変身─ファイナルミッション─(6) ◆gry038wOvE
──不可解な静寂。
ガイアセイバーズを見下ろすカイザーベリアルは、自ら口を開く事はなかった。
そして、ガイアセイバーズと呼ばれた男たちも、その姿をただ、見上げて、一概に「敵を睨んでいる」とも言い切れない瞳で見つめるだけだった。
これは、「緊張」と呼んでいいのか、わからない。
もはや、それは奇妙な時間のマジックだった。何時間となく、無言の睨み合いが続いていたような気さえした。
それは、余裕を心に内在しているベリアルの側も同じ事だった。
自分がこうして出向く事になる事など、殆ど無いと思いつつ、心のどこかではそれを期待していた……そんな感情もあったのだろう。
ベリアルにとっては、まるで現実味のない夢が叶ったようでもあり、厄介な邪魔者に夢を邪魔されているようでもあった。この強敵でさえ、そんな微妙な感慨に没していた。
だが──誰かが、その、何人も口を開く事ができなかった静寂を、ふと打ち破った。
「────みんな……奴を倒し、全てを終わらせるぞ……!!」
それは──シャンゼリオン、涼村暁だった。
誰もが一斉に、彼の方を見た。──彼がその言葉を告げた事を、誰もが心から意外に思ったようだった。
目の前の敵が倒されれば死ぬ──そんな宿命を背負っているのは、実のところ、この元一般人の青年に他ならない。
そして、何より彼には──涼村暁には、そんな宿命と戦うヒーローの自覚は全くない。
今日の今日に至るまで、ただ、なりゆきでそれらしい事をしているが、普通の人間だ。いや、むしろ……およそ、ヒーローの資質とは無縁な性格の男だと言える。
そんな彼が……真っ先に……。
真っ先に──この静寂を打ち破り、こうして誰かの心を熱くさせたのだ。
ぐっと、全員が顔を顰めた。
「──ガイアセイバーズ。
遂に加頭まで倒しやがったか……俺様の前に現れるとは、予想外だった」
まるで暁に釣られるように、ベリアルの方が言った。
静寂が打ち破られ、雲が次第に晴れるようにしてベリアルの目が光る。
誰もが、初めて、ベリアルの声を聞いた。それぞれが全く別の声に聞きとったのだが──いずれにせよ、それは巨悪らしい低い声だった。
こんなに近くで──全ての世界を崩壊させようとする元凶が自分たちに語りかけているのだ。この最大の怪物が……。
彼一人が、宇宙を支配し、そして崩壊させようとしている。
そして、彼がいれば、これから数日と宇宙を保たせる事はできない。
「まさかお前らとこうして会う事になるとは思わなかった……褒めてやるぜ!」
そして。
そんなベリアルの声色は、心なしか、どこか嬉しそうだった。
それが何故なのかは、すぐには誰にもわからなかった。
世界にただ一人いるのが、いかに退屈なのだろうか……。
きっと、内心ではそうなのだろう。
それを、表には出さずともどこかでわかっていたのかもしれない。
……世界の支配者には、「敵」が必要だった。
世界の一番上に立った支配者にあったのは、満足感や充足感だけではなく、渇きだったのだ。元から持ち合わせていた隙間が、圧制によって埋められる事はない。
だが、今、こうして彼らが乗り越えて来た事で、ガイアセイバーズという絶対の敵が生まれたのだ──。
おそらく、ウルトラマンノアの再誕を妨害しながらもその姿が現れると歓喜にも似た感情を抱いたダークザギも、同じ心情だったに違いない。
ガイアセイバーズの中にも、ベリアルを前に、何か胸騒ぎがする者がいた。
それは、恐れではない。
むしろ、奇妙な共感とさえ言える。──生か、死かの戦いという気がしない。
何故か、むしろ、最大の敵を前に、安らかで、精神的には抜群のコンディションでさえあった。それは、ずっと追い求め、憎み続けた相手が目の前にいるのだと、その想いがあるからかもしれない。
これまでと相反する感情が内心に溢れたせいか、こうして目の前に強敵がいる事にも、不思議と現実感が消えていった。
しかし、そんな頭を切り替える。
「来い……! 俺は、小細工はしない……! お前らに勝つ自信があるからな……!!」
そんなベリアルの言葉に、ごくり、と唾を飲み込む。
だが、どう取りかかればいいのか、各々が少し悩みあぐねた。
相手の身体は50m近くもあり、簡単には倒す事ができない相手なのを実感させる。
あのフィリップですら、ベリアルの対策は検索しても浮かばないほどだ。
しかし。
そんな状況下でも、秘策を持つ男が、この場にただ一人だけ、いた──。
「……」
──そして、その男は、ゆっくりと前に出て歩きだした。
「……──」
通用するかはわからない、と思いながら。
ただ、目の前の敵にぶつける為に、少しは修行したのだ。
その男の背中を、誰もが目で追った。
どこか誇らし気に、ベリアルの前に出て行く男──。
「──仕方ねえ……! あのサイズの敵を倒すにはあれっきゃねえな……!!」
それは、仮面ライダーエターナル──響良牙であった。
ばっ、とマントを靡かせる彼の姿は、何らかの秘策を持っている状態のようだ。期待を持っている者もいれば、期待の薄い者もいた。そう簡単に倒せる相手ではないのは誰もが理解している。
だが、どうやら、良牙には、巨大な敵と戦える術があるらしい。
エターナルに向けて、ブロッサムが声をかける。
「良牙さん……? 何か秘策が……!?」
「──ああ。実は、俺は、闘気を使えばあれくらい巨大になれるんだ」
そんな一言に、誰もが少しの間固まった。
体を巨大にして戦うという事が出来るならば、数日前のダークザギ戦において、何故彼はそれを使わなかったのか……と誰もが思ったのである。
それは、自然と口から出てしまう疑問だった。──ブロッサムが、誰しもが抱いた疑問を自らが代表して彼に突っ込んでしまう。
「──なんで今までやらなかったんですか!?」
「今ほど力が溢れてる時がなかったんだよ!!」
だが、エターナルにかなりの剣幕でそう返されて、ブロッサムは今度は少し小さくなった。
確かに──いくら良牙でも、それほどまでに強大な力があって、ダークザギ戦の時に使わぬわけがない。
そして、あの時は、今のように黄金の力が自分たちを助けてくれる事もなかった。力でいえば今よりずっと低く、資質もないのだ。加えて、良牙はこの数日で、闘気の使い方をかつて以上によく学んだ。
そう。彼は「今」だからこそ……彼の力が及ばぬ、歴戦の達人の技を使おうとしていたに違いない──。
「いくぜ!!」
エターナルが叫ぶ。
そして、同時に──八宝斎や早乙女玄馬がかつて行った、“闘気による巨大化”を始めたのである。
全員、半ば半信半疑であったが、そんな怪訝の色は、エターナルの頭が階段を上るように高くなっていくにつれて失われていく。
「──!!」
歴戦の勇士であった者でさえも、この妖術めいた格闘の曲技には目を凝らし、そして、自分の経験すらも疑っただろう。
だが、現実に起きている事であるのは言うまでもないので、自らの経験の浅さを一笑して区切りをつけた。
それと同時に、感嘆もしてしまった。──下手をすると、ベリアルでさえもそうした存在の一人であったかもしれない。
「おおっ……!」
かつて八宝斎及び早乙女玄馬の二名によって行われたその激闘の様子は、さながら妖怪大戦争のようだったが──今、この場においては、唯一の希望であり、無敵のヒーローとなる存在の誕生の瞬間だ。
直後──仮面ライダーエターナルは、確かにオーラを纏って、少しずつ大きくなった。
味方の誰もが、その姿に大口を開ける。まさか、この男──こんな異様な力までも持ち合わせていたとは。
「すげえ……!!」
そして、気づけばウルトラマンのように、ベリアルのサイズへと変身しているのだった。
これが仮面ライダーエターナルの「秘策」だったらしい。
確かに、これならば、カイザーベリアルも恐れるに足らない。エターナルの実力は誰もが知っているし、カイザーベリアルとの体格差が埋まった以上、分があるのは自らの方であった。
良牙の闘気が解放され──そして、高らかに宣言し、いつも以上に遥かに大きな声で名乗りをあげた。
「見ろ、ベリアル……これが、お前を倒す────超エターナルだッッッッ!!!」
両者は同じ高さの目で、少し睨み合う。ベリアルが、そんなエターナルを前にも、気圧される事はなかった。
エターナルの目と、カイザーベリアルの目が合う。──両者の間に、緊張が走る。
だが、ベリアルは、嫌に淡々としていた。
「──巨大化、か。人間のくせに……」
「ああ……! これでお前と同じ土俵で戦える!!」
そう言いつつ、これから、この敵と戦わなければならないのか……と、エターナルは内心で独り言ちていた。
こうして同じ目線で前を見ている者こそが、これがこれまでずっと追い求めていた強敵。
そう、誰よりも強い敵だ。
こうして、自分一人で戦って勝てる相手とは限らない。
だが──エターナルは、一息飲んでから、戦う覚悟を決めるように、左掌を右拳で叩いた。
風が吹く。
「……」
「……」
──────そして、その直後、巨大な仮面ライダーエターナルの姿は消え、エターナルは再び等身大に戻った。
「……」
あまりの事に、誰もが言葉を忘れ、冷やかな瞳でエターナルを見た。その瞳は、興味のないものを見つめる猫の瞳にも近かった。
何故か元のサイズに戻ってしまったエターナルは膝をつき、がくっと肩を落としている。
そして、言った。
「……くそ。今の俺じゃ三秒が限界か」
……良牙の力、及ばず。
良牙はまだ若く、ちょっとやそっとの修行を積んだ所で、巨大化したまま戦う事など出来ようはずもない。
これは、年長の達人である八宝斎や玄馬ですら、数秒しか保たなかった技なのだから。
それ故、良牙がこれだけしか巨大化できないのも仕方のない話であったが、実戦の上で全く意味のない時間が過ぎ去り、多くの期待が泡と消えた事は言うまでもない。
「──何の為に大きくなったんですか!!」
今度のキュアブロッサムのツッコミは、全く、その通りであった。
少し良牙に期待した者は、過去の自分を呪った事だろう。
頭を抱える者も出た。幸先が不安である。──よりにもよって、カイザーベリアルとの初戦がこれとは。
ベリアルも、一瞬唖然としたが、余裕を込めて笑った。
「クックックッ……おもしれえ。随分と余裕があるじゃねえか……!」
「余裕なんじゃないやい! 本当にこれしか出来なかったんだい!」
負け犬の遠吠えのように、ベリアルを見上げて叫ぶエターナル。
しかし、誰もがそんな彼を白けた目で見つめている。
当の良牙が、全く本気であるのが輪をかけて救いようがない話で、彼は背後の者たちの視線にさえ気づかなかった。
「──ボケてる場合じゃありません。……どうしましょう」
レイジングハートもまた、呆れかえっていたが、それを中断して仲間の方を見た。
彼女自身、ほとんど無意識の事だが、まさに言葉の通り、両手で頭を抱えている状態であった。決戦を前に、こうして頭を抱えたのは初めてである。
ダミーメモリの力をもってしても、巨大化は不可能に違いない。
どうして、ベリアルと同じ土俵に立つ事が出来ようか。
「フィリップ。巨大化する術は……?」
『残念ながら、ない』
「……って事は、やっぱりこのまま戦うしかねえって事か。仕方ねえな……」
と、ダブルがダークザギ戦のように等身大のままダークベリアルと戦う覚悟を決めようとした時である。
──誰かの声が、また、響いた。
「──いや、違うぞ!!」
誰だろうか。
そんな、聞くだけでも希望が湧くような言葉を発したのは。
またくだらないボケか、と心が諦めるよりも前に、誰もが反射的にそんな希望の一声を頼ってしまう。
「──」
ダブルが振り向くと、それは佐倉杏子であった。
──全員が、ほぼ同時に杏子の方に目をやっていた。
一体、フィリップにさえ何も浮かばないのに、どんな秘策があるのかと思った。
そして、ダブルは、彼女が今、手に持っている物体に視線を落としたのだった。
「杏子……それは……」
──見れば、杏子の手では、「何か」が強い輝きを放っているのである。
今度の希望は、決して良牙のようなくだらないボケではなさそうだ。
彼女は、良牙と違う。場を白けさせるボケはしない。
真っ赤な光を輝かせるその物体から、誰しもの耳へと「音」が運ばれて来た。
「そうだ……まだ手がある……!!」
どっくん……。どっくん……。
普段から、どこに行っても鳴り響いているはずの音──。
そう──“鼓動”。
杏子の手にあったのは、まるで心臓のような血の鼓動だった。だが、心臓を持っているのではなく、鼓動を手に持っている。
それを見て、各々の頭に浮かぶのは、あの忘却の海レーテで見たウルトラマンのエナジーコアに酷似した物体である。
そして、杏子自身は、あの時──彼女自身がデュナミストであった時に感じたエボルトラスターの鼓動を重ねていた。
あの時に、自分がデュナミストをやっていたから──だから、それが自分の切り札だとわかったのだ。
杏子の手に握られているのは──
「あたしのソウルジェムだ……!! こいつが……光ってる!!」
──そう、魔法少女のソウルジェムであった。
今は使えないはずのこれが、久しく、彼女に反応したのである。……そして、その理由が、彼女にはすぐわかった。
杏子は、かつて、ドブライという一人の男が教えてくれた事を思い出す。
彼もまた、ある世界で出会った、杏子の友達の一人である。──そして、彼が最期の時、杏子に、何を告げようと……何を託そうとしたのか。
その言葉が、再び杏子の胸に聞こえた。
──……杏子よ。君のソウルジェムが……光が……きっとまた、輝く時が来る……その光で、ベリアルを、きっと倒してくれ……──
それから、今度は、自分のソウルジェムが石堀によってレーテに放り投げられ、無限の絶望の海を彷徨った時の事を思い出した。
巴マミの尽力によって、絶望の海から再びこの世界へと還ったソウルジェムだが、その時には、強い光が彼女を包んでいたのだ──。
その光とは、一体何か──。
「そうか……杏子のソウルジェムは、レーテに入った時に、ウルトラマンの光を少しだけ受け継いでいたんだ……!」
翔太郎も気づいたようだ。
杏子のソウルジェムは、確かに闇の力に染まって、魔法少女へと変身させる機能を捨てた。だが、決して闇の力だけを吸収して動かなくなったわけではない。
もう一つの力──ウルトラマンの、光の力がそこに宿り、二つの力が葛藤したから機能を停止したのだ。
ウルトラマンノアの力は今、二つに分かたれている。
その内の片方が、あの時からずっと杏子のソウルジェムに宿っていたのだという事。
そして──
「ああ、それが今、呼び合ってるんだ……!!」
それは、キュアムーンライトのプリキュアの種と、ダークプリキュアが持つプリキュアの種が強く反応し合うように──元々一つだった者の欠片と欠片が呼び合う仕組みになっていた。
未来を予知できたノアが、スパークドールズとなった時の為に残した予防線に違いない。
ノアは、杏子と美希の絆を信じたのだ。
「……みんな」
何故──ノアが今になって呼び合おうとしているのか。
その理由も、彼女にはわかる。
「美希が……あいつが、ウルトラマンを見つけてくれたんだよ……!!」
杏子は、ソウルジェムを高く掲げ、叫んだ。
ガイアセイバーズの視線は、そのソウルジェムに視線を注いだ。
「──来てくれ、ウルトラマン!! あたしたちはここにいる!!」
◆
────祈りとともに、空が光った。
銀色の翼の戦士、ウルトラマンノア──。
彼は、自らの力を注ぎ込んだ杏子のソウルジェムに反応し、彼らの居場所を即座に探知したのである。自らが復活した時、彼女たちの居場所を探る為に残した力だ。
「シャァッ──!」
感応している。
そして、自分を呼んでいる──。
ノアは、すぐにそれに気が付いた。
「ついて来いってのかよ……! 速すぎるぜ……!!」
ゼロも、ノアから授かったノアイージスを使って、銀色の流星の軌跡を追った。
しかし、測定不能レベルの速度で飛行するウルトラマンノアは、ゼロが容易に追いつける相手ではなかった。
彼の後に残った光の後だけを、彼らは辿っている。
ノアとは、実体がない存在なのではないか、とさえ思う。ウルトラマンノアは、本当に生物なのだろうか。
それでも──彼が味方で、自分たちが、敵の場所に近づいているのがよくわかった。
────その時、ノアと同化する孤門一輝の意思が、彼らの耳に届いた。
『美希ちゃん、ゼロ……君たちは、向こうへ……!』
それは、声だけだったが、どうやらリアルタイムで届いているテレパシーのような意思だと気づいた。
確かに、温和な孤門の声だ。
だが、何故、この時になって別の場所に向かわせようとするのか、美希にはすぐに理解する事ができなかった。
確かに、リーダーである彼の指示に従うのが道理だが。
『え……!? 何故ですか……!?』
『君には、もう一人、救うべき相手が残っているはずだ……!』
と──孤門にそう言われた時、美希は、思わず自分が忘れかけていた大事な事に気づく。
自分が助けなければならない仲間は、ベリアルと共にはいないのだ。
『シフォン……!』
ベリアルが貯蓄したFUKOの力と共にあるはずだ──。
ラブと、祈里と、せつなと……みんなで育てた、あの子。
円らな瞳の赤ん坊、シフォン。
インフィニティのメモリと呼ばれている、美希のもう一人の仲間。
彼女を、支配の力ではなく、再び、ただの一人の子供として、自由を与えたい。
それが、プリキュアとしての彼女の使命だ──。
美希は、ゆっくりと頷く。
『わかりました!』
「──よし、さっさと助けて、加勢してやるぜ!」
……目の前には、地球を模した青い星があった。
その星こそが、ノアが辿り着いた場所。
銀色の流星が、消えていった場所。
そして、ついこの間まで、自分たちが戦っていた場所。
やっとたどり着いた……。
この星に──。
◆
────震!!!!!!
「シャアッ……!!」
杏子たちのもとに、ウルトラマンノアが土埃をあげて舞い降りたのは、その直後の事であった。
──大地が打ち震え、一瞬だけ、強風が吹いた。
しかし、誰もがそれを浴びて、ただノアの姿を見上げていた。
その姿を見上げながら、どこか安心してそれぞれが頷き、杏子が言った。
「来た……──ウルトラマン!!」
銀色の羽を持つ、光の戦士。
カイザーベリアルでさえも恐れた、伝説のウルトラマンが、今、杏子たちの前に再び現れている。
そして、そのウルトラマンの正体は、彼らの仲間であり、リーダーである孤門一輝に違いなかった。
『────みんな……遅くなって、ごめん!』
孤門の声が、それを見上げる者たちの脳裏に響いた。
それは、ウルトラマンノアというよりも、孤門一輝という一人の男にも見えた。
カイザーベリアルも、目の前に再び現れたウルトラマンノアの姿に、僅かながら息を飲んだようだ。
彼の力でさえも及ぶかわからない強敵──それが、ノア。
しかし、やはり……こんな敵を、ベリアルは待っていたような気がする。
「まったく……遅いぜ、本当に! ヒヤヒヤさせんな!」
絶狼が茶化すように言う。
しかし、カイザーベリアルを眼前にした彼が、とにかくこの男の到着を待っていたのもまた事実だ。
それに──今のところ、死傷者は出ていない。
孤門が遅れたせいで死んだ仲間は一人としておらず、むしろ、彼が来たのは丁度良いタイミングであったと言えよう。
「……ここにいる私たちは、みんな無事です!! 孤門さん!!」
そこにヴィヴィオの姿があった事に、孤門は少し目を丸くした。
レイジングハートが既にいるので、ダミーメモリによって体だけ形作っているのでない事はすぐにわかった。
悪戯としては少々悪質であるから──おそらく、そこにいるのはヴィヴィオ本人だ。
『生きていたんだ……ヴィヴィオちゃん……!』
ノアは、そんなヴィヴィオに向けて頷いた。
それから、すぐに、カイザーベリアルの方を向いた。
「……──」
彼は、確かに待っていた。
自分と同じ土俵で戦う、別の敵を──。
しかし──ノアは、些かカイザーベリアルよりも実力が上回る存在でもある。
どちらが勝つのか──それは、カイザーベリアルにもわからない。
スパークドールズ化ではなく、もう一つの秘策も持ち合わせていたが、それよりも……まずは、自分だけの力で小手調べをしようとした。
『────ああ……!! みんな、一緒に戦おう!!』
ウルトラマンノアが──孤門が、地上の仲間たちに呼びかける。
見上げる彼らは、きょとんとした顔だった。
「俺たちが……」
「一緒に……?」
一緒に戦う……と。
しかし、今の自分たちには、カイザーベリアルと戦えるだけの力があるだろうか。この大きさでいる限り──。
そんな彼らの内心の疑問に答えるように、意識を飛ばす。
『共に肩を並べて困難に打ち勝てる絆……それを持つ者みんなが、「光」なんだ。
僕達の間に絆がある限り……みんな、最後まで一緒に戦える──!!』
地上にいた者たちは、皆、呆然とした。
全員でウルトラマンと同化するという事なのだろうか。
それが可能だというのか──。
「──そうだ……! あたしたちなら出来る!!
みんな……あたしのソウルジェムに手を──!!」
しかし、杏子が、いち早く孤門の言葉を理解し、そこにいる全員に呼びかけた。
それと同時に、戸惑っていた誰しもが彼女の言っている事を、納得したようだ。
このソウルジェムには、ウルトラマンの光が注ぎ込まれている──このソウルジェムに向けて力を発すれば、全員がウルトラマンになれる。
人間はみな、自分自身の力で光になれる──。
かつて、世界中の人々の力を借りて、邪神ガタノゾーアと決戦したウルトラマンがいた。
それと同じに……決して、ウルトラマンは一人だけが変身する物ではないのだ。
「……ああ! わかった!」
仮面ライダーダブルが。
高町ヴィヴィオが。
レイジングハート・エクセリオンが。
超光戦士シャンゼリオンが。
キュアブロッサムが。
仮面ライダーエターナルが。
銀牙騎士絶狼が。
「────いくぞ、みんな!!」
杏子のソウルジェムに、手を重ねた。
八人が、それを強く握りしめると、八人の体は、次の瞬間、一つの光となり、ソウルジェムの光の中に吸い込まれていく──。
本当に……本当に、彼らの間に芽生えた絆は、今、光となったのだ。
「絆……」
ここにいる者たち……それぞれの出自は違う。
しかし、こうして出会い、互いが絆を結び、育んできた。
ウルトラマンネクサスや、ウルトラマンノアと共に戦う時も、誰か一人だけの力で戦うわけではない……。
「──ネクサス!!」
そして、ソウルジェムは、空へと飛来し、ウルトラマンノアの胸のエナジーコアへと帰っていった。
ノアの全身に、ソウルジェムに注いだ力が再び灯る。
それは、更なるエネルギーの上昇を意味していた。
「────勝負だ!! カイザーベリアル!!」
「────勝負だ!! ウルトラマンノア!!」
ノアとベリアルは向き合った。
お互いに、同じ意識を飛ばし合う──。
戦いがあった島の上で、二つの巨体は、最後の戦いを始めようとしていた。
◆
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2016年01月06日 17:35