ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE



HAPPY BIRTHDAY

 杏子とキュアピーチは二人で縦横無尽にこの空間の中を飛び交っていました。

 HAPPY BIRTHDAY

 跳躍しながらマミの姿を探します。普通なら、もっと魔女は大きいのですが、稀に大きい敵もいるようで、マミはまさにそれでした。

 HAPPY BIRTHDAY

 しかし、魔力は正直に自分の居場所を教えるのでした。

 HAPPY BIRTHDAY

(……来る)

 HAPPY BIRTHDAY

 杏子は直感しました。来るべき魔女が、どんな姿をしているのか、彼女には想像のしようもありませんでしたが、それが来た瞬間、少し驚きました。

 HAPPY BIRTHDAY

 見逃してしまいそうなほど小さな──子供のような魔女がそこにいました。

 HAPPY BIRTHDAY

「ラブ、こいつがマミだッ!」

 HAPPY BIRTHDAY

「打ち合わせ通りに……いくぞ!」

 HAPPY BIRTHDAY






 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。






『マミはまだ生きている』

 あの時、杏子は念話でラブにマミの事を告げた。
 杏子は、真摯な顔でラブにそう言いながら、暁や美希の様子を伺っていたのだった。

『生きているって──』
『マミが動かなくなったのは、あたし達の持つソウルジェムが濁って砕けたからなんだ。……でも、ただそれだけじゃ、あたし達は死なない』

 そう聞いた時のラブは、意外そうだった。少なくとも、嬉しそうではなかった。
 何よりも驚きが勝っている。疑っているわけではないが、現実味というのが薄かった。
 確かに見送った一人の人間の死が、ただの勘違いや誤解だったというのだろうか。

『あたし達は、魔法少女になった時から肉体じゃなくて、ソウルジェムが本体になる。だが、ソウルジェムが濁ると、あたし達は魔女になっちまうんだ……』
『!?』

 魔女──確かに、マミは魔女と戦っていると言っていた。
 つまり、それは魔法少女と戦っている魔女が魔法少女という事で──ラブは少し混乱する。それがどういう事なのか、理解し難かったのだろう。

『……マミは今日、魔女としてどこかで生まれるんだよ。あんた、もしそうなってるとしたら、どうする?』

 その言葉が返すべき答えは一つだった。
 ラブには、考える隙もなかったのだろう。まるで温めていたかのように自然な答えが口から滑り出て行った。

『勿論、絶対にマミさんを助けるよ。だって、友達だもん』
『……本当にそんな事ができるのか、わからないんだぞ? あたしだって、ここで知ったんだから、どうすれば魔女を助けられるのかなんて全然知らないし……』

 その言葉が、杏子から彼女たちへの試験だった。

『でも、私は助けられないってわかるまで、諦めたくない。……バカだって、思われるかもしれないけど』

 杏子が思っている以上に────『正義の味方』な言葉が、ラブの口から出てきた時、杏子は呆気にとられたほどだった。
 しかし、つぼみやラブのその願いを叶える為に出来る限りのサポートをしたいと、杏子は内心で思ったのだ。
 彼女自身も、そんな物語に憧れていたのだから──。






 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。






「ロッソ・ファンタズマ!」

 十三人の杏子が駆けていきました。
 その姿を追って、黄色いリボンが杏子の体をすり抜けていきます。これが算段でした。Candeloroに対する時間稼ぎを杏子がしている内に、キュアピーチがマミを説得するのです。
 彼女たちにとって、それが唯一の作戦でした。
 ただ、意思ある魔女の「感情」を探し、そこに訴えるのです。少しでも心を動かし、元のマミがどんな人だったのか、この魔女に知らせるのです。
 そうすれば、もしかすれば愛や勇気が全てに勝り、マミはマミに戻ってくれるかもしれないと思っていたのです。

「マミさんッ! 話を聞いて!」

 キュアピーチは、マミにそう言いました。
 叫び声を、Candeloroは聞いているのか、聞いていないのか──なおも攻撃を続けます。
 それでも、キュアピーチは必死でマミに声を届かせようとします。

「私だよ! 桃園ラブだよ!」

 杏子や、キュアベリーや、孤門が今頑張っている中で、キュアピーチはできる限りの大声で、友達に言葉を贈ります。
 その言葉が届いたのか、リボンがラブを捕縛しようと一直線に向かってきました。
 それを杏子の一人が庇い、十三体の内の一体の杏子が捕縛されてしまいました。

「怯むな! 呼び続けろ!」

 そう言う杏子の姿は幻に溶けて消えてしまいました。
 しかし、まだ本物の杏子が戦っているはずです。残り十二体の杏子が、時間を稼ぐ為だけに必死で戦っていました。
 キュアピーチはその姿を確かに胸に焼き付けました。

「う……うん! 無理しないで、杏子ちゃん!」
「わかってるッ!」

 ラブとマミの為に、誰もが頑張っています。
 目の前での杏子の奮闘を見ていると、ラブも絶対に自分の役割を果たさないわけにはいかないのです。

「マミさん! あの時、一緒に約束したじゃないですか! 幸せな世界を作るって……」

 また、杏子が一体消えてしまいます。
 残りの杏子は十一体です。

「これから作る幸せな世界の中には、私や杏子ちゃんたちだけじゃなくて……マミさんだって、そこにいていいんですよ!? 自分を犠牲にして戦うんじゃない、みんなで一緒に帰りましょうよ!!」

 その言葉に────ほんの一瞬、Candeloroが動きを止めました。
 杏子を捕縛しようとした腕が少しだけ止まったのです。

(……!)

 しかし、構わずにまたすぐ動き出して、杏子を狙います。杏子の体はすぐに貫かれて、泡と消えてしまいました。
 キュアピーチは続けるしかありませんでした。

「マミさん……! 一緒に帰ろうよ! 私だって、マミさんと一緒にいたい! もっと一緒にドーナツ食べたり、遊びに行ったり、お家に通ったり……!!」

 Candeloroは、空中から弾丸を飛ばし、杏子を二体葬りました。
 久々のロッソ・ファンタズマは制御の要領に手間取っているようなのです。

「マミさん! マミさんはこんな事をする人じゃない! 幸せな世界を作るんでしょう!」

 Candeloroに言葉は届きませんでした。
 そのまま、手下の使い魔に憑依すると、かつて見たティロ・フィナーレのような砲撃で一気に四体の杏子を消し去ってしまいました。
 残る杏子は四体です。しかし、もう一度ティロ・フィナーレを喰らってしまえば、本物の杏子も被害を受けてしまうでしょう。

「…………お願いだから」

 キュアピーチの腕は震えていました。
 このまま、ずっと説得するわけにはいきません。
 説得する事ができなかったら、もうトドメを刺すしかないのです。
 マミの為でなく、杏子や美希や孤門の為に──。

「やめて! マミさん!! ──」

 三体の杏子が、次々と痛めつけられ、弾丸がすり抜けて消えてしまいました。
 もう、既に後がない状態です。杏子はあと一体。魔力をかなり使ってしまった為に、既に疲労が激しい状態のようでした。
 槍を杖にして立ちながら、それでもなんとか食い止めようとしています。

「……」

 杏子の想いを無駄にしない為にマミを救うのか、
 それとも、杏子の為にマミを倒すのか、
 今のキュアピーチにできる事は二つに一つでした。

 最後の決断をしなければならない事が、ラブにもはっきりとわかりました。
 勿論ですが、その答えはすぐに決まりました。

「……やめてよ、マミさん……どうして、やめてくれないの……さっきみたいに止まってよ、ねえ、マミさん……」

 助けるべき優先順位が杏子にあるのは、至極当たり前の事でした。

「…………」

 諦めきれない気持ちもあります。
 ここで諦めてしまうには早いかもしれない、僅かな説得でした。
 でも、それしか時間は稼げなかったのです。

「…………」

 一瞬だけでも、マミはラブの言葉に動きを止めてくれた──それが少し、残念でした。
 まだマミはどこかにいる。生きられるはずのマミを、今倒さなければならないのは悲しい事でした。

「…………ありがとう、マミさん」

 キュアピーチは、Candeloroを倒す決意をせざるを得ませんでした。
 いや、本当は決意なんて全くできていないのでしょうが、それでも決意ができたフリくらいはしなければなりません。

「ごめんなさい……」

 流れそうな涙を呑み込んで、震える足をどうにか立て直して、それでもって、前にいるCandeloroを魔女として葬り、杏子を助けるしか術はないのです。

「届け……愛のメロディ! キュアスティック、ピーチロッド!」

 キュアピーチは、キュアスティックを手に持ちました。

「馬鹿ッ! 諦めるなッ!! ──」

 隣で息を切らす杏子が、キュアピーチの様子を見て、思わずそう叫んだのでした。
 しかし、時すでに遅し、既に戦闘の準備が始まり、直後には光が真っ直ぐに魔女を包んだのでした。






 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。






 魔女の猛攻を前に、彼女はその判断をせざるを得ませんでした。
 このままでは、杏子や仲間たちが死んでしまいます。
 もし、この魔女を倒すとしたら、自分以外にいないと思いました。

「悪いの悪いの飛んでいけ!」

 そう言う心は、少し苦しくもありました。
 本人だって、暴れたくて暴れているわけではないのです。
 だから、悪い心なんて少しもありません。



「プリキュア・エスポワールシャワー・フレェェェェェェッシュ!!!!!」



 ──キュアベリーは、Candeloro目がけて、プリキュア・エスポワールシャワー・フレッシュを放ったのでした。

 一瞬、他の誰も、何が起こったのか理解しきれませんでした。
 Candeloroを呑み込んでいく青い光。それは、杏子の物でも、キュアピーチの物でもありません。
 彼女たちの後ろから出現した物でした。彼女たちを追い越して、Candeloroの体を呑み込み、いつまでもそこに在り続けるそのシャワーに、誰もが驚いた事でしょう。

「ベ、ベリー!?」

 エスポワールシャワーを繰り出すのは、当然キュアベリーです。
 振り向いたキュアピーチは、ただ何も考えずに彼女の名前を呼びました。

「はああああああああああああああああっっ!!」

 キュアベリーのエネルギーは、Candeloroの体の外で爆ぜました。
 あるいは、それが一つの区切りを作り出したのかもしれません。
 今、何が起こったのか気づいたのは、その瞬間が初めてでした。
 肩で息を始めているキュアベリーがそこにいました。

「……はぁ……はぁ……」

 彼女は、杏子とキュアピーチの視線を受けていました。
 後ろでは孤門がディバイトランチャアを構えて立っていました。

「み、美希たん……どうして……」

 キュアピーチが訊きました。半分、まだ呆然としているようです。
 何故、キュアベリーがここまで来て、わざわざCandeloroを倒そうとしたのか、彼女たちには考えられませんでした。

「あの魔女は、ラブがやっちゃいけないわ……。勿論、杏子もよ……!」

 彼女は、どうやらあかいろさんやももいろさんを何とか倒した後のようでした。
 それはとても、エスポワールシャワーだけの疲労には見えません。
 孤門も、少し不安そうな顔をしていました。

「あれが本当に巴マミっていう人なら……彼女と親しかったあなた達がやるべきじゃない……。……もし、本当に倒してしまったら、あなたたちはこれからずっと苦しむ事になる」
「バカ野郎ッ! だからって、そうまでして……」
「私の痛みは一瞬よ……でも、あなたたちの苦しみは一生かもしれない……」

 この戦闘で、余程疲労が募っていたようです。
 対人戦はあっても、集団との戦いは久々なのでしょう。いくつかの爆弾を受けたのかもしれません。
 杏子は、すぐに彼女のもとまで行って、彼女の体を支えようとしました。

「……それに、大丈夫……助かると思って、放った技だから──」

 しかし、杏子が辿り着くより、一瞬前でした。
 孤門が倒れかけのキュアベリーを上手く支えました。

「『諦めるな』……そう言いたいんだ、美希ちゃんは」

 孤門は、彼女の体を支えながらも、杏子やラブの向こうを見つめました。
 果たして、これで本当に向こうにいるCandeloroが消えているのか、少し確認したかったのです。しかし、どうやら本当に撃退されたようでした。

「そう、きっと、まだ希望はあるはずよ……。……きっ、と……諦めないで……」

 そう言うと、変身が解け、美希は意識を失ったのでした。






 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。






 彼女たちは、既に魔女の結界から外に出ていました。
 まるで夢から覚めたような気分でした。──不思議の国のアリスの気分というのが、はっきりとわかった気がしました。
 ただ、不思議の国から帰って来た証は、そこにありました。

「……ありがとう、みんな。まるで浦島太郎の気分ね」

 ……いいえ、そこに確かにいたのです。
 金髪の少女が、驚くべき事に、桃園ラブと佐倉杏子の前に突然、現れたのでした。
 二人は周囲を見回しました。
 蒼乃美希を抱きかかえる孤門一輝も、その時ばかりは、美希の様子を伺うよりも、目の前の一人の少女に注意を向けました。

「君は、……巴、マミなのか?」

 少女は頷きました。






 彼女の名前は、巴マミと云います。
 それは、Candeloroなる怪物ではありません。魔女と呼ばれるのも心外でしょう。
 彼女の作り出した結界から脱した杏子たちの前に、彼女は立っていました。

「桃園さん、あなたの声……ちゃんと聞こえたわ。またこうして、眩しいおひさまの下に立てる日が来るなんてね」

 マミが一度“死んだ”時もまた、こんな眩しい太陽が空に輝いていました。
 その時と全く同じ太陽の下、マミは再び生まれたのです。

「本当……? 夢じゃないですよね? でも、どうして……マミさんがここに?」

 勿論、ただその現実を受け入れるのは難しい話でした。嬉しそうながらも、どこかこれが夢ではないかと疑ったように、キュアピーチは震えました。
 先ほど、魔女はキュアベリーが倒したはずです。
 マミも、ちゃんと説明する事ができず、少し目線を泳がせてシドロモドロになりました。
 そんな彼女に事情を話すべく、孤門が答え合わせをしました。

「美希ちゃんのお陰だよ」

 そう言って、孤門が全てを話し始めました。

「ソウルジェムの汚濁は、魔法の使用か精神的な絶望で起きる。その結果、魔女が生まれる。……そのメカニズムは、僕から彼女に伝えておいたんだ」
「はっ!? 誰にも言わない約束じゃ……」
「……いや、彼女はとっくに勘付いていたよ。ラブちゃんが結界に入る時に確信に変わったみたいだから、あとの事情は全部僕の方から話しておいたんだ」

 杏子は、あの結界に入る時の事を思い出しました。
 そういえば、ラブはあの時、平然とマミの名前を口走っていた覚えがあります。
 ただ、杏子も、まさか美希はそれだけで全て気づく事はないだろうと、何となく安心していたのです。

「美希ちゃんにも、考えがあったんだよ。……そうだ、以前、彼女があかねちゃんと会った時、ガイアメモリの毒素を浄化する事ができたらしい。今回もそれと同じなんだ。それと同じく、ソウルジェムが持っていたマイナスエネルギー──濁りを自分たちの技で浄化できないかと彼女は考えた」

 ラブはふと思い出しました。
 プリキュアの力が、本来、悪を倒す為ではなく、悪を許す為にある力なのだと。
 ウエスター、サウラー、イース──様々な人たちと分かり合う事ができたのも、プリキュアの力がそんな性質を持っていたからでした。
 しかし、彼女たちは極力、それで人を救うより、コミュニケーションを使って人の心を見つけていくようにしたかったのです。その成果も今回は充分にあったといえるでしょう。

「そして、彼女はきっと、魔女の負の性質の力を浄化して、元のマミちゃんの心を取り戻す為に技を放ったんだ。でも、それが失敗して、もし魔女が消滅してしまった時の事を考えて、ラブちゃんには任せられなかった」

 彼女は、一応、魔女を救いだす希望を胸に秘めながら、あの行動をしたのでした。
 今は孤門の肩に意識を任せているが、こうして眠る直前まではきっと、相当な不安でいっぱいだったに違いありません。

「僕たちは、君たちが戦い、説得している最中に、あの結界の中で、マミちゃんの体を見つけた。使い魔に守られていたけど、マミちゃんらしき人がいたんだ」
「えっ? でも、土に埋めたはずで……」
「魔女自体が結界に引き込んだんだろう。そうだよね? マミちゃん」

 孤門が訊くと、マミは頷きました。
 彼女自身が、自分の体を結界の中に引き寄せたのです。

「……私の体は、少なくとも魔女になるまでは誰かに魔力の供給を受けて鮮度を保っていたみたいです」
「それはきっと、主催側がやったんだろうと思う。……理由はわからないけど」

 これにも理由がありましたが、これは今の彼らの知るところではありません。
 ただ、一つヒントを差し上げるのなら、それは彼女たちと同じ魔法少女の仕業なのでした。

「いずれにしろ、そのまま魔女としての私を倒してしまえば結局、私の体は力を保てなくなります。肉体と精神の結合が上手くいかないかもしれません」
「だから、その為に、美希ちゃんがある手段を使ったんだ」

 マミは、その言葉を聞いて、すぐにそれを取り出しました。
 それは、ソウルジェムではなく、見覚えのある黄色い携帯電話でした。
 この携帯電話は、ある人物の持ち物でした。
 そして、ただの携帯電話ではなく、ある特殊な妖精が同化した携帯電話なのです。

 キルン──山吹祈里のパートーナーの妖精でした。

「この妖精──えっと、キルンの力を媒介にして、彼女の体を維持できるかもしれないって言っていた」

 東せつながかつて、ラビリンスの人間としての時を止めて蘇ったのも、アカルンの力によるものでした。
 ダークプリキュアが消滅間際、新たな体を保てたのもプリキュアの力です。
 そして、今はマミを救うべく、キルンがマミに力を供給しているのです。

「ブッキーが遺してくれたこの力が……」
「それは実は、殺し合いに乗った一人の女の子が持っていた時期がある物なんだ。それを取り戻してくれた人が、目の前にいるよ」
「……」

 孤門が見たのは、杏子でした。

「杏子ちゃん……」
「礼ならいらないぜ。せつなに言いな。せつながいなけりゃ、そいつを取り戻そうなんて考えなかっただろうさ」

 杏子は、ちょっと照れているのでしょうか。そう答えました。
 どうやら、プリキュアたちの力が巡り巡って、こうしてラブの前にいる少女の命を救ったみたいなのです。
 偶然なのか、必然なのかはわかりませんが、ラブにはそれが嬉しい事に思えました。
 彼女たちが生きてきた事は、決して無駄な事などではなかったのです。

「桃園さん、佐倉さん。お久しぶりね。……ありがとう、二人とも。それに、そちらの二人も」

 美希や孤門の活躍なしには、きっと彼女はこうして再び生きる事はできなかったでしょう。ソウルジェムが力を使い果たしたとしても、まだこうして再び生きる事が叶うなど、マミも思わなかったに違いありません。
 実際、ラブもまだ半分は今起きている現実が信じられませんでした。
 実際にこうなる前は、きっとこうなるだろうと信じていたのに、今こうして現実にありえなかったであろう事が起こると途端に真実味が感じられなくなってしまうから、人間の感覚は不思議なものです。

「……マミさん。もう一度確認します。本当に、嘘じゃないんですよね?」
「ええ。孤門さんが言ってくれた通りよ」
「また一緒に、いられるんですね!?」

 マミはそんな彼女に優しく頷きました。
 それに落涙しそうになったラブですが、何とかそれは堪えました。

「やったー!! マミさーん!!」

 ラブは、即座にマミに抱き着くのでした。マミの顔がやたらと巨大な胸にぶつかり、一瞬跳ねて押し出されそうになった後、また密着しました。
 嬉しそうに抱き着き、出かけていた涙を隠すのでした。紅茶の香りがラブの鼻孔をつきました。
 そんな彼女の後頭部を、やれやれと見つめながら、マミは杏子の方に目をやりました。

「……佐倉さん」
「久しぶりだな、マミ。まさかまた、こんな風に会えるなんて」
「思い出したのね、ずっと昔の事……」

 マミは、今度は杏子に微笑みかけました。
 杏子はそんなマミの視線から目を外しました。目を合わせるのが余程いやだったのでしょう。

「……まあな。こういうあたしも悪くないだろ?」
「良かった……」

 それがマミにとっての心配でした。杏子が殺し合いに乗るような事はなかったのだと、マミは思ったのです。
 この杏子は、決してマミが知る杏子ではありませんでした。マミが知るよりも少し成長した杏子でした。
 しかし、杏子にとっての心配はまだ晴れていません。

「……にしてもお前、怒ってないのか?」
「……何を?」
「前の事だよ。あたしがあんたと別の道を行く時の事……あの時の事を謝りたくて、さ……」
「あれは、お互いさまよ。私はあなたに何もしてあげられなかった。結局、あなたを本当のあなたに戻してあげる係、誰かに取られちゃったわね」

 二人にとって、あの出来事はとうに昔の出来事のようでした。
 お互い、引きずり続けた昏い過去でした。気にせざるを得ません。
 どちらも──お互いに、その罪を抱えているのです。
 ラブたちには何の事なのかはわかりませんでしたが、二人の様子では、そえrで話は終わりのようでした。

「……よし。とにかく、これで僕たちの任務は終了だ。……みんな、よくやった」

 ふと、孤門が口を開きました。

「杏子ちゃん。君が戦ってくれなければ、ラブちゃんは彼女を呼び続ける事ができなかった」

 杏子の力が、ラブを魔女から守り続けたのです。

「ラブちゃん。君が呼びかけ続けなければ、マミちゃんは心を動かさなかった」

 ラブの想いが、魔女に届いたのです。

「美希ちゃん。……君がラブちゃんの言葉と希望を信じなければ、マミちゃんは元には戻らなかった」

 美希の機転が、魔女を救ったのです。
 眠っている彼女に、孤門はささやきました。

「何より、マミちゃん。君自身も彼女たちの想いに気づいたから、こうしてまた戻ってこられたんだ」

 そして、彼女がその孤独から抜け出す術を知れたから、こうして魔法少女でも魔女でもない巴マミとして、ここにいるのです。

「……って、あれ? 僕だけ何もしてないのかな?」

 と言った瞬間、その他がずっこけました。
 彼が充分、どこかで役に立っていた事を、彼女たちは知らないでしょう。

「みんな、本当にありがとう──」

 そう言うラブでした。
 彼女の、もしかすれば無茶かもしれない提案にみんなが載ってくれたから、こうして救う事ができたのです。

「でも、十四人が十人に減るどころか、十五人に増えちゃったな」

 杏子が笑いました。

「いいよ。……僕たちは生きている全員で還るんだ。多ければ多いほどいい」

 ふと、その言葉が杏子の胸を打ちました。
 彼が当然のように言ってのけた言葉が、彼らの本質なのです。
 『命を粗末にしない事』──翔太郎にそう言われたのをふと思い出しました。
 そうだ、彼もまた……。

(そうだ、忘れてたな……あの時の事。でも、あたしはもう大丈夫だ。こういうストーリーを、ずっと見たかったんだ……これが見られれば、もう死のうなんていう理由はない。あとは、──────精いっぱい生きてやるよ)

 ふと、杏子は心の中で笑いました。
 しかし、そんな笑顔は外に漏れていたらしく、ラブが横で茶化しました。

「何笑ってるの? 杏子ちゃん」
「何でもねえよ」

 長い間ずっと抱えていた夢がかなえられたのです。
 もう、悔いはありません。

「あんたが作った条件、本当に役に立つじゃねえか。『諦めるな』、って……」

 孤門の元に、杏子がゆっくり歩いて行きました。
 孤門は、そういえばそんな事を彼女たちに広めていたっけ、と思い出しました。

「勇気と愛が勝つストーリーって、ちゃんとあるんだな……美希」

 杏子の手が、眠る美希の手を握りました。
 杏子の胸から何かが晴れていくような想いがありました。
 美希の手に、何か自分の意思を託すようにして、強く、強く握りました。
 小さな光が、杏子の手から美希の手へと────そっと重なって消えました。

「……」

 彼らは、こうして、一人の命が救われる事の大切さと、それに喜ぶ人たちを見ていたら、到底誰を犠牲にしようなどという話に頭を切り替える事はできません。
 今、孤門たちがすべき事は、冴島邸に向かう事です。

「とにかく、冴島邸まで急ごうか。マミちゃん、事情は後で話すよ。とにかく、車に乗ってもらえるかな」

 五人で乗る車は、少しばかり重いのでした。



【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ 生存】












 そして、美希は、夢の中で────、

「あなたは────」

 杏子が変身していたはずの、一人の巨人と会いました。













 ……To be continued

【2日目 昼前】
【I-3 平原】

【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:ダメージ(大)、ナイトレイダーの制服を着用、精神的疲労、「ガイアセイバーズ」リーダー、首輪解除、シトロエン2CV運転中
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス、シトロエン2CV@超光戦士シャンゼリオン
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0~2(戦闘に使えるものがない)、リコちゃん人形@仮面ライダーW、ガイアメモリに関するポスター×3、ガンバルクイナ君@ウルトラマンネクサス、ショドウフォン(レッド)@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:冴島邸に向かう。
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:ガイアセイバーズのリーダーとしての責任を果たす。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔法少女の真実について教えられました。

【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、左肩に痛み、精神的疲労(小)、決意、眠気、首輪解除
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×1@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─、クローバーボックス@フレッシュプリキュア!、暁からのラブレター
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
0:冴島邸に向かう。
1:みんなの明日を守るために戦う。
2:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。
3:どうして、サラマンダー男爵が……?
4:後で暁さんから事情を聞いてみる。
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。
※第三回放送で指定された制限はなかった模様です。
※暁からのラブレターを読んだことで、石堀に対して疑心を抱いています。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。
※魔法少女の真実について教えられました。


【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り 、精神的疲労、首輪解除、ネクサスの光継承?
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式((食料と水を少し消費+ペットボトル一本消費)、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、ガイアメモリに関するポスター、杏子からの500円硬貨
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
0:冴島邸に向かう。
1:ガイアセイバーズ全員での殺し合いからの脱出。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。
※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、ソウルジェムの濁り(中)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、せつなの死への悲しみ、ドウコクへの怒り、真実を知ったことによるショック(大分解消) 、首輪解除、睡眠?
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕、ランダム支給品0~1(せつな) 、美希からのシュークリーム、バルディッシュ(待機状態、破損中)@魔法少女リリカルなのは
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、魔女になる瞬間まで翔太郎とともに人の助けになる。
0:冴島邸に向かう。
1:翔太郎達と協力する。
2:フィリップ…。
3:翔太郎への僅かな怒り。
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。
※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。
※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。
※第三回放送指定のボーナスにより、魔女化の真実について知りました。

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:身体的には健康、キルンの力で精神と肉体を結合
[装備]:なし
[道具]:リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!
[思考]
基本:ゲームの終了を見守る
[備考]
※参戦時期は3話の死亡直前です。
※魔女化から救済されましたが、肉体と精神の融合はソウルジェムではなくリンクルンによって行われています。リンクルンが破壊されると危険です。


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最終更新:2014年08月29日 21:27