の瞬間、ナスカ・ドーパントの眼前に何かが落下し地面に刺さり込む。ナスカブレード――



「!?」



 飛んできた方向は背後――確かそこには――



「よう」



 杏子が何事もなかったかの様に壁から出ていた。その間に、



 ――Cyclone――



 ――Joker――



「『変身!!』」



 ――Cyclone Joker――



 2人は右半身が緑、左半身が黒の戦士、仮面ライダーWサイクロンジョーカーへと変身していた。



「そんな……どうして……?」



 Wへと変身を許してしまった事もそうだが、何故仕留めた筈の杏子が平然としているのが不思議だった。



「ああ、大した事じゃねぇよ、あんたの攻撃は急所を外していただけだ」
「嘘、どう見たって心臓を……」
「実際外していたんだからしょうがねぇだろ」
「大丈夫か杏子?」
「僕達が来たからにはもう大丈夫だ、はい君の大事なものだ」
「サンキュ」


 と、何事もなかったかの様にWは杏子から預かっていたデイパックを返す。


「(まぁかなり分の悪い賭けだったけどな……)」


 と、杏子はデイパックに隠していたあるもの――ソウルジェムの無事を確認する。
 実は杏子は翔太郎にソウルジェムを預けていたのだ。
 魔法少女はその魂をソウルジェムへと変化させる――その結果、肉体そのものは魂のない抜け殻となる。
 それ故に肉体を幾ら傷つけようとも修理さえ出来れば何の問題も無いのだ。
 逆を言えば、ソウルジェムさえ破壊すれば簡単に仕留める事が出来るという事でもある。

 杏子はナスカ・ドーパントと単身戦うにあたって最悪の事態を想定した。
 普通のやり方では致命傷にはならないとはいえ、知らず知らずソウルジェムを持っている所に仕掛けられる可能性は高い。
 そこで、敢えて自身の手元にあるソウルジェムを翔太郎に預けたのだ。
 これなら攻撃の矛先が翔太郎に向かない限りはまず自身のソウルジェムが傷つく事は無い。
 そして治療できるダメージである限りは全身の骨が砕かれ様が心臓を破壊されようが死ぬ事は無いという事だ。


 但し、ソウルジェムと肉体を離しておける距離は100m圏内、これはあくまでもコントロール出来る限度なので実戦レベルではそれよりもずっと短いと言えよう。
 つまり翔太郎が杏子から離れすぎたらその時点で杏子は戦闘不能になるというわけだ。
 だが、杏子は翔太郎が戦場から去る可能性は低いと考えていた。
 渡した時に言った何気ないメッセージからデイパックの確認をさせソウルジェムがある事を確認させる。
 この時点で杏子の狙いに気付けば翔太郎がこの場を去る事はまずない。翔太郎は魔法少女の秘密を知っているのだから離れる事の意味も知っているのだからだ。
 勿論、それでなくてもメモリも奪われている状態で杏子1人だけを残し逃げる様な性格じゃないのは十分に理解している。
 とはいえ、逃げる結果になってもそれはそれで構わなくはあった。どちらに転んでも最悪翔太郎達を逃す事は出来たのだからだ(勿論、そんな可能性は限りなくゼロに近いが)。


「(まぁまさか兄ちゃんがアイツと同じドーパントになって自力でメモリ回収するとまでは思わなかったけど)」


 ちなみに――翔太郎が単身戦っている間にグリーフシードを使用した事でソウルジェムの濁りは回復させたので戦闘能力は戻っていた。
 ここに至るまでの戦いでそれなりに消耗もしているが致命的なものではない。左胸を刺されてはいたが杏子自身口にした通り心臓を外していた為、そこまで問題は無い。
 翔太郎がナスカ・ドーパントと話している間にブレードを抜きながら一時的でも傷を塞いでいった為出血も最小限に抑えている。


「だが翔太郎、急いだ方が良い。彼女……大分メモリにのまれかけている」
「ああ、さっきまでは人を殺す事なんてどう見ても出来そうになかったが……今の杏子の一撃を見る限り……」


 結局の所、杏子が直撃を免れたのはナスカ・ドーパントの心に迷いがあったからだ。しかし、普通の人間ならば十分致命傷になりかねない一撃だった事に違いは無い。
 思えばメモリを奪った時点で逃走すれば良いのにそれもせず延々と戦い続けている事も不可解ではある。
 故に――天道あかねはガイアメモリに大分汚染されていると考えて良い。迅速にメモリを排出しなければ取り返しの付かない事になる。


「それに僕達は知っている……ナスカには……」
「ああ……」


 だが、メモリを排出させる為にはマキシマムドライブ級の一撃を叩き込む必要がある。
 しかし、今のナスカ・ドーパントの能力を考えるならばメモリの差し替えは隙を見せる事に他ならない。
 加えて言えばマキシマムドライブを発動できた所で防がれてしまえば何の意味も無い。


「何か手はないのかフィリップ?」
「確かに僕達2人じゃ難しい……だが今は2人だけじゃない、杏子ちゃんもいる」
「ああ」
「僕に1つ手がある」
「? 何か手があるのか?」


 秘策があると語るフィリップに対し杏子が問いかける。


「キーワードは波だ」








Passage 10 Heaven's Tornado



「さっきから何をごちゃごちゃやってんのよーっ!!」


 と、ナスカ・ドーパントが光弾を乱射してきた。


「はっ!」


 杏子は棒高跳びの様に高く飛び上がる。


「翔太郎、僕に任せて!」
「あ、ああ!」



 一方のWは軽快なステップで光弾を回避しナスカ・ドーパントへと間合いを詰めていく。



「なっ、踊り!? ふざけているの!?」



 そう言いながらWは回転しながら拳を振るいナスカ・ドーパントへと仕掛ける――無論、この程度の動きならば対応は可能だが――



「あたしがいる事忘れるんじゃねぇ!」




 と、背後から杏子が槍で突き刺そうとする。ナスカ・ドーパントは何とか紙一重でこれをかわす。



「杏子ちゃん、君は好きに動いてくれ。僕達が勝手に合わせる」
「あ、ああ……」
「おいフィリップ、まさかお前……」



 元々、杏子の戦い方はスピードや変幻自在の槍を駆使してのトリッキーな動きによって相手を翻弄するものだ。
 そしてその動きに合わせながら踊るかの様にWもまた軽快な動きを見せる。



 対するナスカ・ドーパントはWの謎の動きに苛立ちを見せる。
 無論、攻撃は仕掛けている。だが杏子にしてもサイクロンジョーカーである今のWにしてもスピードに秀でている故にことごとく回避される――



「ははっ、面白ぇじゃねぇか!」



 一方の杏子もWの動きに関心を持ち、少しながらも合わせる様にする。勿論踊る――とまではいかないが軽快な動きはそのままだ――



 ナスカ・ドーパントは加速して仕掛けようもことごとく回避され逆にもう片方から仕掛けられる――



「ぐっ……さっきからちょこまかと……」



 踊るような2人(実際に踊っているのはWだけ)ナスカ・ドーパントはまるで格闘新体操や格闘スケートをやっている様な感覚を覚えた――何故こんな所でと思わずにはいられない。



「なぁ、フィリップ……こいつは……『Heaven's Tornado』か?」
「その通りだ翔太郎」



 ある時、フィリップが地球の本棚にて興味を持った謎の本、キーワードが足りず閲覧する事の出来なかったのが『Heaven's Tornado』、フィリップは何とかそれを閲覧しようと飛び出して行った――
 一方の翔太郎は当時街を騒がせていた闇のお仕置きヒーローを追っていた――
 彼等が追っていったその先は1組のダンサーへと繋がる――
 『Heaven's Tornado』はそのダンサーの技だったのだ――ようやく見る事が出来ると思われたその時、お仕置きヒーローの正体であるドーパントによってダンサーの片割れが負傷し踊れなくなった――
 だがその時に口にしたキーワード『波』を手に入れた事で閲覧を成功させる――


『『Heaven's Tornado』の鍵は2人で生み出す……波のリズム……』


 かくしてフィリップの変身したWが片割れの代わりとなりドーパントと戦いながら踊り――
 遂に『Heaven's Tornado』を現実のものにしたのだ――



 それをこの戦いで再現したのだ――勿論、フィリップも杏子もダンサーというわけではない為ダンスとは言いがたい。
 だが、『Heaven's Tornado』で重要なのは2人が生み出す波のリズム――
 そう、あの時もダンサーではないフィリップことWがそれを成功させたのは波のリズムを生み出したからなのだ――

 警戒に動き回りながら杏子はWの方を見る。Wはなにやら手を構えて待っているかの様だ――



「(掴めってことか?)」



 Wの意図をくみ取りその手を掴む――



 その瞬間Wは杏子を高く持ち上げ――



 そのまま回転させる――



 その動きはさながら神が巻き起こす竜巻の様に――



 そのままナスカ・ドーパントへと近づく――



 杏子は槍を何節に分けフレイルの様に振りかざし竜巻の回転に乗って何発も当てていく――



 ナスカ・ドーパントは防ごうともその波状攻撃を防ぎきれず――



 ついに、杏子の狙いであった乱馬の腕を弾き飛ばしたのだ――



 何故フィリップは唐突に『Heaven's Tornado』を使う事を提案したのか?
 それは杏子がリンクルンの奪還を考えていた事を聞き、その事を思い出したのだ。
 実はその一件では問題のドーパントにサイクロンとジョーカーを除く4本のメモリを奪われていた。
 フィリップ自身はメモリよりも『Heaven's Tornado』の方ばかり気にしていたが、翔太郎にとっては当然死活問題だった。
 だが、『Heaven's Tornado』で奪還に成功、そのままルナトリガーとなりマキシマムドライブで撃破したのだ――
 そう、その時と状況が似ていたからこそこの事を思い出したのだ。
 無論、これは相方との信頼関係が無ければ成功する事は無い――
 故に、同時にフィリップの杏子に対する信頼の証でもある――



「今だ!」



 Wの腕を放しリンクルンを持つ乱馬の腕へと手を伸ばす杏子――



「渡さない!」



 一方のナスカ・ドーパントも超加速を駆使し乱馬の腕へと迫る――



 両者がその手を伸ばすタイミングは殆ど動じ――否、



 ナスカ・ドーパントの方が若干速い――



 だが――



 思い出して欲しい、乱馬の腕はずっとリンクルンを握りしめていた。
 リンクルンは伝説の戦士プリキュアの持つ道具、それ故に邪悪な心を持つ者を拒絶する――
 ならばこれ以上の説明は必要あるまい――



 リンクルンの力がナスカ・ドーパントを拒絶し触れられなかったのだ――



 無論、このまま押し切れば無理矢理掴む事は出来ただろう――が、



「だりゃー!!」



 だが、せつなの友達のリンクルン、あるいはその想いを守らんとする杏子の腕がそれより速く――



 乱馬の腕共々リンクルンを掴んだのだ――



 腕を掴む事が出来ず愕然とするナスカ・ドーパントだが、



 ――Joker Maximum Drive――



 その音声と共にWが風と共に舞い上がる――



「「ジョーカーエクストリーム!!」」



 その言葉と共に蹴りの体勢へと入り――



 中央から真っ二つに分かれ――



 二発の蹴りをナスカ・ドーパントに叩き込んだ――


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最終更新:2013年03月15日 00:41