私のすてきなバイオリニスト(前編) ◆gry038wOvE



 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。






 さて、こちらの話もしなければなりません。花咲つぼみ、響良牙、涼邑零の三人と、人魚の魔女・美樹さやかとの話です。
 勿論、つぼみたちも魔女の在りかを探していました。

「さやか、開けてください」

 そして、その入口を見つけたのは、彼女でした。
 つぼみが、さやかに声をかけているのです。心を閉ざし、同時に己の不義と恋の終わりとを知った一人の魔法少女に、つぼみは優しく声をかけました。
 魔女がこの先に結界を作っているようです。
 つぼみにも内面では恐怖を抱えています。この先にいるさやかを果たして本当に救えるのか、それともやむを得ない判断をする事になるのか、あるいは自分がやられてしまうのか。
 しかし、つぼみは信じました。

「お願いです、さやか」

 つぼみが何度呼んでも、さやかは答えませんでした。
 魔女の方も、目の前の獲物を狩るつもりがあるのかないのか、判然としません。
 零が言いました。

「駄目だ、結界が張られている」
「あんた、入り方はわからねえのか?」
「まあ、普通の結界なら俺でも大丈夫なんだが、こういう特殊な結界は魔戒法師の力を借りない事には──」

 つぼみ自身の呼びかけで開くしか術はないのですが、どうやらそれも希望できそうにありません。さやかの方から出入りを拒否しているのです。
 さやかの感情による物ではありませんでした。
 何より、魔女にとっての天敵を中に入れる意味はありません。もっと力を持たず、エネルギィとして利用できそうな物を入れなければならないのです。

「────無駄だ、キュアブロッサム」

 そんな声とともに三人の後ろに誰かの姿が現れました。
 ふと、後ろを振り返ると、そこには三人にも見覚えのある男がいます。
 参加者ではありません。つまり、唯一統率下にない天道あかねではないという事です。

「男爵!?」

 かつて、最初の放送を彼らの前で読み上げた、サラマンダー男爵なる砂漠の使徒の貴族でした。エメラルドのような翠の瞳や、赤色のウェーブの髪は、近くで見るといっそう綺麗でした。もし普段ならば、高いシルクハットを外し、一礼してくれるのでしょうが、今の彼はそれほど余裕のある状況ではありませんでした。
 彼は、至極当たり前のような顔でそこにいます。

「てめえっ!!」

 主催者、という印象しか抱いていない良牙と零とは咄嗟に構えました。
 いつでもつぼみを守れる体制のようです。しかし、ここで主催側の人間が介入してくるのは不自然な話でした。制限解除というわけでもないようです。
 もし、本当に制限解除であれば、彼はこうして良牙や零の前には現れないはずなのです。

「おいおい、やめろよ。俺はこの中に入る手助けをしてやろうって思っただけだぜ」

 彼は崩した口調でした。
 もっと紳士的な口調で話す時もあるのですが、目の前の相手には騎士としてではなく、協力者としてやって来たのが今の彼でした。
 つぼみは、元々サラマンダー男爵が強い悪性の心を持っている人間ではないと信じています。ただ、積極的に人を守ろうと言うほどでもなく、あくまで中立的で周囲に無関心な人間とだけ考えていました。
 ただ、今回の場合は、自分に危害は与えないだろうという事だけ頭の隅に入れながらも、やや険しい表情と声色でサラマンダー男爵に言いました。

「男爵……お久しぶりですね」
「久しぶりだな、キュアブロッサム。さっきも言った通り、俺はお前たちを手助けする為にここに来てやった。さっさと用を済ませよう」

 サラマンダー男爵は、どうやら切羽詰まった様子でした。

「手短に話そう……この結界の中でな」

 そう言うと、サラマンダー男爵は結界とこの場所を繋ぐ宝玉を取り出しました。
 光輝く宝石ですが、それは彼女たちの知るソウルジェムという物ではありませんでした。
 ジュエルシード、と呼ばれる危険な宝石でしたが、それはその結界をこじ開けるのには充分な力を持っていました。






 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。






 そして、彼女たちもまた、気づけば魔女の結界の中にいました。

 彼女たちもまた、佐倉杏子たちとはまた違った形で、ここにいる人魚の魔女──Oktavia_Von_Seckendorffの世界に導かれたのでした。
 結界の中は、魔女それぞれで違いますが、その世界はオーケストラの音が鳴り響いていました。
 愛しい人への「恋慕」の情が、彼女の中の闇を作り出してしまったのです。
 その交響曲の音が、彼らの背筋を凍らせました。

「……罠じゃないだろうな?」

 水族館の中を歩くように、水槽で囲われたトンネルを歩く四人。その内、零が先頭のサラマンダー男爵を疑り、そう訊いたのでした。
 勿論、真っ先に疑うべきは罠の可能性です。
 この昏い海の底のような場所で、サラマンダー男爵は何をしようというのでしょうか。

「まあ、そう疑うな。もうちょっと、力を抜いて聞いた方がいい。お前たちの不利益な話はしない」
「どういう事ですか?」

 サラマンダー男爵の歩みは、少し遅くなりました。
 そして、完全に止まると、真剣に残りの三人の方を向き直し、真摯な瞳でつぼみの目を見つめました。



「……このゲームは、ここらでもう終えた方がいいって事さ」



 彼はそう、口に出したのです。
 ゲームの主催者が、ゲームの終了を宣言する────それは、先ほどの放送と同じでした。
 しかし、意味が違います。あの放送では、あと十人までは続けろと言いましたが、彼は今すぐにやめてほしいようでした。

「私たちは、傷つけあうなんて……そんな事は、元々するつもりはありません」
「……そうじゃない。殺し合いはしないだろうが、脱出するのもやめてほしいって事だ」
「何だと?」

 サラマンダー男爵は、続けました。
 彼にとって、殺し合いだけではなく、脱出も含めてこの実験はゲームなのです。
 しかし、そのゲームをする意味は主催側にとっても最早薄いのでした。

「お前たちには、この魔女を倒す以外、もう何もしないでほしい。俺は、残っている全員──いや、ドウコクやあかねは勘弁だな──とにかく、まともな奴全員でここに残る道を選んでもらいたいと思っている」

 それは、主催側が提示した敗北条件に他ならないのです。
 しかし、それにはいくらでも損が付きまわるものです。

「おいおい、まともな人間なら、そんな事ができるわけがないだろ。だって、街や村にある食べ物も、いずれは腐っちまう。食料も飲み物も尽きた島で生きるのは不可能だ」
「そうだ! おれだって、こんな場所になんて三日もいられない! おまえたちを倒して、すぐに帰らせてもらう!」

 零と良牙は、理と感情の二つの理由を告げました。
 食料の問題、精神衛生上の問題、……他には、医療の問題や、この狭い社会にでも存在しなければならない秩序や法の問題など、いくらでも問題は存在します。

「何もこの島にいる必要はない。この島の外には、果実や野菜の実っている島もある。人はいないが、十人以上いれば、案外暮らしていくには難しくないだけの設備はあるんだ。俺だって、ここに残ろうと思っている」

 それは、無人島で手探りな生活をするのと違わず、文明的とは言えません。ただ、良牙や零はふだん実際にそんな生活をしていましたし、食料問題さえ尽きれば実際のところ、二人は生きられるのです。
 それに、サラマンダー男爵のように文明の外で生きてきた非人に、日常生活の質の違いを理解するのは難しい話でした。
 むしろ、彼にとっては、そこの人がいるか、いないかの違いはどうでも良いのです。誰もいなくても街は街であり、電気があって動くならば、それは今の彼やオリヴィエよりもずっと豊かで楽しみのある生き方だと思えます。

「……俺はな、この世界にオリヴィエと住もうと思っているんだ」
「どうしてそんな──」
「ここには誰もいないが、だからこそ幸せな場所かもしれないと思ったのさ」

 彼は、だんだんと口から自分の機密を零していきました。
 しかし、一方である程度のストッパアのような物は内心にあるようで、目的の最重要事項だけは絶対に話さないようにしていました。
 少しごまかしながらも、少し本心とは逸れた事を口からペラペラと吐き出します。

「人間っていうのが、俺には結局わからなかった。絶対に殺し合いに乗らないと思っていた奴が、甘い願いに誘われて殺し合いに乗る事もある……そんな人間たちがな。……いや、あいつだけじゃない。殺し合いに乗っていた人間はいくらでもいた。とてもじゃないが、俺はそんな世界にオリヴィエを連れ出して生きていこうとは思わない」

 誰の事なのか、男爵はハッキリとは言いませんでしたが、それがキュアムーンライトこと月影ゆりを指しているのは明白でした。
 つぼみが、どこかしょげた顔になったのも、きっと彼女を連想したからでしょう。きっと、男爵の言い回しから、何となく彼女を指している事まで理解していたと思います。
 しかし、ふとそんな男爵の言葉で、思いなおしました。自分が俯くよりも、彼には聞かなければならない事が山積みです。

「じゃあ、あなたは、もしかして、その為にこの殺し合いに……?」

 男爵は、ニヤリと笑いました。少し、無理のある笑いでした。
 彼は、それを見抜いた(男爵の方が見抜かせたのですが)つぼみに、敬服して、あえてここは男爵らしく、仰々しい、礼儀を重んじた言葉で返しました。

「そう、この誰もいない世界に住むためだ。危険もなく、争いもなく、二人だけで、この殺し合いの夢の跡に住み、共に生きていこうと思っていたのさ! 私は、その為に力を貸した!」
「それだけの為に、みんなを犠牲に──」

 そんなつぼみの言葉が、男爵の士気を下げたのか、それともまた気まぐれなのか、彼はまた普段のように馴れ馴れしささえある口調で返しました。

「……馬鹿者。誤解するな。俺たちもまた、お前たちと同じく、無作為に選ばれた人間だ。一番偉い奴に選ばれ、ただ主催者という役割を任された。その結果、殺し合いが終わるまで、それぞれ何かの役割を任されたんだ。逆らえば死、従えば報酬。……お前たちはそれで乗らないのか? お前たちの条件は過酷かもしれないが、俺たちに課せられた条件は椅子に座っているだけのようなものさ」

 つぼみも、良牙も、零も返しませんでした。
 この三人ならば、確かにその条件に乗る事はないかもしれません。しかし、言葉を返そうとは思いませんでした。
 自分がそうであるからといって、彼もそうしない──反抗できる人間とは言えないのです。結局開かれる殺し合いに対して、あえて反抗して自分を傷つける必要はないと──男爵はそんな判断をしたに過ぎないはずです。
 零は、強いて言えば、結城の言葉がある程度的を射た発言であった事に驚きました。
 しかし、ふと良牙が疑問を抱きました。

「だが……この殺し合いはお前たちの負けなんだろ? おかしくないか? それなら、あんたたちの欲しい報酬なんていうのはもう貰えないのが自然だろう」

 ええ、そうです、良牙の言う通り、殺し合いは既に主催陣の「負け」が決定したのです。
 それは、殺し合いを円滑に行う人間がいなくなったからでした。誰も殺し合いの意思を持たないのです。
 これが一般人ならば、土壇場の暴走がありえるかもしれませんが、この殺し合いに選ばれた彼らは、決してその類の人間ではありませんでした。彼らは絶対に自分の得よりも他者を重んじ、自分の命さえ顧みずに平然と戦い続ける人間です。そんな人間ばかりが残って、これ以上殺し合いが進む者でしょうか。
 自然に任せて殺し合いを進めた結果、マアダー(殺し合いに乗る者)が減り、その反対に主催に反抗する人間ばかりが十人余りも残ってしまったという、主催者にとって面白くない終わり方になったのは違いありません。
 それでサラマンダー男爵を初めとする主催の末端にも報酬が行き渡る事があるのでしょうか。普通は、そういう物は「成功報酬」なのではないでしょうか。

 ……ですが、この後の男爵の言葉が、彼らにとっての衝撃でした。

「いや、主催の目的はこの殺し合いがどう転がろうが、もうじき達成されるんだ。これ以上むやみに殺し合いを続けるのはただの悪趣味な道楽にしかならない。……まあ、俺のお仲間にはそれを望む人間もいるがな。わざわざそれを望まない人間も主催側には多数いるから、おとなしく負けを認めて終えようっていうわけさ」

 主催陣の目的が、達成されているという事でした。
 おそらく、彼らが察するに、それは決して良い野望ではないはずです。
 少なくとも、世界平和の為に殺し合いを行っているはずはありません。ここまで見かけた主催陣営の財団XやBADANは、弱い者を糧にして無暗に人の人生を狂わせるような、誰もが明確に定義できるような「悪」の存在だと言われています。
 仮に正義が定義できない物であっても、彼らの悪は、確かな悪だと言えるでしょう。
 そんな人間ばかりが集って、殺し合いを強制させ、その結果が決して良い目的の果たされる終わりとは言えないでしょう。
 つぼみは、おそるおそる訊きました。返事は来なくてもいいのです。

「この殺し合いの本当の目的って、一体何なんですか……?」
「それを話す事はできない。それこそ、教えれば俺の報酬までパアだ。それに、知らない方がいい事もある」
「じゃあ、質問を変えます。何故、私たちが選ばれたんですか? 私たちの共通点、それって────『変身』する事ですよね?」

 当然、つぼみはそれを見抜いていました。
 変身に何か目的の関わりがあると、それを察していたのです。

「……」

 それをつぼみが口にした時、男爵はふと口を閉ざしました。
 それだけが、男爵にとって最も痛いところです。仮にもし、彼を支配している人間が、『変身』とこのバトルロワイアルの関わりについて教える権利を預けたとしても、男爵はそれを告げないでしょう。
 それによって傷つくのが誰なのかも、彼はよく知っているのです。

「……何があっても、お前たちの所為じゃない。お前たちは、状況を見て正しい行動をし続けた。それだけは言っておく」
「それは一体、どういう事ですか!!?」

 冷やかに、まるで微かに同情している男爵の姿が恐ろしく見えました。
 もどかしいヒントだけを告げて、そこから先は何も言わない彼の冷淡なマスクに、どこか哀愁や後悔という本心が被さっているように見えて、つぼみは悲しくなりました。

「……とにかくだ。キュアブロッサム、それにお前たちも。俺と一緒にこの星に残ってくれないか? 君がいるなら、オリヴィエだって、きっと喜ぶはずだ」

 男爵は、話題を逸らしましたが、それにつぼみたちは即座に応えました。

「……厭です! 元の世界には、心配している家族や、友達がいます!」
「おれもだ! 乱馬の死を伝えに行かなきゃならねえし、な」
「悪いけど、俺も。シルヴァを修復しなきゃならない」

 彼らは、元の世界に帰る事を絶対だと信じていました。
 仮に、ここで一生過ごしていけると知っても、それを望もうとはしません。
 普通に暮らしていた人間は、大事な人とのつながりをあっさりと切ろうとは思いません。
 これから家族や自分のいるべき世界と一生会えないのは、死んでしまうのと同じです。
 だから、自分の居場所は彼女たちにとっても、大事な物なのです。
 零には、帰って果たすべき目標だってありました。
 しかし、その答えこそ、男爵の苛立ちを加速させ、肩をわなわなと振るわせる理由になったのです。

「……ないんだよ」

 男爵は、彼らの言葉に、思わず大事な情報を伝えて憤怒しそうになりました。
 これを伝えてしまえば、これからのゲームは大きく流れを変えますから、男爵にとっては最悪の結果になるでしょう。

「もう、お前たちが帰りたい元の世界なんて物は────」

 そう言いかけた時でした。
 言葉と被さって、戦闘の狼煙が上がりました。

 ────使い魔たちがやって来たのです。






 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。






 使い魔の名前は、Klarissaと云いました。
 オレンジの皮を剥いたような肌の人形でした。女の子の姿をしていますが、顔は判然としません。髪は緑色で、まるで複数個体の脇役のようでした。
 一人一人が、全く同じ姿をしています。
 操られるように踊りながら、彼女たちは群れで襲ってきます。この群れの前には、大音量の音楽が響き続けていました。

「もう、お前たちが帰りたい元の世界なんて物は────」
「魔女の手下だッ!!!!!!」

 零が声をあげ、それで男爵が振り向きました。
 それでようやく気が付いたようです。更に男爵の言葉はヴァイオリンの音にかき消されてしまいました。
 手下が現れる瞬間に、零の声が響いたお陰で男爵はすぐにそれを回避しました。

「……ッ!!」

 男爵は、バックステップでつぼみたちのところへと戻りました。帽子がずれたのでそれを直しながら、零に言います。

「……魔戒騎士! 話は終わりだ! この空間ではいくらでも鎧を召喚できるから心おきなく使いたまえ!」
「あ!? 何か言ったか!?」

 聞こえていないようですが、零はお構いなく空中に二つの円を描きました。
 既に彼はガルムから情報を得ています。まずはお構いなしに鎧を召喚する事にしました。
 やれやれ、と思いながらも、男爵は自分なりの戦闘態勢を取りました。

「よし、俺たちも行くぞ!」
「はい!」

 良牙がロストドライバーとエターナルメモリを、つぼみがココロパフュームを構えました。すぐに彼らが掛け声とともに変身します。

「変身!!」
「プリキュア・オープンマイハート!!」

 良牙の体がエターナルメモリの力によって、真っ白な意匠に包まれます。
 更にその両腕に青く燃える炎がボワッと現れ、拳と同一化されました。
 背中に真っ黒なエターナルローブが現れた時、彼は仮面ライダーエターナルとなりました。

 つぼみは、花の力により、白と薄桃色の可愛らしい衣装を召喚しました。
 桜の花びらのようなスカートで足の上で咲き乱れ、彼女の周囲をスカートから生まれたような花吹雪が舞い散りました。
 髪はいっそう輝くピンク色に代わり、頭の後ろで両側の髪がクルクルと絡み合って一体になると、そのままポニーテールの髪型に変身しました。

「大地に咲く、一輪の花! キュアブロッサム!」
「地獄に迷った、一本の牙! 仮面ライダーエターナル!」
「ぶきっ!」

 二人がポォズを決め、並び立ちました。
 そして、デイパックから子豚が顔と手(前足?)だけを出しました。

「……って、良牙さん。あの後、ちゃんと決め台詞考えてたんですね」

 そういえば、以前、何か良牙が名乗る時に迷っていたのを思い出しました。
 どうやら、今までずっとそれを考えていたようなのです。

「そんな事はどうでもいい! さっさと全員叩くぞ!」

 目の前では、銀牙騎士ゼロが双剣を振るって敵を斬り裂き、サラマンダー男爵は器用に敵の攻撃をよけながら、上手い事彼らの腹や顔を蹴ったり杖で突き刺したりしていました。
 少なくとも、男爵にはやる気があるというわけではないにしろ、協力の意思はある程度あるようです。
 とにかく、キュアブロッサムと仮面ライダーエターナルもそこでKlarissaの大群を倒す事にしました。

「はあああああああっ!!」

 キュアブロッサムが、拳を真っ直ぐ突き出してKlarissaの顔を吹き飛ばしました。
 本当に人形のように脆いのです。一瞬で砕け散った彼らは、すぐに形をなくして消えてしまいます。
 体重も軽く、まるで中身の入っていない木くずの塊を殴っているような手ごたえでした。

「おりゃあっ」

 エターナルは、エターナルエッジを逆手で構えて、走りながら、すれ違いざまに次々とKlarissaを斬っていきました。
 必死で立ったままの姿勢を保とうと粘っていたKlarissaたちですが、エターナルがその先で屈むと、同時に全て糸の切れたように倒れて消えてしまいました。

「魔戒騎士! このままだとキリがない。魔導馬を使って蹴散らしながら進め!」
「なんだって!?」
「銀牙だ! 銀牙を使えッ!」

 男爵の指示が聞こえたらしく、ゼロはとにかくすぐに魔導馬を召喚しました。
 巨体を持つ銀の馬が突如として現れ、ゼロ以外は少し驚いたようでした。

「……乗れッ! 今なら触れる分には大丈夫なはずだ!」
「大丈夫だ。お前たちの鎧はちゃんと制限してある。ソウルメタルの鎧や馬に触れても皮膚が剥げたりはしない。遠慮なく乗らせたまえ」

 いの一番で乗ったのが男爵でした。一刻も早く楽がしたいようです。
 気づいたら載っている彼の様子は、まるで気配を消していると言われてもおかしくない物でしたが、ゼロは全く動じませんでした。
 とにかく、エターナルとキュアブロッサムを彼らの方をちゃんと見て、何人か襲ってきたKlarissaを撃退すると、魔導馬・銀牙の上に飛び乗りました。

「──定員オーバーか? いや」

 言いかけて、ゼロは笑いました。

「女の子を乗せ慣れてないだけか。そうだろ? 銀牙」

 なかなか動かない銀牙でしたが、ただ主人以外を乗せるのに慣れていないだけのようでした。後部座席もなかなかに狭い状態なので、ブロッサムなどはゼロの前で銀牙の首にしがみ付くような形になってしまっているのですが、零に茶化されて頭に来たのか、すぐに銀牙は走り出しました。
 銀牙が蹄の音を鳴らせば、そこからは使い魔がどれだけ大群で襲い掛かっても全く動じる必要はありません。
 道を塞いでいた使い魔たちも、全て、力及ばず吹き飛ばされて、理不尽に消されていきます。圧倒的な力を前に無力──そんなKlarissaの姿は、悲しいようでもありました。






 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。






 銀牙の力を借りてしまえば、もう人魚の魔女の居場所まではそう時間のかからない話でした。
 そこでは、先ほどからずっと流れていたようなオーケストラが、いつまでも流れていました。ただ、それは誰かに聞かせようと言う気はないらしく、小さく流れていました。
 本心では、その曲を、いつまでも自分一人のものにしたいのです。それが彼女の恋慕の情なのです。本来なら、たくさんの人に聞いてもらいたかったのかもしれませんが、いや、もっと心の奥では自分一人の物にしたい気持ちがあって、それに気づいてしまっただけなのでしょう。

「────さやか」

 愕然としたようなブロッサムでした。
 それが「魔女」だというのはわかりました。どことなくさやかの特徴が残っています。
 青いマントやその手の剣は、まさしく彼女の物が巨大になったと言っても過言ではないようでした。

「……残念だが、知る限りでは魔女になった人間を元に戻す方法はない」
「知っている限りでは?」
「だが、魔法少女やプリキュアの力は未知数だ。ガイアメモリやソウルメタルもそうだが、おそらくこの世界の誰にも測れない力だって持っている可能性がある。あるいは、作った人間ですらよくわかっていない可能性もあるかもな……」

 男爵が、一応口を出しました。
 彼としては、魔女が仲間になろうがなるまいが結局は関係のない話です。
 ただ、あえて彼女たちの目的に加担するのも悪くはないと思っています。これから積極的にこの魔女と戦おうという気はないのですが、それでも助言らしき物をやって希望を与えるくらいはしても良いと思うのでした。

「それなら、可能性は、全くないわけじゃないんですね」
「勿論だ。お前たちがどれほどの不条理を成し遂げたとしても驚くに値しない。ただ、残念ながら、データ上は前例がないから助言のしようがないが」

 強いて言うなら、それは激励でした。
 ただ、それで充分でした。
 男爵はそこに黙って立って、彼女たちの戦いを見届ける事にしました。
 キュアムーンライトとは対照的に、まだプリキュアとして戦う事で希望を得ようとする彼女のような人間を、ともかく一人、目につけておこうと思ったのです。
 彼はジュエルシードを使えばいつでも脱出できますが、ここにいる彼女や良牙、零たちは脱出の為に非情の決断を迫られるかもしれません。それでも、彼女たちは救おうとするのか、目に焼き付けようというのでした。






 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。


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最終更新:2014年09月05日 11:12