自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2021年4月14日 18:10 日本本土 防衛省 中央指揮所

「統幕長閣下、我々はあと五分以内に決断しなければなりません」

 衛星からの情報を元に概略だけが記載されているスクリーンを背景に、在日米軍連絡士官であるカーチス大佐は統幕長に語りかけた。
 彼がここにいるのには当然ながら理由がある。
 在日米軍の持つ中でも特に価値のある戦力。
 B-52と空中給油機を組み合わせた戦略パトロール部隊との連絡を遅延なく行うためだ。
 これらの部隊は、日本国に著しく不利益をもたらす可能性が発生した場合、それを空中発射式巡航ミサイル(ALCM)もしくは大量の爆弾によって破壊することを目的にしている。
 本来であれば在日米軍にB-52はいないのだが、第2次朝鮮戦争の激化に伴い、速やかな火力の投射のために幾つかの部隊が日本に来ていた。
 狭い地域に対して可及的速やかに火力を投射できるこれらの部隊は、現在の自衛隊には存在せず、従って在日米軍の主力製品となっている。

「グレザール帝国付近を移動中の部隊は、あと五分弱で敵国首都の攻撃可能圏外に戻る必要があります。
 聞かされている情報によりますと、貴国の情報がそこに持ち込まれた可能性があるらしいですが、閣下、どうされますか?」

 自分たちのいる場所は、かつての祖国以上にいざという時の武力の投射を躊躇しない。
 大佐はそれを理解した上で質問していた。
 あの日本人達がここまで攻撃を躊躇しなくなった理由はわからなくもないが、それにしてもどうしてこの国は極端から極端へと振れるんだ?

「確認するが、この部隊は核兵器は持っていないんだったな?」

 統幕長の質問に、大佐は内心で溜息を付いた。
 今の日本国には余裕が無い。
 そのため、特に今回のような事例では、最初の一撃で敵に致命的な損害を負わせるという手段しか取れないのだ。
 とはいえ、あの日本人に核兵器がどうしても使用できないのかと尋ねられる事は、彼の長い軍務経験を振り返っても前例のないものだった。
 この異世界に放り出された日本人たちは、自分たちのためならば、笑って大量虐殺を公式文書で肯定する人々になっている。

「はい閣下。
 しかしながら作戦行動中の4機には、合計で48発の通常弾頭型ALCMが装備されています。
 本来の用途である核弾頭に比べれば破壊力は格段に落ちるものの、これだけ撃ちこめば限られた地域に致命的な損害を与える事は可能と思われます」

 ALCMは、戦略爆撃機という高い柔軟性を持つ大量破壊兵器の価値を損なわないために発明されている。
 任意の地点まで空輸され、空中発射にて目標へと飛び込む。
 艦艇よりも早く、ICBMよりは戦術的な存在として、使いたい時に使うことが出来る兵器である。
 だが、慣性航法装置とは偉大な発明品であることに違いはないが、終末段階でレーザー誘導があるわけでもなく、通常弾頭で必要な破壊を行えるかには疑問符が付く。

「思う、では困るのですよカーチス大佐。
 ああ、もちろん我々もALCMの破壊力を甘く見ているわけではないのです。
 しかしながら、今回の攻撃はしばらくは日本と関わることをやめようと思わせるためのものです。
 そのために、我々は決定的な破壊力、強烈な政治的衝撃、つまり全てを消し飛ばすようなものを求めているということをお忘れなく」

 大佐に言葉を返したのは、統幕長ではなく後ろに立っていた空幕長であった。
 彼は特別職国家公務員であり、当然であるが自国の命運をかけると言える作戦を、同盟国軍に任せる事を内心では良しとはしていなかった。
 出来ることならば、国産戦略爆撃機や国産弾道弾で全てを解決したかったのだ。


「二次攻撃は可能なのか?」

 統幕長が尋ねる。
 核弾頭の準備が間に合わないのであれば、出来る限り広範囲を短時間で破壊するしかない。
 幸いなことに、目標は魔法学園だという。
 つまり、事前に情報が持ち出されていたとしても、そこに集約されている可能性は高い。
 破壊することが目的である以上、徹底的な猛爆撃が必要だ
 二次攻撃とは言わず、三次四次と連続して行い、更地にしてしまいたい。

「はい閣下、二次攻撃は不可能ではないと思われますが時間がかかります。
 現在のところ関連する部隊に後続を出すよう命じておりますが、急すぎることもあり、未だに出撃準備中と聞いております」

 カーチス大佐の回答は嘘ではない。
 もちろん出し惜しみの結果としてのサボタージュなどでもない。
 現在日本国内にいるB-52は4機。
 その内の4機は飛行中であり、別の4機は出撃準備中。
 他に4機がローテーションの関係で整備中となっており、最後の4機は予備機と研究用検証機という扱いだった。
 遥かな昔に原設計がなされた最新鋭機という彼女たちは、日本人たちを魅了しつつ今日も陵辱されている。

「取り敢えず第一撃は全力で。
 あとは可能なだけ出して二次攻撃を行なって下さい。
 出せる機体はすべて投入するべきです。
 最悪の場合、しばらくは貴重なSLBMに頼った体制に移行する事も、この際諦めるしかありませんでしょうな」 

 代わって答えた空幕長の本音を言えば、今からでも核攻撃可能な代替手段を探させたい所ではある。
 しかしながら、まず間違いなく敵国の研究機関にこちらの情報が渡っている状態で、今更のんびりと対抗手段を考える訳にはいかない。
 ALCMによる攻撃以外で、遠く離れたグレザール帝国本土、それも帝都グレザリアス郊外に位置する魔法学園を殲滅する手段があるわけがない。

「弾着観測もままならず、確実に殲滅できるという保証もない。
 まさしく悪夢だな」

 極端なことを言ってしまえば、敵が複製を多数作成し、同時に多方向へそれを運び出していればこの攻撃すら無意味になる。
 あるいは、複製ではなくテレパシー的な魔法で情報を伝えていても同様だ。
 更に言えば、実は伝令や伝書鳩、魔法生物的な何かで輸送中でもこの攻撃の価値は薄れてしまう。
 もっと言えば、決して皆無とは言えない国内の行方不明者やMIA(戦闘中行方不明)の隊員から、既に十分な情報を聴きだした後かもしれない。
 あの忌々しい勇者様が他にもいたら、極道会が持ちだした資料が既に研究中ではないと誰が決めた?
 統幕長達の恐怖は、決して被害妄想から来るものではない。
 そして、だからといって、無駄に終わるかもしれない攻撃を中止させるわけにもいかない。
 今回の目標である魔法学園は、長い歴史と伝統を誇る世界最大の研究都市であるらしい。
 常識的に考えれば、日本国から持ち出された様々なものが持ち込まれ、研究されるとすればここの他にはない。
 そこを攻撃し、人員機材に損害を与えることが出来れば、計り知れない価値がある。
 うまくすれば、経験豊富な人材を殺害できるかもしれない。
 掛け替えのない貴重な資材を破壊できるかもしれない。
 研究者相手の商売に長けた商人を殺害できるかもしれないし、助手のような商売を務める人々をまとめて始末できる可能性もある。
 仮に技術情報の漏洩阻止という目的からは離れた結果に終わったとしても、戦略爆撃としての意味まで失われるというわけではないのだ。
 単純に、敵国の落ち着いて研究開発が出来る拠点を潰せるというだけでも十分に価値のある行動だろう。
 もっと言えば、取り敢えず猛爆撃だけでも行なっておけば、未来の魔術師たちを殺傷し、文字通りの意味での戦略爆撃としての効果だけでも得ることが出来る。

「ですが」

 短い静寂の中で思考を巡らせた空幕長は口を開いた。

「やはり、第一撃としてこの空爆は行うべきだと考えます。
 この先どこまで規模を拡大するかについては、動員可能な戦力の手配を付けてからにするべきです」

 この時、長距離攻撃が可能なすべての戦力に出動待機命令が下されていた。
 日本中の在日米軍基地では佐官級がかき集められ、最大限の規模の攻撃がどこまで盛大に行えそうかが討議されている。
 意外に思えるが、日本人たちはこの時までグレザール帝国との全面戦争の準備を完了させていなかった。
 もちろん予備研究的なものは行われていたのだが、それはよく出来た妄想戦記の域を脱してはいない。
 この時になってようやく開示された日本人達の戦争計画を見せられた合衆国軍人たちは、彼らの正気を本気で疑った。
 その計画は、防衛計画と短く名付けられ、目標は日本国の生存圏防衛と銘打たれている。
 大佐が不安そうに尋ねるのも無理は無い。
 生存圏防衛と銘打たれた消極的に感じる『防衛計画』は甲乙丙の三段階で構成されている。
 防衛計画『甲』は、確認できている全ての大都市に対する先制核攻撃。
 防衛計画『乙』は、そこから更に進み、第二弾としてできる限りの人口密集地への戦略爆撃。
 防衛計画『丙』は、第三弾としてグレザール大陸の水源に対する生物・化学兵器による攻撃。
 その後に可能な限りの通商破壊を継続する。
 自分たちの生存圏が最低限ながらも確保できたと判断した日本人たちは、自分たちの生存が脅かされる可能性があるのであれば、先手を打って滅ぼすつもりなのだ。
 その根底にあるのは、日本人たちはいつも否定するが被害妄想である。
 いつか、日本国に匹敵するようになった国家が襲ってくるかもしれない。
 いつか、自分たちがあの悪夢の世界大戦に相当する悲劇を味わうかもしれない。
 いつか、現在の優位性が失われ、悪夢の東西冷戦のような状況下に追いやられてしまうかもしれない。
 ならば、今のうちに、世界が日本国に対抗できないうちに、将来の危険性は全て排除してしまうというのが正しい判断ではないか?
 今の日本国にいる人々以外が全て消え去ってしまえば、もう未来を恐れる必要はなくなるのではないか?
 だって、自分たちには時間がかかろうともそれを実現する方法と周囲の環境があるではないか。
 今実行すれば、もう二度と恐れる必要はなくなるじゃないか。
 今ならば、必要最低限の損害でそれを実行できるじゃないか。
 明日は、もうそれしか方法がなくとも、実施できなくなっているかもしれないぞ。
 もちろん、それらは非常事態に備えた計画である。
 できることならば、予備研究として終わらせ、後の世の活動家たちの飯の種とする事で良しとするべきなのだ。
 問題なのは、今、日本人たちはそれを本気で実行するべき非常事態であると判断しつつあることにあった。

「あの計画を、実行するおつもりですか?」

 カーチス大佐は喉の奥から搾り出した声で尋ねる。
 確かに合衆国軍は、一度たりとも人道に背いたことのない品行方正な正義の使者というわけではない。
 だが、たとえ自分たちのためとはいえ、狂気しか思えない被害妄想に基づく大量虐殺に出来れば手を貸したくはなかった。
 初めて手にした圧倒的優位。
 ようやく薄れた国家存亡の危機。
 その二つを目にした日本人たちは、手段を選ばず現状維持を確実に続けるための方法を求めていた。
 彼らにとって、可能性であっても“今”を奪う可能性のある全てが抹殺すべき敵なのだ。

「カーチス大佐はなにか誤解されているようだ」

 空幕長は口元を歪めて笑った。
 その表情は、大佐の祖父が感心するほどに戦略爆撃の重要性を理解しているものだった。
 この時、空幕長もそうだが、この場の自衛隊指揮官たちは、戦略爆撃を行うことに対しては全くの躊躇がなかった。
 というよりも、戦略爆撃自体はいずれにせよ絶対に行わなければならないと判断していた。
 先程までの会話は、それが通常弾頭にすぎないという規模の小ささ故に行われていたのだ。
 だが、会話をいくら続けても、どうやら合衆国軍の隠し玉は無いらしい。
 そのように判断したから、彼は話を先に進める気になったのだ。

「技術情報の敵国研究機関への流出の可能性。
 これは、国家存亡の危機ですぞ」

 彼は別に大佐を馬鹿にしているのではなく、合衆国軍人に自衛官が先制攻撃の必要性を説くという状況を笑っている。

「手をこまねいていれば、近い将来に脅威という形で襲いかかってくるに違いない。
 そして、戦争の原則は戦力の集中。
 強烈な一撃で敵を叩きのめし、決定的な戦果を得る。
 何もおかしなことはないではありませんか」

 声をかけられた大佐は何も答えることができない。
 戦略爆撃隊や大陸間弾道弾部隊が所属するアメリカ合衆国地球規模攻撃軍団は、抑止力の維持のため、有事の際に敵国を素早く完全に破壊する事を目標としていた。
 敵よりも多くの火力を、敵よりも早く叩きつけ、敵国自体を完全に破壊する。
 戦争を早く終わらせるため、そして自国、もし可能であれば同盟国も滅ぼさないためにはそれが必要最低限の能力である。

「それに、これは我が国と共に暮す合衆国軍将兵の皆様も他人ごとではありません。
 我が国が滅ぶときは、合衆国も滅ぶ時。
 今できることをやらないで、将来後悔するというのはお互い避けたいじゃありませんか」

 その時、大佐の頭の中では何かのスイッチが入ろうとしていた。
 それは遥か昔に思える、彼が在日米軍連絡将校として配属される際の引継ぎだった。
 日本人たちはいざという時に必ず躊躇する。
 だが、大統領閣下の名前を使ってでも、有事の際には彼らの協力を求めなければならない。
 この国は、祖国の安全保障の一部に組み込まれているのだから。

「直ちに発射命令を出します。
 後続については手配がつき次第レポートを上げます」

 彼は一つの了解に達していた。
 祖国防衛。
 大使館と基地の中にだけしか存在しなくなったアメリカ合衆国。
 そこに住まう僅かな文民と同僚たち。
 自分たち軍人は、彼らを守るためにこそ存在しているのだ。

「宜しく頼む」

 彼の内心など知るはずもない統幕長は、急激な態度の変更を不審に思いつつも、その変化を受け入れた。
 かくして、グレザール帝国最大を誇る魔法学園は、滅ぼされることが決定したのだ。

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