第262話 撒かれる種
1485年(1945年)11月30日 午後1時 ヒーレリ領クルコリスパ
この日も、上空は厚く覆われた雪雲のせいで外は薄暗く、降りしきる雪によって大地は真っ白に覆われていた。
この一面銀世界の中を切断するようにして、濃い茶褐色をした一本の線が大地を貫いている。
その線の上を、多数の物体が一定の速度で南下していた。
視点をその線に注視すると、周囲を小高い木々に囲まれた一本の街道上を行く集団が南東へと向かいつつある。
この一面銀世界の中を切断するようにして、濃い茶褐色をした一本の線が大地を貫いている。
その線の上を、多数の物体が一定の速度で南下していた。
視点をその線に注視すると、周囲を小高い木々に囲まれた一本の街道上を行く集団が南東へと向かいつつある。
その集団は今、戦場から後退しようとしていた。
北方の戦場から砲声と爆発音が絶え間なく響き、その合間に夥しい銃撃音が木霊してくる。
「……これは酷いもんだね。」
ヘルマン・ヴィルテルン大尉は、ここ数日で無精ひげの伸びた顎を右手でさすりながら部下に向けて呟く。
「シホット共の攻撃を受けて大敗走ですからね。ですが、こいつらはまだ運がいい方ですよ。」
ヴィルテルン大尉の部下であるチャイナ系アメリカ人のリャン・チェイリュー軍曹が、これまでの戦闘で疲労の濃い顔にしかめっ面を現しながら答えた。
街道には、前線から後退して来た第137歩兵師団に所属する将兵が、トラックに乗せられて彼らの前を通過している。
第137歩兵師団は、第42軍所属の第78軍団を構成する3個師団の内の1個師団として前線に配備されていた。
だが、トラックに乗せられた将兵が属していた第137歩兵師団本隊は、大半が“輪の中”に閉じ込められていた。
後退中のトラックに乗る将兵の中には、戦闘中に負傷して痛々しい姿を見せる物も多くおり、手足のどこかを無くした兵士も良く見かける。
また、傷を負っていない者達も、長く続いた激戦の影響で心身ともに疲労しており、その顔には生気が見られなかった。
街道には、前線から後退して来た第137歩兵師団に所属する将兵が、トラックに乗せられて彼らの前を通過している。
第137歩兵師団は、第42軍所属の第78軍団を構成する3個師団の内の1個師団として前線に配備されていた。
だが、トラックに乗せられた将兵が属していた第137歩兵師団本隊は、大半が“輪の中”に閉じ込められていた。
後退中のトラックに乗る将兵の中には、戦闘中に負傷して痛々しい姿を見せる物も多くおり、手足のどこかを無くした兵士も良く見かける。
また、傷を負っていない者達も、長く続いた激戦の影響で心身ともに疲労しており、その顔には生気が見られなかった。
「137師団で輪の中に閉じ込められずに済んだのは、この902大隊と砲兵大隊だけか……」
「残り3個師団は今朝方、シホット共に包囲されてしまいましたからね。」
「敵の追撃部隊は、うちの師団の部隊が対応しているようだが、長くは持たんらしいね。」
「消耗しすぎでいつも通り戦えんですよ。」
「残り3個師団は今朝方、シホット共に包囲されてしまいましたからね。」
「敵の追撃部隊は、うちの師団の部隊が対応しているようだが、長くは持たんらしいね。」
「消耗しすぎでいつも通り戦えんですよ。」
チェイリュー軍曹は忌々しげに答えてから唾を吐いた。
ヴィルテルン大尉は、アメリカ軍第37機甲師団第83工兵大隊第2中隊に属しており、彼は第2中隊の指揮官である。
第37機甲師団は、第42軍の中では唯一の機甲師団であり、シホールアンル軍の攻勢開始当初から敵石甲部隊相手に激戦を繰り広げて来た。
中でも、M26パーシングを装備するA戦闘団は奮戦に奮戦を重ね、幾度となく敵石甲部隊の攻撃を食い止めて来たものの、敵もまた第37機甲師団を
集中攻撃し、各戦闘団共に損害が累積していった。
現在、前線では包囲網の外に居るB戦闘団とR戦闘団が進撃中の敵に対して、遅滞戦闘を行いながら後退中である。
ヴィルテルン大尉は、アメリカ軍第37機甲師団第83工兵大隊第2中隊に属しており、彼は第2中隊の指揮官である。
第37機甲師団は、第42軍の中では唯一の機甲師団であり、シホールアンル軍の攻勢開始当初から敵石甲部隊相手に激戦を繰り広げて来た。
中でも、M26パーシングを装備するA戦闘団は奮戦に奮戦を重ね、幾度となく敵石甲部隊の攻撃を食い止めて来たものの、敵もまた第37機甲師団を
集中攻撃し、各戦闘団共に損害が累積していった。
現在、前線では包囲網の外に居るB戦闘団とR戦闘団が進撃中の敵に対して、遅滞戦闘を行いながら後退中である。
「おい、手配していた地雷はまだ届かんのか?」
ヴィルテルン大尉は、ジープの後部座席に置いた無線機を操作している部下に話しかけた。
「もう1度確認してみます。」
「中隊長、メシもまだですかね?」
「中隊長、メシもまだですかね?」
チェイリュー軍曹が手をさすりながら大尉に聞く。
「昨日の夜に冷えたレーションを食って以来、何も口に入れていません。」
「お前、ガムがあっただろうが。それでも食って気を紛らわせておけ。」
「んなもんありませんよ。」
「お前、ガムがあっただろうが。それでも食って気を紛らわせておけ。」
「んなもんありませんよ。」
チェイリュー軍曹が不機嫌そうに答える。
「何?いつもはその胸ポケットに入っているだろう。」
「……後退中に落としちまいました。ですので、今口に入れられる物は何もありません。」
「あるのはタバコぐらいですねぇ。」
「……後退中に落としちまいました。ですので、今口に入れられる物は何もありません。」
「あるのはタバコぐらいですねぇ。」
後退中のトラック隊を見ていた兵士が体を振り向き、胸ポケットからタバコの箱を取り出していた。
「馬鹿野郎。タバコは口にくわえて煙を吸うだけだろうが。腹の足しにならんよ。」
「護衛の戦車中隊の連中に聞いてきますか?何か食いものは無いかと。」
「無駄だ、やめとけ。」
「護衛の戦車中隊の連中に聞いてきますか?何か食いものは無いかと。」
「無駄だ、やめとけ。」
チェイリュー軍曹の提案を、ヴィルテルンはあっさりと取り下げる。
「連中もやっとの事で、前線の大釜から帰還して来た身だ。あっちの中隊長とも話し合ったが、食料はあまり持っていないらしい。」
「そうですか……補給が来るまで待つしかありませんな。」
「缶詰の空き缶ならいくらでもあるんですがね……」
「そうですか……補給が来るまで待つしかありませんな。」
「缶詰の空き缶ならいくらでもあるんですがね……」
無線機を弄っていた部下が、ジープの後部座席に積まれているゴミ袋を指さした。
袋の中には、空き缶が70個ほど入っていた。
昨日の夕食が終わった直後、即座に後退命令が発せられたため、部下は捨てるに捨てられないまま、このゴミをここまで持ってきてしまったのであろう。
袋の中には、空き缶が70個ほど入っていた。
昨日の夕食が終わった直後、即座に後退命令が発せられたため、部下は捨てるに捨てられないまま、このゴミをここまで持ってきてしまったのであろう。
「お前、その邪魔物をここまで持ってきたのか。」
「捨てるの忘れてしまいまして……あ、中隊長、大隊司令部と連絡がつきました。」
「補給の事でなんか言っていたか?」
「はぁ……なんでも、補給トラックが途中で事故を起こしてしまったようで、到着が遅れるとの事です。」
「事故だと!?」
「捨てるの忘れてしまいまして……あ、中隊長、大隊司令部と連絡がつきました。」
「補給の事でなんか言っていたか?」
「はぁ……なんでも、補給トラックが途中で事故を起こしてしまったようで、到着が遅れるとの事です。」
「事故だと!?」
ヴィルテルンは思わず、声を張り上げてしまった。
「はい。一応、地雷と食料は送っているとは聞きましたが、どの量が来るかは教えて貰えませんでした。」
「くそ!シホット共の攻勢が始まって以来、いい事なしだぜ……」
「くそ!シホット共の攻勢が始まって以来、いい事なしだぜ……」
彼は忌々し気な口調でそう吐き捨てた。
「地雷はともかく、腹が減っては戦闘は出来んとも言うのに……おい!すまんがタバコを貰うぞ。」
「了解です。1本抜き取って下さい。」
「了解です。1本抜き取って下さい。」
タバコを要求された兵士は、振り返ってタバコのケースを差し出した。
ヴィルテルンはそれを手に取り、1本だけ抜き取ってから箱を返し、貰ったタバコを口にくわえる。
ふと、彼はトラックの荷台に座る兵士と目が合った。
戦闘で疲れたその兵士は、頭の部分に包帯を巻かれていた。
ヴィルテルンはそれを手に取り、1本だけ抜き取ってから箱を返し、貰ったタバコを口にくわえる。
ふと、彼はトラックの荷台に座る兵士と目が合った。
戦闘で疲れたその兵士は、頭の部分に包帯を巻かれていた。
顔の半分を流れ出た血で赤く染めていたその兵士の目は生気がなく、ただただ、息をしている事しかできないように思われた。
(散々に打ちのめされてやる気もなくしたか……こうやって、のんびりとタバコを吸える俺は、あいつよりもマシなんだろうね…)
ヴィルテルンは心中で呟いた後、持っていたライターでタバコに火を付けた。
第137師団の残余部隊が後退していったその1時間後、遅滞戦闘を行っていたR戦闘団とB戦闘団がヴィルテルンらが陣取る街道を横切っていった。
午後2時には、最後尾部隊であるB戦闘団所属の戦車大隊が通過している所に、ようやく補給物資を積んだトラック隊が彼らの下にやって来た。
午後2時には、最後尾部隊であるB戦闘団所属の戦車大隊が通過している所に、ようやく補給物資を積んだトラック隊が彼らの下にやって来た。
「よう!遅れてすまない!」
「たく…待ちくたびれたぜ。」
「たく…待ちくたびれたぜ。」
ヴィルテルンは、先頭のトラックから降りた大尉の階級章を付けた将校に、疲れた様子を隠そうともせず、半ばよろけた足取りで近寄った。
「トラックは1台だけか?予定では3台来ることになってたが。」
「事故で2台潰れちまってね。後退中のハーフトラックにぶつかったんだ。」
「なんてこったい……じゃあ、肝心の地雷は……」
「残念な事に、非常に少ないね。」
「事故で2台潰れちまってね。後退中のハーフトラックにぶつかったんだ。」
「なんてこったい……じゃあ、肝心の地雷は……」
「残念な事に、非常に少ないね。」
将校はトラックの荷台に向けて顎をしゃくりながら、荷台の後ろにヴィルテルンを案内した。
彼がトラックの幌を開けると、中には食料の入った箱と地雷の入った箱が置かれていた。
彼がトラックの幌を開けると、中には食料の入った箱と地雷の入った箱が置かれていた。
「……対人地雷はどうした?」
「ああ。別のトラックに入っていたよ。」
「何だって……じゃあ、こっちに持ってきたのは……」
「そう、対戦車地雷だけさ。」
「ああ。別のトラックに入っていたよ。」
「何だって……じゃあ、こっちに持ってきたのは……」
「そう、対戦車地雷だけさ。」
将校の言い放った言葉を聞くや、ヴィルテルンは思わず、舌打ちをしてしまった。
「石の化け物だけじゃなく、随伴している歩兵の足も止めたかったんだがね……」
「あと、持ってきた地雷だが、量は60個ほどだ。どこもかしこも対戦車地雷を欲しがるもんだから、大隊司令部が均等に分けたらこうなっちまった。」
「60個じゃ足らんぞ!道の上に10個、500メートル間隔で置くにしても、たった3キロしか距離は稼げん!」
「本当は180個あったんだがね……」
「あと、持ってきた地雷だが、量は60個ほどだ。どこもかしこも対戦車地雷を欲しがるもんだから、大隊司令部が均等に分けたらこうなっちまった。」
「60個じゃ足らんぞ!道の上に10個、500メートル間隔で置くにしても、たった3キロしか距離は稼げん!」
「本当は180個あったんだがね……」
将校はため息交じりにそう言いながら、街道に視線を移す。
その途端、彼は更に表情を暗くした。
その途端、彼は更に表情を暗くした。
「そもそも、180個の対戦車地雷を敷設し終えるかどうかも怪しいぞ。」
「ん?どういう事だ?」
「道路上を見てみろ。」
「ん?どういう事だ?」
「道路上を見てみろ。」
将校は街道上を親指で指した。
ヴィルテルンは言われるがままに道路を見、そして理解した。
ヴィルテルンは言われるがままに道路を見、そして理解した。
「……なるほどね。相当派手にやりあったらしいな。」
街道上には、依然として遅滞戦闘を戦い抜いたB戦闘団のハーフトラックやM4戦車が後退を続けているが、どれもこれも損傷を受けるか、
傷の少ない車両も車体のあちこちが派手に汚れている。
それ以前に、後退中の部隊は想像以上に消耗しており、どの中隊も装備車両が少なくなっていた。
傷の少ない車両も車体のあちこちが派手に汚れている。
それ以前に、後退中の部隊は想像以上に消耗しており、どの中隊も装備車両が少なくなっていた。
「おい!ちょっといいか!?」
唐突にヴィルテルンは声を掛けられた。
振り返ると、そこにはヴィルテルンの工兵中隊を護衛している戦車中隊の指揮官が居た。
彼の表情はいつになく険しい。
振り返ると、そこにはヴィルテルンの工兵中隊を護衛している戦車中隊の指揮官が居た。
彼の表情はいつになく険しい。
「B戦闘団はほぼ戦場からの離脱に成功したようだが、敵はすぐにでも再編成を終えて前進を再開しようとしているらしい。早い所地雷を仕掛けんと、
まずい事になるぞ。」
「本当か?敵の進撃部隊は潰せなかったのか?」
まずい事になるぞ。」
「本当か?敵の進撃部隊は潰せなかったのか?」
「いや、R戦闘団とB戦闘団は敵を手酷く叩いて、前進をストップさせたと言っている。一応、時間は稼げた事にはなるが、1時間稼げたのか、
10分だけ稼げたのかわからん。今の内に地雷を敷設して、ここからトンズラした方がいいぞ。」
「……あまり早めには出来んぞ。俺らはメシもロクに食っていない上に、この冷たい空気にガチガチ震えながらの作業だ、どうしても時間は
かかってしまうな。」
「どれぐらいかかる?」
「……少なくとも2時間……いや、1時間半は欲しいね。」
10分だけ稼げたのかわからん。今の内に地雷を敷設して、ここからトンズラした方がいいぞ。」
「……あまり早めには出来んぞ。俺らはメシもロクに食っていない上に、この冷たい空気にガチガチ震えながらの作業だ、どうしても時間は
かかってしまうな。」
「どれぐらいかかる?」
「……少なくとも2時間……いや、1時間半は欲しいね。」
それを聞いた戦車中隊の指揮官は眉をひそめた。
「無茶言うな……敵に連隊規模……いや、大隊規模で来られても即死だぞ!」
「あんたのパーシングでも即死なのかねぇ。」
「あんたのパーシングでも即死なのかねぇ。」
ヴィルテルンは値踏みするかのような口ぶりで言う。
「弾薬が足りんのだ。俺の戦車は、あと18発しか弾が残っていない。一番多い奴でも21発だ。補給が必要だが、それ以前に戦力も足りん。」
彼は顔をしかめながら説明する。
「戦闘前は16両あった戦車が、今じゃ9両だ。損耗度が酷すぎる。地雷なんか適当に敷設してトンズラでいいだろう。」
「でも、うちの中隊はあんたの戦車が頼りなんだ。持ってきた地雷を敷設し終えるまでは、何が何でも援護が必要になる。」
「こういっちゃ何だが……今回は60個の地雷を敷設するだけでいいんだ。もしかしたら、比較的短時間で終わるかもしれんぞ。」
「でも、うちの中隊はあんたの戦車が頼りなんだ。持ってきた地雷を敷設し終えるまでは、何が何でも援護が必要になる。」
「こういっちゃ何だが……今回は60個の地雷を敷設するだけでいいんだ。もしかしたら、比較的短時間で終わるかもしれんぞ。」
補給将校が戦車中隊指揮官に語り掛ける。
「軍司令部は、ここから40キロ南を通るウェリントン街道を、あと1日死守しろと言っている。でなきゃ、敵本土侵攻部隊が必要としている
カイトロスク補給所に守備兵力を置くことが出来なくなる。そうなれば、補給所は敵に吹き飛ばされ、本土侵攻部隊は補給不足で死んじまう。」
「俺達のやる事はあまり大きな事ではないかもしれんが、シホット共の足を鈍らせる為には、この60個の地雷を、敵に有効になるような形で
なんとしてでも敷設しなければならねえ。」
カイトロスク補給所に守備兵力を置くことが出来なくなる。そうなれば、補給所は敵に吹き飛ばされ、本土侵攻部隊は補給不足で死んじまう。」
「俺達のやる事はあまり大きな事ではないかもしれんが、シホット共の足を鈍らせる為には、この60個の地雷を、敵に有効になるような形で
なんとしてでも敷設しなければならねえ。」
ヴィルテルンも畳みかけるように言う。
「壊滅したA戦闘団に報いるためにも、ここは踏ん張ってくれねえか?」
「……」
「……」
戦車中隊指揮官の指揮するB中隊は、第97戦車大隊に属しており、これらは第121機甲歩兵大隊、第110野戦砲兵大隊と共にA戦闘団を
編成してシホールアンル軍と激戦を展開したが、第97戦車大隊がパーシングを装備していた事もあってか、シホールアンル軍は特にA戦闘団に
攻撃を集中した。
その結果、第97戦車大隊は3個中隊中2個中隊がほぼ全滅し、第121機甲歩兵大隊と第110野戦砲兵大隊も兵力の半数近くを失った。
このため、A戦闘団は壊滅判定を受けて後方に下がり、残るB戦闘団とR戦闘団が戦場の火消し役として投入されたが、この2個戦闘団も
たちまち消耗し、今しがた前線から引き返してきたばかりだ。
彼の戦車中隊は後退中に命令を受け、ヴィルテルンの工兵中隊とすれ違い様に合流を果たしていた。
前線で大隊長戦死という悲劇も目にしている戦車中隊指揮官は、内心では早めに後退したいと言う気持ちで一杯であった。
しかし、ヴィルテルンと補給将校の言葉を聞くや、その気持ちもどこかに吹き飛んでしまった。
編成してシホールアンル軍と激戦を展開したが、第97戦車大隊がパーシングを装備していた事もあってか、シホールアンル軍は特にA戦闘団に
攻撃を集中した。
その結果、第97戦車大隊は3個中隊中2個中隊がほぼ全滅し、第121機甲歩兵大隊と第110野戦砲兵大隊も兵力の半数近くを失った。
このため、A戦闘団は壊滅判定を受けて後方に下がり、残るB戦闘団とR戦闘団が戦場の火消し役として投入されたが、この2個戦闘団も
たちまち消耗し、今しがた前線から引き返してきたばかりだ。
彼の戦車中隊は後退中に命令を受け、ヴィルテルンの工兵中隊とすれ違い様に合流を果たしていた。
前線で大隊長戦死という悲劇も目にしている戦車中隊指揮官は、内心では早めに後退したいと言う気持ちで一杯であった。
しかし、ヴィルテルンと補給将校の言葉を聞くや、その気持ちもどこかに吹き飛んでしまった。
「まっ、当然だろうな。どこまで出来るかわからんが、やるだけやってみるさ。」
「OK。頼んだぜ。」
「OK。頼んだぜ。」
ヴィルテルンは戦車中隊指揮官に礼を言った後、補給将校に顔を向けた。
「さて、早速作業を開始したいが、あいにくと俺達は腹ペコだ。そこでだが、俺の部下達を幾つかの班に分け、メシを食うチームと地雷を埋めるチームに分ける。」
「それが効率的だな。では、トラックの中身をさっさと引っ張り出そう。」
「了解。お前ら!地雷とメシが来たぞ!降ろすのを手伝え!!」
「それが効率的だな。では、トラックの中身をさっさと引っ張り出そう。」
「了解。お前ら!地雷とメシが来たぞ!降ろすのを手伝え!!」
彼の声を聞いた部下達がトラックの周りに集まって来た。
兵士達はトラックの荷台から地雷と食料……Kレーションの入った箱を下ろしていく。
ヴィルテルンはその間、各小隊の指揮官を集め、食事を行う班と地雷敷設を担当する班を決めて指示を飛ばしていた。
兵士達はトラックの荷台から地雷と食料……Kレーションの入った箱を下ろしていく。
ヴィルテルンはその間、各小隊の指揮官を集め、食事を行う班と地雷敷設を担当する班を決めて指示を飛ばしていた。
「くそ!Kレーションかよ、俺こいつ嫌いなんだよな。」
「上手いと感じたのは最初だけだぜ。今はこいつについているマッチとタバコだけで充分と思うね。」
「おい、オレンジジュースの粉末を譲ってくれんか?あれ、飯盒を洗うときに便利なんだよ。」
「上手いと感じたのは最初だけだぜ。今はこいつについているマッチとタバコだけで充分と思うね。」
「おい、オレンジジュースの粉末を譲ってくれんか?あれ、飯盒を洗うときに便利なんだよ。」
初めに食事を言い渡された小隊が、冷たい雪の上に座り、降雪を気にする事無く食料を口にしていく。
「さっきも言ったが、5分でメシを食い終われよ!下らん雑談はそこそこにしておけ!おいルイス、そのビスケットいらないなら俺が食おうか?」
「いえ、最後に食おうと思って残しておいただけです。」
「畜生、覚め切ったコンビーフが、悪い意味で仕事してやがるぜ。」
「ああ、くそ、4日前に食ったカレーと比べると、こいつなんか家畜の餌だぞ。」
「アホ!贅沢な事言わずにさっさと食え。あと数分もしたら、シホット共へのプレゼントをえんやこらと埋めんといかんのだからな。」
「いえ、最後に食おうと思って残しておいただけです。」
「畜生、覚め切ったコンビーフが、悪い意味で仕事してやがるぜ。」
「ああ、くそ、4日前に食ったカレーと比べると、こいつなんか家畜の餌だぞ。」
「アホ!贅沢な事言わずにさっさと食え。あと数分もしたら、シホット共へのプレゼントをえんやこらと埋めんといかんのだからな。」
兵士達は雑談をかわしつつ、空腹感も手伝ってなかなか速いペースで食事を進めていく。
その間、スコップを手に取った兵達は、街道に地雷を埋められる広さの穴を掘っていく。
最初の班が食事を終えた時、ヴィルテルンの脳裏にある考えが浮かんだ。
その間、スコップを手に取った兵達は、街道に地雷を埋められる広さの穴を掘っていく。
最初の班が食事を終えた時、ヴィルテルンの脳裏にある考えが浮かんだ。
「……おい、ビルト。」
「はい。なんですか?」
「はい。なんですか?」
ビルトと呼ばれた通信兵が顔を振り向けた。
「最近、シホット共もよく地雷処理をしていると言っていたな。どのような感じでやっているとかは聞いているか?」
「はぁ……ちょいとした噂ですが、何でも、金属反応を捉える魔法を使って地雷を探しているそうですね。」
「……そいつは確かか?」
「情報部の知り合いは、未確認情報だと言っとります。ですので、シホット共が流した欺瞞情報という事も考えられますね。」
「ふむ……じゃあ、欺瞞じゃねえ方に賭けてみるか。」
「はぁ……ちょいとした噂ですが、何でも、金属反応を捉える魔法を使って地雷を探しているそうですね。」
「……そいつは確かか?」
「情報部の知り合いは、未確認情報だと言っとります。ですので、シホット共が流した欺瞞情報という事も考えられますね。」
「ふむ……じゃあ、欺瞞じゃねえ方に賭けてみるか。」
ヴィルテルンはジープに近寄り、袋を人差し指でつつく。
「ちょいと、このゴミを片付けようか。」
「はぁ……どこにです?」
「ここにさ。」
「はぁ……どこにです?」
「ここにさ。」
彼はどこか楽しげな口調で部下に言った。
1485年(1945年)11月30日 午後4時30分 シホールアンル帝国首都ウェルバンル
「これにより、帝国軍反撃部隊はアメリカ軍部隊を排除しつつ、遂に敵野戦軍の一部を包囲するに至ったのである!」
ウェルバンルの東部市街地にある建国記念広場では、演説台に立った広報官と思しき軍人が周囲に群がる市民に向けて声高に叫んでいた。
市民らは降りしきる雪を気にする事無く、軍人の戦果発表に聞き入っている。
市民らは降りしきる雪を気にする事無く、軍人の戦果発表に聞き入っている。
「凄い人だかりだな……」
馬車の中から物珍しそうに見ていた黒髪の男が、御者台の座る同僚に向けて言う。
「陸軍総司令部の宣伝屋さんが戦果発表をしとるんですよ。」
御者台に座っている短髪の男が眠たそうな口調で返してきた。
「へぇ、なかなか盛況のようだね。」
「このフトヴィが聞いた限りじゃ、何というか……悲壮な感じがして切ないように聞こえますね。特に、あんたからの情報を聞いた身としては。」
「おいおい、ここはウェルバンルだぜ?あまり意味不明な事は言わん方がいい。」
「確かに、ヘルヴィンの言う通りだ。」
「このフトヴィが聞いた限りじゃ、何というか……悲壮な感じがして切ないように聞こえますね。特に、あんたからの情報を聞いた身としては。」
「おいおい、ここはウェルバンルだぜ?あまり意味不明な事は言わん方がいい。」
「確かに、ヘルヴィンの言う通りだ。」
馬を操るフトヴィ・ヴァキンシュは苦笑しながら、荷台に座る黒髪の男にそう言った。
黒髪をポニーテール状に結った男は、やれやれとばかりに首を振りつつ、そばに置いてあった積荷に手を伸ばした。
黒髪をポニーテール状に結った男は、やれやれとばかりに首を振りつつ、そばに置いてあった積荷に手を伸ばした。
「次の売り場まであと何分で着く?」
「5分ぐらいだね。そろそろ準備しておくか。」
「5分ぐらいだね。そろそろ準備しておくか。」
フトヴィの言葉を聞いたヘルヴィン・グリースクルは頷きながら、積荷の中に紛れ込ませてあった何かをそっと、懐の中に入れた。
程無くして、2人を乗せた馬車は、首都東部にある東部第一市場に到着した。
程無くして、2人を乗せた馬車は、首都東部にある東部第一市場に到着した。
「着いた。ヘルヴィン、準備を。」
「了解!」
「了解!」
予め取って置いた空地に馬車を止め、荷台からヘルヴィンが飛び降りる。
彼は手慣れた手つきで幌を開け、荷台から木製の板や箱を降ろし、次に果物や野菜等が入った木箱を降ろしていく。
フトヴィは先に降ろされた板と箱を使って陳列台を形作り、その上に白布を敷いていく。
手早く陳列台を作り終えると、今度は2人掛かりで品物を陳列していった。
10分程で品物を置き終えると、2人は声を張り上げて商売に勤しんだ。
彼は手慣れた手つきで幌を開け、荷台から木製の板や箱を降ろし、次に果物や野菜等が入った木箱を降ろしていく。
フトヴィは先に降ろされた板と箱を使って陳列台を形作り、その上に白布を敷いていく。
手早く陳列台を作り終えると、今度は2人掛かりで品物を陳列していった。
10分程で品物を置き終えると、2人は声を張り上げて商売に勤しんだ。
「おう、あんちゃん!今日もいい品が入っているようだね。」
「やあやあ、これはクリシーさん。ささ、今日もあちこち回って揃えてきましたよ。」
「やあやあ、これはクリシーさん。ささ、今日もあちこち回って揃えてきましたよ。」
フトヴィは、声をかけて来たいかついひげ面の紳士に対して、にこやかな笑顔を浮かべながら、陳列棚に並んだ品物を1つ1つ紹介していく。
「ふむふむ。おう、今日は新人さんも一緒だね。仕事は慣れたかね?」
「ええ。お蔭さまですっかり慣れました。」
「その様子だと、ヘルヴィン君も空襲の後遺症から立ち直ったようだね。この調子で、フトヴィのあんちゃんを支えてやらんとね。」
「へぇ、努力していきます。」
「ええ。お蔭さまですっかり慣れました。」
「その様子だと、ヘルヴィン君も空襲の後遺症から立ち直ったようだね。この調子で、フトヴィのあんちゃんを支えてやらんとね。」
「へぇ、努力していきます。」
ヘルヴィンは軽く頷いた後、手前にあった緑色の果物を勧める。
「おやっさん。そう言えば、今日、やっとフィヴィンのいい奴が取れたんですよ。1個どうですかね?」
「ほほう、よく考えたら久しぶりに見るなぁ……今じゃ、フィヴィンの産地だった南部も、アメリカ人共の爆撃で目茶目茶にされて、
いいフィヴィンがすっかり手に入らなくなったからねぇ……」
「この季節になると、ここにズラリと並べてますからね。でも、今年は本当、寂しくなったもんですわ。」
「ほほう、よく考えたら久しぶりに見るなぁ……今じゃ、フィヴィンの産地だった南部も、アメリカ人共の爆撃で目茶目茶にされて、
いいフィヴィンがすっかり手に入らなくなったからねぇ……」
「この季節になると、ここにズラリと並べてますからね。でも、今年は本当、寂しくなったもんですわ。」
フトヴィがため息交じりに言う。
「同感だよ……帝国軍が負ける事は無いと思うが、今回ばかりは相手もかなり手の込んだ事をやるからね。正直、不安になっちまうが……
まっ!変な事は考えずに買い物でもするかね!」
まっ!変な事は考えずに買い物でもするかね!」
「おお!その意気ですぜ、おやっさん!」
フトヴィがその客に向けて、快活のある声音で言った。
「ど~もど~も。さて、こいつとこいつと、あとこれ……おう、これも頂こうか。」
「毎度ありがとうございます!さて、袋詰めの方よろしく。」
「毎度ありがとうございます!さて、袋詰めの方よろしく。」
ヘルヴィンは指示を受けて頷き、右手にあった紙袋に品物を入れていく。
最後に、フィヴィン(緑色の皮だが、中身はオレンジ色で味もそれに似ている)を入れた。
最後に、フィヴィン(緑色の皮だが、中身はオレンジ色で味もそれに似ている)を入れた。
「お代を払うよ。」
「毎度あり!また来てくださいね!」
「毎度あり!また来てくださいね!」
フトヴィは代金を払い、片手を振りながら去っていく客に声を投げかけた後、再び客寄せに入る。
東部第一市場は、冬であるにも関わらず、多くの買い物客で賑わっていた。
フトヴィとヘルヴィンは、その後3時間にわたって商売を続けた。
東部第一市場は、冬であるにも関わらず、多くの買い物客で賑わっていた。
フトヴィとヘルヴィンは、その後3時間にわたって商売を続けた。
「すまないが、少し外してもいいか?」
ヘルヴィンは、客足が引いた事を見計らって、フトヴィに聞く。
「いいよ。」
「すぐ戻る。」
「すぐ戻る。」
ヘルヴィンはフトヴィの返事を受けた後、足早に露店を離れた。
2分後……彼は東部第一市場の内部にある路地裏に来ていた。
2分後……彼は東部第一市場の内部にある路地裏に来ていた。
「……」
彼は無言のまま路地裏を歩いていく。
この時、彼の目は前方を振り返り、次いで後方にも振り向けられる。
この時、彼の目は前方を振り返り、次いで後方にも振り向けられる。
そして、懐に手を伸ばし、いびつな形をした小さな石のような物を取り出した後、路地裏のさらに奥にある、人気のない通路に向かって歩き出す。
「………」
ヘルヴィン……もとい、レイリー・グリンゲルは、小声で何かを呟いた後、右手に持っていたいびつな形の石を左手で包み込む。
5秒ほど間を置いた後、レイリーはそれを通路の側に放り投げた。
5秒ほど間を置いた後、レイリーはそれを通路の側に放り投げた。
「……これで7個目。」
ぼそりと呟いたレイリーは、そのままゆっくりとした足取りで、露店に戻って行った。
露店に戻ったレイリーは、フトヴィにぼそりと呟いた。
「撒いて来た。」
フトヴィは小さく頷いた後、平然とした表情で声掛けを始めた。
「どうもー。」
「やや、これはゼルヘンスさん。相変わらずお綺麗な事で。」
「やや、これはゼルヘンスさん。相変わらずお綺麗な事で。」
フトヴィは顔見知りの女性客に品物を勧め始める。
ヘルヴィンも何度か顔を合わせているため、彼女はレイリーにも挨拶をする。
ふと、ヘルヴィンは彼女が少年を連れている事に気が付いた。
年は12、3歳ぐらいであろうか。
ヘルヴィンも何度か顔を合わせているため、彼女はレイリーにも挨拶をする。
ふと、ヘルヴィンは彼女が少年を連れている事に気が付いた。
年は12、3歳ぐらいであろうか。
「うーん、やっぱりこの時間だと品物が少なくなってますねぇ。」
「すいませんね。最近は仕入れも悪くなっちまって……おや、そう言えば、その子は見ない顔だね。」
「すいませんね。最近は仕入れも悪くなっちまって……おや、そう言えば、その子は見ない顔だね。」
フトヴィはその少年に気が付き、彼女に聞く。
「この子はですね、2か月前から私達が預かっている親類の息子でして……」
「へえ、そうなのかい……どこの出身なんですかね?」
「ランフックです。今日、“やっと”家を出れるまでになったので、こうして連れ歩いているのですけど。」
「そうか……じゃあ、何にしますかね?」
「へえ、そうなのかい……どこの出身なんですかね?」
「ランフックです。今日、“やっと”家を出れるまでになったので、こうして連れ歩いているのですけど。」
「そうか……じゃあ、何にしますかね?」
フトヴィは相変わらぬ口調で女性客に尋ねた。
「ええ、それじゃあ、これとこれを……ウィルシー。あなたも何か欲しい物はある?」
「……これがいい。」
「……これがいい。」
少年は、どこか絞り出すような声音で女性客に言った。
その品物は果物ではなく、銀星の紋章が入った首飾りであった。
今日の露店で出した品物は食品だけではなく、こうした装飾品も幾つか売っていた。
だが、少年の指さした物は、他の物と比べて一番値が張る物であった。
その品物は果物ではなく、銀星の紋章が入った首飾りであった。
今日の露店で出した品物は食品だけではなく、こうした装飾品も幾つか売っていた。
だが、少年の指さした物は、他の物と比べて一番値が張る物であった。
(こいつは確か、ランフック産の物だったか……確か、あっちの守り神の紋章が入っていたな)
ヘルヴィンが進駐で呟く。
「ウィルシー、悪いけど、手持ちのお金じゃ買えないわ。何か他の物を……」
「……これ以外に欲しい物は無い。」
「無茶言わないの……」
「……これ以外に欲しい物は無い。」
「無茶言わないの……」
女性客は少年に本意を促そうとする。
少年も我が儘は無理だと判断したのか、じっと見据えていた首飾りから目をそらした。
だが、そこにフトヴィが声をかけた。
少年も我が儘は無理だと判断したのか、じっと見据えていた首飾りから目をそらした。
だが、そこにフトヴィが声をかけた。
「坊主!よかったら、こいつをあげようか?」
「えっ……」
「えっ……」
一瞬、少年はフトヴィが何を言っているのか理解できなかった。
「どうした。要るのか要らんのか返事しろよ。」
「え……ええと。」
「え……ええと。」
戸惑う少年を見て、フトヴィは苦笑を浮かべた。
「おう!男ならしっかり返事するこった!んで、どうなんですかね、お客さん?」
フトヴィの言葉に心を動かされた少年は、大きく頷いた。
「要ります。」
「ようし!なら、持って行け!代は要らんぜ。」
「そんな、フトヴィさん。」
「まあまあお客さん。」
「ようし!なら、持って行け!代は要らんぜ。」
「そんな、フトヴィさん。」
「まあまあお客さん。」
困った顔を浮かべて詰め寄る女性客に対して、フトヴィは両手をあげて制止した。
「お客さん。坊主……ランフックでえらい目に遭ったんだろう?それも……」
「……」
「図星のようだね。まぁいい。」
「……」
「図星のようだね。まぁいい。」
フトヴィは両手を組んでから2度頷いた。
「そいつは、俺達から坊主に送る快気祝いの品だ。いつもはお客さんに儲けさせてもらっているからね。その恩返しがてらに取ってくれ!」
「でも……」
「いいからいいから。まぁこんなご時世だ。今は、“残った”坊主のために出来る事をやってやりな。いいね?」
「……ありがとうございます。このご恩は一生忘れません。さぁ、ウィルシーもお礼を言いなさい。」
「でも……」
「いいからいいから。まぁこんなご時世だ。今は、“残った”坊主のために出来る事をやってやりな。いいね?」
「……ありがとうございます。このご恩は一生忘れません。さぁ、ウィルシーもお礼を言いなさい。」
そう言われた少年は、ヘルヴィンとフトヴィにそれぞれ頭を下げた。
「あ、ありがとうございます。」
「近い内にまたこっちに出すから、そん時もよろしくお願いしますね!」
「近い内にまたこっちに出すから、そん時もよろしくお願いしますね!」
立ち去る2人に対して、フトヴィは威勢の良い声で送ったのであった。
それから30分後には店仕舞いとなり、2人は道端に置いた少ない品物と陳列台を片付けていた。
片付けは程無くして終わり、2人は馬車に乗ってその場を離れた。
馬車は市場に続く街道を正反対にゆっくりと抜けていく。
その際、レイリーは御者台に上がり、街道を行く人達と……街道沿いに並ぶ質素な小屋を交互に見やった。
片付けは程無くして終わり、2人は馬車に乗ってその場を離れた。
馬車は市場に続く街道を正反対にゆっくりと抜けていく。
その際、レイリーは御者台に上がり、街道を行く人達と……街道沿いに並ぶ質素な小屋を交互に見やった。
「……南部の空襲が激化した頃から、首都の人口が増え始めてね。」
唐突にフトヴィが口を開く。
「8月ごろには、家を焼け出されて行き場を失った人が、こうして街道沿いや空き地に簡素な小屋を建てて住み始めた。ランフック大空襲があった後は、
ああいった小屋が増えまくった。最近は、首都に流れて来た罹災者があちこちで騒ぎを起こして、首都警備隊の世話になる奴がかなり増えた……」
「……」
「俺達は任務を続けている。でもね、時々心が揺らぐ事がある……さっきのお客さんと、坊主を見た時もそうだ。」
「……フトヴィ。」
ああいった小屋が増えまくった。最近は、首都に流れて来た罹災者があちこちで騒ぎを起こして、首都警備隊の世話になる奴がかなり増えた……」
「……」
「俺達は任務を続けている。でもね、時々心が揺らぐ事がある……さっきのお客さんと、坊主を見た時もそうだ。」
「……フトヴィ。」
レイリーはぼそりと、同僚の名前を呼ぶが、彼はずっと前を見据えたまま、視線を動かさない。
「さっきの坊主にあの銀色の首飾りを挙げたのは、連合軍がしでかした事の罪滅ぼしにと思ってね……でも、あまり意味は無いかな。」
それからしばらくの間、2人は押し黙った。
冬の寒気が体に染み渡る。
耳元には、街道を行く住民達の声と、馬の蹄の音、車輪が回る音が聞こえてくるが、レイリーには、まるで遠い世界から聞こえる異音のように思えた。
耳元には、街道を行く住民達の声と、馬の蹄の音、車輪が回る音が聞こえてくるが、レイリーには、まるで遠い世界から聞こえる異音のように思えた。
「……俺達のまいた種……そして、味方の爆撃機から撒かれようとしてる爆弾は、これからどれほどの犠牲者を生むんだろうか。」
「……分からないね。」
「……分からないね。」
レイリーの言葉に対し、フトヴィは何気ない口調でそう返した。
「俺達が撒いた種や、爆撃機から撒かれる爆弾が、この国の人間たちにどのような感情を植え付けるのか……そして、どのような結果を招くか……
ここから先の言葉は、あんたに言わせるとしようかね。」
「……神のみぞか知る…って奴か。」
ここから先の言葉は、あんたに言わせるとしようかね。」
「……神のみぞか知る…って奴か。」
レイリーがそういうと、フトヴィは彼に振り返り、苦笑を浮かべた。
同日 午後8時 ヒーレリ領クルコリスパ
「進撃が止まってから、かれこれ1時間半になりますね……」
フィルス・バンダル軍曹は、登場するキリラルブスの指揮官であるウィーニ・エペライド少尉に向けて言う。
彼の声音には、やや疲れが滲んでいた。
彼の声音には、やや疲れが滲んでいた。
「先頭の連中が地雷を踏んで以来、ずっとこの有様だからね。」
エペライド少尉は、苛立った口調でバンダル軍曹に返す。
「む……台長、小隊の各台より前進はまだかと言ってきています。」
「まだだから黙って置けと返しておいて。」
「まだだから黙って置けと返しておいて。」
エペライド少尉はぶっきらぼうな口調で、通信手にそう言った。
「ああ。腹減ったなぁ。今の内に弾薬や食料の補給が来れば言う事なしなんですが。」
「輸送用キリラルブスが少ない上に、馬車が大半を占める軍の兵站力に期待しない方がいいね。」
「はぁ……しかし、台長。どうも苛立っていますね。」
「戦闘続きの上に休みが少ないんじゃ、誰でもそうなるから。」
「輸送用キリラルブスが少ない上に、馬車が大半を占める軍の兵站力に期待しない方がいいね。」
「はぁ……しかし、台長。どうも苛立っていますね。」
「戦闘続きの上に休みが少ないんじゃ、誰でもそうなるから。」
バンダル軍曹の問いに、エペライド少尉は答える。
ウィーニらは第5親衛石甲師団第509石甲連隊、第1大隊第2中隊に所属している。
ウィーニとバンダルは、先のレスタン戦での功績を認められ、それぞれ少尉と軍曹に昇進し、今年の8月からは、長砲身キリラルブスを拡大、
改良した新型キリラルブスを与えられた上に第3小隊を指揮する事となった。
キリラルブス小隊の指揮官となったウィーニは、今回の戦闘では4台のキリラルブスを率いて戦い、28日から続く戦闘では小隊だけで、
シャーマン戦車3台、パーシング戦車2台、スチュアート軽戦車7台を破壊するとういう戦果を挙げていた。
ウィーニとバンダルは、先のレスタン戦での功績を認められ、それぞれ少尉と軍曹に昇進し、今年の8月からは、長砲身キリラルブスを拡大、
改良した新型キリラルブスを与えられた上に第3小隊を指揮する事となった。
キリラルブス小隊の指揮官となったウィーニは、今回の戦闘では4台のキリラルブスを率いて戦い、28日から続く戦闘では小隊だけで、
シャーマン戦車3台、パーシング戦車2台、スチュアート軽戦車7台を破壊するとういう戦果を挙げていた。
ウィーニらの所属する第5親衛石甲師団は、今回の作戦では第34軍集団第1親衛石甲軍に属する第3親衛軍団を構成する部隊である。
シホールアンル軍は、28日から続くこの反撃作戦に第34軍集団を投入し、東進中の連合軍侵攻部隊を包囲する形で進撃を続けていた。
第34軍集団は第1親衛石甲軍、第20石甲軍、第29石甲軍、第76軍の4個軍で編成されている。
指揮官は歴戦の石甲部隊指揮官であるムラウク・ライバスツ大将に任ぜられ、自ら軍集団司令部を率いて前線部隊に同行している。
また、第1親衛石甲軍の指揮官は、これまで魔法騎士師団時代から指揮官を務めて来たルイクス・エルファルフ中将が任命されている。
第34軍集団は、シホールアンル帝国の中でも最良とも言える装備を有し、その攻撃力は米第42軍を粉砕した事からも見て明らかであった。
シホールアンル軍は、28日から続くこの反撃作戦に第34軍集団を投入し、東進中の連合軍侵攻部隊を包囲する形で進撃を続けていた。
第34軍集団は第1親衛石甲軍、第20石甲軍、第29石甲軍、第76軍の4個軍で編成されている。
指揮官は歴戦の石甲部隊指揮官であるムラウク・ライバスツ大将に任ぜられ、自ら軍集団司令部を率いて前線部隊に同行している。
また、第1親衛石甲軍の指揮官は、これまで魔法騎士師団時代から指揮官を務めて来たルイクス・エルファルフ中将が任命されている。
第34軍集団は、シホールアンル帝国の中でも最良とも言える装備を有し、その攻撃力は米第42軍を粉砕した事からも見て明らかであった。
だが、米軍もただでやられている訳ではなく、侵攻部隊も少なからぬ損害を受けている。
ウィーニの属する第509石甲連隊は、昨日から続く米機甲師団との戦闘で第2大隊が全滅に近い損害を受けた。
第2大隊は、師団の先鋒部隊として敵機甲部隊と激戦を演じたものの、パーシング戦車を主力とする米軍の防御力は桁外れであり、
これまでよりも分厚く、攻撃力の高い新型キリラルブスでさえもが次々に爆砕されるか、行動不能に陥った。
第2大隊の苦境を見て、第1大隊が応援に駆け付けた結果、アメリカ軍を後退させる事に成功している。
その後、第2大隊が追撃を仕掛けたが、これまた応援に駆け付けた、別の米機甲部隊との間で戦闘となり、第2大隊は装備していたキリラルブスの
大半を失って壊滅している。
第5親衛石甲師団は、先鋒部隊の再編のために一旦部隊を停止させた後、午後3時30分に損害の少ない第1大隊を先鋒に据えて、進撃を再開した。
ウィーニの属する第509石甲連隊は、昨日から続く米機甲師団との戦闘で第2大隊が全滅に近い損害を受けた。
第2大隊は、師団の先鋒部隊として敵機甲部隊と激戦を演じたものの、パーシング戦車を主力とする米軍の防御力は桁外れであり、
これまでよりも分厚く、攻撃力の高い新型キリラルブスでさえもが次々に爆砕されるか、行動不能に陥った。
第2大隊の苦境を見て、第1大隊が応援に駆け付けた結果、アメリカ軍を後退させる事に成功している。
その後、第2大隊が追撃を仕掛けたが、これまた応援に駆け付けた、別の米機甲部隊との間で戦闘となり、第2大隊は装備していたキリラルブスの
大半を失って壊滅している。
第5親衛石甲師団は、先鋒部隊の再編のために一旦部隊を停止させた後、午後3時30分に損害の少ない第1大隊を先鋒に据えて、進撃を再開した。
しかし、第1大隊は第1大隊で思わぬハプニングに見舞われていた。
午後6時20分、街道を走行していた第1中隊の先頭が立て看板を発見。
先頭キリラルブスの台長が降りて、看板を見た所、英語でシホールアンル軍を馬鹿にするような言葉と共に、地雷を埋めてあるとの記述も含まれていた。
この台長は米軍のはったりかと思ったが、本当に地雷が埋められている可能性もあるため、急遽地雷除去班を呼んで、地雷を探させる事にした。
程無くして、地雷除去班が到着し、魔導士が金属探知の魔法を発動しながら慎重に捜索した所、早速反応があった。
除去班が魔導士の教えた場所を恐る恐る掘り返した。
だが、地面の下から出て来たのは、地雷ではなく、米軍の食料の入っていた空き缶であった。
先頭キリラルブスの台長が降りて、看板を見た所、英語でシホールアンル軍を馬鹿にするような言葉と共に、地雷を埋めてあるとの記述も含まれていた。
この台長は米軍のはったりかと思ったが、本当に地雷が埋められている可能性もあるため、急遽地雷除去班を呼んで、地雷を探させる事にした。
程無くして、地雷除去班が到着し、魔導士が金属探知の魔法を発動しながら慎重に捜索した所、早速反応があった。
除去班が魔導士の教えた場所を恐る恐る掘り返した。
だが、地面の下から出て来たのは、地雷ではなく、米軍の食料の入っていた空き缶であった。
誰もが首を捻り、更に探知を続けつつ、除去を続けた所、道幅に横一列に埋められた7つの空き缶が出て来た。
そして、10メートルほど後にも金属反応があり、そこを掘ってみると、そこにも空き缶が埋められていた。
そして、10メートルほど後にも金属反応があり、そこを掘ってみると、そこにも空き缶が埋められていた。
「敵の工兵隊は地雷が無いから、立て看板を作り、ゴミを埋めてここに地雷があるように見せかけたのかもしれない。」
第1大隊の指揮官はそう判断しながらも、貴重な時間を失った事に腹を立てていた。
時刻は午後7時を過ぎており、“空き缶捜索だけの為”に、第1大隊は実に40分も費やしていた。
地雷は無いと判断し、第1大隊は再び前進を始めた。
キリラルブスが力強く歩き始め、走りに弾みがつき始めるかと思われた時……唐突に爆発が起きた。
先頭のキリラルブスは対戦車地雷によって右の前足を吹き飛ばされた後、石の体を地面に叩き付けながら道の脇に滑って行き、道の側に立っていた木を
4本なぎ倒した所で止まった。
時刻は午後7時を過ぎており、“空き缶捜索だけの為”に、第1大隊は実に40分も費やしていた。
地雷は無いと判断し、第1大隊は再び前進を始めた。
キリラルブスが力強く歩き始め、走りに弾みがつき始めるかと思われた時……唐突に爆発が起きた。
先頭のキリラルブスは対戦車地雷によって右の前足を吹き飛ばされた後、石の体を地面に叩き付けながら道の脇に滑って行き、道の側に立っていた木を
4本なぎ倒した所で止まった。
「本物の地雷が埋まってるぞ!!」
それからという物の、第1大隊は慎重に慎重を重ねながら、地雷除去に乗り出した。
だが、地雷が見つかったのは、先頭台が踏んだ付近と、そこから5メートル離れた場所のみで、あとは5メートルおきに空き缶が埋められているだけであった。
それが午後6時30分頃の状況で、部隊は再び前進し始めたが、500メートルほど進んだ直後に、先頭を譲られたキリラルブスがまたもや地雷を踏んでしまった。
擱座したキリラルブスが2台に増えた後、第1大隊は再び停止して地雷の捜索を行った。
あれから1時間半後、地雷除去班は第2の爆発地点から700メートルほど離れた場所まで捜索に当たったが、もはや空き缶すらも出て来ないようだ。
だが、地雷が見つかったのは、先頭台が踏んだ付近と、そこから5メートル離れた場所のみで、あとは5メートルおきに空き缶が埋められているだけであった。
それが午後6時30分頃の状況で、部隊は再び前進し始めたが、500メートルほど進んだ直後に、先頭を譲られたキリラルブスがまたもや地雷を踏んでしまった。
擱座したキリラルブスが2台に増えた後、第1大隊は再び停止して地雷の捜索を行った。
あれから1時間半後、地雷除去班は第2の爆発地点から700メートルほど離れた場所まで捜索に当たったが、もはや空き缶すらも出て来ないようだ。
「あ、台長。中隊長より進撃再開の命令が下りました。」
「ああくそ、せめてメシぐらい食わせろと。」
「ああくそ、せめてメシぐらい食わせろと。」
通信手の口から発せられた言葉に、バンダル軍曹が苛立ちまぎれに言う。
「命令が下った以上は仕方ない。前の奴が進み始めたら動くよ。」
ウィーニは感情のこもらぬ口調でバンダルに返した。
2分後、前方のキリラルブスが前進を開始する。ウィーニはそれに習って、自ら指揮するキリラルブスにも前進を命じた。
2分後、前方のキリラルブスが前進を開始する。ウィーニはそれに習って、自ら指揮するキリラルブスにも前進を命じた。
だが、5分と経たぬ内に、前のキリラルブスが急停止した。
「停止!!」
ウィーニの声が発せられると同時に、操縦手がキリラルブスを停止させる。
石と鉄でできた重い体が一瞬前のめりになる。
直後、前方から爆発音が響いて来た。
石と鉄でできた重い体が一瞬前のめりになる。
直後、前方から爆発音が響いて来た。
「……またか。」
バンダルは、ウィーニの呆れとも、諦めともつかぬ声を聞いたが、それも当然だと心中で思った。
敵反撃部隊主力の戦力表
第1親衛石甲軍
第1親衛軍団
第1親衛石甲師団
第2親衛石甲師団
第17親衛石甲機動旅団
第213親衛石甲化機動砲兵旅団
第2親衛軍団
第3親衛石甲師団
第4親衛石甲師団
第6親衛石甲機動旅団
第12親衛石甲機動砲兵旅団
第3親衛軍団
第5親衛石甲師団
第6親衛石甲師団
第1親衛軍団
第1親衛石甲師団
第2親衛石甲師団
第17親衛石甲機動旅団
第213親衛石甲化機動砲兵旅団
第2親衛軍団
第3親衛石甲師団
第4親衛石甲師団
第6親衛石甲機動旅団
第12親衛石甲機動砲兵旅団
第3親衛軍団
第5親衛石甲師団
第6親衛石甲師団
第20石甲軍
第32軍団
第173石甲師団
第123石甲師団
第82石甲歩兵師団
第56軍団
第72石甲師団
第202石甲師団
第68石甲機動砲兵旅団
第32軍団
第173石甲師団
第123石甲師団
第82石甲歩兵師団
第56軍団
第72石甲師団
第202石甲師団
第68石甲機動砲兵旅団
第29石甲軍
第49軍団
第120石甲師団
第204石甲師団
第108石甲機動砲兵旅団
第63軍団
第21石甲師団
第63石甲師団
第170石甲師団
第49軍団
第120石甲師団
第204石甲師団
第108石甲機動砲兵旅団
第63軍団
第21石甲師団
第63石甲師団
第170石甲師団
第76軍
第83軍団
第515歩兵師団
第516歩兵師団
第517歩兵師団
第84軍団
第414歩兵師団
第418歩兵師団
第419歩兵師団
第83軍団
第515歩兵師団
第516歩兵師団
第517歩兵師団
第84軍団
第414歩兵師団
第418歩兵師団
第419歩兵師団