ベルゼバブが瞠目する。
それは紛れもなく、この魔人が初めて浮かべた驚きの顔だった。
この区画一帯を覆い尽くす勢いで巻き起こる煌炎の渦。
太陽風も同等の勢いで押し寄せる灼熱は並の英霊なら霊核ごと溶解させる熱量であったが、それ自体はベルゼバブに何の痛痒も与えていない。
彼を真に驚愕させその心胆を寒からしめたのは、自らで生み出した炎を斬り裂きながら迫る一筋の斬閃である。
“此奴――”
驚愕はすぐに喜悦の表情へと変わる。
黒槍で受け止めはしたが彼の腕は痺れ軋んでいた。
先の数分であの羽虫に、
アシュレイ・ホライゾンに何が起きたというのか。
理屈等さっぱり解りはしないが確かな事が只一つ。
ようやくこの場に、ベルゼバブをして有意義だと思える水準の敵が出現した。
不快と辟易、その全てが興味と戦意の前に塗り潰される。
次の瞬間ベルゼバブは問答なぞ投げ掛けず、地を蹴り黒い颶風と化した。
「認識を改めてやろう。その炎、その剣…余が穿ち殺すに足ると理解した!」
音速の数倍にも達する吶喊。
それ程の速度から振るわれるケイオスマターは反則そのものだ。
何しろこの槍の前に"もしも"は許されない。
一度でも不覚を取ればあらゆるIFの介在を認めず敵を葬る死の黒槍。
それは、根性論という世界最強の理屈で現実を破壊する煌翼の極晃奏者をして即殺し得る鬼札であったが…
「笑止」
煌翼の彼は不動。
臆さず動じず、山嶺のような静謐を保ち正面から受けて立つ。
静謐を抱きながらしかしその全身は文字通りに沸騰していた。
霊基の限界を超えて燃え盛る炎熱が毎秒ごとに消滅級の負荷を生じさせているというのに冗談のような現界を保ち続ける。
超音速の黒と絶対不動の赫が激突すれば、
星奈ひかるは痛む体に鞭打って少女達を安全な場所へ逃がす為に行動せねばならなかった。
形だけは人に倣っている二体が激突したその瞬間、小惑星の墜落にも等しい強烈なソニックブームが鎌鼬のように撒き散らされたからだ。
「折れた刀身を炎で補い使うとは…涙ぐましい真似をするものだ」
アシュレイの刀はベルゼバブにより完全に砕かれた。
発動体を失った星辰奏者は異能を使えない、それが新西暦の原則だ。
しかしながら解き放たれた煌めく翼、怒りの救世主にその常識は通用しない。
一切焼滅の炎は砕けた刀身を自ら補い形なき刃として再生させる。
無から有を生み出すに等しい芸当をしかし誇るでもなく、彼はあろうことか敵を目前にしながら前へと地を蹴った。
「ぬ…ッ!?」
最強生物と謳われる竜人とすら打ち合ったベルゼバブ。
その体が、まるでゴム毬のように真後ろへと吹き飛んだ。
力で押し負けたのだと悟るや否や戦闘狂の脳髄が沸騰する。
屈辱とそれが生む怒りがベルゼバブを更に強化するが、知った事かと煌翼は炎刀を振るった。
「――笑わせるなッ!」
目算にして数百に届く斬撃はしかしベルゼバブに言わせれば既知のそれ。
継国縁壱という極点(ハイエンド)を知る彼は初見で対応を可能とする。
喝破と共に迸る衝撃波。
そこで生じた黒い稲妻の正体を今の彼は知らなかったが、気合が物理的な破壊力を生むという不条理を引き起こして降り注ぐ剣閃を全て粉砕した。
反撃の黒槍は紙一重で躱されたが、ならばと真下から膝をかち上げる。
腹に炸裂した膝蹴りには確かに敵の筋肉と内臓を粉砕し中で混ざり合わせた手応えがあったが――
「此方の台詞だ。"笑わせるな"」
煌翼、尚も不動。
体内を破壊された事実など存在しなかったと言わんばかりに活動を続行する姿は狂気の結晶だ。
次の刹那、青年の痩躯を中心とした小規模な核爆発が轟いた。
正確には所謂原爆水爆の類とは異なるものの、性質で言えばより上を行くと言って間違いない。
汚染物質を吐き出す事のないクリーンな虐殺の火――純粋水爆星辰光(ハイドロリアクター)の片鱗。
身を焼かれながら空へ逃れたベルゼバブは黒翅を放って反撃する。
だがそれは、煌翼の剣が一度振り抜かれるだけで光に焼かれたように爆散して消えていった。
爆塵の帯を突き抜けベルゼバブの目前に救世主が出現する。
瞬間、二度目の激突が起こり。
上空で接触した両者から同心円状の衝撃波が轟いて周囲の雲を一斉に吹き飛ばす。
「面白い。貴様、単なる英霊ではないな」
「答える必要はない」
「そうか――ならば答えさせてやろう」
斬首を狙って振り抜かれた剣を受け止める。
絶速に達した攻撃を防ぐのには当然同等の速度か、異次元の領域まで冴え渡った読みが必要だ。
ベルゼバブはその両方を平然と有していた。
彼もまた怪物なのだ。
そしてこの怪物は今、煌翼の救世主という異常事態をすら自らの糧とし戦いの中で成長している。
「来い」
次の瞬間、空に星の絨毯が敷かれた。
いや違う。これは星ではない。
ベルゼバブがその魔力を糧に生み出したアストラルウェポン。
かの聖槍と同じ銘を持つ光槍"ロンゴミニアド"が、瞬時かつ同時に千以上抜錨された故の光景だった。
「――征けッ!」
疑似宝具真名解放。
カレイドフォスと呼称される輝きを放ちながら、千の光槍が殺到していく。
対城宝具の解放にも容易に届く芸当を余技の一環で繰り出すベルゼバブは規格外を極めていたが、それに呼応するかのように燃え盛る炎は何か。
熱量の果てない上昇と視認出来る身体性能に明らかに見合わない各種能力値。
それをベルゼバブは冷静に俯瞰し観察していた。
答えはすぐに出る。
信じ難い、冗談のような解答。
そしてベルゼバブという強さの希求者にとっては――一つの天啓にも等しい答えが。
「そうか、貴様は……」
光の炸裂が連続する。
誘爆が誘爆を招き、生まれるのは夜空のグレートアトラクター。
万物を粉砕する力の集中点に単独で放り込まれながら、瞳の黄金は煌めいた。
斬撃二閃。それが極光の宇宙現象を十字に割断してねじ伏せる。
肌の粟立つ超人芸を観測し終えた瞬間、ベルゼバブの胴に袈裟の刀傷が刻まれ血が噴き出した。
口からも血反吐を吐きながらしかしベルゼバブが浮かべるのは高揚の笑み。
「望めば望む程、強くなるのかッ」
「違う。俺を何だと思っている――お前には俺が神や聖者にでも見えるのか」
彼の出した答えはされど一口の下に一刀両断された。
「貴様の目に俺という存在がどう写っているのかは知らんが、俺は単なる愚かな塵屑だ。
神の如き力など、聖者の如き奇蹟など、この身に備わっている筈もない」
「ほう…ならば問おう。貴様の力、その根源は一体何だ」
「見て解らないのか」
空が爆ぜる。
今度は煌く男の脚力に踏み砕かれた事に耐え兼ねて、空間そのものが炸裂した結果だった。
須臾という単位を当て嵌めるに相応しいスピードで肉薄するヘリオスを歓喜と共に迎え入れるはベルゼバブ。
黒槍が、炎刀が…闘志のままに切り結び火花を散らす。
何が起こっているのかを地上から見て理解する事は、彼らと同じサーヴァントであるメロウリンクやひかるでも不可能だったろう。
強さという概念にも種類や格は存在する。
あまりにも格が違う強さを前に、及べぬ者は傍観者としての役割すら果たせない。
ベルゼバブの顕現させた漆黒の滅爪が敵手の頸動脈を引き裂くが、救世主はそれを自身の熱で瞬時に止血。
出血を差し引いても首の骨に達する裂傷であったというのにその動きは微塵とて衰えない。
そして大上段から刀を振り被ると、それをベルゼバブの槍へ向けてただ力のままに振り下ろし――
「気合と根性。それだけだ」
「――――!」
砲弾のように、蝿の王を地へ叩き落とした。
告げられた答えは理不尽の極み。
精神論による限界突破で現実に強さの数値を跳ね上げられるのなら誰だって苦労はしない。
しかしながら信じる以外の選択肢は存在しないのだ。
何故なら事実としてそれを体現している男が今此処に居る。
気合一つで自分の力を数倍に跳ね上げ、根性一つで致命傷を無視する赫怒の翼。
頑張れば何でも出来てしまう超人のモデルケースを前にして、反論出来る者など居る筈もなかった。
「ふ、はは、ははは…!」
空から降りてくる救世主。
その踵が起き上がったばかりのベルゼバブを容赦なく打ちのめす。
全身を粉砕されるような衝撃に吹き飛びながら、それでもその表情に怒りはない。
――星奈ひかるはベルゼバブに無限の宇宙を見た。
それは宇宙という概念に深く精通した彼女ならではの的を射た幻視だったと言える。
ベルゼバブは何故強いか。
単に力があるから、ケイオスマターやアストラルウェポンといった強力な武装を無尽蔵に有しているから…
それも間違いではないだろうが、答えと呼ぶにはいささか不足がある。
彼は成長するのだ。
成長し、そして学ぶのだ。
研鑽を怠らず、敗北から必ず何かを得て蘇る。
不撓不屈のベルゼバブ。
そんな彼が、自身が今までに戦ってきたどの敵よりも無茶苦茶な理論に基づいて戦う救世主を前にしてしまったなら。
その結果として起こり得る事態は、間違いなく"最悪"だった。
「――得たり。それが貴様の力の源泉ならば、余もまた其処へ並び立とう!」
間違いなく致命となる筈であった煌翼からの追撃。
アシュレイ・ホライゾンが用いていた自身の血を誘爆させての加速…それを原理はそのままに速度を数百倍に跳ね上げた煌翼飛翔。
其処から繰り出される斬閃の嵐はベルゼバブを膾切りにするに十分過ぎる筈だった。
にも関わらず、吹き飛んでいる最中だった筈のベルゼバブが力の向きに逆らって空を蹴り加速するという意味不明の挙動を始める。
「掴んだぞ…こうするのだなッ」
「…!」
ケイオスマターの一閃。
只それだけで死を破却する。
数百の攻め手を一の迎撃で捻じ伏せて。
背から膨れ上がらせた鋼翼の一斉発射で敵を槍衾に変えた。
止めとばかりに突き出される黒槍の刺突を受け止めるが、次は不動とは行かない。
青年の足が地を離れ、景色が線になって流れていく。
既にベルゼバブの筋力は、怒れる救世主のそれを凌駕する域にまで高まっていた。
「体が軽い――これが、限界を超克する感覚というものか!」
覚醒完了。並びに学習完了。
ベルゼバブはこの瞬間を以って進化した。
愚直な精神論を自己の内界で理屈化し何処までも強くなる光の血族。
全てを食らい磨り潰す闇の極光が、この窮地の中で産声をあげたのだ。
「褒めてやろう。そして褒美をくれてやる。
貴様が目覚めさせたこの力、この"可能性"! 他の誰よりも先に、貴様自身の命で味見をさせてやろう――!」
哄笑のままに迫る鋼翼。
それを救世主は只睥睨していた。
粉塵と爆炎の中で、黄金の双眸を煌かせて。
そして小さく、されど世界の何処までも響き渡るような重々しさで呟いたのだ。
「――理解した。だが、"勝つ"のは俺だ」
赫怒の煌翼、その手に握られた炎刀が地へ突き立てられる。
それは楔のようでもあり、同時に鍵のようでもあった。
形容として的を射ているのは後者の方だ。
これは鍵なのだ。
更なる地獄、悪意の怪僧をして法悦の内に昇天するのを余儀なくされる光り輝く地獄の片鱗を地上へ呼び出す為の鍵。
「お前の力、しかと見た。覚醒を果たしたお前に敬意を表して、俺もまた更なる高みへ至るとしよう」
信じられないような言葉が呼び水となり。
次の瞬間――炎刀の突き立てられた地面から地獄の炎が溢れ出した。
◆ ◆ ◆
殴り飛ばされた、と気付いたのは視界が暗転して一秒後の事だった。
認識が追い付かない速度での接敵からの一撃。
ベルゼバブの思考が空白に染まる。
戦いの中で意識を失う事などいつ以来だか彼自身にすら思い出せない。
覚醒の高揚と更なる力への渇望が自身の晒した無様への憤怒の前に消え失せる。
それと同時に痛烈な前蹴りがベルゼバブの腹を打ち抜きその内臓を破壊したが、今度は舌を噛み潰して持ち堪えた。
「貴様――"また"かッ!」
「然り。お前が高みを目指して翔ぶならば、俺もまたそれを翔び越えるのが道理だろう」
狂った理屈を当然の正義として語る光。
その心臓を穿つ槍が届く前に、ヘリオスは炎刀を逆袈裟に振り上げてそれを弾いた。
そして無防備に空いた彼の胸倉を掴み上げ握り締める。
血も煮えるような炎熱地獄の中で戦っているというのに、この時ベルゼバブは世界が極寒の氷河に埋め尽くされた錯覚を覚えた。
それが"戦慄"という感覚であった事を彼が理解するよりも早く、地上に咲く太陽がベルゼバブの総身を呑み込んだ。
「…やはり天奏(ヤツ)のようには行かんな」
集圧・流星群爆縮燃焼(レーザーインプロージョン)。
数万を超える夥しい数の小さな火を、無限大に連鎖爆発させる事で生じる制圧攻撃の極み。
文字通り万の爆裂を零距離で浴びるのだから致命的である事は言うまでもない。
標的が無に帰るまで続けられる爆破と炎熱による超圧縮。
煌翼にとって先代に当たる極晃奏者の技を模倣したこれを前にしては、如何に蝿の王と言えども界聖杯からの退場を免れない――かに見えた。
「おおおおォ――舐めるなァッ!」
しかし不条理を覚えた悪魔は止まらない。
瀕死寸前にまで追い込まれながら、それでもと意思の光を燃え上がらせて不可能を可能にした。
力任せに内側から爆縮燃焼の檻を抉じ開け、爆破の圧力を上回る速度で全方位に鋼翼を放つ事で内部から破壊してのけたのだ。
偉業を誇る余分など犯さず、ベルゼバブはその翼で救世主の燃え盛る躯体を薙ぎ払った。
そして自身は上空へと再び舞い上がる。
刹那にして顕現させるのは、宛ら意趣返しのような数万を超える"力"の大海原だ。
「貴様が、何処までも無限に燃え上がるというのなら…!」
アストラルウェポン全種展開。
ロンゴミニアドのみに限らず、全ての武装を此処に惜しみなく注ぐ。
これぞ王の財宝。
ベルゼバブという宝物庫から引き出された金銀財宝その全て。
「――その覚醒(つばさ)ごと押し潰してしまえば、罷り通るだけであろうがッ!」
それが、地に立つ救世主に一本余さず降り注ぐ。
これぞ天地神明の流星群。
あらゆる属性を含有した星の嵐。
その総合火力も制圧力も数値としての圧力も、先刻救世主が見せた流星群爆縮燃焼を遥かに上回っている。
驚くべきはベルゼバブの持つ力の桁と、そして覚醒という戦闘方法への相性だった。
不完全とはいえ極晃奏者、星の極みたる怒りの救世主を二度目の覚醒で飛び越える事に成功している事実が彼の規格外ぶりを端的に示す。
されど救世主は驚きの一つも浮かべる事なく、逃げ惑う事もなく剣を天へ向けて構えた。
流星群を刀一つでねじ伏せようとする愚策の極みに真顔で挑める理由は即ち、成し遂げるのだと腹に決めているからに他ならない。
そしてその事はベルゼバブとしても予想通り。
ありったけの魔力を注いで、全てのアストラルウェポンを擬似真名展開する事で燃え上がる煌翼への対抗手段とした。
「消え失せろォォッ!」
結果、当たり前に救世主は押し潰される。
圧殺と蹂躙。神秘のクラスター爆撃が網膜が物理的に溶け落ちるような光量で世界を埋め尽くす。
其処に存在が在った事を残滓すら残らず否定する、何かを殺すという事の極み。
ベルゼバブは間違いなくこの瞬間、それまでの彼とは比べ物にならない怪物と化していた。
後は救世主の首級一つあれば蝿の王の新たなる門出は完遂される。
だが――
「まだだ」
音など聞こえる筈もない世界の中で一言。
そんな言葉が聞こえたのを、確かにベルゼバブは聞いた。
瞬間、全ての不条理は更に上を行く理不尽によって超克される。
一筋の斬光が、生物など存在出来る訳もない星の墓場の内側から天へと向けて轟いた。
成層圏にすら届くその光が…流星の埋め尽くすその座標に隙間を作り出す。
其処から覗くのは救世主の眼光。
そして、外の世界へと向けられた右手だった。
救世主の右手が伸びる――前へ。
「…ならば――これでッ」
ベルゼバブは驚嘆と共に、しかし現実を認める。
救世主はまだ生きている。
それならばと更なる奥の手を開帳しようとして…
「創生――純粋水爆星辰光(ハイドロリアクター)」
その意思さえも押し潰す、煌めく炎が具現した。
それは紛れもない災禍。
今から遥か未来の地球で人類が開発を果たした破壊兵器の極み。
環境汚染をしない大量破壊兵器という矛盾の結実。
先刻は片鱗を覗かせるのみに留まった代物が、世田谷区という都市の全てを埋め尽くした。
例外は救世主の戦う背後に居た少女達とメロウリンク、そして星奈ひかるのみだ。
逆に言えば彼の立つ前方に広がる景色は、全て灰一つ残る事なくこの世から消えた。
無論ベルゼバブとてその例外ではない。
結果だけを見れば紛うことなき大惨事であり大量殺戮。
だがしかし、これでも威力は絞られている。
本来なら数区、ともすれば東京の全体を焼き払っても釣りが来るような火力――それを彼はこの程度の犠牲で収まるサイズにまで集束させた。
生んだ犠牲を彼は忘れない。
全て胸に抱き、記憶し、罪として背負い明日へ歩む。
それこそが光の宿痾。
彼という男が持つ病理であり哀しき宿命。
"勝つ"という事に纏わり付く業の全てがこの眩い姿には常に付き纏っている。
世田谷区という都市の全てを焼き焦がす純粋水爆は勝利の証。
そうなる筈だった――だがしかし。
一面の白にポツリと一点、太陽に浮かぶ黒点が如き闇が生まれ。
「――まだ、まだァッ!」
敗北の末路を否として。
全身を焼け爛れさせ痛ましい姿に成り果てながら、それでも爛々と闘志を燃やすベルゼバブが飛び出した。
姿形だけを見れば死に体も同然の有様だが、しかし再々度の覚醒は彼を確実に先刻以上の怪物へと鍛え上げていた。
剣と槍が何度目かの激突を奏でる。
しかしベルゼバブの狙いは既に其処にはない。
止めどなく続く打ち合いの最中、徐に彼はケイオスマターを消した。
そしてその左腕を突き出して、救世主の腹を抉り穿つ。
「勝つのは俺だと、貴様は確かにそう言ったな」
瞬間、逃げようのない至近距離で漆黒の魔力が集約されていく。
救世主が放った純粋水爆星辰光のそれより更に小さく、極限まで集束させた黒の魔力球。
恐るべきは其処から発せられるエネルギーの総量が、先刻ベルゼバブが繰り出したアストラルウェポンの流星群のそれを遥か上回っている事。
これこそがベルゼバブの真の奥の手であり切り札であるのだと見る者全てにそう理解させる。
「実に愚かしい思い上がりだ。"勝つ"だと? その言葉を真に貫ける者は天上天下に只一人――この余(ベルゼバブ)のみよッ!」
純然たる魔力の結晶が描き上げるは混沌(ケイオス)。
ベルゼバブという破壊者のあり方を体現するような暴虐だけがそこでは沸騰している。
球状の沸騰をこの距離で使う事は術者本人にも少なからぬ返り風を齎すだろうが、それを厭うベルゼバブではない。
駄目押しとばかりの限界突破による膂力向上が敵を逃さず、己の勝利をより確定的なものにさせる。
歯を剥いて闘志と殺意を曝け出したベルゼバブの咆哮が、黒々と広がる混沌と共に赫怒の翼を呑み干した。
「潰えよ煌翼! ケイオス・レギオン――!」
…その一撃は紛れもなく戦いを決着させるに相応しい代物。
今繰り出せる限り最大の熱量は、煌炎の鎧をも貫通して救世主の臓腑を破壊した。
体内で炸裂し肉体を原子レベルで吹き飛ばさんとする高濃度エネルギー体。
焼き払い、押し潰し、もの皆総てを塵と帰させる滅尽滅相の極み。
救世主の血潮が砕けた骨肉と共に壮絶な炸裂を起こし。
この瞬間、理を捻じ曲げて現実へ進み出た煌翼の極晃奏者は鋼翼の王の前に敗北を喫した――
「見事。お前の闘志は確かに俺の焔(ねつ)を上回った」
にも関わらず。
声が響くのは何故だろうか。
ケイオス・レギオンの直撃を前にその熱は捻じ伏せられ。
焔の全ては踏み躙られて消え去る筈だった。
それが道理。それが現実。
だがそれを理解しながら「ならば」と奮い立つ魂が此処にある。
「ならば俺もまた、お前の混沌(ヒカリ)に応えるべく飛翔しよう。すべては"勝利"を再びこの手に掴むため」
刹那にして巻き起こった現象は、あらゆる道理と現実への完全勝利であった。
響き渡る破裂音。
硝子を叩き割るような音色と共に、彼に刻まれていた致命傷の全てが文字通り粉々に砕け散ったのだ。
後に残るのは五体満足にして無傷の肉体。
霊基レベルで全ての損傷が打ち消され、その上で先刻以上の覚醒を果たした万全超えの救世主が其処に居る。
――光速の突破。
――因果律崩壊能力。
敵の力の全貌をこの瞬間理屈として理解しながら、しかしさしものベルゼバブも言葉を失った。
「貴様は、一体…」
これは何だ。
この男は一体何なのだ。
格上も格下も星の数ほど見、そして乗り越えてきたベルゼバブをして疑問符を拭い去れない。
精神論一つを寄る辺に森羅万象のあらゆる理を破却し進化する存在等…一体如何なる理屈を用いれば完成し得るというのか?
「掲げよう、創世の火を。そして打ち砕こう、お前という敵の全てを」
断言出来る事は一つだった。
これはサーヴァント等ではない。
そんな枠組みに収める事の叶う存在ではない。
冠位を充てるには眩しすぎる。
誰もかもを等しく照らし焼き焦がすその在り方は冠の担い手のそれに非ず。
遥かの彼方へ広がる丘から姿を現し、地平の全てをその焔で救う滅びの救世主。
アシュレイ・ホライゾンなど仮初の蛹。
其は人間が造り上げた、人類史を最も間近で救う大災害。
全てを平等に認め向き合う、誰もが描いた理想の救世主(ヒーロー)そのもの。
人理を灼く赫怒の翼。原罪の――
「――おおおおおおぉおおおおおおッ!!」
…咆哮と共に覚醒するベルゼバブ。
だがそれが何かを生むよりも速く。
振るわれた創世の火、燃え上がる煌刀は飛翔した王を一閃し。
地平の先までもを埋め尽くす爆炎の中に、斬り裂かれたその躰を追放した。
――しかし。
ベルゼバブはまだ生きている。
衰える事なく燃え上がる闘志と気配はこの期に及んでもまだ救世主の肌を強く突き刺していた。
それに驚くでもなく彼は気配の方へと一歩を踏み出す。
全ては"勝利"を掴む為。
敵を殺して幕を下ろす為。
その歩みを止める事は誰にも出来ない。
その筈だった。
だが、その手を握る者が居る。
酷く儚い、か細い力。
煌翼の救世主にしてみれば無力と呼んでも誤りではない…頼りない力だった。
「…もう、大丈夫です」
「お前は…」
「私達は誰も死んでない。あなたのおかげでみんな生きてる。
だから……お願いします。"そっち"にだけは行かないで」
星奈ひかる。
その手に煌翼は僅かだけ顔を向けた。
己が手を握る力は弱く、敵意も戦意も微塵たりとて感じられない。
だからこそ進む以外を知らない救世主の意識を引く事が出来たのだろう。
力ずくで、等と考えていたならば全ては無意味に終わっていたと断言出来る。
「あなたが"そっち"に行ってしまったら、…にちかさんはきっと悲しみます。
出会ったばかりだけど……分かるんです。あの子があなたの背中を見る目は、あなたが帰って来てくれることを心から祈ってた!」
星奈ひかるはヒーローだ。
プリキュアである彼女を救世主と呼ぶ者もひょっとすると居たかもしれない。
だが本物を目前にして、ひかるは自分と彼が決定的に違う事を心の底から理解させられた。
輝く眼光は鋼の意思に満ちていて。
歩みは重く、放つ戦意は全てを斬り伏せるように鋭い。
これが救世主。
全ての悪の敵たろうとした男の姿。
畏れを抱くと同時に深く実感する。
自分があの時踏み止まれず道を踏み外していたとしても、きっとこうはなれなかった。
きっと迷走に迷走を重ねた末、泣きながら何も得られず何も守れず最期を迎えていただろうと今なら分かる。
ひかるが抱くのは感謝だった。
自分を引き戻してくれた全てへの感謝。
大事なマスターへの、感謝。
そして彼女に感謝しているからこそ、ひかるは目前の完成された"悪の敵"の手を引くのだ。
だってその背中はあまりにも雄々しいけれど同時にひどく哀しくて。
見ているだけで思わず涙が溢れそうになるほど痛ましかったから。
「みんな生きてる。みんな待ってる。あなたが帰ってくる場所は、あなたのすぐそばにあるんです!」
だから、どうか――
「お願い…どうか後ろを振り向いてッ」
振り向いて、と。
そう告げたその言葉に救世主の歩みが遂に止まった。
何かを思い出したような。
魂の奥底に響く何かを感じたような。
不変なる救世主らしからぬ表情を浮かべた彼の体にひかるは抱きついた。
自分に出来る事などもうこれ以外にはないからと。
身を焦がす煌炎の熱にさえ苦悶一つ漏らさない少女の後ろから、声がする。
「ライダーさんっ!」
叫ぶ声が届いたかどうかは定かでない。
何しろ爆心地からはひかるの手によって引き離されているのだ。
無駄かもしれないと自覚しながら、それでもにちかは声をあげずにはいられなかった。
体は今も震えていて足腰立たない。
本当なら今すぐ目を閉じて、何もかも忘れて眠ってしまいたい。
なのに声をあげたのは、今そうしなければ間に合わなくなってしまうという奇妙な確信があったから。
「私達、みんな此処に居ますよ…私の事置いてかないって、そう言ってくれたじゃないですか……!」
今にも反応が消えそうになっていたアシュレイ。
彼が何故立ち上がったのか、彼の体を借りて戦うあれは何なのか。
にちかが正しく理解出来る事は実の所皆無に等しい。
彼女の中で唯一正しいものは今口に出している言葉だけだ。
「だから――っ」
勝手に居なくならないで。
女の子との約束を勝手に破ろうとしてんじゃないですよ。
どんなに戦いが強くたって、そんな自分勝手な奴なんて論外なんですから。
小難しい話は全部何もかもどうでもいいです。
今言いたいのは、あなたに伝えたい事は…
「――さっさと戻って来てくださいっ、このばかやろ~~っ!!」
…少女の言葉が。
炎に照らされた崩壊都市の中に響いて――
◆ ◆ ◆
実際の所、星奈ひかるの判断は正しかった。
負傷したという現実の破壊。
因果律崩壊による不可能の物理的突破。
それは煌翼の救世主が持つ極晃の性質そのもの。
アシュレイ・ホライゾンの霊基を借り受けて表層化していた意識が、蝋翼ではなく煌翼へと完全に切り替わろうとしていた。
後数歩。時間にして恐らく数秒。
心優しい少女が救世主の手を握り歩みを止めるのが遅れていれば…アシュレイは完全に消え、ヘリオスが顕現する事態となっていたのだ。
そうなれば最早全ては取り返しが付かない。
怒りのままに界聖杯の全てを踏破し、理想郷(アルカディア)の実現まで全てを灼き続ける赫怒の人類悪が殻の中から解き放たれる。
聖杯戦争ひいては全ての物語の終焉。
それどころか何処か遠くの人理そのものの溶融にまで繋がる大破局の序章を――少女の勇気と偶像の声が止めた。
そして今。
救世主の意識は現実から精神へと、銀の満月が見下ろす静謐の地へと移動していた。
「ありがとう。そしてごめん、ヘリオス」
ヘリオス。
それが救世主の名。
アシュレイ・ホライゾンが片翼と呼ぶ存在。
アシュレイは何を言うよりも先に彼へ礼を述べ、次に一言謝った。
「…お前が頭を下げるのは筋が違うだろう。お前と交わした約定を違えたのは他ならないこの俺なのだから」
「俺がもっと強かったら、お前にそんな選択を強いる事はなかった筈だ」
あの瞬間…ベルゼバブのケイオスマターに貫かれたアシュレイの運命は確定していた。
ヘリオスが行動を起こし、道理をねじ伏せてアシュレイの体の主導権を奪い単独顕現を果たしていなければ。
まず間違いなくあの瞬間、アシュレイ・ホライゾンと定義されるサーヴァントは界聖杯から消失を果たしていたに違いない。
「やはりお前は優しいな」
しかしだとしてもヘリオスは己の選択を罪だと断ずる。
「俺はあの日お前と交わした約束を自らの手で破った、それは事実だ。
勇敢な光が…お前をこの地に繋ぎ止める偶像が声をあげなければ、俺は行き着く場所まで駆け抜けてしまっていただろう」
彼は悪意故にそうする訳ではない。
アシュレイという面倒な存在が消えたのを良いことに自らの悲願を果たそうと躍動し始めた訳でもない。
理屈ではないのだ、こればかりは。
ヘリオスという存在はあまりにも正しすぎるから。
その上であまりにも熱すぎる怒りを常に抱き続けているから。
だからこそ彼はそうする以外の術を持たないのだ。
足が動く限り、否動かなくとも駆け続ける。
理想の最果てへ進む足は世界を正しさで灼き続ける。
その果てに待つ未来こそが灼烈恒星(アルカディア)。
かつてヘリオスが掲げ、そしてアシュレイが止めた炎の理想郷。
「理想郷の成就という古い大願を、お前と契りを結んだこの手この足で叶えていたに違いない」
「……」
「改めて理解したよ。俺はやはり類稀なる塵屑で、決してお前のようにはなれない存在であると」
己は片翼から学んだ事を何一つとして実践する事が出来なかった。
誰かと語らう事も、手を取り合おうとする事も初手から否定した。
世界を灼き、剣で誰かを斬り…一つの勝利を得る為に万をも超える命を擂り潰した。
優しい境界線とはまるで似つかない只激しいだけの炎。
それはまさに、過日の煌翼の姿そのものだった。
「全ては俺の罪であり業だ。お前は何も謝るな」
「…そうか」
これ以上言葉を重ねればヘリオスはきっと激昂するだろう。
この男は酷く頑固で、そして何処までも正しいのだ。
だからこそ彼は己の犯した罪を譲らない。
他人に己の重荷を委ねる"弱さ"を彼は許せないから。
「何も恥じるな、片翼。俺の認めた優しい憧憬よ。
お前が今此処に存在しているその事実こそが、お前の偉業が正しかった事の動かぬ証明なのだから」
「…、あぁ。やっぱりそういう事なんだな――ヘリオス」
灼烈恒星は人類が存続出来る世界ではない。
いや、仮に人類がその苛烈極まりない新宇宙に適合を果たせていたとしても宇宙の方が保たないのは明白だった。
仮にその問題点も解決させ理想郷が成立したとして、それでも恐らく"事象"自体は永く続かない。
いずれは事象そのものが世界の枝から剪定され消え去っていただろう。
その終焉を前にして覚醒の信奉者達がどうするかまでは定かでないが、いずれにせよアシュレイの生きた人類史は荼毘に付していたに違いない。
にも関わらずアシュレイは今英霊として此処に居る。
それが意味する事実は、つまり――
「お前は、俺を認めてくれていたんだな」
アシュレイ・ホライゾンという存在が死んだ後もヘリオスは彼と交わした契りを守り続けたという事。
文字通り永劫の時を独りで生き続ける放浪者となりながら、それでも煌めく翼は何一つ破らなかった。
烈奏の星は二度と瞬かず。
アシュレイの愛した人類は存続し続けた。
だから今、サーヴァントとしてのアシュレイが存在を許されている。
「当たり前だ。何度もそう言っている」
「…ありがとう。身に余る光栄で涙が出そうだよ」
そも、最初から気が付くべきだったのだ。
一介の英霊が何故斯様な異物を宿して現界しているのかと疑問を抱くべきだった。
怒りの救世主は即ち人類悪。
単独顕現を可能とする炎の獣。
つまり彼が今アシュレイの内側にこうして存在している事実が意味するのは――
「また会えて嬉しいよ、片翼」
「此方の台詞だ、片翼」
交わす言葉はそれだけで十分だった。
永い永い放浪を労う言葉は必要ない。
アシュレイは一言だけ再会を祝して、幾星霜の時の果てに再び巡り会えた相棒へと手を伸ばした。
「これだけは否定させてくれ。お前は塵屑なんかじゃない。
お前が罪を背負う事について議論をする気はないが、護られっ放しじゃこっちも面目が立たないんだよ。
お前のやった事の善悪がどうあれ、お前のおかげで俺の守りたい人達は救われたんだ。
それなのに塵屑だ何だと卑下されたら、いよいよ俺って何なんだって話になってくるだろ」
「…お前らしい言い分だ」
「そういうお前も、相変わらずの頑固一徹で安心したよ」
ヘリオスが差し出された手を取る。
その無骨な熱を懐かしく思いながら、アシュレイは彼の目を見て言った。
「俺をもう一度飛翔させてくれ」
アシュレイの肉体は未だ死んでいる。
奇跡でも起きない限り復活の目はない。
「約束した女の子が居るんだよ。絶対に置いて行ったりしないって」
「……」
「俺を信じて待っているあの子を裏切りたくない。
あの子を、みんなを――助けたいんだ」
だからこそ彼は、自身の片翼に力を求めた。
しかし単に奇跡を祈るのではない、それでは只の神頼みだ。
アシュレイはヘリオスを神だなどとは思っていない。
無論自分という存在に力を供給する炉心だともだ。
彼にとってヘリオスはかけがえのない片翼で。
なればこそ求める言葉は一つだった。
「俺と一緒に翔ぼう、ヘリオス。お前の強さが必要だ」
その言葉は間違いなく万感の響きを伴って救世主の耳朶を叩いて。
故にこそ是非は無い。
硬く結んだ口元をほんの微かに緩めて笑みを作り、彼は応えた。
「ありがとう。その言葉が…俺にとっては何よりの報酬だ」
定まった死の運命を今こそ破却する。
火の強さは太陽には程遠く。
されど燃え尽きるだけの蝋の翼にも非ず。
那由多の放浪の末に再び結ばれた契りは今、一度きりの奇跡と永遠の熱を確約した。
◆ ◆ ◆
迫る槍の穂先が――銀の刀により止められた。
散る火花が夜の闇を照らす事はない。
その微かな灯りが霞み果てる程の光が、今焼け野原の大地に輝いていたからだ。
「…ライダー、さん……?」
「手を引いてくれてありがとう。君は俺達の恩人だ」
それは――銀の炎だった。
赫炎のような激しさはない。
只優しく静かに燃え盛る月乙女の火。
体に残った大小様々な傷も、ベルゼバブの一撃を阻み砕けた筈の刀身も嘘のように癒やされていく。
救世主の見せたそれが傷という概念を破壊し逆説的に癒やす芸当ならば…これは傷を燃やして取り除く癒やしの御業。
否。新たなる超新星。
蝋の翼の宿痾に訣別を告げ、太陽と共に歩む事を選んだからこそ発現した慈愛と共存の星。
「どういたしまして…、……えっ、わわっ……!」
「後で改めてお礼を言わせてくれ」
銀の炎がひかるの体を包む。
驚くひかるだが、その肌が新たに焼ける事はない。
折れた骨や破けた皮膚、砕けた内臓までもが快癒していくのが分かる。
癒やしの炎に自他はない。
しかし誰もがそれを望む等という優しい道理は存在せず。
その証拠とばかりに、貫くような殺意がアシュレイの全身を突き抜けた。
「貴様に用はない。余を阻む事すら叶わなかった小蝿が何故また出張ってきた?」
ベルゼバブ、未だ健在。
その全身は何故生きていられるのか不可思議な程に損壊していたが、両の目に爛々と灯る殺意がその健在を誇示している。
まさに怪物であった。
まともにやり合えば今のアシュレイでも勝機はないと断言出来る。
「替われ。さもなくばその五体、今度こそ欠片も残さず踏み躙るぞ」
「それは無理な相談だ。こっちも色々あってな、お前の言う"あいつ"は恐らくもう二度と此処には顕れないよ」
「ならば死ね」
不快感を露わに振るわれる槍。
受け止めた刀が例の如く砕け散った。
それだけでなく衝撃は彼の体内をグチャグチャに破砕させたが、その手傷も今となっては可逆のものだ。
時を巻き戻すように傷は癒え、痛みも苦悶も消え去っていく。
「矛を収めてくれないか。そうすれば俺達に可能な限りで、お前の要求を聞いてやるつもりだ」
先刻は言い切る事も叶わなかった言葉。
それを今度こそアシュレイは面と向かって最後まで伝えた。
相手が誰であろうと、最初から手を取る事を諦めては世界は何も変わらない。
その事を誰よりよく知っているから、彼はベルゼバブにもう一度交渉を持ち掛けたが。
やはりというべきかそんな誠実さに対する返答は剣呑極まりない殺意の発露だった。
「余は死ねと言った。貴様如き惰弱な羽虫が、余に二言を要させるのか?」
「…そうか。残念だよ、そうまで拒まれちゃ仕方がない」
交渉の言葉は切り捨てられた。
差し伸べた手は拒まれた。
であればアシュレイも諦めるより他にない。
話し合いに応じず、自分の大切な存在を脅かし続けるというのなら――是非も無し。
「此処で倒させて貰うぞ」
「――やってみろッ!」
大火山の破局噴火を思わせる壮絶な闘気の氾濫。
銀炎は瞬時に彼の全身を覆い尽くしたが、事もなく突き抜けて迫ってくる。
アシュレイの炎が癒やすのは味方だけだ。
彼が手を差し伸べる事を諦めた存在に対しては、天駆翔と変わらず苛烈な炎熱で以って応じる。
言うなれば攻めと守り、癒しと加害の相反する概念が融合した二律背反の星辰光。
それこそが『月照恋歌、渚に雨の降る如く・銀奏之型(Mk-Rain Artemis)』。
アシュレイ・ホライゾンの選んだ道を体現するかのような奇跡の星であった。
「それがどうしたァッ!」
だがその熱は救世主の振るったそれに比べれば数段どころでなく劣る。
太陽との共存を選んだ事実は、理屈に合わない限界突破が永久に封じられた事を意味しており。
限界突破を前提にしても食らいついてくる怪物を突破するには些かどころでなく不足していた。
銀炎を引き裂き迫るベルゼバブの黒槍が、あらゆる癒やしを拒絶する腐滅の槍がアシュレイに迫るが――
「…はああああっ!」
彼は独りで戦っている訳ではない。
向こうでも、現世でも。
真横から飛び込んだ星奈ひかるの蹴りが槍の側面に激突し軌道を反らす。
重心を崩したベルゼバブの顔面に、乾坤一擲の一撃を叩き込むひかる。
それもまたベルゼバブに言わせれば涼風以上の物ではない――その筈だったが。
「ぐッ……!?」
ベルゼバブの鼻から血液が漏れ出す。
脳を揺さぶる衝撃は明らかに先刻の比ではない。
「――猪口才な。貴様如き羽虫が、一丁前に奴の猿真似か!」
ベルゼバブはそれを気合と根性に基づく限界突破とそう認識したが実際は違う。
限界突破(オーバードライブ)ならぬ無限の想像(イマジネーション)。
確たる正義を見据え、後ろで帰りを待つ少女達を守る為に力を燃やす彼女のイマジネーションは今やフル回転していた。
であればその出力は、ありとあらゆる能力値は…ベルゼバブをしても無視出来ない次元にまで瞬時に到達する。
「独り残らず鏖殺してくれるッ。余の決定は誰にも覆せん!」
「なら…!」
ケイオスマターとキュアスターの拳が激突する。
壮絶な衝撃とそれに伴う体内の損壊に顔を顰めるが拮抗は一寸だって譲らない。
そしてアシュレイの炎がひかるの傷をリアルタイムで癒やし、逆回しのように取り除いて。
その結果、遂に星奈ひかるはベルゼバブに力比べで押し勝った。
「わたしが――覆すッ!」
「が……!」
二発目の直撃。
顎を真横から殴り込まれたベルゼバブの視界が回転した。
屈辱と、それとは正反対の冷静な自我が混ざり合う。
空中で体勢を立て直したベルゼバブは鋼翼を展開すると、それをひかるに向け次々射ち出した。
――隻腕。救世主に負わされた手傷は想像以上にベルゼバブの足を引いていた。
仮に両腕が揃ってさえいれば、イマジネーションを爆発させたひかると言えども彼をこうも苦しませる事は叶わなかったろう。
しかしこの体たらくでは業腹ながら認めざるを得ない…厄介であると。
「だが…甘いぞッ!」
されど所詮は他人ありきの力だ。
脆弱な体を外付けの加護で癒やして戦闘を成立させているのなら、先にそちらの方を潰してしまえばいいだけの事。
ひかるを物量の差という余りに無体な結論で対処しながら、ベルゼバブは天高く舞い上がった。
同時に展開されるのは王の財宝。
救世主に披露した程ではないが、それでもアシュレイとひかるの双方を同時に三度殺してお釣りが来る程の規模だった。
そして始まる絨毯爆撃。
命あるもの全てを逃さんとする滅尽滅相の包囲網の中、最後の一手を担うのは他でもないベルゼバブ本人だ。
「百も承知だ。来い、ランサー!」
その危険度を承知しながらアシュレイは迎え撃つ。
受けて立つ以外の選択肢は元より存在しないのだ。
であれば死力を尽くして臨むまで。
しかし恐れはなかった。
心の中で暖かく自分を照らす太陽の存在をちゃんと感じられているから迷わない。
「死ね、太陽を収める器風情が――余を前に思い上がるなッ!」
「――心技体、三相合一。之を以て剣の極み」
荒れ狂うベルゼバブとは対照的にアシュレイは冷静だった。
目さえ閉じて、全意識を今この一太刀に集中させる。
失敗すれば死ぬ。
何もかもが無駄に終わり、アシュレイの愛した全ては奪われるだろう。
だが…怖くはない。
あまねく逆光を消し去る至上の光が己の内にあるのだと信じているから、体は一切の淀みを排して動いていた。
「明鏡止水――絶刀・叢雨」
限界突破は叶わない。
アシュレイは奇跡を起こせない。
だとしても、その身には確かな刃が備わっている。
心血全てを注いで体得した師との絆。
これに懸けてだけは誰にも負けないと胸を張って自負する一刀が、心技体の完全な合一の下に振るわれて――
「さよならだ、ランサー。もしまた会う事があったら…その時はもうちょっと話を聞いてくれると嬉しいよ」
ベルゼバブの胸板を、霊核に達する程深く斬り裂いていた。
信じられぬという表情で瞠目する彼へ告げられる離別の言葉。
その強さへの敬意と手を取り合えなかった事実に対する僅かな寂寞を滲ませて告げられた言葉は、王の自尊心に鋭く響いた。
“余が…負ける? 此処で、終わるだと……?”
そんな事は有り得ない。
決して有り得ぬ、有り得てはならぬ。
仮に自分を破ったのがアシュレイでなかったとしても。
それがひかるや、それどころかかの救世主だったとしてもベルゼバブは同じような想いを燃やしていただろう。
そう、この男は決して納得などしない。
最強の高みを目指して未来永劫歩み続けると誓っているからこそその魂は永遠不変。
故に突き付けられた"敗北"の二文字を前に、彼がその行動に打って出るのは最早必然だった。
「いいや――まだだッ!」
限界突破による死の否定。
致命傷の破壊とまでは行かずとも、這い上がるにはこれで十分。
久遠の歳月に磨かれた異次元の精神性が超新星の如くに鼓動する。
世が世であれば求道の神にすら達しただろう強さへの執念が、奇跡を現実の理屈へと貶めた。
「超えたぞ――破ってみせたッ!」
喜悦のままに反撃へ打って出ようとするベルゼバブだったが。
そんな彼に対しアシュレイは至極冷静に、言った。
「いいや。お前は此処で終わりなんだよ」
…刹那。
ベルゼバブが覚えたのは悪寒であり、そして常軌を逸した嫌悪感でもあった。
視界がブレる。
目眩を起こしているのではなく、物理的に視点を動かされているのだ。
地震による地盤沈下――しかし天然のそれではない。
この感覚は。
この、己の逆鱗を薄笑いを浮かべながら指先でなぞられるような感覚は…!
「――狡知ィ! 貴様かァッ!」
弾ける殺意が音として響いた瞬間。
ベルゼバブの頭蓋を撃ち抜く一筋の流星が迸った。
微かな破裂音は激震の音にかき消されて聞こえもしなかったろう。
完璧なお膳立てとカモフラージュの下に発砲された弾丸は紛うことなきヘッドショット。
その主となった英霊の存在等、今やベルゼバブの脳には碌に残っていない。
何故なら"彼"はそれ程までに取るに足らない、弱いサーヴァントであったから。
アシュレイのように目障りな挙動もせず。
最初の襲撃時点で既に重傷を負い、戦線に混ざってくる事もない存在だったから…。
――男の名は
メロウリンク=アリティ。
王の殺意を掻い潜り身を潜め極限まで気配を消し、時を見て引き金を一度引いただけの彼。
そんな弱い傭兵の指先が、この永い戦乱に幕を引いた。
ベルゼバブの姿が、沈下する地面の底へと消えていき。
そして発せられた闇色の大爆発が…勝者と敗者を定義する銅鑼の音代わりに響くのであった。
◆ ◆ ◆
「つまらん。何の茶番だこれは」
吐き捨てるような言葉は紛れもなくベルゼバブその人のもので。
彼はあろうことに、脳天を撃ち抜かれていながらまだ平然と現界を続けていた。
しかしさしもの彼も今すぐには這い上がれない。
負った傷もさることながら、そこに追い打ちを掛けるように物理的な障壁が邪魔立てをする。
深さ一キロ以上にもなる穴の底。
土砂や瓦礫、その他諸々ありとあらゆる無機物に埋もれたその体は今はピクリとも動かせない。
「…しかし得る物はあった。余に知識を与えた事――それがあの羽虫共の最大の失敗よ」
敗北の事実は憤死しそうになる程に不快。
だが得たものは確かにある。
少なくともこの世田谷の地を踏む前と後のベルゼバブでは、その強さは天と地程も異なるのだ。
あの煌翼に学んだ覚醒という新技術。
それは、ベルゼバブという戦闘者にとてもよく適合した。
ベルゼバブは――鋼翼の覇王は止まらない。
今は動けず敗北の底だとも、直にその暴威は必ず再び地上に舞い戻る。
「今は束の間の勝利に酔っていろ。余が再び貴様らの前に戻り…その全てを滅殺する時まで」
覇王、未だ不変にして健在。
未来の報復を誓いながら今は飛翔の時を待つ。
【旧世田谷区(大穴の底・瓦礫の中)/二日目・未明】
【ランサー(ベルゼバブ)@グランブルーファンタジ-】
[状態]:極めて不機嫌、全身に極度の火傷(極大)、左腕と左翼欠損、胸部に重度の裂傷、眉間に銃創、霊核損傷(中)、魔力消費(中)、疲労(大)、一時的な行動不能状態、胴体に袈裟の刀傷(再生には時間がかかります)
[装備]:ケイオスマター、バース・オブ・ニューキング(半壊)
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:最強になる
0:283絶対殺す
1:現代の文化に興味を示しています。今はプロテインとエナジードリンクが好きです。
2:狡知を弄する者は殺す。
3:青龍(
カイドウ)は確実に殺す。次出会えば絶対に殺す。
4:鬼ヶ島内部で見た葉桜のキャリアを見て、何をしようとしているのか概ね予測出来ております
5:あのアーチャー(
シュヴィ・ドーラ)……『月』の関係者か?
6:セイバー(継国縁壱)との決着は必ずつける。
7:ポラリス……か。面白い
8:龍脈……利用してやろう
9:煌翼……いずれ我が掌中に収めてくれよう
【備考】
※
峰津院大和のプライベート用のタブレットを奪いました。
※複数のタブレットで情報収集を行っています。今は大和邸に置いてあります。
※大和から送られた、霊地の魔力全てを譲渡された為か、戦闘による魔力消費が帳消しになり、戦闘で失った以上の魔力をチャージしています。
※ライダー(アシュレイ・ホライゾン)の中にある存在(ヘリオス)を明確に認識しました。
◆ ◆ ◆
戻ってきたその青年は、これまでのと何も変わらない穏やかな笑顔を浮かべていた。
まるで何もなかったかのように戻ってきた彼に、にちかはわなわなと身を震わせる。
それはしかし純粋な感激だけを意味する仕草ではない。
自分が一時の感情に任せて取り返しの付かない事をしてしまったのを、申し訳なく思う故の動揺だった。
“…そうか。マスターは”
あの時にちかは只祈っただけではなかった。
自分に出来るせめてもの行動として、彼女は令呪を使っていたのだ。
しかしその事実はことアシュレイのマスターとしては余りにも大きな痛手である。
七草にちかの令呪とはそれ即ち界奏、方舟を出航させる為の鍵に他ならない。
それを此処で一画失ってしまった事実はやはり大きかった。
だがアシュレイはそれを責めるでもなく、彼女の肩に手を置いて言う。
「ありがとう、マスター。俺を呼んでくれて」
「…で、でも……私、大事な令呪を――」
「いいんだ。君が俺を助けようと叫んでくれた事が、俺には何より嬉しかった」
そも実際の所、にちかがあの時がむしゃらなりに行動を起こしていなかったなら本当に最悪の事態になっていた可能性が高いのだ。
謝る事など何もない。
確かに道程は当初のものより遠ざかってしまったが、急がば回れという諺もこの国にはあるというではないか。
遠回りを選んだ結果破滅の運命を回避出来たのだと思えばむしろ上出来だろう。
それに何よりアシュレイにとっては今言ったように、にちかが自分を呼んでくれた事が何より尊く嬉しかった。
「よくやってくれた。君が俺のマスターで良かったよ、にちか」
「う…うぅうう、うぅう……! ライダーさん、ライダーさんっ……!」
泣き崩れるにちかにそれ以上の言葉は要らなかった。
今は落ち着くまでこうさせておくのが一番だとアシュレイは心得ている。
それはさておき、話は前に進めねばならないだろう。
顔だけをこの場にやって来た金髪の美男子へと向けて言う。
「お前にも礼を言っておかないとな。流石だよ、あれ以上ないタイミングだった」
「お褒めに預かり恐悦です。単なるステージマジックの延長線に過ぎない芸当ですがね」
あの時、まるで狙い澄ましたように発生した地震とそれに伴う地盤沈下だが正体は何てこともない。
入念なプランニングから繰り出された殺人トリックだ。
アサシン、W…真名を
ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ。
その宝具『全て私が企てたことなのです(クライム・コンサルタント)』は、言うなれば完全犯罪を実現させる宝具だ。
綿密なプランニングと人材の確保を前提とした百発百中の犯罪計画。
条件さえ満たす事が出来たのならば、戦略兵器の投下以上の効果を発揮する天変地異紛いの事象を引き起こす事すら彼にとっては容易である。
「高層建築物の解体方法を参考にした、都市そのものに対する発破解体のようなものです。
怪物相手に計画を練った経験は流石にありませんでしたが…やはり足元からの攻撃というのは有効ですね。一つ勉強になりました」
「…あらかじめ爆薬を仕込んで、いざとなればいつでも敵を一網打尽に出来る備えを整えてたって事か。末恐ろしいな」
「極力巻き添えを出さないように配慮して仕込みましたので、威力の方は最大とは言えませんがね」
本気でやっていたならどうなっていたのか、考えるだけでも恐ろしい。
ベルゼバブが戦闘の怪物ならばこの紳士は頭脳戦の怪物だとアシュレイは改めて実感する。
心底、敵として相対する事にならなくてよかったなとそう思わずにはいられない。
この手の相手と敵対した経験で言うと忘れようにも忘れられない強烈な物が一つあったが、正直下手に強いだけの相手より余程恐ろしい。
いつ仕込んだのかも分からない犯罪計画がこうして本番で十全に機能し最高の結果を生み出したのを目の当たりにすれば尚の事だ。
一体いつから手のひらの上で管理されていたのかと考えるだけで背筋に冷たいものが走る。
「危機は去りましたが、しかしこれからです。此処からは更に困難な、針の穴に糸を通すような道程になるでしょうが――」
「ああ、分かってるし足を止める気はないよ。…今回は色んな人に心配を掛けてしまったしな。そろそろ名誉挽回と洒落込みたい」
283プロ勢力は誰一人として失わなかった。
迫る破滅の大災害を乗り越え、再び笑顔を取り戻す事が出来た。
しかしウィリアムの言う通り、これでようやく第一歩。
方舟の旅路は此処からが本番なのだ。
それに備え誰もが決意を新たにしたその時――
焼け野原の世田谷区に流星が一つ墜ちる。
"それ"は、人の形をしていた。
しかし人では有り得ない凶念に満ちた存在だった。
ベルゼバブのとは明らかに異なる静けさ。
あちらが吹き荒ぶ暴風ならば、此方は研ぎ澄まされた刃物のような戦意。
静かに拳を構えるそれが話し合いの通じる存在である風にはとても見えず。
三番手の悪鬼を意味する参の字が躍るその双眸は、一難を退けた方舟のクルー達へ次なる嵐を確約していた。
【杉並区(善福寺川緑地公園)/二日目・未明】
【
七草にちか(騎)@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:精神的負担(大)、決意、全身に軽度の打撲と擦過傷、顔面が涙と鼻水でぐちゃぐちゃ
[令呪]:残り二画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:高校生程度
[思考・状況]基本方針:283プロに帰ってアイドルの夢の続きを追う。
0:……は?
1:アイドルに、なります。……だから、まずはあの人に会って、それを伝えて、止めます。
2:殺したり戦ったりは、したくないなぁ……
3:ライダーの案は良いと思う。
4:梨花ちゃん達、無事……って思っていいのかな。
[備考]聖杯戦争におけるロールは七草はづきの妹であり、彼女とは同居している設定となります。
【ライダー(アシュレイ・ホライゾン)@シルヴァリオトリニティ】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(大)
[装備]:アダマンタイト製の刀@シルヴァリオトリニティ
[道具]:七草にちかのスマートフォン(
プロデューサーの誘拐現場および自宅を撮影したデータを保存)
[所持金]:
[思考・状況]基本方針:にちかを元の居場所に戻す。
0:この状況を───
1:今度こそ、Pの元へ向かう。
2:界奏による界聖杯改変に必要な情報(場所及びそれを可能とする能力の情報)を得る。
3:情報収集のため他主従とは積極的に接触したい。が、危険と隣り合わせのため慎重に行動する。
4:武蔵達と合流したいが、こっちもこっちで忙しいのが悩み。なんとかこっちから連絡を取れればいいんだが。
[備考]宝具『天地宇宙の航海記、描かれるは灰と光の境界線(Calling Sphere Bringer)』は、にちかがマスターの場合令呪三画を使用することでようやく短時間の行使が可能と推測しています。
アルターエゴ(
蘆屋道満)の式神と接触、その存在を知りました。
割れた子供達(グラス・チルドレン)の概要について聞きました。
七草にちか(騎)に対して、彼女の原型は
NPCなのではないかという仮説を立てました。真実については後続にお任せします。
星辰光「月照恋歌、渚に雨の降る如く・銀奏之型(Mk-Rain Artemis)」を発現しました。
【
七草にちか(弓)@アイドルマスター シャイニーカラーズ】
[状態]:健康、いろいろな苛立ち(割とすっきり)、プロデューサーの殺意に対する恐怖と怒り(無意識)、気絶
[令呪]:残り三画(顔の下半分)
[装備]:不織布マスク
[道具]:予備のマスク
[所持金]:数万円(生活保護を受給)
[思考・状況]基本方針:生き残る。界聖杯はいらない。
0:zzz……
1:アイドル・七草にちかを見届ける。
2:あの野郎(プロデューサー)はいっぺん殴る。
3:お姉ちゃん……よかったあ~~~。
[備考]※七草にちか(騎)のWING準決勝敗退時のオーディションの録画放送を見ました。
※二日目・未明の段階で七草にちか(騎)に送られた七草はづきからの安否確認のメールに代筆しました。七草にちか(弓)のアパートの住所とそこにいることを伝えてあります。
【アーチャー(メロウリンク・アリティ)@機甲猟兵メロウリンク】
[状態]:全身にダメージ(大・ただし致命傷は一切ない)、疲労(大)
[装備]:対ATライフル(パイルバンカーカスタム)、照準スコープなど周辺装備
[道具]:圧力鍋爆弾(数個)、火炎瓶(数個)、ワイヤー、スモーク花火、工具
[所持金]:なし
[思考・状況]基本方針:マスターの意志を尊重しつつ、生き残らせる。
0:この状況を───
1:にちかと摩美々の身辺を警護。
2:『自分の命も等しく駒にする』ってところは、あの軍の連中と違うな……
3:武装が心もとない。手榴弾や対AT地雷が欲しい。ハイペリオン、使えそうだな……
4:少しだけ、小隊長のことを思い出した。
[備考]※圧力鍋爆弾、火炎瓶などは現地のホームセンターなどで入手できる材料を使用したものですが、
アーチャーのスキル『機甲猟兵』により、サーヴァントにも普通の人間と同様に通用します。
また、アーチャーが持ち運ぶことができる分量に限り、霊体化で隠すことができます。
アシュレイ・ホライゾンの宝具(ハイペリオン)を利用した罠や武装を勘案しています。
【
田中摩美々@アイドルマスター シャイニーカラーズ】
[状態]:気絶、ところどころ服が焦げてる
[装備]:なし
[道具]:白瀬咲耶の遺言(コピー)
[所持金]:現代の東京を散財しても不自由しない程度(拠出金:田中家の財力)
[思考・状況]基本方針:叶わないのなら、せめて、共犯者に。
0:ただ、プロデューサーに、生きていてほしい。
1:プロデューサーと改めて話がしたい。
2:アサシンさんの方針を支持する。
3:咲耶を殺した人達を許したくない。でも、本当に許せないのはこの世界。
[備考]プロデューサー@アイドルマスターシャイニーカラーズ と同じ世界から参戦しています
【アサシン(ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ)@憂国のモリアーティ】
[状態]:心痛、覚悟
[装備]:現代服(拠出金:マスターの自費)、ステッキ(仕込み杖)
[道具]:ヘルズ・クーポン(少量)、Mとの会話録音記録、予備の携帯端末複数(災害跡地で入手)
[所持金]:現代の東京を散策しても不自由しない程度(拠出金:田中家の財力)→限定スイーツ購入でやや浪費
[思考・状況]基本方針:聖杯の悪用をもくろむ主従を討伐しつつ、聖杯戦争を望まない主従が複数組残存している状況に持って行く。
0:この状況を───
1:いずれはライダー(アッシュ)とも改めて情報交換を行う。
2:『彼(ヒーロー)』が残した現代という時代を守り、マスターを望む世界に生還させる。
3:"割れた子供達"、“皮下医院”、“峰津院財閥”。今は彼らを凌ぐべく立ち回る。
4:いざとなればマスターを信頼できるサーヴァントに預けて、手段を選ばない汚れ仕事に徹する―――だが、願わくばマスターの想いを尊重したい。
5:乱戦を乗り切ることが出来たならば、"もう一匹の蜘蛛(
ジェームズ・モリアーティ)"の安否も確認したい。
[備考]
※ライダー(アシュレイ・ホライゾン)とコンタクトを取りました。以後、定期的に情報交換を試みます。
※
櫻木真乃およびアーチャー(星奈ひかる)から、本選一日目夜までの行動を聞き出しました。
【櫻木真乃@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:疲労(小)、精神的疲労(中)、深い悲しみ、強い決意
[令呪]:残り二画
[装備]:なし
[道具]:予備の携帯端末
[所持金]:当面、生活できる程度の貯金はあり(アイドルとしての収入)
[思考・状況]基本方針:どんなことがあっても、ひかるちゃんに胸を張っていられる私でいたい。
0:ひかるちゃんと共に戦う。
1:優しい人達に寄り添いたい。そのために強くありたい。
2:あさひくんとプロデューサーさんとも、いつかは向き合いたい。
3:アイさんたちがひかるちゃんや摩美々ちゃんを傷つけるつもりなら、絶対に戦う。
4:ひかるちゃんを助けるためなら、いざとなれば令呪を使う。
[備考]
※
星野アイ、アヴェンジャー(
デッドプール)と連絡先を交換しました。
※プロデューサー、田中摩美々@アイドルマスターシャイニーカラーズと同じ世界から参戦しています。
【アーチャー(星奈ひかる)@スター☆トゥインクルプリキュア】
[状態]:変身状態、頭部を中心に全身にダメージ(中・回復中)、精神的疲労(中)、悲しみと大きな決意
[装備]:スターカラーペン(おうし座、おひつじ座、うお座)&スターカラーペンダント@スター☆トゥインクルプリキュア
[道具]:洗濯済の私服、破損した変装セット
[所持金]:約3千円(真乃からのおこづかい)
[思考・状況]基本方針:何があっても、真乃さんを守りたい。
0:真乃さんと共に戦う。
1:何かを背負って戦っている人達の力になりたい。
2:ライダーさんには感謝しているけど、真乃さんを傷つけさせない。
3:罪は背負う。でも、大切なのは罪に向き合うことだけじゃない。
【
猗窩座@鬼滅の刃】
[状態]:令呪『今回の戦い、絶対に勝利を掴め』
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:マスターを聖杯戦争に優勝させる。自分達の勝利は――――。
0:殺す
1:プロデューサーに従い、戦い続ける。
[共通備考]
※世田谷区が事実上消滅しました。区を中心に直径数㎞、深さ数百mの大穴が空き、その中心部にベルゼバブが生き埋めになっています。
『月照恋歌、渚に雨の降る如く・銀奏之型(Mk-Rain Artemis)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大補足:1~50
ライダーが発現した星辰光であり、彼の内部に存在するヘリオスを介した異能。
その能力は火炎発生能力。能力の太源それ自体はハイペリオンと全く同一であり、発生した膨大な熱量による攻撃や、高い付属性を活かした炎の鎧を纏っての攻防一体の力など、能力の使用法も共通する。
この能力の本質は、核となるヘリオスを炉心として最適化させることに成功しているという点である。
今まで行使していたハイペリオンは、ヘリオスという炎をそのまま握りしめて使用していたに等しい。例えるなら、焚火をするために火のついた薪を素手で握りしめ、体を温めるため暖炉の中に直接身を投げていたようなものである。
対してこの星辰光は、ヘリオスを正しく炉として機能させ、必要な分の熱量だけを抽出することに成功している。必要な手順を踏めば魔の恒星ですら制御できる、安定性と安全性を突き詰めた能力と言えるだろう。
具体的にハイペリオンとの違いを挙げると以下のようになる。
暴走や自傷の危険性が存在しない。
余剰火力は常にストックされ、力の枯渇が発生しない。
発動中は常に魔力が体を満たすようになり、癒しの力に変換された炎により常時回復状態となる。
代償として火力上限が設定され、今までのように意志力による威力向上は見込めない。
ヘリオスを炉心として最適化させる手段として、異なる世界線では「距離」を利用していた。
近づけば全てを焼き尽くす太陽でも、適切な距離さえ取れば命を育む暖かな陽の光となるように。アポーツ(空間転送)の異能を複合させることでヘリオスを物理的に世界の果てまで遠ざけることで、疑似的に再現されたのがこの星辰光である。
しかしこの聖杯戦争の舞台において、ヘリオスは遠ざけられるどころかアシュレイ・ホライゾンと一心同体であり、隣に並び立って戦う無二の相棒となっている。
これが意味するところはただ一つ。万象焼き尽くす恒星であるはずのヘリオスが、手加減を覚えたということ。対峙する全員を焼き殺さねば気が済まない光の奴隷が、只人の尺度と視座に立つことができたという何よりの証である。
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最終更新:2023年03月19日 20:41