わたしが、しっかりしないと ◆IdwfK41Ttg



『優勝された方にはどんな報酬でもお渡しする用意がございます。金銭や物品、名声や社会的地位、或いは人の命を蘇らすことなども可能です。奇跡も魔法も、我々が実現して差し上げます』

 星空が輝く中、巴マミの脳裏には加頭順の言葉がリピートされていた。
 闇に覆われた始まりのホールで、あの男は集められた65人にそう言っていたがマミは全く信用していない。いきなりこんな訳の分からない場所に拉致監禁して、一方的に殺し合えと言う輩を信じろと言われても無理だ。
 第一、仮に殺し合いとやらに優勝しても願いを叶える保障すらない。もしも順の言うがまま、他者を踏み台にして生き残っても最後に裏切られる可能性のほうがずっと想像できる。
 もっともマミは最初から魔法少女の力で人を殺めるつもりなど、微塵もなかったが。

(でも、あいつらの力は底知れない物と考えた方が良いわね……あそこから私達を一瞬で拉致してくるなんて)

 しかし彼女の中でどうしても引っかかっている事が一つだけある。
 そもそも、私はいつものように魔女と戦っている筈だった。鹿目さんや美樹さんを連れてお菓子の魔女と戦っている中、気がついたらあのホールにいた。
 この事から考えると、どんな報酬でも用意できるという加頭の言葉はあながち嘘ではないかもしれない。

(……私とした事が油断しすぎたわ。これじゃあ、二人に顔向けできないわね)

 彼女達にとって頼れる先輩でいようと思ったのに、あんな奴らに拉致されるような醜態を晒してしまう。しかもそれだけでなく、今は二人を危機に晒していた。
 これも全て、鹿目さんの好意に甘えてしまった私の責任だ。考えてみればあのお菓子の魔女との戦いだって、一歩間違えたらそのままやられていた可能性だってある。
 これでは魔法少女として、殺し合いに巻き込まれた人々を守ることなんて出来るわけがない。

(今度こそ、私がしっかりしないと駄目ね……今は桃園さんだっているんだから)

 マミは隣でゆっくりと歩く少女に目を向けた。
 桃園ラブは先程は明るく笑ってくれたが、出会ってから一時間以上経った今は沈鬱な表情を浮かべている。そのせいか、足元にも力が感じられなかった。
 もっとも、男の人達の首が吹き飛ばされてしまった直後に命を握られてるとなっては、誰だってショックを受けてしまう。
 しかし彼女が抱えているのは恐怖とはまた別の痛み。見せしめにされた人達を助けられなかったという、自責の念だった。
 きっと今だって、彼女は圧し掛かる責任感に押し潰されそうになっているかもしれない。それは数日程度で治る傷ではないので、ゆっくりと時間をかけて癒す必要がある。
 だから今は一つでも多くの事を話して、桃園ラブという少女について知らなければならなかった。

「……なるほど、あなた達プリキュアはそのラビリンスや砂漠の使途って奴らからみんなの幸せを守っていたのね」
「あたしや美希たんとブッキーとせつなはそうですね。砂漠の使途と戦ってたのはつぼみちゃんやえりかちゃん、それといつきちゃんにゆりさんです」
「砂漠の使途か……ダークプリキュアってのは、月影さんのお父様が生み出した月影さんの妹……だったわよね?」
「あたしも詳しい事はわかりませんけど、つぼみちゃん達はそう言ってました。でもずっと前に、ゆりさんが倒したって聞きましたけど……」
「つまり、ダークプリキュアは生き返ったって事になるのかしら……?」
「たぶんそうだと思います」
「そう……」

 ラブの言葉にマミは疑問を抱く。
 名簿に書かれているダークプリキュアという存在はかつての戦いで既に死んでいる事になる。しかし死者が蘇るなんて事は、奇跡でも起きない限りあり得なかった。
 キュウべぇとの契約ならば魔法少女になった際の奇跡として、どんな不可能なことでも可能に出来るかもしれない。しかしキュウべぇが順に協力しているなんて考えたくなかった。

「ただ、ダークプリキュアがいる理由にちょっとだけ心当たりがあるんです」

 そしてそんなマミの思案を遮るようなラブの言葉が聞こえる。

「心当たり?」
「はい……前にフュージョンやボトム、それにブラックホールって強大な闇が現れた事があるんです。そいつらはみんなとんでもない力を持っていて、宇宙全てを闇に覆い尽くそうと企んでたんです」
「……宇宙全てを、闇に?」

 あまりにも桁外れた話にマミの表情は疑問に染まった。
 宇宙全体を危機に陥れるような存在。一瞬、ただの聞き間違いかと逃避するような思考が芽生えたが、ラブの暗い表情が嘘ではないことを証明していた。

「それはどういうことなの? 桃園さん」
「あいつらはあたし達プリキュアが倒した敵を闇の力で復活させて、世界を支配する為にみんなを襲ってたんです。だから、ダークプリキュアが復活したのもそんな奴の仕業かもしれません」
「復活って……それは、この島の何処かにいるノーザって奴も含まれてるの?」
「ノーザも前にボトムって奴が復活させたんですが、それからプリキュアのみんなで力を合わせて倒しました。でも、ここにいるって事はフュージョンみたいな奴がまた出てきたんだと思います」
「だとしたら、それがあの加頭って男の背後にいて私達を拉致した可能性があるわね……」

 順の背後には地球全体を絶望のどん底に落とすような存在がいる。その可能性に至った瞬間、マミは背筋が一気に冷えるのを感じた。
 ラブの話から察するに、プリキュアは基本的に規格外の実力を持つ化け物と戦っている。そういう意味では魔女と戦う魔法少女と同じなのかもしれないが、スケールがあまりにも違いすぎた。
 恐らく主催者はこの狭い孤島に、数多の異世界から超常的戦闘力を持つ存在を簡単に放り込む位に強大な力を持っている事が考えられる。順の言っていた『テッカマン』や『仮面ライダー』がその例だ。
 全ての平行世界を支配しようと企んだラビリンスや地球全てを砂漠にさせた砂漠の使途、そしてそんな連中を復活させられる存在に比べれば魔女と戦う自分など塵に等しいのかもしれない。

「私なんかが……そいつらに勝てるのかしら」
「勝てますよ、マミさんなら」

 絶望が芽生えそうになった瞬間、マミの両肩がラブによってガシリと捕まれる。

「今まで魔女って奴らからみんなを守ってきた強いマミさんが、負けるわけがありませんよ!」
「桃園さん……?」
「それにマミさんは一人じゃありません、あたし達プリキュアがマミさんの力になります! 一人よりも二人、二人よりも三人、みんなで頑張りましょうよ!」

 そう強く語りながらラブは笑っているが少しだけ虚ろで、瞳からは微かに涙が滲み出ていた。よく見ると両腕も微かに震えていて、肩からその振動が伝わってくる。
 彼女は辛いにも関わらずして、必死に耐えていた。しかも弱音を吐いた自分を責めるどころか、むしろ励ましてくれている。
 その気持ちは嬉しいが、同時に後ろめたさも感じてしまう。彼女に無理をさせないと誓ったばかりなのに、逆にこちらが気を遣わせるなんて本末転倒だ。

「……ごめんなさい、私としたことが弱気になって」
「大丈夫ですよ。みんなで力を合わせれば、どんな事だって乗り越えられますって!」
「そう言ってくれてありがとう……私も、あなたみたいな人と一緒なら困難を乗り越えられそうな気がするわ」

 だからラブの為にも笑った。こんな状況にも関わらずして、気丈に振る舞う彼女を少しでも心配させないために。

「そうだ、一旦休憩しない? もう一時間以上ずっと歩いたせいかちょっと疲れちゃって」
「ええっ!? 大丈夫ですかマミさん!?」
「大丈夫よ、ちょっと休めばすぐに元気になると思うから」
「あ、そうですか……よかった」
「ありがとう、心配してくれて」

 ラブがほっと息を撫で下ろすのを見て、思わずマミはくすりと笑ってしまう。
 勿論、魔法少女として戦ってきた彼女の体力は少し歩いただけで消耗する程ではない。少しでもラブの気持ちを落ち着かせるために、こまめな休息も必要だった。
 あまりのんびりしていられないのは分かるが、急いては事を仕損じるという諺もある。それにノーザやダークプリキュアのような殺し合いに乗るような輩と遭遇したときに備えて、万全の体調を整えなければならなかった。





「そういえばマミさんにだけ、どうして首輪がソウルジェムって奴に付いてるんでしょう? あいつらがうっかり付け間違えたって事は……」
「それは無いわね、ソウルジェムは私達魔法少女にとって魔力の源なの。だからあいつらはそこに目を付けたんだと思う」
「じゃあもしもそれが壊れたりしたら……どうなるんですか?」
「私も詳しいことは分からないけど、恐らくもう二度と戦えなくなるわね……最悪の可能性として、私はそのまま死ぬ可能性だって考えられるわ。奴らなら、ソウルジェムにそういう細工を仕掛けることも出来るかもしれないし」
「そんなっ……!」
「大丈夫よ、これは可能性でしかないし。例えそうだとしてもその前にこんな馬鹿げた殺し合いを止めて、あいつらをとっちめればいいだけの話だから」
「……そうですよね!」

『I-3』エリアと『I-4』エリアの境目に流れる川に存在する橋に設置された木製のベンチに、ラブとマミは寄り添うように座っている。
 彼女達の華奢な身体には今、ラブに支給された毛布が羽織られていた。何故殺し合いの場にこんなのが配られるのかは二人には理解できなかったが、休むならば夜の寒さを少しでも凌がなければならない。
 穏やかに流れる川のせせらぎを聞きながら、毛布を身に纏う二人は支給されたドーナツを口にしていた。

「それにしてもこのドーナツ、とってもおいしいわね……あなたはいつもこれを食べてるの?」
「はい! あたし達の住むクローバータウンストリートって所にはカオルちゃんって言う何でもできる凄いおじさんがいて、みんなの為にいっつもおいしいドーナツを作ってくれるんです!」
「そうなの。何だかとっても羨ましいわ」
「あ、よかったらもっとどうぞ! マミさんにはこのドーナツのおいしさを知って欲しいから!」
「ふふっ、ありがとう。それじゃあお言葉に甘えてもう一個貰うわ」

 謎だらけのおじさん、カオルちゃんの作ったドーナツをマミは微笑みながら頬張る。そんな彼女を見て、ラブもまた笑った。
 フュージョン達の嫌な話をした後は落ち込みそうだったが、こうして笑ってくれたのはとても嬉しい。どれだけ泣いている人でも一瞬で笑顔にできるパワーを、このドーナツは持っていた。 

「もしもよかったら、こんな戦いを終わらせた後にみんなを呼んでもいいかしら? こんなにおいしいドーナツ、みんなで食べられればもっと楽しいはずだから」
「もっちろんですよ! みんなで食べればその分だけ、もっと幸せをゲットできますから!」
「なら、是非ともそうさせて頂くわ……その時が楽しみね」

 そう言って笑いながら、ドーナツを食べ終わったマミはペットボトルの紅茶を少しだけ飲む。
 ラブとマミに一本ずつ支給されたそれもまた、殺し合いの場には到底似合わないような代物だった。

「あ、マミさん。一つだけいいですか?」
「何かしら?」
「その……ほむらって子も呼んでも良いでしょうか? その子もマミさんと同じ魔法少女なら、きっと分かり合える気がするんです」

 暁美ほむら
 内面を読むことができず、マミと同じ魔法少女でありながら魔法少女を生み出すキュウべぇを狙っているという謎の女の子。
 その事からマミは彼女を注意するように言っていたが、もしかしたらそうしているのも何か理由があるかもしれない。
 それにこんな訳のわからない戦いで、無意味な犠牲を出したくない。だから、もしも出会えたら協力をしたかった。

「……私もできるなら、彼女と協力したいわ。こんな状況だからこそ、誰かを信じることが大切でしょうし」
「じゃあ……!」
「でも桃園さん、私達魔法少女はあなた達プリキュアとは違って必ずしも味方同士って訳じゃないの……これだけは忘れないで」
「プリキュアと……そんなに違うんですか? みんなの為に戦ってるのはプリキュアも魔法少女も同じなのに」
「残念だけど、根本的に違うところがあるわ。魔法少女の間では手柄の取り合いが起こる事だって、多いのだから……暁美さんも内面が読めない以上、迂闊に信用する訳にもいかないの」
「……そうなんですか」

 そう語るマミの顔は、初めて会話した時のように少しだけ厳しい雰囲気を放っている。
 彼女の言うことは確かに正しい。この孤島にノーザやダークプリキュアのような奴がたくさんいる可能性は充分にあるので、安易に誰かを信用していけないのは分かる。
 でも、だからって誰かを信じられないのはあまりにも悲しすぎた。

「けれど私も、もしも暁美さんと会えたらできる限り話をしてみるわ。桃園さんが言うように、諦めなければきっと分かり合えるかもしれないし」
「本当ですか!? じゃあ、その時はあたしも一緒に協力してくれるように話します!」
「ええ、その時はお願いするわ」

 そしてマミはにっこりと笑う。その穏やかな表情を見た瞬間、ラブの中で悲しみが少しだけ払拭された。
 ラブはまだ巴マミという年上の少女の事をあまりよく知らないが、こうして互いの事を話して距離が縮むのは嬉しく思う。
 一人でも多くの人と手を取り合えれば、いつかはみんなが心の底から笑える事ができるかもしれないと、ラブは信じていた。

「それじゃあ、そろそろ行こうと思うけど桃園さんは大丈夫?」
「あたしならバッチリ大丈夫ですよ! 疲れも取れましたし!」
「良かった……じゃあ、行きましょうか」

 ラブの明るい笑顔とマミの穏やかな笑顔が、互いに安心感を与える。
 ベンチから立ち上がって毛布とドーナツをデイバッグにしまいながら、ラブは考えた。マミさんと一緒に戦うのなら、決して足を引っ張ってはいけないと。
 かつてつぼみ達の敵であったと言うクモジャキーみたいに、無意味な犠牲を出してしまった悲しみは未だに残る。
 けれども、この人はあたしの事を心配してくれてるのだから、悲しみに沈まないでしっかりしないといけない。

(みんな……お願いだから無事でいて。こんなふざけた事で犠牲になるなんて、あっちゃいけないんだから!)

 ラブはこの島の何処かにいるはずの友達、そしてマミの後輩達の無事を願った。
 しかし彼女はまだ知らない。今から数時間後に共に戦ったプリキュアの一人である来海えりかが、死ぬ運命にある事を。
 そしてそれを行ったのは、殺し合いに乗ってしまったキュアムーンライトこと月影ゆりである事を。
 理想を裏切る残酷な運命をラブには知る事ができなかった。



【1日目/黎明】
【I-3/橋の上】


【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:健康、罪悪感と自己嫌悪(少しは和らいでいる)
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×2@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
1:マミさんと一緒に行動し、話をする。
2:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。
3:マミさんの知り合いと会って協力したい。ほむらもできるなら信じていたい。
4:犠牲にされた人達(堂本剛三、フリッツ、クモジャキー)への罪悪感。
5:できるならマミさんにあまり負担をかけたくない。
6:ノーザとダークプリキュアには気をつける。
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。


【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどかマギカ
[道具]:支給品一式、ペットボトルに入った紅茶@現実、ランダム支給品1~2
[思考]
基本:殺し合いには乗らず、魔法少女として犠牲を出さない。
1:桃園さんの為にもっとしっかりする。
2:ノーザとダークプリキュアは危険人物として注意する。ほむらに関しては本人に出会うまで保留。
3:もしも桃園さんが無茶をしそうになったら、何としてでも止める。
4:プリキュアの人達と会えたら協力する。
[備考]
※第三話の死亡直前からの参戦です。
※ラブの知り合いについての情報を得ました。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。



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最終更新:2013年03月14日 22:30