【三周年企画 リレーちっくSSS】

三周年企画【ヤンキーズとガイドさんのミズハミシマへの道中記】のページです。

スレの中で一行の様子をSSS(1レスの中で書くSS)によって追いかけていくという企画。

同時進行で他キャラなどの道中記などもやっています→【リレーちっくSSSの番外伝】
リレーっぽい企画なので順番や整合は後でどうにかなるんじゃない?繋げば良いじゃない?とかお気楽至極です。
以下、スレなどにて決まった要素など↓

ガイドの素性

オーク女性で名前はユエン
背丈は高すぎない中程度
おっとりのんびり
口癖は「ノーカン!ノーカン!」
ガイドは初心者
出身地はドニー?
一緒にいるサポートお供がいる?

一行の道程

日本→大延国(ユエンが加わる)→ドニー→新天地イストモス→エリスタリア→エリスタリア→ドニー→エリスタリア→ミズハミシマ
国と国の移動はおまかせ状態。他の寄り道やシェアなどもどんと来い。


【日本】

出発 
「これでゲート通過のフェリー代は貯まったよな?」
「学園祭(小)の設営スタッフと屋台の配達と…」
「(^・●ω●・) これ、店長からの差し入れです。バイト助かったよと言ってました」
「ム!これはありがたい! 店長と奥さんにお礼を言っていて欲しい!」
「休学届けは無事受理されたよ。親戚のトンデモ道具は遠慮してきた」
ゲートに向かい通過するフェリーに乗るのもタダではない。
ヤンキーズ四人はそれぞれがこなせる分野でバイトし路銀を貯めたのである。
さぁいざ渡界フェリー乗り場へ!

フェリーでゲートへ
必要なのは身分証明と連絡先の確認。
渡界フェリー乗り場の通行証カウンターは人間と亜人でいつも賑わっている。
十津那学園に入学してから暫く、大体の生徒が通行証を作る。
授業や課外活動などで異世界に行く事もままあるからだ。
なのでヤンキーズの四人は乗船賃だけを支払って乗り込む。
「竹輪4パック!」
早速売店に走った元原がフェリー名物の厚焼き竹輪(竹串刺し)を蛸店員に渡す。
「合わせて832円になりまーす」

ゲート移動が大幅自由化される大ゲート祭。流石に乗客は多い。
鳴門名物の渦潮を脇に掠め、フェリーはゲートに近づいていく。

【大延国】

大延国に到着
「で、ここどこよ」
往来を行き交う人々を眺めながら忌々しげに元原がつぶやく。
「知らねえ」
「ごめん、わかんない…」
「ミズハじゃないのは確かだよ」
それもそのはずここは彼らの目的地としたミズハミシマよりも西方、大延国だ。
ゲート祭期間中なら審査も甘くなってるだろうと踏み、ドサマギでミズハにわたろうとした目論見は早くも崩れ去ったのである。
「クサるなヨ?ジョウジ」
「そ、そうだよ。折角なんだから延の食事でも満喫して、さ?」
「じゃ手始めにガイドを雇おっか。軍資金ならナフ姉からたんまり拝借してきたし」
ふてくされる元原を引きずってドラン・ウォーチ・クロトの三人は門市城の観光案内局へと足を向けた。

門市城の広場にて
ゲート屋敷を出てすぐから始まるお祭り騒ぎ。
大ゲート祭でやってくる多くの観光客を目当てに大延中、他国からも屋台が集まっている。
すでに四人の腕には色とりどりの屋台飯が盛られている。
主に食べるのは元原とドランなのだが…

「ローラン!もっとおっきな声を出さないとお客さんに気づいてもらえないですよ!」
「“ゆう亭”はニオイで客を集めるのですわマオ。
下品に声を張り上げるのは性分に合いませんので」
「坊ちゃん、この屋台、学園祭(小)で出てたのと同じ屋号ですぜ」
「もらった差し入れもフェリーで食っちまったし、買うか!」
「「毎度あり~」」
見た目は学園祭の屋台にあったものと差はないが、本場大延の生野菜や肉魚をふんだんに使っているのでまた違った味わいである。
「軍資金、道中で増やすことも考えておかないといけないかも…」

いざ観光案内所へ
あらゆる国々から人の押し寄せる大ゲート祭にも大延国の観光対策は万全である
ひとたび足を止め周囲を見渡すそぶりをするとてくてくてくと【案】の文字が近寄ってくる
「躍字が案内してくれるってか? 大延国らしいな」
「か、観光案内所はどこか聞いてみるよ」
ウォーチの言葉に反応したのか、子供大の案の躍字はくるっと一回転の後にてくてくと進みだす
「案内してくれるみたいだよ」

ゲート屋敷を出てすぐの屋台広場は人でごった返しているが、躍字はひょいひょいと人の気配が薄くなる場所を通り四人を導く
「これでもかってくらい大きな」
「あらゆる国の言葉で“観光案内所”と書かれているね」

躍字に案内されるまま広場を進む四人
人ごみを今抜けようかという瞬間に躍字がぱっと消えてしまう
「は?」「あれ?」「き、消えてしまったんだな」「オーイ!どこ行ったー!」
四人がきょろきょろと周囲を見回すと目に飛び込んできたのは地球の文字で【案内所】と書かれたきらびやかな看板だった
なんだ案内が終わったから消えたのかと納得し【案内所】に入ろうとする四人
不意に背後から声
「その案内所は偽物さんですよ。丁度よく看板の前で躍字さんが消えたでしょう?
あれは地に仕掛けられた【消躍の跡】のせいなんです」
「じゃあここは一体何だってんだ?」
「地球からの観光客に色んな物を買わせてポイしちゃう悪いお店さんです」
オークの女性の説明が終わると同時に警笛が鳴り響けば、周囲を狐人の役人が取り囲む
案内所を一瞬で畳んで逃げようとするも数名があっという間に取り押さえられた
「本物の観光案内所さんはこっちですよ~」

詐欺直前で助けてくれたのはユアンというオーク女性だった
「ここが観光案内所ですよ~」
年季の入った太い木の看板は元原が見上げると日本語に変わり、クロトが見上げると故郷のクルス語に変わる
「おう、何だ?面白い顔の組み合わせだな?俺は“短牙”。この異世界交流で名高い大延国門市城の観光案内を仕切らせてもらっている者だ
何だ?そのとっぽい顔は。ははーん成る程おのぼりさんってわけかい。それなら案内人が必要だ
うちには塩客ほど本格的じゃないが気軽に異世界を案内する人材が揃っているぜ」
「こ、言葉の洪水なんだな」
「狼のおっさん、一人で全部喋っちまいやがった!」
「だが残念だったな。丁度案内人は全員で払っちまっててな。一週間後には誰かが戻ってくるかも知れないな!
…と思ったらそこにいるじゃねぇか」
四人が振り向く。ユエンがきょとんとした顔で自身を指す
「え?私ですか?」

「おう丁度いいんじゃないか?しっかり案内(修行)してきな!」
「私まだ案内人になったばかりですけど…いいんですか?」
伏し目でおずおずと四人に目線を送るユエン。選択の余地は最初からなかった。
「ガイドさん、よろしくお願いします」
そう言って手を差し出したのはクロトだった。
「坊っちゃんがそういうのでしたら」
「俺も大歓迎だぜ!」
「よ、よろしくお願いします」
「ところで皆さんはどこに行くつもりなんですか?」
「「「「ミズハミシマ!」」」」

四人と一人になったよ!
 ユエンをガイドとして一行に加えたヤンキーズはとりあえず観光案内所を後にする
「あちらが金炎料理師を抱える飯店が出店している屋台です~」
「匂いがすげぇな、炭火焼き鳥かよってくらいに」
「そちらが巷で人気上昇中のゆう亭の屋台です~」
「さっき食べた大延風お好み焼き、おいしかったですね坊っちゃん」
「こちらが金羅様も毎週やってくる甘味屋の屋台 ──
「ユエンさん。さっきから見れば分かる様な、しかも飲食関係のばかり案内してないですか?」
クロトの冷静なツッコミにくるっと巻いた尻尾がピクンと反応するユエン
クロトの冷静なツッコミに開けかけた財布を閉じる元原とドラン
「僕達の目的地はミズハミシマ。それもこの大ゲート祭の間に到着しないといけないんです
ミズハミシマに行く乗り物がある場所まで案内して下さい」
「ガイド勉強中でごめんなさい。 ミズハミシマに向かうのでしたらここから北東にある港町に行きましょう~」
「…大丈夫かな、この先」

ヤンキーズ、門市城のはずれにて
 「門市城から港まで大街道を進んで大都に到着、そこから港へ向かうのと大街道から分かれる街道を進んでそのまま港に向かう。 どっちがいいですか?」
大街道の入り口、門市城の出口(入り口)に立つヤンキーズ
石ころが散らばって凸凹な道を想像していた元原は思わず感嘆の声をあげる
「片側二車線の道路ってレベルじゃねぇぞ!」
「大延国は街道の敷設と整備に力を入れているからね。国をぐるっと一周回る大街道は大延国の力の象徴みたいなものさ」
「あっ!それ私が説明しようとしてたんですよ~?」
頭上からもじもじ見下ろされるクロトが思わず顔を背ける
クロトとユアンの顔の間を遮る豊満な塞王の揺れ具合が強烈だったのかも知れない
「流石に歩いてってのは無理ですぜ坊っちゃん」
「じゃあ走っていくか?」
冗談まじりで返した元原を慌てて制するユアンが停留所を指し示す
「歩いたり走ったり、いくら食糧があっても足りません。ここは何か乗り物に乗りましょう」
 一行は様々な乗り物が集まっている停留所へ向かった

ミズハへ   と思ったら 
ユエンの案内でミズハ行きの船付き場に着いた一行
だが船は一艘も動く様子はなく、客たちが慌てふためいていた
「どうしたんですか?」
手近な所にいたドワーフの水夫にクロトが話しかけた
「ミズハ南方の港の殆どで地底龍が暴れとるんだと。まったくこんなこたぁ前代未聞だわい」
ひどく憔悴した様子からただ事ではないことが伺える
「珍しいことも~あるものですね~」
「仕方ねェ、ドラゴンかグリフォンで空から…」
「そいつもすぐには無理だろうなぁ」
「だ、だめなんですか?」
「何でもミズハで第一級渡航禁止になってる輩が延にきてるとかで入管が厳重になったと聞いとる。今から飛んでもミズハに入れるのはいつになるやらのう…」

船を探すぞ!  
「全部が全部出港できないってことないんじゃねぇか?」
元原は港をざっと見回す。どの船も帆を畳み、曳く海獣は休んでいる  ── のように見えた
「ぼっちゃん、あの船は?」
ドランが手傘をかざし遠目で見た先、港の隅っこに他の船から間を開けて何隻かが停泊していたが
それらは帆も畳んでいなければ船員達は頭を悩ましているようでもなかった
「あ、あの旗印を見るんだよ」
まだ夕陽には早く甲冑を脱げないウォーチが指した旗にあったのは
「あれは~ドニードニーの海賊さんの旗印ですね~」
「…海賊、か。これはひょっとしてひょっとするかも」
クロトが何かを思いついたようだが…?

クロト the ネゴシエイション  
 クロトが何かを思いついたようだが…?
「うわ~かっこいい海賊船です~(棒」
「こ、これはどんな荒波も越えれそうな船なんだな(棒」
「何だ何だ?」
帆縄を力一杯引き張る鬼人がおずおずと近づいてくる大根役者二名に怪訝そうな目を向けた
「あーでも今は港から船は出れないんだよなー(棒」
「海賊でも出るなと言われたら引っ込むしかないか(棒」
次いで登場した棒読み二人に樽を積み終えたオーガが呆れ顔で近づいてくる
「あのなぁあんちゃん達よ、今この港から出て行ける船を探しているんだろ? そんな安酒場でもお目にかかれない駄演目せずに普通に頼みなよ」
「ありがとうございます。では単刀直入に依頼します。 僕達をこの港、大延国から出して欲しいのです」
クロトはすかさずオーガに一礼し話を切り出した
「「「「ちょっ、何の意味があったんだよ!」」」」
「挑発に乗ってこればよし、怒りを買えばにげればよし、交渉を引き出せればそれでよし。だよ。 結果は上々さ」
「俺達はドニーに直行だが、それでも良いってのなら金次第で乗っけてやるよ」
「そう考える時間はないぞ。ミズハミシマ周辺の騒ぎが大きくなる前に直に出航するからな」

「あの海賊旗は鬼族海賊団のものですね~。気のいい海賊さんが多いので頼めばなんとかしてくれるかもです」
「ユアンさん、そういうことは最初に言ってよ…」
海賊に払う金の算段で頭を突き合わすヤンキーズの上から思い出したようにやってくるアドバイス
「とりあえず半分渡してしまえよ」
「そ、相場が分からないんだな」
「ぼっちゃんの言い値でいいですぜ」
「うーん…正直竜や獣車とかはクルスベルグにあったから大体分かるんだけど船、まして海賊船ともなるとちょっと」
「だから半分渡しちまえって!」
元原が財布から半分握って海図を開いている鬼人船長に渡す
「お前、これだとスラヴィアあたりで海におっことされるぞ?」
「うお!そうなんかよ。その倍払っても…」
「ドニーに着く前に冷たい海におっことすなぁ」
考えが甘かったのか、それほど危険で高額な船旅なのか、一行は手持ちの九割を払い、足りない分を航路中に働くことで何とか合意にこぎつけた
「おっと用意が整ったようだ。そろそろ出発するぜ」

夕暮れの港 
今の異世界において海賊とは犯罪者ではなく海のエキスパートとしての称号である。 危険度「中」程度の海洋閉鎖であれば海賊の証を提示すれば出航することも可能なのだ
「おいあの船、えらくぼろぼろになっているが…」
「皇帝(ペンギン)のトコの船じゃないか。またぞろこっ酷くやられたもんだ」
鬼族海賊団の船の横に止った船は暫くは工場行きであろうというのは見て明らかだった
だが次々と降りてくる乗客達はどこか高揚したような、劇場から出てくるような雰囲気だった
「おい、これ落としたぜ」
「あ、どうもすみません」
「せ、背袋に穴が開いているんだな」
(あの騒動でどこかに引っ掛けたのかも…)
「こいつも落としたぞ?」
『フ、心配は無用だ。一人で戻れるよ』
ドランが掴んだ鉢植え、サボテンがそう言うとふわふわと飛んだ鉢植えが背追う袋の上に着地する
「港が騒がしいですが、何かあったんですか?」
「ミズハミシマの方で龍がどうとかで船が出れなくなっているんです~」
(…あの海獣もその一端なのかな…)

そしてそれぞれの向かう先へ
「出港規制ですか?でもあなた達はこれから出航なのでは」
「へへっ、海賊船だからな」
「ドニーまでどれだけこき使われるか想像すると頭が痛いよ…」
破けた荷袋の穴に虹色の毛皮を縫い付けて応急措置を施したトウナはもう一度港を見回した
「一日二日も待てば出港規制も解かれると思いますよ? 無理に海賊船で出ずとも…」
「それは海賊差別ですよ~?お金はかかりますけどちゃんと仕事はこなすのがうちの…じゃなくて海賊の流儀なんですから~」
「海賊船って一度乗ってみたかったんだよな!」
「それはいいが、俺達はミズハミシマに向かうんだぞ?ドニーにまで行った後のことは考えているのか?」
「ンなもんはドニーに着いてから考えれりゃいいってことよ!」
大変なのかそうでないのか、五人の騒ぐ姿を見てトウナは微笑する
「よき旅になることを祈っています。お気をつけて」
「「「「「「お気をつけて!」」」」」

海の上、海賊船で
「オヤジが言っていた…釣りと芝居は似ている、と」
「き、急にどうしたの?」
ドニーへ向かう船上で暇を持て余し、甲板から釣り糸を垂らす元原とウォーチ
「相手を感じ、相手に感じさせる。相手の台詞が発するために自分の台詞をどう発するか。それを見極めろ…っと!」
ヒュッと鋭い音とともに元原の竿がしなる。
ほぼ同時に甲板に子供ほどはあろうかという大きさの魚が打ち上げられた。
「オオっ、ソコガクレじゃないか。このサイズは珍しいぞ」
そばにいた水夫が目を丸くする。
「丈児のお父さんって、な、何者なの?」
「一言じゃ言いにくいな。とりあえずは…芝居馬鹿の殺陣馬鹿だった……っとォ!」
再び竿がしなり、別の大物が甲板を跳ね回る。
ウォーチはこの時初めて見る親友の顔に新鮮さと、僅かばかりの儚さを感じていた。

海賊船上のヤンキーズ達
元原は日がな一日竿を振って食料確保に務めている
ウォーチは日中の間はずっと船底で漕ぎ手に混ざっている
ドランは海賊と一緒に太鼓を叩いて風精霊を滾らせている
そして僕は甲板の掃除
「疲れたのなら影で休んでてもいいんですよ~?」
 昼からずっと一定時間おきに声をかけてくる。正直やめて欲しい
「この船だと僕にできるのは掃除くらいなのは分かっている。役目を全うしているんだからほっといてくれない?」
「でもクロト君、お顔が真っ赤ですよ~?」
港までの旅装束から一転、甲板掃除でほぼ下着だけになったユエンが豊満な双丘をゆらゆらさせてかがむと腹肉がむにゅっと折れ畳まれる
 わざとやっているんじゃないんだろうけど…だろうけども…!
クロトは日差しと血流で体温が上昇し顔が紅潮していくのをうらめしながらモップを走らせるのだった

おかしい、さっきまでモップがけをしていたはずなのに
目に映るのは船室の天井と……その、二つの丘と…
「あら~、きがつきました~?」
ユエンさんの笑顔が双丘から登ってくる。
僕の頭は柔らかなものに包まれている。
後頭部は張った力強いものに。
頭頂部は柔らかな母性的なものに。
つまり、この状況は…膝枕……
「まだ動いちゃダメですよ?船酔いと熱中症の併発なんて~頑張りすぎです」

「ありがとうございました。そろそろ仕事に戻…りたいので離してください」
看病してくれたことに礼を言い掃除に戻ろうとしたけど、肩からガッツリと押さえつけられた。
「だ~か~ら~しばらくは休まないと~」
この人、ぽややんとしてるくせに力が強い。
「無理しなくても~…いいんですよ?」
ふっとユエンさんの腕の力が抜ける。そして勢い余って起き上がったボクの上半身を彼女が抱きすくめる形になる。
「………お友達の役に立ちたいんですよね?」
「と、当然だよ」
「ドランさん達、すごい心配してました~」
その一言でボクが皆に迷惑をかけてるのがわかってしまった。

「……ドラン、何て言ってた?」
「鱗の人は~…ものすごく慌ててました~」
「そっか、また心配かけちゃったな」
心配症でツンデレで、一番の友であるドラン。
仕える家だとか起こしてくれた恩だとかそう言って彼はずっとボクの側にいる。
言わせてもらえば彼は色んな意味でちょろい。
たかだかその程度で僕なんかに拘るより、もっとするべきことがあるはずなのに。
「大丈夫ですよ?」
不意にユアンさんの腕の力が強くなった。
「クロトにどんな事情があったって、私も側にいますから」
今まで見てきた中でその時ユアンさんの笑顔はとびきりだった。

…それからドニーに着くまでの間、ボクは彼女から目を離せなくなっていた。

【ドニー・ドニー】

ドニーに到着したけども?
一週間、交代制で昼夜を休まず航海を続けた海賊船がドニーの都島に到着する
「ほ、本当に大変だったね」
「一番大変そうだったのにケロっとした顔で言われたらバテてる俺らが情けなくなるわ」
「うーん、日焼け止めを持ってくるんだった…」
「ドンガドンガドンゴドンドン… 太鼓の中心を捕らえてドンゴドンゴ…」
「ドラン?そんな虚ろな目…何があったんだい?!」
「いやいや、竜のにーちゃんはすごかったぜ?あんなに早く風のリズムをモノにして叩き続けるなんて俺ら海賊でもそういるもんじゃねぇ」
よくがんばったな!と賞賛する鬼族海賊団に見送られ、げっそりした風のヤンキーズと少し日に焼けたユエンが港へ降り立った
 涼しげな風が吹く中、突如五人を新たな海賊が囲む!  逃げるか? 戦うか?

包囲する海賊団の中より一人の白鬼の女が進み出て、朗々と名乗りをあげた
「鬼族海賊団パーントゥ船団が筆頭、シテ・パーントゥである!密航者及び渡航禁止者、貴様らを拘束する!」
平和的な到着と遭遇 そしてユエンの実家へ
「わらわ、一度言ってみたかった台詞だったのです」
シテ率いる少数精鋭の鬼族団員に囲まれて五人が歩く
「シテの実家ってドニーだったのか」
「きゅ、急に囲まれてびっくりしたんだな」
「元原がまた何かやらかしたのかと思ったよ」
「異世界にきてからずっと一緒だったじゃねぇか!」
「ドンガドンガ…」
港、倉庫街と通り抜け海沿いの豪邸立ち並ぶ通りへ
「詳しいことはわらわは知らぬのだが、オーク海賊団から手配書が回ってきておってのう。 そちじゃ」
「はい~?」ユエンが首を傾げて自身を指差す
「ユアンさんが到着し次第、家に連れてきて欲しいと」
一団が足を止めると、そこには香しい肉の焼ける豪邸が待ち構えていた

ドーン ドーン ドーン
陣太鼓のような重い響きに押し開かれるように重厚な門が開く
「わらわはここまで。後は屋敷の者が案内(あない)してくれるであろう」
「何か知らんが道案内助かった」
「セリオツさんにもよろしく言っておいて下さい」
鬼族海賊が去っていくといよいよもって物々しい空気が漂ってくる
「兄貴!帰ってきやしたぜ!」「兄者!お嬢がきやした!」「兄君、お嬢とその他五名しっかりと到着したよ」
「えぇぇーーいっ!誰が誰を呼んでいるのか分からんわ!道を開けい!」
オークオークどこもかしこもオークだらけ。むくつけき海賊オークの群れの奥から頭一つ突き出す巨漢が走ってくる
「一兄様! お久し振りでs ───
「ユーーアーーンーー!」
ウォーチよりも大きい、横幅も目方もあり贅肉ではなく筋肉をまとったオークは軽々とユアンを持ち上げて見せた
 オーク恐るべし  ここは丁寧に挨拶する? ミズハミシマへの船を要求する?

 やっぱ丁寧にご挨拶しなきゃな クロトは特にな!  ここは対外スキルの高いクロトが挨拶を行う
「すみません。お初にお目にかかります、僕達は大延国からユエンさんにガイドをしてもらっているものです」
「「「ぎょろん!」」」
周囲全ての視線がヤンキーズへと集中する。物凄いプレッシャーだ
「おぉ…一人で大延国に渡りガイドなど、大変だったろうなぁ」
「いやそうでもなかったぞ。人一倍食ってたし寝てたし」
「あっあれは本格的なガイドのお仕事で疲れていたんです!ノーカン!ノーカンです!」
「ふむ。ユエンをドニーに連れてきたことには礼を言うが、ガイドはここまでだ。ユエンは家に帰ってきてもらう」
「え?」
四人の中で真っ先に反応したのはクロトだった
「おいおい!そいつは困るぜ、俺らはミズハミシマまで行くんだぞ?」
 ここでガイドがいなくなる?  ユエンをガイドにと食い下がる? すっぱり諦めて他を紹介してもらう?

 そりゃここは食い下がらないと ユエンさんのおっぱいの為にも  怒涛のヤンキーズ交渉!
「そりゃ困るぜ!ユエンさんがいなくなったら右も左も分からなくなる!」
「ユ、ユエンさんはとっても力持ちなんだな。荷物を沢山持ってくれるんだな」
「ドンガドンガ…」
ユエンを傍らに立て耳を貸すものの、鋭い眼光は意思の揺らぎを一切見せない
「異世界で!旅もまだ苦手な僕達がここまでこれたのはユエンさんのおかげなんです!」
「…ほう?」
「歩き疲れた僕を背負ってくれました! 船で不慣れな作業をしている僕を気遣ってくれて、倒れてしまった僕を看病してくれました!とても優しく柔らかく温かかったです!」
「「クロト…(お前そりゃヤブヘビなんじゃないか?)」」
「ぼっちゃんは気持ちが高まると嘘が付けないからな。純真なのだ」
「クロト君…」
 こちらの要求は痛いほど伝わったようだが場の空気は赤信号になった!  さらに交渉を続ける? 思い切ってユエンを連れ去る?

 連れ去ったらあかん 真摯にお願いすればきっと分かってくれるよ  オーク達の空気は最悪だ
「…なのでユエンさんがガイドを続けることを許してもらえないでしょうk ───
「ユルサン!我ら兄弟でさえも触れるのを憚られるその…あの…おっぱいをこれでもかと堪能しおって!」
「おっぱい!」「オッパイ!」「むちぱい!」
「でも僕はユエンさんと一緒に!」
「くどいわ!」オークの豪腕がクロトを一薙ぎする。ドランが受け止めるもクロトは半分意識を失いかけている
「さっさとここから出て行くがよいわ!」
クロトまとめてドランを叩き潰さんと振り落とされる巨拳。それを受け止めるウォーチ
「ほぅ?甲冑を着ていても分かるぞ。貴様、オーガ、それもスラヴィアンか。だがしかし!」
 ドッズンッッ!! オークの周囲が圧力で沈むと同時に凄まじい衝撃が鎧を貫通しウォーチの巨躯を叩き震わせた
「戦神の統べる地で生き、海を越える我らオークの力を甘くみるなよ?朽ちぬことと負けぬことは別と知れ!」
全身の器官が狂わされたウォーチはその場で両膝をつく
 もう元原しかいない!  突撃する? 土下座する?

 ここは土下座しても好転しそうにないし突撃かな?  元原のアタック!
「男は度胸一発!脚本なんざ覚えなくても気合があれば何でもできるってなぁ!」
ドランの背中、ウォーチの肩を踏み台にして一身果敢の跳躍からの ──
「元原キーーック!!」
一見するとただのスニーカーに見えるが、つま先鉄板入りの安全靴から繰り出されるキックは見事オークの喉元に突き刺さる!
「…ふん。小魚程度の体にしてはよくやった方だな」
「…マジかよ」
「まだやるか?」「分からないのか?」「無駄なことよ!」
「待って下さい!皆落ち着いて下さい! …戻ります。私、家に戻ります!」
ヤンキーズの前に立ったのはユエン。しっかりとオーク達を見据えて諸手を広げた
「みんな、ここは一度退こう」
そう言ったのは意外にもクロトであった。
よれよれと屋敷を後にする。振り返るクロトとユエンの視線が交錯するが…今は刻ではないのだ
 屋敷から出たヤンキーズだが…  デジマに向かう? 歓楽街へ向かう? 港に戻る?

 どうしよう デジマいっとく?  ヤンキーズの前に開かれる道は…
「いやマジおっかねーわ半端じゃねーわ」
「…無理しても好転しない。とりあえず今日の宿を探そう」
「ぼっちゃん、大丈夫ですかい?」
ドランに背負われるクロトの表情にはまだ名残惜しさが滲む
「いただきっ!」
「わわっ!? ど、泥棒なんだな!」
ウォーチが脇に抱えるバッグをオークと鬼人のスリがかっさらう
「くっそ!こちとらぼろぼろだってのにツいてねぇ!待てやコラーっ!」
「へっ、バーカ!」「盗られる方が悪いんだよ!」それがドニーの法なのだ。しかし ──
「うわっぷ!」「だっ誰だ!?足を引っ掛けやがったのは!」スリの二人が盛大にすっころがる先に影二つ
「オレの視界をチンケなスリで汚すたぁ…度胸があるなオイ」 人間、中年くらいか、無精ひげと燻らせる煙草が印象的な男が匕首をオークの鼻元にあてがう
「お前らこの前も鬼の奴らに捕まってたろ?懲りないはここじゃ命取りだぜ?」 片目に傷が走る狗人。軽いもの言いとは逆に、その指の爪は鬼人の喉元に食い込んでいる

 せっかくだから俺はこの歓楽街に行くぜ  じゃ歓楽街にすっか  ヤンキーズはよれよれと歓楽街のオピンクなヒカリに誘われる
「そういや俺達金どれくらい持ってたっけよ」
「海賊船にごっそり払ったからね。クルスベルグなら一部屋一晩泊まるくらいはできるかもだけど…」
「ドニーの相場はアコギだって聞きますぜ」
皆で一つの部屋で泊まるしかないか…ラブホみたいなとこでもこの際仕方が無い
「何さっきからぼーっとしてるんだウォーチ」「あ、あれ」
空もう夕闇が降り、歓楽街の煌びやかさも映える下の広場で人だかりが
「さぁさぁ!あのチャンピオンと腕相撲勝負だよ! 腕をつかせりゃ大金だ!」こざっぱりしたギャル風の衣装のダークエルフが呼び掛ける
「大金だぁ?本当かよ!」
ドン!と樽蓋の上に木印が置かれる。それはゴブリン海賊団の証である
「ねもちーウソつかない!オレにうでずもうかったらたいきんはらう!」白毛に黒い棘縞が走る女虎人が両手をかざし腰のチャンピオンベルトを強調する
「ウォーチ、まさかアレに挑戦するってのか?!」
 ウォーチが見つけた一攫千金  誰かが挑戦する? スルーする?

 挑もう
夕闇迫る樽の上、ウォーチと女虎人の攻防はもう半刻も続いていた。
「う、ぐ…!」
「そろそろオワリする…ッ!」
だが相手はチャンピオンだ
一気にウォーチを追い詰める
ウォーチは咄嗟に手首を返し寸前で凌いだ
もはやここまでと誰もが思ったその瞬間、帳が落ち、同時にウォーチの纏う甲冑が、爆ぜ飛んだ
「ひゃっ!!?」
チャンピオンが怯んだ一瞬の隙を突いてウォーチが全力で拳を押し返す
鈍い音と共に樽が弾け、砂煙が去った後
地面に打ち込まれていたのはチャンピオンの拳だった

「うーん、まけなのだ」
「うひょう!やったぜウォーチ!」
「ぐぬぬ… 手前!壊した樽の払いで賞金はチャラだ!」
白虎人の隣、苦々しい顔のダークエルフの後ろ髪がなびくと無数のナイフが飛び出した
ありったけ両手に握った切っ先でヤンキーズの面々を脅す
「たいきんをはらわない、ウソになる。 ウソよくないネモチーおこる」
「うっせ!手前ぇが負けっから小遣い稼ぎがパァになったんじゃねぇか!」
思わず飛び出そうとしたドランと元原を制するウォーチ。相手は手練である
「払ってやれ。下らないケチで看板の値を下げるような真似はするな」
低いドスの利いた大塚声のする方から一枚のコインが飛んできた
「…これはドニー木貨!ドニーを仕切る海賊団のトロールンの怪力で圧し象った偽造不可能なドニー杉の!」
一枚で凡そ日本円にして10マンエンナリ
「一枚十万円?そんな500円玉みたいなのが?」
「うん。製造過程の特異さもさることながらドニーの経済を把握した上でトップ海賊団が流通量を決める、
言わばドニーが認める貨幣なのさ」
「今回はそれと俺の顔に免じて勘弁してやってくれないか」
顔…海風が刻んだのか、ややしわの目立つ海賊帽を深く被った痩せたゴブリン
背丈はそう元原と変わらないが、チャンピオン虎人とナイフダークエルフがすごすご離れていくだけの凄味を発する
「騒がせたな!夜はまだ始まったばかりだ、楽しんでくれ!」
周囲から歓声が沸く中で踵を返しゴブリンは人混みの中に消えた
 この後ヤンキーズはどうする?  飯? 色? ユエン奪還を考える?

 ユエン奪還プロジェクトニンジャー
「で、実際どうするよ」
「だ、誰かを頼ろうにも旅人に耳を貸すような海賊がいるとは思えないんだな」
一同はとりあえず近場の食堂に入りドニー木貨でありったけのドニー海賊料理を堪能していた
「…何故だろう、嫌な予感がする」
「どうしたんですかい?坊ちゃん」
何かを察したのか思案顔のクロトの後ろでカウンターでオークが話している
「料理人を貸し出してくれないかとはまた急な話だな」
「あぁ、うちの頭が愛娘の結婚式を挙げると急に思い立ってな。皆右往左往で準備している最中なんだ」
「おいあのオーク…」
「ユエンさんの屋敷で僕らを追い払った中にいた!」
「な、なんか結婚って聞こえたんだな」
「何かヤベぇことになってるな!こうなったら俺達でユエンさんを奪還するしかないぜ」
「でもどうやったものかな…」

 ユエンの屋敷
「どうもー清掃業者でーす」
「む!お前らはこの前の!出会えー!出会えー!」

「ちわ!植木屋でっす!」
「ん?その顔どこかで… !お嬢と一緒にいた奴らか!」

「駄目だ…」「正面から行っても無理でしょ…」「み、皆でいく必要があるのかな」「一人で入って何とかなるのか?」
 ユエン奪還まで猶予はない。正面からは無理そうだ!  夜を待つ? 水路から侵入する?

 >>夜を待つ? 水路から侵入する? >ここは待とう
「とっぷり夜になったものの…人通りが途切れないな」
「いや、これはチャンスだよ。 人の喧騒と闇夜に紛れれば…」

「ユエン、急なことになったが相手は私の認めた立派な男だオークの新星だ」「…」「分かって欲しい。これがお前の人生のためなのだ」
何ともピンクでふわふわした内装の部屋の扉がバタンと閉まる
決してくぐることの出来ない尻より小さい窓から夜空を見上げるユエン
「皆さん… …クロト君…」
 ドカーン!ドーン!ドーン!
屋敷に轟音が響き渡る! 屋敷が激しく揺れる!
「何だ?!今時カチコミでも来たってのか?」「屋敷の塀が全部破られただと?!」「くそっ!灯りが足らん!賊が視認できねーじゃねーか!」
「よっしゃ!上手くいったな!」
「や、闇に紛れて長く助走できたおかげで一気に塀を破れたんだな」
「…あれ?何かおかしくない? そういう作戦だったっけ?」

「さあ!大立ち回りと行こうじゃねえか!」
「こ、ここは任せてよ、クロト」
「え?」
「俺らが囮になりやす!坊ちゃんは今のうちにユエン嬢を連れて逃げて下せぇ!」
 この場を任せて想い人の元に走るか?
 それともこの場に留まるか?

クロト走る
 この場を任せて想い人の元に走るか? それともこの場に留まるか? 男の子なら走るんだ!
屋敷の中は思ったよりも広く部屋も多い。しかしクロトはそんな無数の扉に目もくれず一直線に走る
 わざわざ総出で連れ戻しにくる
 本人の意思などお構いなしに家の意向に従わせた
 屋敷のトップ、親が先頭にいる
 外でガイドをしたいという意志は叶える甘さ
「とてもユエンさんを大事にしている。それならきっと…!」
屋敷の中は大立ち回りを繰り広げる元原、ウォーチ、ドランのおかげで騒然混乱するオーク達は足元のクロトに目が届かない
階段を登る 上へ上の階へ 走る走る この屋敷でたった一つの例外を探して
「ここだっ!」クロトが確信を持って立ち止まったのはきらびやかで無骨さにそぐわないふわふわの装飾が施された扉だった
「ユエンさんっ!」ドアノブに飛びついて強引に扉を開くとそこには…
「ふろほぉくん!?」ドニー港でもみかけた海鮮饅頭を頬張っていたユエンが窓からの出るのを諦めて座っていた

「ユエンさんはどうしたいんですかっ?」
自身の希望で大延国に出て観光ガイドになれた
しかし我が子大事に思う親はやはり娘を目の届くところへ置いておきたいと海運業で力を持つオークとの結婚を決めた
「私は…もっと世界を巡ってみたい!」

「んあ~?なんだか騒々しいっちゃ~」
「これは御客人!ちょいと野暮が起きまして…すぐに静かにしますのでお待ちを!」
空の酒瓶を触手一杯に持ち客間からずるずるふらふら出てきたのは顔を真っ赤にした覚める様な青肌のスキュラ
海運事業を広げる中で海上輸送の他に海中輸送にも着手するために“海の中の実力者”への交渉を進めているオーク海運事業社
ユエンの結婚式に招待し、接待と今後のお墨付きを得ようとしていたのだ
「くそ!キリがねぇ!」「オ、オークは数と連携が凄いんだな」「坊ちゃんが目的達成するまで持ちこたえられればいいんだ!」
「ちょっと静かにするっちゃ~。ゆっくり酒が飲めないっちゃ」
突如三人の体を縛る強力な触手!振りほどけない!
 どうする?  元原が頭脳プレイ ウォーチが全力を出す ドランが超竜人化する

 どうする? 元原が頭脳プレイ
「落ち着け落ち着け…こういう時こそ頭を捻って…」
「んん~?大人しくなったっちゃ?」「流石提督!お見事です」
雁字搦めで動きの止まった三人にじわりじわりオーク軍団が詰め寄ってくる
「よし!」「「元原!」」「でっ、できねぇ~!」
一瞬の静寂の後、空気が弾ける衝撃音が連続する
「ス、スキュラの人、ごめんなさいなんだな。今ここで捕まるわけにはいかないんだな!」
ウォーチを巻く触手が何度も皮を打ち弾かれる ──が、しかし
「んあ~?スラヴィアンだったのね~。でもわちもスラヴィアンなのよ~」
同じく滅びを忘れた肉体同士のぶつかり合い。膠着状態!
「む、むぐぐ! て、手ごわいんだな!」
その時、屋敷で最も高い屋根の上から声が
「皆!ユエンさんを連れてきたよ!旅の再開だ!」
「流石坊ちゃん! ってこたぁここに長居するこたぁねぇな!」
ドランの目が光ると首筋の鱗が一枚激しく輝き出した!

異世界において数の少ない竜人種。その中にも種類はいくつかあるが、竜としての本来の姿を持つのが常である
本来ある竜としての姿を縛り人を模すということは呪いにも近くとても難しい。成功したとしても再度竜に戻るには難しいとされている
人と一緒にいたいと願う竜人は、人化の際に竜へと戻る鍵を自らに埋めるのである
自身の命が危機に瀕した際 その身では叶わぬ敵が現れた時 愛する者を救うため 主と決めた者の命により
それら鍵により竜人は竜へと還(もど)るのだが、それには力の消費も多く再度人化するのにも手間がかかる
しかしドランは特異であった
人化と言えどその身は竜を模したままであり、その力は唯一つ主であるクロトのために奮われる
“内燃的覚醒”、今正にドランの鍵は回され内に竜が目覚める!

「坊っちゃん!」「ドラン!お願い!」
見上げた先のクロトが叫ぶとドランも呼応し咆哮する
全身の鱗が逆立つと衣服の下より突き出す
「いたたっ!チクチクするっちゃ~」
胴を巻かれ噛み付こうにも首の可動範囲すら縛られているドランが只管力を全身に込める
力強く噛み合わされる口から炎が漏れ始めると、ドランの全身が徐々に赤く焼いた鉄の様に熱を帯びていく
「あちちっ!こりゃたまらんっちゃ~」
触手が香ばしい煙を吹き始めるとスキュラはたまらず縛を解く
自由になったドランはすぐさま元原とウォーチを燃える鱗の腕で触手を叩き緩ませると引っ張り出す
「トブゾ!」「おい!熱いぞ!熱いって!」
二人を持ち上げたドランが庭全体を揺るがす跳躍のでクロトの元まで飛び上がった
「ス、スラヴィアンなのに熱いとか感じるのかな?」

集結したヤンキーズとユエン
「お父様!私もっと世界を見て回りたいんです!ガイドの仕事を続けさせて下さい!
…続けます!」
五人はやがて全員の見ている前で屋根の上から飛び消えた
「えぇい!外だ!追え!追えー!」
「まぁまぁ落ち着くっちゃ~よ。親が縛っては子の成長も歪になってしまうっちゃ~」
「しかしユエンはまだか弱い娘で…」
「可愛い子には旅をさせるべし! 親はどっしり構えて帰る家であればよか!」
急に真顔になったスキュラであったが、一口酒を飲むと再びゆるく赤くなる
「んあ~。心配しなくても海中輸送提携の件はよきに図らせてもらうっちゃ~」
 ヤンキーズは何とかユエンを連れ出すことに成功した!

【スラヴィア】

髑髏の門番
幾日程経ったであろうか。門が輝き、旅人が現れた
我は弩国の海賊、奥躯の骨より生まれ出でし骸骨兵だが
その半分にも満たぬ体躯の客である
しかし我はその顔に見覚えがあった
もはや馴染みの地球人である
名をククラ・クララククラククラ氏と言う
実に60万もの人口を誇る大帝国の臣民だと聞く

「来訪の意図は職務にあろうか。国閲にあろうか
 貴君の真意は那辺に有りや」
お決まりの文句で尋ねてみるが返答は無し
これも実に普段通りの事で、逆に安堵する
氏は実に無口な性分で、なかなか言葉を発さぬ
とは言え無礼な方ではない
かつて主上より地球の文化を収めた書を閲覧させていただいた折
彼の世界の儀典に用いる衣類の項目を見た事がある
夜の世界における最上位礼服。燕尾服と呼ばれる物こそが
まさにククラ・クララククラククラ氏そのものだ
氏は最上級の敬意をもってこのスラヴィアへとやってきているのだ

『白いのも大変だな』
不意に氏が言葉を発した。こんな事は本当に稀だ
ただ、翻訳を司る精霊たちが酷く困惑している
くちぐちに、これは本来の務めではないと言う
「職務なれば」
吾輩はそう返答する
『茶色いのが後で来るぞ』
そう言い残して氏はペタペタと足を鳴らして
我が饗宴夜国の街へと姿を消した
それからしばらくしてからであろうか
1年ほど見なかった、地球のもう一つの種族が姿を現したのは
氏が茶色いのと表現した者たち
枝国人とも弩国人ともつかぬ様相の者たち
彼らがやって来たのである

「はい、到着ですよ。ここがスラヴィアです~」
「うお!本当に骸骨がいる!」
「あれって衛兵なのかな。装備すげぇ」
「タイマンはっても互角ってところかぁ?おい」
「しゃ、写真を一緒に撮ってもいいのかなぁ」
彼らは大概が無礼で喧しい
「来訪の意図は職務にあろうか。国閲にあろうか」
吾輩がそう尋ねると、ノームが答えた
「そんな堅苦しいものじゃない。観光だよ」
ふむ。気楽に見てまわるだけという事か
「宜しい。なれば奥の部屋にて所定の手続きを行いたまえ」
吾輩は構えた槍を引き上げて、彼らを通す
もう一種の地球人、オークの淑女、竜人、ノーム
「うむ?貴殿はスラヴィアンか」
その集団の中に、一人だけ我が国出身の者が居た

「え、あ、そうです。ウォーチです」
オーガを基とした不死人であろう。堂々とした巨躯である
「思えばこの祭りにて夜国に戻る者が居て当然か
 貴殿は地球に行っておるのだろう
 彼の国の様子、いかがなものか」
吾輩がそう尋ねると、オーガの不死人は不可思議な笑いを浮かべた
嘲りや侮蔑ならず、傲慢や冷笑ならず、不死人にはあまり見られぬ笑い
それは我が主上が浮かべる『ほがらかな』笑いというものであった
「た、楽しいよ。十津那学園には仲間がいるから」
そう言って彼は一団の後をついて行った
饗宴もなく、主上も居らぬあの真白き極寒の地、地球
そこが楽しいと言うのか。氏が戻ってきたら尋ねてみよう
あるいは、吾輩が再びあの地を訪れようか
本日はそんな事を想いつつ職務にあたったのである
守護団衛兵 ミギ記す



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最終更新:2014年08月06日 01:09
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