自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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4 接敵


 舞鶴市は、市街地が西と東に分割された都市である。西は田辺城址を中心とした古くからの城下町であり、東は帝国海軍舞鶴鎮守府の設置とともに発展した軍港都市であった。
 都市の成り立ちが違えば当然住民の気質も異なる。実際、過去には舞鶴市を東と西に分離しようという運動が、住民の間で進められたこともあった。
 地理的には、舞鶴市の南には綾部市が存在する。綾部市から北上した国道27号線は、海岸付近で左右に分岐する。左(西)へ進めば宮津天橋立方面へ、右(東)へ進めば東舞鶴方面へ続いている。
 西舞鶴と東舞鶴を結ぶ主要道路は、この国道27号線と、通称「白鳥街道」と呼ばれる県道28号線の2本であり、国道27号線は五老岳、県道28号線はは白鳥峠を越えなければならなかった。

 警察と自衛隊は、この2箇所を第1次防衛線とし、東舞鶴への敵の侵入を食い止め、その間に市民の避難を完了させる計画であった。避難は陸路及び海路を使用する。
 そのための部隊配備は以下の通りである。

陸上部隊
【旧田辺城址前阻止線】 府警察警官隊一個小隊約20名。任務は前哨警戒
【西舞鶴港】 第8管区海上保安庁特別警備隊一個小隊約20名及び警察官4名。任務は市民の避難完了までの西舞鶴港の防衛。
 商業港である西舞鶴港には、貨物船、漁船、そのほか多数の船舶が動員され、市民の避難にあたっていた。

【五老岳陣地】 みょうこう陸戦隊一個小隊(第三分隊欠)約30名。任務は国道27号線の防衛と敵の侵攻阻止。
【総監部前陣地】 みょうこう陸戦隊一個分隊約10名。任務は予備陣地構築と交通の確保
【白鳥街道陣地】 府警察警官隊一個小隊及び舞鶴陸警隊一個分隊合計約30名。任務は県道28号線の防衛と敵の侵攻阻止。
【舞鶴市役所及び東警察署】 府警警官隊。任務は舞鶴市緊急事態対策本部の防衛。

 市民の避難集合場所は、【西舞鶴港】【東舞鶴港前島フェリーターミナル】【舞鶴教育隊グラウンド】【舞鶴航空隊】とされ、それぞれ舞鶴地方総監部隷下の海上自衛隊各部隊から臨時編成された兵力により、守られていた。

 予備兵力として陸警隊機動班10名とみょうこう立入検査隊14名が、舞鶴航空隊所属の哨戒ヘリSH-60J×2機とともに、待機中である。

艦船部隊
  • 巡視船「みうら」「わかさ」「ゆらかぜ」「あおい」
 市民の救出及び東西舞鶴港から出港する船舶の護衛を担当。
  • 護衛艦「みょうこう」、補給艦「ましゅう」
 北吸岸壁の防衛。「ましゅう」を港外に待避させることも検討されたが、救出船の出入港を優先させた結果、岸壁待機となった。
  • ミサイル艇「はやぶさ」
 舞鶴湾の哨戒任務を担当。
  • 支援船「ひうち」、曳船他
 舞鶴湾において、物資、人員の輸送を担当する。各基地に弾薬を輸送する重要な役割を担っていた。

航空部隊
  • 海上自衛隊哨戒ヘリSH-60J×2機
 任務は航空偵察及び機動対処部隊の輸送。

 警察、海上保安庁、海上自衛他すべてを合計しても、銃火器を保有する兵力は300名程度である。
 また各施設等の防御等のため市内各所に分散配備されている。敵の兵力は約1500名程度と見積もられていた。



京都府綾部市東綾公園 エレウテリオ騎士団野営地
2012年 6月5日 5時40分

 野営地に起床を告げる太鼓が打ち鳴らされた。各家の兵たちが天幕を畳み、炊事場の竈からは炊煙が立ち昇っていた。
 兵の動きに鈍いところは見られない。昨日の大勝利は、兵の士気を十分に高めているようであった。
 それでいて、規律の乱れも見られない。戦場の常で、兵たちがちょっとした戦利品を懐に収めているのは別として、身動きの取れぬほどに財物を抱え込んだ愚か者や、虜囚を嬲る者は見当たらなかった。
 このことは、エレウテリオ子爵家を中心として編成された騎士団が、西方諸侯軍の中でも、もっとも統制がとれた軍の一つであることを示していた。
 通常であれば、各家の独立性が強い西方騎士団の常として、準男爵や騎士といった下級貴族が配下に略奪を命ずることが少なくない。
 貴族とはいえ裕福な者ばかりではない彼らは、戦というものを経済的収奪の良い機会であると捉えがちであった。
 名誉だけでは人は生きていけず、神の恩寵を受けない蛮地であれば、略奪は不名誉には当たらないとされるのであれば、なおさらである。
 何しろ妖魔(亜人と呼称して運用するという酷い誤魔化し方をしているが)を戦場に投入しているのである。
 南方征討領軍と異なり、西方諸侯は妖魔を戦に用いることを好まない。

 そういった意味では、逃げ遅れた綾部市民はまだ少しは幸運であったのかもしれない。ただし、傭兵団や亜人兵に出くわしてしまった場合は、その限りではない。

 配下が戦備を整えるのを眺めていたエレウテリオに、副団長セサル・ディ・アランサバル男爵が報告を上げた。
「団長殿、貴方の騎士団はあと半刻で出立出来ましょう。今日は良い戦が出来るとよいですな」
 彼の野太い声には、エレウテリオへの信頼が溢れていた。齢52を数えるアランサバル男爵は、エレウテリオが15で初陣を飾った時からの付き合いであった。
 先代エレウテリオ子爵の同輩であったアランサバルは、数多の戦場で良き指南役としてエレウテリオを助け、また槍働きでも一人の武篇として数多くの武勲をあげることで、騎士団と両家の威名を広く西方諸侯領に轟かせていた。
「今日辺りそろそろ敵の騎士団が出てきてもよいころだ。そうだろう?」
「いかに惚けた連中であったとしても、市邑を落とされて黙ってはおりますまい。しかし、このような地図が手に入るとは思いもよりませんでしたな」
 アランサバルの手には、書店から持ち出された舞鶴・綾部近郊の地図が握られていた。当初、余りの精巧さにこれが地図であるとなかなか信じることが出来なかった。
 歴戦の野戦指揮官であるエレウテリオが、周囲の地形と地図の内容が完全に一致することを確認し、ようやくこれが恐るべき精度の地図であることを認めたのだった。
 正直、どうやってこれを作ったかを考えると、気持ちは晴れぬな。
 配下の騎士たちは進撃先の地形がわかったことを無邪気に喜んでいたが、エレウテリオはそう単純ではいられなかった。
 昨日の戦闘後、市邑を探索させて出てきた代物は、彼の想像をはるかに超えていた。ガラスの杯や皿一つとっても、異常な精巧さであったし、彼の祖国では宝物として扱われるべき存在である書物が、ここでは街に溢れている。
 さらには、鉄の車、火を使わぬ灯り(これは昨夜のうちに魔力が尽きたか、すべて消えていた)、彼には用途が理解できないさまざまな品物。
 帝国貴族としての教養と、帝国騎士としての経験が、昨夜から「此の地は異常である」と警告を発し続けていた。

「また、考え込んでおられますな?」
アランサバルが言った。
「其れがしも、この地の面妖さは感じておりまする。ですが今は其れを考える時ではありますまい。兵を進め敵を討ち果たすことに心を砕かれよ」
「うむ、そうだな。今はわからぬことを考えても仕方あるまい。異国の文物は、いくさに勝ってのち、ゆっくりと検分するとしよう」

「まさに、その通りでございまするぞ」
 エレウテリオの背後からしわがれた声が掛けられた。陰気な声である。エレウテリオもアランサバルも、一瞬嫌な顔をみせたが、すぐに無表情に戻る。
「蛮地の文物は、我らにお任せあれ」
「これはこれは、バルトロ殿。神官戦士団は出立の支度を進めておりますかな?」
「もちろんじゃ、エレウテリオ卿。こたびの戦、我らの力が必要になりましょうぞ?」
 バルトロ、と呼ばれた男は、帝国本領軍から派遣された魔導師である。年齢定かでない小柄な体をローブで覆い、皺だらけの顔はフードに隠れて表情が読めない。
 20名程度の神官戦士団を護衛とし、どうやら現地の文物の収集を行っているようだった。
「そういえば、ずいぶんとたくさんの者を捕えたようですな。しかし、移送に戦士団の半数を使われては、我らの支援が疎かにはなりませぬか?」
「蛮地の文物と、蛮族の捕虜を連れ帰るは、本領軍直々の下知じゃて、な。ひゃっひゃっひゃっ」
 昨日の戦闘で捕えられた蛮族は、神官戦士と傭兵団の一部によって、帝国へ移送されるようだった。
「それよりも、エレウテリオ卿。斥候はとうとう戻りませなんだな。努々油断せぬことじゃ」
「敵も、木偶ではないのでしょう」
 固い声で、エレウテリオが答える。真っ当な騎士を自任するエレウテリオにとって、バルトロに対しては、嫌悪ばかりが先に立つ。
「ひとつ、蛮地でのいくさのコツをお教えしようかの。どのような敵かわからぬ時は、先ず死んでも惜しくない者を当てることじゃ。例えば──」
 バルトロは野営地の外れに蠢く、異形の軍を指した。
「ゴブリン。あ奴らならいくら死んでも惜しくあるまいて」

 気がつけば、空には低く雲が垂れこめていた。エレウテリオは何かを汚されたような感覚に苛立ちを覚えつつ、副団長に命令を伝達した。

「陣触れをだせ。半刻後に出立する」



京都府舞鶴市真倉 国道27号線上空2012年 6月5日 12時5分


『マイヅル27、クレインネスト』
『クレインネスト、マイヅル27。真倉上空に到着した。エンジェル(高度)─ゼロポイントファイヴ。シーリング200』
『マイヅル27、地上の状況は確認できるか?』
『27ネガティブ。雲量8、何も見えない──』
『ラジャー。警察から敵部隊を視認したと通報あり。雲の下に降りることは可能か?』
『敵の対空火器の情報がない。危険すぎる』
『クレインネスト了解。ミッションコンプリート、RTB(帰投せよ)』
『マイヅル27ラジャー、アウト』

「ヘリの音、遠ざかりよるな……」
「尾崎、ごっつい眺めだわ」
「見してみいや……こら、あかん。路面が見えへん」
 まだ、何本か矢が刺さったままの、フロントガラスのないパトカーの中で、双眼鏡を構えた尾崎巡査は呻き声をあげた。
 運転席では奥村巡査が、本部と無線で話している。
 双眼鏡のレンズの向こうには、色とりどりの軍旗を掲げた大軍勢が、国道27号線をゆっくりと進んできていた。
 昨日は騎馬隊だけやったけど、今日は足軽もぎょうさんおりよるな。

 このときのエレウテリオ騎士団の兵力は、

 重騎士(貴族・騎士階級)65名
 軽騎兵(短弓装備)186名
 重装歩兵(郎党及び兵)705名
 長弓兵192名

 傭兵団143名
 神官戦士9名

 ゴブリン(一部ホブゴブリン)約10000

 軍夫300名

 というものであった。騎士団正規兵だけで1148名、妖魔を含めると2000を超える。
 自衛隊側の見積もりよりも、実勢は有力であった。


「本部は何て言うとる?」
「尻に帆かけて逃げてこいと」
「言われんでも──!」

 そのとき、眼前の大軍の一部が動きを見せた。奥村は慌ててアクセルを踏み込もうとした。
 しかし、どうやらその集団は、国道を降り支道にある施設に突撃を敢行するようであった。


「──なあ、彼奴等ほんまに現代人や無いかも知れんな」
 奥村は茫然と呟いた。
 昨晩検挙した暴徒のうち、意識のある者に対して尋問が試みられたが、全く未知の言語を話し、意志疎通が出来なかったという話を思い出していた。

「俺もそう思うわ。幾ら何でもあの建物を城館と間違えるなんて、ありえんわ」

 眼前では、見ようによっては城に見えなくもない形の建物が、炎上していた。
「ラブホ、燃えてもうたな」



京都府舞鶴市真倉国道27号線
2012年 6月5日 12時28分


 ついに敵の根拠地に辿り着いた。途中ろくな抵抗も受けず、堂々たる進軍をしてきたことで、騎士たちの士気は天を衝かんばかりである。
「騎士団長殿、もはや市街は目前。早く突入の下知を!」
「我に先陣の誉れを賜りたく!」
「何を言うか。我こそがその役目に相応しい。貴殿の甲冑では、敵に侮られようぞ」
 昨夜、騎士斥候の生き残りが『魔導師の集団に撃退された』ことなど、頭に無かった。
 しくじった者は敵を過大に報告しがちであるし、例え魔導師の集団が本当にいたとしても、それだけの魔法を使えば、次の日は使い物にならないだろう。
 そんなことより、この戦で勝利することが重要であった。この蛮地征討で得た領土は、そのまま従軍した西方諸侯に下賜されることになっている。
 つまり、エレウテリオ騎士団が勝てば勝つほど、自分も豊かになるのだ。加えてこの地は、望外に豊かな地であった。

 財宝は奪い、蛮族を奴隷とし、植民団を送り込むべし。

 左手では城館が燃えている。案の定、腑抜けた蛮族どもは逃げ出して無人であった。
「蛮族に兵無し!このまま一気に蹂躙すべし!」
「こうまで歯応えが無いのはつまらぬがな」
 抜け駆けすらしかねない騎士たちの様子に、エレウテリオは悠然と答えた。
「誠に頼もしき限り。諸卿の戦気に蛮族は戦う前から逃げ出しておるわ」
 しかし、その表情は言葉ほど気楽なものではない。行軍の間に目にした光景に、疑念は膨らむばかりであった。
 西方諸侯領の誰の領地が、いったい全ての街道を、石で固められようか。


 だが、騎士たちは「行軍のしやすい」と、喜んでいるだけである。


「騎士諸卿!蛮族は水稲を糧としておる。水の張った田は兵を動かすには適さぬ」
 エレウテリオは戦術指揮官としての頭に切り替え、配下に下知を下した。

「まずは、一団となって街道を平押しに押す。敵あらば此を討ち、しかるのちに港を押さえる」
「騎士パスクアルは先陣を勤めよ」
「はッ」
「左右備えは、敵を包囲せよ。アランサバル卿は後陣につき、しかるのち支道を東に進まれよ。貴隊を助攻とする」
「御意」
「街道を行く我らと、どちらが早いかな」
「負けませぬぞ」

 騎士団長の勇ましい言葉に、騎士たちがどっと沸いた。
 そうだ、ここまできたら是非も無し。敵を撃ち破るしかあるまい。

「騎士団、前へ!」

 下知を受けた騎士──中下級指揮官たちが自分の手勢に散った。あちこちで雄叫びが上がる。
 進軍ラッパが高らかに鳴り響き、騎士団は西舞鶴市街に進軍を開始した。
 ついに、戦端が開かれようとしていた。

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