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165 第127話 第1次スィンク沖海戦

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第127話 第1次スィンク沖海戦

1484年(1944年)4月13日午前8時32分 ユークニア島南東180マイル沖

アメリカ第7艦隊旗艦である、重巡洋艦オレゴンシティの艦内にある作戦室では、第7艦隊司令長官であるオーブリー・フィッチ大将を
始めとする司令部幕僚が詰めていた。
その作戦室内は、今、静まり返っていた。

「・・・・・通信参謀。間違いないのだな?」

フィッチ大将は、改まった口調で、紙を握り締めたまま顔を強張らせている通信参謀に聞き返した。

「はい。」

通信参謀は、小さい声音でただ一言だけ、そう答えた。
ほんの小さい返事・・・・しかし、それだけで充分であった。
フィッチ大将や、7艦隊司令部幕僚達は、ようやく状況が呑み込めてきた。

「・・・・第81任務部隊に、敵の偵察ワイバーンが現れたのは、午前8時30分。2分前です。」

参謀長のバイター少将は、無理に押し殺したかのような静かな口調で説明した。

「現在、第81任務部隊は、ユークニア島の西方520マイルを時速12ノットで航行しています。救援に向かうにも、
既に時間がありません。それに」

バイター少将は、海図にある塗りつぶされた部分を、指示棒で叩いた。

「ユークニア島の周辺海域には、大型の低気圧が居座っています。TF81の救援に向かうには、直線コースで300マイル程度まで
距離を詰めてから、F6FなりF4Uなりを発艦させるのが理想的なのですが、間に合ったとしても、TF81より300マイル地点の
海域は、この低気圧の範囲内に入っています。艦載機を向かわせる為には、この低気圧を北か、南に大きく迂回しなければなりません。」
「つまり、どう足掻いても、我々の救援は間に合わぬ、と言う事か・・・・・!」

フィッチは、悔しげにそう呟くが、冷静な口ぶりに反して、彼の顔は怒りで赤みがかっている。

「前方の敵は、偽者・・・・・俺とした事が!!」

フィッチはたまらず、大声で叫んでしまった。
普段温厚な彼としては、非常に珍しい事である。
しかし、彼が悔しがるのも無理は無かった。
TF81の護衛する輸送船が、何を積み込んでいるのか分かれば、彼の苦衷も理解できよう。


1484年(1944年)4月13日 午前10時 スィンク沖西方290マイル沖

「敵騎接近!」

レーダー員のその声が艦橋に響いたとき、場の空気はさらに重くなった。

「畜生、なんで俺達に向かって来るんだ!」

第12戦艦戦隊司令官であるリオル・テイラー少将は、思わずそう叫んでしまった。

「目立つ物がジープ空母と輸送船しかいないこの部隊に・・・・・!」

テイラー少将が率いる第12戦艦戦隊は、第8艦隊第81任務部隊に所属している。

この日、第81任務部隊は、テイラー少将が直率する戦艦テキサス、ニューヨーク、護衛空母ベルフィ・ベイ、リルネ・エスペランス、
ガムビア・ベイ、ザムシン・ベイ、護衛駆逐艦18隻でもって、ユークニア島に入港する予定の輸送船24隻を護衛していた。
護衛空母のうち、ベルフィ・ベイとリルネ・エスペランスは、格納甲板や飛行甲板に機動部隊に補充する予定の艦載機を詰め込んでおり、
船団上空の護衛はTF81旗艦であるガムビア・ベイとザムシン・ベイに任されていた。
TF81の将兵は、ただベグゲグギュスという不気味な海蛇を警戒すれば良いと思っていた。
だから、今回のように、いきなり敵機動部隊に狙われるとは、露ほども思っていなかった。
そんなTF81は、24隻の輸送船を護衛している。
この24隻の輸送船は、半数が飛行場建設用の資材や重機材を満載し、残る半数はこれから建てられる各種施設の建設資材や補給物資が
積み込まれていた。
特に、飛行場建設用の資材は重要物資であり、この資材と、今ユークニアで使用されている資材を合わせれば、飛行場の建設スピードは加速し、
来月の初めにはB-29を始めとする重爆隊が進出できるであろうと言われている。
だが、それは輸送船団が無事に、ユークニア島へ到着してからの話である。
ここで船団が壊滅的打撃を被れば、飛行場建設は予定通りに行かず、重爆隊の進出予定は遅延するだろう。
いや、それだけではない。レーフェイル侵攻のタイムスケジュールすら、大幅に遅れる可能性すらある。
そうなれば、レーフェイル各地で戦っている反乱勢力は、より一層過酷な戦いを強いられる事になる。
図らずも、今後の行方を大いに左右する事となった海戦は、今始まろうとしていた。

第81任務部隊司令官であるカール・マイアー少将は、旗艦ガムビア・ベイから発艦していくFM-2ワイルドキャットを見つめながら、
航空参謀に尋ねた。
「ベルフィ・ベイとリルネ・エスペランスから迎撃機は飛ばせるか?」
「はい。数は少ないですが、6機ずつが発艦できるようです。」
「補充用の艦載機を勝手に使って申し訳ないと思うが、今は使える物は全て注ぎ込む。そうでなきゃ、機動部隊の補充どころか、
ユークニアにすら辿り着けんからな。」

マイアー少将は、そう言って、口をへの字に歪める。
やがて、ガムビア・ベイから18機のFM-2ワイルドキャットが発艦していった。

第81任務部隊に所属する護衛空母のうち、ガムビア・ベイとザムシン・ベイは、18機のFM-2と10機のTBFを搭載している。
それに対して、ベルフィ・ベイとリルネ・エスペランスは、F6F18機、SB2C16機、TBF14機、S1A4機をそれぞれ搭載している。
傍目から見れば、機体性能の良い機を積んでいるベルフィ・ベイ、リルネ・エスペランスが最も有力な戦力に思われる。
しかし、この2艦は、機動部隊用の補充機を搭載しているだけで、しかも、通常の搭載機数よりも過剰な数を積み込んでいる。
飛行甲板には、16機のF6Fと8機のSB2Cが翼を折り畳まれた状態で並べられているが、すぐに燃料を入れて、発艦できるのは、
列の前側にいるわずか6機のF6Fのみ。
残りの搭載機は、この6機が発艦しなければ、燃料を入れても飛ぶ事ができない。
また、燃料を入れても、次に飛べるのは2機だけ。残りの機は、狭い飛行甲板に多く入るよう、1列目は艦首側、2列目は艦尾側に機首を
向けるように、前後逆の状態で積まれているため、これ以上は飛ばしたくても飛ばせなかった。
現状では、44機のFM-2と、12機のF6Fで敵編隊を迎撃するのみ。
後は、艦隊の対空砲火でどこまで敵を撃ち落すか、だ。

「今では、ジェリンファ沖海戦時の第2任務部隊の心情が良く分かるな。」

マイアー少将は、皮肉気に呟いた。

「敵編隊、南東方面より尚も接近中!距離70マイル!」
「敵編隊の規模が判明。敵は150騎前後の大編隊。」

2つの報告が、同時にマイアー少将に届けられた。

「150騎前後か・・・・こりゃ厳しいな。」

彼は、思わず顔をしかめた。
マオンド側のワイバーン群は、約150騎前後いるという。そうなると、護衛役は、最低でも50騎以上はいるはずだ。
対して、迎撃隊は56機。追加で発艦する機も含めれば60機だが、敵と3対1の差をつけられては、60と言う数では心許ない。
しかも、敵の護衛がこちらの直掩とほぼ同数となれば、直掩が攻撃ワイバーンを落とすのは困難になるだろう。

それでも、マイアーは諦めなかった。

「敵さんにこうも、数の差を付けられてしまったが、貴様らが最初の壁だ。なんとか、敵を打ち砕いてくれ。」

マイアーは、艦隊から通り過ぎていく戦闘機隊に、懇願するような口調で言葉を送った。

それから20分後、迎撃隊は敵編隊との戦闘を開始した。
ガムビア・ベイの艦橋には、スピーカーが取り付けられている。
そこから、戦闘機隊の交戦模様が艦内に伝わってきた。

「VF203が苦戦しているぞ!」
「こっちだって同じだ!敵さんのワイバーンのほうがスピードも速いからな!」
「よし!2騎目を撃墜!自動車会社が作った戦闘機も、なかなかいけるじゃないか!」
「畜生!マイリーにかぶられた!助けてくれ!!」
「くそったれめ!マイリーも弱い者いじめ以外に能があったんだな!」

無線交信を聞く限り、戦闘機隊はマオンド側のワイバーンにかなり手こずっているようである。
戦闘機隊指揮官から攻撃開始の声が流れた時、誰もが敵のワイバーン群を阻止できぬまでも、有利に戦いを進めてくれるであろうと思っていた。
ところが、今回は勝手が違ったようだ。

「司令、迎撃隊は、思いのほか苦戦しているようです。」

航空参謀の言葉を聞いたマイアー少将は、何も言わず、ただ唸るばかりである。
TF81や、輸送船上の将兵達が、スピーカーから流れて来る交戦模様に聞き入っている時、当の迎撃隊は、マオンド側のワイバーン隊と
激しい空中戦を繰り広げていた。
護衛空母ガムビア・ベイ所属のVF204指揮官であるロナルド・キチェン少佐は、今しも敵ワイバーンの突っ込みを避けた所であった。

愛機であるFM-2ワイルドキャットは、鈍重そうな外見とは裏腹に、意外と素早い機動で敵の光弾をかわした。
光弾が機体の右側を下に抜けていった3秒後に、ワイルドキャットより大型のワイバーンが猛速で急降下していく。

「くそ、敵ながらいい突込みだぜ。」

キチェン少佐は、悔しげな口調で呟く。
視界の片隅で、ぱっと炎が吹き上がるのが見えたが、彼はそれに動じなかった。
いや、動じる暇が無いと言ったほうが正しいであろうか。
迎撃隊は、敵の戦闘ワイバーンによって意外な苦戦を余儀なくされていた。

「隊長!6時下方から来ます!」

後ろの2番機から声がかかるや、キチェン少佐は咄嗟に機体を左に捻る。
左旋回をし始めたワイルドキャットのすぐ後ろを、光弾が抜けていく。上昇してきたワイバーンが、キチェン機を狙った物だ。
もう少し機動が遅ければ、今頃は後部や、尾翼の辺りに光弾を受けていたであろう。
下部後方からキチェン機を狙ったワイバーンは、左旋回に移るワイルドキャットの進行方向を読み取り、飛行機ではあり得ない動きで、
ワイルキャットの後ろに突こうとした。
ワイルドキャットとの距離が300を切ろうとした時、そのワイバーンは突如、後方から銃撃を受けた。
竜騎士が、目の前を通り過ぎた12.7ミリ弾に気付いて、キチェン機から慌てて離れようとするが、時既に遅し。
その1秒後に、機銃弾が奔流のごとく殺到してきた。
咄嗟に、竜騎士は防御魔法を発動させ、最初の連射を食い止めたが、撃ち出された12.7ミリ弾は意外に多く、僅か6秒後にして防御結界
は突き崩され、竜騎士は相棒のワイバーン共々、高速弾に体を抉られ、そして吹き飛ばされた。

「隊長!ケツにつこうとしていたワイバーンを今落としました!」
「おう、助かったぜ!」

キチェン少佐は、援護してくれた部下に感謝の言葉を送った。

陽気な口調とは裏腹に、彼の表情は険しい。

「艦隊が視認できるとこまで来たか・・・・こりゃまずいな。」

迎撃隊の狙いは、今戦っている戦闘ワイバーンを落とす事ではない。
彼らの狙いは、戦闘ワイバーンが守っている攻撃ワイバーンを出来るだけ撃ち減らすことにある。
だが、敵の護衛は思ったよりも強力であり、迎撃隊は、ワイルドキャット10機とF6F3機を撃墜されている。
それに対して、マオンド側は戦闘ワイバーン9機と、一部、乱戦を潜り抜けた迎撃機によって攻撃ワイバーン3機を撃墜されているが、
攻撃ワイバーンの被害はそれだけであり、米戦闘機隊の苦闘を尻目に、TF81との距離を着実に詰めつつある。
空戦開始から10分経って、空戦域は、艦隊上空から30マイルも離れていない所にまで移動している。

「攻撃ワイバーンを狙おうにも、戦闘ワイバーンが邪魔ばかりしやがるから、なかなか数を減らせん。」

キチェン少佐が忌々しげにそう呟いた時、右上方から猛速で向かって来る3騎のワイバーンを視認した。
3騎のワイバーンは、明らかにキチェン機を狙っている。

「もっと戦闘機を飛ばせれば、マイリーの好き勝手にはさせなかったんだがな!」

キチェン少佐は、憤りを含んだ口調で言うと、機首をそのワイバーン群に向けた。


それから更に5分が経った。

「敵編隊接近!数は約90!」
「敵編隊、分離!敵ワイバーンの半数が輪形陣の左側に向かいつつあり!」

CICから、緊迫した声音が流れて来る。

「どうやら、敵はTF81を挟み撃ちにするようだぞ。」

マイアー少将が言った。

「シホールアンルも、似たような事をしていましたな。」
「ああ。艦隊に2正面作戦を強いて、対空砲火を分散させようという策だ。シホット共め、先生としての質もなかなかのようだ。」

マイアー少将が皮肉気に呟いた時、敵編隊が攻撃位置に付いたのであろう。
それまで輪形陣の左側で旋回を繰り返していた敵ワイバーン群が突入を開始した。
輪形陣の外郭を守るのは、18隻の護衛駆逐艦である。
この18隻の護衛駆逐艦は、カノン級に属している。
カノン級護衛駆逐艦は全長93.3メートル、全幅11.2メートル、基準排水量1240トンの艦体に5インチ単装砲2門、
40ミリ連装機銃2基、20ミリ機銃10丁を搭載している。
小型の護衛駆逐艦にしては、いささか過剰と思われるほど対空火器が詰め込まれているが、その分対潜兵装も充実している。
基本的にはエヴァーツ級、バックレイ護衛駆逐艦の改良型となっているが、カノン級はエヴァーツ級には無い物を備えている。
それは、速力である。
エヴァーツ級、バックレイ級は、速力が24ノット以上出せなかったが、カノン級では強力な機関を積んだため、27.5ノットまで発揮できる。
元々、ドイツ潜水艦の脅威に対抗するために設計された護衛駆逐艦は、さほど高速である必要が無かったが、マオンド、シホールアンル側が
保有しているレンフェラルやベグゲギュスといった水中生物兵器が、海中でも18~20ノット以上の速力で動き回るため、低速の護衛駆逐艦では
捕捉が出来にくい時が多々あった。
そこで米海軍は、カノン級駆逐艦を速力を向上させた中速駆逐艦にして、敵側の水中生物兵器に備えようとした。
この18隻は、その量産型駆逐艦の第一陣にあたるのだが、皮肉にも、彼らが最初に戦う敵は、ベグゲギュスやレンフェラルではなく、
それよりも更に厄介なワイバーンであった。
護衛駆逐艦シャンクスの艦長であるゲイリー・トムスン少佐は、露天艦橋に上がって、そこから双眼鏡越しに、接近してくるワイバーン編隊を
見つめていた。

「数は30から40ほどか。多いな。」

トムスン少佐は、舌打ちした。
既に、シャンクスは2門の5インチ砲と2基の40ミリ連装機銃、5丁の20ミリ機銃を左舷側上方から迫りつつあるワイバーン群に向けている。
命令があれば、いつでも発砲できる。
やがて、シャンクスの所属する駆逐隊の旗艦から発砲命令が下った。

「撃ち方始め!」

トムスン艦長は、気合を入れるかのような大音声で命令した。
直後、艦の前部、後部に配置されている5インチ単装砲が火を噴いた。
輪形陣左側を守る僚艦や、護衛空母、戦艦テキサスも対空砲火を放つ。
ワイバーン編隊の前面や横に、高角砲弾が炸裂し、小さな黒煙が沸く。
最初は、やや的外れな位置で砲弾は炸裂したが、砲撃開始から30秒ほどで、砲弾は敵編隊の至近で炸裂し始めた。
唐突に、1騎のワイバーンが派手に弾け飛んだ。高角砲弾の炸裂を間近に受けたのであろう。
続いて、別の1騎が、砲弾の黒煙を突っ切った瞬間、ぐらりと姿勢を傾けて、それから海面に真っ逆さまになって墜落していった。
砲戦開始から1分が過ぎた時、敵編隊に変化が見られた。
敵編隊から、5、6騎ほどのワイバーンが更に別れ始めた。
その小編隊は、扇形に広がって行き、輪形陣外輪部の真上に展開しつつある。
その小編隊にも、高角砲が放たれるが、砲火が分散しているため、先よりも投射弾量が少なくなっている。
3つある小編隊のうち、1グループは、トムスン少佐のシャンクスに近付きつつあった。

「こいつは・・・・どこかで聞き覚えのある動き方だ。」

トムスン艦長がそう呟きながら、記憶をたどり始めた時、先頭のワイバーンが高度3000から急降下を開始した。

「敵ワイバーン、急降下!本艦を狙っています!」

見張りが、裏返った声で叫んだ。

敵ワイバーンが次々と急降下に写っていく様子は、肉眼でもはっきり分かった。
先頭の敵ワイバーンが高度2500まで下がるや、40ミリ連装機銃が射撃を開始する。
4丁の機関砲から発射された図太い火箭が、先頭のワイバーンに向かっていく。
しかし、弾はなかなか当たらない。
敵ワイバーンが高度2000を切った時には、20ミリ機銃までもが射撃を開始した。だが、敵ワイバーンは、シャンクスの放つ弾幕をものともせず、急速に距離を詰めてくる。
先頭のワイバーンが、高度600メートルまで降下した時、腹に抱えていた爆弾を投下した。
その直前、トムスン艦長は、

「取り舵一杯!」

を命じ、シャンクスの艦体は左に回頭しようとしていた。
シャンクスの艦首が左に回り始めた時、敵弾が右舷側後部の海面に至近弾として落下した。
水柱が高々と吹き上がり、シャンクスの艦体が揺れた。
息つく暇も無く、艦尾側から40メートル離れた海面に2発目が落下し、海水を派手に吹き上げた。
3番騎に40ミリ機銃弾が突き刺さった。
ワイバーンの顔面に命中した40ミリ弾は、そのまま頭部を粉砕し、その破片が竜騎士の右目を引き裂いた。
竜騎士は、あまりの激痛に悲鳴を上げかけたが、次の瞬間には海面に激突してひとむらの飛沫に変わった。
敵騎撃墜の喜びに浸る暇は無い。4番騎の爆弾がシャンクスの左舷側中央部の海面に至近弾として落下する。
水柱が高く突き上がり、それが音立てて甲板に落下する。
水圧によって、不運な水兵が2人甲板上に転がされ、海にひっさらわれていった。
いきなり、ガァーン!という強い衝撃が伝わった。その刹那、轟音が鳴り、何かが破壊される音が耳に飛び込んできた。
その瞬間、トムスン艦長はシャンクスが被弾したなと思った。

「後部に爆弾命中!40ミリ機銃及び後部砲塔損傷!火災発生!」

10秒ほどの間を置いて、伝声管ごしに興奮した声が流れ込んできた。被害報告を伝えて来た者は、相当に興奮しているのだろう。

トムスン艦長がダメコン班に指示を下そうとした瞬間、新たな命中弾がシャンクスを揺さぶった。
先と劣らぬ強い衝撃に、シャンクスの小さな艦体はあちこちで悲鳴のような軋み音を発する。

「中央部に被弾!火災発生!」

新たな被害報告が入ってくる。中央部に被弾となれば、機関部に損傷を受けた可能性が高い。
いや、実際受けている。その証拠に、シャンクスの速力がみるみる落ち始めている。

「わかった!ダメコン班を今向かわせる。手の空いている奴は片っ端から捕まえて消火活動を手伝わせろ!」

トムスン艦長は、苛立った口調でそう返事した。
ふと、彼は他の僚艦が気になって、周囲に視線をめぐらした。

「ああ・・・・なんて事だ・・・・・!」

護衛空母ガムビア・ベイの艦橋では、輪形陣外輪部の駆逐艦が、敵ワイバーンの爆撃によって次々と被弾炎上していく様子が一望できた。

「シャンクス、フォックス被弾!シャンクス、行き足止まります!」
「ロロ・ランペリード爆沈!ドンネル被弾!速力低下!陣形、大幅に乱れています!」

マイアー少将は、どこか放心したような表情で、その報告を聞いていた。

「いかん・・・・まずい事になった。」

マイアーは、この報告が何を意味するのか、痛いほど分かっていた。
輪形陣外輪部が攻撃を受けている。それはつまり、敵が輪形陣を崩しにかかっている事を意味している。

そして、次々と上がって来る僚艦被弾の報告は、敵の目論見が成功しつつあるという事を如実に物語っている。
輪形陣外輪部が破られれば、次に狙われるのは・・・・・もはや言うまでも無い。

「敵編隊、右舷側より30騎接近!」
「輪形陣左側より敵騎20前後接近!」

見張りの報告が艦橋に伝わって来る。
護衛空母や戦艦のみならず、護衛されている輸送船も、備砲や高角機銃を撃っている。
24隻の輸送船は、それぞれ両用砲2門に40ミリ単装機銃6丁を積んでいる。
しかし、普通の艦艇に搭載されている対空火器は、最低でもその倍以上はある。
輸送船の貧弱な対空砲火では、敵ワイバーンを阻止することは到底無理である。

「右側の敵機18騎、ザムシン・ベイに向かう!残りはテキサスに向け突入しつつあり!」

先に突出していた、輪形陣右上方の敵機が、護衛空母ザムシン・ベイと戦艦テキサスに的を絞り、攻撃を開始した。
戦艦テキサスに向かった敵ワイバーンは、その重火力の前ににたちまち被撃墜騎が相次いだ。
テキサスは、改装によって5インチ連装両用砲6基、40ミリ4連装機銃10基、20ミリ機銃42丁という重武装を施しており、その猛烈な弾幕によって、
ワイバーンは1機、また1機と櫛の歯が欠ける様に撃墜されていった。
だが、高速で飛行するワイバーン相手に、対空砲火のみで阻止できる道理が無い。
残り10騎に減ったワイバーンは、次々に爆弾を投下した。
テキサスの周囲に爆弾が落下し、1発が左舷側の5インチ砲を真上から叩き潰し、炸裂。
火柱が立ち上り、人体のかけらを含んだ夥しい破片が、甲板上や海上に吹き散らされる。
別の1発は、テキサスの第1砲塔に命中した。
300リギル爆弾が砲塔に命中した瞬間、爆炎が沸き起こったが、いくら対艦用の爆弾とはいえ、分厚い砲塔上面を貫通することは
出来ず、ただかすり傷を付けたのみにとどまった。
都合3発がテキサスに命中し、両用砲2基と機銃座3基が破壊され、火災を発生したが、旧式とはいえ戦艦の重防御は依然健在であり、被害は軽微であった。
だが、ザムシン・ベイは違った。

ザムシン・ベイはキトカン・ベイ級護衛空母に属する艦であり、元々、商船改造の空母であるから防御力はお粗末な物だ。
ただ、軽防御な護衛空母と言えど、それなりの対策は施してあり、対空兵装は5インチ単装両用砲4門、40ミリ連装機銃8基、
20ミリ機銃20丁と、そこそこ充実しており、
艦自体の防御も、主要部には薄いながらも装甲を取り付け、機関部をシフト配置にするなど、努力の面が見られる。
ザムシン・ベイが対空砲火を必死に打ち上げる中、敵編隊は左右両側に別れて、2方向から突進して来た。
ザムシン・ベイの対空砲火が、一層唸りをあげる。
右側から迫っていたワイバーン群の先頭が高角砲弾によって吹き飛ばされる。左側から迫っていたワイバーンのうち、2番騎と3番騎が、
40ミリ機銃によって一瞬のうちに射殺された。
ザムシン・ベイが左に回頭し始める。その時には、右側の敵ワイバーンが爆弾を投下した。
ザムシン・ベイの左舷側に、次々と水柱が吹き上がるが、弾着は全て外れであった。

「いいぞ!頑張れ!」

基準排水量8000トン足らずの護衛空母が見せた意外な奮闘に、護衛艦のみならず、輸送船上に居た将兵もが、ザムシン・ベイに声援を送る。
だが、その声援も、ザムシン・ベイの艦上で煌いた閃光によって無為に返した。
左側から急降下してきたワイバーンの1番騎が、被弾しながらもそのまま突進を続け、あろう事か、ザムシン・ベイの飛行甲板中央部に激突した。
その直後、腹に抱えていた爆弾は爆発し、ザムシン・ベイの甲板は、真ん中から断ち割られた。
2番騎の爆弾が、ザムシン・ベイの右舷側海面に着弾し、水柱を跳ね上げる。
3発目、4発目が後部甲板に命中した。
爆弾は、2発とも飛行甲板、格納甲板を突き破り、第3甲板で炸裂した。
第3甲板の通路で、仲間に頼まれて修理用の器具を取りに行っていたある水兵は、突然起こった爆発にふわりと体を持ち上げられ、次いで、背中を壁に打ち付けた。

「ぐはぁ!」

いきなり伝わって来た激痛に、彼は一瞬意識を失いかけた。
ぼうっとなる視界は、いつの間にか通路の入り口に向けられていた。その入り口には、誰かが頭を抑えながらこちらに話しかけている。
口の動きからして、大丈夫か?と尋ねているようだ。

ああ、大丈夫だよ、と彼は言いかけた。その刹那、どこぞから流れてきた炎交じりの爆風に、その水兵は吹き飛ばされた。
戦友のあっけない死に、彼は驚くどころか、むしろ夢を見ているかのような気持ちに包まれていた。
目の前に、貫通してきた爆弾が突き刺さった時も、彼は何ら恐怖を感じなかった。
ザムシン・ベイに4発目、5発目の爆弾が落ちた時、艦の機関部は半分が破壊されていた。

「ザムシン・ベイ5発被弾!あ、行き足が鈍っています!」
「リルネ・エスペランスに敵ワイバーン接近!」

ザムシン・ベイが受難を受けている時、リルネ・エスペランスもまた、敵ワイバーンの攻撃を受けていた。
リルネ・エスペランスには、輪形陣左側より接近したワイバーン全て(といっても、19騎しかいないが)が襲い掛かった。
リルネ・エスペランスを攻撃した敵ワイバーンはたまたま技量が低かったのか、対空砲火によって2機のみが撃墜され、大半が健在であった
のにもかかわらず、爆弾はほとんど外れてしまった。
だが、隊長騎の爆弾と、最後の2騎のワイバーンの爆弾がまぐれで命中した。
3発中、1発は不発弾であったが、2発はしっかり起爆した。
1発目は、リルネ・エスペランスの後部格納甲板で炸裂した。
格納甲板には、機動部隊に補充する予定の艦載機が詰め込まれていたが、この爆発によって5機のヘルダイバーと2機のハイライダー、
2機のアベンジャーが破損した。
被害はこれだけに留まらず、後部に纏まって駐機していた艦載機群が一気に爆砕された。
2発目の爆弾は中央甲板に突き刺さり、格納甲板で炸裂した。
この被弾も、格納甲板の補充機を破壊した。
たった2発の爆弾によって、リルネ・エスペランスは母艦機能を喪失したほか、機動部隊用の補充機は全滅状態となり、それが火災の延焼を
招くと言う事態に陥った。
リルネ・エスペランスの被爆を最後に、敵編隊の空襲は終わりを告げた。
マイアーは、いつの間にか、空襲が止んでいる事に気が付いた。

「参謀長、TF81が受けた被害は、どれぐらいになる?」
「はっ・・・・ただいま集計中です。もうしばらくお待ち下さい。」

「ああ、分かった。」

マイアーは力無く頷いた。どうせなら、報告せんでも良いぞと言おうとしたが、今は冗談を言う気力も残っていなかった。

「少なめに見積もっても、護衛駆逐艦1、2隻が沈み、護衛空母2隻は大破確実だな。」

マイアーは、右舷後部に見えるリルネ・エスペランスを見つめながら呟いた。
リルネ・エスペランスは、飛行甲板から盛大に黒煙を噴きながら海上をのた打ち回っている。
リルネ・エスペランスとガムビア・ベイは2000メートルほど離れているが、この遠距離からでも、リルネ・エスペランスから吹き上がる炎がはっきり見える。

「まさか、俺達に向かってくるとはな。」

彼が独り言を言った時、ふと、ある事に気が付いた。
マイアーは、体の向きを反転させて視線の輸送船団に向ける。

「司令、迎撃隊が戻って来ました。」

航空参謀の声が聞こえた。マイアーは、視線を船団に向けたまま航空参謀に聞いた。

「迎撃隊は、何機残っている?」
「はっ、38機です。損傷機もかなりいるようです。」
「そうか・・・・・」

マイアーはそう返事しながらも、どうも納得がいかなかった。

「どうして、奴らは輸送船を襲わなかったんだ・・・・・」

彼の疑問は、瞬時に氷解した。

「戦艦ニューヨークより通信!我、敵大編隊をレーダーで探知せり!」


マオンド海軍第1機動艦隊から発艦した第2次攻撃隊は、第1次攻撃隊が攻撃を終えて20分後に、目標上空に到達した。

「第1次攻撃隊はよくやってくれた!敵の陣形が乱れている!」

攻撃隊指揮官であるサドヌ・トランキ少佐は、崩れた輪形陣を見るなり、思わず快哉を叫んだ。
輪形陣を構成していたアメリカ軍艦は、半数近くが低位置に付いておらず、そのやや後方の海域には、いくつもの黒煙が吹き上がっている。
よく見ると、平べったい甲板の船2隻が、停止しながら燃えている。
紛れも無い空母である。
敵艦隊の上空では、敵の艦載機と思しき機影が旋回しており、そのうちの一部は空母へ着艦しようとしている。

「ようし、行くぞ!」

トランキ少佐は、ただ一言だけ命じた。
やがて、全部隊が敵艦隊に向けて突進し始める。
第2次攻撃隊は、竜母ヴェルンシア、ミリニシア、イリョンスから戦闘ワイバーン12騎、攻撃ワイバーン16騎ずつ。
小型竜母のイルカンル級3隻から戦闘ワイバーン8騎、攻撃ワイバーン6騎、計124騎で編成されている。
ヴェルンシア級3隻は輸送船団を、イルカンル級3隻は、空母か戦艦を攻撃するよう命じられていた。
アメリカ軍機が20機ほど向かって来たが、護衛のワイバーンによってたちまち乱戦に引き込まれていった。

「隊長!“アレ”の準備はできてますかい?」

敵船団に向かっている途中、部下から魔法通信が送られてきた。

「おう、バッチリだ!お前のほうはどうだ?」
「準備良しです。今日はいい絵が取れますよ!」
「そうだな。頼りになる同盟国から頂いた品だ。迫力満点の絵を撮ってやろう!」

彼は、気合を入れるようにそう言うと、相棒を更に加速させた。
まだ、帝位置に付いている護衛艦や空母、輸送船から対空砲火が打ち上げられてくる。
第1次攻撃隊は、相当の打撃を与えたようだが、アメリカ軍艦隊は未だに激しい弾幕を展開できるほど、対空砲に余裕があるようだ。

「こりゃ、聞きしに勝る激しさだ。シホールアンル軍が苦戦するのも無理は無いぜ。」

トランキ少佐は、一瞬だけひるんだ表情を浮かべるが、それを振り払って、目標である輸送船を睨み付けた。
輸送船団は、縦に6隻、横に4隻の4列縦隊で航行している。

「ヴェルンシア隊第1、第2小隊は、一番左側の輸送船を狙う!第3、第4小隊はそのすぐ後ろの輸送船を狙え!」
「「了解!」」

部下達の声が、脳裏に響く。
ヴェルンシア隊16騎の攻撃ワイバーンは、しばらくは高度1500グレルの高みを飛行し続けた。
周囲には、盛んに高射砲弾が炸裂するのだが、不思議に当たらない。
たまに、砲弾が近くで爆発してヒヤっとする。
奇跡的に、ヴェルンシア隊は1機も失う事無く、目標の上空に到達した。

「突撃!」

トランキ少佐は魔法通信で命じながら、自分が先頭に立って敵艦に突っ込んでいく。

トランキの直率する第1、第2小隊は、最前列左の輸送船を目標に定めている。
その輸送船から対空砲火が打ち上げられて来る。
やや図太い火箭が、最初はゆっくりと上がり、近くに来ると猛速で通り過ぎていく。
急角度で降下しているため、時間が経つにつれて苦しみが増してくる。
真後ろで高射砲弾が炸裂した。一瞬、悲鳴のような物が聞こえたと思ったが、彼は気にする事無く高度を下げていく。
頭や体が、圧力によって締め付けられるが、トランキ少佐は必死に耐えた。
そして、高度200グレルに下がった所で、腹の300リギル爆弾を投下した。

「上がれぇ!」

トランキ少佐は、相棒に指示を送る。青いワイバーンは、御者の指示に従って姿勢を起こし、下降から水平飛行の態勢に移る。
唐突に、バシィ!という音が鳴る。敵弾を受けた時に発せられる音だ。
トランキ少佐は、一瞬首を竦めたが、自分の体にも、相棒にも無事だ。飛行服にも傷ひとつついていなかった。

「危なかった・・・・魔法防御が無ければ、一瞬でやられていたな。」

彼は、ため息混じりにそういった後、首を後ろに捻った。
彼が狙った輸送船は、前部と中央部から爆炎と黒煙を吹き上げつつあった。

海軍工兵隊に所属するロン・コナーズ兵曹は、手前の僚船が被爆炎上する様子を、驚愕の表情で見つめていた。

「おい、こっちにも来るぞ!」

仲間の悲鳴じみた声が上がった。上を見ると、コナーズ兵曹の乗る輸送船にも、8機ほどのワイバーンが急降下で迫りつつあった。
船体中央部にある船橋に取り付けられた40ミリ機銃が射撃しているが、射手が下手糞なのか全く当たらない。

「おい!しっかり狙え!」
「どこ見て撃ってんだ!目はついているのか!?」

一向に落ちぬ敵ワイバーンを見つめていた仲間達は、下手糞な射撃を行う水兵を次々に罵った。
敵ワイバーン群の先頭が高度2000メートルを切った瞬間、その横合いから2機のワイルドキャットが突っ込んで来た。
両翼の12.7ミリ機銃を乱射しながら、ワイルドキャットはワイバーンに迫り、そして、一瞬のうちに過ぎ去って行く。
直後、2騎のワイバーンが隊列から離れ、そのまま墜落し始めた。
初めて間近で見る、友軍機の勇気ある行動に、甲板上の工兵隊員達は歓声を上げた。
その報復は、コナーズ兵曹の乗っている輸送船に叩きつけられた。

「敵が爆弾を落としたぞ!」

敵機撃墜の喜びも束の間、先頭のワイバーンが爆弾を落とした。
輸送船は、回避する間もなく爆弾を受けてしまった。
その300リギル爆弾は、船橋のすぐ後ろの甲板に命中し、船倉で爆発した。
船倉には、飛行場建設湯用の工作機械が満載されていた。爆弾は、ブルドーザーの群れの中で爆発し、10台以上のブルドーザーや
パワーショベルを破壊した。
2発目は外れたが、3発目、4発目が前部甲板や船橋に命中した。
船橋に命中した爆弾は、そのすぐ右側にあった煙突を穴だらけににし、船橋内で指揮を執っていた船長や士官達を殺傷した。
前部甲板の爆弾は、第2甲板で爆発して、そこに積まれていた各種物資が一瞬にして灰に変えられた。
最後の1発が、船首甲板に止められていた重機材に命中した。パワーショベルやローラーが、1発の爆弾によって吹き飛んだ。
コナーズ兵曹は、咄嗟に身を伏せて、襲い来る爆風からなんとか逃れた。
やや間を置いて、背中の上を吹きぬけた爆風が止んでいる事に気が付き、恐る恐る顔を上げた。
40メートル手前にあった重機材が、訳の分からぬ鉄くずに変えられていた。

「ああ・・・・俺達が使うはずだったパワーショベルが・・・・あんな姿に・・・・!」

コナーズ兵曹は、愛用していたパワーショベルが、醜いオブジェと化した姿を見て、思わず涙をこぼしてしまった。

午前11時30分 

TF81は、敵の2次に渡る空襲で大きく傷ついていた。
司令官であるマイアー少将は、参謀長が読み上げた被害報告を聞くなり、失望した表情を浮かべた。

「敵の狙いは、機動部隊ではなかった。」

マイアーは、南東の方角を見据えながら、呪詛を吐くように呟いた。

「敵は、最初から俺達が狙いだったんだ。」

マイアーは、がくりとうなだれた。
TF81が被った損害は、護衛空母ザムシン・ベイ、護衛駆逐艦2隻、輸送船3隻沈没。護衛空母ベルフィ・ベイ、リルネ・エスペランス、
護衛駆逐艦4隻、輸送船6隻大破。護衛駆逐艦1隻、輸送船5隻中破、戦艦テキサス、ニューヨーク小破、戦闘機喪失38機という物であった。
空母ザムシン・ベイは、当初は火災だけで、鎮火すれば助かる見込みはあったのだが、午前10時52分に弾火薬庫が誘爆、午前11時12分には艦体を
真っ二つに折って沈没した。
それに加え、機動部隊の補充機を積んでいたベルフィ・ベイとリルネ・エスペランスは、沈没こそは免れたが、被弾によって搭載機が全滅し、
機動部隊の艦載機補充は出来なくなった。
護衛駆逐艦も19隻中2隻沈没、4隻大破、2隻損傷の損害を受け、TF81は護衛部隊として壊滅同然であった。
だが、最も痛いのは、ユークニア島へ入港予定の輸送船が打撃を受けた事である。
撃沈された輸送船は、いずれもが飛行場建設用の資材や、重機材を満載しており、この時点で予定数の3割近くが失われた。
それに加え、沈没はしないでも、損傷した輸送船内で破壊された重機材は少なからずあり、このままユークニアに言っても、予定の半数以下しか、
資材を現地部隊に渡せられない。
補給物資も同様であり、損傷船内で焼失した物を引くと、最大でも8割近い数の物資しか与えられない。
いや、現状では、残りの物資すら届けられない。
何故なら、TF81は、舳先をアメリカ東海岸に向けているからである。

「第7艦隊司令部から、第8艦隊司令部に俺達の撤退が要請されたようだな。俺としては、せめて、残りの物資でも運ぼうと思ったのだが。」
「しかし、敵機動部隊が遊弋している今、航空戦力が不足している艦隊がスィンク諸島に近付けば、たちまち敵機動部隊の餌食になります。
我々のように・・・・!」

参謀長が、マイアーに言いながら体を震わせた。
参謀長自身、はらわたが煮えくり返るような思いだ。

「まぁ、今がこのような現状なら、撤退を命ぜられるのも致し方ない。ここは、上層部の意向に従うしかないな。」

マイアーはそこまで言ってから、視線をガムビア・ベイの艦長に向けた。

「艦長、今日の操艦は良かったぞ。」

声をかけられたガムビア・ベイの艦長は、マイアーに顔を向けるなり、ありがとうございますと答えた。
ガムビア・ベイは、敵の第2次攻撃の際に、12機のワイバーンに狙われた。
だが、ガムビア・ベイは、巧みな操艦で敵の爆弾を次々にかわした。
僚艦が次々と被弾する中、ガムビア・ベイが無傷で凌ぎ切った事は、ほとんど奇跡といっても良かった。
その奇跡を呼び起こしたのが、マイアーの目の前にいる艦長、トリス・シアーズ大佐である。

「君のお陰で、TF81は、辛うじて稼動空母を残す事が出来た。君の活躍は、まさに名誉勲章ものだよ。」
「いや、私はただ指示を下したまでです。本当の功労者は、それを忠実に守り、実行した部下達です。」

シアーズ艦長は謙遜するが、表情からしてまんざらでもない様子だ。

「司令、今は敵の第3次攻撃に備えましょう。幸い、ガムビア・ベイには、少ないながらも26機の戦闘機が着艦しています。これらに燃料、
弾薬を補給して上空援護に回すべきです。」

航空参謀はすかさず進言した。その進言を、マイアーは二つ返事で受け入れた。
撤退を始めたTF81は、よろめくようにして東海岸沖に向かい始めたが、マイアーの予想に反して、敵のワイバーンは1騎も現れなかった。

午前11時35分 第7艦隊旗艦 オレンゴンシティ

重巡オレゴンシティの作戦室内は、暗然とした雰囲気に満たされていた。

「TF81の撤退は、現状から判断してやむを得ぬ選択だ。」

フィッチ大将は、重い口調でそう告げた。

「敵機動部隊がユークニア以西にうろついている限り、我々は満足な補給は受けられぬだろう。」
「補給線に対する攻撃はあると予想はしていましたが、まさか、あのマオンドが機動部隊を投入して来るとは思っても見ませんでした。それも、
偽の竜母を用意して、注意をそらしている間に。」

バイター参謀長が苦虫を噛み潰したかのような表情で呟く。

「てっきり、敵の狙いは、TF72だと思っていたのですが。」
「むしろ、マオンドだからこそ、今回のような行動に出たと言えます。」

作戦参謀が口を挟んだ。

「マオンドは、あらゆる面で我々を警戒しています。そんな彼らが、何故TF81が護衛していた輸送船団を狙ったか。それは、飛行場建設を
遅らせるためです。飛行場が完成すれば、重爆隊が進出できる。その中には、太平洋戦線で暴れているB-29が含まれる可能性がある。B-29の
航続距離なら、北は被占領地であるルークアンド北西部や、南はマオンドの本国という、広範囲の場所を叩けます。マオンド側がB-29の詳細を知れば、
彼らは当然、行動を起こすはずです。」
「要するに、米本土からスィンクに向かう輸送船団を、片っ端から叩きのめし、飛行場建設のみならず、我々の大陸侵攻をも遅らせる、と言う事か。
マオンドにも、侮れぬ策略家がいるようだな。」

フィッチは、不謹慎と思いつつも、マオンド側の戦略に感心した。
いくら強力な地上軍や、大艦隊といえども、補給が無ければ役立たずの集まりに過ぎない。
アメリカが南大陸でやった事を、マオンドはそっくりそのまま行おうとしているのだ。
その結果が、TF81の避退反転である。

「まさか、偽の竜母を仕立て上げるとは、これは一本取られたな。それにしても、漸減作戦とは、マオンドらしからぬ賢明な判断だ。」

フィッチは、自嘲気味に呟いた。

「だが、我々は、あの時のシホールアンルとは違う。敵が外洋に出て来たのなら、むしろ好都合だ。」

彼は、自信ありげな口調で言い放った。

「第7艦隊は、これより敵機動部隊の撃滅を最優先任務とする。マオンド軍に、真の機動部隊決戦という物を知らしめてやろう。」
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