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軍服の男──ガドル──が鉄の馬、現代でいうバイクに跨がってから数分後。
先程から追ってきていた一筋のタイヤの跡が無くなっているあたりに、"それ"はあった。
そして、”それ”はすぐに彼の目に飛び込んできた。

「何だ、これは……」

先程までガドルが下り降りてきていた山道とは違い、そこは少し開けていた。
故にこそ、その異変は、すぐに彼の目に留まったのであろう。
自分以外誰もいないというのに、思わずリントの言葉で驚愕の意を示しながら、彼はゆっくりと"それ"に近づいていった。

──それは、まるで内部から割られたかのような、不自然な割れ目の巨木。

ガドルがするようにただ己の力と剣で切り裂くのと違って、その木の切れ目はどこかしなやかだった。
まるで、木を知り尽くした匠が、一思いにその力を振るったかのような。
ただ暴力ですべてを支配し、すべての価値観が力でしか証明出来ないグロンギ族、特にガドルには縁のないようなそのしなやかさに、数瞬彼は興味を持ったが、しかしすぐにそれは泡となって消える。
何故なら、即座に別のことに興味が移ったのだから。

ふと、不自然な風の流れを感じたガドルが一本の木を見ると、そこにあった木の中央付近に四点ほど完全に貫通した極小の風穴があった。
この太さの巨木を、これだけ小さな点で貫通させるというのは、恐らくは強力で小さな"あれ"が必要だろう。恐らくはそれなりの反動を伴うような。
と、そこまで考えて、ガドルはフッと息をついた。

(これは……、戦闘があったというよりは、"力を試した"、といった方が適切か?)

そう、ガドルはこの光景を最初、先程逃した「イシボリタイイン」という、自分を気絶させたリントと、「フクタイチョウ」という地位についている女のリントがここで何者かと戦闘を行った形跡ではないかと疑ったのだ。
しかし、すぐに否定した。
この巨木は先程いったように力任せではなくしなやかに折られている。

故に戦闘の途中で勢い余って切ってしまったというには、少々説得力に欠けると考えたのだ。
そして見つけた巨木に空いた複数の風穴。
これは、ガドルも元の世界でもこの世界でも受けたことのある「銃弾」によるものだと考えて、まず間違いない。
そして、巨木を貫通できるほどの威力を持ちながらあそこまで小さな弾丸を発射できるものに、ガドルの知り得る中で一人、丁度当てはまる者がいた。

「フクタイチョウ」の変身した、骸骨の戦士のもつあのマグナムだ。

では、尚更戦闘の可能性を疑うべきではないかといわれそうだが、それは違う。
着弾していた木の周りの地面や、他の木、そしてそこから生える葉っぱにまで目を通したが、"一つも弾痕は見当たらなかった"のだ。
それどころではない。この周囲の地面を、踏み荒らした形跡すらないのである。

「随分と、俺の事を見くびってくれた物だな……!」

その結論を出した瞬間、ガドルは、その手を強く握りしめた。
あろうことか奴らは、この破壊のカリスマが文字通り全力で奴らを殺さんと追跡をしていたというのに、その瞬間に"自分の力を試していた"ということになるのである。
なんと許し難いことであろうか。一度倒したのだから、もう一度襲ってきても容易に退ける事が出来るとでも考えていたのか。
一瞬、自分の面子を保つためにか、無意識に"何者かが、彼らを襲って力を奪いそれを試したのではないか"という考えが浮かんだが、すぐに否定した。

この場に来るまでも、この場に来てからもガドルは一切気を抜いていない。
だから、断言できる。
ここに至るまで、見事なまでに戦闘の形跡はなかったと。
であるならば、ここで力を試した者は、自ずと絞られてくる。

まず「フクタイチョウ」は却下だ。わざわざ今まで使っていた骸骨の戦士の力を、ここで試す必要がない。
では、戦闘を介さずに仲間に加わったもの──例えば自分が殺すに値しないと切り捨てたあの黒い鎧の戦士だとか──、これはどうか怪しいところではあるものの、"ゴ・ガドル・バという怪人が襲ってくるかもしれない"と忠告すれば、自分と戦闘を一度もした事が無い戦士は……、少なくとも力を試すなどということはしないだろう。
迎え撃つための待ち伏せであるなら、力を試す前に迎撃の準備をするべきだろうし、先程の黒の鎧の戦士などはその歴然の力の差故、逃げを選択するしかないはずなのだ。

で、あるならば、答えは、一つしかあるまい。

(「イシボリ」、……名簿によれば「石堀光彦」か)

自分を一度は打ち倒したにもかかわらず、この命を奪わず、あまつさえいつ追いかけてくるかわからないこの破壊のカリスマを恐れることなく、自身が手に入れた新しい力を試すような無礼者。

──この男しか、いないだろう。

一度倒したのだから、もう一度来ても結果は見えているだろうと?
むしろ、一度助けてやった命を、捨てにくるような馬鹿ならば今度こそ殺そうとでも?
或いは、自分より力が劣っているのがわかったから、敢えて泳がせておこうとでも?

瞬間、怒りがマックスに達したのか、彼はその真の姿を現す。
格闘態となった彼は、目にもとまらぬ速さで、目の前の木に思い切り拳を振るう。
すると、大地に深く根を張っていたはずのその巨木は、ガドルの拳が開けた穴を中心として、文字通り木っ端みじんに吹き飛んだ。
パラパラと、空中から木の粉が降り注ぐ中、彼はふうと息をついて、自分を落ち着かせた。

とはいえ、その怒りは簡単に収まる物ではない。
どんな思惑があったにせよ、この破壊のカリスマを甘く見ているのは間違いないのである。
自分に止めを指さなかった事以上に、たかが一度勝利を預けたリント如きにここまで下に見られるというのは、屈辱以外の何者でもなかった。

「ビガラパババサズ、ボボザバギンバシグラガボソグ(貴様は必ず、この破壊のカリスマが殺す)」

新たな決意と、燃え上がる殺意を口にしたことで、ガドルにもやっと表面上の冷静さだけでも繕えるほどの余裕が出来てきた。
そうして今一度、ゆっくりと、しかし確かな足どりで、彼はサイクロン号の名を授けられたその疾風のバイクに跨がる。
人が来ても構わぬからとずっとつけていたエンジンを蒸かし、憎き「石堀」を追跡せんとした、そのときだった。

──彼が、新たな違和感に気づいたのは。

「足跡が……、ない……だと?」

そう、あのタイヤ痕の延長線上はもちろんのこと、辺りには足跡どころか人が通った形跡が一切なかった。
もちろん、人が通れそうな山道はすべて見たし、獣道も……、とにかく人が通れそうなところはくまなく見たのにも関わらず、である。
そして、ついでに言っておくなら、ガドルがこれまでにバイクで追ってきた道も、明らかに自分が前々回の時に見たバイク痕と変わらぬものであったため、途中で離脱した、というのは考えられない。

「なるほど、ただ単に遊んでていただけではなかったという事か」

どうやら奴は、ただ自分をおちょくっていただけではなかったらしい。
とはいっても、"自分が思っていたほど敵に見限られていなかった"程度で喜ぶほど、ガドルは落ちぶれていなかったため、先程抱いた怒りは、収まっていないが。

「ふむ、しかしどうしたものか……」

そう、大事なのは自分がこれからどうするかである。
どうしたかはわからないが、追うべきターゲットのわかりやすい痕跡が消えてしまったのだ。
それにここは山道。先程四人を追った時とは違い、今度は行方の検討すらつかない。
故に、ガドルに残された選択肢など、もう一つしかなかった。

「いいだろう、イシボリ……、今は見逃してやる」

セリフだけ聞けば格好はいいが、実際のところ彼は標的を見失ったのである。
故に新しい標的を探し、それと戦うことを選ぶしかない。
とはいえ、石堀を見逃すのはあくまで"一時的"にだ。

この狭い島の中であれば、時間こそかかるかも知れないが、しかし生き残っていけば確実に再戦の機会は訪れるというものだろう。
その時を心の底から待ち望みながら、しかし次の瞬間には彼の心から石堀という男の存在は影を潜めた。

目の先の敵を軽んじ、大きな目標だけを見つめていては負けは免れない。
それは、ダグバとの戦い──ザギバスゲゲル──に執着しすぎてクウガという目の先の敵を軽んじた故に敗北を喫した、前回の生で学んだことだった。
打倒石堀ばかりを考えていては、彼の前に立つ前に死んでしまう。

だからこそ、ガドルは一度石堀のことを──無論、受けた屈辱なども──頭から一旦消し去った。
これでまっさらな気持ちで新たな敵と戦うことが出来るというものである。

「ヌン……!」

小さな唸り声をあげながら全身に力を込めたガドルは、次の瞬間に変身を完了していた。

──ゴ・ガドル・バ射撃態──

強固な甲殻に包まれた厚い筋肉に、刺々しい意匠を施した装飾を装備している。
しかしなにより注目すべきはその緑の目が見据える景色だろうか。
先程まで模っていたリントに似た姿はおろか、彼の他の形態のどれよりも研ぎ澄まされた視力や聴力などの第五感は彼の周囲の状況を恐ろしいまでに正確に把握することが出来る。
そして彼は次に目を瞑る。

視力という、木が鬱蒼と生い茂るこの場では少々効果が薄い五感の一つを自ら無くすことで、他の五感を更に研ぎ澄ますのだ。
そして、視力以上に彼が頼りにするのは、聴覚。
すべての音は、風が運んでくる。
故にガドルはその風からすべてを感じ取るのである。

──精神を集中させろ、全てを聞き逃すな──

──風のざわめく音、木々がその身同士をぶつけ合う音、木の葉の落ちる音──

──川の流れる音、砂利の擦れ合う音──

──自然の中にある音のみだ。この周辺には参加者はいないのかと一瞬思い──

──すぐに考え直した──

「砂利の擦れ合う音……だと?」

そう、元の世界ならいざ知らず、この場には参加者以外には基本的に生物が存在しない──少なくともガドルは一度も見ていない──はずである。
なれば、砂利が擦れ合う音を出せるのは……、参加者しか、いまい。

今一度精神を集中し、先程の音が聞こえた方向へ耳を傾ける。

──聞こえる。

よくよく聞けば、砂利の擦れ合う音が二カ所から発生している。
それだけではない。金属と金属のぶつかり合うような、ある意味聞き慣れた音まで聞こえてくるではないか。
つまりただ川沿いを友好的な参加者同士で歩いているというわけではなく、戦っているということだ。
なれば急がねばなるまい。共倒れなどという残念な結果になる前に、自分も戦いに参戦するのだ。

そう考えるが早いか、彼は変身を解き、サイクロン号に跨がっていた。
自分に掛けられた制限は大体把握済みだ。
制限を掛けられているとはいえ、射撃態の能力を以てしてあの音の小ささならば、悠長にやっている暇は無い。

「待っていろ戦士たちよ……、この破壊のカリスマをな」

ブルルンと心地よい音を立てたバイクは、その名のとおり疾風の如く加速を開始する。
常人には耐えられぬスピードだろうが、ガドルには最早苦でも無かった。
バイクの上で身に風を感じながら、彼は思う。

──今度こそ、皆殺しだと。




「ふう、ここまで来れば、一安心だな」

誰も聞いていないのにそう呟くのは、メタリックイエローの戦士。
そしてその肩には、幾つかのデイパックと、そして一人の女性が抱えられていた。
彼は腰に巻いた不思議な形状のドライバーから、銀の装飾品が取り付けられた赤いガイアメモリを抜き取る。
それを感知したのか、彼の体からその鎧とスーツは消え去っていった。

後に残されたのは、石堀光彦という、どうにも冴えない一人の男である。
しかし彼を見くびるべからず。
ここまでの物語を見てきた読者諸君には最早必要ないどころか聞き飽きた説明かもしれないが、彼の正体はダーク・ザギ。
ウルトラマンの王と呼ばれるウルトラマンキングを倒したこともあるほどの実力者である。

「にしてもガドルの奴、案外あっさり引き下がったな」

彼が今思考するは、先程聞こえていたバイク音を出した主、ガドルに対することだった。
ガドルとは先程の戦いの少し前の時点にも、一度戦いを交わしている。
その際に神経断裂弾という奴やダグバという怪人に特に効くらしい弾丸を撃ち込み、自分たちは撤退した。

ガドルが発した放送に集められた好戦的な参加者との接触を避けるためである。
その理由故にガドルに止めを刺すことさえ惜しんだのだが、しかし奴はその後、決して遅くはない──勿論、暁と黒岩の漫才もどきがなければもっと早く移動できたことは否めないが──速さで移動していた自分たちに、いとも容易く追いついてきたのである。
そして今度は自分がこの場で手に入れた新しい能力、アクセルトライアルの能力によって、彼を見事打ち倒したわけである。

だが、石堀も現状必ずしも殺し合いに乗らないとは決めていない上、もしも邪魔者を消してくれるのならそれは好都合とガドルをまたしても殺さず放置したのだ。
しかし自分のそんな人情深い──ザギ自体は人間ではない故、根本的に人情など無いのだが──配慮も知らず、ガドルはまたも自分たちを追跡してきたのである。
全くもって、迷惑極まりない。

「まぁでも、その分俺の撒き方が上手かったってことだよな」

冗談めいた言い方だが、しかしそれは事実だった。
アクセルとなって凪を抱き抱えあの場を離れたとき、彼はすぐさまブースターに変身し、足跡という自分の痕跡を消した。
バーニアによる空中移動の勝手は、先の戦いで大体把握済み。
なれば、ザギの真の姿でもナイトレイダーとしても空を飛び回っていた彼が周りの木にも凪にもデイパックにも一切の傷をつけずに飛ぶのは、容易なことだった。

幾らなんでもそれはあり得ないのではないかと言われても、あり得ると断言できるだけの材料が、彼にはある。
元々、ザギはウルトラマンの神、ウルトラマンノアをモチーフとして作られたウルティノイドである。
彼に取り付けられた自己進化システム、それはウルトラマンの力を借りずとも自分たちのことは自分たちで守れることを証明したかった科学者たちの英知の結晶だった。

……結局は、ザギ本人に邪悪な意志を植えつけるのに一役買っただけの代物にしかなりえなかったことは、ここでは深く触れないことにしよう。
まあ何にせよ、それのお陰でザギはアクセルブースターの能力を理解し、それに適応できるようにこの場で進化したのだ。
そう、二度目の使用で、破壊のカリスマを完璧に撒けるほどに。

「さて、これからどうするかな」

最早、彼の思考の中心にガドルはいない。
少なくとも次の放送までは恐らく会わないであろう存在のことを考えるのは、無駄でしかないからだ。
故に今の彼にとって一番思考すべきは、自分の今後である。

黒岩、いやメフィストが死ぬのをこの周辺で待つか?

──却下。悠長すぎる。

ウルトラマンの光を持つものを探し、動き回るのか?

──却下。手負いどころか意識すらいつ戻るかわからない凪を抱き抱えて当て所もなく彷徨うのは危険すぎる。

では、何が最善策か。
考えるまでもなかった。

「とりあえず、街に向かうか」

花咲つぼみ一文字隼人とそこで合流するように決めていた上に、メフィストが向かった西側でも無い。
光を持つものと会える可能性もあるため、余程のことが無い限り、石堀はそちらに向かおうと考えたのだ。

「今の時間は……、よし、約束時間の三十分前には余裕で間に合いそうだな」

三十分前行動は紳士の基本だからなと。
そんな軽い冗談をかましながら、歩みだした彼の心は、言葉とは裏腹にどこまでも闇で染まっている。
しかしそれを僅か足りとも見せないから、彼は今まで自分に復讐を誓う女のすぐそばで、傍観者どころか味方として存在できたのだ。

それはこの場でも変わらない。
いやむしろ強敵を相手に単身突っ込んでいき、自身の胸中を察して溝呂木と戦わせてくれた上に無事生還した石堀に対し、凪は一仲間以上の感情を抱いているかもしれない。
そんなことは誰にもわからないが、しかし可能性はあるだろう。

もしかすると彼女の未来は、ダーク・ザギですら予測できない方向へと、転がりだしているのかもしれない。




「……音がしたのは、この辺りか」

ザッ、っと音を立てて鉄の馬より降り立ったのは、破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バである。
彼は「ゴ」特有の学習能力でバイクの扱いを短時間でマスターし、ここまでの道のりをかなりのスピードで走ってきたのだ。
さて戦闘をしていた者たちはどこにいるのかと耳を澄ませ目を凝らせば、川辺の方から強い気配がするではないか。
しかし、さてどんな者かと覗いてみた彼の目に写ったのは、想定外の出来事だった。

「……ッ!?」

戦闘が終わってしまっている、少々残念だが、しかしそんなことは目の前の光景に比べれば、些細なことだ。
そう大切なのは……、そこで倒れている者も、立っている者も、ガドルは知っていたことである。
そう、そこにいるのは、間違いなく自身が倒し、殺したはずの者たちだったのだから。

(どういうことだ……?)

瞬間、頭に浮かぶのは疑問。
倒れているもの──ナスカ・ドーパントも、立っているもの──ダークメフィストも、自身が間違いなく殺したはずである。
殺し損ねた、というのはあり得ない。
両者とも、最後の一撃の際自身がいつもリントを殺すときと同じ確かな手応えを感じたし、ドーパントとやらに変身した男──ガドルは名を知らないが、その名を園咲霧彦という──は文字通り燃え尽き風になったはずだ。
また、あれがかなり変わった逃走手段だったとも考え難い。あの男は戦いの最中で片腕と、下半身を失ったはずだからである。

そして全体的に"闇"を思わせる風貌をしている戦士に変身した男──これまた同様にガドルは名を知らないが溝呂木眞也という──には生身で剣を突き刺した。
出ている血も本物としか思えなかったし、何より呼吸が長時間止まったのを確認した。
演技にしては、出来すぎている。
故にどちらも間違いなく死んだと断言できるのだ。

だのに。
だのにそうして殺したはずの存在が、なぜ目の前にいるのだ?
自身と同じように、生き返ったとでも?

馬鹿な、これは殺し合いの果てに生き残る最後の一人を決めるものではなかったのか。
まさか死人がゾンビとして死後も参加できるわけではあるまい。
では生き返らせたという考えも、却下ということになる。

なれば、一体何が正解なのか。
何をしているのかいまいち遅々として進まない目の前の状況を尻目に、ガドルは思考を巡らせる。
今までの常識はもちろん、ここで聞いた真偽の定まらないような話しも含めて深く思考するのだ、答えを逃さないように……!
と、そんなとき雷の様に彼の脳裏に浮かんだのは、「フクタイチョウ」が話していた興味深い言葉。

──彼の力が失われず誰かに受け継がれている事もあるかもしれないけれど……──

あの時は受け流してしまったが、思えばなかなか興味深い話だ。
「受け継がれる力」、なるほどそう考えれば合点はいく。
確かにクウガの力は遥か昔のリントの戦士からゴダイが受け継いだものである。
その例を、目の前の光景にも当てはめるとするなれば。
思えば、彼らはどちらも──というよりこの場にいる変身戦士は大体そんなものだが──何らかのアイテムを使って変身していた。

それを何らかの手段で手に入れることが出来れば。
或いは、力を"受け継ぐ"ことも可能なのかもしれない。
そんな些細なことを再確認して、ガドルは身震いした。
"この仮説があっているならば、自身と「あの」クウガの再戦は、まだ無くなったわけではない"と。
そんな時、ガドルが思考に専念しすぎて、目の前の状況から数秒気を逸らしていた正にその時に、そこに動きはあった。

「ム……」

筆舌には尽くしがたい音を立てながら、倒れているもの──ナスカ・ドーパントの変身が解除される。
さて、自分が全力のときに思い切り戦いたいたかったと考えた男の力を継いだ者は、果たしてどんな者なのか。

結果そこに現れたのは、正に瀕死の重傷を負った、余りにも小さく脆そうな、少女だった。
女は砂利の上で体を捩らせながら呻き声を上げている。全身の至る所から覗く生々しい傷が、今までの戦闘に よるダメージがいかに激しかったかを物語っていた。

……力を受け継いだのが女性だったからといって、ガドルは特別落胆しなかった。
自身の同族の中にも、メのトップの実力を誇ったガリマ、ネットという極めて難しい文化を理解し活用したジャーザなど、一瞬気を抜けば自身もどうなるかわからないほどの実力者が揃っているのだから、差別など出来ようはずも無い。
そう、ガドルが真にその光景に落胆したときがあるとすれば、それはメフィストの変身が解除されたときだといえよう。

さて激闘を制した者は一体どんな参加者なのか、もしかしたら自分がもう会ったことのある参加者かもしれないなどと期待しながら一瞬辺りを覆った闇が晴れたとき。
そこにいたのは、先程自分が殺す価値もないと考えた、あの黒騎士だったのだから。

「……」

ガドルは、何も言わない。
いや、何も言えなかった。
自身が死力を尽くして殺した実力ある戦士の力を継いだ者同士の戦いに勝ったのは、あろうことか自分が完勝した事のある者だったのだ。

言いようも無い脱力感が、彼を襲う。
先程までの期待が嘘のように、彼ら彼女らと戦いたいという思いは、消えてしまっていた。
受け継いだ"力"にも、受け継いだ"者"にも、自分は勝っているのだ。

それらが合わさったところで、勝てる道理など、全くない。
それに少女は気絶しているし、黒騎士にも先程には無かった傷が見える。
故に今襲いかかっても、自身の満足するような戦いは出来るはずも無かった。

「……」

そこまで考えて、ガドルは、無言でその場から踵を返した。
逃走ではない。
戦士とも呼べないような実力のものが勝者になり得る様な戦場に身を投げたところで、幼稚園児の喧嘩に首を突っこむ中学生のようなもの、見苦しいにもほどがある。

この戦いからは、力を受け継ぐということはあり得る、ということを確認できただけでよしとしよう。
それが実感できただけでも無駄ではなかった。
そんな風に考えなければ、今までの行動が無駄にすぎない。

消えぬ落胆の思いに気を沈めながら、しかしガドルは新たな可能性に心踊らせる。
今まで取るに足らんと倒してきた者たちも、或いは強力な力を受け継いでいるかもしれない、と。
今回は少々タイミングが悪かったが、体調を整え更なる力を身につけたのなら、あの黒騎士とも戦っても良いかもしれない。

そんなことを考えながら、彼は誰にも気づかれぬまま、サイクロン号に跨がり、その場を去って行ったのだった。


【1日目 午後】
【H-6/森】


西条凪@ウルトラマンネクサス】
[状態]:ラーム吸収による意識不明状態、身体的ダメージ(小)
[装備]:コルトパイソン+執行実包(2/6) 、スカルメモリ&ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×3(凪、照井、フェイト)、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×18、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×4)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、ランダム支給品1~4(照井1~3、フェイト0~1)
[思考]
※あくまで意識不明となる前の思考です。
基本:人に害を成す人外の存在を全滅させる。
0:溝呂木……。
1:黒岩省吾をどうするべきか(その思いは更に強力に)、涼村暁の事は……。
2:状況に応じて、仮面ライダースカルに変身して戦う。
3:孤門と合流する。
4:相手が人間であろうと向かってくる相手には容赦しない。
5:黒岩省吾の事を危険な存在と判断したら殺す。
6:暗黒騎士キバ、ゴ・ガドル・バもこの手でいつか殺す。
[備考]
※参戦時期はEpisode.31の後で、Episode.32の前。
※さやかは完全に死んでいて、助けることはできないと思っています。
※まどか、マミは溝呂木に殺害された可能性があると思っています。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※黒岩省吾によってラームを吸収されました。そのため、黒岩省吾がラームを吐き出すか、死亡しない限りは意識不明のままです。


【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、凪を抱えて移動中。
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ+T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×3(石堀、ガドル、ユーノ)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、不明支給品1~4(ガドル0~2(グリーフシードはない)、ユーノ1~2)
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する。
0:凪の身体を守りながら、市街地に向かう(ただし爆発が起こったエリアや禁止エリアを避ける)。
1:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。
2:今、凪に死なれると計画が狂う……。
3:孤門や、つぼみの仲間、光を持つものを捜す。
4:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
5:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。


【1日目 午後】
【H-4/森付近】


【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(大)(回復中)、右脇に斬傷(回復中) 、肩・胸・顔面に神経断裂弾を受けたダメージ(回復中)、胸部に刺傷(回復中)、サイクロン搭乗中
[装備]:サイクロン号@仮面ライダーSPIRITS、スモークグレネード@現実×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガ、京水のムチ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×8(スバル、ティアナ、井坂(食料残2/3)、アクマロ、流ノ介、なのは、本郷、まどか)、東せつなのタロットカード(「正義」を除く)@フレッシュプリキュア!、ルビスの魔剣@牙狼、鷹麟の矢@牙狼
[思考]
基本:ダグバを倒し殺し合いに優勝する。
0:参加者を探す(黒岩、あかねは戦う価値がないので現状は放置)
1:凪、石堀を殺す。
2:強者との戦いで自分の力を高める。その中で、ゲームとしてタロットカードの絵に見立てた殺人を行う。
3:クウガを継ぐ者がいるなら、再戦し、今度こそ完全なる勝利を収める。
4:体調を整え更なる力を手に入れたなら今まで取るに足らんとしてきた者とも戦う。
※死亡後からの参戦です。
※フォトンランサーファランクスシフトにより大量の電撃を受けた事で身体がある程度強化されています。
※フォトンランサーファランクスシフトをもう一度受けたので、身体に何らかの変化が起こっている可能性があります。(実際にどうなっているかは、後続の書き手さんにお任せします)
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※ナスカ・ドーパント、ダークメフィストツヴァイを見て、力を受け継ぐ、という現象を理解しました。


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Back:Jなき戦い/夢想者─デイ・ドリーム・ビリーバー─ 石堀光彦 Next:暁の決意!決着は俺がつける!!
Back:Jなき戦い/夢想者─デイ・ドリーム・ビリーバー─ 西条凪 Next:暁の決意!決着は俺がつける!!
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最終更新:2014年06月19日 10:01