「これで・・・よし。皆には心配掛けちゃったし・・・。これは、後で埋め合わせみたいなことをしないといけないかな?」

ここは、学生寮にある図書室。寮なのに図書館並みの広さと貯蔵量を誇っている所に、常盤台の拘りを感じる。
この図書室には、2階へと続く階段があった。おそらくは、2階に住むお嬢様達の部屋とを繋ぐ廊下に通じているのだろう。
界刺は、午前中はここで過ごすことにしていた。今は、不動達『シンボル』のメンバーに自分が無事である旨のメール送信を終えたばかりである。

「余り金無いんだけどなぁ。どうしようか・・・・・・」

今この図書室に居るのは、界刺と常盤台生1人であった。その常盤台生が、先程から本を読むフリをしながらチラチラとこちらに視線を向けていた。

「・・・チラッ」

大和撫子と形容すればいいのか、和の雰囲気漂う黒髪ロング姫カットの少女―鬼ヶ原嬌看―の視線に界刺も偶然を装って自らの視線を合わす。

「・・・チラッ」
「ビクッ!!・・・・・・」

すると、鬼ヶ原はすぐに視線を逸らして手に持っている本の影に顔を隠してしまう。このやり取りが、もう数回発生しているのだ。
何故彼女がそんなことをするのか、またそんな行動を繰り返すのかは界刺にもわからない。唯、こうもチラチラされてはこちらとしても何だか落ち着かない。

「(・・・そういや、肝心なことを忘れてた。俺ってば、絶賛女難中なんだよな。しかも、ここには女しか居ない。・・・もしかして、俺ってヤバイんじゃあ・・・)」

界刺は、背中に冷や汗をかく。ここ最近は、女性と関わると碌なことにならない状態がずっと続いている。

「(何つったか・・・“常盤台バカルテット”だったか?あの連中に、今朝は酷い目を喰らったし。『食物奉行』のお嬢様2人には命を脅かされるし。
サニーや珊瑚ちゃんは別にするとしても、バカ形製やリンリン、苧環には色んな被害を被ってるし。もしかしたらあの娘も・・・チラッ)」
「ビクッ!!!・・・・・・」

思考中の界刺をまたしてもコソっとチラ見していた鬼ヶ原は、彼の視線を受けてまた引っ込んだ。これは・・・本格的にまずいかもしれない。
先程も、月ノ宮や真珠院が自分の部屋に案内すると執拗に迫ってきたり、“常盤台バカルテット”の4名は隙あらば自分に色んなイタズラを仕掛けてきたり等、
こちらの事情を一切無視した言動に界刺は呆れ果てていた。女という生き物は、男の事情ガン無視ですか?というのが、率直な本音だった。

「(・・・何かイライラするな。気が昂ぶってるっていうか。昨日のアレのせいか?ったく、ホントツイてない)」

思い出すのは、昨夜の死闘。凄まじい殺気を振り撒く殺人鬼と命のやり取りを繰り広げた界刺は、普段の無気力さを醸し出す彼には珍しく気が昂ぶっていた。
そして、その雰囲気とは全く別種の、しかし自分にとって“不愉快”なお嬢様集団やこの空間にも、似たような苛立ちを覚えていた。

「(・・・・・・チッ。噂をすればみたいな感じか?)」

そんな時、界刺は看破する。己が能力『光学装飾』によって。・・・本当なら、今は相手にしたくは無いのだが、
放置していれば向こうが余計な真似をして来ないとも限らない。
故に、界刺はある行動に出る。これもまた、普段の彼には珍しい・・・強硬手段。その足掛かりとして、界刺は立ち上がる。

「・・・チラッ」
「え~と、光学関係の本はっと・・・」

鬼ヶ原の視線を無視し、界刺は本棚に近寄る。そして、懐から警棒を取り出す。もちろん、『光学装飾』によって偽装し、己の挙動を誰にも悟られないようにした上で。
予定の位置に着いた。角度も十分。これで、条件は整った。そして、男は後ろを振り返り・・・警棒をブン投げる。






ドコッ!!!






「「キャッ!!?」」
「・・・そんな所でコソコソ隠れてないで、とっとと出て来たらどうだ、リンリン?それと、珊瑚ちゃんも?」

『光学装飾』を使用することで、界刺が投げる姿及び投射された警棒は隠れていた一厘と真珠院の目には映らなかった。
2階に居る自分達の、すぐ近くにある壁に警棒がぶつかった音―彼女達にとっては不意に発生した音―に、一厘と真珠院は身を竦ませる。

「そこの壁の傷は、君達が弁償するんだよ。イライラしている俺を、更にイラつかせる真似をした君達の責任だ。それと、その警棒を持って俺の前に来い。いいね?」
「わ、わかりました・・・」
「・・・申し訳ありません」
「(や、やっぱり・・・男の方って恐い!!)」

予想外な界刺の行動にビビる一厘と真珠院。一方、鬼ヶ原は自分の中にある男性への見方に確信を持つ。
一厘と真珠院は、界刺の言う通り警棒を持って界刺の前に立つ。そして、真珠院が界刺へ警棒を手渡した。

「・・・・・・」
「ご、ごめんなさい。け、決して界刺さんを驚かそうとかそんなことを考えていたんじゃ無いんです」
「・・・やっぱり『光学装飾』なのですか?私と一厘先輩の存在に気が付かれたのは?」
「・・・そうだよ。これはもう前もって言っておくけど、君達が姿を隠したりとか、変装したりしても、体の一部分が露出さえしていれば俺にはすぐに誰かわかるから。
何故なら、俺は君達の血流パターンを覚えているからね。これは、“静脈認証”と言った方がわかりやすいか?」
「“静脈認証”・・・。赤外線を使った、個人を特定する方法の一種ですね」
「そう。厳密には“近赤外線”だけどね」

“静脈認証”。人の静脈を流れる血流パターンを、体の何処かに“近赤外線”を透過させることで識別する認証方法の一種。
界刺は、この応用を含めた光操作で暗闇や霧濃い時でも人間を瞬時に識別している。
特に“静脈認証”による血流パターンは、人1人のものであるために識別において重宝している。

「だから、今後はこんなくだらない真似は一切するな。俺に用があるんなら、堂々と真正面から来い。次は・・・警告じゃ済まねぇぞ?」
「・・・はい」
「肝に・・・命じます」

界刺の厳しい言葉に、2人の少女は項垂れる。そうして、界刺は少女達を自分が座っているテーブルへと促す。
少女達は、彼に怒られたこともあってか椅子に力無く座る。そのしょんぼりした様子に、界刺も怒りの表情を解く。

「・・・で?俺に何の用だ?」
「え、え~と・・・」
「・・・一厘先輩から先に・・・」
「・・・俺は言ったよな?俺に用があるなら堂々としろって。ここまで来て『やっぱいいです』なんて口走りやがったら・・・潰すぞ、コラ?」
「(・・・!!か、界刺さん、すっごくご機嫌ナナメだ!!ヤ、ヤバイ!!!)」
「(・・・!!生半可な気持ちで臨んではいけない・・・そう心に誓った筈!!こんな醜態を、これ以上得世様に晒すわけにはいかない!!!)」

少女達は猛省する。心の何処かで、自分達が目の前の男に甘えていたことを。それが、この男の機嫌を損ねたのも。
これは、自分達の問題なのだ。自分達の問題に関する相談をこの男に持ち掛けるために、ここに来たのだ。
ここに来てようやく覚悟を決めた少女達は、自分達の先を歩く男へ言葉を放つ。

「実は・・・私達の能力について界刺さんのアドバイスを貰いたいなと思ったんです」
「アドバイス?え~と、リンちゃんの『物質操作』についてはわかっているけど・・・珊瑚ちゃんの能力って何なの?」
「私は、レベル3の『念動使い』。タイプとしては、一厘先輩と同種ということになります」
「念動力系か・・・。俺って光学系だから、そこまで念動力系に詳しくないんだけど?」
「そんな得世様だからこそ、応用力に富んでいるあなた様だからこそ、私はご相談させて頂きたいのです!!」
「うおっ!?」

勢い余ってテーブルを叩く真珠院の真剣さに、界刺も瞠目する。その勢いに負けじと、一厘も身を乗り出す。
本当なら、『必ず追い付いてみせる』と宣言した相手に頼るのは筋違いかもしれない、否、筋違いだろう。
だが、四の五の言ってはいられない。こんな機会は、そう何度も無いのだ。それに、界刺が居るのは今日1日だけ。それは、一厘にとっては短すぎる時間。
自分の能力を最大限に活かせる方法を見出す切欠を掴むためにも、一厘は恥も外聞も捨てて目の前の男に頼み込む。

「界刺さん!!どうか、あなたの知恵を貸して頂きたいんです!!私が、私達の未来が懸かっているんです!!!」
「未来って・・・!!大げさだなぁ」
「大げさじゃ無いんです!!」
「得世様!!どうか・・・!!」
「ッッ!!・・・わかった、わかったよ。(・・・何か面倒な流れになって来たぞ)」

少女2人の懇願に、男は嫌々ながらも相談に乗ることを決断する。先程の厳しい接し方に、多少の負い目を感じていたが故に。






相談内容は、以下の通り。
真珠院珊瑚の能力『念動使い』は、文字通り念じたものを動かす能力である。
彼女の場合、念動力自体の強さや動かせる重量、精密さ等に大きなアドバンテージがある反面、
対象の物体に触れないと動かすことができないという致命的な欠点があった。
レベル3認定を受けているのはそのアドバンテージ故であり、この欠点が解消すれば間違い無くレベル4認定を受けられるとまで言われていた。
真珠院は、欠点による己の能力が応用力に乏しい現状を憂いていた。この打開の術を、界刺のアドバイスによって見出そうと考えていた。
一方、一厘鈴音の能力『物質操作』は、自分の周囲(自身を中心に半径30m)にある個体の物質を意のままに動かす能力である。
操作するのに接触の有無は関係無く、特に精度の面においては真珠院さえも上回る力量を持つが、一つの物質に割ける重量が15kgという大きなハンデを抱えている。
元来レベル4認定を受けるレベルでは無いのだが、その精度がずば抜けているため認定されている。ようは、レベル4でも下位に位置するのだ。(一厘自身も自覚している)
一厘は、自身の能力を最大限に活かせる方法を見出すための切欠を、界刺に求めたのだ。

「ふ~ん。念動力系とは言っても、色んなタイプがあるんだな。当たり前だけど」
「私は、真珠院の重量制限値の高さが羨ましいな。私も合計で1tくらいまでなら操作できるんだけど、その限界値を殆ど活かせてないから」
「あら、私からすれば一厘先輩の『接触の有無は関係無く』念動力を行使できる点が、大変羨ましいですわ」

一厘と真珠院の会話を聞きながら、界刺は色んなことを頭に思い浮かべる。自身の経験や、仲間のこと等を。そして、界刺が語り始める。

「応用と一口に言っても、自分が何を目指すのかによって色々変わって来る。それは、君達もわかっているよね?」
「「はい!」」
「まずは珊瑚ちゃん。君は、どういう『念動使い』を目指したいんだい?」
「私は・・・とにかく接触しなくても念動力が使えるようになりたいです。例えば、今の私では熱された物体を操作することはできませんから」
「・・・そんなに『今の』能力は不満かい?」
「・・・はい。今の能力は、正直な所自分の理想としているものではありません。触れることなく自由自在に物体を操ることができれ・・・」
「そんじゃさ、君は『念動使い』で地面とかを隆起させることはできるの?」
「えっ!?そ、それは・・・」
「(始まった・・・。界刺さんの『詐欺話術<ペテンステージ>』が!!)」

一厘が個人的に名付けた、他者の心を容赦無く抉り取る界刺の話術。それが、生粋のお嬢様である真珠院に襲い掛かる。

「その反応だと、無理みたいだね。君が言ってた重量限界値の高さも、案外大したこと無いのかな?こりゃ、お嬢様が誇ってた精度の方も期待外れか?」
「得世様・・・!!それは、私に対する侮辱ですか・・・!?」
「いんや、唯の感想。君ってさ、生粋のお嬢様なんだよね?もしかして、ナイフやフォーク以外の重い物を持ったことはありません的な過去があったとかそんなクチ?」
「!?ど、どうしてそれを・・・!?」
「だって、君って苦労した経験が殆ど無さそうな風に見えるからさ。・・・だから逃げるんだろ?
自分がぶち当たった“壁”から目を逸らしたくて、そんなできもしない願望に縋ってるんだろ?」
「ッッ!!!」
「・・・ふ~ん。君って、そんな恐そうな顔もできるんだね。能天気な天然系お嬢様でも、図星を言い当てられればそんな顔になるのか」

界刺の瞳に映るのは、普段の様子を知る者ならば驚愕するであろう、怒りと屈辱が浮き彫りになった真珠院の表情。

「君さ、本当に『今の』能力でやり残したことって無いわけ?俺は専門外だから頓珍漢なことを言ってるのかもしれないけど」
「やり残したこと・・・!?」
「そう。例えば・・・今さっき言った地面を隆起させたりとか。
『念動使い』ってのは、応用力に富んだ使い方もできるし、パワー勝負に活かしたりできる能力だと俺は思うわけ。
言い換えれば、『念動使い』は『パワー勝負にも応用できる』という考え方が可能なんだよ、珊瑚ちゃん?」
「!!」

それは、真珠院が今まで思い付きもしなかった考え方。応用力に欠けると考えていた己の能力それ自体が、1つの応用であると男は言う。

「突き詰めて考えていくと、パワー型の念動力系能力者ってのは相当ヤバイと思うんだ。
もしかしたら、『ビルの根元を無理矢理引っこ抜いて、それを自在に振り回す』なんて芸当も可能かもしれない。
これも、立派な応用の1つだ。能力の種類だけじゃ無い、能力が作用する物質をどうやって扱うのかってのも自分の応用力が試されるもんだぜ?」

そう言って、界刺は自分の懐から警棒を取り出す。

「これは、何時も俺が持ち歩いている伸縮型の警棒なんだけど、これは直接的な攻撃力に欠ける俺が編み出した数少ない攻撃手段の1つだ」

もちろん、強烈な光線で目に障害を与えることもできるが、界刺自身は好まない。そのために考えた応用の1つ。

「俺自身を不可視状態にして、敵を惑わせている間に警棒でぶん殴る。拳とかで殴るよりも威力あるしね。これも、応用の1つ。
まぁ、この警棒は前まで持っていたヤツとは違う“改良型”だけど。珊瑚ちゃん、君が言う程君の能力は応用に乏しいわけじゃ無いんだよ?
それは、能力者である君の頭が悪いだけ。気付いていないだけ。思い付かないだけ。
決して君の才能である『念動使い』のせいじゃ無い。結局さ・・・君がバカでアホでマヌケなだけ。違う?」
「・・・!!!」

真珠院は、界刺の言葉を浴びて呆然となる。『バカ』、『アホ』、『マヌケ』。いずれも、今まで一度たりとも言われたことの無い侮辱の数々。
しかも、今日あったばかりの異性に容赦無くこき下ろされたのだ。普段は温厚な自分でも、これだけのことを言われて反論しないわけにはいかない・・・筈だった。
それなのに・・・言葉が出ない。喉の奥から言の葉が出て来ない。その理由がわからないから・・・少女は呆然とするしか無かった。
そんな少女の表情を見て、男は矛先をもう1人の少女へ変える。

「リンちゃん?」
「は、はい!」
「君はこう言ったね。『自分の能力を最大限に活かす方法を見出したい』ってさ。
だったら・・・最大限じゃ無いにしろ、自分の能力に見合ったそれなりの応用方法は考えているんだろ?」
「・・・よくわかりましたね」
「だって、“以前”のこともあるんだし、俺の性格も君は知ってるよね?もし、これで君が何も考えずに俺に相談しに来ていたら、俺は君を確実に見限っていたよ?」
「(あ、危ねええぇぇっ!!!!)」

一厘は、内心で冷や汗を幾つも流す。もし、自分が界刺の言う通り何も考えていなければ、ここで終わりだったのだ。自分が界刺へ抱く“想い”も全て。
その有り得たかもしれない現実に恐怖しながら、一厘は界刺の問いに返答する。

「今は・・・これを完璧に使いこなそうと思って訓練しています」
「・・・これは?」
「消しゴム?」

一厘がポケットから取り出したのは、一見すれば消しゴムに見える何かであった。
界刺と一厘が会話している間に何とか呆然状態から脱した真珠院と、質問側の界刺が訝しむ。
その反応を予想していた一厘は、種明かしをするために『物質操作』により消しゴムのようなものを宙へ浮かし・・・スイッチを入れる。






バチバチ!!!






「うおっ!?」
「キャッ!?」

消しゴムのような何かから聞こえたのは・・・電撃の音。

「これは、『DSKA―004』と呼ばれるスタンガンです。最近スタンガンを集める機会が多かったんですけど、その時に見付けた一品です」
「スタンガン!?」
「そうです。ちなみに、『DSKA―004』を覆っていたのはゴムじゃ無い物質です。意外に脆くできているので、『物質操作』の強さ程度で除去できるんです。
スタンガンであるのを隠すには便利ですよね。最大で250万ボルトまで電圧を上げられるので、攻撃手段としても有効じゃないかなって」

一厘は、界刺や春咲と共に過激派の救済委員と戦った際に、己の戦闘方法の未熟さを痛感させられていた。このままでは駄目だ。
その思いから、直ぐに行動を開始した。目的は、『物質操作』で操作できる範囲内で有効な武器として使える何かを探し出すこと。
その時に一厘が目に付けたのがスタンガン。夜遅くまであちこちの店を巡り、買い漁り、見付けたのがこの『DSKA―004』。

「名前の由来は『D』電極を『S』刺した『K』カエルの『A』足、そして4号機から取ってるんですって。
今は、これを常時20機持っています。何時もは通学鞄に入れておいて、いざという時にこれを用いて戦闘を」
「一厘先輩・・・!!」
「・・・成程。いいと思うよ、リンリン」
「あ、ありがとうございます」

界刺に褒められるとは思っていなかった一厘は、少し照れながらも会話を続ける。

「でも、これだけじゃあ足りないんです。私が目指すのは、こんなちっぽけな物を操作することじゃ無い。
あの“花盛の宙姫”みたいに、もっと色んな物体を自由自在に操作したい!!そう考え・・・」

一厘の脳裏に思い浮かぶのは、あの戦場で自身畏怖した“花盛の宙姫”の姿。
空を自由に飛行し、重量級の物体を幾重にも操作し、液体さえも自在に振るったあの姿がどうしても一厘の頭から離れない。自分が目指すのは・・・あの姿。

「ん~ふっふっふ」

そこへ聞こえて来るのは、自身がアドバイスを希った男の苦笑い。

「リンリン~。さっき俺が君を褒めたばかりなのに、何でそんなこと言うかな。これじゃあ、折角の俺の行為が無駄になっちゃうじゃないか」
「・・・いけないことですか?私には無理だって言いたいんですか?あの“宙姫”のような才能が私には無いって・・・ウッ!?」

あわや一厘が激昂しかけたタイミングでそれを阻んだのは、界刺の手に浮かんだ小さな光球。

「・・・俺が君の年の頃にはこれを発生させるのがやっとだった。これ以外のことは、殆どできなかった」
「えっ!?」
「得世様が・・・!?」

カミングアウト。それは、界刺にとっても苦い思い出。

「こんな光球を生み出せた所で、一体何の意味がある?この学園都市には、この光球の代わりなんて腐る程ある。それは、外の世界にも。
リンちゃん。珊瑚ちゃん。質問しよう。これを生み出すのがやっとな能力者が、
自分の能力における応用方法に悩んでいたとして、君達は一体どんなアドバイスを送れるんだい?」
「そ、それは・・・!!」
「ッッ・・・!!!」

一厘と真珠院は、界刺の問いに返答できない。界刺の言う通り、この程度の光球を生み出すのがやっとな光学系能力者に、自分達はどんな助言を送れるというのだ。
少なくとも、今の自分達にはその能力者に有益なアドバイスを送ることなんて不可能だ。精々精神論くらいかもしれない。

「・・・まぁ、色々悩んだよ。きっと、君達の何倍も深く、深く。能力だけじゃ無い。自分自身の存在価値についても強く、強く。
幸か不幸か、その間にレベルが急激に上がってね。悩んだおかげかどうかは知らないけど、
レベルが上がったことに浮かれて、はしゃいで・・・ボッコボコにされたこともあったな」
「「・・・!!!」」

少女達は知る。目の前の男にも、自分達のように悩み苦しんだ時期があったことを。

「だからさ、リンリン。君は、まだ全然悩み抜いていないと思うんだよ。自分の身にある君の『物質操作』についても。俺から見たら・・・ね。
他の人から見たら違うかもしれないけど。これは、珊瑚ちゃんにも言えることだね。
敢えて言わせて貰えれば・・・君達は『今の』自分が持つ能力を把握し切れていないんだよ。
そんな君達が、幾らデッカイことを叫んでも大言壮語にしかならないと思うよ。そもそもさ、自分の能力を把握できていない奴に一体何が成し遂げられるって言うんだい?」

男は容赦無く断言する。自分の言葉が、少女達が成長する一助になることを願って。






「・・・これは、あくまで俺の見方だから。それが違うってんなら、無視すればいい。俺が絶対に正しいってわけじゃ無い。間違ってることもあるだろう。
俺は、君達のことを全部知ってるわけじゃ無いしね。後は・・・君達次第だ」
「・・・それってずるくないですか?私達次第って?」
「でも、事実だし」
「確かに・・・私達次第ですよね。得世様の言葉を、どう受け止めるのかは」
「そ。珊瑚ちゃん、大正解!少しは頭が良くなったのかな?」
「・・・今度常盤台の授業に出る問題を解いてみませんか?教材なら、幾らでもお貸ししますよ、得世様?」
「いや、いい」

相談は終了。界刺の雰囲気から、一厘と真珠院はそう判断する。

「ちなみに・・・今の界刺さんって光を操作できる範囲ってどれくらいなんですか?」
「今?今は自分を中心にして、半径250mって所かな?」
「2、250m!!?」
「直径500m・・・!!広いですね・・・!!」
「俺が、まず自分の能力で向上させたかった部分だからね。最初の方は、特に重点的に訓練したよ?」

逆に界刺は、一厘と真珠院の雰囲気から、彼女達がもう少しアドバイスを貰いたいと考えていることを見抜き、会話を続ける。

「さっきも言ったけど、当時の俺は自分にできることがすっごく限られていたからね。逆に言うと、自分の能力を把握すること自体は結構容易かったんだ。
だから、まずは自分にできる範囲や得意不得意を認識することに努めた。次に、どの方向へ自分の能力を伸ばしたいのかを考えた。
俺が持っている警棒のように、自分の能力と相性のいい又は弱点を補えるような手段も一緒に。頭が痛くなるくらいに考えた。何日も・・・何日も!!
そこからは、ひたすら訓練あるのみ。さて、リンリン。俺が言いたいことが何かわかるか?」
「・・・私達は、あなたの言う訓練段階にさえ達していない・・・ですか?」
「そう。さっき俺が君を褒めたのは、君がようやく自分の能力を把握して、向上させる方向を決めて練習し始めたと思ったからだ。どうやら、俺の勘違いだったようだけど」
「グッ・・・!!」

突き付けられる無慈悲で非情な断言。
他者の持つ世界(こころ)に詐欺(ことば)を突き刺し、他者に新たな世界を得る機会を与える舞台(にんげん)。故に・・・界刺得世。名は体を表す。

「そういや君等ってさ、派閥とか入ったりしていないの?」
「えっ!?え、え~と、入っていないです。風紀委員活動が忙しいですし」
「私は、まだどの派閥に入るかを決めかねています。これといって入りたいと思う派閥もありませんし」

急な方針転換を図る界刺の意図が読めない2人であったが、とりあえず質問には答える。

「君等さ・・・失念しているかもしれないけど、何も能力向上ってのは1人で取り組まなくてもいいんだぜ?」
「そ、それはわかってますよ!」
「いんや、わかってない。リンちゃん。君は涙簾ちゃんと組んだこともあったでしょ?あの時、君はどう思ったの?」
「あ、あの時ですか・・・?・・・・・・・・・『水楯さんって凄いなぁ』って・・・」



ドスッ!!



「痛っ!?な、何でいきなりチョップを・・・!!」
「・・・嘘は良くないなぁ、リンリン?君は嘘が下手だね?この俺を騙せるとでも思ったかい?」
「ううぅぅ・・・。で、でも・・・」



ガシッ!!グリグリ!!!



「キャアアアアァァッッ!!!!痛い!!痛い!!」
「さぁ、洗いざらい吐くんだ。もし嘘を貫くってんなら、俺の必殺技『警棒をお尻に突き刺す刑』を敢行するぜ?(真っ赤な大嘘)」
「ええぇっ!!?い、嫌!!嫌です!!!それだけは!!!」
「そんじゃあ吐け!!」
「うううううぅぅぅっっ!!!!」
「(・・・そんなおぞましい技があるのですね。世の中は不思議ですね~)」
「ビクビクビク!!」

うつ伏せバージョンのマウントポジションを取り、一厘に馬乗りした状態でこめかみをグリグリする界刺。
一厘の叫び声が図書室に響く中、真珠院は他人事のように思案に耽り、存在感皆無な鬼ヶ原はビビりっ放しであった。






「・・・それって嘘を吐くようなことか?ようは、俺の言葉から自分の行動を省みただけの話じゃん」
「ううううぅぅぅっっ・・・!!」

(何とか『警棒をお尻に突き刺す刑』は免れた)一厘が語った言葉に、界刺が疑問を呈す。

「だ、だってぇ・・・。さっき界刺さんに駄目出しを連発されたし・・・グスン。
私、また界刺さんに『成長していないなぁ』って言われたく無かったから・・・。それで・・・。うううううぅぅぅっっ!!!」
「(・・・少しやり過ぎたか?)」

肉体的ダメージよりも精神的ダメージの方がでかそうな一厘に対して、界刺は思わず髪を掻き毟る。

「うううううぅぅぅっっ!!!」
「・・・・・・チッ。おい、一厘。ちょっと来い!」
「!!・・・はい」

『一厘』。界刺からは渾名で呼ばれることが殆どな一厘にとって、彼が自分の名前をちゃんと呼ぶ時は・・・彼が真剣である証。
それを知っている一厘は、涙を拭きながら界刺の下へ近寄った。

「簡潔に聞くわ。お前、俺にどうして貰いたい!?」
「!!それって・・・」
「つまりだ!お前は、自分の能力の在り方について悩んでんだろ?そんでもって、俺にアドバイスを求めて来た。
だが、肝心のお前自身が勘違いしてる部分もあるし、俺を気にして自分の本音を中々明かさねぇ。こんなんじゃ、俺のアドバイスも活かされるかどうか知れたモンじゃ無ぇ。
一厘鈴音!お前はどうしたいんだ?俺に何を求めるんだ?今ここで・・・ハッキリさせろ!!」
「・・・!!!」

これは、界刺の冷酷で、無慈悲で、容赦無い“温情”。それを理解した一厘は、ようやく自分の本音を語る。

「わ、私は・・・私は!!界刺さんに教えて貰いたいんです!!私の行く道を!!私の在り方を!!1人で悩み苦しむのが・・・辛いんです!!
進まないといけないのはわかってるんです!!でも、自分は今何処を歩いているんだろうって・・・この方向で合ってるのかなって・・・どうしても不安になるんです!!
あ、あな、あなたの背中が・・・とても遠くに感じられて・・・。不安で・・・不安で・・・すごく苦しいんです・・・!!!」
「(一厘先輩・・・!!得世様のことを・・・!!)」

本当はいけないことはわかってる。これは、独力で解決しないといけないこと。誰かに教えて貰うとか、誰かに任せるとかじゃいけないこと。
でも、とても大きな不安が自分を苛める。苦しい。すごく苦しい。だから・・・だから・・・

「なぁ、珊瑚ちゃん。常盤台の派閥間で交流とかあったりすんの?」
「えっ?わ、私にも詳しいことはわかりませんが、それ程盛んでは無いようです。
むしろ、派閥に属する生徒を他の派閥が引き抜いたり、新入生の勧誘等における競争さえ発生しているようです。唯、派閥間の衝突はそれ程大きな問題にはなっていません。
そもそも常盤台においては、大きな派閥に属することが一種のステータスになっていますし、その創始者ともなれば高い名声を得るとさえ言われています。
例えば、常盤台に君臨する最大派閥の創始者である学園都市第五位のレベル5、食蜂操祈様の場合は・・・」
「もういい。それだけわかれば十分だ。派閥争い・・・か。はぁ・・・本当にクソ面倒臭ぇ」

真珠院の回答を受け、界刺は改めて一厘に相対する。

「一厘。君は、自分の能力を把握したいか?『どんな手を使ってでも?』」
「・・・!!は、はい!!!」
「わかった。それと、君ってすぐ泣くね。泣き虫さんだね。今度から“泣き虫リンリン”って呼ぼうか?語呂もいいし」
「うぅっ!!」
「感情豊かなのは結構だけど・・・。珊瑚ちゃん。君はどうだい?」
「・・・得世様のお力添えを頂けるのですか?」
「まぁ、見方を変えればそういうことにもなるかな?別の言い方をすれば、君達に試練を与えることになるけど」
「でしたら・・・私はあなた様が出されるあらゆる試練を乗り越えてみせます!私の進むべき道を見出せるというのなら、どんな障害も踏破してみせます!」
「・・・覚悟ありか。んふっ・・・上等!!」
「(な、何だろう?何かとんでも無いことが起こりそうな気がする・・・!!あの男の方は、この常盤台に何をもたらすつもりなの!?)」

鬼ヶ原は、畏怖する体が起こす震えを止められない。あの界刺という男は、一体何をするつもりなのだ?

「よければ君も来るかい、大和撫子さん?」
「ビクッ!!?」

チラ見しているのが界刺にバレていた鬼ヶ原に不意打ち的な声が掛かる。それに驚いた鬼ヶ原は・・・

「(しまった!!『発情促進』をあの方に!?)」

界刺へ向けて能力を行使してしまう。鬼ヶ原の能力『発情促進』は、対象者に行使すると男女問わず自分へ向けて発情させてしまうという、ある意味恐ろしい能力である。
今では制御できるようになったものの、昔はうまく制御できなかったがために男性に襲われたこともしばしばあったために、彼女は今尚男性不信状態である。
しかし、驚いた時等に能力が暴発する癖は完全には直ってはおらず、今回界刺へ『発情促進』を行使してしまったのはその暴発であった。

「(ま、まま、まずい!!は、早くここから逃げないと!!!)」

鬼ヶ原は、自分を襲って来るであろう碧髪の男から逃れるために動こうとする。しかし・・・

「反応無しか・・・。まぁ、いいや。それじゃあ、一緒に寮監さんの所へ許可を貰いに行くぜ?泣き虫リンリン!珊瑚ちゃん!」
「許可・・・ですか?それと、その渾名・・・」
「わかりました」
「(あ、あれ?あの男の方・・・こっちに来ない。確かに『発情促進』はあの方へ行使したのに?どうして・・・)」

一厘と真珠院を連れ立って図書室から退室する界刺に対して、己の能力が効かないことに疑問ばかりが浮かぶ鬼ヶ原。
ちなみに、『発情促進』が界刺に効かなかったのは、今の彼が絶賛女難中だからである。
最近会った女性の殆どが、自分に対して様々な種類の“不愉快さ”を持ち込んで来たために、今の界刺は所謂女性不信状態に陥っていた。



参考:『界刺得世女難遍歴(現時点における判明分。自業自得分含む)』
○『恵みの大地』にて、自分のファッションを店長・“常盤台バカルテット”、形製等に笑われて恥をかく。(「とある男子高校生と美しさ」より)
○形製の『分身人形』による洗脳で、腕立て伏せ・腹筋・背筋を300回ずつやらされる。(「とある男子高校生とスキルアウト③」より)
○形製の脅しにより筋肉痛に苦しむ中、『だるまさんが転んでも漢は踏み止まれゲーム』に強制参加させられる。(「とある男子高校生とスキルアウト⑤」より)
○本来味方である筈の月ノ宮に泣かれ、参加者全員から非難と侮蔑の視線を浴びる。(「とある男子高校生とスキルアウト⑥」より)
○ゲームの顛末によりボロボロになり、気絶中に苧環に腹への一撃を喰らう+スキルアウト討伐へ強制参加させられる。(「とある男子高校生とスキルアウト⑦~⑪」より)
○『軍隊蟻』の煙草の情報により、彼等の“お嬢”が界刺の首を狙っていることが判明する。(「とある男子高校生とスキルアウト⑪」より)
○風紀委員第159支部の面々とバイキングで食事をしていた際に、春咲に利用された鉄枷の一撃を左頬に喰らう。(「とある男子高校生とレベル」より)
○春咲の救済委員活動に同行する羽目になる。(「とある男子高校生と心の叫び」及び「とある男子高校生と救済委員」全般より)
○救済委員活動に同行している間、日常的な睡眠不足及びテストの成績悪化。(「とある男子高校生と救済委員④」より)
○救済委員活動に同行したことにより、救済委員の1人である雅艶にボコボコにされる。(「とある男子高校生と救済委員⑤~⑥」より)
○『恵みの大地』にて形製のスネ虫に付き合わされた挙句に、店長の大地から激辛タバスコ満載のアンパンを食べさせられる。(「とある男子高校生と救済委員⑫」より)
○一厘の、春咲への懺悔等に付き合わされる。(「とある男子高校生と救済委員⑭」より)
○救済委員活動に同行したことにより、救済委員の1人である刈野に春咲へ貸していた自分のスーツを燃やされる。(「とある男子高校生と救済委員⑯」より)
○昔、赤毛少女に名前を尋ねた時に回答拒否+股間への蹴りを何発も喰らったことを思い出す。(「とある男子高校生と救済委員⑱」より)
○春咲に鳩尾をぶん殴られる。(「とある男子高校生と救済委員22」より)
○林檎に『音響砲弾』による大音量攻撃及び蹴りを何度も喰らう。(「とある男子高校生と救済委員29」より)
○春咲との問答にイライラ、躯園の言動にイライラ、破輩との問答にイライラ、一厘をおんぶして歩く羽目になってイライラ等。(「とある男子高校生と救済委員」全般より)
○月ノ宮に体当たりを喰らい、追い掛け回され、焔火に顔面へ突き刺さる跳び蹴りを喰らい、喋るのが困難となる。(「とある男子高校生と尾行①~②」より)
○春咲に鉄拳制裁を喰らう。(「とある男子高校生と長たる者①」より)
○苧環に泣き喚かれ、苧環を尾行していた殺人鬼と戦闘する羽目になり、その殺人鬼に気に入られる。(「とある男子高校生と長たる者②」及び「とある男子高校生と傭兵」より)
○形製への贈り物に多額の出費をさせられた挙句、形製へ贈り物を届ける最中に負傷する。(「とある男子高校生と長たる者③」より)
○形製にヘッドロックを掛けられる。(「とある男子高校生と常盤台中学①」より)
○金束と銅街にタックルを、銀鈴には氷漬け、津久井浜と菜水には、気分が優れないのに朝食の完食を脅しでもって強要される。(「とある男子高校生と常盤台中学②」より)
○静かに過ごしている最中に一厘と真珠院がコソコソ近付いて来たのでイラつき、口頭による実り少ない相談に付き合わされる。(「とある男子高校生と常盤台中学③」上記まで)
以上、暫定23個。今後も増加予定。



故に、今の界刺は異性に発情等しない。
(=形製や春咲、一厘や真珠院達を女(性・恋愛対象)として見ていない。そのために、普通に付き合えているとも言えるが。もちろん、同姓にも)
昨日の殺人鬼との戦闘が及ぼした影響も大きかったのかもしれないが、とにもかくにも今この時において、鬼ヶ原の『発情促進』は界刺には効かなかったのだ。

「(初めてだ・・・。『発情促進』が効かない男の方なんて。あの人は光を操る能力者だから、私の『発情促進』を防ぐなんてことはできない筈なのに・・・)」

だが、それとは関係無しに、否、関係していたからこそ、とある1人の少女を動かす契機になる時もある。

「(・・・何だろ。この胸の高鳴りは・・・)」

少女は、自分の体から発する鼓動を強く感じる。

「(一厘先輩や真珠院さんが認める方・・・。確かに恐い面もあるけど、それだけじゃ無いのはさっきのやり取りからもわかる)」

厳しくも、怒りながらも、けなしながらも、それでも一厘や真珠院を突き放さなかった男。そして、その男の言葉に少女は確かな説得力を感じていた。

「界刺・・・得世・・・」

実際に言葉に出した後に、人差し指で自分の唇をなぞる少女―鬼ヶ原嬌看―の頬は・・・何時しか赤く染まっていた。






ガヤガヤガヤ






「苧環様!!界刺様達は、一体何を始めるつもりなんですか!?」
「さ、さぁ?ね、ねぇ形製!い、今から一体何が始まるの!?」
「そ、そんなことあたしだって知らないよ!?あのバカ界刺、今度は一体何を企んでるんだ!?」

ここは、学生寮にある広大な庭。日差しを防ぐ木も多く立ち並び、その気になればステージを組めるほど広大なここに、寮に住む常盤台生の殆どが集っていた。

「アイツと一緒に居るのは、珊瑚と一厘先輩!?希雨、アイツが何をしようとしてるかわかる!?」
「う~ん~。ここで能力戦闘とかかな?でも、寮内での能力使用って固く禁じられてるしね~」
「希雨は、さっきそるで寮監にこってりしぼられたき、説得力が違うったいね」
「そ、それじゃあ一体あの方と一厘先輩達は何を・・・?」
「あらあら、あの殿方がまた何かを始めようとしていらっしゃるの?」
「また光を使った面白い芸でも披露して頂けるんでしょうかね、津久井浜さん?」

庭の中心で立っているのは界刺、一厘、真珠院の3名。彼等彼女等は寮監に特別に許可を取り、この庭を使った“とある講習”を始めるつもりであった。

「あ!あの殿方、懐から警棒みたいなのを取り出しましたよ!!」
「フム。これは・・・もしかしたら本当に能力を使った戦闘を始めるつもりかも。後、マーガレット!貴方はできるだけ静かにしなさいね?五月蝿いから」
「も、申し訳ありません、フィーサ様。しかし、あの者は一体どのような手段で寮監の説得を・・・」
「界刺・・・得世・・・」

午前11時30分時を回り、夏の日差しが強烈に注ぐ。カラっとしたそよ風が庭を吹き抜けて行くが、周囲を賑わす蝉は相変わらずであった。

「「よろしくお願いします!!」」
「了解。そんじゃ、おっ始めるか!」

一厘と真珠院の挨拶に、界刺が軽く応える。“とある講習”は、じきに始まる。それを声高らかに宣言するために、界刺は大きく息を吸って思いっ切り声を張り上げる。

「さあて!!今から常盤台に通うお嬢様達の実力を測らせて貰うぜ!!!どうせ、『レベルが高いから強いんだ』的な“素人集団”だろうけどな!!!」
「「「「「「「「「「「「「!!!!!」」」」」」」」」」」」」

月ノ宮向日葵が、苧環華憐が、形製流麗が、金束晴天が、銀鈴希雨が、銅街世津が、鉄鞘月代が、津久井浜憐憫が、菜水晶子が、
遠藤近衛が、フィーサ=ティベルが、マーガレット=ワトソンが、鬼ヶ原嬌看が、真珠院珊瑚が、一厘鈴音が、他の常盤台生全員が、
予想だにしない界刺得世の挑発に驚愕する。

「言っとくが、俺は相手が女だからって手加減するつもりは無ぇぞ?最近だと、俺に危害を加えてきた中学生の女の子をボコボコにして病院送りにしてやったこともあるしな。
名門常盤台のお嬢様だって、例外じゃ無ぇぞ?寮監さんの許可も取ったしな。俺と戦うってんなら、それ相応の覚悟で来い。いいな、一厘鈴音!!真珠院珊瑚!!」
「は、はい!!」
「わかりました・・・!!」
「もし、そこで見学している“素人集団”の中で俺達との戦闘に参加したい奴が居れば、何時でも参戦して構わないぜ?んふっ。それだけの度胸があればの話だけどな?」

人を不愉快にさせる笑みに加え、度重なる挑発を敢行する界刺。その身から漂う雰囲気は、食堂で見たものとは一変していた。

「最後に忠告しといてやる。手加減はするな。でなきゃ、1分も経たずにお前等は地べたに這い蹲ることになるぜ!?
俺も、『その気』で行かせて貰う。今日のパーティーに無様な格好で出席したく無けりゃあ・・・俺を殺す気で来い!!」
「(あの界刺さんと・・・本気で戦う!!・・・ビビるな、一厘鈴音!!ここで踏ん張らなきゃ、女が廃るってもんよ!!)」
「(ゴクッ・・・!!今の私にできる全てを、得世様へ示す。それだけに集中する!!)」

一厘は幾多の『DSKA―004』を宙に浮かし、真珠院は傍にある木に触れる。対する界刺は両手に“改良型”警棒を持ち、臨戦態勢に入る。もうすぐ、戦闘が始まる。

「(あれは・・・あの目は!!)」


そんな中で形製だけが気付いたそれは、色。自身が唯1人“恐怖”した男、界刺得世の目に『本気』の色が見え隠れし始めていたが故に。

continue!!

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最終更新:2012年12月15日 21:39