私の名はほむほむ。この物語の主人公だ。
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作者:ujUjQlFno
703 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/07(月) 01:35:39.90 ID:ujUjQlFno
私の名はほむほむ。この物語の主人公だ。今日は巣で待つ子供とまどまどの空腹を満たすべく、単独で人間の屋敷に来た。
古くさい木の扉をノックしてみたが、反応がない。少々優しすぎたようで、仕方無いので何回か全力でパンチをかましてやった。
ガチャリ、ギイィ・・・と今にも壊れそうな音を立てて開いたドアの向こうにいたのは、無精髭を生やした中年の親父だった。
できれば優しいお嬢さんが私のいいなりになってくれやすいので良かったのだが贅沢も言ってられない。高らかに「おい、人間!餌をよこせ!」と囃し立てると男は何も言わずドアを全開にした。
わかってるじゃないか。そう感心するのも束の間、人間は私を土間からフローリングの廊下へ上げようとしない。
ムカついたので軽く脛の辺りを小突いてやると、その汚ない掌に私を乗せて廊下へと導いた。まったく、最初からそうしてれば余計な痛みを感じずに済んだものを。
この家の廊下はフローリングで歩きやすいが、何かベタベタする。キモッ。
しょうがないので足を洗う水を人間に要求する。「チッ」という音が聞こえたが、ここは小鳥でも飼っているのだろうか。
だとしたら子供が危険にさらされるので直ちに撤去してもらわねば。
男が持って来たのは・・・風呂桶というやつか、知っているものだがそんなに勢いよく置かないでくれ。服が濡れてしまったじゃないか。
ふと見ると、風呂桶の中には何匹かのほむほむがいた。・・・ふん、まぁ見た目は中の下。御世辞にも美ほむとは言えないが「遊ぼう、遊ぼう」と言って初対面である私に媚びてきたので丁重に扱ってやるとするか。美しさは罪だな。
残念な顔だが素直で良い子のほむほむたちと遊んでやっていたが、さすがに飽きた。いつまで立ってもあの男が帰ってこない。
餌はどうしたというのだ、今も巣では子供とまどまどが腹を空かせているというのに・・・。
いてもたってもいられず、風呂桶から飛び出して男を探しにいく。
「行っちゃダメ!」先程のほむほむからそう呼び止められた。それはもしかして忠告・・・いや警告か?振り返りほむほむたちの顔を眺めるが、皆心配そうな顔をしている。
この家に何があるというのだ。鼠でも出るというのか。
臆病なほむほむどもを無視し、男を探しに走り出す。家族のもとに早く帰りたい一心だったが、後ろから聞こえる「またダメだったね」が気にかかった。
少し歩けば床が軋み、辺りからは生ゴミのような異臭が漂う。あの男を探しにずんずん家の奥へと入っていくが、どうもさっきとは様子が違ってきた。
綺麗だったフローリングは腐りかけの板に変わり、綺麗な土壁はカビがびっしり生えて気持ち悪い壁画のような模様を描き出すコンクリートに変わっていた。
あの男はどこにいるのだろう。早く餌をふんだくって帰らなければ・・・子供とまどまどのことが心配だ。
やがて、スチール製の小汚ない扉に辿り着いた。上下に別れてはめこまれたガラス窓はあったが薄汚れていて中の様子を垣間見ることはできない。
だが他の部屋は全て探したのであの男がいるのはこの扉の向こうを置いて他に無い。
私は意を決して扉を押した。金属の錆びた重い音を残して、扉の向こうに広がる闇へと吸い込まれていった――――。
中に入ると強烈な異臭を浴び、目眩がした。さっきの臭いとは明らかに違う。
これは・・・。
コンクリートの床に散らばった砂利を踏みつける音がし、激しい動悸と共に辺りを見回す。――――いた、薄暗い部屋の
奥にぬぼっとした様子で立っていたので再度「餌をよこせ!」とまくしたてた。
しかし、男はこちらをじっと見つめて微動だにしない。・・・嫌な汗が頬を伝う。
いや、負けるものか私は主人公ほむほむ。家族のために餌を掴みとるのだ。
男に向かって全力で駆けていき渾身の体当たりをぶちかます。
―――そこで記憶は途絶えていた。
もう何時間たっただろう。暗い。臭い。湿っぽい。
薄暗く狭い個室の中に、私はいた。辺りには僅かに青白い蛍光灯が灯るだけ。
目の前には扉。横にも。その反対側にも。床にあるのは目覚めた時に気付いたが、天井にもあった時はさすがに驚いた。しかも天井の扉以外は全て鍵がかかっているのを確認している。
一体私はどうなってしまうのだろう・・・子供・・・まどまど・・・。
途方に暮れたその時、前の扉がけたたましい音を出して揺れ始めた。ドアノブが動いているので誰かが鍵を開けようとしてくれているのだろう。
直感した。先程、私に媚びてきたほむほむだと。そう思った私は元気が出て「おい!早く開けろ!私を自由にしろ!」と自然に叫んでいた。何といっても歓喜の瞬間だ、早く味わいたい。
・・・しかし、様子がおかしい。鍵はいつまでたっても開くそぶりも見せず、ただただ扉が壊れそうな勢いで揺れまくるだけだった。
その直後、残り4つの扉が一斉に鳴り始めた。前の扉と同じくドアノブとドア全体が激しく揺れ動いている。
私はもはや何も考えられなくなり、耳を塞いで目を瞑り、床に突っ伏した。
いつまでも鳴り続ける不協和音に体が震える。再び汗が伝う。二滴、三滴。
塞いだはずの耳に声が響いた。
「後ろにいるぞ」
私はほむほむ。この物語の主人公だ。
私はどうやらガラスケースの中にいるらしい。
他にもガラスケースに入ったほむほむがたくさん並べられているが、どれもこれも廃ほむのようにポケーッと宙を見つめていた。
そのガラスケースに囲まれるように真ん中で遊んでいるのは例の男とほむほむたち。実に楽しそうだ。
男はたまにガラスケースの廃ほむを見てはニマァと恍惚の表情を浮かべる。
続いて私にも同じ表情を向けてきた。
ああ、私も廃ほむになってしまったのかな?咄嗟にそう思った。
もはやそれさえわからない、わたしはこのさきどうなつてゆくのだらうか・・・
わからないわからない・・・わか
「ホッヒィーッ!!」
「ホヒヒヒィーッ!」「ホヒィッ!」「ホッヒューン!!」
ああ、ようやく狂ってくれたか。
廃ほむ誕生の瞬間にこいつらが共鳴するこの現象がたまらなく好きなんだ。
このためにわざわざ廃ほむ養成部屋と仕上げの声をぶちこむためのマイクロイヤホンまで自作したのだ。
最新作の材料は自分から舞い込んできて、自分から養成部屋のある実験室まで来てくれた。最初は生意気なやつだと思ったが、そんなやつを廃ほむにしていく過程もまた乙なものだ。
次はどれにしようかな?楽しそうに振る舞うフリをしながら心の底では怯えているであろうほむほむたちを見下ろしながら、ニヤニヤが止まらなかった。
「完」