自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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匿名ユーザー

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「政府が躍起になって隠そうとしている真実」
「真実は」
 中人は薄く目を細めつつ唇の両端をわずかにつり上げる。
 判りづらい表情の変化、彼女は微笑んでいた。
 何かの企みごとがうまく運んだ、満足の笑み。

「日本が異世界に召喚された。ということです」
「『召喚』か。キツイ冗談だね」
「あなたはそういったことに理解があると思っていたんですが。残念ですよ」
 そう話しつつも黒桐はちっとも残念そうな顔をしていない。
 茂人は苦虫を噛み潰した顔をしていた。

 7月1日、午後12時0分、日本領土以外との通信が途絶。
同時刻、竹島沖に3万人150隻からなる軍団が突如出現。
竹島占領している韓国軍と謎の軍隊が戦闘を開始。
撃退後、海上自衛隊と航空自衛隊の共同による周辺国の状況確認開始。
偵察衛星、日本を含む各国の状態を確認。
本来の地球ではありえない国や大陸が写る。
追加調査により、未確認生命体や現代の常識では計り知れない現象が観測。
星の位置がおかしいと報告。
我々の居た世界とは異なると結論が出た。

「『召喚』?その状況では『転移』と呼ぶのが正しいのでは」
「私も最初は同じ考えを抱いていました。ですが、今回の事件について不自然な点が多すぎます」
 ひとつ、日本領土又は主張している領土だけが正確に切り取られて転移。
ひとつ、転移時に何も混乱が発生していない。日本各地の地震計だけが震度7を指している。
ひとつ、地球に似た惑星に日本がよばれ、緯度経度変わりない地域に出現。
ひとつ、気候もさほど変わりない地域に出現。
ひとつ、兵力3万人が一瞬で海上に出現。

「最初から最終回だな」
「出来過ぎですよね?だから人為的に仕組まれた『召喚』と呼んでいます。
 私は『召喚』でなく『召還』が正しいと思っているのですが、まだ証拠が足りません」
なるほど、衝撃的な事実だ。突飛過ぎて世間に公表できまい。

「いったいどうすればいい」
「日本だけが異世界に転移してしまうと問題があります。資源がない」
「そこで僕が呼ばれたと」

 やっと話が繋がって来た。
日本は島国である。世界基準でも裕福な国であり、
少子化が叫ばれている今でも、面積に対して人口は過密である。
日本人の人口だけでも1億2500万人、更に駐留外国人が加算される。
食料自給率は多く見積もって30%、鉄鋼や石油などほぼ全ての資源を輸入に頼っている。
それでも国の体制を維持できているのは加工技術に優れた国だからだ。
輸入した資源に更なる付加価値を付けて輸出してバランスをとっている。
 異世界に呼ばれ、此れまで築きあげてきた食料や資源の繋がりを断ち切られた。
早期に貿易を回復できなければ、過剰な人口を持つ日本は島ごと餓死する。
輸入なしでは1年も持つまい。
 最初部屋に来た時思っていたよりずっと重要な仕事だった。

目の前の敵を排除する前に、腹を満たさなければ生存すらままならない。

「敵勢力は分析できているのかな」
「封筒に入っている報告書に事件の流れと、これまで判明したことが大まかに書いてあります」

 報告書を総合すると以下のようなものになる。

 通信テロ直後に兵力3万からなる軍が突如出現、
軍の先行を行うように移動し、国境を越えようとしていた相手の使者を
最初に叩き落したのは竹島に駐留している韓国軍である。
直後に周辺海域から敵航空部隊が飛来、攻撃開始。
周辺海域で異世界の生物狩りを行っていた航空自衛隊が対応、威嚇射撃を行い領空から撃退。
日本政府は竹島周囲の敵航空部隊及び上陸部隊に対し静観を決め込んだ。
韓国軍300名は一人残らず殲滅され、相手の死者は9000人を出した。

 日本国としては一発も相手国に向かって命中弾を出していない。威嚇射撃のみである。
戦争の引き金を引いたのは韓国軍の暴走によるところが大きい。
結果的に日本政府は、労せず不法駐留する韓国軍を排除できた。

 戦略資源のない竹島へ襲撃した目的は不明。使者を殺された報復と考えられている。
上陸部隊は旧ソ連式に近い制度をとっており、監督部隊が存在する。
背中に魔法を突き付け、無理矢理戦わせていたと緊急出動していた自衛隊観測部隊からの報告あり。
検死の結果、異世界人類の体からは麻薬に似た薬物反応と、使用していた薬物が発見されている。
ドワーフ、エルフ、人間、複数の“生物種”が混在する部隊で
型と紋章が似た複数種の鎧から、多国籍の連合軍又は派兵されてきた部隊。
統制の取れなさから、徴兵されて各地域から来た混成部隊の可能性がある。

 そのため、監督部隊制度とあわせて考えると相手は覇権国家である可能性が高い。

 敵軍の装備は全般的に中世レベル、鎧や盾、長弓を使い、
艦船はフリゲート級のガレー船が主力で、撤退時には最高速度で10ノット。
地球で過去に使われていたガレー船の6ノットよりも遥かに速く航行できる。
船には氷室に『何か』を加えた簡易的な冷蔵庫が存在していた。詳しい構造は解明されていない。
中世レベルの科学技術にしては不釣合いな現象は『魔法』によるものと考えられる。
対艦装備はバリスタが主力で、火薬の類は確認されなかった。
代わりに『魔法』が存在し、刻印が彫られたアルミ並みの強度を持つ木や、
本来の強度を上回る武器が確認されている。船底に正体不明の鉱石が確認され、現在調査中。
兵士は全般的に貧しい者が多く、エリートとそうでない者との差が激しい。

 艦艇には簡易空母的なリュウキシ専用艦あり。
リュウキシの行動半径は25km。戦闘時最高速は時速300km巡航速度150km。早期警戒機によって観測。
外洋渡航能力の限界なのか小規模艦艇は存在せず、全てがフリゲート級以上の艦種だ。
兵種を考えると、最初から上陸戦を目的にしていた可能性が高い。

 他、道具や武器、倉庫にあった食料品については分析中。
奇妙な文様の意味についても調査が急がれている。

「召喚直後から竹島駐留の韓国軍が隣国らしき部隊と交戦開始。退けました。
 向こう側の死者だけでも9000人近い、戦争状態ですね」
「まるで相手からは僕達から戦争を始めたように見えるだろうな。
 宣戦布告なしの戦闘行動、150隻の大艦隊の目前で使者を撃墜。戦争に十分な理由だ
 戦略拠点の皆無な竹島を襲撃したのは報復措置か。それとも別の理由があるのか」
「茂人さんはこの報告書をどう考えます」
「生産加工、軍事技術は圧倒的に此方が優位に立っているが、大国と取引が出来なくなるのは苦しい」
「大国ですか」
「多様な人種、多勢力を表す紋章、150隻も用意できる経済力、監督部隊がそれを表してるよ。
 150隻は地球の中世の大戦で行われた戦闘基準で考えると大戦力だ。
 僕が地方都市の領主だったら船団が来たとたん恐れ多くて土下座するね」
「戦争よりも、貿易できなくなるほうが危険だ。
 大国であるというのはそれだけ周辺国に影響を及ぼせるわけだから。
 経済制裁のほうが派兵より容易だしね」

 中世の戦闘を例にするなら1571年に行われたオスマン帝国と
 教皇・スペイン・ヴェネツィアの連合海軍の海戦がある。ガレー船が多く使われていた時代だ。
 両軍の総力を使ったレパントの海戦では両者400隻近くの船が戦闘に参加した。
 歴史を参考にするなら日本に派遣した150隻は方面軍だろう。
 相手は小さな島国日本、中小国相手相手に十分な戦力を派遣したと思っていたのだ。。
 敵は突然召喚された戦闘準備も整っていない国、しかも直後で他国との防衛協定が結ばれていないので
 横槍を入れられる心配も少ない。いきなり戦闘を仕掛けてきたのは戦争に自身がある国だったのだ。

 きっと前にも同じようなことをしていて成功していたのではないか。
 相手は突如現れた。しかしどんなに優れた技術を持っていようが、
 150の船と3万人も動員するには時間と準備が必要だ。
 3万人に呼びかけ、一箇所に集めるだけでも時間が掛かる。
 相手は整然と戦闘行動を開始、“予め決められていた”ように動いた。
 だからこそ、“前にも同じようなことがあった”と考えられた。
 でもない限り、正体不明の島へいきなり侵攻しようとは思わない。島国相手だと見誤った可能性がある。

「大国である相手国が島国へ大群を派兵する必要がありますか」

 いきなり軍を派遣する強引で高圧的な態度、多民族国家、鎖国された(召喚直後の)国への交渉
 前にも同じことがあったかのような入念な準備。つまり、

「もちろんさ。圧倒的な軍事力を背景にした黒船外交だよ。そして彼らは失敗した」

「監督部隊があるのは逃げたり戦闘放棄をする隊を恐怖で支配するために居る。
 相手にも複雑な事情があるらしいね。付け入る隙があるとしたらそれだろう。
 それにしても、報告書は軍事情報と調査中、分析中、~と予想される、ばかりだな」
「自衛隊が主体となって情報収集したので軍事的観点になってしまうのは仕方がないでしょう。
 後追いでより詳細な報告が入りますよ。科学分析には時間が要ります」

「肝心の国際情勢は。他にも周辺国の経済状態や国の位置を確認したい」
「難しい相談です。襲撃撃退以来、周辺国は驚いたせいか使者を派遣してきません
 よって接触もありませんので衛星写真で発見できるのは大まかな集落だけでグループの違いまでは」
「まるで経済制裁だね。直接会いにいくか、向こうからの接触を待つしかないか」
「来るのは一ヶ月先か二ヶ月か、待つ間に日本は干上がりますね」

「資源も、物資もない。食料すら危うい。普通なら行き着く先は戦争と略奪だね」
「物が買えなければ、の条件付ですが」
「当分先は貿易の相手先を増やすのに奔走しそうだ」

もっとも、貿易が出来ないならば武力で恐喝するなりしなければいけないだろう。
話し合いを待っている程悠長な真似はできない。
この世界の国家より軍事力も生産力も圧倒しているのに頭を下げるのは不服だが
最悪、全方位土下座外交をしなくてはいけないだろう。
最低でも国内の食料がなくなる2ヶ月半以内に調達先を見つけ、貿易を開始しなくてはならない。

性急な市場調査と交渉の場が必要であった。


「で、あの小さな子は?呼び出されたからには関係があるんだろう?」
「竹島戦で唯一生き残った生存者ですよ」
「親御さんは?」
「敵軍撤退後、数人が島に取り残されました。放り出された彼女達は集団自決です」
「惨いな。可哀相に」

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