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アシッド共産主義
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概要
アシッド共産主義 | ||
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英名 | Acid communism |
別名 | アシッド・コミュニズム |
アシッド共産主義とは、イギリスの文化評論家であるマーク・フィッシャーが提唱した、資本主義の「外部」を探るための政治理論及び文化理論である。
雑に要約すれば、「常軌を逸したやばい思考や文化」を媒介にして団結し、集団的意識と社会的連帯を再構築することで、資本主義という束縛のフレームワーク(資本主義リアリズム)をぶち壊せという思想である。
前提
現代という時代は、資本主義リアリズムに支配されている。言い換えれば、資本主義が個人や集団の意識を支配し、夢や希望を抑圧し、社会全体を虐げいている。
夢や希望というのは「失われた未来」である。例えば、かつてのSFイメージの空飛ぶ車やタイムマシンである。最近の流行っている作品にはこれらのSF的概念はあまり登場しなくなっている。逆に現実そのものの逃避からである異世界系のブームや、現実の妄想的美化である日常系の再ブームが見られる。
これは、人類が未来に対する想像力を失っている証拠の一つであり、「未来がキャンセルされている」と言える。
一方で、失われた未来は確実に我々に憑りついている。例えば「加速主義」や「ヴェイパーウェイヴ」という形、あるいは「レトロフューチャー」、インディゲームにおける「ドット絵」ブームなどという形で社会に現れている。
また、資本主義は、個人主義と消費主義を促進しており、集団的な想像力や連帯感を削いでいるという。
アシッド
アシッドとは、直訳すれば「薬物」のことであるが、必ずしもその濫用を奨励しているわけではない。ただし、薬物を全否定しているわけでもなく、実際フィッシャーは1960年代~70年代のサイケデリック文化やヒッピームーブメントといったカウンターカルチャーを参照している。
フィッシャーのいうアシッドとは、薬物によって引き起こされるようなサイケデリックな意識変革のことである。
言い換えれば現代を覆う資本主義リアリズムからの文化的、心理的な解放のことであり、意識の拡大や変革を通して、資本主義的な思考からの脱却の可能性を探ろうという話である。
「薬物」というものは一般的に「やばい」ものと認識されている。その「やばい」ものを意図的に推し進めることによって、既存社会を攪乱し、社会全体のドラック的な意識変革を狙っている。
コミュニズム
コミュニズムは汚染された用語であり、一般的にマイナスイメージがついているが、フィッシャーはあえてこの語を採用している。
コミュニズムは分裂を繰り返したが、少なくとも現代の人々より、その集団は連帯感を持っていたからである。
コミュニズムという名称には、「資本主義への外部」への脱出の夢と、集団的ビジョンの共有という意味が込められている。
また、かつての左翼は良くも悪くも「元気」であった(新左翼や学生運動を想起せよ)。空想的な「未来」のビジョンを共有し、がむしゃらに闘争を繰り広げていた。その革命的なエネルギーを現代に取り戻すという意図も込められている。
加速主義的成分
マーク・フィッシャーは左派加速主義の系譜としても知られている。実際、アシッド共産主義にも加速主義的な側面があり、資本主義による富の偏在を必ずしも批判しないという特徴がある。
フィッシャーは資本主義の枠組みを破壊し、新たな自由で創造的な社会を構築する可能性を開きたいだけであり、約束されし共産主義社会のようなものを目指しているわけではない。あくまでも、理論的に構築されたユートピア(例えばマルクスの共産主義社会)を目指すのではなく、資本主義以外の可能性を模索することに力点が置かれている。この点では、新左翼とは異なっている。
まとめ
アシッド共産主義とは、いずれも過去のムーブメントである1960年代や70年代のサイケデリック文化やヒッピー、新左翼や学生運動などのエネルギーを継承し、新しい社会という未来への夢を取り戻し、資本主義からの集団的解放を目指す思想であるといえる。