新月の夜。
北辺の冷たく乾いた大地。
風吹き荒ぶ
スラヴィアの荒野。
そこでは唯一人の観客もなく、「饗宴」ですら滅多に見られない凄まじい高レベルの戦闘が繰り広げられていた。
片や、黒い鎧を身に纏ったダークエルフの女戦士。力、技、スピード。全てが極めて高いレベルで調和している。
片や、巨大な戦斧を軽々と振り回す黒いチューリップドレスの少女。技は荒いが、途轍もないパワーとスピードがそれを補っている。
いずれも「饗宴」に出場すれば、円形闘技場のチャンピオンにすら成り得る実力の持ち主である。
しかし見る者が見れば、両者の力に微妙な不均衡が存在することが読み取れるだろう。
ドレスの少女がパワーとスピードで相手を圧倒しているようで、実際は黒鎧の女戦士の技に巧みに押さえ込まれている。
このまま百合も撃ち合えば、いずれ勝敗の天秤は黒鎧の女戦士に傾くかも知れない。
だが、ドレスの少女は異常なまでのパワーとスタミナの持ち主だった。
戦闘開始から現在に至るまで、戦斧の速度は微塵も落ちていない。
業を煮やした黒鎧の女戦士が叫ぶ。
「黒鎧卿!分離しましょう!」
「承知。」
黒い鎧が一瞬バラけて、その隙間から女戦士がするりと抜け出す。
薄布だけの姿になった女戦士が、両腿の鞘から二本の漆黒のククリナイフを抜いて構える。
再び人型と成った黒い鎧が、ズシャン!と大剣を青眼に構え、無表情な声で呟く。
「一ツ。」
それぞれが自分本来の戦闘スタイルに戻った。
正面から撃ち合って消耗するより、効率的に相手を無力化する方針に変更したのだ。
アンデッドを倒すにはコツがある。相手の戦闘能力を削ぐようにダメージを与えていくのだ。
骨を断ち、腱を切り、関節を潰す。指を切断すれば敵は得物を握れない。
無慈悲な狩りが始まった。
「一ツ。」
黒鎧卿の途轍もなく重い上段斬りを、ドレスの少女の戦斧が真っ向から受け止める。
一瞬の静止の隙をついて、女戦士のククリナイフが少女の左足のアキレス腱を断ち切る。
振り向き様になぎ払う戦斧の下に滑り込んで、女戦士は更に間合いを詰める。
「二ツ。」
上段袈裟懸けから、そのまま速度を落とさず横薙ぎ。目にも止まらぬ十字斬り。
辛うじて上段をかわしながら、バランスを崩して横薙ぎをまともに食らい、少女の下顎が千切れ飛ぶ。
首筋に息がかかるほどの至近距離まで密着した女戦士が、背後から少女の両手の親指を切り落とす。
「三ツ。」
戦斧を地に落とした少女に、神速の三段突きが襲いかかる。
女戦士は、突きを全弾喰らって体勢を崩した少女の両目をククリナイフで薙いで、一気に距離を取った。
「四ツ。」
黒鎧卿が呟き、止めの四連斬りを少女に叩き込もうとした、その時。
大気が鳴動した。
可聴音域を超えた絶叫が少女の喉から迸る。
少女の肉体が蠕動し、背中の肉が爆ぜて亀裂が生じる。
そこから裏返るようにして、小さな『少女』の身体の内側に折り畳まれていた『魔物』の肉体が姿を現す。
それは異形の怪物だった。
四本の異形の腕。蛇腹のように関節が連なり、先端は鋼の硬度と黒曜石の輝きを持つ巨大な鎌。
四本の異形の脚。180度開いた股関節から四方に延びる魔獣の脚。その先端は蒼黒い光沢を放つ三本の鉤爪。
全身は半透明の硬質の鱗で覆われ、巨大な翼は地を打つ風で真空刃を生む。
銀色の髪が無数の蛇のようにうねり、漆黒の尾が鞭のようにしなって地面を叩く。
そして双面。頭部の前と後に二つの愛らしい少女の顔。
薄く目を閉じて、微かな笑みを浮かべている。
大気の振動が止み、それに代って禍々しい瘴気が大気に満ちていく。
髑髏王がデザインした『魔物』がその姿を現したのだ。
「なんだ…?なんだ、これは…!?」
恐怖と驚愕で身動きもできない女戦士。
一方、黒鎧卿は微塵の動揺も見せず、神速の連撃を標的に叩き込む。
「四ツ!」
一呼吸で、上段斬り、横薙ぎ、右袈裟、左袈裟。
しかし異形の怪物は、一本の腕と尻尾だけで易々と必殺の四連斬りを受け止めた。
「退ガレ。邪魔ダ。」
黒鎧卿は、怪物と刃を交差させたまま女戦士に命じると、再び怪物に向かって渾身の斬撃を放った。
「五ツ!六ツ!七ツ!八ツ!九ツ!十ッ!!!」
数える毎に斬撃の威力と速度が上がっていく。
金属と金属がぶつかる音がが凄まじい連続音となって空気を引き裂く。
濛々たる砂煙の向こうで無数の火花が散る。
二体の怪物は一塊の刃の旋風となった。
黒鎧卿の斬撃がもうすぐ「百」を数えようとする頃、遂に均衡が崩れる時が来た。
ガキィィィン!
大剣が宙高く弾きとばされ、遥か彼方の地面に深々と突き刺さる。
異形の鎌が黒鎧卿の核を貫く。
「黒鎧卿!」
女戦士が叫ぶ。
黒鎧卿は地に膝を着き、やがて前のめりに倒れ伏す。
異形の怪物が、ゆっくりと女戦士の方に向き直る。
女戦士は決死の形相でククリナイフを構えた。
怪物が悪夢のような速度で女戦士に襲い掛かる。
『申し訳ありません、屍姫様。』
女戦士が死を覚悟した、その時。
「はい、そこまで。」
いつの間にか、屍姫に瓜二つの少女が怪物の目の前に立っている。
怪物は時間が静止したかのように硬直している。
少女の肩には一羽の鴉。
「……屍姫様!?」
「この子は髑髏王の『特別製』なんだ。君等が負けたあのヴォーダンより強い。
正体を現すところまでこの子を追い詰めるなんて大したもんだ。やはり、君は見込みがある。」
少女に顔を撫でられた途端に、異形の怪物は時計を逆回しするようにみるみる元の姿に戻っていった。
「君等とこの子がここで遭遇するのは予定外だったけど、面白そうなんで途中まで見物していたんだ。
とはいえ折角の手駒が潰し合うのはもったいない。残念だがここらでお開きとしよう。」
屍姫に瓜二つの少女は、呆然としている女戦士にも、気絶して地面に横たわる全裸の少女にも、うつ伏せに倒れている黒鎧卿にも目もくれず
ひとりで楽しそうにしゃべり続けている。
「この子は君に預けておく。上手く育ててやってくれ。大丈夫、君ならできる。髑髏王の奴には僕から言っておくから。」
「あ、あの…貴方はもしや…」
「まあ楽しみにしてくれ。『饗宴』より面白いゲームを思いついたんだ。今はその『駒』を集めてるのさ。」
勝手に話を進められて訳が判らない女戦士は、なんとか少女の独り言に割り込もうとしたが無駄だった。
少女の手が倒れている黒鎧卿の身体に触れると、致命傷のはずの黒鎧卿がムクリと起き上がる。
「それじゃ僕はここらで失礼するよ。あんまり他所で油を売っていると、この裏切り者が姫に告げ口するからね。」
「今やってることがバレたらお説教程度では済みませんぞ。わが君。」
鴉はほとほと呆れたといった口調でぼやく。
少女はくすくす笑いながら手を振り、そして次の瞬間には目の前から消えていた。
女戦士は呆然として屍姫と瓜二つの少女が消えた空間を見つめ、それから足元で気絶している全裸の少女を見下ろした。
少女はうにゃうにゃ言いながら目を覚ましかけている。
黒鎧卿は黙って腕組みをしている。
「屍姫様…私、これからどうしましょう…」
ダークエルフの女戦士は真っ暗な天を仰いで嘆息した。
end
●あとがき
読んでいただきましてありがとうございましたー!
【饗宴の夜】【髑髏王の娘】の続編です。
というわけで、ダークエルフの女戦士(名前はまだ無い)と黒鎧卿のコンビに、髑髏王の娘ヴィルヘルミナが合流しました。
モルテ様も何やら思わせぶりな事を言ってましたが実はまだ何も考えてません。どうしよう…
なお黒鎧卿の戦闘スタイルについては
【屍界戦線】の描写を参考にさせていただきました。ありがとうございました!
(髑髏王の戦闘スタイル(幾千幾万の糸と針)も使わせてもらうかも…)
それにしても自分が作ったキャラが他の人の作品に登場するのは嬉しいような恥ずかしいような。こちらでもレシエ様とか出しちゃっていいのかな…
というわけで、相変わらず勢いだけの拙い作品ですがちびっとでも楽しんでいただけたら幸いです!
- 好き勝手人様のキャラを自分色にカスタムしたらそれが気に入っていただけで有頂天!ありがとうございますありがとうございます!ヴェルフェミナちゃんって脱いだらスゴイ子だったんですね(違う キャラをシェアするのがシェアードの醍醐味なのでレシエ登場ばっちこいです!というかむしろお願いします! -- (発起人) 2011-08-19 21:15:23
- 黒鎧&ダエル組と無垢なる凶暴の戦闘シーンから裏返るまでは、ギアを上げていく様にテンポアップしながら頭の中に再生される。 超奥義変身も魅力的だけど、髑髏王はまず顔の皮をですね -- (名無しさん) 2012-03-28 00:10:18
- 国というよりも常に開かれているアトラクションの様なスラヴィア。決まった種族や生活描写がないので国であるという実感が薄いのかなとも思いました。髑髏王は何を目的に娘を作り上げたのだろうと思いました -- (ROM) 2013-02-22 20:35:14
- 戦闘シーンがカッコ良かった。それにしても変形ヴィルヘルミナはエグイな -- (名無しさん) 2013-03-09 21:08:29
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最終更新:2013年03月27日 14:41