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【幽き姫君の安寧】




不利な状況での睨み合いを終わらせたのは一発の銃声だった。
ズガン!と凄まじい音がして災厄の騎士の頭部に付いていた片方の帯電するボルトのような突起物が吹き飛ばされる。

「あっはっはっはっはー!HIIIIIIIIIIIIIIIIIIT!!!」
林の木の上から臨悟が銃でデュラの頭部を射撃したのだ。
そして
鋭い音が聞こえ、加護の切れた公国の騎士たちを蹴散らしはじめた屍徒の軍勢に幾つもの太矢が突き刺さり、城の方から新たな騎士たちが突撃をかけてきた。
「ルイゼット、遅れてすまんかったなやぁ!」「マドレーヌ!無事だったのか!!」
ボロボロになったマドレーヌが城から新たな騎士たちを連れてきたのだ!

新たな騎士たちが屍徒にぶつかるのを見て、ガンマンが銃を構えボルトの吹き飛ばされたこめかみを押さえて獣のような唸り声を上げる災厄の姫騎士に連続で銃弾を浴びせかける。
幾つもの銃弾が頭部に当たり、残った方のボルトも吹き飛ばされる。
その瞬間、まるで断末魔のような悲鳴が上がった。

「ルイゼットさん、畳み掛けますよ!」
「お、おおおおおおおおおおお!!!!」
ルイゼットは剣を両手で持ちデュラ姫に向かって突進し、勢いのままに斬りつける!

悲鳴を上げながらデュラはとっさに盾で防御してきたが、ケンタウロス騎士の勢いと両手の力が加わったルイゼットの剣はガン!と凄まじい音を立てて盾を斬り落とす。
これで終わりと、そのまま返す刀で右手の剣を叩き落とそうと狙うが、即座に両手持ちに変えた姫の剣で止められバインドされてしまい、逆にデュラ姫がバインドした状態から刀身をひるがえらせ強烈無比な星剣で無防備なルイゼットに突きかかる。

「甘い!」
ルイゼットの肩越しに銃を突き出して胴に三連発。
屍徒の不死性から致命傷には至らないが衝撃でたたらを踏み、その内にガンマンが残りの弾を頭部に叩き込んだ。
が、ころりとデュラ姫の首が離れ、撃ち込まれた弾を全て回避する。
そしてすぐに体勢を立てなおして斬りかかろうとするデュラ姫に、ルイゼットは軽い斬撃を浴びせかけながらなんとか離脱した。

「…銃士殿、気のせいかも知れないが、なんだかさっきより戦いづらい気がする」
「確かに…反応がさっきより早くて正確ですね」
離脱した二人は揃って姫君の方を見つめる。

ソレがイストモス全土に響き渡りそうな低く轟く雄叫びを上げた。
そして高らかな声で宣言する。

 我、この地に棲まう者どもに、遍く等しく災厄を齎さん。
 我、この地に棲まう者どもの天敵と成らん。
 我は“復讐者”。
 我こそは“災厄の騎士”。

「…あまり良くない状況なのではないかな?」
アスボルスが一層禍々しい気配を噴出し始めた災厄の騎士を見つめながら呟く。
「クケケケケケ…馬鹿共が!!!せっかく私が封じ込めたあの危険極まりない駄馬の業を解き放ちやがりましたねぇ!?しかもこんな近くで!!
捕らえるのに使った脳筋の戦車騎士がいないが仕方ない。騎士団、あの駄馬をすぐに捕らえなさい!!!」
復讐の念に囚われた姫君は辺り一面に恐ろしいほどの禍々しい殺気を放ち始め、その威圧感から周りの者がジリジリと押し下がる。
「災厄の騎士…だと?なんなのだそれは…姫様は一体スラヴィアで『何』に変えられてしまったのだ…」
宣言と違い屍徒でない自分たちにも向けられたそのあたり構わず撒き散らされた殺気と恐ろしいまでの憎悪に満ちた宣言にルイゼットたちは困惑する。

「な、なんだぁ!?」
その中で屍徒の騎士団が、戦っていた公国の騎士たちにいきなり背を向けて自身の主であるはずの災厄の騎士に刃を向けて向かって行ったのだ。
彼等は戦闘で数は減ったとは言えど200騎近く、しかも全員が姫と同じく屍徒であり、それらが取り囲むようにして姫騎士に突撃を掛ける。
誰の目にも勝敗は明らかだろうと思った。
しかし…

突然、何を思ったのか災厄の騎士は、その柔軟なケンタウロスの体を使い、両手に持った星剣で自分の周囲すべてを円を書くように横一文字に斬ったのだ。
すると驚くべきことが起こった。

天上の星から幾つもの光の柱が地上へ降り注ぎ、スラヴィアンの騎士達がその光の柱に捕らえられたのだ。
そして身動きできない騎士たちを見ながら、災厄の姫騎士は両手で掲げ持った剣を天上から打ち下ろす!

ごろり……
星の光柱に捕らえられて身動きできなくなった全てのスラヴィア騎士たちの首が転がり落ち、その身が星神の刃の一撃に耐え切れずに崩れ落ち土に還る。
その首が落ちる姿はあたかも、断頭台に乗せられた罪人たちの首が落ちるが如くに見えた。

「……た、退避ーーーー!!」
公国の騎士たちが強力すぎる星剣の力を目の当たりにして離れた場所まで撤退する。
「これが…星剣の力なのか?こんなモノ、どうしろというのだ…」
ルイゼットはあまりの光景に愕然とする。
一本の剣を二振りするだけで200近い騎兵(しかも屍徒の)が首を落とされたのだ。当たり前の話である。
しかし、猛る姫君は彼女を待ってはくれない。
ルイゼットの方を見据えるとすっとその手に持つ剣を彼女の方へ向けようと…

ズダダダダ!
臨悟の銃声が轟く。
デュラ姫は音がなる前に振り向き、振り上げた剣で飛来する.60の大口径ライフル弾を難なく叩き斬る。
「あっはっは!ルイゼットちゃん殺されると俺、困っちゃうんだよ!」
早回しみたいにそのソリッドフレームの拳銃をリロードしながら彼はそう言った。
デュラ姫は今度は彼に向かって剣の切っ先を向ける。

「おっと!アイキャーンフラーーイ!」
「ちょっ臨悟さ!同じネタは…」
ツッコミを入れる間も無く光の柱に捕らえられる臨悟。
「おお!すげえ!俺マジで飛んでるよ!」
空中で固定されてるのにはしゃぎ気味な様子に周りの三人はげんなりする。

「あ~~てか、へールプ・ミー!ルイゼットちゃ~ん!せんぱーい!」
「「そのまま死になさい」」「ちょっ!?そりゃ無いって」
周りの馬鹿なやり取りに何ら動じず、臨悟の首を落とすべく再び剣を振り上げるデュラ。

が、剣が振り下ろされる瞬間にガンマンの銃弾が叩きこまれ、ルイゼットの強烈な突撃を受ける。
デュラは飛来する弾丸を斬り飛ばし、返す刀でルイゼットの斬撃を弾きそのまま袈裟懸けに斬り倒そうとしてガンマンの銃弾に阻まれる。
一瞬の攻防の後にすれ違う両者…

「やっぱりあの攻撃は、他の行動をしてると使えないみたいですね」
手早く弾を詰め替えてデュラの方へ銃口を向けながらガンマンがそういう。
災厄の騎士は正面にいるルイゼットとガンマン、背後にいる拘束が解け近くの木によじ登った臨悟と大型の弩を構えるマドレーヌを警戒して動けずにいる。
ジリジリとした空気があたりに広がる。

「私の突撃力ではやっぱりダメか…何かいい案はあるかい?銃士殿…」
「…正直に言って手詰まりですね。他の屍徒はみな土に還っているようですし、このまま日の出(時間切れ)を待ちますか?」
ガンマンがルイゼットに軽くそう言う。
「……」
「ルイゼットさん?」
押し黙るルイゼットにガンマンが聞き返す。
「私は…」「?」

「私は、無力だ……私は生まれてこの方この国を守ることを教えられてきた。
騎士になったのは自分の意志からでは無かったが、騎士として恥じないだけ行動ができるように努力はしてきたんだ。
なのに…私は姫を留めるのに精一杯で、この国の悲願である姫の帰還を実現させることもできずにいる。あの方はすぐそこにおられるというのに…
…それに、そもそも私は貴方がいなければここまで来れなかっただろう」
ルイゼットは耐え難い思いに耐えながらそう言葉を絞り出した。
異世界人のガンマンは乗っている彼女の背中から彼女をじっと見つめて…

「姫を救いたいですか?」
そう簡潔に聞いた。
「当たり前だ!!それはこの国の…いや、私の悲願でもあるんだ!」
「では……」

「貴方はその悲願のために何を代償として捧げますか?」

そのガンマンの問いは優しくまるで救いの声のようにルイゼット心に染みた。
「…もしも叶うのならば私は、私は…」
ルイゼットはガンマンに告げる。自身の代償を…

「私自身を捧げる」
それに合わせて引き金と撃鉄の落ちる音が鳴り響いた。
「ポーンがクィーンにか…クルスベルグの時に潰しておければなぁ…」
盤上を指でコツコツと叩きながらそう愚痴る。
「今言っても後の祭りですな」
「それは君等だって結局は同じ事だろ…まさかアイツの願いがああだったのに自分らだけは上手くいくとでも思っているのかい?」
ニヤリと笑いながら言うそれに対して苦笑とも取れるさざめくような笑い声がして答えが返された。
「…弱い者がなにか求めるには代償が付き物なのですよ」
永遠に続くようなにらみ合いは一瞬で崩れた。
どういう経緯か味方のガンマンに『撃たれた』ルイゼットが光の如き速度でデュラに突撃をしてきたからだ。
「!?」
デュラはとっさに剣でそれをなんとか流しつつ横に逃れたが、受け流した手が衝撃で震えている。
煙を上げる蹄で回頭してデュラの方を見つめるルイゼットの目には、何か吹っ切れたような強い意志が込められていた。

『そうだ、中道を見よ。高き空ばかり見上げれば足元がおろそかになる…
お前が4つの足で踏みしめる大いなる地に天と斉しく敬意と信仰を捧げろ。さすれば大地はお前の蹴り足を助けてくれる…元々、我らケンタウロスには二柱の神の加護があるのだ…
我らを導く上天のテミラン、そして我らの足を支える下土の…』
一度聞こえてルイゼットを救ったその声が今度ははっきりと聞こえる。
その声が誰であるかルイゼットには分かった。
そう、家族を何よりも大切にしていたと伝えられているあの方が、たとえ異国の地で討たれたとしても自分の妹姫の境遇を救おうと思わないはずがないのだ…

ルイゼットを危険に感じたデュラが剣を彼女の方へと向けた。
星剣の力によって星の光がルイゼットを拘束せんと天から襲いかかる。
「させんよ!」
マドレーヌの弩から強力な数本の太矢がデュラに向かって放たれ、デュラはその矢の迎撃に剣を向けなければならなくなった。

拘束の解かれたルイゼットにまた声が聞こえる。
『進め我が騎士、足を止めれば奈落堕ちぞ…
お前の障害はお前の戦友が取り除いてくれる。お前の戦友と何よりお前自身を信じて前へ突き進め…そして…私の妹を救ってくれ』
「御心のままに!」

ルイゼットは剣を片手で前に突き出して突撃の構えを取ると、まるで東イストモス人達の如く大地を思い、その思いを乗せた蹄で強く強く踏みしめた。すると大地がその足を強く強く抱きしめ、そして強く強く強く蹄を前に撃ちだしてくれるのだ。
その大地の加護を受けた四足によって、彼女は蹄を烟らせながら音よりも早くデュラに突撃をかける。

「ぅおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
鬨の声を上げて高速で突撃するルイゼットに対して、デュラは剣を下方に向け静かにタイミングを待つ。
そして、その異様な速さで剣を突き出したまま一気に突きこまんとするルイゼットの切っ先が間合いに入った瞬間、その剣を払い斬りすべく正義の柱を高速でひるがえした!

星の剣は狙い違わずルイゼットの剣の刀身に吸い込まれ、彼女の剣は弾かれて返す刀で彼女は斬り捨てられるかに思われた…が

「!?」
デュラの剣が当たる瞬間、ルイゼットは神速で手首を返し肘を曲げ、刀身を後ろへ倒してデュラの星の剣を躱したのだ。
そう、彼女の狙いは突撃の勢いを乗せた突きでは無かった。
剣を戻す間も避ける間もなくデュラの眼前にそれが叩き込まれる!
ガン!!!
ルイゼット突撃の勢いを乗せた柄頭が兜をひしゃげる凄まじい音。
殺撃、地球でも剣士たちが奥の手として使っていた硬い柄頭を使った強烈な打撃。
それをデュラはモロに食らってしまったのだ。

「!?…!!!」
なんとか襲い来るダメージを逃がそうとデュラの首が浮き後ろに流れる…
しかし
「チェェストオオオオオオオオオオ!!!!」
殺撃を放った後、剣を両手持ちに変え頭の上で振り遠心力をつけた斬撃が、威力を殺すために後ろへ流れたデュラの首の後頭部を挟撃したのだ。
『デュラ…お前はいつもツメが甘い…』
デュラの脳裏に懐かしい人影が見え、意識を刈られそうになる中で何者かに首を掴まれる。

「G'morning Princess Dulla!…このモーニングコールは彼女からのサービスです!!」
そしてダン!…と乾いた音がして、辺りが激しい閃光に包まれた。
「ぐがががっっがっががが!!!!?なんという!なんという!!私の!私の完璧な計画がめちゃくちゃじゃないですかぁ!!!」
丘の上では事の顛末を見ていたヴィクトリアが頭をかきむしって怒りを撒き散らす。

「護衛役として進言させてもらうが博士殿、ここらが引き際ではないかと思うのだがな?」
その狂態を見ながらアスボルスが涼しい顔でそう提案する。
「私はモルテ様に全権を委任されているんですよ?敗退は許されません!!かくなる上は…」
そう言ったヴィクトリアが手を挙げると地面が裂けて中から頭部に電極をつけ、体のそこら中をワイヤーで繋いだ巨大な屍徒が現れる。

「これは、まさか赤眼のヴォーダン殿?饗宴で討たれて消滅したはずでは」
「ウケケケケケ…私が復活させたヴォーダンMk.2、こいつの力を使えば、あんな使えない駄馬を負かしたくらいでいい気になっている奴らなんてぇ…」
ヴィクトリアの目は怒りでぎらついている。
「さあ、私の戦士!私に恥をかかせた奴らを皆殺しにしなさい!!」
そう言って丘の下を指さす。


いきなりヴォーダンの2つの電極と核が砕かれそのまま崩れ落ちる。
「……な!?」
あまりの出来事にヴィクトリアがゴーグルを被った顔をあちらこちらに向けて、そして向かいの丘の木の下にいたソレを見つけてしまった。

一瞬でヴィクトリアの視界が遮られる!
ヴィクトリアはそれがアスボルスの盾であると気づく前に盾を貫いて飛び込んできた弾丸にゴーグルごと目を潰された。

「ああああああああぁあぁああああ!!!!グゥアァァゥグ!!!あああああああ」
アスボルスは左目を押さえてのたうつヴィクトリアを引っ掴むと、退化して飛べない翼を広げて博士の体を隠しつつ撤退しだした。
「いやはや…地球人とは恐ろしいものであるな」
後ろから飛んでくる銃弾を華麗にかわしつつそう呟く。

アレが一体何かは分からなかったが多分地球人なのだろう。そして、ここからあの丘まで数百メトル…アレはその距離から拳銃で正確に狙撃をしてきたのだ。
前に戦ったあの無茶苦茶な地球人といい勝負である。
「願わくば彼らとは二度と出会わないことを……勝率的にも」
そう呟くアスボルスの腕の中でヴィクトリアが痛みと怒りで喚き散らす。
「見たぞ!あの死にぞこないのゴミめ!!っ笑うなぁ!!ゴミのくせに私をぉ!!!見たんだ!!私は、絶対に殺してやる!!私の目をよくもぉー!!!」
モルテの使徒は、そうやって憎悪に満ちた怒声を辺りに響かせながら騎士アスボルスに連れられてその場から離れていく…
丘の上で、木にもたれかかって銃を撃っていた者が木を支えにしてよろよろと立ち上がる。
「…敵ながらお見事と言っておきましょう」
突然、闇の中から溶け出したように現れたカラスが包帯だらけで左腕の無いソレに話しかける。その声には嫌悪の声が多分に含まれていた。
「Ms.シャーリー、わが主から貴方へのお褒めの言葉を賜っています…ただ一言、『Tu fui, ego eris. 』と」
その言葉を聞いて包帯だらけの口元を歪めて笑い何事かを返した。
「…分かりましたそう伝えておきましょう」
不機嫌な声色でそう返したカラスはまた闇に溶けるように消えていく。
残ったソレはどこから取り出したのか長いライフルを杖代わりにして、よろよろとどこかへ去っていき後には、ただただ硝煙の匂いだけが残るのみであった。



シリーズ【ガンマン志願】作品


蛇足:勝手にキャラを使わせて頂いている作者様たちへ感謝と謝罪を。【饗宴の夜】の作者様、ヴォーダンさんの扱い悪くてすみません。

  • スラヴィアンを倒すために必要なのは強大な武力もなんでしょうがスラヴィアン本人に敗北を納得させる結果なんでしょうか。モルテの手の者が関わっている以上まともに終わりそうもない不穏な影を落とします -- (名無しさん) 2015-10-11 17:14:30
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最終更新:2013年01月07日 20:15