「はーっ……はーっ……はーっ……」
「あ、あの……あさひさん、大丈夫ですか!?」
お面をかぶったまま、アーチャーは俺をゆっくりとベンチにおろしてくれた。
腰がぬけてしまい、心臓がバクバクと音を鳴らして、足も震えている。
頭もクラクラした。どうして、俺はここまで来て、またアーチャーが隣にいるのか、思い出すまでに時間がかかる。
……そうだ。俺は変な濡れ衣を着せられて、不良に襲われていた所を、アーチャーが駆けつけてくれたんだ。
そこで、アーチャーは俺を抱えながら、ビルの間を跳びこえまくって…………
…………ダメだ、これ以上はもう思い出したくない!
「お疲れさん、あさひ」
いつの間にいたのか。
デッドプールは、どこからか取り出した濡れタオルを俺の頭に当ててくれた。
その冷たさに心が落ち着き、酔いやショックだってマシになった。
「この嬢ちゃんに感謝しろよ? 来てくれなかったら、今頃どうなっていたかわからねえぞ?」
「……それくらい、わかってるよ。ありがとう……アーチャー…………」
ベンチの上で横になりながら、俺はアーチャーに向けてほほ笑む。
すると、アーチャーもお面を外して、優しい笑顔を見せてくれた。
「どういたしまして、あさひさん!」
彼女に助けられたのはこれで二度目になる。
強引だったけど、あそこで俺たちを抱えてくれなければ、間違いなく殺されていた。
例え命を奪われなくとも、警察に捕まって何もできなくなる。無実を叫んでも、誰一人として話を聞いてくれない。
そんな状況の中、身の危険も顧みずに駆けつけてくれたのだから、アーチャーは恩人だ。
「……ここにいたんだね、みんな!」
そして、あの人の声も聞こえてくる。
顔を上げた先には、やっぱり
櫻木真乃さんがいた。アーチャーのマスターであり、283プロダクションのアイドルだ。
「さ、櫻木さん……」
「よかった……あさひくんが無事で、本当によかった……!」
そのきれいな瞳からポロポロと涙を流しながら、櫻木さんは笑ってくれた。
俺がいくら疑われても、彼女は俺のことを信じている。
たくさんの大人から手を払われ、大切な人を失いつづけた……そんな俺のところに、櫻木さんは来てくれた。
だけど…………
「……どうして、俺を助けてくれたのですか? みんなから悪人扱いされて……そんな俺を、助けたりしたら、櫻木さんだって…………」
「私は、あさひくんが悪い人じゃないってことを知っています」
俺の疑問は、櫻木さんのまっすぐな視線と言葉に遮られた。
「あさひくんが、SNSで言われるようなことを絶対にするはずがありません。悪いデマで傷付くなんて、耐えられなかったんです」
「でも、そのせいで櫻木さんに被害が及んだりしたら、どうするつもりだったのですか? あなたは俺と違って、アイドルで……たくさんの責任が、ありますよね?」
「……私も、一度はそれで迷っちゃいました。あさひくんを、助けていいのか……あさひくんが傷付いていることを知っていながら…………足を、止めちゃったのです……本当に、ごめんなさい」
櫻木さんは深々と頭を下げてくれる。
俺を助けたら、周りにも迷惑がかかることを、彼女が知らないはずはない。
周りにいる人たちと、俺一人の命……櫻木さんだって一度は天秤にかけてしまった。
彼女は悩み、悲しんでいた。俺を見殺しにしかけて、泣いていた。
「でも、彼女が……アーチャーちゃんが、私の背中を押してくれたんです。私があさひくんを助けたいと願っているなら、そのお手伝いをしてくれるって」
「あさひさんは、迷っていた真乃さんの背中を押してくれました。その恩返しに、今度は私が真乃さんの背中を押したんです……だから、あさひさんにも傷付いてほしくありませんでした!」
顔を上げた櫻木さんの隣には、アーチャーが胸を張っている。
決して口先だけなんかじゃない。二人の優しさはまぎれもない本物であり、俺や母さんが得られなかった暖かい気持ちだ。
その真っ直ぐな想いに、俺はなんて答えればいいのかわからない。
冷たい雨に濡れて、すさみきっていた心を抱きしめてくれるようで。ゆっくりと、きれいな光が広がった。
ーーきっと光はあるよ。あんたの道のその先に。
ーーだから約束して? その時は、思いっきり笑うって……
俺の脳裏に浮かび上がったのは、
飛騨しょうこさんの笑顔と言葉。
彼女との出会いは、俺の心に確かな安らぎと光を与えてくれた。
ほんの一瞬だけでも、生まれてきてよかったと心の底から思えた瞬間だった。
「…………あさひ坊!? あさひ坊かっ!?」
俺の思考を遮るように、この場に新たな声が響く。
振り向くと、男の人がいた。現場監督から庇い、ご飯をごちそうして、そして俺を励ましてくれた恩人……
光月おでんさんが立っていた。
「無事だったんだな、あさひ坊!」
「………………おでんさん? なんで、ここに…………?」
「あさひ坊がくだらねえデマに苦しんでるって聞いて、突っ走ってきたんだ! 手がかりはねえし、ほとんどカンで走ったんだが…………一瞬だけ、ものすげぇ勢いで空を飛ぶ影が見えたんだ! ワラにもすがる覚悟で、そいつを追いかけてみたら……あさひ坊を見つけたのさ!」
おでんさんは息を切らせていた。
まさか、この人もずっと俺を探してくれたのか?
俺はおでんさんに襲いかかったのに、それをまるで気にしていない。むしろ、この命を助けようと走っていた。
「大丈夫だ、あさひ坊! おれは…………いいや、みんながお前を信じてる! ここにいるみんなが、お前の味方だ!」
おでんさんの言葉は、心に突き刺さった。
今、俺の周りには……俺を心配してくれている人がこんなにいる。
ありがとう、と口にしようとしたけど、言葉が出てこない。
だって、俺のほおは濡れていたから。悲しみと苦しみを洗い流してくれるように……瞳から、暖かい涙があふれていた。
◆
中野区の哲学堂公園に、わたしたちは集まっているよ。
わたし・
星奈ひかると櫻木真乃さんだけじゃなく、光月おでんさんって男の人も、
神戸あさひさんを助けようと頑張っていたの!
それに、おでんさんも聖杯戦争のマスターで、お侍さんのサーヴァントがいるよ。とても強そうで、キラやば〜! なセイバーのクラスで召喚されたみたい!
「それじゃあ、あさひさんとおでんさんたちは、一度は戦ったのですか?」
「おう! あさひ坊は本当に強かったんだぜ! このおれを前にしても、一歩も引かなかった……こいつは、おれでも止められねえと本気で思ったさ!」
「お、おでんさん! やめてくださいよ! 俺、手も足も出ませんでしたし……」
「何を言ってやがる! おれは本気で、お前の強さを認めてるんだぜ?」
「そうですよ、あさひさん! あなたは本当に強くてカッコいい人ですから!」
わたしとおでんさんはいっぱい褒めるよ。おせじなんかじゃなくて、心からそう思っているからね!
あさひさんは顔を真っ赤にしながら、ちぢこまっちゃったけど……
「あさひくんとおでんさんが戦ったなら、アヴェンジャーさんとセイバーさんも……戦ったのでしょうか?」
同じ頃、真乃さんはアヴェンジャーさんとセイバーさんに訪ねているよ。
「あぁ。この男は、強かった……マスターが強いからこそ、彼のようなサーヴァントが召喚されたのだろう」
「アカデミー賞レベルのべた褒め、サンキュ。なら、俺ちゃんのリターンマッチと行くか? いつでも待ってるぜ」
「そんな暇はないと、お前も知っているはずだ」
「…………あーあ。これだから、草食系の日本人はイヤなんだよ。嬢ちゃんを楽しませるジョークくらい、考えろよ?」
「ふふっ、お二人とも……仲が良さそうですね」
アヴェンジャーさんたちを前にしても、真乃さんはいつものほんわかしたオーラを忘れない。
まるで、お花見やピクニックをしているように、公園には穏やかな空気が流れているよ。
夕方の時間だから人は少ないし、周りに監視カメラもない。だから、わたしはこの場所にあさひさんを避難させたよ。
「……そういえば、アーチャーの格好は何なんだ? そのカツラや服とか、ちょっと見ないうちに雰囲気が違うけど……」
あさひさんの疑問は当然だね。
たった数時間で、わたしの格好はずいぶんと変わっちゃったから。
星奈ひかるでもキュアスターでもない……新しいわたしに変身するためのアイテムだよ。
「よく聞いてくれました! これは、あさひさんを助けるために、真乃さんから買ってもらったものです!」
「さ、櫻木さん……から? どういうことだよ?」
「実は……」
わたしはあさひさんに事情を説明するよ。
ライダーさんが運転する車に乗って、世田谷区のとある公園まで逃げた時まで、話はさかのぼるね。
あさひさんとライダーさんの間でトラブルが起きずに済んだ後……みんなで、こんな話をしていたんだ。
『そういや、アーチャーの嬢チャン。さっきからずっと思ってたんだけどよ……プリンセスに似てるよな?』
『ぷ、プリンセス?』
『ほら、これを見ろよ』
ライダーさんが手にしたスマホの画面には、アニメに出てくるキュートな女の子が映っているよ。
まぶしい笑顔に、キラキラしたコスチュームとアクセサリー、そして楽しそうに集まっている女の子たち。
画面の左上には『スター☆ライトプリンセス』と、鮮やかなタイトルロゴも大きく載っているね。
『言われてみれば、確かに似てるよね』
『ほわっ……似てる気がします』
ライダーさんの言葉に、
星野アイさんと真乃さんも頷いたよ。
『俺ちゃんとしても、まあまあ同意できるけどよ……マスターはどう思う?』
『…………似てると言われれば、似てるの……かな?』
この時ばかりは、アヴェンジャーさんとあさひさんもライダーさんに同意してた。
う〜ん…………プリンセスたちは、わたしたちプリキュアと何だか似てる気がする。
どこか、見覚えのあるキャラクターがいっぱいいた。ヒロインの女の子だけじゃなく、妖精だって初めて見た気がしない。
ドッペルゲンガーとはまた違う。どちらかと言えば、そっくりさんみたい。
『もしかして、嬢チャン……プリンセスに憧れているのか? さっきの姿、絶対に嬢チャンが考えたオリジナルのプリンセスだろ?』
『いや、全然違いますよ!?』
わたしは否定するけど、ライダーさんからは疑いの目を向けられちゃう。
ライダーさんだけじゃない。周りのみんなが、キュアスターに変身したわたしのことを、プリンセスのそっくりさんと思ってそう!?
このあとすぐに、ライダーさんとアイさんの二人とは別れたから、それどころじゃなくなったけど…………
ライダーさんの言葉からヒントを得て、わたしは変装をしたんだ!
あさひさんに向けられた悪口を見てから、真乃さんと一緒に買い物をしたの。
洋服やカチューシャ、それにウィッグとプリンセスのお面を買ってもらってから、人のいない場所でキュアスターに変身したよ。
いつものコスチュームの上に、真乃さんが買ってくれたワンピースを着たの。
この洋服は、キュアスターの姿を見られないために、真乃さんに頼んだよ。ウィッグとカチューシャでツインテールを隠して、わたしはお面をかぶった。
体のサイズにピッタリで、真乃さんから買ってもらったワンピースを着たおかげか、なんだか胸がドキドキしたよ。
プリキュアに変身した時とはまた違う、不思議な高鳴りだった。
『おおっ、バッチリでキラやば〜!』
『似合ってるよ、ひかるちゃん! ……じゃなかった! なんて呼べばいいのかな?』
『もう決めてますよ! その名も……『プリミホッシー』です!』
『ほわっ……可愛いお名前だね!』
ふと、お手洗いの鏡を覗いたら、全身に流れ星がきらめくような気持ちになる。キラキラとした輝きで、心がいっぱいだよ。
今のわたしは、星奈ひかるでもキュアスターでもない。プリンセスたちの妹分、『プリミホッシー』だね。
名前の由来は、観星町商店街を守るために現れた5人の少女たち……ミホッシースターズからなんだ。
観星町商店街でハロウィンの仮想コンテストを開いていた頃、カッパードたちが街のみんなを襲いにやってきたよ。その時、ハロウィンの仮装とごまかすため、プリキュアに変身してから、ミホッシースターズに変装したことがあるの。
ミホッシースターズのミホッシーピンクみたいに、わたしは『プリミホッシー』になったんだ。キュアスターに変身したまま、あさひさんたちの所に向かったら、写真をSNSや動画サイトに拡散されちゃう。
わたしを仲間と認めてくれたアサシンさんたちのためにも、正体がバレるリスクは少しでも減らしたい。
助けに来たのは『キュアスター』じゃなくて『プリミホッシー』だからね。
それから、真乃さんと別行動を取って、わたしはあさひさんたちの所に向かったよ。
霊体化したわたしが走っている間、緑地に移動している真乃さんと、念話で定期的に連絡を取り合ったの。
あさひさんの目撃情報や、建物の間を跳びつづけているわたしがバレていないかを、真乃さんはスマホでチェックしてくれた。
真乃さんがくれた情報があったから、わたしはあさひさんを見つけることができたし、うまく逃げることができた。
『プリミホッシー』の名前は広がったけど、写真や動画はアップロードされていない。幸運にも、あさひさんを見つけた場所では監視カメラもなかったよ。
今のところ、メディアでわたしたちが取り上げられることはなさそう。
ネットでは、神戸あさひと謎の不審者2名が、いきなり神隠しにあった!? という、噂が出ているから、これからどうなるかわからないけど……
「俺たちのために、そこまで……」
「真乃の嬢ちゃんも、アーチャーの嬢ちゃんもやるじゃねえか!」
わたしが話し終わった頃に、あさひさんとおでんさんは心からおどろいたみたい。
周りに人の気配はないから、誰かに話を聞かれることもないよ。
「……ネットでは、今もあさひさんたちの悪評は止んでいません。ここに逃げたことは、まだ気付かれていませんが……」
でも、スマホを覗いている真乃さんの表情は暗いまま。
あさひさんたちは助けられたけど、状況は何も変わっていない。
むしろ、時間の経過とともに、炎上はエスカレートすると思う。
「あの、おでんさん……結華ちゃんと果穂ちゃんと夏葉さんが襲われたって、本当ですか?」
「あぁ、本当だ。あの嬢ちゃんたちを襲った変態野郎だって、おれは取り逃しちまった」
真乃さんが落ちこんでいる理由はもう一つ。
283プロのアイドルが変な人に襲われたとおでんさんは教えてくれた。
三峰結華さんに、小宮果穂さんと有栖川夏葉さん。三人とも、真乃さんにとって大切な人たちだよ。
おでんさんとセイバーさんが駆けつけたおかげで、彼女たちに被害が及ぶことはなかった。でも、三人を襲った不審者は大きな穴を掘って逃げたみたい。
「すまねぇな、真乃の嬢ちゃん……あの変態野郎をぶちのめすことができなくて」
「いいえ! みんなを守ってくれて、本当に嬉しいです! おでんさん、ありがとうございます!」
みんなが無事だったから、真乃さんは喜んでいた。
もちろん、わたしだって嬉しいからね。おでんさんは、283プロのアイドルを守ってくれた恩人だよ。
「かたじけない、嬢ちゃん! それはそうと、あの変態野郎には気を付けろよ! 全身が武器になっている上に、いくら傷を受けてもすぐに再生しやがるからな」
「ってことは、俺ちゃんをパクってやがるな? 誘拐の上に、著作権侵害とは不届きな野郎だぜ!」
「いや、アヴェンジャーは関係ないだろ!?」
おでんさんに乗っかったアヴェンジャーさんを、あさひさんは見事にツッコむ。
でも、話を聞く限りだと、油断できない相手なのは確かだね。
おでんさんがいくら攻撃しても傷がふさいで、トゲやドリルみたいな武器を自由自在に出せるの。
それだけ危険な相手が、今も東京のどこかにいるなら、わたしも気を付けないと。
「心配なんだな」
ふと、セイバーさんが重い口を開く。
彼の目は真乃さんに向けられていたよ。
「友が襲われて、気が気でないはずだ」
「……はい。他のみんなも、狙われちゃうかも……しれませんし……」
真乃さんの心配事はわかる。
おでんさんが戦ってくれたとはいえ、犯人は逃げたから、いつまた襲いかかってきてもおかしくない。
アサシンさんは283プロを守るために頑張ってくれたけど、まだ危機は去っていないことを実感した。
「櫻木さん。俺なら、大丈夫です……みんなの所に行ってあげてください」
あさひさんのまっすぐな目が、わたしと真乃さんに向けられたよ。
とても輝いていて、おでんさんの評判通りに強かった。
「櫻木さんとアーチャーのおかげで、俺は助かりました。櫻木さん……あなたは、あなたのお友達の所に行くべきです」
「そうだぜ? それに、俺ちゃんたちも、真乃チャンたちを危険に巻き込みたくない……このままじゃ、二人も疑われちまうしな。あと、おでんはともかく……俺ちゃんたちのことは秘密で頼むぞ?」
「……でも、私はまだ…………あさひくんを…………」
あさひさんとアヴェンジャーさんは、やっぱり真乃さんの気持ちに気付いている。
283プロの騒動にあさひさんたちを巻き込みたくないと、真乃さんが思っていた。同じように、あさひさんたちだって真乃さんを危険から遠ざけたいはず。
「あさひ坊のことならおれに任せろ! 何があっても、おれが守ってやるからな!」
「さあ、すぐに行くんだ。君たちを待っている者のためにも」
おでんさんとセイバーさんが、優しい笑顔と共に真乃さんの背中を押してくれた。
もう、心配はいらないと、みんなの笑顔から伝わってくる。
あとは、わたしが真乃さんの後押しをするだけだよ。
「真乃さん、行きましょう。みんなが待っていますから!」
「……そうだね。私も、みんなのところに行かないと!」
真乃さんも迷いは吹っ切れた。
あさひさんが心配だけど、周りには頼りになる人がこんなにいる。
大丈夫って、無責任なことは言えない。でも、おでんさんという頼れる大人がいて、本当に心強い。
あさひさんたちは、わたしと真乃さんの出発を見届けてくれている。
「あさひくん。これ、着替えも買ってきました。サイズに合うかわかりませんし、最近の監視カメラは変装を簡単に見破りますので……気休めにしかなりませんけど……」
「……何から何まで、ありがとうございます!」
真乃さんは、あさひさんに大きな袋を渡したよ。
袋の中には男用の洋服と、帽子やマスクが入っている。プリミホッシーの変装セットと一緒に、真乃さんが買ってくれたんだ。
もちろん、これだけであさひさんの正体は隠せないけど……何もしないよりはマシだった。
「おでんさん、アヴェンジャーさん、セイバーさん……あさひくんを、よろしくお願いします」
「真乃さんのことは、わたしが絶対に守りますから! また、どこかで会いましょうね!」
真乃さんとわたしは、あさひさんたちにペコリと頭を下げる。
みんなの優しさを受け取って、二人で歩いたよ。
途中、人のいないトイレに入り、霊体化をしたわたしはコスチュームを脱いだ。重ね着だから一分もかからないし、ウィッグやカチューシャだってすぐに外せる。
洋服を綺麗にたたんで、変装グッズと合わせて袋にしまったから、簡単に星奈ひかるに戻れたよ。
(何だか、新鮮な気持ちになれたなぁ……たまにはこういうのもアリかも!)
キュアスターでもない、まったく新しい『プリミホッシー』というプリンセス。このキャラクターは、真乃さんたちのおかげで生まれた。
このプリミホッシーだって、わたしだよ。普通の女の子の真乃さんと、283プロのアイドルの真乃さんがいるように。
もしも、プリミホッシーになったわたしを、ララたちが知ったらどう思うのかな? ちょっとだけ、気になっちゃうね。
『ひかるちゃん、本当にありがとう……あさひくんを助けてくれて』
『真乃さんも、ありがとうございます! 真乃さんがお金を出してくれたからこそ、わたしもプリミホッシーに変身して、あさひさんたちを助けられましたから!』
緑地から離れてからも、わたしたちは念話で話しているよ。
人通りが少ないけど、気を抜いたらダメ。あさひさんたちについては秘密だから、今はまだ口に出せない。
あさひさんたちには申し訳ないと思っているけど、今は少しでも遠くに離れるため、バスに乗っているよ。周りの人たちから、真乃さんが怪しまれる様子もない。
『ちょっとお金がかかったけど……約束通り、これからひかるちゃんには家のお手伝いをいっぱいしてもらおうか?』
『はい、何でも言ってくださいね! お掃除やおつかい、お洗濯や料理のお手伝いも……何でも頑張りますから!』
『……あれ? でも、よく考えたらいつもやってもらっているよね。ひかるちゃんのおかげで大助かりだよ! 昨日はゴミ捨てにも行ってくれたよね?』
『い、言われてみれば……』
『じゃあ、明日のライブまでわたしのことを守りながら、一緒にいてくれることを約束してね?』
『もちろん、絶対に約束しますよ!』
真乃さんにはライブが控えているから、わたしは絶対に守る責任がある。
聖杯戦争の最中だからどこで戦いが起きてもおかしくない。283プロのトラブルやあさひさんの炎上など、大変なことはいっぱい起きている。
今も、SNSをチェックしている真乃さんの顔は暗くなっているよ。
『……ひかるちゃん。さっき、板橋区で爆発事故が起きたって、ネットニュースで流れてた』
言葉が気になって、わたしは真乃さんのスマホをチェックする。
メチャクチャになった住宅街と、大きな龍の写真がネットに拡散されていた。ケガ人はもちろん、命を奪われた人の数も少なくない。
そのニュースを見た直後、わたしは息が止まりそうになる。
予選中でも、大きな龍の目撃と爆発事故が何度も起こっていたけど、わたしは真乃さんを守ることで精一杯だった。
さっきだって、あさひさんを助けることしか考えていない。でも、もっと早くに気付いていれば……わたしが街の人たちを助けられたはずだった。
『ひかるちゃんは悪くないよ』
わたしの不安と後悔を吹き飛ばすのは、真乃さんの念話だった。
『……こんなことが起きて、私だって悲しいと思ってる。街の人たちは、怖くてたまらなかったはずだから。でも、ひかるちゃんは……私とあさひくんのためにベストを尽くしてくれた! だから、もしも責任があるとしても……それはひかるちゃんだけじゃなく、私も同じだよ!』
霊体化したわたしに、真乃さんは手を添えてくれる。
例え、すり抜けたとしても、真乃さんの優しさと温かさがわたしの心に届く。
この気持ちがあるから、わたしは頑張れた。
『……そうですね。わたしたちは、いつだって一つですから!』
『ふふっ! ひかるちゃん……いつものように、嬉しい気持ちと辛い気持ちを、二人で分けよう?』
『はい! 真乃さんたちがいたから、プリミホッシーだって生まれましたよ!』
わたしと真乃さんのイマジネーションが一つになれば不可能なんてない。
あさひさんとおでんさんを会わせられたし、プリミホッシーにも変身できた。
きっと、大変なことはまだまだ起きるかもしれないけど、わたしたちなら乗りこえられるはず。
『真乃さん、これからどうします?』
『一旦、摩美々ちゃんとアサシンさんに……結華ちゃんたちとおでんさんのことを相談しようと思う。もちろん、あさひくんのことは内緒だけど……』
摩美々さんとアサシンさんの二人とは定期的に連絡を取り合うことを決めている。
だから、あさひさんを除いて、おでんさんに関することを伝える必要があった。少なくとも、おでんさんについては秘密じゃないからね。
……ふと、思ったけど。アサシンさんだったら、プリミホッシーの正体がわたしだってことに、すぐに気付く?
そんな疑問の中、真乃さんはチェインで摩美々さんたちに連絡をしていた。
【中野区・どこかの道を走るバスの中/一日目・夕方】
【櫻木真乃@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:健康、咲耶の死を知った悲しみとショック(大)
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:当面、生活できる程度の貯金はあり(アイドルとしての収入)
[思考・状況]
基本方針:ひかるちゃんと一緒に、アイドルとして頑張りたい。
0:今は摩美々ちゃんたちに連絡をする。
1:少しでも、前へと進んでいきたい。
2:アイさんやあさひくん達と協力する。しばらく、みんなのことは不用意に喋ったりしない。
3:あさひ君たちから283プロについて聞かれたら、摩美々ちゃんに言われた通りにする。
[備考]
※星野アイ、アヴェンジャー(デッドプール)と連絡先を交換しました。
※
プロデューサー、
田中摩美々@アイドルマスターシャイニーカラーズと同じ世界から参戦しています。
【アーチャー(星奈ひかる)@スター☆トゥインクルプリキュア】
[状態]:健康
[装備]:スターカラーペン(おうし座、おひつじ座、うお座)&スターカラーペンダント@スター☆トゥインクルプリキュア
[道具]:プリミホッシーの変装セット(ワンピース、ウサギ耳のカチューシャ、ウィッグ、プリンセスのお面@忍者と極道)
[所持金]:約3千円(真乃からのおこづかい)
[思考・状況]
基本方針:真乃さんといっしょに、この聖杯戦争を止める方法を見つけたい。
0:真乃さんと一緒に聖杯戦争を止めるアイディアを考える。
1:アイさんやあさひさんのことも守りたい。しばらく、みんなのことは不用意に喋ったりしない。
2:ライダーさんと戦うときが来たら、全力を出す。
3:おでんさんと戦った不審者(クロサワ)については注意する。
[備考]
※プリンセスのお面@忍者と極道を持っていますが、具体的にどのプリンセスなのかは現状不明です。
◆
「おぉ、似合ってるじゃねえか!」
「……あ、ありがとうございます……」
真乃チャンとアーチャーの二人が去ってから、しばらく俺ちゃんたちは公園で隠れることにした。
その間に、あさひはトイレの個室に行き、真乃チャンから貰った服に着替えている。
うん。おでんが言うように、今のあさひはなかなか決まってるぜ。
彼女はアイドルだから、やっぱりセンスはあるみたいだな。
(……さて、これからどうしたものか。あさひは超能力とか持ってねえから、下手に動けないぞ)
ひとまず、危機から抜け出したものの……炎上自体は全く収まっていない。
SNSをチェックしたら、なんと街を破壊するドラゴンのニュースも流れてやがる。
こいつの騒動で、フールどもの目が向けられないかと願うけどよ、そんなことは起こらないだろうな。
あのサムライジャックと、交代で周りを見張ることになっている。おでんが何も言わないから、今のところは大丈夫そうだが……いつ警官がやってくるかわからねえ。
(大方、あさひがここまで狙われちまったのは、ライダーの仕業だろうな)
俺ちゃんの脳裏に浮かび上がるのは、星野アイのサーヴァントになったライダーのスカした顔だ。
あいつは別の主従と交渉すると言っていた。その時に、俺ちゃんたちの存在が不都合だから、上手く消すように根回ししたはずだ。
ライダーの仲間である極道とやらか、それとも協力者の背後に何かでかい組織でもいて、そいつらがSNSでデマをまき散らしたのか。
…………絶対に許せねえ。今度会ったら、マスターもろともミキサーにぶち込んでやるよ。
ライダーの方も、今頃俺ちゃんたちを切り捨てているだろうしな。
「よかったな、あさひ坊。あの嬢ちゃんたちが、本当にいい子で」
「……はい。櫻木さんたちは、とても優しい人です。これで、助けられたのは二度目になります」
「そうか」
木の上でのんびり休みながら、俺ちゃんはあさひとおでんを見守っているぜ。
レッサーパンダみたいに愛くるしいポーズだけど、ちゃんと見張りは忘れてないぞ? 公園の中で、怪しい奴が残っていないか、チェックしているのさ。
あと、スマホで情報収集も忘れない。何か怪しいことがあれば、すぐに知らせられるように、あさひたちの近くにいる。
……それもこれも、おでんとサムライジャックがスマホを持ってないせいだ。
この情報社会で、スマホを全く知らないんだぜ? 情弱ってレベルじゃない、もはや大昔からタイムスリップをしてきたのかと疑っちまう。
界聖杯のやる気のなさは今に始まったことじゃないけどよ……マジでファックだ。
とりあえず、サムライジャックとの戦いは後回しにするしかないな。
(真乃チャン……君たちには本当に感謝してる。けど、その時が来たら……俺ちゃんは容赦しない。覚悟を決めてくれよな)
あさひとおでんが褒めるように、真乃チャンたちは本当に真っ直ぐだ。
自分たちの身の危険を顧みず、敵対する俺ちゃんたちに救いの手を差し伸べてくれた。
やっぱり、君たちは理想のヒロインだ。
でも、わかっているだろうが……あさひにだって譲れない願いはある。そのためなら、俺ちゃんは二人を平気で踏み台にしてやるぜ。
許してくれなんて言わない。
わかってくれなんて言えるわけがない。
ただ、あさひを死なせるわけにはいかないんだ。
俺ちゃんのことだったら、好きなだけブーイングを吐いてくれてもいい。この包容力で、全部受け止めてやるとも。
でも、生きてほしいと思っているのも、本心だぜ? 俺ちゃんたちの危険に巻き込みたくないから、あえて離れさせたのさ。
大切なお友達が心配だろ。だから、俺ちゃんたちと一緒にいるよりも、少しでもいい思い出を残してやりたい。
一刻も早く、再会することを願っているぜ。
「そうだ。あさひ坊……せっかく、また出会えたんだ。ここらで一発、話でもしないか?」
俺ちゃんがセンチな気分に浸っている頃、おでんは豪快な笑顔であさひと向き合っていた。
「話って……何ですか?」
「ああ! お前、聖杯にかけてる願いがあるだろ……おれは、それが少し気になってな。
男同士で、じっくりと話そうじゃないか!」
……ヴァネッサ。俺がのんびりできる時間は、まだまだ来そうにないぜ。
【中野区・哲学堂公園のどこか/一日目・夕方】
【神戸あさひ@ハッピーシュガーライフ】
[状態]:疲労(小)、全身に打撲(中)
[令呪]:残り3画
[装備]:なし
[道具]:金属製バット、リュックサック、着替え(洋服、帽子、マスク)
[所持金]:数千円程度(日雇いによる臨時収入)
[思考・状況]
基本方針:絶対に勝ち残って、しおを取り戻す。そのために、全部“やり直す”。
0:おでんさんと話をする。
1:折れないこと、曲がらないこと。それだけは絶対に貫きたい。
2:“対等な同盟相手”を見つける。そのために星野アイや283プロダクション、グラス・チルドレンなどの情報を利用することも考慮する。
3:ライダーとの同盟は続けるが、いつか必ず潰す。真乃達はできれば利用したくない。
4:“あの病室のしお”がいたら、その時は―――。
【アヴェンジャー(デッドプール)@DEADPOOL(実写版)】
[状態]:『赫刀』による負傷(胴体および右脇腹裂傷(小)、いずれも鈍速で再生中)、疲労(小)
[装備]:二本の刀、拳銃、ナイフ
[道具]:予選マスターからパクったスマートフォン
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:俺ちゃん、ガキの味方になるぜ。
0:今はあさひを守るしかない。
1:“対等な同盟相手”を見つける。そのために星野アイや283プロダクション、グラス・チルドレンの情報などを利用することも考慮する。
2:真乃達や何処かにいるかもしれないしおを始末するときは、自分が引き受ける。
3:ライダー達と、その協力者に対しては容赦しない。
4:サムライジャック(
継国縁壱)については後回し。
[備考]
※『赫刀』で受けた傷は治癒までに長時間を有します。また、再生して以降も斬傷が内部ダメージとして残る可能性があります。
※櫻木真乃と連絡先を交換しました。
※ネットで流されたあさひに関する炎上は、ライダー(
殺島飛露鬼)またはその協力者が関与していると考えています。
【光月おでん@ONE PIECE】
[状態]:疲労(小)、右肩に刀傷(行動及び戦闘に支障なし)
[令呪]:残り3画
[装備]:なし
[道具]:二刀『天羽々斬』『閻魔』(いずれも布で包んで隠している)
[所持金]:数万円程度(手伝いや日雇いを繰り返してそれなりに稼いでいる)
[思考・状況]
基本方針:界聖杯―――その全貌、見極めさせてもらう。
0:あさひ坊を守りながら、聖杯にかける願いについて話し合う。
1:他の主従と接触し、その在り方を確かめたい。戦う意思を持つ相手ならば応じる。
2:界聖杯へと辿り着く術を探す。が――
3:何なんだあのセイバー(武蔵)! とんでもねェ女だな!!
4:あの変態野郎(クロサワ)は今度会った時にぶちのめしてやる!
[備考]
※
古手梨花&セイバー(宮本武蔵)の主従から、ライダー(
アシュレイ・ホライゾン)の計画について軽く聞きました。
【セイバー(継国縁壱)@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(小)
[装備]:日輪刀
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:為すべきことを為す。
1:光月おでんに従う。
2:他の主従と対峙し、その在り方を見極める。
3:もしもこの直感が錯覚でないのなら。その時は。
[備考]
※鬼、ひいては
鬼舞辻無惨の存在を微弱ながら感じています。
気配を辿るようなことは出来ません。現状、単なる直感です。
[備考]
※渋谷区のどこかに『プリミホッシー』(に変装したキュアスター)の目撃情報が出ました
時系列順
投下順
最終更新:2021年10月25日 02:05