自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

単発外伝『とある新聞の社説より』

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Turo428

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今、我が町内が米不足、物不足で困っている。
隣町の米屋が米を売ってくれると言うから、そこに行ってみたら
「今、店が火事だから、助けてくれたら米を売る」と言うので、消火を
手伝ってなんとか火を消したら、今度はその米屋の火が隣の雑貨屋に飛び火していて、
今、その雑貨屋の延焼と戦っている。我が町の消防団が優秀なのは皆知っているし、
消火してやれば雑貨屋の商品も売ってくれると言うから、無駄な人助けではない。

それに、現に困っている人を見て見ぬふりは良心が許さないだろう。
無償の人助けだって、それで相手が救われるならばそれも良いだろう。
しかし、そうやって消防団が必死に火災と戦っている間、米も雑貨も入って
来ない我が町は身動きが取れない。一刻も早く、付近を鎮火させねばならない。
火災がかなり激しいというなら、町長は消防団の増員も検討すべきではないか。
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“個人的な会食”として、国防大臣が総理大臣を誘って切り出した話題は、ある大手新聞の社説であった。

「ああそうだ、火災の鎮火は大事だよ。消防団の増員も良いかも知れんね。
 新聞社が消防団の活動費用を全部負担してくれるなら、やりましょう。
 でもな、火災が鎮火しないから米が入って来ないんじゃないんだ。
 米屋の在庫がそもそも少ないのと、隣町との道路が良くないから運んで来れないだけだ。
 何度説明したら解ってくれるんだろうかね。従軍記者だって居るだろうに、何を取材してる?」

皇国の従軍新聞記者は、大陸で活動する軍に安全保障を全面的に委ねている。
新聞社が所有する飛行機だと航続距離や受け入れ先の問題で運用出来ないので、
大陸で撮られた写真のフィルムや記事の輸送は海軍の飛行艇が通常の軍事輸送や連絡のついでに請け負っている。
そこまで、軍は新聞社に協力して“我々は頑張ってますよ”というアピールをしているのに、
新聞社はご不満らしい。現行の活動では不十分、もっと頑張れという事なのだから。

「これが、軍が寄越した相手さんの港の写真。で、こっちが同じ港を撮った新聞社の写真だ」
海軍の撮った写真には、大国であるユラ神国やリンド王国の“主要貿易港”の現実がありありと写っている。
横浜や神戸と比べるのは酷としても、これでは相手に在庫があったとしても運びようが無い。
むしろ、現状はこの“港の規模と能力”からすれば随分物資が入ってきていると、
皇国の官吏や貿易関係者、現地の港湾労働者を褒め称えても良いくらいだ。
相手国の港は皇国船だけが利用するのではない。列強国だからこそ、多くの国の船が利用する。
その合間に、よくこれだけの物資を届けてくれていると、内地の議員や官吏も感動を隠せない。

対して新聞の写真は、そういう現実が見えない角度から巧妙に計算されて撮影されたとしか思えない。
“風景写真”としては合格かもしれないが、“報道写真”としては失格である。
西洋風の街並みで『大国』と宣伝されれば、無批判な人は勝手に相手国を
“20世紀の”アメリカやイギリス、フランスと同等の国だと考えるだろう。

相手国を貶めろという話ではない。街並みは整って文明国であるのは事実だろう。
ただ、それは“江戸時代の文明国”なんだ。“20世紀の文明国”じゃないんだよ……。

東京のデスクで踏ん反り返ってる本社の編集者はともかく、大陸派遣の記者は
現地の軍人や官吏の頑張りを肌で感じていても良いだろうに、何なんだこの記事は!


確かに、
『ちょっくら隣町に火消しの応援に行って、帰りに色々買ってくる』
という前提で消防団を送り出したのは事実だ。
だが、待てど暮らせど火災は消えず、買って帰ってくる筈の品物も入って来ないから、
町の人もそろそろ不安なのだろう。だが、その不安を煽ってどうする……。
一歩々々の歩みの幅は小さいかも知れないが、確実に進んでは居るのだ。

「神賜島の時は天佑だの僥倖だの大騒ぎして、内容が極端なのは何とかならんのかな」
報道が国民を煽って、政府が国民を落ち着かせるのに奔走する。
本来は逆だろうに……皇国の総理大臣の悩みは尽きない。

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