夢の中で声を聞いた。
「デュラ…久しぶりだな。私の声は聞こえるか?」
懐かしい声、もう二度と聞けるはずが無いと思っていたのに…
「また泣いているのか?泣き虫め…可愛いデュラ、もうお前は何ものにも囚われていない。これからは復讐なんて優しいお前に似合わないことは考えず、お前の生きたいように生きろ…デュラ、私はお前を愛している。今までもこれからもずっとだ…幸せにおなりデュラ、お前だけでも」
声が小さくか細くなっていく、たまらずデュラが叫ぶ。
「ゼラ姉さま !待って、待って!私は!私は…ミラを……」
必死に手を伸ばして目を見開くと自分を覗きこむ顔が4つと必死に手を伸ばす自分の体が見えた。
「ここは…?あなた達は誰?私は一体…」
その質問を聞いて四人は互いに顔を見合わせ安堵の表情を浮かべる。
「??」
四人のうちの一人が恭しく彼女の首を持ち元あった所に載せて跪く。
「殿下、ここは貴方様の所領であるファンタズマール公国です。そして、私ルイゼットとこのマドレーヌは殿下の忠実な臣下、そしてそちらのお二方は我らと共に殿下の窮状を助けた地球という世界から来た商人と旅人であります」
ルイゼットが4つの膝を地に付けて臣下の礼を取りながら彼女にそう答え、マドレーヌが慌てて膝をつけて「ですだ!」という。
地球人二人も戦いでよれた帽子をとって胸に当てて礼をする。
「殿下、今は貴方様がスラフに出征された後から数百年以上の時が流れております。
私が聞き及んでいます所によると貴方様はスラフに出征され、そこで他のゼラ殿下、ミラ殿下と一緒に…」
ルイゼット目を伏せる。
それを見てデュラが言葉を返す。
「…私たちは屍徒たちに敗れ、私は屍徒となった…私が屍徒になった時のことはなんとなく覚えています」
「ご心中お察しします…しかし、しかし殿下は我らが国へ『無事』帰還されました!」
「……私は屍徒です。死の色に塗られた私は太陽の下で歩くこともできない身と成り果てました。それの一体どこが無事なのでしょう?」
その言葉を聞いて四人がにこりと笑う。
それを不思議そうな顔で見るデュラ。
「殿下、もしよろしければ後ろを御覧ください…貴方様の望むものがそこに見えるはずです」
周りを見てはっとしたデュラは急いで背後を振り返る。
そこには…
屍徒たちが望んでやまない真珠色に輝く朝日が山の影から出てきたところであった。
「私は…生き返ったのですか?」
「いいえ、それはできませんでした。確かに貴方は死んで屍徒になったままです。
僕はただ…貴方の屍徒としての制限を取り払っただけ、つまり貴方は
モルテのくびきから外れた屍徒になったというわけです。」
デュラの質問にガンマンがそう返す。
「……ありがとうと言うべきなんでしょうね。しかし、これで私はこの醜態を晒したまま死ぬこともできなくなってしまった」
「殿下!」
デュラの言葉にルイゼットが声を荒げる。
「なんという事を言われるのですか!!公国の民は貴方様の何百年も待っていたのですよ!?」
「無責任な発言をしているのは承知の上です。でも私は、操られていたとは言えスラフで妹を…ミラをこの手にかけた私はここに帰って来るべき者では無いのです…ましてや王族として民を率いるなど…」
全員が押し黙る。
「この上は
クルスベルグの鍛冶神の炉に身を投げてこの汚れた魂を昇華し…」
バチン!とデュラの頬を打つ凄まじい音が聞こえた。
皆がぽかんとする中でデュラの頬を打ったマドレーヌがふるふると震えて口を開いた。
「バカタレ!そっだら事をルイゼット前で言うでねえ!!
ルイゼットは、ルイゼットの一族はなぁ!おめえさらが行っちまってからずっとこの国を守ろうと必死にやっとった上におめえさを止めるために一生懸命がんばっとったんだぞ!
そったら子の前で捨て鉢な事言いなさんな!!」
いつも間の抜けた感じでぽややんとしているマドレーヌが、凄まじい剣幕で彼女の君主であるはずのデュラを叱りつける姿に皆、何もいうことができなかった。
「…では、では、どうすればいい!!私が屍徒で咎人なのは変わらない事実だ!こんな身で一体どの面を下げて生きて行けというのだ!!!」
堰を切ったように感情を吐露するデュラ、その悲壮な声に対して答える者がいた。
「あっはっはっはっは!何だ簡単じゃないっすか!お姫様は自分の今の状態が気に食わない。じゃあ、その状態にした奴をぶっ飛ばして元に戻してもらえばいいだけじゃ無いっすか!悩むことなんか何にも無いっしょ?」
いつも通り、空気の読めない臨悟がゲラゲラ笑いながらそんなことをのたまい、周りの三人の頬が引きつる。
デュラ姫はというとうつむいて何かに耐えるような姿勢をとっている。
「……くっ」
「あ、あの…殿下?」
ルイゼットがデュラの周りでオロオロとする。
「く……くっくっく…あっはっはっはっは!た、確かにそうだ!!し、しかし…そこまですっぱり言われたのは昔ゼラ姉さまにミラと一緒に将来の事を相談して以来だ!あっはっはっは…」
デュラが初めて楽しそうに子供のような無邪気な笑い声を上げた。
『将来のこと?…私は単に好きな道を選んできただけだ。
私たちは大人になるに連れて制限が増える、後でああしておけば良かったと後悔するのが私は嫌だったからな…デュラ、ミラ、お前たちも迷うくらいなら今のうちに自分の好きな道を選んで突き歩めばいい』
すっぱりと言い切った姉の顔と自分と同じくぽかーんとしたミラの顔を思い出して懐かしさと可笑しさで涙をにじませながら笑う。
ガンマンが頭をかきながら呟く。
「まあ、それもアリといえばアリ……かな?」
「臨悟さはものすごく前向きだぁね」
「え、え?そ、それでいいのか!?というかそれじゃあ…」
ルイゼットが慌てる。臨悟の言葉通りにするというならば…
「すまない…シュバリエール・ルイゼット、私は私自身のために今すぐにでももう一度あの地に行かなければいけないようだ。復讐ではなく自分の因縁に決着を付けるため…何よりあのスカした死神野郎の顔に一撃を見舞ってやりたいという欲求のために!」
「そ、そんな!それでは姫の帰りを待ち望んだ民たちは!?」
「本当にすまない……民たちには苦労をかけるが、これをしておかないと私がこの祖国の王族として帰るのに相応しくないと感じるのだ。それに…ミラはこの地に帰って来たのかい?」
デュラがその問いをかけるとルイゼットは、苦しそうに口を閉じて首を振った。
「…末姫様は未だあの屍徒たちの国からお帰りになっていません」
その答えを聞いて得心がいったという風に彼女は頷き
「やはりそうか…では、一つ彼の地に行く理由が増えたな」
デュラの固い意志のこもった言葉を聞き、ルイゼットは肩を落として言う
「…それでは数百年以上王族のいない地を支えた我らは一体どうすれば…」
「無責任な話になるかもしれないが…この国を好いてくれている君たちが好きにやればいい。数百年君たちはやってこれたのだ。逆に半端者の私が今帰っても、厄介者以外の何者でもないだろうから…
もし、王族という権威が必要だと言うのなら…これを王族がまだ生きているという証としてくれ」
そう言って腰の星剣をルイゼットに放り投げる。
「こんな大それた物を…しかも、これは貴方に必要なものではありませんか!!」
「今の私には不釣り合いだし、進まなければ行けない私に止まらなければ使えないソレは使いにくい」
さらりとそう言うデュラにルイゼットは頭が痛いというふうにため息を付いて
「姫様がこういう方だとは思いませんでした…私は王族に幻想を抱きすぎていたようです。」
「幻想を壊してしまったようですまないな」
クスクスと笑いながらデュラが答える。
頭を押さえてルイゼットは困った事を言う姫に言う
「はぁ…腰のものが無いのに戦場に何をしに行くつもりですか姫様は?……この剣をお持ちください。丸腰よりいくらかマシでしょう。それと…」
ルイゼットは自身の剣を姫に押し付けるとマドレーヌの腰につけた袋を勝手にあさる。
「あ、ちょ!?ダメだッペ!」
ルイゼットがあさると色々出てくるわ出てくるわ糧食だけでなくてお菓子や何やらが…しまいに漁るのを面倒がったルイゼットは袋ごとデュラに放り投げる。
「ああ…かっちゃの新作のお菓子も入ってたのに…」
「大概の物はそこに入っています。それにマドレーヌの母の手作り菓子なら味は確かです。後は…」
ルイゼットがガンマンの方を見る。
「ええ、路銀ですね。丁度、どこでも使えて貨幣価値も高めの
ラ・ムール金貨100枚がここに…あとは為替手形をお付けしますので、ラ・ムールかドニーの公商人がいるところで割り引いて現金などに替えてもらって下さい」
まるで最初から準備していたかのようにさっと巾着と為替手形を渡す。
「…銃士殿、利息は負けてくれよ?」「精一杯勉強させていただきしますよ?」
不穏当な笑みを浮かべるガンマン。
「あっはっは!じゃあ俺もこの俺の体温でほかほかに温まった服を…」
と言いながら服を脱ごうとした臨悟の股間をガンマンが蹴りあげた。
悶絶する臨悟から、銃と弾丸の残りを奪い取るとデュラに渡す。
「騎士に合うのかわかりませんが、貴方ならこれを走りながら撃てるでしょうしもし使わなくても路銀の足しにして下さい」
「な、何から何まですまない…」
面食らったデュラが皆に礼を言う。
そのデュラにルイゼットは
「姫様、お貸ししたその剣は私の一族伝来のものです。気がすんだら必ずこの国へ戻ってきて私か、そうではなければ私の一族の者に必ず返しに来て下さい…」
「…約束しよう。必ずミラを連れてこの国へ帰ってくると!」
そう言うとデュラは朝日へ向けて駈け出した。妹を助けるため、そして自身の長き因縁に決着を付けるために…
「では、僕もそろそろお暇しますね」
デュラ姫を見送り終わったガンマンが皆にそう言う。
「…もう、行くのか?」
「ええ、ここでやることは終わりましたし、実は東も回ってこないといけないんですよ」
名残惜しそうなルイゼットにガンマンがそう返す。
「私は…貴方にずっとここにいて欲しいと思っている」
思いつめた感じでルイゼットがガンマンにそう伝える。
「え?」
「そ、それで出来れば私のそばにずっと…」
赤くなりながらそう告白するルイゼット…その言葉にガンマンは目を白黒させる。
「あ、あの…何か誤解があるような気がするんですが……僕の性別は貴女と同じですよ?」
「…え!?」「え~!?」「あっはっはぁっ!?」「…え?」
周りの三人が驚くのを見てガンマンことシャーリー・ベルも驚く…どういうことだよ?と…
その後、マドレーヌと臨悟の爆笑の中で気まずい二人が互いに複雑な思いを抱えながら「とりあえず戦友としてまた会いに来る」と言う挨拶を交わしてそそくさと別れる。
「とりあえず、外装の髪を伸ばそう…」
一人、北東へ向かって歩くガンマンはそう呟いた。
「あっはっはっはっは!おっぱい大きくした方がいいんじゃないっすかね!師匠!!」
その独り言に馬鹿笑いしながら答える者がいた…
「…君、なんで付いて来てるんですか?」
「師匠に銃を取られちゃいましたからね!この世界だと丸腰じゃ危ないじゃないですか!」
ゲラゲラ笑いながら臨悟がそう言い、そのまま死ねばいいいのにとガンマンは思う。
「というか師匠って何ですか?」
「あっはっは!500ヤードくらいからその古いリボルバーでヘッドショットとか師匠って呼ぶにふさわしいじゃないですか!やり方教えて下さいよ師匠」
あの遠方の木の上から裸眼でソレを見ていたのか?とガンマンが口元をひきつらせる。
「君にそう呼ばれると怖気がしますのでやめて下さい。あと銃は僕が前に使ってたこれを貸しますので使いなさい」
そう言ってリボルバーを顔に投げつける。
それをひょいっと取ってがっかりした顔をする臨悟。
「ええ~.357?こんなのミジンコが遊びで撃つ銃じゃないっすか」
「君のとこではミジンコが強装弾を撃ってくるんですか?しかも遊びで…」
言ってからそれもこいつがいた所ならありえそうだと嫌なイメージがガンマンの脳裏に浮かんだ。
「とにかく、僕は君の師匠になる気はないので勝手にどっかへ行って野垂れ死んで下さい!」
そう言って駆け出すガンマン。
「あっはっはっはっは!そう言われても諦めませんよ?まてまてー!!あっはっはっはっは」
笑いながらターミネーターのような軽快な走りで追う臨悟…無法者達はどこにいても無法者のようだ。
それはずっと変わらない事なのだろう。
「…はぁ、代償か…」
「げ、元気だすべ?ルイゼット…また出会いなんかたんまりあるべさ!」
暗い顔で肩を落とすルイゼットにマドレーヌが励ます。
「ふぅ…まあ、そうだな。私はここで私のできることをしていこう」
顔を上げて登り切った太陽を見上げる。
これからやることは山とある。まずは、と…安全を確認してこちらへ向かってくる退避していた上司たちに今あったことをちゃんと報告しなければ…
ルイゼットはそれも頭の痛い問題ではあると思ったが、天と地におわす方々がきっと見守り助けてくれると思うと少しは肩の荷が下りる気がして、笑顔が出た。
大いなる神々は私達を見守り助けてくれる…それだけで、十分だ。
ルイゼット・ギョティーヌ、ファンタズマール公国の騎士であった彼女が辿った道は困難が多く、波乱に満ちて決して平坦な道ではなかった。
しかし、彼女はマドレーヌたち親友の助けを借りてなんとかその困難を乗り越えていく事ができた。
苦難と波乱の騎士、そう呼ばれた彼女であったが、その死の淵の顔は非常に安らかであったと伝えられる。
その様子は死後、聖人として列星に加えられた彼女の死の様子が描かれた絵が公国の星教会に掲げられており、そこへ行けば誰でもその姿を見ることができるだろう。
そう、ベッドの上に伏して満足そうな顔で一族伝来の剣を胸元で抱きしめる彼女の姿を…
……約束は、果たされたのだ。
Plaudite, acta est fabula.(これにて、一巻のお仕舞い)
蛇の手足
当作品でキャラクターを使わせていただいた作者様方には厚くお詫びと御礼を申し上げます。読んで下さった方々はお付き合いありがとうございました。
あと、これ以降の話はツラツラと好き勝手に書いただけなので読まなくても別にお話に関係はありません。だってそもそも地球の蛇には元々手足なんてありませんので…
「
スラヴィアからのコンタクトがありました。提案に乗るとのことです」
昼なお暗い執務室に急ぎ入ってきた事務官が彼女にそう報告する。
「здорово!ははは、流石にあの死神様も手駒を失ってついに焦れたか!……あちらの脳足りん共と南の黄色い豚どもの動向は?」
「そちらも予測通りです。ドニー側はこちらの動きをまるで理解していないようですし、南の奴らもこちらへ同調して延国内の反体制派組織だけでなく王冠党や天狼軍、元老院など異世界各国の反体制派組織に資金や武器資材などの提供を始めています」
彼女の問いに事務官が答える。
「くくくく…笑いが止まらんな。ここまで全て我が帝国の思惑通りだ…それで、ここからが重要だ。野蛮なヤンキー共と西の白豚どもは?」
「アメリカの動向は不明です…が、まず間違いなくアクションは間に合わないでしょう。
リアクションとしてEUや日本などと結託して国連で非難声明を出してくるかもしれませんが、EUは自身の経済不況に手一杯でドイツ・イギリスなどの有力国ですら反応は弱いかと…
さしあたっては、向こう側と最大限に利益を共有しているアメリカと日本の動向に注目するべきかと考えます。
ゲート所有国というだけならオーストラリアなどもありますが、大概の政府側は向こう側とは仲のいいものではありませんので心配するほどでは無いでしょう」
「ふふ…痩せこけた負け猿共の島なんて我が帝国には何もできないだろう…邪魔っけな経済寄生虫のヤンキー共が慌てふためく姿が目に浮かぶよ。
馬鹿な前首相やその側近のお陰で遅くなったが、後顧の憂いを断つために優秀な医者を送りつけて早期に始末をつけたかいがあったな…」
その姿をイメージして椅子の背もたれに深く体重を乗せる。
「閣下…いよいよ始めるのですか?」
事務官が強張った顔でそう尋ねる。
「もう始まっているし、それを盤石にするためにまだこの世界でやるべきことが多くある」
私の帝国を全世界へ広げるためにはね…ロシア大統領、ユーリア・ラス・プーチナは執務机の上で腕を組み楽しそうにそう答えた。
- まさかの救済生存ルート、そしてまさかのロシアのプーチナ大統領の登場 -- (名無しさん) 2013-01-08 14:48:34
- 先に人生が一度終わった後のスラヴィアンとして登場したキャラの過去へ遡り更に現在へと繋がっていくのは補完には留まらない面白さがある -- (名無しさん) 2013-01-12 20:38:14
- スラヴィアンの面白いケースだった。これだけ読んでも背景が見えるのが楽しい。前話も気になった -- (名無しさん) 2014-08-26 02:43:29
- 色々例外な展開を集めてひねって締めまでまとめたのはシリーズ通してのバックボーンがしっかりできているからでしょうか。ただどんな奇跡が起きてモルテの楔が抜けたとしてもそれは再び形成され魂を穿つ永劫の呪いではないかと思いますね -- (名無しさん) 2015-11-01 20:23:06
最終更新:2013年01月07日 20:16