その5
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homuhomu_tabetai
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カミジョーとひとひとを群に迎え入れてから、早くも半月が過ぎた。
若い二匹のつがいは群に融け込み難い雰囲気を感じながらも、群に迷惑をかけぬように過ごしていた。
野良カミ「カミカミィ」ノンビリユッタリ
野良ひと「ヒトヒトォ」セワヤキセワヤキ
とは言え、より非力なカミジョーをひとひとが面倒を見ると言う、
ともすれば怠惰にしか見えないカミジョーの態度に苛つく者も群には少なくない。
しかし、逆にそれが野良ほむ種達のひとひとに対する同情心を誘発する結果となり、
怠惰なカミジョーへの不信と相まって、群とつがいの間にはほど良い距離感を築かれていた。
そして、そんな群の状況に関わりなく、若あんあんと若さやさやも立派な成体、
つまり大人のあんあん、さやさやへと成長を遂げていた。
野良あん「アンアン」
野良さや「サヤヤァ」
病弱であった義母のめがほむは既に亡く、もう一人の義母であるさやさやを失い、
義姉妹は二人きりになったが、それでも二人で支え合い、群の仲間達に支えられ、
今日も強く生きていた。
大人になったほむ種は、次第に群での役割に応じたグループで活動する事が多くなる。
知恵と力で群を導く、りぼほむと白まどまど。
拠点を守り、群の仔供達の面倒を見る、めがほむ、ほむほむ、まどまど。
そして、狩に殉ずる、あんあん、さやさや。
これらの組み合わせが、一般的につがいになり易い組み合わせである事は周知の通りで、
特に多芸なまみまみとゆまゆまは群の至る場所で活動する。
本来ならば、共に狩りのグループとして活動する義姉妹だが、
さやさやは前述の通り“虚弱奇形種”であった故に、めがほむと行動を共にする事が多くなった。
野良めが「ホムゥ、ミキサン、ホムホォ」
野良さや「サヤァ、テンコーセェ、サヤヤァ」
ホミュー ミャロロォ
めがほむと共に、幼仔達に囲まれて過ごすさやさやは、
やはり今も“歌のお姉ちゃん”として仔供達のアイドル的存在だった。
野良仔ゆま「ユミャァ、オネーチャン、ユミャッ」ダキツキ
野良仔まみ「ミャミミャミ、ティリョォ、ミキシャン」ギューッ
野良さや「サ、サヤヤヤァ」アワアワ
今日も何人もの仔供達に歌をせがまれていた。
めがほむ程度の力しかないさやさやは、数人の仔供に抱きつかれると、
それだけで身動きが取れなくなってしまう。
しかし、彼女はそれが決して嫌いではなかった。
群の子守は、仕事だから、役目だからと言うだけで務められるほど生易しくはない。
だが、面倒見の良いめがほむやまみまみがそうであるように、
彼女も群の仔供達が好きだから、歌を聞いて貰うのが好きだから、この役割に誇りも感じていた。
しかし――
ミャロォ クーキャイ ティリョォ シュクワリュタチョーレ ホミュミャァ
野良さや「サ、サヤァ、ホ、ホントバカァ」アセアセ アワアワ
――これだけの数に一斉に抱きつかれると、対処のしようがない。
だが、そんな時はいつも……そう、彼女が来てくれた。
野良あん「アンー、サヤカァ!///」ノシノシ
野良さや「サヤァ、キョーコォ///」
少し大きめの果実を担ぎ、仔供達に群がられているさやさやの元へと来たのは、
そう、彼女と共に育った義姉妹のあんあんだ。
ホミャミャァァ!? フィニャーレェ!?
身の丈ほどもある果実を抱えたあんあんの登場に、仔供達は驚きと歓声を上げる。
野良あん「クー…カイッ!」ズシンッ
群一番の力持ちとなったあんあんの狙いは、いつも大物の果実だった。
理由としては、単純にこうして義姉妹の元に戻る時の手土産だったが、
それは副次的に仔供達待望の“おやつ”の登場の時でもあった。
サクッ サクッ サクッ
野良あん「クーカイ?」スッ
ホミュゥ クーキャイ ミャロォ
自慢の槍で果実を小さく切り分け、順番待ちの列を作る仔供達に手渡して行く。
そうこうしている内に、仔供達に一斉にまとわりつかれていたさやさやも解放され、
仔供達も大人しく、だが楽しく賑やかなおやつタイムとなる。
野良めが「キョーコ、ホムホムゥ」ペコリ
野良あん「アンアン、ホムラ、アンコォ」
仔供達の面倒を見る手伝いをしてくれる仲間に礼を忘れないめがほむに、
“気にすんな”と返して、落ち着きを取り戻したさやさやの隣に腰掛ける。
野良さや「サヤァ、キョーコ、ホントサヤァ///」
野良あん「ア、アンアン///」
そして、義姉妹の礼にも、ぶっきらぼうに返す。
これは少々、下世話な話題かもしれないが、
好奇心の一つを満たす解答をすれば、彼女達はつがいではない。
一般的に、ほむ種は姉妹とはつがいにならない。
彼女達に倫理観のようなものが存在するかは、まだ謎が多いが、
姉妹とつがいを作ったとされる事例が未だ確認されていない以上、存在する可能性は否めない。
互いに思い合ってはいるようだが、二人は義理でも姉妹と言う関係もあって、
つがいとなる程に進展する事はなかった。
野良めが「ホムゥ……ミキサン、サクラサン」タメイキ
幼馴染みのめがほむから見ても、彼女達の今一つ煮え切らない様子は、見ていて心苦しくもあった。
野良さや「サ…サヤヤ」
仔供達がおやつタイムで落ち着いた所で、さやさやは意を決して立ち上がった。
野良あん「サヤカ……アン」
あんあんも、立ち上がったさやさやが纏う雰囲気を感じて、呼びかけた声を自制する。
仔供達も気付いたようで、何人かの目が彼女へと向けられている。
野良さや「サヤァ……、サヤァ……」スゥ…… ハァ……
息を整え、優しく目を見開く。
野良さや「サヤヤァ、サヤヤァ、サヤヤァヤァァ♪」
彼女の口から紡がれる音は、とても、とても美しい歌だった。
群の仲間を愛する詩を、彼女の心が、魂が導いた音色に合わせて声にするだけ。
ただ、それだけの、ほむ種が仲間を愛する当然の思いを声にする、
優しく、澄んだ歌。
野良さや「サァヤァ、サヤヤァ、サヤサヤサヤァ♪」
野良あん(アン……? サヤカ……///)
彼女が今日、口ずさんだ歌は、あんあんには聞き覚えがあった。
あの日……自分が失いかけた命を繋いだあの日、遠のきかけた意識をつなぎ止めてくれた、
さやさやが唄ってくれた、あんあんにとっての、命の歌だった。
ホミュゥ…… ミャロォ……
いつもは大合唱の仔供達も、さやさやの纏う雰囲気と、歌に魅入られ、
感嘆を漏らして聞き入っているようだった。
そして、今日の歌が終わる。
ホミュミュゥゥゥ! パチパチパチパチッ
野良めが「ミキサン、ホムゥゥ」パチパチ
野良あん「サヤカ……///」パチパチッ
野良さや「サ、サヤァァ///」テレテレ ペコペコ
聞き入っていた者達からの拍手に、さやさやは照れ臭そうに頬を染める。
だが――
パチパチ……
他とは違い、やや遠くから聞こえた拍手に、皆が振り向く。
野良カミ「カミカミ、サヤカ」パチパチ
そこには、群に迎え入れられた、あのカミジョーがいた。
一応、群の仲間であるカミジョーを警戒する理由は、既に野良ほむ種達にはなく、
ただ、前述した心理的な距離感の問題もあって、彼は離れた位置からさやさやの歌を聞くのが日課であった。
だからこそ、必要以上に干渉はしない。
冷たいように感じるが、必要以上の干渉は時として、
お互いに軋轢を生んでしまう可能性がある事を、野良ほむ種達は悟っているからだ。
ただ、自分の歌を評価してくれたカミジョーに対しても、さやさやは礼を忘れない。
野良さや「サヤ……キョースケ」フルフル
今日もこうして、小さく手を振って礼の代わりとする。
野良カミ「カミ……」スタスタ
カミジョーも、必要以上の接触を嫌ってなのか、
自分のねぐらとなっている、ひとひとの待つ空き缶へと帰って行く。
野良あん「アンコ……」
万が一にも間違いはないだろうが、彼への警戒もあんあんの役目の一つと言って良かった。
勿論、彼を排斥しようと言う排他的精神以上に、
彼が問題を起こせば、彼と彼の愛するつがいが巻き込まれかねない大事件を危惧しての事もある。
同じく、群にとっては途中参加の新参者同士、彼女なりの気遣いでもあるのだ。
さあ、今日の仕事も一通り終わりだ。
野良あん「アン、サヤカ、アンアン」
野良さや「サヤァ、サヤサヤ、キョーコ」
さやさやに先にねぐらに戻る事を伝えて、あんあんはねぐらとなっている飴の空き瓶へと戻る。
あと少しすれば、狩りや他の仕事をしている親達が戻り、さやさやも今日の仕事から解放されるだろう。
野良さや「サヤァ、サヤサヤァ!」
ホミュー!
さやさやは仔供達に呼びかけ、もう一曲、今度はみんなで合唱を始めた。
野良あん「アン……」
空き瓶の中で、さやさやの帰りを待つあんあんだったが、今日はいつもより、少しだけ遅かった。
野良あん「サヤカ?」
あんあんは心配になり、瓶の外を覗き見た。
すると――
野良さや「サ、サヤァ」アセアセ
野良カミ「カミカミィ!」ペコペコ
野良ひと「ヒトヒトォ!」ペコペコ
さやさやが、あのカミジョーとひとひとに詰め寄られていた。
野良あん「ア、アンコ!?」
あわや問題発生か!?
と思いかけたが、問題発生と言うには、どうやら様子がおかしい。
よく見れば、カミジョーとひとひとが、必死にさやさやに頭を下げているようだ。
野良カミ「カミカミ、カミャァカミカミ、サヤカ、カミカミィ」
野良ひと「サヤカサン、ヒトヒトォ、キマシタワー」
耳をすませば、つがいがさやさやに、何事かを頼み込んでいるようだった。
野良あん(アン……アンアン……?)
歌を……唄って欲しい……?
途中からの会話を聞いたあんあんが察する事が出来たのは、その部分だけだった。
このつがいがさやさやに依頼した歌。
それが、あんあんとさやさやの絆を試す大事件になろうとは、
この時点では、誰も想像だに出来なかった………。