変身─ファイナルミッション─(7) ◆gry038wOvE




 ゼロの目の前には、巨大な支配力の塔がそびえたっていた。塔は円筒状であり、見る限り横幅はウルトラマンの何倍もある。だが、その左右の端が視えるだけマシであった。
 その塔の上には、「果て」という物がない。勿論、厳密にはどこか途切れる場所があるはずなのだが、やはり宇宙に続く軌道エレベーターのように伸びており、ウルトラマンの視力が見つめてもその高さを計る事は出来ないのである。
 かつて支配者メビウスが貯蓄したエネルギーの比ではないほどの力が溜められたタンクは、カイザーベリアルがこの殺し合いで積み重ねた物の結晶だ。

「すげえな……こいつは」

 ゼロもそれを見て息を飲んだ。
 彼らの前にあるのは、その塔の「根」であった。ウルトラマンが数十人集って輪を作ってようやく収まるほどの外周だが、それでもこの果てなき塔を支えるには小さい塔……。
 だが、それが脆さでもある。根元から崩すのは難しくはなさそうだ。

 そして、この巨大なシステムを司る「核」が、妖精シフォンだった。ウルトラマンゼロの視力は、根のあたりに埋め込まれているシフォンの全容を捉える事には成功している。
 何せ、その周囲が完全なる荒野で、見えている物といえば、永久に水かさを増し続けるそのFUKOのタワーだけなのである。

 ゼロは、飛行をやめ、滞空した。
 その塔の数千メートル手前で、塔の根元にいる小さなパンダの赤ん坊のような生物を見て、自分の中の「美希」にその情報を伝達した。
 意識を送られた美希は、それを見て、再三の確認のように頷いた。

「シフォン……!」

 今、自分たちが見つけるべき対象こと、シフォンは目の前に居るのだ。
 シフォンは今、悲しんでいる。──世界を支配する為に、自らの存在が道具として利用されている事に……。
 その想いが、今、遠くで、シフォンの隈のような両目から流れ出ているような気がした。かつても、こうしてメビウスによって利用された彼女を……再び、誰かが利用している。
 彼女にシフォンの姿をしっかりと見せ、安心させた所で、ゼロは、シフォンを助けるべく、素早く空を駆けた。今からは四の五の言うよりも、やはり体を動かし、一刻も早くシフォンを救うべきだと判ずるのは当然だ。
 だが。

「ん……?」

 彼らが飛翔していると、遥か前方で砂の中が不気味に蠢いた。やはり、一面の砂漠の中、FUKOのエネルギーが野ざらしという訳でもなかったのだろう。
 砂漠がむくむくと山を作り出していく。どうやら、砂の中二何かが潜り込んでいるらしい。
 まるで蟻地獄の正反対で、空が砂に削られていくようだった。
 そこから何が現れるのは、ゼロは微かに動揺した。

「──!?」

 次の瞬間──その中から全身を晒したのは、あの仮面ライダー1号や2号と同じように、飛蝗の顔をした「仮面ライダー」の姿である。
 だが、よく見れば、やはり1号や2号などの旧式仮面ライダーとは決定的に違う外形であった。

「──仮面ライダー……じゃない……!?」
「強い憎しみに溢れた姿……これは一体……!」

 そう、その全身は真っ赤な業火に包まれており、仮面ライダーたちと……いや、このウルトラマンゼロと比しても巨大な姿をしているのだ。──それが何者なのかは、ゼロにも美希にもわからない。
 直後に、それは、数百メートルまで肉薄したゼロに向けて、自ら、野太い声で名乗りを上げたのだった。

『フン。現れたか、ウルトラマンゼロ。──……我が名は仮面ライダーコア』

 仮面ライダーコア。
 それが、彼の名前であった。ある時空においては、仮面ライダーダブルと仮面ライダーオーズの二人のライダーによって倒された、「仮面ライダーの悲しみ」の結晶こそ、この怪物の正体である。
 だが、今回の彼は、ただそれだけの存在ではなかったらしい。

『仮面ライダーやウルトラマン、プリキュア……あらゆる変身者たちの悲しみから生まれた究極の戦士にして、このタワーの番人──』

 つまり──この殺し合いや、外世界における、あらゆる戦士の悲しみを吸収し、500m以上の巨大な仮面ライダーとなった彼の姿なのである。コアは、戦士の悲しみが深いほどに強くなっていく仮面ライダーだ。
 それゆえ、ほとんど大きさはゼロの十倍であり、この巨大なタワーを任される番人としてはうってつけの存在であった。もしかすれば、その出自から考えるに、彼もまたFUKOのエネルギーを借りて作られた存在なのかもしれない。
 だが、コアを前にもゼロは臆する事がなく進み続けた。

「そうか──……わかったから、そこを退け! お前に構ってる暇はない!!」

 ゼロは、全くスピードを変える事も止める事もなく、ウルトラマンノアより受けた鎧「ウルティメイトイージス」を、右腕に装着する弓として展開する。
 この世界でも、やはりウルトラマンノアはゼロに力を貸し、そして、今、ゼロに再び力を与えているのである。ノアとゼロとの出会いもまた、運命的であるとも言えた。

『フン……無駄だ。全ての戦士の絶望を最大限に吸収した我が身に勝てる力など──』

 ゼロが滑空しながら、ウルティメイトイージスにエネルギーを充填する。
 これから射出するのは、イージスそのものだ。イージスを高速回転させて相手にぶつける技──ファイナルウルティメイトゼロである。
 そして、仮面ライダーコアの服部に向けて勢いよく発射するのだった。



「そういうのが……──しゃらくせえんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーッッ!!!!!!」



 そんな叫び声の大きさは、イージスの発射音にも勝った。
 イージスは、高速で回転しながらコアに向けて飛んでいく。それは、コアの目に追いきれないスピードで肥大化し、コアのベルトの部分に勢いよく叩きつけられた。
 ──彼の体に、巨大な風穴が開く。
 コアがダメージを感じるよりも早く、まるで手慣れた猛獣の火の輪潜りのように、ゼロが飛び去って行った。

『がっ……』

 それは、一瞬の出来事だった。
 自らの体の内を通過された後で、コアは痛みを覚え──そして、自らが一瞬で敗北した事実を知った。

『何だとォォォ……!!』

 ゼロの体に、ウルティメイトイージスが鎧として装着されている。彼は、自らが発した武具と、いつの間にか再同化したのであった。
 しかし、その矛先が向けられたのは、仮面ライダーコアの方ではなかった。
 何故なら──次の瞬間には、仮面ライダーコアは、大きく音を立てて前のめりに倒れ込んでいったからだ。大地は大きく揺れた事であろうが、その大陸は、見渡す限り無人の荒野でしかなかった。

『バカなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………』

 ただ虚しく、倒れた音が響くのみだ。
 最強の敵もまた、それを超える存在には無力である。

「──よし、美希! すぐにシフォンを助けるぞ!」
「オッケー!」

 ゼロと美希の頭からは、既に敵の事など消え去っている。彼らが行うべきは、目の前の物体の破壊と、そして、シフォンの救出だ。
 ゼロの手からは、次の瞬間、白銀の長剣ウルティメイトゼロソードが出現し、伸縮自在の光が真っ直ぐ、目の前の塔に向けられた。
 それは、黒く濁った目の前のタンクの真横で数百メートルまで伸びていく。
 これが次の瞬間には左方向に向けて振るわれ、塔を破壊するのは明白だった。

「うおおおりゃあああああああッッ!!!!」

 まさしく、その通りに──ゼロは、ウルティメイトゼロソードを凪いだ。光が物体をすり抜けるように、ウルティメイトゼロソードは塔を抉り取る。
 塔の切断面は、まるで自らが切断した事実に気づかなかったように止まった。崩れるより先に液体が零れ、それからまたそれに引きつけられるようにしてゆっくりと塔が傾いた。
 上と下に、真っ二つに分かれた塔は、更に、二度、三度と×印を描くようにウルティメイトソードの刃を受ける事になる。

「もういっちょっ!!」

 そして、切断面で、怪獣の爆発のように何かが爆ぜたかと思うと、次の瞬間には、真横に雪崩れ込むようにして欠片が落ちた。
 何もなかった荒野を洪水が包んでいく。
 宇宙の果てまで届いていたはずの巨大な塔は、そのまま、この星の半分に影──即ち、夜を作り上げる。

『何故だ……この私が──』

 膨大なFUKOの海の中に没しながら、コアはまだ自らの一瞬での敗北を信じられないように言った。
 しかし、ゼロのあまりの破天荒で派手なやり方に、コアはむしろ諦観したように、一瞬の夜を見上げるばかりだった。
 半身が波に飲まれ、顔だけが水の上に浮わついていたコアの目の前で、ゼロが滞空する。

「──聞いとけ、なんとかコア。悲しみや、絶望如きが俺たちの希望に勝とうなんざ、二万年早えぜ!!」
「って言っても、二万年後に挑んでも無駄だけどね!」

 ゼロは、次の瞬間、青い光となって、その波の向こうにいるはずのシフォンを探して、飛び込んだ。コアの視界からは、一瞬で消えてしまった。
 コアは、そんな彼らの言葉を耳にしながら、最早何の感慨も抱く事なく、FUKOの渦に沈んでいく。彼らの返答が、コアにとって敗北の理由として納得のいくものであったのかはわからない。
 ただ、ゆっくりとコアはもはや希望に敗退し、消えゆく定めでしかなかった。
 希望の弱点が絶望であり、絶望の弱点もまた希望であるという矛盾した事実に苛まれながら……。

「そうだ! そんな事より……」

 その真横で、ゼロたちはより早く、深くへと荒波の向こうへと進んでいた。

「──シフォン!!」

 塔の底部のシステムと融合しているシフォンが波に流される事はなかった。
 システムの崩壊によって、インフィニティメモリとしての機能が失われたシフォンは、正気を取り戻し、円らな瞳で、ウルトラマンゼロの巨体を真っ直ぐ見つめる。
 彼女は自らの持つ特異な能力で身体の周囲にだけ結界を張り、まるで空に浮くシャボン玉に包まれるようにして身を守っていた。
 ゼロが邪心のある存在でない事や、ゼロの中にある美希の姿もまた、シフォンはその能力で感じ取ったようである。

「ぷいきゃー!!」

 まだ拙い赤子の言葉で、シフォンはそう感嘆する。
 彼女がどの程度事情を理解しているかはわからないが、ひとまずゼロは黙って彼女に向かって頷いた。それは、どこか神秘的なノアにも少し近く、ゼロ生来の若さと裏腹な落ち着きさえ感じさせた事だろう。
 一方、ゼロの中の美希が、シフォンに向けて、クールな普段とはこれまた裏腹な喜びと安心を叫び出した。本来なら我が子のように抱きしめたいところであったが、事実、ゼロと同化状態にある美希にはそれが出来ない。

「シフォン!!」
「みきー♪」
「良かった……!!」

 しかし、まるでその時、美希はゼロの身体の中から心だけ抜け出して、シフォンの身体を包む事に成功したような気分であった。
 シフォンもまた、誰かのぬくもりを全身に感じたような気がした。──ずっと待っていた助けが来た安心感が、シフォンの心を灯したのだろう。
 その一瞬は、長かった。

「──」

 ……気づけば、ゼロの銀色の掌の上に、小さなシフォンが乗っている。ゼロと同化しているはずの美希が、その事にまったく気づかなかったのだ。シフォンと再会できた喜びに我を忘れていた証であるとも言えた。
 ゼロは、優しくその掌を包み、再び空に向けて飛び上がった。水の抵抗を強く受けながらも、空に向けて抜け出そうと這い上がっていく。その手の中では、シフォンは、突然地上に出る水圧を一切受けなかった。

「ふぅ!」

 空へと戻る。
 まるでプールで遊びきった子供のように、ゼロは空の上でそう言うが、真下は凄惨たる有様だ。──当然である。
 空の上まで高く聳えていた塔が殆ど根元から崩れたのだ。それは、先端や大気圏外の物はほとんど根元の崩壊を知って、それそのものが壊死するように自壊して消えていったようだが、空気に晒されている物は残骸として落ち、FUKOは液体として荒波を立てている。

「……で、美希。どうすんだ、これ」
「私に訊かないでよ!!」

 このままでは、この星そのものが崩壊だというレベルだ。
 後先考えない破壊行為が、やはり後先になって響くのは当然であった。
 殺し合いが行われた星とはいえ、しかし、ここにはまだ戦っている仲間がいるのである。このまま崩壊させてしまうわけにはいかない。

「みき!」
「ん? シフォン、何?」
「きゅあー」

 さて、そんな時、困り果てて空の上に立ちすくむゼロたちに向けて、救いの声が上がった。
 ゼロと美希の様子を察したシフォンが、自らの能力を使ったのだ。

「きゅあきゅあぷりっぷー!!」

 すると、ゼロの前で、ウルトラマンでさえ持ちえない神秘の力が発動した。──美希にとってみれば、これもそう珍しい物ではない。
 だが、ゼロにとっては、それはかなり新鮮な光景である。
 ──シフォンの超能力により、なんと、そのFUKOの洪水は、一斉に空へと飛び上がっていったのだ。それは重力を一切無視して宇宙に向けて放たれ、まるで自ら意思を持つようにして、水のない荒野の星に向けて旅立って行く。
 そうして、この地球に残った支配の残骸たちが、こうして一瞬にして片づいてしまったのである。
 周囲をシフォンのバリアに包まれたゼロは、自らの手の届く場所全体で、FUKOが空へと逆流していく光景を見ることになった。

「マジかよ……こいつ、何でもありじゃねえか!」

 流石のゼロでさえも唖然とする。
 ……だが、考えてみればそれは、人知を超える超能力を持つ「怪獣」たちにも似ているのだ。地球にもかつて、こうした怪獣の赤ん坊や子供が何体か確認されており、宇宙にはウルトラマンでさえ持ちえない超能力を使う怪獣が数えきれないほど生息している。
 そして、これまでゼロたちの宇宙で知られていなかったとはいえ、シフォンもまた「怪獣」に分類する事が出来る生物の一体なのではないかと、ゼロは少し思った。
 勿論、それは、心優しい怪獣たちの一人としてだが──。

「──……まあいっか。一件落着だ、そしたら、さっさと行くぞ、美希!」
「ええ!!」
「ぷいぷー!!」

 自分たちの仕事が一区切りついたとはいえ、これで終わりではない。
 そう、まだ諸悪の根源カイザーベリアルと、美希の仲間との戦いは続いているのだ。
 ゼロは再び、空へと旅立つのだった。






 ドン──!!

 これは、塔が崩れ堕ちる音ではなかった。──星一つを挟んだ反対側で行われている、巨人と巨人の戦いが齎した音である。
 これは、まだ巨塔が崩れるより少し前の時間の戦いなのだから。

「シュッ!!」

 ウルトラマンノアの鋭いパンチが、カイザーベリアルの腹の上に叩きこまれる。
 超重力波動を炸裂させながら、ノア・パンチがカイザーベリアルの腹部を抉る。
 それを受けたカイザーベリアルの体は、ダメージを受けたというよりも、まるでバランスを崩したように後方に大きくよろめいた。
 少し腹を抑える。──が、次の瞬間には攻撃体勢へと移っていた。

「おぉら──ッ!!!」

 ベリアルも負けてはいない。
 後ろにバランスを崩しながらも、右脚を大きく上げて、ノアの腹部に、同じように豪快なキックを叩きこんだ。彼自身の身体も大きく揺れる。
 どこかスローモーションにも見えるが、だからこそ、その脚には重さが籠っていた。彼の体重や体格が、鈍く重い一撃を敵に与える力に代わっているのである。
 ノアたれども、打撃を受けて無事には済まない。

「クッ……!!」

 痛みは、その中にある戦士たちにも伝った。
 それに加えて、更に──味を占めたように、ベリアルはその腕を振るいあげる。

「フッハッハッ……!!!」

 巨大な爪がノアの頭上に叩きつけられる。実に鋭利なその爪が叩きつけられるという事は、出刃包丁で殴りつける攻撃とほとんど同義である。
 彼らの耐久性を人間の硬度でたとえれば、それは致命傷にもなりうると言えるだろう。
 ノアも当然ながら、脳が揺れるような痛みを覚え、身体を休めるように数歩後退する。しかし、代打はいない。休んでいてもベリアルは続けて攻撃するに違いない。

『──くそっ! やっぱり強え!!』

 左翔太郎の意識が、ノアの中で苦渋を舐めた。
 ノアも──その中にいる彼らも、攻撃の手ごたえを殆ど感じていない。
 これまでに蓄積された人々の絶望を全て貪るようにして強くなったベリアルは、既にダークザギさえも上回る実力を獲得しているのだ。

「フン、こいつがゼロと戦う為に強くなった俺様の力さ……ッッ!!
 そして、俺はこの力で全てのウルトラ戦士を倒し、神さえも超えるのだ──ッッ!!!!」

 そう、かつて、カイザーベリアルは、ウルトラマンゼロに敗北し、肉体を失った亡霊と化した。そして、怨念の鎧カイザーダークネスを纏う事でゼロを圧倒し、彼の仲間を次々と葬り去ったのである。
 だが、結局はまたゼロに敗れた。
 幸いにも、ゼロが巻き戻した時間の中でこうして肉体を取り戻し、全宇宙の支配を実行していたのだが──よもや、ウルトラマンノアなどという強敵と戦う事になるとは、彼も思わなかっただろう。
 しかしながら、その伝説の戦士さえも圧倒する程に己が力が高まっているという事実を実感し、ベリアルは内心歓喜もしていた。
 ゼロと再び戦えるというだけでなく、神とさえ崇められるノアと戦わせてもらえるとは──。

『何故だ、ベリアル……! お前はウルトラマンなんじゃないのか……!!』

 零の意識が、ノアを通してベリアルへと語る。
 かつて見た、暗黒の魔戒騎士とも、自らとも、そして鋼牙とさえも重なる「暗黒に落ちた戦士」を前に、そう問わずにはいられなかったのかもしれない。
 ベリアルは、零の言葉に全く耳を貸す事もなく、両手を十字に組み、そこから赤黒いエネルギーを発射した。

「──フンッ、俺にそんな言葉は無駄だァッ!!」

 デスシウム光線──!

 ウルトラ戦士たちが発射するスペシウム光線や、それに似た攻撃を、邪に染まったデスシムの力で発射する一撃である。
 デスシウム光線は、真っ直ぐな光としてウルトラマンノアに向けて放たれた。
 ベリアルもまた、元々はウルトラマンである──こんな芸当が出来るのは当然として、もう一つ、ウルトラ戦士らしい「的」を選択するまでも早かった。
 ウルトラマンノアの胸に輝くエナジーコアを狙い撃つ。

『ぐああああああーーーーっっ!!』

 見事に、エナジーコアに向けてデスシウム光線が命中し、彼が放った光線の最後尾まで余す事なくウルトラマンノアの胸にダメージを与える。
 全ての力の源にして、ウルトラマンの最大の急所である。
 ノアの身体は大きく揺れ、周囲を巨大な土埃が包み込んだ。
 カイザーベリアルは、砂埃に包まれたノアにまで悪戯に追い打ちをかけるつもりはないらしい。

『──くっ、強すぎます!』
『ノアの力でも敵わないなんて……! 予想外だ……!!』

 ノアのエナジーコアはデスシウムの膨大な熱量を受けて煙をあげる。
 オーバーヒートだ。この場所への直撃は手痛い。
 だが、それでもノアの中にいる彼らは、立ち上がろうとする。

「その程度か……? 失望したぜ、ウルトラマンノア!!」

 カイザーベリアルは、ニタリと笑い、爪を光らせながら言った。
 確かに、互角以上の力がある筈だというのに、今、ノアはカイザーベリアルに押され気味の状態だった。
 何故、ここまでの劣勢がいきなりノアを襲ったのか──その答えを、孤門一輝が悟り、同化する他の全員に向けて伝えた。

『いや……僕達には、まだ、力が足りないんだ。
 あと一人──美希ちゃんの力が……!』

 あらゆる参加者の想いを結集させた黄金の光を纏っているとはいえ、生きている蒼乃美希だけがこのノアには足りなかった。
 ピースが埋まっていないパズルのように、中途半端なまま戦っているのだ。
 全員が揃ってこそ、絆は真の絆となる。誰かが欠けてはならない。──それならば、美希を抜かしたまま、「絆」を語らう事は、偽りに過ぎないのだ。
 彼は今、ウルトラマンゼロと融合して、こちらに向かっている。
 そう、ゼロと美希──二人がいてこそ、ノアは本当の力を発揮出来るようになる、筈なのだ。






『──ゼロ! 急いで!』

 ゼロが空を飛んでいる最中、美希はまるで鞭を打つように言った。
 当のウルトラマンゼロは、これでも十二分に急いでいるつもりであったが、美希が急にそんな事を言い出したのは些か不思議に思った。
 空を飛びながら、ゼロは問うた。

「どうした、美希?」
『なんだかわからないけど、みんなに呼ばれている気がするの……』

 虫の報せという程でもないが、今、仲間たちの声を聞いた気がする。
 おそらく──仲間たちが助けを求める声が。
 それは只の不安から来る物ではなく、もっと超常的な思念が、美希の意識のもとへと確かに届いてきたような物であるように感じた。
 今、仲間たちが何をしているのかが薄々わかる。
 彼らは、今、ウルトラマンノアと一つになって、カイザーベリアルと戦っているに違いないのだ。

「そうは言っても、これでも全力で飛ばしてるんだぜ!」
『それでも急いで!』

 美希がそうしてゼロの中で焦燥感を募らせてのを、どうやら、シフォンが悟ったようだった。美希が何やら困っているらしい事には少し眉を顰めたが、それを置いて、すぐに呪文の言葉を唱えた。
 先ほどと、同じ呪文を。

「んー……きゅあきゅあぷりっぷー!!」

 それは、シフォンの持つ魔法を発動する一言だった。

「ん……?」

 と、その呪文の声と共に、ゼロは自らの中で何かが抜け落ち、変わったような感覚に陥った。──そう、一瞬だけは「違和感」だった。

「なんか、こう……身体が軽くなったような……って、あーっ!!」

 しかし、それが次の瞬間に、何が消えてなくなったのかを知らせる「確信」へと変わったのだった。
 ゼロは一度、空中で立ち止まり、自らの掌の中にいる小さな赤ん坊を見下ろした。

「──こら、おまえっ!! 美希だけ先に送りやがったな!!」
「きゅあー!」

 そう言って、嬉しそうに両手を挙げて喜ぶシフォン。
 シフォンは、つまるところ、ゼロの中の美希を、遥か彼方で戦うノアの下に「テレポート」させたのである。

 やはり、こうして止まっても、心の中から美希の文句は聞こえないので、ゼロのご明察という所だろう。
 どうせなら、ゼロも纏めてベリアルのもとに飛ばしてくれれば良かったものだが、シフォンに力が足りなかったのか、それとも、美希にだけ懐いていたからなのか、とにかくゼロとシフォンだけがこの場に置いていかれてしまったらしい。
 しかし、このシフォンという赤ん坊も大した物である。
 まさか、ウルトラマンと同化している人間を、別の場所にテレポートさせてしまうなどとは──。

「ったく……しゃあねえなあ! でも、抜け駆けはさせねえぜ!
 俺もすぐにそっちに行ってやる──待ってな、ベリアル!!」

 とはいえ、ゼロも飲み込みは早い方であった。
 すぐさま、再飛行を始め、青い風へと変わっていく。掌の中で感嘆するシフォンを時に見下ろしながら──彼は、ベリアルとの戦いへと赴いた。






 ウルトラマンノアとして戦う彼らの中に、一筋の光が転送された。
 仮にもし、ウルトラマンの中が侍巨人シンケンオーのように複数の座席を持つコクピットだったならば、空いている一席に、誰かが現れたような物だろう。

「──おまたせっ!」

 そして、それは、まぎれもない美希だった。
 ウルトラマンノアと同化する孤門たちは、その瞬間、確かにノアの中に美希が入ったのを感じた。まるで隣にいて戦っているかのような安心感が湧きあがってくる。
 声がノアの中に聞こえた時、真っ先に、佐倉杏子がそれを確認する。

「美希!?」

 全員、唖然としていた。
 こうしてウルトラマンノアとしての意識の中に、何の前触れもなく突然に美希が現れたのだ。──強いて言えば、孤門が呼んだからであろうか。
 しかし、そんな事で至極あっさりとウルトラマンに同化できるものではない。
 何故に彼女が現れたのか、それぞれ少し頭の中で疑問を沸かせたが、やはりすぐに、細かい事を気にかけるのはやめた。

「遅くなったわね……えーっと、これまでは」

 美希は、ここまでの事情を順序よく説明しようとする。殺し合いが終わってからの数日間、他の仲間は一緒にいたと考えられるが、美希だけは別行動を取る形になっていた。
 ましてや、こうしてそれぞれが集合しているからには、別行動を取っていて遅くなったのは自分と孤門だけだと思っても仕方が無い。やや言い訳っぽくもなってしまうが、遅れた理由を説明しようとしていた。

 しかし、それを話せば当然長くなる。
 今置かれている状況を忘れつつあるのは、敵よりも味方の事をまず真っ先に考えてしまったからであると言えるだろう。
 そんな美希の話を、杏子が横から中断させる。

「──まったく。そんなもん説明しなくたっていいよ。ウルトラマンといたんだろ?」
「え、ええ」
「話は帰ったら聞く。──そんな事より、今は、目の前の敵と戦うんだよ!」

 美希が目の前を見ると、そこには、黒い身体と赤いマントの、およそウルトラマンとは言い難い怪物が立っていた。
 M78星雲・光の国で、ウルトラ兄弟や他のウルトラ族を見た美希の眼にも、それはウルトラマンと呼ばれる星人達には見えなかった。
 真っ先に思い出したのは、殺し合いの最終日に見た巨大な怪物──美希自身が生み出してしまったといえる、あのダークザギ。
 美希は眉を顰める。

「あれが……ベリアル!」
「ああ、やるぞ、美希。あいつを倒して、世界を救う」
「わかってるわ。そう──」
「──完璧に、な!」

 ウルトラマンノアのパワーは、その時、無限大のエネルギーを伴って、最大レベルまで上昇した。同化している人間たちの絆と希望が最大限にまで達した時、ウルトラマンノアのエネルギーもまた最大限に引き上げられるのだ。
 ここに美希が現れ、共に手と手を繋いだ生還者たちが一つとなり──そして、「ガイアセイバーズ」となった変わり者たちの絆は、ウルトラマンノアを最強の戦士へと変える。
 孤門一輝が、二人の様子を見ながら、ノアに新たなる戦士の称号を与えた。



「これが本当の絆──ウルトラマン……いや、仮面ライダー、プリキュア、魔法少女、テッカマン、魔戒騎士、超光戦士、スーパー戦隊……みんなの、ガイアセイバーズ・ノア!!」






『がんばれ……ウルトラマン!!』
『行けぇっ!! 仮面ライダー!!』
『がんばれぇっ、プリキュア!!』

 絆だけではない。世界中から集ってくる声援の力が、ノアのパワーを強くしている。
 支配の力は、塔を崩す前にも既に衰えを見せており──そして、遂にその最後の一歩すらも消え去ったのである。
 それは、時空を超えた声援や希望をそのまま力に変えるノアにとっては、ベリアルを前に圧倒的優位に戦える状況を作り出していた。
 世界中の誰もが声援を送る。

「そうだ、地上のみんな、ミラクルライトをもっと振るんだ!」

 インキュベーターが配布したミラクルライトもまた、地上を照らしていく。
 ピンチだった「ウルトラマンノア」の中にいるキュアブロッサムや佐倉杏子を応援する為であったが──いやはや、この応援の心そのものが、彼らにエネルギーを与えているのである。
 そこには、もはやプリキュアであるか否かなど関係ない。

 かつて、ウルトラマンや仮面ライダーに救われた者たち。
 かつて、どこかで彼らの与えた夢を貰った子供たち。
 かつて、その夢を拾い上げて、新たなるヒーローとなっていった者たち。

 その四十年、五十年……そして、これから百年以上にも渡るであろう歴史が、世界中の人間の絶望を溶かし、希望へと変えて行く。

「さあ、血祭ドウコク! 君も、もっと元気よく振って!」

 ……と、インキュベーターの現在地を伝え忘れていたが、ここは六門船の中である。
 生還者であるものの、戦いには行かなかったドウコクに向けて、ミラクルライトを渡したインキュベーターは、彼にも応援をさせようとしていたのだ。
 しかし、流石に業を煮やしたドウコクは、インキュベーターから預かったミラクルライトを三途の川へと、叩きつけるように放り投げた。

「──振れるかっ!」






「ハァァァァァァァァァ……」

 ウルトラマンの姿を模していたノアは、美希が融合した次の瞬間、エナジーコアへと最大までエネルギーを充填する。
 全宇宙から、時間、空間、善悪の垣根さえも超えてノアに向けられていくエネルギーは、もはやノアという超人の持つ常識さえも覆すカタチを作り上げていた。
 ガイアセイバーズ・ノアは、その身体を金色に光らせる。
 その全身さえも包み込むほどの猛烈な光が、ノアの銀色の光を塗り替えていった──そして。

「────シュアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

 溢れんばかりのエネルギーを、叫びとともに吸収した時、その身体は、金色の暖かい光に包まれたグリッターノアへと変身していた。
 かつて、ある地球を救ったウルトラマンティガや、別の地球で超ウルトラ8兄弟の身体を輝かせた、人々の想いの金。
 あるいは、死者たちの想いとロストロギアを身に着けた彼らもまた、先ほどまで金色の戦士へと変貌していたのである。
 それを一身に受けた戦士は、これまでよりも巨大な絆の戦士となっていた。

「金色……だとッ!?」

 そう──その色を見た時、ベリアルも微かにだけ、狼狽えた。
 かつて、ウルトラマンゼロがシャイニングウルトラマンゼロへと変身した時と同じ光の色は、敵の強化を確かに感じさせたからだ。だとすると、この「金色の光」は、ベリアルへの警告であり、挑戦なのかもしれない。
 カイザーベリアルは、その背に装着した赤いマントを自ら脱ぎ捨てる。

「──面白い……それでこそ、楽しみ甲斐がある!!」

 ベリアルの周囲で、彼のエネルギーを感じ取った地面が何か所も爆発する。
 土が吹きあがり、再びさらさらと地面に叩きつけられていく。
 そして、彼は、喉の底から吼えた。



「──ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!」



 その雄叫びは、遠い空の向こうまで響くほどである。
 カイザーベリアルのエネルギーは、一瞬ながら、グリッターノアを怯ませようとした。
 しかし、ノアと同化している者たちの強い意志が、そんな恐れを乗り越える勇気となる。

『──諦めるな!』

 孤門一輝の掲げた強い意志が、それぞれの表情を硬くする。
 ここにいる者たちは頷きあい、カイザーベリアルとの本当の最後の決戦の中で──自らが勝つという確信を抱いた。
 グリッターノアは、強く右の拳を握りしめた。

「おおおおおおらァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!」

 カイザーベリアルは、その爪を光らせて駆けだす。
 グリッターノアは、その場で悠然と──まるでベリアルの攻撃を待つように──立ち構えていた。

「ハァッ!!」

 ベリアルはグリッターノアへと肉薄し、寸前で走行の勢いを落とすと、その巨大な爪をノアの横顔に叩きつけようとした。
 しかし、ノアはゆっくりと頭を下げて、それを避ける。

「オラッ!!」

 前から、ベリアルの足がノアの腹を蹴り飛ばそうとした。
 しかし、ノアは後方に向けて宙返りして、それをまたも避けてしまう。

「──喰らえッッ!!!」

 距離が遠のいたならば、と、デスシウム光線が発射される。
 ノアは両手をエナジーコアの前で組んで、両腕でデスシウム光線を受ける。
 前方から押し出してくるエネルギーに、ノアも少しは踏ん張るが、すぐに、両腕を思い切り開いて、デスシウムを霧散させる。
 そして、右腕を前に突き出し、左腕を顔の後ろで曲げ、構えた。

「ハァッ!!!!」

 カイザーベリアルのあらゆる攻撃は、全てグリッターノアには効かない、と。
 そんな自信に満ちたポーズ。
 人々が信じるに値する、無敵の超人の姿であった。



 ──ドシンッ!!



 と。

 そんな時、更にそこに金色のウルトラマンが空から振りかかって来る。
 それは、まさしく青きウルトラマン──ウルトラマンゼロだった。
 グリッターノアとウルトラマンゼロが隣に並び合い、お互いの目を見合って、頷く。
 カイザーベリアルも、そこにゼロが現れた事に驚きを隠せなかったようだ。

「貴様は……ゼロッ!!」
「悪いな、ノア、それにベリアル……遅くなった!!」

 ゼロは、丁寧にも、敵であるベリアルにもまた詫びるように言った。
 しかし、それは挑発的でもあり、あるいは扇動的な言葉でもあるかもしれない。
 自らの最大の敵が、おそらく自分を待っていたという事を見越したのだろう。

「──さあ、行こうぜ、ノア!!」
「……シュッ!!」

 ゼロの呼びかけに、ノアが頷いた。
 そして。

「きゅあきゅあぷりっぷー!!」

 次の瞬間──シフォンの祈りと共に、ゼロのもとにも人々の祈りの力が注がれていく。
 ベリアルの長年の宿敵であったウルトラマン、ゼロ。
 彼にもまた、何度でもベリアルとの決着をつけさせるべく、大量のエネルギーが力を貸す。
 そこに現れたのは──金と銀の二つの輝きを持つ戦士、シャイニングウルトラマンゼロだった。
 そう、かつて一度、ベリアルを葬った事もある姿だった。
 しかし、ベリアルは肉体を取り戻してあの時よりも強くなっている──故に、もはや、彼らより強くなった事を証明する為に、構えるのみだった。
 ──ベリアルは両掌を、それぞれの戦士に向けた。

「ふん……二人に増えようが無駄な事だ、デスシウム光線──!!」

 なんと、デスシウム光線を両手から放つという荒業を使おうとしているのである。
 ゼロを倒し、全宇宙を手に入れる為に使用できるようになった技だ。
 結果的に、ゼロを前に使う事は出来ないだろうと踏んでいたが、まさか使う機会に恵まれるとは──と、ベリアルは少し思っていた。

「──シャイニングエメリウムスラッシュ!!!!」
『──ライトニング・ノア!!!!』

 対して、負けじと二人のウルトラマンが、それぞれの最強の光線を、向かい来るデスシウム光線へと放った。
 光線のエネルギーは殆ど拮抗し、二つの光線がそれぞれ、ギリギリのところでぶつかり合う激戦を演出していた。






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最終更新:2016年01月06日 17:52