第266話 夜海の相撃(前篇)
1485年(1945年)12月6日 午前6時 シェルフィクル沖南東420マイル沖
第5艦隊の主力部隊である第58任務部隊が作戦海域に到達したのは、12月6日の早朝を迎えてからであった。
昨日、洋上補給を終えたTF58所属の6個任務群は、3個任務群ずつが縦一列に並び、巨大な副縦陣を形成していた。
副縦陣の右側はTG58.1、TG58、3、TG58.7。
左側はTG58.2、TG58.4、TG58.5の並びで、18ノットの速力で北西へ向けて航行していた。
昨日、洋上補給を終えたTF58所属の6個任務群は、3個任務群ずつが縦一列に並び、巨大な副縦陣を形成していた。
副縦陣の右側はTG58.1、TG58、3、TG58.7。
左側はTG58.2、TG58.4、TG58.5の並びで、18ノットの速力で北西へ向けて航行していた。
第5艦隊司令長官フランク・フレッチャー大将は、普段と変わらぬ平静な顔つきのまま、旗艦ミズーリの作戦室に入室した。
「おはよう諸君。」
「おはようございます、司令長官。」
「おはようございます、司令長官。」
第5艦隊参謀長を務めるアーチスト・デイビス少将が挨拶を送って来る。それに習うかのように、作戦室内に集まっていた司令部幕僚らがフレッチャーに挨拶する。
「さて……艦隊は今、どの辺りに居るのかね。」
「はっ。我が艦隊は現在、レビリンイクル諸島より東190マイル。シェルフィクルより南東380マイルの海域に達しております。」
「はっ。我が艦隊は現在、レビリンイクル諸島より東190マイル。シェルフィクルより南東380マイルの海域に達しております。」
デイビス少将は、指示棒の先で、机に広げられた海図のある部分を指しながら答えた。
「TG58.1からTG58.5までのTF58主力は、各艦共に偵察機の発艦準備を整えつつあり、間もなく発艦が開始されます。航空参謀。」
デイビスは、右横に居る航空参謀のエルンスト・ヴォーリス中佐に話を振る。
「各偵察機は、次のように索敵を行っていきます。索敵範囲は、レビリンイクル諸島の南西側から、我が艦隊の南東側まで。第1段索敵に30機。
第2段索敵に36機、第3段索敵に24機を投入します。第2策敵隊の数が多い理由は、第1段索敵の際に生じた穴を埋める事を目的とした為であります。
各偵察機の進出距離は、通常攻撃範囲内よりも長い、500マイル(800キロ)となっております。」
第2段索敵に36機、第3段索敵に24機を投入します。第2策敵隊の数が多い理由は、第1段索敵の際に生じた穴を埋める事を目的とした為であります。
各偵察機の進出距離は、通常攻撃範囲内よりも長い、500マイル(800キロ)となっております。」
「500マイルか……確かに、通常の攻撃範囲である350マイル(560キロ)よりは遠いな。」
フレッチャーは腕組みをしつつ、視線は海図に向けたまま航空参謀の話に聞き入る。
「しかし、現在地はシェルフィクルから420マイルの沖合いで、敵ワイバーン、飛空艇の航続距離範囲内にある。敵機動部隊見つけると同時……
いや、こちらが見つける前に、敵の航空基地から発進した偵察機に、我が艦隊が発見される可能性が高い。」
「それは元から承知の上です。」
いや、こちらが見つける前に、敵の航空基地から発進した偵察機に、我が艦隊が発見される可能性が高い。」
「それは元から承知の上です。」
フレッチャーの言葉に対して、ヴォーリス中佐は冷静な声音で返した。
「敵も、海中に散らしたレンフェラルからの情報で我が艦隊が迫りつつある事は知っているでしょう。恐らく、この海域のどこかに居る敵機動部隊も、
わが方との決戦に備え、何日も前から待ち構えている事は間違い無いでしょうな。」
わが方との決戦に備え、何日も前から待ち構えている事は間違い無いでしょうな。」
ヴォーリス中佐は、右手の人差し指で海図をなぞっていく。
「予想される敵の位置は3つ考えられます。1つは、ここから400マイル圏内の北方海域、2つ目はシェルフィクル工業地帯より100マイル以内の北東海域、
3つ目は、我が機動部隊の側面を狙う南西海域です。このうち、可能性が高い伏在海域は、北方海域並びに、シェルフィクルより半径100マイル付近の北東海域でしょう。」
3つ目は、我が機動部隊の側面を狙う南西海域です。このうち、可能性が高い伏在海域は、北方海域並びに、シェルフィクルより半径100マイル付近の北東海域でしょう。」
ヴォーリスは、持っていた赤ペンで2つの海域に丸く円を描く。
「我が第5艦隊の最重要目標は、シホールアンル最大の工業地帯であるシェルフィクル工業地帯の完全破壊です。当然、敵もその事を察知している可能性が高いと思われます。
敵機動部隊がTF58を打ち破るためには、1にも2にも、味方の連携が必要になります。この、北方海域と、シェルフィクル沿岸部は、いずれも敵基地航空隊の活動範囲内に
入っております。もし、敵機動部隊が我が部隊に決戦を挑むとしたら、この2海域の内のいずれかになるかと思われます。」
「3つ目の南西海域……レビリンイクル諸島南西沖を含むその周辺海域はどうなるのだね?」
敵機動部隊がTF58を打ち破るためには、1にも2にも、味方の連携が必要になります。この、北方海域と、シェルフィクル沿岸部は、いずれも敵基地航空隊の活動範囲内に
入っております。もし、敵機動部隊が我が部隊に決戦を挑むとしたら、この2海域の内のいずれかになるかと思われます。」
「3つ目の南西海域……レビリンイクル諸島南西沖を含むその周辺海域はどうなるのだね?」
フレッチャーはすかさず聞き返す。
「3つ目の南西海域ですが、これまでの経験上、奇策を好むシホールアンル海軍が南西海域に進出して我が艦隊の後方、あるいは側面を衝く可能性もないとは言えません。
ですが、レビリンイクル諸島周辺海域はシェルフィクルから700キロ以上も離れているため、シェルフィクル基地の敵航空隊と敵機動部隊の航空隊は、先の2海域での
戦闘よりも連携がやり辛くなる可能性があります。また、想定された戦闘海域での天候の差も、遠ければ遠いほど影響が出やすくなり、敵機動部隊が攻撃隊を発艦させても、
シェルフィクルの天候が不良で攻撃隊が発進出来ない事も、そして、その逆の可能性もあり得ます。そうなれば、我が機動部隊は一方向の敵に戦力を集中して当たり、
各個撃破を狙うことが出来ます。」
ですが、レビリンイクル諸島周辺海域はシェルフィクルから700キロ以上も離れているため、シェルフィクル基地の敵航空隊と敵機動部隊の航空隊は、先の2海域での
戦闘よりも連携がやり辛くなる可能性があります。また、想定された戦闘海域での天候の差も、遠ければ遠いほど影響が出やすくなり、敵機動部隊が攻撃隊を発艦させても、
シェルフィクルの天候が不良で攻撃隊が発進出来ない事も、そして、その逆の可能性もあり得ます。そうなれば、我が機動部隊は一方向の敵に戦力を集中して当たり、
各個撃破を狙うことが出来ます。」
ヴォーリス中佐はしばしの間、言葉を止め、水を飲んでから説明を続けた。
「それ以前に、異なる海域と地域から発進させた攻撃隊を、はるか遠くを航行する同じ攻撃目標に対して同時に突っ込ませるにはそれ相応の技術が必要です。その技術を、
敵側が有しているのか。そして、それを実行できるパイロットや竜騎士がどれだけいるか……シホールアンル側の厳しい現状で、この分進合撃を敵側が行うのは難しいと、
私は判断しております。」
敵側が有しているのか。そして、それを実行できるパイロットや竜騎士がどれだけいるか……シホールアンル側の厳しい現状で、この分進合撃を敵側が行うのは難しいと、
私は判断しております。」
「だから、北方海域と北東海域か……」
フレッチャーは小声で呟きながら、3つの海域を眺め回した。
「しかし、敵も追いつめられている今、こちらの索敵の目を逃れつつ、南西海域から接近して我が艦隊の側面や後方を衝く事も充分にあり得る筈だが。むしろ、私としては、
敵が一発逆転を狙い、機動部隊と基地航空隊の分進合撃を取る形で、南西海域から挑んで来ると考えているが。」
「参謀長の言われる通りです。」
「南東海域は……後方援護に40隻の潜水艦を哨戒させているから対応できるとして、敵が南西海域から来るか、それとも、北方と北東海域で待ち伏せているかで状況は変わるな。」
敵が一発逆転を狙い、機動部隊と基地航空隊の分進合撃を取る形で、南西海域から挑んで来ると考えているが。」
「参謀長の言われる通りです。」
「南東海域は……後方援護に40隻の潜水艦を哨戒させているから対応できるとして、敵が南西海域から来るか、それとも、北方と北東海域で待ち伏せているかで状況は変わるな。」
フレッチャーは、右手を海図に触れながらそう言い放った。
「……敵将が身の丈に合った戦法を考えているのなら、北方と北東海域。身の丈に合っているか否かを考えずに、博打目的の戦法を考えているのなら南方海域、という所か……」
「そうなりますな、長官。」
「そうなりますな、長官。」
ヴォーリス中佐が頭を頷かせながら、相槌を打つ。
「今は、推測で語る事しかできん。索敵隊が敵を発見してから初めて、次のステップに進むことが出来るだろう。ただ、いつ敵が来ても対応できるように、迎撃機の準備だけは
済ませておこう。」
「長官。もし、我が方が敵機動部隊の索敵に失敗した場合はどうされますか?」
「その時は、敵に対する一切の攻撃をやめ、全戦闘機隊を動員して敵航空隊を片端から叩き落す。だが、それはあくまでも、最後の手段だ。」
済ませておこう。」
「長官。もし、我が方が敵機動部隊の索敵に失敗した場合はどうされますか?」
「その時は、敵に対する一切の攻撃をやめ、全戦闘機隊を動員して敵航空隊を片端から叩き落す。だが、それはあくまでも、最後の手段だ。」
フレッチャーは、視線を航空参謀に向けた。
「必ず、敵は見つけさせる。そして、連中の母艦をこちらの艦載機で叩き沈めなければならん。工場も大事だが、敵機動部隊の撃滅も、大事だからな。」
彼は、意を決した口調でヴォーリス中佐にそう言った。
「そうなれば、敵は派手に宣伝するだろう。第5艦隊は主力部隊に傷1つ付けられぬまま、一方的に攻撃されたと。最も……帰還した敵機動部隊の格納庫の中は空になってるだろうがね。」
午前6時5分 第58任務部隊第1任務群旗艦 空母リプライザル
格納甲板より上げられた艦上偵察機、S1Aハイライダーは、ようやく明るみ始めた水平線を背景にエンジンを唸らせながら、発艦の時を待っていた。
空母リプライザル艦長ジョージ・ベレンティー大佐は、東の洋上に顔を向けた。
空母リプライザル艦長ジョージ・ベレンティー大佐は、東の洋上に顔を向けた。
「夜が明けるな……この心地良い冬晴れの日に、何が起きるかな。」
彼は、どこか歌うかのような口調で呟いた後、顔を再び飛行甲板上の艦載機に向けた。
甲板には3機のハイライダーが並べられている。
リプライザルには9機が搭載されており、第1段索敵ではその3分の1が発艦し、どこかに潜んでいる敵機動部隊を求めて、往復1000マイル(1600キロ)の
長距離飛行をする予定だ。
甲板には3機のハイライダーが並べられている。
リプライザルには9機が搭載されており、第1段索敵ではその3分の1が発艦し、どこかに潜んでいる敵機動部隊を求めて、往復1000マイル(1600キロ)の
長距離飛行をする予定だ。
「片道500マイルか……ハイライダーの航続距離ならではの索敵範囲だな。」
「パイロットの負担が心配になりますね。」
「パイロットの負担が心配になりますね。」
副長のホセ・ジェイソン中佐が、やや浮かぬ顔で言う。
「全くだ。パイロットはベテランだから大丈夫だろうが……せめて、今日だけで決着を付けたい物だ。」
ベレンティーは、軽く頷きながらそう返した。
「艦長。発艦準備完了です。」
「了解。索敵機、発艦せよ。」
「了解。索敵機、発艦せよ。」
通信士官に向けて、ベレンティーが命令が下してから5秒後、ハイライダーの1番機が車輪止めを外され、エンジン音をがなり立てながら飛行甲板を走り始めた。
空気抵抗の除去を徹底的に施された胴長の流麗な機体が、機首の2100馬力エンジンを唸らせながら発艦していく様はいつ見ても迫力がある。
洋上の朝日を受け、機体をきらりと煌めかせたハイライダーは、28ノットの合成速力を得て風の流れを翼に捉え、機体が浮き上がり始める。
やがて、飛行甲板の端を飛び越え、轟音を上げながら大空に舞い上がっていく。
続く2番機と3番機が、1番機と同じように発艦していった。
同じような光景は、他の正規空母でも見られた。
そんな中、ベレンティーはリプライザルの左舷800メートルを航行するフランクリンの発艦風景を見つめていたが、彼は、ある異変に気が付いた。
空気抵抗の除去を徹底的に施された胴長の流麗な機体が、機首の2100馬力エンジンを唸らせながら発艦していく様はいつ見ても迫力がある。
洋上の朝日を受け、機体をきらりと煌めかせたハイライダーは、28ノットの合成速力を得て風の流れを翼に捉え、機体が浮き上がり始める。
やがて、飛行甲板の端を飛び越え、轟音を上げながら大空に舞い上がっていく。
続く2番機と3番機が、1番機と同じように発艦していった。
同じような光景は、他の正規空母でも見られた。
そんな中、ベレンティーはリプライザルの左舷800メートルを航行するフランクリンの発艦風景を見つめていたが、彼は、ある異変に気が付いた。
「フランクリンから3番機が飛び立っていないな。」
「何かあったのでしょうか?」
「何かあったのでしょうか?」
副長がベレンティーに聞くが、彼は首を捻った。
程無くして、フランクリンの艦橋から発光信号が放たれた。
程無くして、フランクリンの艦橋から発光信号が放たれた。
「フランクリンより発光信号!索敵3番機のエンジンが不調。至急代理の索敵機を用意する物なり。発艦作業は10分後に完了する見込み。」
見張り員が信号の内容を読み上げる声が響き、それを聞いたベレンティーは顔をしかめた。
「フランクリン3号機で不調か……まぁ、第2段索敵隊の機体を使えば問題は無いだろうが、幸先が悪いな。」
「こればかりは仕方がないでしょう。物事が、常に完璧に進むとは限りませんからね。」
「確かにそうだな。」
「こればかりは仕方がないでしょう。物事が、常に完璧に進むとは限りませんからね。」
「確かにそうだな。」
ベレンティーは納得した口調で返してから、艦橋内に戻って行った。
同日 午前9時40分 第5艦隊旗艦ミズーリ
「おかしいな……」
ミズーリの作戦室で、偵察機の進出状況を見つめていたフレッチャーは、一向に敵機動部隊発見の報が来ない事に首を捻るばかりであった。
「第2段索敵隊は既に500マイルの距離に達し、母艦へ戻りつつあると言うのに、敵を発見できんとは。」
「1時間後に、第3段索敵隊が折り返し地点に到達します。攻撃隊を出すか否かは、その結果を見てからでも遅くは無いでしょう。」
「今の所、ピケットラインの駆逐艦や、周辺海域に展開した早期警戒機からも、レーダーに敵機を捉えたと言う報告は上がっておりません。」
「1時間後に、第3段索敵隊が折り返し地点に到達します。攻撃隊を出すか否かは、その結果を見てからでも遅くは無いでしょう。」
「今の所、ピケットラインの駆逐艦や、周辺海域に展開した早期警戒機からも、レーダーに敵機を捉えたと言う報告は上がっておりません。」
ヴォーリス中佐とデイビス少将がフレッチャーにそう伝える。
それを聞いたフレッチャーはパイプをくわえつつ、喉を唸らせながらコーヒーを啜った。
それを聞いたフレッチャーはパイプをくわえつつ、喉を唸らせながらコーヒーを啜った。
「予定では、第1から第3索敵隊で敵機動部隊を発見し、TG58.1、TG58.2で用意した第1次攻撃隊を敵にぶつける予定だったが……敵が見つからん以上、
攻撃隊を発艦させる事は出来んな。」
「……個人的には、C-2海域の索敵状況が気になる所です。」
攻撃隊を発艦させる事は出来んな。」
「……個人的には、C-2海域の索敵状況が気になる所です。」
ヴォーリス中佐はC-2海域と呼ばれた部分に右手を置く。
今回の索敵は、大雑把にAからDの区分に分けられた海域を第1から第3までの索敵隊が偵察を行う事になっている。
そのうち、C海域は北方海域と呼ばれる部分にあたり、先に進出した偵察機からの報告では、この海域は他の海域と比べて天候の状況が思わしくなく、索敵に
やや不向きであると記されていた。
このC海域も2つの区分に分類されており、第1段索敵では空母リプライザル隊が索敵を担当し、第2段索敵では空母フランクリンに任されていた。
だが、そのフランクリンから発艦した第2段索敵機が、進出途上で機上レーダーの故障を起こし、周辺海域をレーダー索敵する事が出来なくなった。
フランクリン機はその後も、パイロットが目視で索敵を続けた物の、敵を見つける事が来ぬまま、哨戒ラインの先端に達していた。
今回の索敵は、大雑把にAからDの区分に分けられた海域を第1から第3までの索敵隊が偵察を行う事になっている。
そのうち、C海域は北方海域と呼ばれる部分にあたり、先に進出した偵察機からの報告では、この海域は他の海域と比べて天候の状況が思わしくなく、索敵に
やや不向きであると記されていた。
このC海域も2つの区分に分類されており、第1段索敵では空母リプライザル隊が索敵を担当し、第2段索敵では空母フランクリンに任されていた。
だが、そのフランクリンから発艦した第2段索敵機が、進出途上で機上レーダーの故障を起こし、周辺海域をレーダー索敵する事が出来なくなった。
フランクリン機はその後も、パイロットが目視で索敵を続けた物の、敵を見つける事が来ぬまま、哨戒ラインの先端に達していた。
「C-2海域が怪しい所だが……索敵線全体で敵影見ずという所を考えてみると、範囲内に敵機動部隊が居ないという事も考えられるな。」
「敵が後方に回ろうとすれば、後方に張り巡らせた潜水艦の哨戒線に引っ掛かります。なお、シェルフィクル周辺や、クレスルクィル沖の潜水艦部隊からは、
敵艦隊に関する新たな情報は入っておりません。」
「敵が後方に回ろうとすれば、後方に張り巡らせた潜水艦の哨戒線に引っ掛かります。なお、シェルフィクル周辺や、クレスルクィル沖の潜水艦部隊からは、
敵艦隊に関する新たな情報は入っておりません。」
通信参謀のアラン・レイバック中佐がフレッチャーに言う。
「……もう少し待ちましょう。まだ第3索敵隊がおります。」
ヴォーリスの言葉に、フレッチャーはゆっくりと頷く。
「そうだな……少しの間、待つとしよう。」
午前10時40分 第3索敵隊は各機共に、最大進出ラインにまで到達し、それぞれ引き返し始めた。
本来であれば、この第3索敵隊が敵機動部隊を発見し、第1次攻撃隊が勇躍出撃する事になっていた。
艦隊司令部も、艦隊の将兵もそれを強く期待していた。
だが、第5艦隊将兵の期待とは裏腹に、第3索敵隊が敵艦隊発見の報を送る事は無かった。
本来であれば、この第3索敵隊が敵機動部隊を発見し、第1次攻撃隊が勇躍出撃する事になっていた。
艦隊司令部も、艦隊の将兵もそれを強く期待していた。
だが、第5艦隊将兵の期待とは裏腹に、第3索敵隊が敵艦隊発見の報を送る事は無かった。
午後0時30分 第5艦隊旗艦ミズーリ
フレッチャーは、旗艦ミズーリ艦橋の張り出し通路に足を運び、外の空気を吸っていた。
「天候は晴れとなっているな。」
「この海域は見事な冬晴れに覆われています。ですが、一部海域の天候はやや不良なようです。」
「この海域は見事な冬晴れに覆われています。ですが、一部海域の天候はやや不良なようです。」
航空参謀のヴォーリス中佐が答える。
「第4索敵隊の編成はどうなっている?」
「編成は間もなく済みます。各任務群からはそれぞれ2機、計10機が発艦します。」
「10機か……少ないな。」
「その2時間遅れになりますが、第5索敵隊も出す予定です。こちらは18機発艦予定です。」
「本音を言えば、もっと出すべきだとは思うが……パイロットの疲労と、機体の整備状況考えると、これで精一杯かね?」
「そうなりますな。特にハイライダーは、長距離偵察を行う場合、帰還後は入念に整備しなければなりませんので。」
「仕方あるまい。それで行こう。」
「編成は間もなく済みます。各任務群からはそれぞれ2機、計10機が発艦します。」
「10機か……少ないな。」
「その2時間遅れになりますが、第5索敵隊も出す予定です。こちらは18機発艦予定です。」
「本音を言えば、もっと出すべきだとは思うが……パイロットの疲労と、機体の整備状況考えると、これで精一杯かね?」
「そうなりますな。特にハイライダーは、長距離偵察を行う場合、帰還後は入念に整備しなければなりませんので。」
「仕方あるまい。それで行こう。」
フレッチャーは無表情のままそう言い放った。
彼はおもむろに、左舷後方に顔を向ける。
ミズーリの左舷後方を行く空母リプライザルの飛行甲板には、今しも1機のF8Fが着艦しようとしている。
艦隊の上空には、常時16機のCAPが上げられているが、この戦闘機隊は4時間前に母艦から発艦しており、燃料の残量がややきつくなる頃合いだ。
彼はおもむろに、左舷後方に顔を向ける。
ミズーリの左舷後方を行く空母リプライザルの飛行甲板には、今しも1機のF8Fが着艦しようとしている。
艦隊の上空には、常時16機のCAPが上げられているが、この戦闘機隊は4時間前に母艦から発艦しており、燃料の残量がややきつくなる頃合いだ。
「CAPの交代か……」
「時間的に燃料がきつくなる頃です。今から上がる戦闘機は3直目になりますな。」
「戦闘機もそうだが、早期警戒役のアベンジャーも2直目と後退する時間になるな。」
「はい。このTG58.1からはラングレーが2直目の2機を用意し、発艦準備を整えている筈です。」
「早期警戒機を積んでいるのは軽空母だけだからな。なるべく、損失は出したくない物だ。」
「同感です。貴重品ですからな。」
「時間的に燃料がきつくなる頃です。今から上がる戦闘機は3直目になりますな。」
「戦闘機もそうだが、早期警戒役のアベンジャーも2直目と後退する時間になるな。」
「はい。このTG58.1からはラングレーが2直目の2機を用意し、発艦準備を整えている筈です。」
「早期警戒機を積んでいるのは軽空母だけだからな。なるべく、損失は出したくない物だ。」
「同感です。貴重品ですからな。」
ヴォーリス中佐の言葉に、フレッチャーはその通りだと返しつつ、リプライザルの発着艦風景を見つめ続けた。
午後5時55分 レビリンイクル沖北500マイル地点 「C-2」海域
空母フランクリンから発艦した1機のハイライダーは、C-2海域と呼ばれる哨戒ラインを時速250マイル、高度4000メートルを維持しながら飛行を続けていた。
「機長、最大進出ラインまであと70マイルです。」
機長のロイン・ジャーヴス中尉は、耳元のレシーバー越しに、後部座席に座るヴェン・クルックイン兵曹長からの報告を聞いた。
「レーダーには何も映らんか?」
「いえ、まだ何も映りませんな。」
「こりゃ、明日に持ち越しかもしれんなぁ。」
「いえ、まだ何も映りませんな。」
「こりゃ、明日に持ち越しかもしれんなぁ。」
ジャーヴス中尉はため息交じりに呟きながら、長時間の飛行で重くなった体の各所を、左手で揉んでいく。
「明日もまた、2回飛ぶという事にならなきゃいいんですけどね。」
「そうなるかどうかは、シホット共次第さ。」
「そうなるかどうかは、シホット共次第さ。」
相棒の言葉を聞いたジャーヴスは忌々しげな口調で返した。
「連中がやる気あるんだったら、この長ったらしい偵察行も終わるだろうよ。でも、連中がどこぞに引き籠ってしまったら、今日のような事をまた何日も
繰り返すかもしれんね。」
「1日2回の長距離偵察はきついから、なるべく早く出て来て欲しいですねぇ。」
「言えてるぜ。」
繰り返すかもしれんね。」
「1日2回の長距離偵察はきついから、なるべく早く出て来て欲しいですねぇ。」
「言えてるぜ。」
ジャーヴスはそう返しながら、両肩を竦めた。
午後6時には、折り返し地点まであと40マイルと迫った。
午後6時には、折り返し地点まであと40マイルと迫った。
「あと少しで折り返しだ。早く、母艦でメシを食いたいねぇ。」
ジャーヴスの意識が帰還へと変わり始めた時、唐突にクルックイン兵曹長が切迫した口調で報告を伝えて来た。
「機長!味方艦隊の近くで敵ワイバーンと接触、これを撃墜したとの事です!」
「何だと?艦隊に敵の偵察騎がやって来たのか?」
「そのようです……撃墜された敵が艦隊発見を報告したかどうかは、まだ不明のようです。」
「何だと?艦隊に敵の偵察騎がやって来たのか?」
「そのようです……撃墜された敵が艦隊発見を報告したかどうかは、まだ不明のようです。」
ジャーヴスは眉をひそめた。
「不明か……だが、これで俺達がここに来たと言う証拠は残ったという訳だ。恐らく、連中は未帰還となったワイバーンの消息を調べようとする筈だ。」
「それに対して、こっちは敵艦隊を発見するどころか、迎撃すら受けてませんからね。こりゃ、早い所見つけないとまずいですな。」
「全くだ。ヴェン、しっかりレーダーを見ておけよ。どんな異変でもいいから必ず報告しろ。」
「了解です!」
「それに対して、こっちは敵艦隊を発見するどころか、迎撃すら受けてませんからね。こりゃ、早い所見つけないとまずいですな。」
「全くだ。ヴェン、しっかりレーダーを見ておけよ。どんな異変でもいいから必ず報告しろ。」
「了解です!」
ジャーヴスはクルックインの返事を聞きながら、周囲を見渡す。
太陽の日はすっかり落ちており、辺りは真っ暗となっていた。
彼は燃料計に目を向ける。
蛍光塗料で塗られた目盛りと指針は、機体に残っている燃料の残数を表示している。
太陽の日はすっかり落ちており、辺りは真っ暗となっていた。
彼は燃料計に目を向ける。
蛍光塗料で塗られた目盛りと指針は、機体に残っている燃料の残数を表示している。
「途中、雲を避けたり、気流の流れで余分に燃料を消費したが、それでも3分の1の消費量か。毎度思うが、過剰なほど航続距離が長いハイライダーだからこそ、
表せる数字だな。」
表せる数字だな。」
(だが、人は1日に幾度も、1000キロ以上の長距離飛行に耐えられるように作られてはいない。こいつの航続性能は、人様には余り優しくないな)
ジャーヴスは半ば冗談めいた言葉を胸の内で呟きつつ、折り返し地点まであと僅かと言う事を再認識した。
ジャーヴスは半ば冗談めいた言葉を胸の内で呟きつつ、折り返し地点まであと僅かと言う事を再認識した。
「最大進出ラインまであと20マイルです。」
「OK。」
「OK。」
彼はそう返事しつつ、哨戒ラインの終点に達するのを待った。
午後6時5分。最大進出ラインまであと10マイルに迫った時、
午後6時5分。最大進出ラインまであと10マイルに迫った時、
「機長!レーダーに反応です!」
「何!?」
「何!?」
そのまま母艦に戻る事を考えていたジャーヴスは、突然の報告に驚く。
「敵艦隊か!?」
「い、いえ。艦影にしては非常に小さな反応ですが……」
「何だそれは。」
「これは自分の推測ですが……こいつは敵のワイバーンじゃないですかな。」
「ワイバーンだと?ハイライダーの機上レーダーで捉えられる物か?」
「過去に、早期警戒機が幾度かワイバーン編隊をレーダー探知した事があります。その時のレーダーは、この機体に積んでいるレーダーと同型の奴ですよ。」
「い、いえ。艦影にしては非常に小さな反応ですが……」
「何だそれは。」
「これは自分の推測ですが……こいつは敵のワイバーンじゃないですかな。」
「ワイバーンだと?ハイライダーの機上レーダーで捉えられる物か?」
「過去に、早期警戒機が幾度かワイバーン編隊をレーダー探知した事があります。その時のレーダーは、この機体に積んでいるレーダーと同型の奴ですよ。」
ジャーヴスはしばしの間押し黙った。
「……捉えられん事は無い、って事だな。」
「母艦に報告しますか?」
「ああ、すぐにやってくれ。っと、その前に、目標の速度と進路を教えてくれ。」
「はい。目標ですが、現在は北北東、方位15度方向を時速200マイル前後の速度で進んでいます。速度からして明らかに飛行物体ですね。」
「こちらに気付いた様子はあるか?」
「……反応を見る限り、ありません。現進路を維持し続けています。」
「了解。これを母艦に知らせよう。急いでくれ。」
「母艦に報告しますか?」
「ああ、すぐにやってくれ。っと、その前に、目標の速度と進路を教えてくれ。」
「はい。目標ですが、現在は北北東、方位15度方向を時速200マイル前後の速度で進んでいます。速度からして明らかに飛行物体ですね。」
「こちらに気付いた様子はあるか?」
「……反応を見る限り、ありません。現進路を維持し続けています。」
「了解。これを母艦に知らせよう。急いでくれ。」
ジャーヴスはクルックインに指示を飛ばす。クルックインは待ってましたとばかりに、母艦であるフランクリンに向けて報告を送った。
それから5分後、フランクリンから返信が届いた。
それから5分後、フランクリンから返信が届いた。
「機長!母艦より通信が届きました。燃料の残数を知らせ、であります。」
「現在、燃料は3分の2近く残っていると伝えろ。」
「わかりました!」
「現在、燃料は3分の2近く残っていると伝えろ。」
「わかりました!」
ジャーヴスは相棒の返事を聞きながら、心中では
(これで残業確定だな。)
と呟いていた。
そして、それから再び5分が経った午後6時15分……フランクリンからの2度目の返信が届いた。
(これで残業確定だな。)
と呟いていた。
そして、それから再び5分が経った午後6時15分……フランクリンからの2度目の返信が届いた。
「母艦より通信。索敵2番機(朝一から順序良く発艦した順番で呼んでいる)は燃料の続く限り、反応体の追跡をせよ、です。」
「案の定って奴だな。」
「案の定って奴だな。」
ジャーヴスは苦笑しながら、そう呟いた。
S1Aハイライダーの最大航続距離は、レーダー搭載型のS1A-2では速力が700キロに増えた物の、逸れと引き換えに航続距離は2500キロから
2200キロに低下しているが、ドロップタンクを取り付ければ3400キロまでは進出が可能となっている。
現在、ジャーヴス機は行きの途中で気流の乱れに当たったり、雲を迂回した事で燃料を余分に消費していたが、それでも、現在地点から700キロ近く……
無理をすれば850キロは進む事が可能であった。
S1Aハイライダーの最大航続距離は、レーダー搭載型のS1A-2では速力が700キロに増えた物の、逸れと引き換えに航続距離は2500キロから
2200キロに低下しているが、ドロップタンクを取り付ければ3400キロまでは進出が可能となっている。
現在、ジャーヴス機は行きの途中で気流の乱れに当たったり、雲を迂回した事で燃料を余分に消費していたが、それでも、現在地点から700キロ近く……
無理をすれば850キロは進む事が可能であった。
「奴さんが延々と北北東に向かっているとなると、俺達は最低でも、450マイルはこの飛行を続ける事になるな。」
「無茶言ってくれますね……こっちは朝の出撃でクタクタだと言うのに。」
「けっ。面倒くせえもんだぜ……だが、俺達がアタリを引けるんなら、ちょいとばかし気が乗って来ん訳でも無い。」
「そんじゃ、うちらは奴さんに合わせて飛びますか。あまり近すぎると気付かれるかもしれないので、着かず離れずの位置で固定しましょう。」
「OK。」
「けっ。面倒くせえもんだぜ……だが、俺達がアタリを引けるんなら、ちょいとばかし気が乗って来ん訳でも無い。」
「そんじゃ、うちらは奴さんに合わせて飛びますか。あまり近すぎると気付かれるかもしれないので、着かず離れずの位置で固定しましょう。」
「OK。」
ジャーヴスはそう返しながら、愛機の速度を、レーダー上に移る謎の飛行物体に合わせ始めた。
S1A-2に搭載されている機上レーダーは、今年の4月より配備され始めたAN-APS7レーダーである。
このレーダーは、空中目標なら最短で80メートル、最大で14キロ。水上目標なら最大で40キロの探知距離を有している。
探知範囲は機体の前方160度方向の範囲内であれば上下、左右共に範囲内となっている。
その前の型のAN-APS6レーダーは10キロ程度が限度であったが、マサチューセッツ工科大学の研究チームと共同研究を行っている海軍兵器開発部が
更なる改良型を開発した事で、この新型レーダーの配備が可能となった。
最初にこのレーダーを搭載された機体は、TF58所属の軽空母サンジャシントのアベンジャーであり、今年の9月に行われたヒレリイスルィ空襲では、
機動部隊の周辺で警戒中であったアベンジャー1機が、高度3000付近を飛ぶ偵察ワイバーンを13キロの距離で探知した実績があった。
ジャーヴス機は、敵と思しき飛行物体を高度4000で捉えている。
対処の飛行物体は速度200マイル前後、高度3500付近を飛行中であるが、探知から10分以上経った今でも、進路、速力共に変える事無く、飛行を続けていた。
このレーダーは、空中目標なら最短で80メートル、最大で14キロ。水上目標なら最大で40キロの探知距離を有している。
探知範囲は機体の前方160度方向の範囲内であれば上下、左右共に範囲内となっている。
その前の型のAN-APS6レーダーは10キロ程度が限度であったが、マサチューセッツ工科大学の研究チームと共同研究を行っている海軍兵器開発部が
更なる改良型を開発した事で、この新型レーダーの配備が可能となった。
最初にこのレーダーを搭載された機体は、TF58所属の軽空母サンジャシントのアベンジャーであり、今年の9月に行われたヒレリイスルィ空襲では、
機動部隊の周辺で警戒中であったアベンジャー1機が、高度3000付近を飛ぶ偵察ワイバーンを13キロの距離で探知した実績があった。
ジャーヴス機は、敵と思しき飛行物体を高度4000で捉えている。
対処の飛行物体は速度200マイル前後、高度3500付近を飛行中であるが、探知から10分以上経った今でも、進路、速力共に変える事無く、飛行を続けていた。
「機長、目標との進路を7・5マイル(約12キロ)に維持してください。進路、高度はこのままで大丈夫です。」
クルックインは眼前のPPIスコープを見据えながら、ジャーヴスにそう伝える。
ジャーヴスは了解と呟きつつ、愛機の速度と高度の固定に努めた。
それまで、長い偵察行に付き物の重い倦怠感は、この時になってどこかに吹き飛んでしまった。
ジャーヴスは了解と呟きつつ、愛機の速度と高度の固定に努めた。
それまで、長い偵察行に付き物の重い倦怠感は、この時になってどこかに吹き飛んでしまった。
「機長、何というか……妙に疲れが吹っ飛んだような気がしますね。」
「そらなぁ……いつもはハズレくじばっか引かされていたのに、今回になっていきなり大当たりになりそうな感じだからな。気分も変わるという物さ。」
「そらなぁ……いつもはハズレくじばっか引かされていたのに、今回になっていきなり大当たりになりそうな感じだからな。気分も変わるという物さ。」
ジャーヴスは冗談交じりの言葉で答えつつ、遥か先の敵を睨み付けながら操縦を続けた。
午後7時20分 レビリンイクル沖北北東720マイル地点
(C-2海域最大進出ラインより210マイル地点)
(C-2海域最大進出ラインより210マイル地点)
その後も、ジャーヴス機の偵察行は続いたが、不審な飛行物体を発見してから1時間が経った時……彼らは遂にそれを見つけた。
「き、機長!レーダーに新たな反応が!」
「どうした?艦影か?」
「ええ、艦影です!いきなり複数が現れました!」
「複数か……もう少し進んでみる。」
「どうした?艦影か?」
「ええ、艦影です!いきなり複数が現れました!」
「複数か……もう少し進んでみる。」
ジャーヴスは、速度、高度共に変えぬまま進み続けた。
それから5分後、レーダー上に映っていた飛行物体は、いきなり大きく右に動き始めたが、その頃には、機上レーダーに輪形陣らしき物がはっきりと映し出されていた。
それから5分後、レーダー上に映っていた飛行物体は、いきなり大きく右に動き始めたが、その頃には、機上レーダーに輪形陣らしき物がはっきりと映し出されていた。
「機長!敵の機動部隊です!」
「ようし、すぐに報告だ!」
「了解です!」
「ようし、すぐに報告だ!」
「了解です!」
ジャーヴスはすかさず指示を飛ばし、クルックインも手早く通信キーを押し、母艦に報告を送る。
「くそ、こんな遠くに隠れていたとはな。道理で見つからん訳だ!」
ジャーヴスは、現在の推定位置と、夜明け時の味方機動部隊の位置を脳裏に描く。
TF58は、それぞれ最大進出ラインを500マイルに定めて偵察を行っていた。
だが、現在地は早朝時のTF58の位置から、800マイル以上も離れていた。
現在は、TF58も北上しているため、彼我の距離は縮まっているが、それでも直線的な距離は600マイル以上も離れている。
TF58は、それぞれ最大進出ラインを500マイルに定めて偵察を行っていた。
だが、現在地は早朝時のTF58の位置から、800マイル以上も離れていた。
現在は、TF58も北上しているため、彼我の距離は縮まっているが、それでも直線的な距離は600マイル以上も離れている。
(朝っぱらから索敵が失敗しまくっていたから、てっきり敵は逃げていたと思っていたが、そうじゃ無かったんだな。敵はただ、今日まではやる気が無かったという事か)
「機長、通信終わりました!」
「ようし、ずらかるぞ!近くには敵機動部隊がいる上に、シェルフィクルから100マイル程度しか離れていないからな。すぐに敵が追っかけて来るぞ!」
「ようし、ずらかるぞ!近くには敵機動部隊がいる上に、シェルフィクルから100マイル程度しか離れていないからな。すぐに敵が追っかけて来るぞ!」
彼はそう叫びながら、愛機を反転させた後、速度をやや早めながら帰還の途についた。
「偵察ワイバーンが敵に付けられていたか……」
第4機動艦隊司令官ワルジ・ムク大将は、偵察ワイバーンが慌てて送って来た敵機発見の報告を受けるなり、渋面を浮かべながら言った。
「予想されるアメリカ機動部隊の位置は、こちらから約230ゼルド(790キロ)も離れています。今は、我々も明日の攻撃に向けて13リンル(26ノット)の速力で
南下しておりますから、早朝までには、アメリカ機動部隊までかなり近づけるでしょう。」
「事前に速度を調整して、過度に進み過ぎんようにしなければな。」
南下しておりますから、早朝までには、アメリカ機動部隊までかなり近づけるでしょう。」
「事前に速度を調整して、過度に進み過ぎんようにしなければな。」
ムク大将は、幕僚にそう返しながら、軽く溜息を吐く。
「遂に、明日が決戦か……今日は眠れそうにないな。」
「私も同じ気持ちですよ。」
「私も同じ気持ちですよ。」
参謀長フィンプ・ウークレシュ少将がムク大将に言う。
「我が機動部隊のワイバーン900騎と、基地航空隊の456騎のうち、どれだけ生き残れるのか……」
「そう言えば、君の実家はワイバーンの育成を行っていたな。」
「はい。先祖代々、ワイバーンを育成する仕事に携わっていました。その年老いた父も、今では送り出す度に消耗し尽くすこの現状を見て、まるでこの世の終わりが
来たと言っていましたな。」
「ワイバーン育成廠の高官が1人が自殺し、8人が入院するほどの損耗ぶりだからな。その内、育成廠が潰れかねんぞ。」
「その前に、我々が彼らに闇討ちされるかもしれませんな。送った端からワイバーンを殺しまくりやがって……と、恨み節を言いながら。」
「そう言えば、君の実家はワイバーンの育成を行っていたな。」
「はい。先祖代々、ワイバーンを育成する仕事に携わっていました。その年老いた父も、今では送り出す度に消耗し尽くすこの現状を見て、まるでこの世の終わりが
来たと言っていましたな。」
「ワイバーン育成廠の高官が1人が自殺し、8人が入院するほどの損耗ぶりだからな。その内、育成廠が潰れかねんぞ。」
「その前に、我々が彼らに闇討ちされるかもしれませんな。送った端からワイバーンを殺しまくりやがって……と、恨み節を言いながら。」
ウークレシュ少将の言葉を聞いたムク大将は、首を横に振った。
「いやな話だ。だが、彼らの気持ちは分からんでもないさ。」
ムク大将は、半ば沈んだ表情でウークレシュ少将に言葉を返す。
「……敵の大機動部隊を食い止められる事が出来るのだろうか。いや、仮に食い止めたとしても、その次の決戦を行う事が出来るのだろうか……」
「我が国のワイバーン損耗率を生産数を上回っていますからね。今年の生産数は、ワイバーン育成所を多数新設した甲斐があって、過去最大数を記録しましたが、損耗率はそれ以上。
もはや、この損失の差を埋める事は叶わんでしょう。」
「……奇跡の拡大も、この大消耗戦の前には焼け石の水、という訳か。」
「ですが、戦わなければなりません。戦争が続く限りは……」
「………」
もはや、この損失の差を埋める事は叶わんでしょう。」
「……奇跡の拡大も、この大消耗戦の前には焼け石の水、という訳か。」
「ですが、戦わなければなりません。戦争が続く限りは……」
「………」
ムク大将は、それ以上何も言わなかった。
ただ、やるしかない。
彼は、そう思う事で、沸き起こる不安感を打ち消すしかなかった。
ただ、やるしかない。
彼は、そう思う事で、沸き起こる不安感を打ち消すしかなかった。
「司令官。第54混成飛行集団司令部より魔法通信が入りました。」
「何?第54飛行集団からだと?」
「何?第54飛行集団からだと?」
ムク大将は、艦橋に入って来た魔道士官の報告を聞くなり、首を捻った。
「陸軍はこれより、敵機動部隊に対して夜間攻撃を仕掛けるとの事です。なお、攻撃には第402空中騎士隊と409空中騎士隊が投入される予定です。」
「402と409……分屯地の連中を使うのか。確かに、あそこからなら、敵機動部隊までの距離はかなり近いが……」
「司令官。幾らなんでも時期尚早ではありませんか?」
「402と409……分屯地の連中を使うのか。確かに、あそこからなら、敵機動部隊までの距離はかなり近いが……」
「司令官。幾らなんでも時期尚早ではありませんか?」
ウークレシュ少将が発言する。語調は幾らか荒くなっていた。
「402空中騎士隊と409空中騎士隊は確かに陸軍の指揮下にありますが、かのワイバーン隊は第54飛行集団司令部からも、極力、敵機動部隊との決戦時に出撃させるように
すると言われていたではありませんか。なのに、今になって攻撃を行うとは。」
「私も、明日まで待てと言いたいがな。だが、指揮系統が違う以上、どうする事も出来ん。」
すると言われていたではありませんか。なのに、今になって攻撃を行うとは。」
「私も、明日まで待てと言いたいがな。だが、指揮系統が違う以上、どうする事も出来ん。」
ムク大将は平静な口調で言うが、心中では歩調を合わさない陸軍航空隊に対して怒りを感じていた。
「それに、402隊と409隊の位置が位置なだけに、連中から迂闊に魔法通信を送らせる事は避けねばならん。そうでなければ、敵は警戒して攻撃そのものが無残な結果に陥るだろう。」
(敵機動部隊に突っ込むだけで、悲惨な結果になるのは変わらんだろうが……)
(敵機動部隊に突っ込むだけで、悲惨な結果になるのは変わらんだろうが……)
ムク大将は、最後の部分だけは心中で呟きつつ、こちらから攻撃中止の提言を送る事はやめる事にした。
昨年までは自由に使えた魔法通信だが、海軍総司令部の情報参謀であるヴィルリエ・フレギル大佐が敵に魔法通信文を解読されている事を発表して以来、
魔法通信を1通送るだけでも時期と場所を考えなければならなくなっていた。
昨年までは自由に使えた魔法通信だが、海軍総司令部の情報参謀であるヴィルリエ・フレギル大佐が敵に魔法通信文を解読されている事を発表して以来、
魔法通信を1通送るだけでも時期と場所を考えなければならなくなっていた。
「不満な事この上ないが、攻撃が行われると言うのなら、我々は黙って、その結果を待つとしよう。」
「……成功しても、失敗しても、後味の悪そうな結果になりそうですな。とにもかくも、これで100騎単位の航空戦力が傷物になるのですから……」
「明日になれば、シェルフィクルと我が機動部隊総出で敵を叩く。今は、明日の決戦の事を考えつつ、402隊と409隊が、1隻でも多くの空母を削ってくれる事を祈ろう。」
「攻撃が行われる時間帯は、大体3時間後ぐらいですかな。」
「そうだな……偽装を解除し、出撃準備を整えるまでには大体それぐらいかかるだろう。今は夜間だから、攻撃隊が発進するまでは敵は402隊と409隊の存在に気が付く事は
無いだろう。参謀長、あちらさんは空母を何隻削ってくれると思うかね?」
「……成功しても、失敗しても、後味の悪そうな結果になりそうですな。とにもかくも、これで100騎単位の航空戦力が傷物になるのですから……」
「明日になれば、シェルフィクルと我が機動部隊総出で敵を叩く。今は、明日の決戦の事を考えつつ、402隊と409隊が、1隻でも多くの空母を削ってくれる事を祈ろう。」
「攻撃が行われる時間帯は、大体3時間後ぐらいですかな。」
「そうだな……偽装を解除し、出撃準備を整えるまでには大体それぐらいかかるだろう。今は夜間だから、攻撃隊が発進するまでは敵は402隊と409隊の存在に気が付く事は
無いだろう。参謀長、あちらさんは空母を何隻削ってくれると思うかね?」
ムク大将の問いを受けたウークレシュ少将は、喉を唸らせながら思案する。
「……良くて3隻は削ってくれるかと思います。」
「3隻か。連中は帝国軍の数あるワイバーン隊の中でも上位に入る程の練度だから、それぐらいは可能かもしれんな。」
「3隻か。連中は帝国軍の数あるワイバーン隊の中でも上位に入る程の練度だから、それぐらいは可能かもしれんな。」
午後7時30分 第5艦隊旗艦ミズーリ
「夜間攻撃だと?」
「そうです。」
「そうです。」
フレッチャーの意外そうな問いに、航空参謀のヴォーリス中佐は答えた。
「現在、我が機動部隊と敵機動部隊との距離は、推定で620マイル程になっています。偵察機の報告では、敵機動部隊は20ノット以上の速度で南下しつつあると言われています。
その一方で、我が方も18ノットの速力で北上しております。つまり、我々は互いに距離を縮め合っている事になります。」
「……計算すると、彼我共に1時間で40マイル近く距離を縮めあっている事になるのか。それで、攻撃隊の発艦はいつ行うのだね?」
「23時から24時の間が最適かと思われます。無論、敵は我が方に近過ぎないよう、途中で速度を緩めるか、何処かの海域で遊弋し始めるかもしれませんが、我が方はそのまま
突進し続けます。恐らく、攻撃隊の発艦までには、彼我の距離は420マイル程にまで縮まっている事でしょう。」
「……既に、第1次攻撃隊の各機は格納庫に下げ、弾薬類は全て降ろさせているから、準備完了までにはこれぐらいの時間はかかるかもしれんな。そして、攻撃隊の発艦準備が完了した
頃には、距離はいい具合に縮まっている、という事か……」
その一方で、我が方も18ノットの速力で北上しております。つまり、我々は互いに距離を縮め合っている事になります。」
「……計算すると、彼我共に1時間で40マイル近く距離を縮めあっている事になるのか。それで、攻撃隊の発艦はいつ行うのだね?」
「23時から24時の間が最適かと思われます。無論、敵は我が方に近過ぎないよう、途中で速度を緩めるか、何処かの海域で遊弋し始めるかもしれませんが、我が方はそのまま
突進し続けます。恐らく、攻撃隊の発艦までには、彼我の距離は420マイル程にまで縮まっている事でしょう。」
「……既に、第1次攻撃隊の各機は格納庫に下げ、弾薬類は全て降ろさせているから、準備完了までにはこれぐらいの時間はかかるかもしれんな。そして、攻撃隊の発艦準備が完了した
頃には、距離はいい具合に縮まっている、という事か……」
デイビス少将がそう言いながら、海図上の駒に視線を注ぐ。
「して、攻撃隊はどの任務群から出す予定かね?」
「TG58.2がよろしいでしょう。TG58.2の母艦航空隊は、夜間飛行に長けたパイロットがかなりおります。これに、TG58.1に在籍する、軽空母ラングレーの
VFN91を護衛役に当てれば、敵機動部隊へ辿り着けるかと思われます。」
「VFN91……ここで、レスタン人パイロットを使うか。」
「敵機動部隊にも、夜間戦闘が出来るワイバーンが居ないとは限りませんからな。」
「……しかし、距離が長すぎるのが問題だ。」
「TG58.2がよろしいでしょう。TG58.2の母艦航空隊は、夜間飛行に長けたパイロットがかなりおります。これに、TG58.1に在籍する、軽空母ラングレーの
VFN91を護衛役に当てれば、敵機動部隊へ辿り着けるかと思われます。」
「VFN91……ここで、レスタン人パイロットを使うか。」
「敵機動部隊にも、夜間戦闘が出来るワイバーンが居ないとは限りませんからな。」
「……しかし、距離が長すぎるのが問題だ。」
フレッチャーは険しい表情を張り付かせたままヴォーリスに言う。
「その事も踏まえた上で、編成は3人乗りのアベンジャーを中心で行こうと考えています。」
「アベンジャーか。単座のスカイレイダーでは夜間の長距離飛行は難しいからな。だが、それ以前に距離が長い。420マイルは、いくらアベンジャーの航続距離範囲内とはいえ、
かなり厳しいのではないかね?」
「ですが、敵は洋上の機動部隊の他に、航空基地にも多数の飛行隊がおります。」
「敵機動部隊を叩くよりは、航空基地を叩いた方がいいのではないかね?」
「アベンジャーか。単座のスカイレイダーでは夜間の長距離飛行は難しいからな。だが、それ以前に距離が長い。420マイルは、いくらアベンジャーの航続距離範囲内とはいえ、
かなり厳しいのではないかね?」
「ですが、敵は洋上の機動部隊の他に、航空基地にも多数の飛行隊がおります。」
「敵機動部隊を叩くよりは、航空基地を叩いた方がいいのではないかね?」
唐突に、デイビス少将が口を挟んだ。
「シェルフィクルはここから北西に500マイルほど離れている。距離は敵機動部隊より遠くなるが、ドロップタンクを付ければアベンジャーも1200マイル(1900キロ)は
行ける。それに、航空基地は移動しない。だが、敵の機動部隊は毎時20ノット以上の速力で南下し、時には変針して位置を変えている可能性もある。攻撃失敗のリスクを考えるのならば、
より確実性が高い航空基地爆撃を行った方がいいのではないかね?」
「参謀長の言われる通りです。」
行ける。それに、航空基地は移動しない。だが、敵の機動部隊は毎時20ノット以上の速力で南下し、時には変針して位置を変えている可能性もある。攻撃失敗のリスクを考えるのならば、
より確実性が高い航空基地爆撃を行った方がいいのではないかね?」
「参謀長の言われる通りです。」
ヴォーリスは頷く。
「ですが、航空基地攻撃は賛同できません。航空基地は確かに叩きやすいですが、敵も昨年の教訓を得て、格段に防御力を強化しているでしょう。それに加え、航空基地は打撃を与えても、
竜母と違って“沈む事は無い”ため、ほぼ確実に復旧されます。しかし、竜母は航空基地と違い、叩かれた以上、よほど傷が浅いか、当たり所が良い場合ではない限り、元の状態に戻すには
ドックに入って修理するしかありません。そうなれば、例え撃沈を果たせずとも、ドック行きになるだけで相当量の資材や人員を修理に割かなければ行けなくなるでしょう。」
竜母と違って“沈む事は無い”ため、ほぼ確実に復旧されます。しかし、竜母は航空基地と違い、叩かれた以上、よほど傷が浅いか、当たり所が良い場合ではない限り、元の状態に戻すには
ドックに入って修理するしかありません。そうなれば、例え撃沈を果たせずとも、ドック行きになるだけで相当量の資材や人員を修理に割かなければ行けなくなるでしょう。」
「なるほど、だから敵機動部隊を叩ける内に叩こうと言うのだな?」
「そうです。」
「そうです。」
フレッチャーの問いに、ヴォーリスは即答する。
「だが、攻撃失敗のリスクは敵機動部隊攻撃も航空基地攻撃も同じだ。しかし、航空基地は位置が判明している文、こちらも多数の攻撃隊を出せる筈。アベンジャーだけではなく、
スカイレイダーも出せば、航空基地覆滅も可能だろう。」
「小官はその事に承服しかねます。第一、単座機であるスカイレイダーは攻撃力が高い反面、本隊とはぐれた時には単独で母艦の下に向かわねばなりません。ましてや、夜間攻撃となると、
単座機の遭難確率は飛躍的に上がります。ここは、スカイレイダーは温存しつつ、実績のあるアベンジャーを用いての敵艦隊攻撃を行った方が、総合的に見て良いと考えます。」
「私も、航空参謀の意見に賛成であります。」
スカイレイダーも出せば、航空基地覆滅も可能だろう。」
「小官はその事に承服しかねます。第一、単座機であるスカイレイダーは攻撃力が高い反面、本隊とはぐれた時には単独で母艦の下に向かわねばなりません。ましてや、夜間攻撃となると、
単座機の遭難確率は飛躍的に上がります。ここは、スカイレイダーは温存しつつ、実績のあるアベンジャーを用いての敵艦隊攻撃を行った方が、総合的に見て良いと考えます。」
「私も、航空参謀の意見に賛成であります。」
作戦参謀のジュレク・ブランチャード中佐も賛成した。
「敵の母艦1隻を戦線離脱に追い込めば、その分敵の航空戦力低下に繋がります。無論、現状でも我がTF58が有利なのは間違いないでしょうが、1500機以上の敵と、
1300機程度の敵と戦うのとでは、戦況も幾らか変化します。」
「……長官、どうされますか?」
1300機程度の敵と戦うのとでは、戦況も幾らか変化します。」
「……長官、どうされますか?」
デイビス少将は、フレッチャーに決断を促した。
デイビスとしては内心反対であったが、航空参謀と作戦参謀が強く主張する以上は、フレッチャーの判断に任せるしかないと思っていた。
デイビスとしては内心反対であったが、航空参謀と作戦参謀が強く主張する以上は、フレッチャーの判断に任せるしかないと思っていた。
「スプルーアンスなら……却下していただろうな。航空基地を攻撃するにしても、敵機動部隊を攻撃するにしても、夜な上に、何分距離が長い。普通ならやらないだろう……」
「長官……」
「長官……」
ヴォーリスは、やや緊張しながらフレッチャーの返事を待つ。
「しかし、こうして攻撃を躊躇っている間にも、敵機動部隊の司令部連中が何かよからぬ策を立てているか……あるいは、戦場から離脱する事を考えている可能性も否定できん。
ならば、我々は連中の不遜な企みを叩き潰すために、今から攻撃隊を送り出して、盛大に驚かせてやろうじゃないか。」
ならば、我々は連中の不遜な企みを叩き潰すために、今から攻撃隊を送り出して、盛大に驚かせてやろうじゃないか。」
フレッチャーは、そのしわ顔に自信ありげな笑みを浮かべた後、デイビス少将に顔を向けた。
「参謀長。これから敵機動部隊に艦載機で夜襲を仕掛けるぞ。」
「長官。本当に夜間空襲を行うのですか?」
「無論だ。敵に、海戦の主導権はこちらが握っているのだと思い知らせてやる。通信参謀、直ちにTG58.2へ連絡を入れてくれ。」
「アイアイサー。」
「長官。本当に夜間空襲を行うのですか?」
「無論だ。敵に、海戦の主導権はこちらが握っているのだと思い知らせてやる。通信参謀、直ちにTG58.2へ連絡を入れてくれ。」
「アイアイサー。」
命令を受けた通信参謀のエイル・フリッカート中佐は、足早に作戦室から退出していった。
フレッチャーは、そばに置いていたパイプを加えると、タバコ葉を入れて火を付けた。
フレッチャーは、そばに置いていたパイプを加えると、タバコ葉を入れて火を付けた。
「……参謀長。俺の発した命令は残酷だったかね?」
「いえ。良い判断と思われます。それに、戦争自体が残酷そのものです。我々は、この戦争が終わるまで、このレールに乗り続けるしかありません。」
「ふむ……そうかもしれんな。終戦までの終着駅が近くなるか否かは、この戦いで決まるだろうな。」
「いえ。良い判断と思われます。それに、戦争自体が残酷そのものです。我々は、この戦争が終わるまで、このレールに乗り続けるしかありません。」
「ふむ……そうかもしれんな。終戦までの終着駅が近くなるか否かは、この戦いで決まるだろうな。」
フレッチャーはそう返しつつ、口から紫煙を吐き出した。
「……これから征く戦士達に、神のご加護があらん事を……」