変身─ファイナルミッション─(8) ◆gry038wOvE




 ──……ここは?



 ──ここは、どこだ……?



 ──俺は……俺は、一体、どこにいるんだ……?



 ──そうか……ここは……



 ──ここは、……宇宙か……



 ──この俺が、かつて守ろうとした宇宙……



 ──いや……違うか……



 ──俺が、滅ぼそうとした宇宙だ……



 ──だが、俺は……何故、ここに、こうして……






「──くっ……こんな所まで飛ばしやがって……」

 ウルトラマンノアとシャイニングウルトラマンゼロの二人の戦士の光線を同時に受けたベリアルは、最後まで自らの光線のエネルギーを緩めなかった。
 結果、カイザーベリアルは、あの島を──そして、星を離れ、空から星を見下ろす宇宙まで飛ばされていたのだ。
 一面が真っ暗な闇で、そこはあまりにも孤独に満ち溢れていた。
 あの星以外には、どこにも生命などない……。
 そして、ただ一つ生命があるあの星の命もまた、カイザーベリアルは滅ぼそうとしているのだ。

 ──だが、それで良い。
 ベリアルより才に満ち溢れ、幸せに恵まれたケンやゼロ──邪魔な物は全て消え去り、ベリアルはこの全宇宙で最強の存在となる。

「フフフフフフ……フッハッハッハッハッハッハ!!!!!!!」

 宇宙から見下ろせば、あの星に浮かぶ小さな島など豆粒同然である。これまでの長い殺し合いも、最早、全宇宙の中のちっぽけな死に過ぎない。
 その上にいるシャイニングウルトラマンゼロとウルトラマンノアの輝きだけが、どこか美しく地上にあった。
 宇宙から地上を見下ろして「星」が輝いているというのは、なかなか面白い逆転現象であった。
 ……それは、ベリアルの視力だからこそ、辛うじて見える物でったが。
 ベリアルは、満月を背にしながら、それを、笑いながら見下ろしていた。

 ──俺様の勝ちだ。

 ベリアルは、この時、そう思っていた。
 確かに、二人のウルトラマンの光線はあまりに強く、地上から吹き飛ばされ、こんな所まで来てしまった。その意味では、地上でのせめぎ合いは敗北と言って良く、今のままベリアルが戦っても勝ち目はなかっただろう。
 しかし、エネルギー合戦での敗北──それは、却って幸いだったのだ。

「だが……ノア、ゼロ……俺様をここまで飛ばしてくれてありがとよ……!!」

 この宇宙には、確かに生命はない。
 だが、──死んだ者の魂がある「怪獣墓場」が存在する事もあり、斃された邪悪の魂が行きつく先は常に宇宙であった。
 怪獣として宇宙を漂う、敗者。
 この場において、その邪悪なる魂がひときわ強く、そして、何より、そんな怪獣たちと同じ世界で生きてきた戦士の邪悪な霊が居るとすれば──そう。

 そこには、彼の邪心が残っていた──!



「────ダークザギッ!! ここで敗れたお前の力、借りるぜ!!」



 ここは、ダークザギの魂が浮遊している場所だったのである──!
 宇宙の果て、こんな場所にダークザギの怨念が残っているとは、ベリアルにとっても嬉しい誤算、そして最高の奇跡である。
 かつて、ペリュドラとして怪獣たちの怨念と同化したベリアルにとっては、怪獣との同化が齎すパワーアップも充分に心得られている。

 ゼロとノア──たとえ、あの二人のウルトラマンであっても、ダークザギとカイザーベリアルが融合した戦士には敵うまい。
 カイザーベリアルは、その身にダークザギの怨念を取り込もうとする。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!」

 叫びあげ、全身にダークザギの怨念を取り込んでいったベリアル。
 その身体は少しずつ変質し、ベリアルらしい形を失っていった──しかし。

 実際の所、試みは、ほぼ成功と言えた。
 ダークザギの怨念は、ダークファウストやダークメフィスト、それから、この殺し合い以前に信じ行くに出現したビースト・ザ・ワンの力さえも加えて、カイザーベリアルの鎧へと変じ、変わった。
 エネルギーをかなり消耗したはずだったカイザーベリアルの身体は、再びエネルギーをその身に宿し、自らの名を高らかに叫んだ。

「──そう、これが……」

 最後の変身を遂げたカイザーベリアルが叫ぶ、その名は──





「──ダークルシフェルだ!!!!」





 ダークルシフェル。
 それは、未だドキュメントにない幻の怪物の名であった。
 禍々しい黒の怪物に、浮きでた血管のような赤いラインが迸った、伝説のスペースビースト──それがルシフェル。だが、その能力は元々、ダークザギよりも遥かに高いと言われていた。
 その両肩から巨大な羽根を生やすと、再び、あの星へとダークルシフェル──カイザーベリアルは降り立とうとする。
 その速度は、ベリアルのこれまでの物から格段に挙がっている。

「ゼロ……それに、ガイアセイバーズ……!! 今度こそ貴様らの最後の時だ!!」






「ダークルシフェル……だと!?」

 ウルトラマンゼロが、空を見上げながら驚愕した。
 これまで、あらゆる宇宙でまだその名前こそ確認されていたものの、絶対に姿を現さなかった怪物──それが、ダークルシフェル。
 既にこの世界にはルシフェルは存在しえないとさえ思われていた。
 だが、最強のウルティメイト・ダークザギと最強のダークウルトラマン・カイザーベリアルが融合する事によって、ルシフェルが再臨しようとしているのである。
 それはまさしく、悪夢の出来事であった。

「──大丈夫だ」

 だが、ふと、ノアの中で、誰かが声にして言った。

「敵がどんなに強くても、決して僕達は諦めない!!」

 それは、孤門一輝である。
 彼は、島に降り立とうとする怪物を強固な瞳でにらみつけ、迎え打とうとしている。
 それは決して、敵の強さを甘く見ているからではない。

「ああ、やってやる──アイツがどこまで強くなろうと、最後に俺達が笑ってやる!!」

 響良牙も。

「むしろ、相手が強いなら、こっちも強くなるだけだから!!」


「アイツを倒して、俺も絶対決め台詞を言ってやるぜ!!」

 涼村暁も。

「最後まで人間を守り抜くのが、俺たちの使命だ!!」

 涼邑零も。

「世界に新しい記憶を刻んでいく僕達を、誰も止める事なんてできない!!」

 フィリップも。

「そう、希望が私たちにある限り、私たちは負けない!!」

 蒼乃美希も。

「私たちはこの戦いを変えるんです!!」

 花咲つぼみも。

「私たちが正しいと思う未来の為に……!!」

 レイジングハート・エクセリオンも。

「人間の、全ての生き物たちの、自由と平和の為に……俺たちはお前を倒す!!」

 左翔太郎も。

「──見てな、最高に変わってるだろ……あたしたち!!」

 佐倉杏子も。

 ここにいる誰もが、これから戦うべき相手に、恐れもせず、怯みもしない。
 ウルトラマンゼロは、そんな人々の姿をじっと眺めていた。
 彼自身の決意もまた、ダークルシフェルを前に怯む事はなかったが、それでも──そんな人々の姿を、ゼロはいつまでも見たいと思った。
 そして、彼は決意する。

「──ああ、そう来なくっちゃな!! 俺も最後まで、お前たちと一緒に戦うぜ!!」

 そう、彼らと共に戦う事をだ。
 ウルトラマンゼロが、小さな光の球となり、ガイアセイバーズ・ノアのエナジーコアへと場所を移した。
 ウルトラマン同士が融合する──その経験は、かつて一度、ハイパーゼットンとの戦いでも試みた事であった。

「──よっしゃ、いくぜ!!」

 しかし、ノアの姿は全く、変わらない。
 それだけのノアの力が絶大であるという事でもあり、それは既にガイアセイバーズという戦士の総体としての姿であるという事でもあった。
 ゼロもそれを受け入れた。
 シャイニングウルトラマンゼロを取りこんだノアは、更にその力を増す──これまでに見た事のない未知の力の戦士へと、“変わる”。






 ダークルシフェルは、その羽根を広げながら、地上に降り立った。
 それは、さながら堕天使が空から降りてくるようだった。
 それと同時に、空は深い闇に包まれ、先ほどまでの白夜の空は、まるで消え去ってしまったかのようだった。

「キシャァァァァァァァァァァァァァァウーーーーーーッ」

 ホラーのような怪物にも似ていた。
 しかし、その中からカイザーベリアルの意識が消えているというわけではない。
 確実にカイザーベリアルの意思を持ちながら、絶大な力が自らの中にある確信を持って、ガイアセイバーズ・ノアと戦おうとする怪物だった。
 羽根を地上で大きく広げる──その姿を見て、ノアも構える。

「──みんな……僕たちも、変身するんだ!!」

 フィリップが叫んだ。
 全員が、フィリップの声に納得して、無言で頷き、ダークルシフェルとの戦いを始めようとしていた。

「──ハアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

 再び、グリッダー化した時のように、ノアの身体は金色の光を放っていく。
 これ以上光り輝く事などないはずのノアは、それでも尚、自らの姿を進化させようと──いや。
 その全身を丸ごと包んだ金色の光の中で、ノアは──想いを通じて別の戦士へと“変身”しようとしていた。
 そして、その光が次の瞬間、脱皮するようにして一瞬で解き放たれていく。


「ハァッ!! ──」


 ──そこにあった姿は。


「仮面ライダー──!!」

 仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーゴールドエクストリーム!
 かつて、風都タワーにて、世界中の人間を全て死者兵士ネクロオーバーへと変えようとした仮面ライダーエターナルとの決戦の際、初めて仮面ライダーダブルが変身した金色の姿であった。
 ノアはここで戦う全てのデュナミストたちの想いを全て受け入れ、その姿に変身を果たしたのである。
 ノアイージスは、風車のような六つの羽根へと姿を変え、ノアの中にいる左翔太郎とフィリップがその指先をカイザールシフェルへと向ける。

「仮面ライダー……だと!?」

 巨大な一筋の風が吹き、ノアを攻撃しようと歩み出たルシフェルの身体を止めた。



「悪の化身、カイザーベリアル、いや……ダークルシフェル!!」
「僕達は、最後までお前と戦う……!!」



 ────さあ、お前の罪を数えろ!!!!!!!!!!!



 ダークルシフェルとさえも並ぶ巨体でそう叫んだノア・ダブル。
 巨体でウルトラマンのように構え、ルシフェルとの戦闘を続けようとするノア・ダブルの姿に、ルシフェルもまた驚きを隠せずにいた。

 高い声で鳴くような雄叫びを上げた。
 ウルトラマンノアの能力や奇跡は幾つも聞いているが、しかし、まさかその姿を仮面ライダーに変える事まで出来るとは──。
 しかし、そんな事でルシフェルの戦意は微塵も削がれない。

「──フンッ、戦いの勝者には、罪なんてねえんだよッッッ!!!」

 ルシフェルは、その両翼で風を払い、敢然とノア・ダブルに向かっていった。
 地面が揺れ、怪獣と化したベリアルが襲い掛かって来る。
 その拳が固く握られている──。

「なら来いよっ! 罪を罪と思わない奴らは、俺たちが罰を与える!」

 ノア・ダブルもまた、真っ向から攻撃を仕掛けてくるルシフェルに向かって身体を揺らして駆け出し、その右拳を固く握った。
 共に、敵を打擲しようと、立ち向かうノア・ダブルとルシフェル。

 その距離がゼロに縮まった時──ノア・ダブルの右拳が、ルシフェルの拳よりも先に、敵の胸元へと叩きつけられた。

「グアッ……!!」

 クロスカウンターとなりかけたルシフェルの右拳がノア・ダブルへと届く前に、ノア・ダブルの右拳の膨大なエネルギーがルシフェルを数百メートル吹き飛ばす。
 空を泳いだルシフェルの身体は、そのまま地面に叩きつけられる。

「何ッッ……!!」

 一瞬の攻防であった。
 ダークルシフェルは地面を泳ぐようにして再び身体を立て直すが、そんなダークルシフェルの前には、既にノアが距離を縮めている。
 ──ノアは、既にダブルから別の姿へと変身していた。

「ハァァァァッ!!」
『五代、一条──……力を借りる! みんなの笑顔を守る為に──!!』

 それは、仮面ライダークウガ ライジングアルティメットフォームである。
 記録上では五代雄介が一度も変身していないが──しかし、アマダムが再現できる仮面ライダークウガの限界の姿。
 かつて、ン・ダグバ・ゼバとの決戦で涙を流した五代のように──この暴力に涙を流したのは誰だっただろうか。
 優勢であれ、誰かは心の中で涙を流しながら、ダークルシフェルに一撃を叩きつけた。

「おおりゃあああああああッッッ!!!!」

 ルシフェルは耐える。
 今度は先ほどのように、こちらが強い勢いを出していない為、ガードをすれば吹き飛ばされる事はなかった。
 しかし、ルシフェルの中には重たい電撃の一撃と、先ほどの攻撃の残留ダメージが合わさり、かなりの負荷がかかっていた。

「……ッ!! ハァァァァァァァーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 ダークルシフェルの咥内から、膨大な空気の嵐がノア・クウガに向けて吐き出された。
 彼の吐き出す空気は邪気に塗れ、小さな爆弾を散りばめたように空中で爆ぜた。

「くっ……──」

 ノア・クウガも少し怯み、右腕で身体を隠すように仰け反りながら、後方へと倒れかける。
 しかし、バランスを取り戻し、ルシフェルの放った邪悪な風を、そのまま胸部のアマダムで吸収していった。
 アマダムが徐々に回転し、だんだんとその姿を、最初の仮面ライダーが使っていたタイフーンへと変えて行った。

『ライダーの真骨頂は、クウガとダブルだけじゃない!!』
「──トォォォォォッ!!!」

 仮面ライダー新1号。
 飛蝗の改造人間にして、人間の自由と平和を守り続けた伝説の仮面ライダーの姿が、ここに顕現する。

 マフラーをなびかせ、仮面ライダーはダークルシフェルの肩にチョップを叩きこみ、更に胸部に向けてパンチを叩きこむ。
 元祖にして、最強の仮面ライダーの一撃は、ダークルシフェルの身体を、更に後方にまで吹き飛ばしていく。

「ぐっ……!!」

 ダークルシフェルが転がった所に向けて、巨大なノア・仮面ライダーは身体を揺らしながら、駆けだしていった。
 ダークルシフェルの瞳に見えたのは、一人の仮面ライダーが向かい来る姿ではなかった。彼と並び、合流しようとするように、その両脇から現れる二人の仮面ライダーの影。
 それは、先ほど自らに一撃ずつ与えた、仮面ライダークウガと仮面ライダーダブルの姿に他ならなかった。

 仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーエクストリーム。
 仮面ライダークウガ ライジングアルティメットフォーム。
 仮面ライダー新1号。
 三つの仮面ライダーの姿が重なり、飛び上がる。



 ──そして。



「──ライダァァァァァァァァキィィィィィィィィィィィック!!!!!」



 ライダーキック。
 数々の敵を葬って来た、仮面ライダー最強の必殺技が、ダークルシフェルに向けて降り立って来ようとしていたのである。
 それは、さながら流星を描くようにして、ダークルシフェルの頭部に激突する。
 電流を頭に受けたような強い衝撃が、ダークルシフェルを襲った。

「ぐっ……ぐあああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!!」

 全身に電流の光を浮かばせたまま、ダークルシフェルは雄叫びをあげる。
 ダークルシフェルへと進化したというのに、能力はむしろ──低まっているという実感が、カイザーベリアルとしての彼の中には在った。
 彼の周囲は、ライダーキックのエネルギーを受けて燃え上がり、ダークルシフェルが生きているのはむしろ奇跡とも言えるシチュエーションを作り上げている。

「──なっ……一体、何故が……どうなってやがるッ!!?」

 ルシフェルは蠢きながら、考えた。──確かにノアは強いが、それだけではない。
 今の自分の出せる実力は、先ほどまでよりもむしろ劣化しているという実感が、ベリアルの中には湧いている。
 しかし、その疑問の答えが返って来るより前に、ノアは更なる変身を遂げる。

『──Dボゥイ!! 相羽タカヤ、力を貸してくれ……!!』
「──ブラスターテッカマン!!」

 ブラスターテッカマンブレード。
 自分の記憶さえも引き換えにして、ラダムたちと──己の家族たちと戦い続ける道を選び続けた宇宙の騎士の姿を、借りる。
 彼ら……相羽一家やモロトフの力を借りて、ブラスター化を許された巨大なノアは、そのエネルギーを充填する。

「──ブラスター・ボルテッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」

 ブラスターボルテッカの灼熱が一斉にダークルシフェルへと押し寄せた。
 それは、雪崩のようにルシフェルの身体を一斉に包み隠してしまう。
 それでも、ルシフェルはまだ、その尋常ならざる耐久性と能力によって、まだ立ち上がっていた。



『あたしたちの絆……!! 力を貸してくれ、黄金の風を起こす為に……!!』
「魔法少女──!!」
 ──来たる絶望のワルプルギスの夜に、宇宙の因果さえも捻じ曲げる願いを叶えた少女の姿を、象った。


『鋼牙……!! 俺は、お前が伝えた使命を忘れない……陰我を断ち切る!!』
「黄金騎士──!!」
 ──ホラーの始祖メシアを倒す為に、守りし者と英霊の想いを受けて姿を変えた翼の牙狼の姿を、象った。


『ラブ、ブッキー、せつな……!! あなたたちの遺した想い、私が受け取る……!!』
「スーパープリキュア──!!」
 ──たくさんの人々の希望をミラクルライトで受けたプリキュアがブラックホールを浄化する姿を、象った。


「全侍合体──!!」
 ──人々の想いが込められた折神たちが全て集った、最強の侍巨人の姿を、象った。



 全てのノアは、次々にダークルシフェルを押していく。
 ノアはルシフェルから一撃も受けず、また、ルシフェルがそれらの攻撃で倒れる事も遂に無かった。
 そのあまりの優勢に、人々は大きな希望を取り戻していく。
 そして、それによってルシフェルは更に弱くなり、ノアは更に強くなっていく。そんな悪循環の中でルシフェルは、萎れながらも戦い続けていた。
 彼の内の野望は、簡単に消える物ではない。
 しかし、最早、その戦闘力の格差と、これから起きる結果は、歴然であった──。

「──シュッ!!」

 ノアは、まだ無傷で構え続けていた。
 まだいくらでも変身が出来る──変わり続ける事が出来る。
 そして、戦える。
 ダークルシフェルと化したカイザーベリアルの反撃にも、どこまでも持ちこたえる事が出来る──と。

「何故だ……何故、ルシフェルになった俺様をこんなにも簡単に超えやがるッ……!!」

 しかし、ベリアルにはそれが決して納得できなかった。
 何故、ノアやゼロに自らが勝てないのか──と。

「……まさか」

 だが、戦士たちの最強の必殺技を身に受け、体から煙をあげて、尚立ち上がろうとするベリアルは、この長時間の戦闘によってか、内心の疑問が少しずつ氷解していくのを感じてもいた。
 慣れ始めた戦闘でこそ、ようやく、「ダークルシフェル」という力そのものの弱点を強く理解し始めたようであった。
 なるほど──ベリアルは、悟る。

「──……そうか、貴様かァァァァァァ!!!」

 一体、何が今のベリアルを邪魔しているのか──その事に、ベリアルは、ようやく、気が付いたのだった。
 先ほどまでの自分と大きく違う性質を持つ力、それは一つだ。
 ダークルシフェルになる前には無かった物が邪魔しているという回答が殆ど正しいと言えるだろう。
 だとすれば、それは──



「──ダークザギィィィッ……!! 貴様が俺様の邪魔をォォォォォォ!!」



 そう──宇宙で新たに得たダークザギの邪念と魂に違いなかった。
 それが、カイザーベリアルを拒絶し、今、カイザーベリアルの肉体を弱体化させようと、パワーをセーブしていたのだ。
 ノア・ダブルとの戦闘時、クロスカウンターにさえならなかったのもまた、他ならぬザギの邪魔立てのせいであり、ダークルシフェルとして知らず知らずの内にカイザーベリアルの身体を乗っ取っていたザギの意志である。
 その名前を大声で叫んだベリアルに、ノアも微かに動揺した。

「シュ……!?」
『ダークザギ……だって!?』

 孤門一輝は、その名を口にした。
 彼にとって、ダークザギとは、つまり、石堀光彦の名前にも直結する。
 共に戦ったナイトレイダーの隊員であり、その正体は、ずっと仲間を欺きながらスペースビーストによる暗躍を企てて来た男。
 だが、やはり──長い間の仲間意識があったのも、事実であった。
 心の内は、彼に対しても少し複雑な感情を寄せざるを得ない。ダークザギを葬ったのは、他ならぬ孤門隊員であったが。

『奴がいるのか、ザギが……!?』
『石堀さん──』

 涼村暁と、花咲つぼみがそれぞれ、憮然としながら口を開いた。
 他の全員は、唖然とした表情で、ここでダークザギの名前が出て来た事が、わけがわからないという様子であった。
 かつての強敵ダークザギが復活しようとしている、という事なのかと。
 些か戦慄しながら、僅かな時間は過ぎ去った。

 ──そして、やがて、口を閉ざしていたはずの死者・ザギが答えた。

『ようやくわかったか……ベリアル!』

 ……ダークルシフェルの中から聞こえた声は、石堀光彦の声に他ならない。
 やはり、その口調はダークザギとしての歪んだ、人の物とは思えない声質を伴っていた。
 不死の存在であり、情報因子から再生──憑依する事が出来るダークザギにとっては、あの一度の死など大きな物ではない。
 むしろ、怨念という立派な情報因子を取りこんだというのが大きなミスであった。
 ──ダークルシフェルとして融合した時に、ダークザギの情報が修復されてもおかしな話ではないのである。

「貴様……何故、俺様の邪魔をするッ!! 絶望の勝利って奴が見たくねえのかッ!」

 ダークルシフェルの、まるで一人芝居のような怒り。
 その場にいる全員は勿論、外の世界にまで響き渡っている、ベリアルとザギとの対話である。しかし、傍目には、ダークルシフェルは自分自身、ただ一人で喋り続けているようにしか見えなかっただろう。
 ダークルシフェルの中にも、ノアと同じように複数の戦士が融合しており、お互いに分裂を興そうとしているのだった。

『──俺は何者にも利用されない……!!
 貴様に利用されるくらいならば、ダークルシフェルなど、消し去ってくれる……!!』

 彼の中の「ダークザギ」が、再びベリアルに答えた。
 それが本心からの言葉であるのかは、結局のところ、誰にもわからない事だった。
 ダークザギの情報因子は、ダークルシフェルとして、ベリアルの身体を逆に乗っ取り、その自由を奪っていく。

「そうか……やはり貴様が──貴様が俺様の力をおおおッッ!!」
『──俺は全てを無に返す存在……! 貴様の力も無に返していくだけだ!!』

 そして、怒りに燃え、ダークルシフェルの姿は、アメーバが分裂するように動いた。
 それは、不自然に形を変えていった。
 ベリアルは、今、必死に形を変えて、ダークザギの妨害から逃れ、独立しようとしているのである。

『俺を取り込もうとしたのが、運の尽きだ、ベリアル……!!』

 ダークルシフェルとしてザギと融合した時点で、カイザーベリアルにはむしろ大きなハンデを敵に与えてしまったのと同義だ。
 もし、ダークザギの意識がこのまま、完全にカイザーベリアルを乗っ取ってノアと戦う道を選んだならば、またノアとの間に生じるパワーバランスは変動したかもしれないが、ベリアルの意識が強く反映されたルシフェルには、これが限界であった。
 ザギもベリアルを完全には乗っ取れず、ベリアルもまたザギを従える事が出来ず、中途半端な力しか発揮できない──それが、ダークルシフェル。

「奴は、相棒に……仲間に、恵まれてなかった、ってわけか……」

 左翔太郎が呟いた。ダークルシフェルのそれは、仮面ライダーダブルと比べ、あまりに杜撰なコンビネーションだったと言えよう。

「……仲間っていうのは、利用するものじゃない……」
「支え合い、助け合うもの……」

 最後に頼れるのは、信じられる仲間──それは、ここにいる全員がよく知っている。
 自壊を始めようとするルシフェルをただ見送ろうとしたノアであったが、そんな時──ルシフェルから、声が発された。

『──そうだ……やれ、暁……!! そして、孤門……!!』

 ふと見れば、それは石堀の声であり──変質するルシフェルの形状は、石堀光彦の顔を象っている。

「……!?」

 彼は、わざわざ二人の男を名指しした。
 その事実に驚きながらも、涼村暁と孤門一輝は、どこか納得したように彼の瞳を見つめた。
 その表情は苦渋に満ちながらも、驚く暁と孤門に向けて頷いているように見えた。

「──石堀!?」
「石堀さん……!!」

 二人は、それをダークザギ、とは呼ばなかった。
 彼らにとって、ザギとして対峙した時間より遥か長く相手にしていた、石堀光彦という男の表情をわざわざ象った理由──それはわからない。
 しかし、その理由を何となく想像した二人は、ザギと呼ぶ事が出来なかった。

『俺が動きを封じている隙に、コイツを消せ──!!』

 彼の指示は、それだけだった。
 ただ、動かずに、ダークルシフェルの行く末を見守ろうとしていたノアに向けて、せかすようにしてそう言う。
 自分が抑え込める時間が僅かであると、そう悟ったのだろう。

「──……わかったぜ、石堀!」

 暁が、言った。
 なんだかんだで、石堀光彦といた時間は暁にとっても楽しかった……と言えなくもない。
 とんでもない奴で、大事な仲間を殺した仇でもあった。ちょっと感じてた友情みたいなものを裏切った奴でもあった。
 だが、最後の指示くらいは──聞いてやる。

『早くしろ!! こいつを、早く、無に返せッ!
 時間がない……躊躇うな……俺を誰だと思っている!!
 ────そして、貴様らは、一体、何者だ!!』

 押さえつけられる時間が僅かであるのか、彼はそう言った。
 ダークザギの持つ力を、カイザーベリアルが上回ろうとしているのである。
 急がなければ、

「──石堀隊員……こちら孤門。────了解!!」

 目の前にいるのは、ナイトレイダー兼ガイアセイバーズの石堀隊員。
 ここにいるのは、ナイトレイダー兼ガイアセイバーズの孤門隊員。
 孤門一輝は、この時──そう思っていた。

『──』

 故に、それはナイトレイダー式の敬礼で。
 それが、ダークザギを──石堀光彦を、少し驚かせ、彼の目を見開かせた。
 しかし、孤門一輝がしようとしている事を──石堀は理解した。



『──……行け、負けるな……孤門隊長──ガイアセイバーズ!!』



 カイザーベリアルの身体を押さえつけながら、石堀は微かに微笑む。
 そして、その時であった。
 宿敵ウルトラマンノアだったものが、覚悟を決めて、再び黄金の光に身を包み、その姿を歴戦の勇士の一人の姿に、──“変身”したのであった。



「────宇宙に咲く、大輪の花!!」



 巨大な悪の浄化さえも可能とする、ハートキャッチプリキュアの最強の姿──かつて、デューンとの最終決戦で変身した、最大の浄化力を持つ最強のプリキュア・無限シルエットであった。
 まだ、ここにいる花咲つぼみにとっては、記憶の中に変身した覚えがあっても、その実感がない姿──。
 そして、彼らが望み続けている「助け合い」への変身を実現するものが、この無限シルエットという戦士──。



「無限の力と無限の愛を持つ星の瞳のプリキュア……!!
 ハートキャッチプリキュア────無限シルエット!!!!!!」



 ダークザギとカイザーベリアルをも──悪の化身をも包み込む、絶世の女神は、その拳を振り上げ、ダークルシフェルの顔面に叩きつけた。
 白いベールが揺れ、不思議と痛みのないパンチが、ダークルシフェルの闇を消し去って行く……。
 本来なら、この惑星よりも遥かに大きいはずのこの無限シルエットであるが、その心の内だけは、やはり、宇宙よりも広い愛を納めていた。



「憎しみは自分を傷つけるだけ……くらえこの愛、プリキュア──拳パンチ!!!!!!」



 それをその身に受けながら────ベリアルとザギは、浄化されていく。
 それはノアのエネルギーの全てを使い果たし、次の瞬間には全員の変身を解除させた。
 彼らの中にあった変身エネルギーの殆どが枯れ果て、中には、変身の為の道具を手に取っても変身できなくなる体質に変わってしまった者もいた。
 ──変身が解除されれば消える事になっていたフィリップもまた、この時、どこかに消えてしまった。
 戦士たちが、それぞれ、地面に転げ落ちて行く。



『石堀……お前の最後、ちょっとだけ俺たちの仲間っぽかったりしたぜ……──』



 ──ひとまず、ノアとルシフェルの戦いは、ここで終わりを告げた。









 ──かつて、生み出された生命があった。
 星を救った英雄ウルトラマンノアの模造品。
 何故、生まれたのかもわからないまま──悪の道に堕ちたウルティノイド。










『────……ああ、……そうか……これが、俺の、本当の使命、だった、か……』










 かつて、無として消えた彼は、この時、無限シルエットの浄化力を受け、少しだけ心に満ち足りた物を感じながら、再び消滅した。








「ウガァァァァァ……!!!」

 地上で、弱ったカイザーベリアルが吼える。
 いや、それはカイザーベリアルではなかった。
 かつてウルトラ戦士として戦った、赤と銀のアーリースタイルにまで、姿が巻き戻ったウルトラマンベリアルの姿である。

「ウウウウウウウッッ……」

 巨体を揺らし、自らにあったウルトラ戦士としての善意と、カイザーベリアルとしての悪意のせめぎ合いの中で、微かにだが、悪意が押し返そうとしているのが、今のベリアルの姿であった。
 ノア・無限シルエットの拳パンチの直撃は、ダークザギを盾にするようにして回避したが、それでもその慈愛の塊は、ベリアルに確かな葛藤を与えている。

「くっ……まだ……まだ戦うつもりなのか……あいつも……」

 変身が解除された戦士たちは、朝日が昇り始めた空をバックにしながら蠢くウルトラマンベリアルを、ぼろぼろの身体で倒れながら、見上げていた。
 これがかつてのベリアル──と、少し思いながら。

「おのれ……ダークザギィィィッ!!!!! ガイアセイバーズゥゥゥゥゥッッッ!!!!!!!!! ゼロォォォォォォ……!!!!! グアアアアアアアッ……!!!!!」

 あらゆる戦士への怨念を抱きながら、まだ力を余らせているベリアル。
 たとえ、姿が戻っても、ベリアルの中に降り積もった怨念はそのままだった。ベリアルはやはり、急激に善意が湧きあがってくる反動で、微かな悪意が肥大化しようと反抗しているに過ぎないのだが──それでも、ガイアセイバーズを殺すという意志が残っている。
 ベリアルがどれだけ弱っているとしても、変身できない彼らには、もはや成す術は無かった。

「……まだ憎しみに囚われ続けるのか──ベリアル!」

 カラータイマーが鳴り響き、自らも膝をつく中で、ゼロがそう叫んだ。
 やはり彼ももう戦闘能力は残っておらず、ベリアルの怨念を振り払う事や倒す事は叶わないだろう。
 そして、何より、ここで倒してしまう事は、ベリアルに与えられた一撃──慈愛を否定してしまう事に他ならなかった。
 かつて出会ったウルトラマン、慈愛の戦士コスモスと同じ理想を、ベリアルにまで掲げようとして、そして、ここまでベリアルを葛藤させているプリキュアという戦士たちの想いを……。

「……ガイアセイバーズ、そしてゼロ……! こうなったら、貴様らも道連れだ……最後の力で貴様らもろともこの世界を潰してやるッッ!!!!」
「──!?」

 ──だが、ベリアルは無情であった。
 残っている僅かな力を右腕に充填する。そこから放った闇弾で、この地上にいる小さな人間たちを一斉に消し去ろうとしたのだ。
 勿論、これを受ければ、人間たちは一たまりもないに違いない。
 その場が戦慄した──そして、ベリアルに仇なす者の叫びがあがった。

「……くそ、なんでだよ……ベリアル!! お前だって、ウルトラマンだろォがァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 ゼロが、残り僅かな体力を振り絞り、小さな人間たちの前に立ったのである。
 それは、ウルトラ戦士として刻み込まれた、地球人を守る本能と使命の齎した結果と言っていい。──気づけばそうしてしまうのが彼らの性だった。
 それに抗う戦士は、ただ一人。──ここにいる、「ベリアル」という名のウルトラマンだけであった。

「くっ……!!」

 地球人を庇ったゼロの身体に、ベリアルの一撃が直撃する。
 ゼロの身体は大きく吹き飛ばされ、地面に落下した。

「ぐあああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!」
「ゼロ!!!!!」

 ゼロの巨体が大きく倒れ、大地が揺れる。シフォンを抱く美希が、ゼロに向けて絶叫する。
 しかし、今の一撃で、ベリアルも大きく体力を消耗したらしく、最充填には時間がかかりそうだ。

「グゥッ……まだだ……次こそ貴様らを葬ってやる……!!」

 とはいえ、やはり──対抗策が無い今、次にベリアルがまた自分たちを攻撃して来れば、全員、それと同時に死ぬ事になる。
 ほとんどのメンバーの体力が尽きかけていた。

「……くっ……あと一歩だったのに……!!」

 ヴィヴィオが言って、ベリアルを見上げた。
 全員、変身が解除され、闘う術は残っていない。ヴィヴィオもクリスの力を借りられるほどの魔力が残っていない。
 変身。それが、それぞれの力を最大限に高め続けていたが、それが出来ない今となっては──と、誰もが、少し挫けかけた。

「いや」

 ────しかし。
 最後の最後で──ある一人の男が、口を開いた。

「……みんな、待ってくれ」

 そこにいたのは、響良牙である。
 全員がぼろぼろの身体と着衣で倒れこんでいる中、良牙だけは、よろよろになりながらも一人、立っていた。

「俺は……まだ何とかなる……」

 そう、彼だけは、変身をしなくても戦える。
 元々、彼にとっての変身は、むしろ戦闘能力を格段に低くする、“小豚”などへの変身である。今やそれも克服し、一人の人間として戦えるのだ。

「……だから、やってやるよ……俺が、最後に……一撃……」

 それだけではない。
 彼は、むしろ──“変身”などという物を、煩わしいとさえ思っていたのかもしれない。
 彼がこれから行う変身は、ただ一つでいい。
 たとえ、これからここにいる誰もが、一生、仮面ライダーやウルトラマンやプリキュアに変身できないとしても、

「────俺たちの、とっておきでな!」

 良牙の背を見ながら、それぞれが少し押し黙った。
 そんな時に、翔太郎が、彼の背に向けて言った。

「……今度は、信じていいんだな? 良牙……」

 先ほどの巨大化の事も忘れてはいないが、今度の良牙は先ほどよりもずっと本気に見えた。──その後ろ姿が、男の後ろ姿に見えたからだ。
 それは信頼できる男だけに許された男の背中だった。

「ああ……。元の世界のダチに教わった技が……まだ残ってるんだ──!!」

 良牙は、敵ではなく──味方の方に向き直って言った。
 それもまた、男の顔であった。友との約束を果たす為に、今、巨大な敵に立ち向かおうと言う、まさにそんな男の強い意志が作り上げている精悍な顔である。
 翔太郎は、自分が女だったら惚れちまうだろうな、などと思いながらも、笑いはせずに、彼の言葉を聞きいれた。
 誰もが──彼の言葉を耳に入れていた。
 ウルトラマンベリアルの手に、闇の波動が溜まっていった。

「俺も、こいつを必ず奴にぶつけるって約束した……まさかここでこんなチャンスが巡って来るなんて思わなかったぜ……」

 それから、良牙は、ゆっくりと、一人の少女のもとまで歩いて行った。
 そして、そこで、立ち止まり──少女の手を強く握った。

「──……なあ、つぼみ。最後に、俺の手に、つぼみの力を分けてくれ」

 花咲つぼみ。
 これまで、長い間、響良牙とともに行動してきたプリキュアの少女。
 あらゆる戦いを共に乗り越え、共に泣いた──ここに来てから良牙が出会った中で、最も親しかった相手だ。
 今、良牙には彼女の力が必要だった。
 ムースに技を受けた時から、花咲つぼみという少女が持ち続けている感情が必要になると思っていたのだ。
 そして、それは、今や確信だったのである。

「私、ですか……?」
「きみの力が必要なんだ……。
 奴を最後に倒すのは──いや、救うのは、つぼみ……きみの力なんだ!!」

 普段の良牙は、こう言い直したりはしなかった。
 いつも、敵を倒す事ばかりを考えていた──それは、格闘家として戦い続けた男であるが故、仕方のない事かもしれない。
 だが、今、彼は、あの強敵を「救う」と言ったのだ。──つぼみと同じに。

「……」

 つぼみは、悩むというより、少し戸惑うように、良牙の目を見つめた。
 その瞳を見ていると、どこかつぼみも切ない気持ちになるが、それでも逸らす事は無かった。

 そして──つぼみは決意する。
 何が、良牙の力になるのかは、つぼみにはわからなかったが、それでも良い。
 良牙の力になれるのなら。

「どういう事かはわからないけど……わかりました」
「ありがとう、つぼみ」

 礼を言うと、良牙はつぼみの手を握ったまま、少しの間目を瞑った。
 その間、つぼみは何も考えなかった。
 ただ、二人の時間が止まり──良牙とつぼみの、これまでの戦いと日常の軌跡が、次々と頭の中に浮かんでくるだけだった。

(──)

 五代雄介の死地で墓を見舞った事。
 一条薫とつぼみと良牙の三人で行動していた間の事。
 仮面ライダーエターナルと戦い、二人のライダーの最後を見届けた時の事。
 冴島鋼牙という男の事。
 ダークプリキュアが仲間になった時の事。
 美樹さやかを救いに行こうとした時の事。
 天道あかねと戦う事になり、そしてその死を見送った時の事。

 共に戦い、共に笑い、共に泣き、成長した。

 大事な友達をなくしていく悲しみに耐えられたのは──お互いに支え合う事が出来たからに違いない。
 長い時間が過ぎ去ったような実感があった……しかし。

「ガイアセイバーズぅ……!!」

 空から、声が聞こえ、その時間は終わりを告げた。
 ウルトラマンベリアルが、次の一撃を放とうとしているのだ。──あの手が振り下ろされれば、巨大な闇が彼らを包み込むと同時に、ベリアルも、ガイアセイバーズも、誰も彼もが最後を迎える事になるだろう。

「あっ……」

 良牙の手は、戦いの為に、つぼみの手を離れた。
 その手が離れた時、不思議と、良牙とはもう会えないような……そんな気持ちがした。
 手に残ったぬくもりが冷めていく前に、良牙が叫んだ。

「──よし……見てろ、ベリアル!!」

 良牙の高らかな叫びと共に、つぼみは今の時間に引き戻される。
 この時に、こんな悪い予感がしているのは──おそらくつぼみだけだっただろう。
 誰もが良牙を信じている。
 つぼみも、良牙を信じている。──だが。

「もう上ッ面だけの変身なんざ必要ねえ……!! 俺は、このまま戦う……!!」

 ベリアルが、闇の弾丸を地上に向けて放った。
 しかし、良牙はその前に立ったまま、まるでその闇弾に向かっていくように、地面を蹴とばして、思い切り飛び上がる──。
 その拳が、ベリアルの放った攻撃にぶつかった。
 生身の人間の身体ならば、ベリアルの攻撃を前に一瞬で蒸発しても何らおかしい事ではない。
 しかし、良牙のエネルギーは、その闇に打ち勝とうと前に押し進んでいる。

「これが、全宇宙を支配した男さえも超える、変わらない人間の力────!!!」

 そう──この拳には、つぼみから受け継いだ力があるのだから。
 彼女が──いや、乱馬も、ムースも、あかねも、良牙も。
 誰もが持っていた、想いが込められているのだから。

「俺が、乱馬や、ムースや、あかねさんや、つぼみから……仲間たちから受け継いだ、最強の必殺────!!!!!!!!!!!」






 ──元の世界に帰った良牙に、静岡の山中でムースが教えた技があった。
 その時のことを、もう一度振り返ろう。




 ……このままでは、たとえあの世でも、シャンプーを乱馬に取られてしまうのではないか。
 それどころか、乱馬がいなくなっても、今度は良牙がムースの前に立ちはだかってしまうのではないか。

「くっ……!」

 かつて見た、強く、何度挑んでも負けない男の姿。──目の前の良牙が、かつて、乱馬に対してムースが抱いた執着と重なってくる。
 そうなると、ムースは、どうしても、その男を殴らざるを得ない衝動にかられた。
 シャンプーは渡さん──と、何故か、良牙にさえ思う。

「それにあかねさんの事で辛いのは俺だけじゃない……。あの人たちも、俺なんかよりずっと辛いのに……それでもまだ戦おうとしてるんだ! 俺は、あの人たちにも負けるわけにはいかない……今すぐにでも行ってやるっ!」

 そして──遂に、その拳が、怒りに触れ、良牙の頬を殴った。

「この、たわけがっ! ────っ!!」

 ただのパンチではない。
 それは、この一週間、コロンとともに、ムースが鍛えて編み出した新たな気が込められたパンチである。
 暗器ではなく、修行によって得た“拳”の一撃は、的確に良牙の左の頬に叩きこまれ、彼を土産物の山の中に吹き飛ばした。

「……!?」

 頑丈な良牙が今、気づけば土産物の台や床を突き破り、地面に半分埋もれている──。
 良牙には、一体、何が起こったのか、さっぱりわからなかった。
 コロンは頷き、シャンプーの父は呆然とそれを見た。──『土産物の台を突き破ったり、床を叩き潰したりしないでください』と書いてある注意書きの紙が、あまりの衝撃に剥がれた。
 良牙は、ムースを見つめ、呆然としていた。
 目を見開き、何かに興味を示した幼児のように、今のムースの攻撃を振り返る彼は、痛みなど忘れていた。






 ──気は、「気が重く」なれば、重い気の獅子咆哮弾を発する。
 ──気は、「強気」になれば、強い気の猛虎高飛車になる。

 つまり、気とは、使い手の感情の持ちようで形を変えていく概念である。

 さて、それでは、ムースが身に着けた気の技とは、何だったのだろうか。

 ヒントは二つ。
 あの時、ムースは、自らが愛するシャンプーの事を考えていた。
 そして、良牙は最後、強い愛情をその身に宿しているつぼみの力を借りた。



 そう──最も簡単な物だった。





 ────やっぱり、最後は、『愛』が勝つ、という事。






「喰らえええええええッッッ!!!! この『愛』……ッッッッッ!!!!!!!」



 その拳に『愛』を込め、ベリアルに向かっていく良牙。
 空に飛び上がった良牙の拳は、ベリアルの放った闇を押し返しながら空へと進み、彼の胸部に向けて肉薄した。
 勢いはとどまる事を知らない。
 ベリアルの放った光線すらも押し返そうとしている人の意志──。

「良牙さん──!!!」


 そして。


「────ガッ……!!!」


 次の瞬間、その一撃は、ベリアルの胸部のカラータイマーを砕いた。



(おい、ムース……シャンプー……右京……乱馬……あかねさん……見てくれたか?)



「何だ……この力は……涙が……溢れる……ッ!!」



(見ろよ……おれは、乱馬を越えた……あいつよりも、ずっと強いんだぜ……!?)



「そうか……ケン……ゼロ……」



(……でも、これで俺の命は終わりだな……。
 五代、一条、大道、良……俺も最後は、ライダーらしく、笑顔で逝ってやるよ……!!)



「──……これが、貴様らの……守りし者の力……!!」



(……ごめん……あかりちゃん……こんな形で、約束破ってしまって────)



「──ぐああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」





(ありがとう……つぼみ……ここに来てからの俺の、一番の、友達……!!)






 ────直後、カイザーベリアルの身体は、周囲一帯、全てを巻き込んで、大爆発を起こした。



「良牙さああああああああああああああああああああああああああああああああああああんッッッッ!!!!!!!!!」


「良牙ああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!!!!!」



 そして、そんな叫びとともに、支配と、殺し合いは全て、────終わった。



【カイザーベリアル@ウルトラシリーズ 死亡】
【GAME OVER】



【響良牙@らんま1/2 ────ETERNAL】
【残り9人】






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最終更新:2016年01月06日 18:02