数百年の昔、後に
スラヴィアと呼ばれる死者が統治する国家が誕生することとなる大陸の端に浮かぶスラフの地にて、ヒトの軍勢と始まりはわずか数体の屍人の軍勢の戦いがあった。
「チャアアアアアアアアジッ!」
その声が響いた次の瞬間ヒトの軍勢が二つに割れた。
陣形を変更したわけではない一瞬で陣の真ん中に一筋の線が穿たれたのだ。
誰もが何が起きたのか理解できなった。ただ先ほどまで傍らで戦列を作っていた僚兵が身体の一部を残して肉片と化しているのだけはわかった。
一拍の間の後にまるで思い出したかのように爆風が吹き荒れ、ヒトの兵士達の体が木の葉のように舞いあがり引きちぎられ砕かれ拉げ血飛沫となって生き残りの兵士に降り注ぎ紅く染める。
爆風の吹き荒れた後にはヒトの軍勢の中央を縦断するように紅い血肉のラインが形作られ、その中央は轍のように抉れその先の血煙りと土煙りさえ寄せ付けぬ終着へと正確な線を描き出している。
赤と白の線の先端、そこにはつい先程まで軍勢を指揮する将軍の姿があったはずだ。だが今そこにあるのは巨大なランスを手にし全身を重厚な鎧で包んだ
ケンタウロスの騎士の後ろ姿だけ、それ以外は何もない。
再びランスを前面に構えなおし振り返った騎士はただ一言だけ大地が鳴動するかのごとき気迫をもって叫ぶ。
「チャアアアアアアアアアアアジッ!」
ヒトの軍勢が数多の赤いラインを残して地上から永久に消滅するにはそれから僅かな時しかかからなかった。
後にスラヴィア最古の貴族の一人にして「放浪卿」と呼ばれ領地領民を持たぬ貴族として異端視されながら、同時に畏怖されることとなる亡霊騎士エルバロンの突撃を告げる叫びが止むのはいましばらく先のこととなる。
「一ツ」
重厚な鎧に身を包んだ兵士の体が正確無比に左右に断たれ一瞬の間をおいてズルリと左右にズレながら地面に崩れ落ちる。
「二ツ」
槍を構えた二人の兵士が十字に断たれ地面に湿った音を立てて崩れ落ちる。
「三ツ」
三方向から迫る巨獣が三枚に下ろされ息絶える。
「四ツ」
一つ数が増えるごとに命が一つ多く切り刻まれる。
「五ツ」
一つ数が増えるごとに斬撃の拍子が速くなっていく。
「六ツ」
一つ数が増えるごとに次の標的への歩みが速くなっていく。
「七ツ!八ツ!!九ツ!!十ッ!!!」
一つが二つに二つが四つに四つが八つに骸が死が肉片が増える増える増える増える増える増える増える増える増える
「百・・・」
百を数え上げ、静かに刃から柄まで全てが闇色の大剣を鞘へスルリと収めた刹那、周囲を取り囲んでいた百の兵士が爆ぜるように百の肉片と化し地面を紅く染める。
「我ガ前ニ敵ハ無ク、我ガ後ニハ血河ノミ・・・」
漆黒の鎧を返り血で紅く染め上げた彼の者はそう平板な口調で呟くと再び一から数を数え直し始める。
後にスラヴィア最古の貴族の一人に数えられ「黒鎧卿」と呼ばれることとなる彼の闘争の宴はまだまだ終わらない。
「足らぬ足らぬ足らぬ足らぬ足らぬッ!これっぽっちの材料では私の創作意欲は満たされんぞッ!」
しわがれた声で怒鳴りながらその者は幾百と積み上げられたヒトの屍の山の上に立ち杖を振り上げる。まるで楽団指揮者のように一心不乱に豪奢な外套を振り乱して。
彼の動作に呼応するように空中では糸が踊り針が煌めき幾千幾万と踊る踊る踊る
糸が輪をつくり閃けば屍の腕が足がどれほどの鋭き刃物でも不可能と思えるほど鋭利な切り口を晒して切り取られ宙を舞う。
腕や足だけではない、骨が筋が臓物がありとあらゆるヒトを構成するものがまるで血の滴りすら忘れたように鮮やかに分解されていく。
幾百の骸が幾千にも切り刻まれた肉片となり、それはやがてひとつの形へと収束し恐るべき速さで組み立てられていく
「フム・・・手始めとしてはこんなものか・・・材料不足でどうにも納得いかぬが追々手を加えて行けば良いだろう・・・・」
幾百のヒトの屍は一体の異形の怪物へと集約され彼はソレに対して不満をこぼしつつもまんざらでもない表情で見上げる
「お前を今からヴォーダンと名付けよう!この世でもっとも強く優れたモノとなる私の作品よ!」
両手を天へと掲げ彼は高々と宣言する。その口調には一片の疑念も傲慢さもなくただ情熱だけが滾っていた。
「さぁ行くぞ!お前をより優れた作品とするために!」
「グオオォォォッ!」
異形の怪物は主人の言葉に呼応して赤子の産声のごとく雄叫びを上げる。
後に最古の貴族の一人に数えられ「髑髏王」と呼ばれスラヴィア貴族随一の屍体造形家となる彼と彼の作品である異形の怪物は創作の糧を得るため再び戦場を蹂躙する。
「まったくどうして揃いも揃ってこうも品がない戦い方しかできないのかしら・・・」
小柄な人影が死山血河と化した戦場を歩く、歩きながら誰にともなく不満の声を上げる。
「こんなメチャクチャじゃ掘り出し物を見つけるのも一苦労じゃない・・・あ~ぁ、グシャグシャ・・・・ほんっとにデリカシーの欠片もないんだから!」
足元に転がる骸をヒョイと摘み上げたかと思うと顔を顰めてポイと投げ捨て、心底落胆した声を出したかと思えば心底憤慨した声を張り上げ不満を叫ぶ。
「ハァ・・・いつまでも愚痴っていても仕方がないわね・・・あまり気乗りしないけれど一つか二つくらいは何かあるでしょ?何も残っていなければそれまでのガラクタしかここには無かったということだし・・・それはそれでイラッとするわね?」
一度は気分を切り替えたかのように思えた彼女は彼女自身の言葉でムスッとした顔をする。
「どれもこれもイマイチね・・・デザインは悪くないけど見てくればかりに拘って中身がイマイチ・・・あ!コレはなかなかイイんじゃないかしら!?」
その後しばらく辺りに転がる無数の骸達が身に付けた鎧を物色しつつ浮かない顔をしていた彼女は、ある一点に視線を向けた瞬間一転ルビーのように紅い目を輝かせる。
彼女は地面に伏した生前は騎士であったと思われる骸に近づくと、屈みこんでアレコレと状態を確かめ
「フンフン・・・中身はグチャグチャだけど状態は良いみたいね、鎧の強度の問題というより中身が貧弱すぎたのね・・・フフッ前の持ち主には恵まれなかったみたいだけどあなたとってもツイてるわよ?」
そう鎧に語りかけるように言うと彼女はおもむろに兜に軽く口づけする。
その瞬間、カタカタと兜が震えだしその震えは瞬く間に鎧全体に伝播したかと思われた次の瞬間、地面に力なく横たわっていた鎧が自らの手で起き上がろうと動き始める。
装着者はすでに絶命しているのは誰の目にも明らか、しかし各所から大量の血を滴らせながら鎧は血だまりから起き上がり、ぎこちないながらもまるで主君に忠誠を誓うかのごとく片膝をつき半ばで折れた剣の柄を彼女に向けて差し出し頭を垂れる。
「ウンウン、愛い奴愛い奴、目覚めて早々に私を主人だと理解できるなんてなかなか可愛いじゃない」
彼女は満足そうに顔を綻ばせ目を細める。そこに先程までの不平不満を叫ぶ彼女の姿はない。
「あなたは今日から私の僕、私の所有物、その身が粉々に砕け散るまで私のために剣となり盾となって戦いなさい」
差し出された剣の柄に手を置き彼女はそう告げ、鎧もそれに沈黙をもって応える。
「さて、こんなものかしら・・・さぁ行くわよ!私の下僕たち!モタモタしてたら物の価値ってものがわからないバカ達に何もかも台無しにされちゃうわ!全ての美しき武具達はすべからく私の僕になる予定なのよ!」
彼女の言葉を合図に彼女の背後から次々と無数の人影が立ち上がる。
そのどれもが今や血を滴らせる肉塊となったかつての所有者を包み込んだまま新たな主人の意志によって動く甲冑達の軍勢
「そして最後に姫姉様の寵愛を一身に受けるのはこの私だけで十分!それ以外の連中は蹴散らしてやるわ!」
そう言って不敵な笑みを浮かべた彼女は、ビシリと指揮剣を前方へと突き出し全軍に告げる。
「全軍殲滅戦用意!勝利は常に我にアリ!」
後に最古の貴族の一人に数えられ「傀儡侯女」と呼ばれることとなる吸血鬼の少女と、それに率いられた彷徨える鎧の軍勢は、往時よりも整然と勇壮に厳かささえ漂わせながら隊列を組み進軍を開始する。
それは戦争と呼ぶにはあまりにも異様な戦いだった。
「中央!エルバロン卿と黒鎧卿の御二人が突破!敵将を討ち取ったとのこと!」
「左翼!ヴェルルギュリウス伯とレシエ様の軍勢が敵城に突入!まもなく陥落すると思われます!」
「右翼!ルゥ様、ガルヴァンディア様の空中騎兵軍団奇襲に成功とのこと、損害軽微!」
一挙にスラフの地の国家全てを相手取っての電激戦、そんな非常識極まりない戦いは今まさに終局を迎えつつあった。
彼らの創造主であり絶対的な崇拝の対象である「屍姫」サミュラの「民には一切手出しせず武装し刃を向ける者だけを敵と見なせ」との命令を忠実に守りながらも、屍者の軍勢はすさまじい勢いで攻め上がり太陽が沈みまた夜が明けるまでの間に次々と砦や城が陥落しヒトの国家が滅ぼされていく。
敵を倒せば倒すだけ屍者の軍勢は強大となり夜の到来と共に次の敵へと襲いかかる。
最初はたった数体の屍者の集まりだったものが今では数万もの軍勢となりスラフ全土でヒトの国家を滅ぼして征く。
彼らの望みはただ一つ、彼らの主君の願いを叶えること。
「王国を!永遠の王国を!姫が望む永遠の王国をこの地に!」
屍人の軍勢すべてがまるで熱病に浮かされたように異口同音に繰り返し繰り返しそう叫ぶ。
彼らの主君である屍姫サミュラが死神
モルテに願った「全ての民が幸福の中で暮らせる永遠の国を」と言う願いの実現こそが今の彼らの存在意義の全て
永遠に続く幸福の国を作るという理想のためにいくつものヒトの国家が滅ぼされていくという、その歪み狂った現実をこの場に居る誰もおかしいとは思わない、創造主がサミュラがそれを望むのであればそれがそれこそが彼らにとって考える余地すらないほど正しいことなのだ。
彼らは狂った人形、死神に魅入られ狂った劇を繰り広げる有象無象の群像
【登場人物紹介】という名の作者の妄想ノート
過去スレ(初出:20110723スレ1本目) から拝借
自分の体とほぼ同じくらいのバカデカい突撃槍を前面に構えて敵軍に突撃する「人間砲弾」ならぬ「ケンタウロス砲弾」というイメージ
イメージの元ネタは和月伸宏のGUN BLAZE WESTに登場するアーマーバロンとかトライガンのホッパード・ザ・ガントレットとか
屍姫サミュラに最初に創造された数体の「最古の貴族」の一人
口数少なく数人の従者以外の僕しか傍に置かず領地を持たぬ有力貴族
よそ様のSS
【饗宴の夜】から勝手に拝借した挙句勝手に好き勝手やってしまった!
鎧と剣は同一の素材?黒曜石みたいに真っ黒で光沢がありすごく硬いイメージで
独自の戦闘哲学とリズムを持ち一から百までを数えながら戦うという絵が浮かんだのでそのままGO!
初動はノロノロと緩慢な動きのように見えて敵を正確に切り倒し数が増えていくに従って一度に相手にする敵の数一体あたりの斬撃の数そして動作テンポが増していくみたいな
屍姫サミュラに最初に創造された数体の「最古の貴族」の一人
黒鎧卿と同じく【饗宴の夜】
【髑髏王の娘】から勝手に拝借して(ry
幾千幾万の糸と針を自在に操り屍から新たな異形を創造する研究者・職人気質な人?
生前は
ノームか
ドワーフ?小柄な姿をイメージ
基本は創造した怪物に実践経験を積ませるために戦わせる戦闘スタイルだけど本人も糸と針を自在に操りけっこうエグい戦い方ができるんじゃないかなと思ったり
屍姫サミュラに最初に創造された数体の「最古の貴族」の一人
作者のオリジナルキャラ
武具燃えで萌えなリビングメイル軍団の長
ヴィジュアルイメージはクィーンズブレイドのロリドワーフ
たぶん生前は
クルスベルグのロリドワーフだったんだと思います。
デザイン性だけでなく機能性や職人の細かな拘りに美を感じ燃えて萌える少女の姿をした吸血鬼
彼女の配下は全てリビングメイルで構成され優れた武功を挙げた者には労いの意味と個人的な欲求を満たすために自ら油を差し磨くことも
基本的に優れた武器とか防具とか見てハァハァしちゃう武具フェチ
武器や防具の素晴らしさについて語り始めると何昼夜でも話し続けることができる
「サミュラ様+鎧=最強!」を揺るぎなき持論とし隙あらば自身の鎧コレクションを着ていただけないかと考えているサミュラ大好きっ子でもある
彼女の領地では良質な油が採れる菜種や紅花が多く作付けされている
屍姫サミュラに最初に創造された数体の「最古の貴族」の一人
作者のオリジナルキャラ
翼の生えた
アンデッドと何かしらの方法で空を飛ぶアンデッドの二体
飛行系アンデッドの軍勢を統率してたり
ぶっちゃけそこまでしか思いつかなかったので名前だけ出しましたorz
いろいろ右翼曲折辿った挙句、同時進行で書いてたいくつかの話のネタをぶち込んでみた闇鍋的なスラヴィア建国前日譚的な話です。
ヒラコー的な雰囲気も取り入れて書きたかったのにやはり文章力の無さから残念な結果に・・・
かなり好き勝手やってしまってます。しかもよそ様のキャラまで好き勝手にしてますゴメンナサイorz
- ありったけの厨二病をかき集め~♪な勢いですよね我ながら厨二臭すぎて胸焼けしそう、だがそれがイイ!ベッタベタの厨設定ですが気に入っていただけたのなら幸いです。 -- (発起人) 2011-08-20 13:15:28
- 独自選定項目に反映しましたー。ところで複数の作品に登場するキャラが出てきたので「初出」ではなく「登場作品」にしてみましたがどうでしょう。 -- (【饗宴の夜】の書きあき) 2011-08-20 16:52:02
- 大人気キャラのレシエ・バーバルディア侯爵初登場SS。「最古の貴族」や「スラフ島戦役」など重要設定の初出でもあります。ぶっちゃけこういう作品は燃えます。 -- (名無しさん) 2012-03-26 23:39:20
- 例えるならSLGやRPGの最初の語りで強キャラ無双するような雰囲気。 最古連の紹介だけどどれも持ち味が違ってて面白い。 ここから各キャラ達がどの様な経緯でゲート解放時の性格に落ち着いたのかを想像するのも楽しい。 個人的に気になったのは壊滅させられることになる旧支配権力者にも意味や人生を持たせてみたい -- (名無しさん) 2012-03-28 00:02:56
- 情熱は認める。繰り返し読む気にはならないけど -- (名無しさん) 2012-03-28 03:32:12
- スラフの皆さんマジ災難やったね… -- (名無しさん) 2012-05-13 06:15:17
- モルテがその気になれば一夜で住民全員消えてそうで… -- (名無しさん) 2012-06-02 21:22:37
- 今になって思い直しましたがSSの投稿順番と時系列などは特に関係ないんですよね。国作りとはいえ圧倒的な力の前に蹴散らされたその他大勢に少しばかり同情しました -- (ROM) 2013-02-22 20:20:03
- ケレン味と勢いで押し切った感がある。だがそれがいい -- (名無しさん) 2013-03-09 20:56:52
- 我侭で国を作ります乗っ取りますのでみなさん倒されて領民になってくださいごめんなさいとかそんな感じ? -- (名無しさん) 2014-06-24 22:32:50
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最終更新:2011年10月17日 12:34