Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ ◆7pf62HiyTE
Passage 04 アインハルト・ストラトスの決意
「そんな……」
ダグバとの戦いを終えた後、ダグバに投げ飛ばされたであろう早乙女乱馬を助けるべくアインハルト・ストラトスは走った――
アインハルトのダメージは決して小さくはない。それでも気力を振り絞り走ったのだ。
もう誰も自分のせいで死んで欲しくないと――
しかしその想いはすぐさま裏切られる事となる――
確かに乱馬を見つける事は出来た――
だが、その姿は既に死体だった――
また、自分の所為で知っている人が死んでしまった――
結局また繰り返してしまったのだ。目の前が真っ暗になるのを感じた――
「にゃぁ……」
アスティオンの鳴き声が悲しく響く。
「また……私の所為で……」
もし、自身の力がもっと強かったら乱馬をこんな姿にする事も無くダグバを倒せただろう。
自身の無力さがまたしても誰かを死なせてしまったのだ――
ずっと繰り返しだ――
ソレワターセに操られているスバル・ナカジマを助けると意気込みながらも何も出来ず凶行を繰り返させてしまった。
自分の所為で鹿目まどか、高町なのは、池波流之介、本郷猛を死なせてしまった。
フェイトとユーノも死んでしまった。
自分と関わった人達が死ぬ、あるいは不幸になってしまう――
自分が疫病神だから――
それなのに何故まだ自分は生きているのだろうか?
まだ誰かを死なせ悲しませろと言うのか?
『もしもあなたが死んだらあなたを守った人達の思いはどうなるの!?』
そう言って自殺しようとする自分を止めたキュアベリーこと蒼乃美希の言葉がリフレインする。
『その人達は、あなたを守ろうと頑張ったはずでしょ! でも、あなたが簡単に命を捨てたら、その人達の思いはどうなるの!? 何にもならないわ!』
言っている言葉がわからないわけではない。
だが、もう限界だったのだ。自身の不甲斐なさで他人が死んでいくことが――
全身から力が抜ける――体力的にも限界だった状態なのだ、無理もない――
そしてそのまま倒れ込み意識がだんだんと遠のいていく――
覇王流の強さを証明すべく大切な人達を守ると意気込んだのに――
結局何も守れず死なせただけ――
自身のした事は結局は無駄だったという事だ――
意識が途切れたという所ですぐさま死ぬという事は無い――
だがこんな所で1人倒れていれば危険人物1人現れただけですぐさま死ねるだろう――
それでも構わない――
これでもう誰も――自分の所為で死なせないですむのだから――
だが――
『巫山戯んじゃねぇぇぇぇぇ!!!』
脳内に聞き覚えのある男性の声が響いた――
「乱馬……さん?」
そうだ、その声は間違いなく乱馬のものだ。だがアインハルトの目の前に広がるのは暗闇だけで何も見えない。
『俺が何の為にアイツと戦って死んだと思ってやがる? お前等を死なせたくなかったからだろうが! それなのにここでお前が死んだらそれこそ俺のやった事が無駄になっちまうじゃねぇか!! そんな巫山戯た真似絶対に許さねぇ!!』
乱馬の言い分はよくわかる。それでももう限界なのだ。大体、今更生きた所で何が出来るというのだ?
また知り合いを死なせるだけじゃないのか?
『大体お前が死んだら誰がヴィヴィオを守ってやるんだ!? 俺は信じてねぇがもし本当になのはもフェイトもユーノも死んだならもうお前しかいねぇんじゃねぇのか!?』
その言葉を聞いてハッとした。
自分には不特定多数の人々よりも誰よりも守らなければならない人物がいたのではなかろうか?
高町ヴィヴィオ、遠い昔に守るべき存在だったオリヴィエ・ゼーゲブレヒトを受け継ぐ少女であり、大切な友人である――
他の人々も無論大事だが、何よりも彼女こそ最優先で守るべきではなかろうか?
思えば知り合いで残っているのは他にティアナ・ランスターしかいない。しかし彼女は時空管理局局員、ヴィヴィオよりも先に人々を守らなければならない使命がある。
だが、彼女の元に戻った所で今度はヴィヴィオが死んでしまうのではなかろうか? その不安があるからこそあの時も飛び降り――
『さっきも言ったがヴィヴィオはずっとお前に会うのを楽しみにしていたんだ! ヴィヴィオの気持ちを考えてやれ!!』
そうだ乱馬はずっとヴィヴィオと行動を共にしていた。あの時までずっとヴィヴィオの事を守ってくれていたんだ。
本当ならば自分がやらねばならない事を乱馬は代わりにしてくれていたのだ。
そもそもなのは達を失って一番辛い想いをしているのはヴィヴィオではなかろうか? そんなヴィヴィオを乱馬はずっと助けてくれていたのだ。
そんなヴィヴィオの想いを知っているからこそ飛び降りた自身を身体を張って助けてくれたのだ――
それなのに自分と言えば、折角運良く会えたというのに全く向き合おうともしかなったでは無かろうか――
そうだ、身体を張り命を懸けてまで自分達を守ってくれた乱馬の想いは絶対に無駄には出来ない。
勿論、いっそこのまま消えた方が良いのではという気持ちに変わりは無い。
しかし――このまま何も言わずに消えたらヴィヴィオは何も知らずに悲しむだけだ。
せめてヴィヴィオにちゃんと向き合い伝えなければならない、自分の所為でなのは達を死なせた事を――乱馬の死を――
ヴィヴィオは優しい――きっと自分の事を許してくれるだろう。いっそ憎むなり侮辱するなりしてくれれば楽なのだが――
全てはその後だ、ヴィヴィオの前から消えるにしてもこのままヴィヴィオを守る為に戦うにしても――
「わかりました……私、あの子……ヴィヴィオに会います……後の事はそれから考えます」
それが精一杯の答えだ。
『そうだ2つ程頼めるか……1つはヴィヴィオに謝ってくれ……鍛えてやるって約束したのに破ってしまって……まぁ元々俺がやるよりもアインハルトが適役だったんだろうけどな……』
乱馬の声が小さくなっていく――だが頼まれた事については問題は無い。
『もう1つは……頼む……』
更に小さくなっていく――それに加えこれまでと違いどことなく辛そうに聞こえる――
「え? 今、何て……?」
――気が付けば元の場所にいた。夢でも見ていたのだろうか?
目の前には全く変わらず乱馬の死体がある。やはり夢だったのだろう。
「……そういえば、最後に乱馬さん何てお願いしていたんでしょうか……」
引っかかるのは乱馬の最後の言葉だ。余りにも小声だったが故に聞き取れなかったのか?
いや、恐らくはそれこそが乱馬が本当に伝えたかったメッセージだ。確実に聞き取れていた筈だ。
「いいえ、今はそれよりも……」
それも引っかかるが大事な事は他にもある。ヴィヴィオに会う為にも休んではいられない、少し寝てたお陰でましにはなった。ゆっくりと立ち上がり今一度乱馬の死体を見つめ、
「ありがとうございました!!」
精一杯の言葉でお礼を口にした。と、
「……?」
何か違和感を覚えた。何だ、この違和感は――
乱馬の左腕がない? いやそれについては全く問題ではない。あの時ダグバは刀を飛ばしていた。それが決まり腕が斬り飛ばされたのだろう。
それは残った血痕が証明してくれている。だが――
「乱馬さんの腕が……無い?」
その斬り飛ばされた腕がない事が問題なのだ。血痕を辿ればそこにあるべき筈なのだ。
「!?」
そういえば他にもなければならないものがある。乱馬が使ったガイアメモリは何処に? そして何より――
「まずい! 急がないと……!!」
脳裏に浮かんだ事通りなら非常にマズイ事になる。一刻も早く探さなければならない。
まずはすぐ近くにある風都タワーに向かおう。そこからなら近く一帯を探る事も出来る――
誰も救えないかも知れない――それでも、いや、だからこそこれ以上誰も死んで、あるいは悲しんで欲しくはないのだ。
乱馬の為にもこのままでは終われないのだ――思い出した乱馬の最後の頼みに応える為にも――
『俺の許嫁を……あかねを……止めてくれ……頼む……!!!』
Passage05 Encounters of the Nasca
気柱を見た翔太郎と杏子は全力で市街地を駆け抜ける。
十中八九戦いが起こっている筈だ。これ以上の犠牲者を出さない為にも何としてでも駆けつけなければならない。
「兄ちゃん、誰がいると思う?」
「わからねぇ、Dボゥイ達かもしれねぇし姫矢達かも知れねぇ」
『こっちはいつでもOKだ、翔太郎』
既に翔太郎の腹部にはドライバーが装着されている、いつでも変身が可能な状態だ。杏子の方も既に魔法少女の服を展開している。
「上だ!!」
そう口にする杏子の言葉に従い、翔太郎は上を見上げる。
「なっ……あれはナスカか……」
見上げるとナスカ・ドーパントが上空を飛行しているのが見える。
『だが翔太郎、霧彦のメモリとドライバーは僕達の手にある。つまりアレは……』
「T2の方だ、そしてそれを持つのは……ダグバか!」
目の前のナスカ・ドーパントの正体がT2のナスカメモリによって変身したダグバだと判断する。
「ちっ……やっぱ倒せなかったか……」
『それよりもどうするんだ翔太郎?』
「聞かれるまでもねぇな、フィリップ、奴は空を飛んでいる」
『了解だ』
――Luna――
ダブルドライバーの右側にルナメモリが転送される。フィリップの方が装填したのだ、
――Trigger――
それを確認しすぐさま翔太郎も左側にトリガーメモリを装填、
「「変身!!」」
そのまま倒し、
――Luna Trigger――
右半身が黄、左半身が青の仮面ライダーWルナトリガーへの変身を完了した。
「一撃で決めるぜ」
「ああ」
そう言いながらWはトリガーメモリをトリガーマグナムへと装填する、
――Trigger Maximum Drive――
その音声と共にトリガーメモリの銃口が発光する。そして銃口を高速で飛行するナスカ・ドーパントへと向ける。
「「トリガーフルバースト!!」」
その言葉と共に無数の光弾を発射する。
ルナの幻想の力を得た弾丸は通常の直線的な軌道ではなく曲線的な軌道を描き標的であるナスカ・ドーパントを捕捉する。
いかにナスカ・ドーパントが高速で飛行していようと不規則に飛ぶ銃弾を回避する事は容易ではない。
例え一撃は回避出来ても無数に繰り出された銃弾全てを回避する事は不可能。
一撃でも命中すれば、その衝撃でたじろぐ間にもう一撃、更に一撃と命中していく。
そして全ての銃弾が炸裂した事により――ナスカ・ドーパントは力を失い落ちていった――
完全な不意打ちだった――
一刻も早くさらなる力を手に入れるためにナスカ・ドーパントの力で呪泉郷へと向かっていた矢先だった――
いや、それでもナスカの速度ならば捕らえる事は出来ないと思っていた――
だが放たれた銃弾は自身の上下前後左右全てに回り込み迫ってきたのだ。
いくら高速であっても何処から飛んでくるかわからない銃弾全てを回避など出来ない。ある意味どんな格闘家にも不可能だろう。
無数の銃弾による衝撃は強い――
それでも守らなければならない――
乱馬の腕は――
砲撃が止んだ――乱馬の腕は無事だ――
だが、受けた衝撃の強さ故に落ちていく――
バランスを取らないと――
ナスカ・ドーパントはウィングを羽ばたかせ耐性を整える。これならば無事に着地出来るだろう。
ともかく今は戦っている場合じゃない。すぐさまこの戦域を抜けて――
「でぃりゃあ!!」
だが背後から槍を持った少女が有無を言わさず突撃してきたのだ。
ギリギリの所で気配に気付いたナスカ・ドーパントはブレードを構え防ごうとするが――
逆にブレードははじき飛ばされそのままバランスを崩し地面へと叩き付けられる。
「ぐっ……」
まさかもう1人いたとは、それも自分よりも年下の少女が。
だが何とか立ち上がり、後方へと――
「ちっ、散々好き勝手暴れておきながら逃げてんじゃねぇよ!!」
少女が何か言っているがそんな事はどうでも良い。何とかこの場から待避――
「逃がさねぇよ」
気が付けば黄色い腕に捕らえられ放り投げられていた。体勢を整える間もなく今度はそのまま地面へと叩き付けられた。
見ると左半身が黒、右半身が黄色の戦士――着けているベルトの形状から仮面ライダーエターナルを彷彿とさせる戦士がそこにいたのだ。
「ン・ダグバ・ゼバ、これで3度目だね」
同じ戦士から別の男の声が聞こえる――だが、何を言っているのだろうか? 初対面ではなかろうか?
「自分だけを笑顔にするために罪もない人々を泣かせた事……」
「許される事ではないね」
戦士から響く2人の声。それについて気になる事はあるが今はこの場を切り抜けねばならない。運良く近くに落ちていたブレードを拾い上げたが――
「がら空きだ」
槍の少女が再度ブレードをはじき飛ばす。
「杏子、ナイスアシストだ」
ナスカ・ドーパントの行動を封殺する杏子の動きに対しWルナジョーカー(途中でメモリを変えた)こと翔太郎が声をかけるが
「なぁ兄ちゃん……コイツ、本当にダグバなのか? ダグバにしちゃあまりにも手ごたえがなさ過ぎるぜ?」
「言われてみりゃそうだな……だがさっきはアイツがメモリを……」
「なら答えは簡単だ、何者かが何らかの方法でダグバからメモリを手に入れて変身した。そういう事だろう。だがどちらにしても」
「逃がすという選択はねぇな。ダグバからメモリを手に入れたんだったら奴がどうなったのか知っているかも知れねぇからな」
2人(3人)の心は決まった。早々にナスカ・ドーパントを仕留めるのだ。
「ぐっ……」
だがナスカ・ドーパントとてやらなければならない事がある、それを成す為にもこの場は引けない。
何発もの光弾を繰り出し2人へと発射する。
――Heat Metal――
光弾による爆煙が広がる、今の内にウィングを展開し離脱を――
「そんなチャラチャラした攻撃が通じると思ってんじゃねぇよウスノロ!!」
爆炎から杏子が飛び出しナスカ・ドーパントに斬りかかる。ナスカ・ドーパントはそれを防ぎきれず受けてしまいそのまま腰をついてしまう。
「そんな……」
「残念だったな、ドーパントとの戦いは専門分野なんでな」
そして爆煙が消えた先にWヒートメタルが姿を見せる。光弾に気付いたWはすぐさまメモリを差し替え最もパワーと防御に秀でたヒートメタルへとチェンジしメタルシャフトを回転させ迫り来る光弾を全てはじき飛ばしたのだ。
「ぐっ……」
まずい、これは非常にまずい。このままではこのまま倒されてしまいメモリが奪われてしまう。
現状ではメモリが唯一の武器、これを失えば『守る』事が出来なくなってしまう。
「なぁ兄ちゃん、さっさとコイツ片付けて向こうに行こうぜ」
「気をつけて杏子ちゃん、この場にいる連中は一筋縄ではいかない奴等ばかりだ、油断は」
「わかってるって……ん?」
余裕を見せる杏子だったがナスカ・ドーパントのある一点を見てほんの一瞬だったが動きを止めてしまう。
「!!」
だがそれこそがチャンスだった。光弾を発射し杏子を――
「油断も隙もねぇ……けどこんな程度で倒せるなんて思ってんじゃねぇ!!」
光弾は杏子のデイパックの1つを僅かにかする程度で回避され、逆に振り回された槍によって殴られる。
「だから言ったのに……」
「悪い悪い……」
「ま、ともかくさっさと片付け……」
そう、誰もがWと杏子の勝利、ナスカ・ドーパントの敗北を確信した時だった。
ナスカ・ドーパントの光弾によって僅かに開いた杏子のデイパックが揺れ動き出したのだ――
「何だ?」
「さぁ?」
「……!」
何が起こっているのかわからない2人(3人)、その間にもデイパックの揺れは大きくなりその口はナスカ・ドーパントの方を向く。
だが、ナスカ・ドーパントだけは何か気付いた様だ。
「そう……そこにあったの……」
今までは何処か籠もっていたせいか誰の声か性別すらも判明できなかったが今度は明らかな女性の声が響く。
「!?」
「翔太郎、杏子ちゃん、あのデイパックに何か変わったものは無かったかい?」
「いや、フィリップが言う様な変なものなんて無かったよな……」
「ああ、確かせつなの持っていたものに使えるもの何て……」
「急げ翔太郎! 取り返しの付かない事になる前に」
「何だって? どういう事だ?」
フィリップはこの後に起こる危機を予見した。
恐らく、あのデイパックの中には目の前のナスカ・ドーパントにとっての切り札が眠っている。
仮にその人物が殺し合いに乗っていた場合、みすみす強化する結果となってしまう。それだけは阻止しなければならない。
だが――
「来て! 道ちゃん!! 私はここよ!!」
杏子とWが次の行動に入る前にナスカ・ドーパントが叫ぶ――
その声に呼応し――
デイパックの口からあるものが飛び出し――
ナスカ・ドーパントへと飛び込み強烈な光を放った――
そして飛び散る服の破片――
「何だ……何が起こったんだ……」
「見ろよ兄ちゃん……」
そう言われ視線の先には――
ナスカ・ドーパントの姿はなく――
伝説の道着を纏った少女――天道あかねの姿があった――
Passage 06 The selected martial artist
伝説の道着――持ち主の潜在能力を引き出す文字通り伝説の道着、
しかし、着る人を選ぶそれは道着自身が主人と認めた者しか着る事を許されない――
その一方で着てくれる主人を求めて夜泣きまでしていたという――
そしてその選ばれた真の武道家こそが――天道あかねだったのだ。
天道あかねも参加させられている以上、伝説の道着が誰かに支給されてもなんらおかしい事ではない。
但し、仮面ライダーや魔法少女の変身ツールと違い、あかねにとってのそれは変身に関係ある道具とは言いがたい。
それ故にあかね本人に支給されず、別の参加者に支給されていたのだ。
ちなみにその支給先は泉京水――正直、道着にとっては災難以外のなにものでもない。
好き勝手動ける道着であってもこの地では制限のせいか好き勝手は動けない。それでも京水から離れたいとずっと願っていた。
『……その服、なんか私に助けを求めている様に見えるのは気のせい?』
せつははそう口にしていたが実際その通りだったのだ。道着は本気で京水の元から離れ一時的でもせつなの所に行きたいと願っていたのだ。
その後、紆余曲折を経て道着は交換という形でせつなへと譲渡され――せつなの死後、彼女の所持品共々杏子の手に渡ったというわけだ。
そして今の戦いにより開かれたデイパックの先に見えたのだ――ナスカ・ドーパントに変身したあかねの姿が。
もしかしたらと思った、だがまだ確証がなかった――
だが、あかねの声を聞き――確証を得た道着は本来持つべき主人の下へと戻ったという事だ。
「なぁ、メモリはどうなったんだ?」
「服が飛び散った事から考えて、排出されて近くへと飛んだのだろう。すぐにでも回収すべきだ」
「……」
そう会話をする杏子とフィリップを余所に翔太郎は何か考えている様だった。
「そういえば……メモリを探さないと」
一方のあかねは道着を装着する際に一度排出されたメモリを探すべく周囲を見渡すが。
「悪いが嬢ちゃん……あんたにそれをさせるわけにはいかねぇ」
と、Wが口にする。
「どいて、今貴方達とやり合うつもりはないわ」
「けっ、そっちはそうでもこっちはそういうわけにはいかねぇんだよ。聞きたい事も出来たしな」
落ちていたデイパックを拾い上げた杏子は再び槍を構える。
「そんなチンケな道着きた所で何が変わったか知らねぇけどまた叩きつぶしてやるだけさ」
「言っておくけど、私と道ちゃんの力甘く見ない方が良いわよ」
「道着を道ちゃんなんて呼ぶ様なロマンチストなんかに負けたら世も末なんだよ!!」
そう言い放つ杏子に対しあかねの方も構える。
「翔太郎、どうやら彼女達はやるつもりの様だ、僕達も……」
「フィリップ、俺達はメモリを探すぞ」
「? 翔太郎、まさか君は……」
その時、
「待て待てまてぇぇぇぇぇぇぇい!!」
その時、1人の半纏姿の男性が戦場へと現れた。
「何だ?」
「彼はいったい?」
「寿司屋か?」
「梅盛さん……」
新たな乱入者に対し3人(4人)は思い思いの反応を見せる。あかねだけが名前を呼んだところ知り合いらしい。
「やっと追いついた……ってアンタエターナルの仲間か!?」
と、Wを見て驚愕の声をあげる。
「アイツと一緒にするんじゃねぇ!!」
「……って事は味方って事でいいん……だよな?」
「どういうことだ……?」
「どうやら前にエターナルの襲撃に遭ったという事だね、君の様子を見る限りエターナル大道克己は殺し合いに乗っている。それで間違いはないね、梅盛源太」
梅盛源太の僅かな言動からフィリップは仮面ライダーエターナルこと大道克己の動向を看破し源太に確認を取る。
「あ、ああ……あれ、俺名乗ったっけ?」
「この殺し合いに誰が参加しているかは翔太郎から聞いた。そして今彼女が梅盛と呼んでいた……参加者の中で梅盛はたった1人、そういうことだよ」
「すげぇなあんた」
「ちっ……大道の野郎は乗っているのかよ……予想していなかったわけじゃねぇが……」
「なぁ、1人の身体から2人の声が聞こえるんだけど気のせいか?」
「てめぇらコントやってんじゃねぇよ!!」
そんなやり取りを繰り返す男2人(3人)に対し思わず杏子がツッコミを入れた。
「そうだそうだ、悪ぃな嬢ちゃん……」
「それで、何をしに来たの梅盛さん?」
そう問いかけるあかねに対し、
「決まっているだろ、姉ちゃん、あんたを止めにだよ」
強気で応える源太であった。
「おい、梅盛……あの子に何があったか知っているのか?」
「ああ、ついさっきあの姉ちゃん、彼氏……許嫁の兄ちゃんを亡くしちまって……」
「………………その人を殺したのは白と金の怪人じゃなかったかい?」
「!! ああ、確かにその通りだ……なんでわかったんだ?」
「マジかよ……」
その言葉を聞き翔太郎は内心で落胆する。
つまり結局ダグバを仕留める事は出来ず、ダグバはその後も参加者を惨殺し続けてきたという事だ。
「彼女の持っているメモリは元々白と金の怪人……ン・ダグバ・ゼバが所持していたものだ。だがそのメモリを何故か彼女が持っていた……
恐らく、ダグバの襲撃を受け彼女の許嫁……婚約者と言うべきかな、彼が命を落とした……だが何とかメモリを奪取する事に成功して彼女がそれを手に入れた……といった所だね」
「そしてアンタはその婚約者……恋人を殺された復讐をする為に……」
そう語る2人に対し、
「……探偵みたいな喋り方をするのね」
「探偵みたい……じゃあない、僕達は探偵さ」
「左翔太郎……」
「僕はフィリップ……2人で1人の探偵であり……」
「仮面ライダーWだ……」
「随分変わった探偵もいたものね……でもね探偵さん達……1つ間違っているわ……私は復讐するつもりなんて無い……今度は私があいつを『守る』、その為に……」
「守る? どういう事だ?」
「!! まさか……」
「ああ、その通りだ、姉ちゃんの奴、その兄ちゃんを生き返らせる為に殺し合いに乗っちまったんだ……」
その言葉に2人(3人)は衝撃を受ける。
「馬鹿な、加頭の言葉を信用するというのか?」
「冗談じゃねぇ、こんな悪趣味な事やっている連中が素直に約束を守るわけねぇだろ」
2人(1人)はどうやら加頭の事を知っているらしい。
勿論、それ自体はあかね自身も理解している。連中の言葉を素直に鵜呑みにしてしまう程あかねも愚か者ではない。
だが、他にどんな方法がある? 他に方法がない以上それに縋るしかないだろう?
「大体姉ちゃん……さっきも言ったが兄ちゃんがそんな事を望むと思ってんのかよ!」
そう源太があかねに言い放つ、先程と殆ど何も変わらない言葉でしかない。
「知った様な事をいわないで! 梅盛さんなんかに私の気持ちなんてわからないわ!!」
そう言って急速に源太へと間合いを詰める。
「なっ、速い!?」
先程までとは打って変わった動きに一番近くにいた杏子も対応出来なかった。
「くっ……スシチェンジャー」
――イラッシャイ!!――
「スシディスク」
源太は手持ちのスシチェンジャーにスシディスクを装填、さながらそれは寿司を握るかの様に――
「本当に寿司屋かよ!! なんで食べ物なんだよ……」
思わずツッコんでしまう杏子を余所に、
「一貫献……」
だがそれよりも速くあかねが懐に入り――
一撃目、差し出されようとしていたスシチェンジャーを蹴り飛ばし――
二撃目、そのままアッパーカットで源太を高く殴り飛ばし――
三撃目、落下する源太を両脚で挟み込みそのまま抱きかかえ地面へと叩き付けた――
「何なんだアレは……さっきと全然動きが違う」
先程までのナスカ・ドーパント、つまりはあかねの動きは戦い慣れているWや杏子から見れば素人レベルでしかなく対処そのものはそう難しいものじゃない。
だが今の動きは拳法の達人レベルのものだ。
「伝説の道着……まさか本当だったのかよ……」
「ああ……フィリップ……説明してなかったがそいつを着た奴は潜在能力を限界まで引き出すとあった……眉唾ものだったが本当だったとはな……」
「杏子ちゃん、確か君が持っていたんだよね、どうして君が着なかったんだ?」
「あんな胡散臭いもん着る気になんてならねぇよ……それにあたしに合うサイズじゃねぇし……」
「翔太郎!」
「どう見ても女物だろうが! ハードボイルドがそんなもん着られるわけねぇよ!!」
「破ぁっ!!」
そんな2人(3人)を余所にあかねによる猛攻は続き、最後の一撃を受けた源太はそのまま近くのビルの中へと叩き込まれた。
「ああ、寿司屋の兄ちゃん!」
「梅盛!!」
Wと杏子はすぐさまビル内部に突入し源太の安否を確認に向かった。
「どうだ、梅盛の様子は?」
Wは近くに落ちていたスシチェンジャーを回収し源太の近くに起き、源太の様子を確かめていた杏子に問う。
「骨数本持ってかれてるかもしれねぇけど……息もあるみてぇだから大丈夫だと……」
「そうか……」
そんな中、あかねの方はW達に構うことなくナスカのメモリを探していた。
「ちっ、どうやら本当に私らとやり合うつもりはねぇみたいだな……けどどうする兄ちゃん? メモリを見つけられたら面倒な事に……!?」
と、Wへと視線を向けた杏子は驚愕した。目の前のWが変身を解除し元の翔太郎の姿に戻っていたのだ。
「杏子……すまねぇコイツを預かっててくれ」
そう言ってダブルドライバーを杏子に渡す。
「え、ちょ? 何考えてんだ?」
「幸い、あの道着を解除する方法は判っている。今からそれをしにいくだけだ」
幸か不幸か説明書きがあった為、道着の弱点については杏子も翔太郎も把握している。
「ちょっと待てよ兄ちゃん……その方法って確か……」
主人の武道家が異性に心を奪われると二度と着る事が出来なくなる。つまり――
「ナンパしに行くつもりかよ!? 兄ちゃん、言っちゃ悪いけど兄ちゃんには無理だと思うぜ。なんだか兄ちゃん女に縁無さそうな顔しているしさ……」
「違ーよ! それにさりげなく失礼な事言ってんじゃねぇ!! もう1つの方法だ、もう1つの……」
もう1つは道着の帯にある解体ボタンを力一杯殴るというものだ。
「だったらなおのことわけがわからねぇよ、それならなんで変身を解く必要があるんだ?」
その通りだ、変身している状態ならばいかに相手が達人級の力を持っていても対応出来ないレベルではない。
「今の奴はドーパントでも怪人でもない服を着替えただけの只の人間だ……人間相手に仮面ライダーの力を使う気はねぇよ。そいつを身につければフィリップと話が出来る、何かあったらフィリップに聞いてくれ」
そう言ってあかねの元へと向かおうとする翔太郎、
「待ってくれ、あたしも……」
「俺1人にやらせてくれ、気になる事もあるからな……それに杏子……まだアレ使ってねぇんだろ? これから戦うつもりなら俺が戦っている間に……」
「兄ちゃん……」
そう言って翔太郎はビルを出て行った――
Passage07 Half Boiled eXtreme
「何処に落ちたのかしら……この辺りだと思ったけど……」
ガイアメモリを探すあかねの側に――
「何か探し物かい、綺麗なお嬢さん……」
帽子を構えた翔太郎が話しかける。
「何言ってんのコイツー!?」
一連の様子を見ていた杏子は思わず口にせずにはいられなかった。
すぐさまダブルドライバーを装着し
『翔太郎、大丈夫か!?』
「フィリップの兄ちゃん、あのバカの兄ちゃん何とかしてくれよー!!」
フィリップへと連絡を取る。
『杏子ちゃん……やっぱり翔太郎は……』
「やっぱりって兄ちゃんも気付いてたのかよ!?」
「その声……もしかして探偵さん」
「左翔太郎だ……お嬢さんが探しているのはガイアメモリだろう?」
「ええ、そうよ」
「お嬢さんにはそんなものは似合わねぇ……涙も人を泣かせる様な事もな……」
そう口にする翔太郎に対し――
「………………ふっ」
ほんの一瞬笑みを浮かべ――
「ばっっっっかじゃないの?」
白けた様な顔で言い放った――
「当たり前だー!!」
当然と言えば当然の返答に杏子も口にせずにはいられない。
『何が起こったが当ててあげよう、翔太郎はあの女の子に歯の浮くような台詞を口にした……だがそれは通じなかった、違うかな?』
「その通り過ぎて泣けてくる……」
『ハーフボイルド……』
「私の事をナンパして道ちゃんとの仲を裂く作戦でしょ、引っかかるわけないでしょ」
「いや、今の言葉は俺の本心だ。アンタに涙も人を泣かせる様な表情も似合わねぇよ……そしてガイアメモリもな」
「……だから何?」
「あんたに街の人々を泣かせるわけにはいかねぇ……ガイアメモリは回収させねぇよ……」
「そう……だったら探偵さん、相手になってあげる」
そう言って翔太郎へと闘志を向ける。
「来な……」
その言葉と共にあかねが急速に間合いを詰め、
「破ぁっ!!」
拳を翔太郎へと振りかざす。だが翔太郎は上手く後方に飛びそれを回避し拳はそのまま地面を殴りつけ――
巨大なクレーターを作り出した。
「ちっ……なんてパワーだ……」
「ところでどうして変身を解除したの? 私と道ちゃんの力はさっきも見たからわかる筈よ? 変身しないで相手になんて……」
「ドーパントでも何でもない只の人間相手に仮面ライダーの力を使う気はねぇ!!」
そう言いながらも翔太郎は体勢を整えあかねの攻撃に備える――
『杏子ちゃん! 翔太郎はどうなっている? 状況を教えてくれ!?』
「あの姉ちゃんの攻撃を何とか紙一重でかわしているけど……防戦一方だ」
あかねの猛攻を翔太郎はすんでの所で回避し続けている。
『その力はさっきも見たが……本当に凄いのか?』
「さっきまではシロウトレベルだったのが急激にベテランになったって感じだ……なぁフィリップの兄ちゃん……なんで左の兄ちゃんは変身もしねぇで向かっていったんだ?
兄ちゃんだってわかるだろ? Wに変身したままの方がずっと良いって」
『杏子ちゃん……今の彼女はドーパントじゃなく特別な服を着た以外は只の人間だ。潜在能力を100%まで引き上げただけで肉体そのものは全く変化していない。そんな彼女にメモリの力をぶつけたら……』
「それはわかるけどよ……」
『僕達は例え街を泣かせる悪人であっても只の人間にメモリの力は使わない……君だって魔法少女としての力を普通の人間に振るったりはしないだろう?』
「そりゃまぁ……」
『君が甘いと考えるのはわかる……でもこれが僕達のやり方だ……だから今は翔太郎を信じてくれないかい?』
翔太郎が無謀な挑戦をしているのはフィリップ自身理解している。
だが、仮面ライダーとして今のあかねにその力を使うわけにはいかない。
恐らくドーパントの変身が解除された時から翔太郎はそれを考えていたのだろう。
フィリップはそれを理解し認めているからこそ信じているのだ。
「でも、どう考えても無茶じゃ……そうだ、左の兄ちゃんに何かすげぇ力なんかないのか? ああいう相手を一発で倒せちゃう様な魔法とか凄い才能とか……」
余りにも都合が良すぎる話だ。そんなものが無い事ぐらいわかりきっている。それでも何とかそれを願わずにはいられない。
『そんなものはないよ。翔太郎には何の特別の力は無い、組織に選ばれるような知能も無い……ガイアメモリへの耐性だってもっていない男さ……
Wだって本来ならば鳴海荘吉……あるいは照井竜と僕が変身すべきものだった……母さん……園咲文音ことシュラウドはそう考えていた……』
そういえば仮面ライダーとなったのは成り行きだって言っていた。
『探偵としてもハードボイルドとは遠くかけ離れた半人前、ハーフボイルド……弱い男さ、左翔太郎という男は……』
「ちょっと待てよ! あんた相棒だろ? なんで相棒をそこまで悪く言うんだ!?」
翔太郎が相棒にそこまで悪く言われて我慢が出来ない杏子だった。
確かに甘いという事はわかるがそこまで悪く言われる様な事でもないだろう。何より何故一番信頼できる相棒に言われなければならないのか?
『だけど……それは彼が心の優しい男である事の証明でもある。翔太郎はハーフボイルドだからこそ何かをやる男だ……これは僕じゃなく、亜樹ちゃんの言葉だけどね……』
「兄ちゃん……」
『強いだけのWに価値はない……彼の優しさがあるからこそのWなんだ、それが弱さだとしても……僕は受け入れる』
だが違っていたのだ。フィリップは誰よりも翔太郎の事を信じているのだ。今の言葉だけでそれを理解できた。
「……けどよ、状況は全く変わってねぇよな?」
杏子とフィリップが話をしている間も戦いは進んでいく。
「はぁっ!!」
「がぁっ!!」
あかねの攻撃で壁へと叩き付けられる。だがそれでも翔太郎は立ち上がってくる。
「まだ立てるの?」
「ああ、この程度の攻撃なんて事ねぇよ……」
そう言いながら翔太郎は帽子を整える。
「そう、だったら次で……」
と再びあかねが翔太郎へと迫る――
「……これじゃジリ貧じゃねぇか? 本当に大丈夫なのかよ?」
『大丈夫だ杏子ちゃん……翔太郎は1人でも戦えるぐらいの強さを持っている』
「けどフィリップがいなけりゃWにだって変身出来ねぇんだろ?」
『……僕はつい最近まで……1年ほど翔太郎の元から消えていた』
「え?」
『その間……翔太郎は1人で戦っていた……僕の残したドライバーとジョーカーのメモリで仮面ライダージョーカーとして……』
「よくわかんねぇんだけど、ジョーカーのメモリって事はメモリ1個しか使ってねぇんだろ? Wと比べて半分しか力出せねぇんじゃ……」
杏子の言う通り、ロストドライバーとジョーカーのメモリで変身する仮面ライダージョーカーは2つのメモリを使うWと比較しても単純計算で半分の力を出せない。
またWの特性であるメモリチェンジも行えない為、Wの時には使えた多彩な能力は使用出来ず、ジョーカーのメモリが持つ切り札の記憶しか活かせない――
『だが、それでも翔太郎は1年間戦い続けた……』
しかしそれはジョーカーが弱いという事ではない。ジョーカーの力により翔太郎の運動能力は極限まで高められる――それ故に格闘戦だけならば他のライダーと比較しても劣らない強さを持っている。
『だからこそ……単純な格闘戦だけならば……そう簡単に負けたりはしない!』
勿論今現在翔太郎は変身すらしていない為その力は全く発揮されていない。
だが、メモリの力無くとも、1年間単身ジョーカーとして戦い続けた経験、そして更に2年間フィリップと共に戦い続けた経験もある。
それだけの経験をもつ翔太郎なのだ、その格闘能力は並の格闘家にだって負けはしない。
『……正直意外だったよ、杏子ちゃんがそこまで翔太郎の事を心配してくれていたなんて』
「ば、ばか、そんなんじゃねぇよ、フェイトやユーノみたいに馬鹿やって勝手に死んでほしくねぇだけだ」
『優勝狙いだったとは思えない口ぶりだね』
「兄ちゃん……悪魔みたいな奴だって言われねぇか?」
『昔はそんな感じだったよ』
翔太郎の事を必死で心配する杏子の言動からフィリップの中で彼女に対する疑心は既に消えていた。翔太郎が信じた様に自分も彼女の事を信じようと思った。
『それよりも……問題はこの後だ、もし彼女がメモリを手に入れたら流石に変身しないわけにはいかない。そういえば杏子ちゃん、ソウルジェムの調子は大丈夫なのかい?』
振り返ればあれから随分と激闘を繰り返し消耗している。もうそろそろソウルジェムも限界ではなかろうか?
「ああ、それだったら心配ねぇよ……」
と、デイパックからグリーフシードを取り出した。それは姫矢の所持品の中にあったものだ。
ちなみにこのグリーフシードは姫矢と行動を共にし彼に自身の荷物を預けさせた血祭ドウコクに支給されていたものである。
先に確認した時に既に見つけていたが杏子はそれを今現在も使わずにいた。
何故使わなかったのか――温存するという目的もあったかも知れないだろう。
また一方で心の整理がつかなかったのだろう――姫矢からネクサスの光を受け継いだ事――そして――
「そうだな……」
杏子は翔太郎に猛攻を繰り出すあかねのある一点を見る――
「やっぱ、あのまんまにはしておけねぇか」
せつなから託されたリンクルン、つまりはプリキュアの力――
『? まあいい、それより杏子ちゃん、1つ頼まれてくれないかい?』
「がはっ!」
あかねの一撃をうけまたしても地に伏せられる翔太郎。
「もう諦めたらどう?」
「誰が諦めるかよ……」
それでも翔太郎は立ち上がってくる。
「ぐっ……何処にそんな力が……」
翔太郎が何度もあかねの攻撃を受けても立ち上がれるのには幾つか理由がある。
1つはあかねの攻撃を見極め寸前で受け身を取る事に成功している点、
1つは密かに仕込んだ『あるもの』による点、
そしてもう1つは――
「なぁ、本気で考え直す気はねぇか?」
勿論、それはある人物を『守る』為に殺し合いに乗る事だ。
「悪いけどそんなつもりはないわ」
「俺達全員を殺すって事か? 悪いがお嬢さんには無理だ」
「何ですって……」
「さっきも言った筈だ……人を泣かせる事は似合わねぇと……あんたには無理だ」
「そんな事……」
「だったらなんで俺は今も立っていられるんだ? いいや俺だけじゃねぇ、梅盛も命に別状はなかった。
わかるか? あんた自身人を殺す事を迷っているんだ。そんなあんたに……優勝は無理だ」
「ぐっ……」
もう1つ、それはあかね自身無意識の内に手加減をしてしまっているという事だ。
だからこそ翔太郎はあかねから受けるダメージを最小限に抑える事が出来たのだ。
ちなみにこれはナスカ・ドーパントと戦った時からどことなく感じていた事だ。
あまりにも手ごたえがなさ過ぎる――そして、あれだけの猛攻を受けたにも関わらず源太の命に別状がなかった事でハッキリと感じたのだ。
あかねは本気で他人を殺そうとしていないのではないか? という事に、
「あんたはそんな平然と人殺しが出来る様な血も涙もない悪女じゃない……心の優しい女だ……そんなあんたに人殺しなんて出来ねぇよ……」
翔太郎の言っている事はわかっている。何しろ優勝するなんて言っておきながら未だに『殺す』なんて言葉すら口に出来ないのだ。
「そんなあんたに惚れられたんだろう……あんたの彼氏は本当に幸せ者だ……その彼氏の為にも……」
「そう……だったら……もう手加減はしないわ!」
だが、天道あかねはそう言われてはい引き下がります、と素直に言えるような人物ではない。
ここまで来たら半分は意地でもある。絶対に引くわけにはいかない。
「やっぱこうなるか……」
「何を企んでいるかなんてわかっているわ、隙を突いて道ちゃんのボタンをぶん殴る、そうでしょ?」
「お見通しってわけか。良いぜ、一撃で決めてやる。だからあんたもこの一撃で決めるつもりで来いよ」
あかねには翔太郎の意図がわからないでいる。だが、何時までも翔太郎1人に構っているわけにはいかず、ビルの中にはまだ杏子とフィリップがいる筈だ(あかねはフィリップがWに変身している時しか出られない事を知らない)。
ならば翔太郎の挑発に乗り文字通り一撃で終わらせる。そう考えてあかねは構えを取る。
「来いよ……」
「でぃりゃぁぁぁぁぁ!!」
そしてあかねは走り出す。一方の翔太郎は動かず構えたまま。
「(カウンター狙い?)」
翔太郎の狙いをカウンターとあかねは読んだ。確かにそれならば僅かながら翔太郎にも勝機はある。
女子高校生であるあかねと青年男性である翔太郎を比べた場合、翔太郎の方がリーチは長い。
リーチが長い分、あかねの攻撃が届く前に翔太郎の攻撃が届く可能性が十分にある。
「(だったら……)」
と、あかねは地面を蹴り上げ高く飛び上がった――
空中からの跳び蹴り、伝説の道着で潜在能力を100%引き出した状態ならばその破壊力は絶大。
「だぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
そして蹴りの体勢を取る――
その動きは速く、そして強く――
まるで稲妻の様であった――
その稲妻の様な蹴りに対し翔太郎は――
突如懐から無数の箸袋を展開した――
「(なっ……)」
視界が僅かながら遮られる事で狙いが定まらない。
命中しても想定よりも与えられるダメージは小さいだろう。
だがそれでも構わない、このまま蹴り抜くだけだ――
そして蹴りは程なく翔太郎の腹部へと――
「ぐっ……」
だが翔太郎はその蹴りに耐える――
「届いたぜ――道着の根源!!」
そしてそのままあかねの腹部に拳を叩き込んだ――
そのままあかねは数メートルほど吹っ飛ばされた――
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最終更新:2014年05月20日 21:57