第267話 夜海の相撃(後編)
1485年(1945年)12月6日 午後11時55分 第5艦隊旗艦ミズーリ
「長官。夜間攻撃隊の発艦準備が完了いたしました。」
第5艦隊航空参謀を務めるエルンスト・ヴォーリス中佐は、艦橋で司令官席に座って眠気覚ましのコーヒーを啜る
フランク・フレッチャー大将に向けて報告を伝えた。
フランク・フレッチャー大将に向けて報告を伝えた。
「参加機数は合計で72機に上ります。」
「72機か。夜間の編成にしてはなかなかの大所帯だな。」
「主力である対艦攻撃機はアベンジャー36機にヘルダイバー12機ですが、この他にヘルダイバー6機が照明隊、
ベアキャット16機が護衛、ハイライダー2機が先導役として参加しておりますので、規模がやや大きくなっております。」
「10分前には、敵の索敵ワイバーンが我が艦隊を発見している。敵が夜間空襲を仕掛けて来る可能性もある。急いで攻撃隊を発艦させよう。」
「アイ・サー」
「72機か。夜間の編成にしてはなかなかの大所帯だな。」
「主力である対艦攻撃機はアベンジャー36機にヘルダイバー12機ですが、この他にヘルダイバー6機が照明隊、
ベアキャット16機が護衛、ハイライダー2機が先導役として参加しておりますので、規模がやや大きくなっております。」
「10分前には、敵の索敵ワイバーンが我が艦隊を発見している。敵が夜間空襲を仕掛けて来る可能性もある。急いで攻撃隊を発艦させよう。」
「アイ・サー」
フレッチャーの命令を聞いたヴォーリス航空参謀が顔を頷かせた。
それから程無くして、TG58.2所属の正規空母レンジャーⅡ、アンティータム、TG58.1所属の軽空母ラングレーに
攻撃隊発艦の命令が伝えられた。
それから程無くして、TG58.2所属の正規空母レンジャーⅡ、アンティータム、TG58.1所属の軽空母ラングレーに
攻撃隊発艦の命令が伝えられた。
1分後、各空母の飛行甲板から攻撃機が発艦し始めた。
TBFは胴体の爆弾倉に重い魚雷を抱いたまま、SB2Cは、12機が1000ポンド爆弾1発を搭載し、残った6機は照明弾を
積んで飛行甲板から飛び上がった。
これとは別に、軽空母ラングレーからは護衛役のF8Fベアキャット16機が発艦し、その他には誘導役のS1Aハイライダーが
シャングリラから発艦した。
夜間という悪条件にも拘らず、午前0時10分には全機の発艦が完了。
72機の攻撃隊は翼端灯の明かりを頼りに(ベアキャットはそうでもなかったが)編隊を組み、一路、北北東420マイル付近を
航行している敵機動部隊へと向かって行った。
TBFは胴体の爆弾倉に重い魚雷を抱いたまま、SB2Cは、12機が1000ポンド爆弾1発を搭載し、残った6機は照明弾を
積んで飛行甲板から飛び上がった。
これとは別に、軽空母ラングレーからは護衛役のF8Fベアキャット16機が発艦し、その他には誘導役のS1Aハイライダーが
シャングリラから発艦した。
夜間という悪条件にも拘らず、午前0時10分には全機の発艦が完了。
72機の攻撃隊は翼端灯の明かりを頼りに(ベアキャットはそうでもなかったが)編隊を組み、一路、北北東420マイル付近を
航行している敵機動部隊へと向かって行った。
それから5分後……
「長官!TG58.2のピケット艦より緊急連絡です!我、敵機の接近を確認。位置は艦隊の南南西120マイル、方位195度。
速力は約200マイル(320キロ)。」
「敵は1機だけか?」
速力は約200マイル(320キロ)。」
「敵は1機だけか?」
フレッチャーは、報告を伝えて来た通信参謀のエイル・フリッカート中佐にそう問い質した。
「今の所は1機だけのようです。」
「その後方に別の敵編隊が続行しているような報せ等はまだ入っていないか?」
「いえ、まだありません。」
「それにしても南南西か……昼間の敵機はシェルフィクル方面から飛来して来たが、今の敵機は、方角からしてレビリンイクル諸島から
飛来したように思える。参謀長、レビリンイクル諸島には事前に、航空部隊が駐屯したと言うような情報は無かったな?」
「はい。そのような報告は見られませんでした。恐らく、敵は秘密裡にレビリンイクル列島にある航空基地にワイバーン隊を移動させたのでしょう。」
「2か月前の情報では、シホールアンル軍はレビリンイクル駐留部隊を前線に回したとあったが……また戻したのか。しかし、航空基地があるのなら、
偵察機は何故見落としたのだね?」
「恐らく、敵は元の航空基地があったベルクァ島から別の島に基地を移し、入念に偽装を施してこちらの目を欺いたのでしょう。」
「その後方に別の敵編隊が続行しているような報せ等はまだ入っていないか?」
「いえ、まだありません。」
「それにしても南南西か……昼間の敵機はシェルフィクル方面から飛来して来たが、今の敵機は、方角からしてレビリンイクル諸島から
飛来したように思える。参謀長、レビリンイクル諸島には事前に、航空部隊が駐屯したと言うような情報は無かったな?」
「はい。そのような報告は見られませんでした。恐らく、敵は秘密裡にレビリンイクル列島にある航空基地にワイバーン隊を移動させたのでしょう。」
「2か月前の情報では、シホールアンル軍はレビリンイクル駐留部隊を前線に回したとあったが……また戻したのか。しかし、航空基地があるのなら、
偵察機は何故見落としたのだね?」
「恐らく、敵は元の航空基地があったベルクァ島から別の島に基地を移し、入念に偽装を施してこちらの目を欺いたのでしょう。」
作戦参謀のジュレク・ブランチャード中佐が答えた。
「レビリンイクル列島は、西端のベルクァ島から北西に伸びる形で配置された大小6つの島で構成されており、どの島も200~300単位の航空戦力を
有する事が可能な面積を有しております。先の敵機は、この6つの島のいずれかから発進したものと見て間違いないでしょうな。」
「ふむ……こちらの哨戒機は、幾度もレビリンイクル列島を飛び越す形で飛行していたのだが、それでも見破れんほどの巧みな偽装を施していたとはな。」
「となりますと、敵の夜間攻撃隊が来襲する可能性があります。至急、夜間戦闘機を追加で発艦させるべきかと思われます。」
有する事が可能な面積を有しております。先の敵機は、この6つの島のいずれかから発進したものと見て間違いないでしょうな。」
「ふむ……こちらの哨戒機は、幾度もレビリンイクル列島を飛び越す形で飛行していたのだが、それでも見破れんほどの巧みな偽装を施していたとはな。」
「となりますと、敵の夜間攻撃隊が来襲する可能性があります。至急、夜間戦闘機を追加で発艦させるべきかと思われます。」
ヴォーリス中佐が進言する。
「そうだな。艦隊上空を飛び回っている12機だけでは少々心許ない。最低でも、あと12機は上げなければいかんな。」
「長官。TG58.4とTG58.5が2時間後の交代に向けて発艦準備中です。この夜間戦闘機の準備を急がせましょう。」
「そうだな。通信参謀!TG58.4とTG58.5に命令を送れ。敵航空隊の空襲の公算、大なる物なり。夜間戦闘機の発艦を急がれたし、だ。」
「長官。TG58.4とTG58.5が2時間後の交代に向けて発艦準備中です。この夜間戦闘機の準備を急がせましょう。」
「そうだな。通信参謀!TG58.4とTG58.5に命令を送れ。敵航空隊の空襲の公算、大なる物なり。夜間戦闘機の発艦を急がれたし、だ。」
「ハッ!すぐに送ります!」
フリッカート中佐は、用紙に命令文を書き終えるや、作戦室から退出していった。
それから20分後、作戦室に続報が入った。
「長官!ピケット艦より続報です!敵偵察機の後方に敵大編隊を探知せり。数は100騎前後。位置は艦隊より南南東120マイル、方位175度。
高度2000メートル付近を飛行中。速度は約250マイル(400キロ)。」
「来たか……それにしても、敵編隊のスピードが思ったよりも早いな。」
高度2000メートル付近を飛行中。速度は約250マイル(400キロ)。」
「来たか……それにしても、敵編隊のスピードが思ったよりも早いな。」
フレッチャーは敵攻撃隊の速度が、夜間飛行時の大編隊の速度にしては異様に早いように思われた。
見通しの悪い夜間飛行では、巡航速度で編隊を組むのにも、昼間以上に危険が付き纏う。
だが、ピケット艦がレーダーで捉えた敵編隊は、夜間であるにもかかわらず、緊密な編隊を組んだまま巡航速度以上のスピードで飛行を続けていた。
アメリカ軍が得たこれまでの情報では、最新型の85年型ワイバーンは、爆弾や魚雷を積んだ時には、220マイル前後の巡航速度で飛行する事が判明している。
だが、TF58に向かっている敵編隊のスピードは明らかに早い。
見通しの悪い夜間飛行では、巡航速度で編隊を組むのにも、昼間以上に危険が付き纏う。
だが、ピケット艦がレーダーで捉えた敵編隊は、夜間であるにもかかわらず、緊密な編隊を組んだまま巡航速度以上のスピードで飛行を続けていた。
アメリカ軍が得たこれまでの情報では、最新型の85年型ワイバーンは、爆弾や魚雷を積んだ時には、220マイル前後の巡航速度で飛行する事が判明している。
だが、TF58に向かっている敵編隊のスピードは明らかに早い。
「……もしかして、重い魚雷を積まずに、比較的軽量な対艦爆裂光弾だけを積んでいるのか?」
「その可能性は高そうですな。」
「その可能性は高そうですな。」
ヴォーリスがフレッチャーに言う。
「恐らく、明日中には、敵主力艦隊はTF58との決戦を行うでしょう。その戦いを少しでもやり易くするために、こちら側の戦力を削る必要があります。
ですが、空母を直接減らすにはかなり難しい。であるならば、敵が空母を守る護衛艦のみに的を絞って、攻撃を行う可能性もあるでしょう。」
「ふむ。つまり、この敵編隊は防空艦の漸減を目的とした夜間攻撃隊という訳か。」
「今の時点ではただの推測にすぎません。この敵編隊の主目標が、護衛艦だけとは限らないでしょう。」
「対空艦潰しを行うと同時に、主目標である空母も攻撃して来るかもしれんか……いつもの通りに。」
「長官。敵が艦隊に到達するまで30分もありません。直ちに、戦闘準備を命じましょう。」
「うむ。そうしよう。」
ですが、空母を直接減らすにはかなり難しい。であるならば、敵が空母を守る護衛艦のみに的を絞って、攻撃を行う可能性もあるでしょう。」
「ふむ。つまり、この敵編隊は防空艦の漸減を目的とした夜間攻撃隊という訳か。」
「今の時点ではただの推測にすぎません。この敵編隊の主目標が、護衛艦だけとは限らないでしょう。」
「対空艦潰しを行うと同時に、主目標である空母も攻撃して来るかもしれんか……いつもの通りに。」
「長官。敵が艦隊に到達するまで30分もありません。直ちに、戦闘準備を命じましょう。」
「うむ。そうしよう。」
フレッチャーはデイビス少将の進言を受け入れた。
「TF58全艦に命令!各艦はこれより、対空戦闘の準備に掛かれ!」
午前0時55分 レビリンイクル沖北方190マイル地点
「夜間戦闘機隊が敵編隊との戦闘を開始しました!」
第58任務部隊第4任務群司令官を務めるジェラルド・ブランディ少将は、旗艦キアサージのCICで戦況の推移を見守っていた。
「敵編隊の進路からして、TG58.4に突入して来るのはほぼ間違いないでしょう。」
群司令部参謀長のニール・ワトソン大佐がブランディ提督に話す。
「迎撃隊が、上手く削ってくれればいいが……」
ブランディ少将は額に滲んだ汗をハンカチで拭いながらワトソン大佐に言う。
「敵編隊の4分の1が護衛機として、攻撃機は約70機程でしょう。迎撃隊が20機落としてくれれば、こちらも大分やり易くなります。」
「だが、そう上手く行かんだろう。夜間空戦のエキスパートであるVFN91は、先の敵機動部隊に対する夜襲で全て出払っている。私としては、
リスクの高い夜間攻撃などやらずに、明日の日中に決着を付ければ良いと思っていたんだが……ひとまず、これ以上は言わない事にして。」
「だが、そう上手く行かんだろう。夜間空戦のエキスパートであるVFN91は、先の敵機動部隊に対する夜襲で全て出払っている。私としては、
リスクの高い夜間攻撃などやらずに、明日の日中に決着を付ければ良いと思っていたんだが……ひとまず、これ以上は言わない事にして。」
ブランディ少将は対勢表示板に目を向けた。
透明のアクリルボードに水兵が張り付き、刻一刻と変化する戦況を事細かに書き記していく。
戦闘開始の報告が伝わってから15分後、戦況は予想通りの展開となっていた。
透明のアクリルボードに水兵が張り付き、刻一刻と変化する戦況を事細かに書き記していく。
戦闘開始の報告が伝わってから15分後、戦況は予想通りの展開となっていた。
「夜間戦闘機隊は尚も、敵編隊と戦闘中ですが、既に敵攻撃騎隊の半数は迎撃網を突破し、我が艦隊に向かいつつあります。」
「やはり、24機では無理があるか。」
「やはり、24機では無理があるか。」
ブランディ少将は苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべた。
「報告では、敵戦闘ワイバーン4騎、攻撃ワイバーン9騎を撃墜したようですが、我が方も夜間戦闘機6機を撃墜されております。現在、
夜間戦闘機隊はほぼ全てが、敵護衛騎との空戦に忙殺されており、敵攻撃隊を阻止できる余裕はありません。」
夜間戦闘機隊はほぼ全てが、敵護衛騎との空戦に忙殺されており、敵攻撃隊を阻止できる余裕はありません。」
「あとは、艦隊の対空砲火で何とかするしかないか。」
ブランディ少将は、ワトソン大佐の言葉を聞きつつ、アクリルボードに視線を向ける。
敵編隊を現すマークは、TG58.4まであと20マイルにまで迫っている。
あと10分足らずで、敵編隊はTG58.4目がけて突進して来るであろう。
敵編隊を現すマークは、TG58.4まであと20マイルにまで迫っている。
あと10分足らずで、敵編隊はTG58.4目がけて突進して来るであろう。
「各艦、戦闘準備は出来ています。あとは、敵編隊が来るのを待つだけですな。」
「全く、とんだ幕開けになった物だ……」
「全く、とんだ幕開けになった物だ……」
「隊長!正面の生命反応が高まっています!!」
第409空中騎士隊の指揮官であるヴェイト・アスフラム少佐は、直率小隊の2番騎を操る竜騎士の報告を聞き、大きく首を頷かせた。
「ようし!手筈通りに行くぞ!照明隊はそのままの高度で前進を続けろ!対空艦掃討隊は雷撃隊と共に高度20グレル(40メートル)まで降下!
雷撃隊は単横陣に展開し、敵空母を攻撃しろ!」
「「了解!!」」
雷撃隊は単横陣に展開し、敵空母を攻撃しろ!」
「「了解!!」」
彼の頭の中で、部下達が発した返信が届く。
(今頃、このやり取りも敵艦に盗み聞きされているのかな)
アスフラム少佐は、本国から送られて来た派遣参謀が行っていた話を思い出した後、不敵な笑みを浮かべた。
「盗み聞きするのなら、幾らでもするがいい。その姑息な機械ごと、俺達が叩き沈めてやる。」
彼は唸るような声音でそう言いつつ、直率の小隊と共に高度を下げ始めた。
今日の出撃では、第409空中騎士隊の他に、第402空中騎士隊も参加している。
この2個空中騎士隊は、半数が経験未熟な竜騎士だが、残り半数は米空母部隊との戦闘や、前線で陸軍航空隊との戦いを幾度も経験した強者ばかりである。
第409空中騎士隊は、402空中騎士隊と共に85年の6月に編成された。
彼らには、最新の汎用型ワイバーンである85年型ワイバーンが与えられた。
今日の出撃では、第409空中騎士隊の他に、第402空中騎士隊も参加している。
この2個空中騎士隊は、半数が経験未熟な竜騎士だが、残り半数は米空母部隊との戦闘や、前線で陸軍航空隊との戦いを幾度も経験した強者ばかりである。
第409空中騎士隊は、402空中騎士隊と共に85年の6月に編成された。
彼らには、最新の汎用型ワイバーンである85年型ワイバーンが与えられた。
このワイバーンを受領した彼らは、シェルフィクル近海で日夜猛訓練に励んだ。
アスフラムは過去に2度、米空母部隊との戦闘に参加しており、攻撃方法は2度とも低空雷撃であった。
1度目の雷撃では、エセックス級空母に魚雷を命中させている。
2度目の魚雷攻撃はレビリンイクル沖海戦の時に行われたが、この時は別のエセックス級空母を雷撃した物の、回避されていた。
彼の率いる第409空中騎士隊は、作戦に参加した58騎のうち、18騎が護衛。24騎が対艦爆裂光弾を搭載しており、残り16騎は魚雷を抱いている。
このうち、爆裂光弾搭載騎が2騎、雷装騎2騎が米軍の迎撃機によって撃墜されていた。
損害は同僚部隊である第402空中騎士隊にも出ている。
こちらは護衛騎18、対艦爆裂光弾搭載騎22、雷装騎18、照明隊6騎が出撃しているが、このうち、爆裂光弾搭載騎3騎と雷装騎2騎が犠牲となっていた。
攻撃前に撃墜された9騎の火力は、外れ弾を考慮しても、正規空母1隻は傷物にして後方に突き返すことが出来るほどであり、戦力の少ない彼らにとって、
この損失は小さくない。
だが、アスフラムとしては、攻撃時に必要となる照明隊が1騎も欠けずに残ってくれた事にやや満足していた。
アスフラムは過去に2度、米空母部隊との戦闘に参加しており、攻撃方法は2度とも低空雷撃であった。
1度目の雷撃では、エセックス級空母に魚雷を命中させている。
2度目の魚雷攻撃はレビリンイクル沖海戦の時に行われたが、この時は別のエセックス級空母を雷撃した物の、回避されていた。
彼の率いる第409空中騎士隊は、作戦に参加した58騎のうち、18騎が護衛。24騎が対艦爆裂光弾を搭載しており、残り16騎は魚雷を抱いている。
このうち、爆裂光弾搭載騎が2騎、雷装騎2騎が米軍の迎撃機によって撃墜されていた。
損害は同僚部隊である第402空中騎士隊にも出ている。
こちらは護衛騎18、対艦爆裂光弾搭載騎22、雷装騎18、照明隊6騎が出撃しているが、このうち、爆裂光弾搭載騎3騎と雷装騎2騎が犠牲となっていた。
攻撃前に撃墜された9騎の火力は、外れ弾を考慮しても、正規空母1隻は傷物にして後方に突き返すことが出来るほどであり、戦力の少ない彼らにとって、
この損失は小さくない。
だが、アスフラムとしては、攻撃時に必要となる照明隊が1騎も欠けずに残ってくれた事にやや満足していた。
「照明隊が全騎生き残っている事は、まさに不幸中の幸いだ。暗視魔法で視界を明るくしているとはいえ、明かりが無くては攻撃はやり辛いからな。」
アスフラムはこの幸運に感謝しつつも、味方攻撃隊を率いて敵機動部隊目指して進み続ける。
程無くして、先行した照明隊が敵輪形陣の外輪部にさしかかった。
その直後、敵艦隊が発砲を開始した。
輪形陣外輪部に位置する敵駆逐艦が、上空を行く照明隊を全て叩き落そうとしているのであろう。
しばしの間、敵艦が盛んに両用砲弾を撃ちまくる。
砲撃開始から1分が経った時、唐突に敵艦隊の上空で青白い光が輝いた。
程無くして、先行した照明隊が敵輪形陣の外輪部にさしかかった。
その直後、敵艦隊が発砲を開始した。
輪形陣外輪部に位置する敵駆逐艦が、上空を行く照明隊を全て叩き落そうとしているのであろう。
しばしの間、敵艦が盛んに両用砲弾を撃ちまくる。
砲撃開始から1分が経った時、唐突に敵艦隊の上空で青白い光が輝いた。
「隊長!先に行きますぞ!!」
彼の頭の中で、部下の発した魔法通信が届く。
彼の率いる雷撃隊を、計22騎のワイバーンが追い越していく。
彼の率いる雷撃隊を、計22騎のワイバーンが追い越していく。
「期待しているぞ!」
アスフラム少佐は、対空艦掃討隊を率いる指揮官騎を見つめながら返答する。
「しかし、流石は新式の照明弾だ。今までの奴と違って、敵が見やすく感じる。」
敵艦隊は、落下傘付きの照明弾によってその全容を曝け出されていた。
陣形の外輪部には、分かるだけでも7、8隻の駆逐艦がいる。そのやや内側に巡洋艦が2、3隻確認できる。
そのまた内側に、アスフラム達が目標とする敵主力……エセックス級正規空母やインディペンデンス級軽空母が、
夜間であるにもかかわらず、堂々たる姿を現せている。
空母群の右、または左斜め前方には、護衛艦群の顔役である戦艦が航行していた。
陣形の外輪部には、分かるだけでも7、8隻の駆逐艦がいる。そのやや内側に巡洋艦が2、3隻確認できる。
そのまた内側に、アスフラム達が目標とする敵主力……エセックス級正規空母やインディペンデンス級軽空母が、
夜間であるにもかかわらず、堂々たる姿を現せている。
空母群の右、または左斜め前方には、護衛艦群の顔役である戦艦が航行していた。
(フン、いつ見ても立派な隊形だな!)
アスフラムは眼前の敵機動部隊に対して、憎しみと敬意の混じった心境で呟く。
アスフラム隊が敵輪形陣から離れた所で突入隊形を整えている中、照明隊に続いて先行した対空艦掃討隊が、小隊ごとに別れ、高度40メートルの
低空で出せる限りの速度を維持したまま突入していく。
この攻撃には、第402空中騎士隊の20騎のワイバーンも同行していたが、一足先に第409空中騎士隊が米機動部隊との戦闘を開始した。
輪形陣左側を行く複数の米駆逐艦は、射撃目標を照明隊から対空艦掃討隊に切り替えた。
アレン・M・サムナー級と思われる米駆逐艦は、猛烈な対空砲火を撃ち出してきた。
先頭のワイバーン小隊が最初の対空砲火を浴びる。
VT信管付きの高角砲弾は、まず、初弾でワイバーン小隊の3番騎を粉砕した。
至近距離で炸裂した砲弾の破片は凄まじい勢いで魔法障壁をぶち抜き、その次に竜騎士とワイバーンが夥しい破片を受けてミンチにされる。
操縦者と、操られるワイバーンが同時に絶命し、そのまま海面に叩き付けられた直後、今度は2番騎が同様に撃墜される。
生き残った1番騎と4番騎は、必死に対空砲火を掻い潜り、目標に定めた敵駆逐艦へ向けて突進していく。
距離が1400メートルを切った直後、敵駆逐艦から夥しい量の機銃弾が放たれた。
機銃弾のいくつかが魔法障壁に当たり、ワイバーンの周囲で金色に似た光が点滅する。
85年型ワイバーンは、従来のワイバーンと違い、魔法障壁の強化が本格的に実行されている。
これまでのワイバーンは、83年型ワイバーンを見ても防御力は向上していたが、現場の視点から見れば性能はワイバーンの速度が速くなっただけで
性能に大差は無いと酷評されていた。
だが、85年型ワイバーンの防御力、特に魔法障壁の耐久度は格段に上がっており、実質的に、防御力は空中戦に関して言えば1.5倍。
対艦攻撃では約2倍となっていた。
この時も、ワイバーンはしばしの間、40ミリ機銃弾の直撃に耐える事が出来ていた。
しかし、魔法障壁の効用時間も長くは続かない。
小隊の指揮官騎が目標艦との距離600メートルまで接近し、対艦爆裂光弾の発射を行おうとした時、唐突に魔法障壁が消滅した。
アスフラム隊が敵輪形陣から離れた所で突入隊形を整えている中、照明隊に続いて先行した対空艦掃討隊が、小隊ごとに別れ、高度40メートルの
低空で出せる限りの速度を維持したまま突入していく。
この攻撃には、第402空中騎士隊の20騎のワイバーンも同行していたが、一足先に第409空中騎士隊が米機動部隊との戦闘を開始した。
輪形陣左側を行く複数の米駆逐艦は、射撃目標を照明隊から対空艦掃討隊に切り替えた。
アレン・M・サムナー級と思われる米駆逐艦は、猛烈な対空砲火を撃ち出してきた。
先頭のワイバーン小隊が最初の対空砲火を浴びる。
VT信管付きの高角砲弾は、まず、初弾でワイバーン小隊の3番騎を粉砕した。
至近距離で炸裂した砲弾の破片は凄まじい勢いで魔法障壁をぶち抜き、その次に竜騎士とワイバーンが夥しい破片を受けてミンチにされる。
操縦者と、操られるワイバーンが同時に絶命し、そのまま海面に叩き付けられた直後、今度は2番騎が同様に撃墜される。
生き残った1番騎と4番騎は、必死に対空砲火を掻い潜り、目標に定めた敵駆逐艦へ向けて突進していく。
距離が1400メートルを切った直後、敵駆逐艦から夥しい量の機銃弾が放たれた。
機銃弾のいくつかが魔法障壁に当たり、ワイバーンの周囲で金色に似た光が点滅する。
85年型ワイバーンは、従来のワイバーンと違い、魔法障壁の強化が本格的に実行されている。
これまでのワイバーンは、83年型ワイバーンを見ても防御力は向上していたが、現場の視点から見れば性能はワイバーンの速度が速くなっただけで
性能に大差は無いと酷評されていた。
だが、85年型ワイバーンの防御力、特に魔法障壁の耐久度は格段に上がっており、実質的に、防御力は空中戦に関して言えば1.5倍。
対艦攻撃では約2倍となっていた。
この時も、ワイバーンはしばしの間、40ミリ機銃弾の直撃に耐える事が出来ていた。
しかし、魔法障壁の効用時間も長くは続かない。
小隊の指揮官騎が目標艦との距離600メートルまで接近し、対艦爆裂光弾の発射を行おうとした時、唐突に魔法障壁が消滅した。
その次の瞬間には、指揮官騎は機銃の集束弾によって吹き飛ばされていた。
だが、4番騎は撃墜される事なく、無事に光弾発射を行う事が出来た。
ワイバーンから2発の緑色の杭が投下された直後、それが緑色の光を発して米駆逐艦に向かって行った。
2発の爆裂光弾は、米艦の生命反応を探知し、1発は一度上昇してから艦橋へ、もう1発は敵艦の中央部付近に命中した。
対艦爆裂光弾が爆発した瞬間、敵駆逐艦の艦橋上部と中央部付近で爆炎が吹き上がった。
この時、駆逐艦ウィラード・キースは2発の爆裂光弾によって、艦橋トップのMK12射撃レーダーを爆砕された他、爆発エネルギーがすぐ後ろにある
マストまでも叩き折った。
マストは耳障りな響きを立てながら右舷側に落下し、その際に射手ごと20ミリ機銃座を踏み潰した。
中央部に命中した光弾は、2番煙突のすぐ横で炸裂し、その周囲に居た20ミリ機銃座1つと40ミリ連装機銃座1基が損傷し、火災を発生させた。
幸運な事に、ウィラード・キースは魚雷発射管への命中を免れたため、魚雷に誘爆して爆沈という大惨事を避ける事が出来た。
だが、機銃座を複数粉砕された上に、マスト上の水上レーダーが失われた事は非常に痛手であり、ウィラード・キースの対空火力は著しく衰えてしまった。
TG58.4の駆逐艦群は、ウィラード・キースの他に、ヘンリーとバックが被弾していた。
ヘンリーは後部付近に3発の爆裂光弾を食らい、後部機関室と推進器に損傷を負い、速力が低下。次第に艦隊から落伍し始めた。
バックは1発だけの被弾に留まったが、不運にも後部の魚雷発射管に爆裂光弾が命中してしまった。
そのため、バックは魚雷の誘爆によって艦体後部が切断されてしまい、大爆発を起こして停止した。
第402、409空中騎士隊のワイバーン隊は、手始めに駆逐艦1隻撃沈、1隻大破、1隻中破の戦果を挙げた。
次に、別のワイバーン小隊が全滅と引き換えに駆逐艦2隻に損傷を与えた。
最終的に駆逐6隻が撃沈破された時、対艦掃討隊は402隊で7騎、409隊5騎が残っており、他は撃墜されるか、爆裂光弾を使い果たして
戦場から離脱しつつあった。
対艦掃討隊は、大穴の開いた防空網を突破し、次に巡洋艦の攻撃へと向かった。
そして、その後ろを雷撃隊が続いて行く。
先の攻撃を免れた米駆逐艦や、未だに無傷である巡洋艦や戦艦が猛烈な阻止弾幕を撃ちこんで来る。
真冬の夜の海面は、米艦艇の放つ対空砲火で地獄さながらの様相を呈している。
盛んに放たれる高角砲弾は、ワイバーン隊の周囲で断続的に炸裂し、シホールアンル兵が見れば眩暈がするほどに詰め込まれたボフォース40ミリ機銃や
エリコン20ミリ機銃が休みなく撃ちまくられ、機銃弾は曳光弾を煌めかせながら、突入するワイバーン群目がけて殺到する。
海面は着弾する機銃弾や高角砲弾の破片で真っ白に沸き立ち、そこに1騎、また1騎と、致命傷を負ったワイバーンが墜落して行った。
空母レイク・シャンプレインの左舷側第2機銃群の給弾手を務めるフィッツ・ウィルコックス2等水兵は、左舷側1000メートル手前を行く
軽巡洋艦アンカレッジが、左舷側を真っ赤にして対空射撃を行っている様を見つめていた。
だが、4番騎は撃墜される事なく、無事に光弾発射を行う事が出来た。
ワイバーンから2発の緑色の杭が投下された直後、それが緑色の光を発して米駆逐艦に向かって行った。
2発の爆裂光弾は、米艦の生命反応を探知し、1発は一度上昇してから艦橋へ、もう1発は敵艦の中央部付近に命中した。
対艦爆裂光弾が爆発した瞬間、敵駆逐艦の艦橋上部と中央部付近で爆炎が吹き上がった。
この時、駆逐艦ウィラード・キースは2発の爆裂光弾によって、艦橋トップのMK12射撃レーダーを爆砕された他、爆発エネルギーがすぐ後ろにある
マストまでも叩き折った。
マストは耳障りな響きを立てながら右舷側に落下し、その際に射手ごと20ミリ機銃座を踏み潰した。
中央部に命中した光弾は、2番煙突のすぐ横で炸裂し、その周囲に居た20ミリ機銃座1つと40ミリ連装機銃座1基が損傷し、火災を発生させた。
幸運な事に、ウィラード・キースは魚雷発射管への命中を免れたため、魚雷に誘爆して爆沈という大惨事を避ける事が出来た。
だが、機銃座を複数粉砕された上に、マスト上の水上レーダーが失われた事は非常に痛手であり、ウィラード・キースの対空火力は著しく衰えてしまった。
TG58.4の駆逐艦群は、ウィラード・キースの他に、ヘンリーとバックが被弾していた。
ヘンリーは後部付近に3発の爆裂光弾を食らい、後部機関室と推進器に損傷を負い、速力が低下。次第に艦隊から落伍し始めた。
バックは1発だけの被弾に留まったが、不運にも後部の魚雷発射管に爆裂光弾が命中してしまった。
そのため、バックは魚雷の誘爆によって艦体後部が切断されてしまい、大爆発を起こして停止した。
第402、409空中騎士隊のワイバーン隊は、手始めに駆逐艦1隻撃沈、1隻大破、1隻中破の戦果を挙げた。
次に、別のワイバーン小隊が全滅と引き換えに駆逐艦2隻に損傷を与えた。
最終的に駆逐6隻が撃沈破された時、対艦掃討隊は402隊で7騎、409隊5騎が残っており、他は撃墜されるか、爆裂光弾を使い果たして
戦場から離脱しつつあった。
対艦掃討隊は、大穴の開いた防空網を突破し、次に巡洋艦の攻撃へと向かった。
そして、その後ろを雷撃隊が続いて行く。
先の攻撃を免れた米駆逐艦や、未だに無傷である巡洋艦や戦艦が猛烈な阻止弾幕を撃ちこんで来る。
真冬の夜の海面は、米艦艇の放つ対空砲火で地獄さながらの様相を呈している。
盛んに放たれる高角砲弾は、ワイバーン隊の周囲で断続的に炸裂し、シホールアンル兵が見れば眩暈がするほどに詰め込まれたボフォース40ミリ機銃や
エリコン20ミリ機銃が休みなく撃ちまくられ、機銃弾は曳光弾を煌めかせながら、突入するワイバーン群目がけて殺到する。
海面は着弾する機銃弾や高角砲弾の破片で真っ白に沸き立ち、そこに1騎、また1騎と、致命傷を負ったワイバーンが墜落して行った。
空母レイク・シャンプレインの左舷側第2機銃群の給弾手を務めるフィッツ・ウィルコックス2等水兵は、左舷側1000メートル手前を行く
軽巡洋艦アンカレッジが、左舷側を真っ赤にして対空射撃を行っている様を見つめていた。
「アンカレッジが全力射撃を開始して1分以上経つのに、まだ敵は全滅しねえのか!」
「アホ!あれだけで全滅するもんか!」
「アホ!あれだけで全滅するもんか!」
ウィルコックス2等水兵の言葉に反応した機銃手の同僚が叫ぶ。
「だがな、アンカレッジは5インチ砲8門と20丁以上の機銃を敵に向けられるんだぜ?それに、敵はアンカレッジだけじゃなくて、アムステルダムや
トライデントからも撃たれまくっている。」
「だから何だってんだ!?“あれっぽっち”の射撃で全滅したらどんだけ楽になるかね。」
トライデントからも撃たれまくっている。」
「だから何だってんだ!?“あれっぽっち”の射撃で全滅したらどんだけ楽になるかね。」
以前、別の空母に乗っていた機銃手はそう吐き捨てながら、40ミリ機銃の発射ペダルに足を置いた。
それから2分後、唐突にアンカレッジが被弾した。
それから2分後、唐突にアンカレッジが被弾した。
「くそ!アンカレッジがやられたぞ!!」
同僚の機銃手が、悔しさを滲ませた口調で叫ぶ。
ウィルコックスはアンカレッジに顔を向けた。
アンカレッジは左舷側から火災を起こしていた。被弾箇所はレイク・シャンプレインの位置からは見えないが、どうやら、左舷側中央部付近に敵弾を受けたようだ。
ウィルコックスはアンカレッジに顔を向けた。
アンカレッジは左舷側から火災を起こしていた。被弾箇所はレイク・シャンプレインの位置からは見えないが、どうやら、左舷側中央部付近に敵弾を受けたようだ。
「ああ……両用砲と機銃座の一部がやられてやがる。」
ウィルコックスは、アンカレッジが吐き出す対空火力が明らかに減っている事を、自らの目で確認した。
被弾前は、指向できる5インチ連装砲4基8門と40ミリ4連装機銃2基、並びに同連装2基、20ミリ機銃12丁を撃ちまくっていた。
アンカレッジは今も尚、対空砲火を放っているが、5インチ砲の発砲は軸線上の物と舷側に設置された4カ所から、艦橋前と後部艦橋前の軸線上に
配置された2カ所に減り、吐き出される曳光弾の数も少ない。
敵ワイバーン隊は犠牲を出しつつも、その任務を全うしたのである。
更に、アンカレッジの前方を航行していた、巡戦トライデントも被弾し、舷側から爆炎を噴き上げた。
被弾前は、指向できる5インチ連装砲4基8門と40ミリ4連装機銃2基、並びに同連装2基、20ミリ機銃12丁を撃ちまくっていた。
アンカレッジは今も尚、対空砲火を放っているが、5インチ砲の発砲は軸線上の物と舷側に設置された4カ所から、艦橋前と後部艦橋前の軸線上に
配置された2カ所に減り、吐き出される曳光弾の数も少ない。
敵ワイバーン隊は犠牲を出しつつも、その任務を全うしたのである。
更に、アンカレッジの前方を航行していた、巡戦トライデントも被弾し、舷側から爆炎を噴き上げた。
「トライデントもやられた!」
「シホットのファック野郎共が!調子に乗りやがって!!」
「シホットのファック野郎共が!調子に乗りやがって!!」
相次ぐ僚艦の被弾を前にして、ウィルコックスを始めとする機銃員や給弾員達は、無意識の内に罵声を吐き出していた。
「貴様ら静かにしろ!アンカレッジとトライデントに気を取られている場合か!?見ろ、新手のシホット共が現れたぞ!!」
機銃分隊の指揮官が怒鳴りながら、左舷側海面に向けて指をさした。
「目標!左舷方向の敵ワイバーン隊!撃ち方はじめぇ!!」
ヘルメットにヘッドフォンとマイクを付けた機銃群指揮官が声高に叫んだ。
ウィルコックスのすぐ側にある40ミリ機銃座が待ってましたとばかりに射撃を開始する。
4本の銃身がリズミカルに射弾を放ち、曳光弾がアンカレッジを飛び越そうとしていた敵ワイバーン編隊に向かって行く。
高角砲弾の炸裂の瞬間、敵ワイバーンの姿が露わとなる。
距離が1000メートル前後に縮まった事もあり、舷側の20ミリ機銃座も全力で応戦する。
40ミリ弾の図太い曳光弾と共に、一際小さな火箭が勢いよく弾き出される。
海上がオレンジ色と青のシャワーに覆われたのかと思わんばかりだ。
レイク・シャンプレインの舷側の5インチ砲も猛々しく撃ちまくる。
砲手が給弾員を急かし、力自慢の給弾員は威勢の良い返事を送りながら、重い5インチ砲弾を手慣れた手つきで詰め込む。
ウィルコックスもまた、5インチ砲ほどではないが、幾らか重い40ミリ機銃弾の給弾作業に没頭した。
同僚の水兵が、クリップで4発ずつに纏められた40ミリ弾を彼に手渡し、ウィルコックスは機銃の給弾口にそのクリップをはめ込んでいく。
けたたましい轟音が鳴り響き、同時にはめ込んだばかりの40ミリ弾があっという間に無くなっていく。
その頃には、新しい40ミリ弾がウィルコックスに手渡され、彼は素早く弾をはめ込んでいく。
機銃座がやや左に向きを変え始めた。
装填作業に集中しているウィルコックスには前方に目を配る余裕が無いため、戦闘がどのような感じで推移しているかまでは分からない。
時折、ちらりと前方を見る事が出来るが、それも一瞬であるため状況を把握するには情報量が乏しかった。
ウィルコックスのすぐ側にある40ミリ機銃座が待ってましたとばかりに射撃を開始する。
4本の銃身がリズミカルに射弾を放ち、曳光弾がアンカレッジを飛び越そうとしていた敵ワイバーン編隊に向かって行く。
高角砲弾の炸裂の瞬間、敵ワイバーンの姿が露わとなる。
距離が1000メートル前後に縮まった事もあり、舷側の20ミリ機銃座も全力で応戦する。
40ミリ弾の図太い曳光弾と共に、一際小さな火箭が勢いよく弾き出される。
海上がオレンジ色と青のシャワーに覆われたのかと思わんばかりだ。
レイク・シャンプレインの舷側の5インチ砲も猛々しく撃ちまくる。
砲手が給弾員を急かし、力自慢の給弾員は威勢の良い返事を送りながら、重い5インチ砲弾を手慣れた手つきで詰め込む。
ウィルコックスもまた、5インチ砲ほどではないが、幾らか重い40ミリ機銃弾の給弾作業に没頭した。
同僚の水兵が、クリップで4発ずつに纏められた40ミリ弾を彼に手渡し、ウィルコックスは機銃の給弾口にそのクリップをはめ込んでいく。
けたたましい轟音が鳴り響き、同時にはめ込んだばかりの40ミリ弾があっという間に無くなっていく。
その頃には、新しい40ミリ弾がウィルコックスに手渡され、彼は素早く弾をはめ込んでいく。
機銃座がやや左に向きを変え始めた。
装填作業に集中しているウィルコックスには前方に目を配る余裕が無いため、戦闘がどのような感じで推移しているかまでは分からない。
時折、ちらりと前方を見る事が出来るが、それも一瞬であるため状況を把握するには情報量が乏しかった。
(俺達が切れ間なく弾を込め続けてやるから、シホット共を全部叩き落してくれよ)
彼は心中で思った。真冬の寒い夜(この時の気温はマイナス4度だ)であるにもかかわらず、体は激しい運動のため、たっぷりと汗をかいている。
そのおかげで体は温まっている物の、防寒着が汗を吸って重くなっているように感じた。
給弾作業を始めて4分ほどが経った時、唐突に誰かの叫び声が聞こえた。
そのおかげで体は温まっている物の、防寒着が汗を吸って重くなっているように感じた。
給弾作業を始めて4分ほどが経った時、唐突に誰かの叫び声が聞こえた。
「来るぞ!」
彼はハッとなり、顔を左舷側に向けた。
その瞬間、3頭のワイバーンが大きな翼を広げた姿で、すぐ真上を飛び去って行った。
その瞬間、3頭のワイバーンが大きな翼を広げた姿で、すぐ真上を飛び去って行った。
「うわ!?」
ウィルコックスは、40ミリ弾を抱えたまま大きくしゃがんだ。
直後、艦体が左舷に回頭し始めた。
直後、艦体が左舷に回頭し始めた。
「な……まさか、魚雷を回避しているのか!?」
彼はこの時、レイク・シャンプレインが危機的状況に陥っている事に気が付いた。
この時までに、レイク・シャンプレインは敵ワイバーン16騎に襲撃されていた。
レイク・シャンプレインは左舷側の機銃と、艦橋の前側と後ろ側に取り付けた8門の5インチ砲を撃ちまくって雷撃の阻止に努めた。
レイク・シャンプレインの他に、損傷を受けた巡戦トライデントと軽巡アンカレッジも無傷で残っていた右舷側の機銃座を使って敵雷撃隊の殲滅を図った。
後日、レイク・シャンプレインの艦体に数十発の弾痕が発見され、この夜戦での同士討ちが発覚する程の凄まじい対空弾幕の前に、敵ワイバーン隊は
アンカレッジの前方を飛び越える前に3騎が撃墜され、アンカレッジの右舷側に飛び出た瞬間には5騎が叩き落された。
85年型ワイバーンの強化された魔法障壁も、激烈な対空砲火の前にはちょっとした誤差程度であった。
だが、それでも8騎のワイバーンがレイク・シャンプレインまで1000メートルにまで迫った。
そこからレイク・シャンプレインは、自身の対空砲火と僚艦の援護射撃を受けて、新たに2騎を撃墜した。
だが、残り6騎が距離800メートルに迫った所で、一斉に魚雷を投下した。
単横陣の隊形で投下された魚雷は、扇状に広がる形で迫っていた。
敵の魚雷投下を予測していたレイク・シャンプレインの艦長は、即座に取り舵一杯を命じ、艦を回頭させた。
しかし、タイミングが一歩遅かった為、レイク・シャンプレインが回頭を始めた頃には、4本の魚雷が左舷側目がけて突き進んでいた。
ヨークタウン級空母の軽快な運動性能を引き継いだエセックス級の同型艦であるレイク・シャンプレインは、この時の回頭でその特徴を発揮した。
命中コースに乗っていた4本の内、まず、艦尾に向かっていた1発がギリギリの所で艦尾側へすり抜けて行った。
続いて、艦首へ突進していた魚雷はレイク・シャンプレインが急回頭したために、艦尾から30メートルほどの所を空しく通り過ぎっていた。
しかし、レイク・シャンプレインの強運はここまでであった。
最後の2本は、過たずレイク・シャンプレインの左舷側艦首部と後部付近に突っ込んで来た。
最初に、左舷側艦首部に高々と水柱が上がった。
この時、基準排水量27500トンを誇るレイク・シャンプレインの艦体が激しく振動し、28ノットで航行していた艦体が一瞬、停止したかと思われた。
それから5秒後には、中央部の舷側エレベーターから20メートル程後ろに離れた部分から巨大な水柱が立ち上がり、レイク・シャンプレインの艦体が更に揺れる。
ウィルコックスは、余りにも強い衝撃に死を覚悟した。
この時までに、レイク・シャンプレインは敵ワイバーン16騎に襲撃されていた。
レイク・シャンプレインは左舷側の機銃と、艦橋の前側と後ろ側に取り付けた8門の5インチ砲を撃ちまくって雷撃の阻止に努めた。
レイク・シャンプレインの他に、損傷を受けた巡戦トライデントと軽巡アンカレッジも無傷で残っていた右舷側の機銃座を使って敵雷撃隊の殲滅を図った。
後日、レイク・シャンプレインの艦体に数十発の弾痕が発見され、この夜戦での同士討ちが発覚する程の凄まじい対空弾幕の前に、敵ワイバーン隊は
アンカレッジの前方を飛び越える前に3騎が撃墜され、アンカレッジの右舷側に飛び出た瞬間には5騎が叩き落された。
85年型ワイバーンの強化された魔法障壁も、激烈な対空砲火の前にはちょっとした誤差程度であった。
だが、それでも8騎のワイバーンがレイク・シャンプレインまで1000メートルにまで迫った。
そこからレイク・シャンプレインは、自身の対空砲火と僚艦の援護射撃を受けて、新たに2騎を撃墜した。
だが、残り6騎が距離800メートルに迫った所で、一斉に魚雷を投下した。
単横陣の隊形で投下された魚雷は、扇状に広がる形で迫っていた。
敵の魚雷投下を予測していたレイク・シャンプレインの艦長は、即座に取り舵一杯を命じ、艦を回頭させた。
しかし、タイミングが一歩遅かった為、レイク・シャンプレインが回頭を始めた頃には、4本の魚雷が左舷側目がけて突き進んでいた。
ヨークタウン級空母の軽快な運動性能を引き継いだエセックス級の同型艦であるレイク・シャンプレインは、この時の回頭でその特徴を発揮した。
命中コースに乗っていた4本の内、まず、艦尾に向かっていた1発がギリギリの所で艦尾側へすり抜けて行った。
続いて、艦首へ突進していた魚雷はレイク・シャンプレインが急回頭したために、艦尾から30メートルほどの所を空しく通り過ぎっていた。
しかし、レイク・シャンプレインの強運はここまでであった。
最後の2本は、過たずレイク・シャンプレインの左舷側艦首部と後部付近に突っ込んで来た。
最初に、左舷側艦首部に高々と水柱が上がった。
この時、基準排水量27500トンを誇るレイク・シャンプレインの艦体が激しく振動し、28ノットで航行していた艦体が一瞬、停止したかと思われた。
それから5秒後には、中央部の舷側エレベーターから20メートル程後ろに離れた部分から巨大な水柱が立ち上がり、レイク・シャンプレインの艦体が更に揺れる。
ウィルコックスは、余りにも強い衝撃に死を覚悟した。
(くそ!これは死ぬかもしれんぞ……!)
心中でそう叫んだ時、彼は無意識のうちに体全体を震わせた。
彼の耳には、対空砲火の喧騒と共に被弾時に発せられる警報ブザーが鳴る音も混じって聞こえていた。
彼の耳には、対空砲火の喧騒と共に被弾時に発せられる警報ブザーが鳴る音も混じって聞こえていた。
レイク・シャンプレインが被雷してから2分後、その後方900メートルを航行していた空母キアサージが攻撃を受けた。
キアサージには、16騎の敵ワイバーンが殺到し、それをキアサージ自身と軽巡アムステルダム、重巡デ・モインが迎え撃った。
こちらもまた、激烈な対空砲火を前に被撃墜騎が相次いだが、生き残ったワイバーン7騎はキアサージへの攻撃に成功した。
7騎中2騎は対艦爆裂光弾を抱いた対空砲掃討隊であり、これらの放った光弾はキアサージの機銃座と飛行甲板に命中し、少なからぬ損害を生じさせた。
続いて、5騎が800メートルで魚雷を投下した。
キアサージは回避運動を行い、5本中3本を回避した。
だが、残り2本はキアサージの左舷側中央部に命中し、高々と水柱が吹き上がった。
この損傷で、キアサージは前部機関室付近に損害を受け、機関出力が大幅に低下した。
キアサージには、16騎の敵ワイバーンが殺到し、それをキアサージ自身と軽巡アムステルダム、重巡デ・モインが迎え撃った。
こちらもまた、激烈な対空砲火を前に被撃墜騎が相次いだが、生き残ったワイバーン7騎はキアサージへの攻撃に成功した。
7騎中2騎は対艦爆裂光弾を抱いた対空砲掃討隊であり、これらの放った光弾はキアサージの機銃座と飛行甲板に命中し、少なからぬ損害を生じさせた。
続いて、5騎が800メートルで魚雷を投下した。
キアサージは回避運動を行い、5本中3本を回避した。
だが、残り2本はキアサージの左舷側中央部に命中し、高々と水柱が吹き上がった。
この損傷で、キアサージは前部機関室付近に損害を受け、機関出力が大幅に低下した。
旗艦キアサージは、敵の攻撃で損傷を負ったため、左舷に5度傾斜していた。
「司令。現在、キアサージのダメコン班は全力で被害の拡大阻止に努めています。艦長の報告では、1時間以内に浸水は止まるとの事です。それから、
消火活動に関しては、あと20分程で火災は鎮火する見込みのようです。」
「レイク・シャンプレインはどうなっている?あっちも手酷くやられているようだが……」
消火活動に関しては、あと20分程で火災は鎮火する見込みのようです。」
「レイク・シャンプレインはどうなっている?あっちも手酷くやられているようだが……」
ブランディは平静さを取り繕いながら、最も気がかりとなっていたレイク・シャンプレインの様子をワトソン大佐に聞く。
「レイク・シャンプレインも本艦と同様、新たな攻撃を受けぬ限りは沈没する事はありません。ですが、レイク・シャンプレインも艦腹に大穴を穿たれて
おります。今の所、ダメコン班が懸命の復旧作業を行っていますが、控えめに見ても大破確実でしょう。速力も出せそうにありませんから……
明日の決戦には参加できぬでしょう。」
「……前哨戦でTG58.4は航空戦力の50%以上を喪失、という事か。酷い話だ。」
「護衛艦艇の被害も無視できません。巡戦トライデントはまだ大丈夫として、軽巡アンカレッジは左舷側の両用砲を失っており、対空火力が大幅に
減じております。駆逐艦部隊は、第84駆逐隊がバック轟沈、ヘンリーとウィラード・キースが中破。第92駆逐隊は沈没艦こそありませんでしたが、
それでもウェンリー・ブリッジス、ケン・クランジェルが中破しております。第93駆逐隊も1隻が中破しており、駆逐艦部隊の被害は喪失1、
戦線離脱が5隻に上ります。1個任務群の駆逐艦定数は6個駆逐隊24隻ですが、我が任務群は既に、1個駆逐隊半の駆逐艦を戦列から失った事になります。」
「……恐らく、数時間後には大破したキアサージとレイク・シャンプレインも後方に下げる事になる。護衛には……最低でも1個駆逐隊は必要になるから、
TG58.4の戦力は大幅にすり減らされた事になるな。」
おります。今の所、ダメコン班が懸命の復旧作業を行っていますが、控えめに見ても大破確実でしょう。速力も出せそうにありませんから……
明日の決戦には参加できぬでしょう。」
「……前哨戦でTG58.4は航空戦力の50%以上を喪失、という事か。酷い話だ。」
「護衛艦艇の被害も無視できません。巡戦トライデントはまだ大丈夫として、軽巡アンカレッジは左舷側の両用砲を失っており、対空火力が大幅に
減じております。駆逐艦部隊は、第84駆逐隊がバック轟沈、ヘンリーとウィラード・キースが中破。第92駆逐隊は沈没艦こそありませんでしたが、
それでもウェンリー・ブリッジス、ケン・クランジェルが中破しております。第93駆逐隊も1隻が中破しており、駆逐艦部隊の被害は喪失1、
戦線離脱が5隻に上ります。1個任務群の駆逐艦定数は6個駆逐隊24隻ですが、我が任務群は既に、1個駆逐隊半の駆逐艦を戦列から失った事になります。」
「……恐らく、数時間後には大破したキアサージとレイク・シャンプレインも後方に下げる事になる。護衛には……最低でも1個駆逐隊は必要になるから、
TG58.4の戦力は大幅にすり減らされた事になるな。」
ブランディは深いため息を吐いた。
「立派に整備された決戦兵力が、一度戦っただけで飴のように溶けていくとはね。」
「司令。先ほどは敵にしてやられましたが、あと1時間後には我が方が放った攻撃隊が敵機動部隊に辿り着きます。我々は損傷艦の構想準備を行いつつ、
夜間攻撃隊の奮闘を祈る事にしましょう。」
「君の言う通りだな。」
「司令。先ほどは敵にしてやられましたが、あと1時間後には我が方が放った攻撃隊が敵機動部隊に辿り着きます。我々は損傷艦の構想準備を行いつつ、
夜間攻撃隊の奮闘を祈る事にしましょう。」
「君の言う通りだな。」
ブランディは頷くと、俯かせていた顔を上げ、参謀長に視線を向けた。
「参謀長。旗艦を変更しよう。TG58.4には無傷のゲティスバーグが残っている。群司令部は直ちにゲティスバーグに移動し、損傷艦の後退準備と
明日の攻撃準備に備える事にしよう。」
「アイアイサー。」
明日の攻撃準備に備える事にしよう。」
「アイアイサー。」
ワトソン参謀長は命令を受け取ると、すぐに通信参謀を呼び、ゲティスバーグと連絡を取らせた。
午前1時20分 レビリンイクル沖北方430マイル地点
TF58より発艦した夜間攻撃隊は、1機の脱落機が出る事もなく、順調に進撃を続けていた。
「隊長!艦隊より続報です。」
夜間攻撃隊の指揮官を務めるジョージ・ゲイ少佐は、愛機の操縦桿を握りながら無線手の報告に耳を傾けていた。
「敵編隊の攻撃は終了せり。先の攻撃でTG58.4所属の駆逐艦1隻轟沈、5隻大中破。空母レイク・シャンプレイン、キアサージ被雷、沈没の恐れ
なきも損害大。他、軽巡アンカレッジ、巡戦トライデントも被弾せり……」
「シホットの奴ら……やってくれるじゃないか!」
なきも損害大。他、軽巡アンカレッジ、巡戦トライデントも被弾せり……」
「シホットの奴ら……やってくれるじゃないか!」
ゲイ少佐は眉間にしわを寄せながらそう言い放った。
「連中も相当気合が入っているようだが、夜間奇襲が得意なのは、何もお前らだけじゃないぞ。今に見てろよ……」
ゲイ少佐は、沸き起こる激情を飲み込みながら、心中でTG58.4の仇討ちを誓った。
ジョージ・ゲイ少佐は、開戦以来、母艦航空隊のパイロットとして活躍して来たベテランパイロットである。
初陣は42年8月のレーフェイル大陸強襲から始まり、第2次バゼット海海戦、43年序盤から中盤の敵通商路破壊作戦とマルヒナス運河空襲に参加。
44年中は本国で教官配置となるも、45年1月に前線に復帰。
その月の下旬に発生したレーミア沖海戦にホーネット雷撃隊の一員として参加しており、敵竜母に魚雷を命中させている。
母艦ホーネットが沈没した後は、本国で3週間ほど休暇を取った後、今年5月にアンティータム所属のVT-37指揮官に任命された。
ゲイ少佐のVT-37は、TF58で最も練度の高い部隊である。
攻撃力の点から見て、VT-37の装備するアベンジャーは新鋭機であるスカイレイダーに及ばない物の、スカイレイダーが苦手な夜間攻撃を充分に
こなせることが出来た。
このため、VT-37はレンジャーのVT-17と共に夜間攻撃隊の主力に選ばれ、1時間20分前に母艦アンティータムから飛び立った。
だが、夜間攻撃を企てていたのは敵も同様であり、VT-37が未だに進撃途上である中、シホールアンル軍は先手を打ち、TG58.4に大損害を
与えたのである。
これには、ゲイ少佐のみならず、夜間攻撃隊のパイロット全員が悔し涙を呑んだ。
とはいえ、戦闘はまだ始まったばかりである。
復仇の機会は間もなく訪れる……彼らはそう確信していた。
初陣は42年8月のレーフェイル大陸強襲から始まり、第2次バゼット海海戦、43年序盤から中盤の敵通商路破壊作戦とマルヒナス運河空襲に参加。
44年中は本国で教官配置となるも、45年1月に前線に復帰。
その月の下旬に発生したレーミア沖海戦にホーネット雷撃隊の一員として参加しており、敵竜母に魚雷を命中させている。
母艦ホーネットが沈没した後は、本国で3週間ほど休暇を取った後、今年5月にアンティータム所属のVT-37指揮官に任命された。
ゲイ少佐のVT-37は、TF58で最も練度の高い部隊である。
攻撃力の点から見て、VT-37の装備するアベンジャーは新鋭機であるスカイレイダーに及ばない物の、スカイレイダーが苦手な夜間攻撃を充分に
こなせることが出来た。
このため、VT-37はレンジャーのVT-17と共に夜間攻撃隊の主力に選ばれ、1時間20分前に母艦アンティータムから飛び立った。
だが、夜間攻撃を企てていたのは敵も同様であり、VT-37が未だに進撃途上である中、シホールアンル軍は先手を打ち、TG58.4に大損害を
与えたのである。
これには、ゲイ少佐のみならず、夜間攻撃隊のパイロット全員が悔し涙を呑んだ。
とはいえ、戦闘はまだ始まったばかりである。
復仇の機会は間もなく訪れる……彼らはそう確信していた。
時間が午前2時10分に差し掛かった時、攻撃隊の前方を飛行しているS1Aから連絡が入った。
「ヴェルモットリーダーよりブラックファングリーダーへ!応答願います!」
「こちらブラックファングリーダー。どうした?」
「こちらブラックファングリーダー。どうした?」
ゲイ少佐は前を見据えつつ、レシーバーの向こう側へ返事を送る。
「機上レーダーに反応があります!位置はここから北北東方40マイル。方位25度!反応は増大しつつあります!」
「周囲に敵機はいないか?」
「敵ワイバーンらしき物の反応は……今確認しました!数は6ないし8以上。こちらに向かっています。」
「OK。どうやら、アタリを引いたようだな。」
「周囲に敵機はいないか?」
「敵ワイバーンらしき物の反応は……今確認しました!数は6ないし8以上。こちらに向かっています。」
「OK。どうやら、アタリを引いたようだな。」
ゲイ少佐は愁眉を開いた。
「こちらブラックファングリーダー。各機に告ぐ。先行したハイライダーが敵機動部隊を発見した。夜間攻撃隊はこれより、敵機動部隊へ向けて攻撃を開始する!」
彼は一度言葉を止め、攻撃隊本隊よりやや先行している護衛戦闘機隊に視線を向けた。
「まず、インフィニティーズは敵機動部隊上空を飛び回る護衛を排除。その次に、イエローレイン隊は敵艦隊上空へ進出し、照明弾を投下。その後、
ブラックファングとホワイトタイガー、イエロークラウンは敵竜母を攻撃する。攻撃の手順は追って知らせる。」
ブラックファングとホワイトタイガー、イエロークラウンは敵竜母を攻撃する。攻撃の手順は追って知らせる。」
レシーバーから了解の声が響いた。
夜間攻撃隊の各隊は、それぞれ事前に付けられたコードネームで呼ばれている。
アンティータムから発艦したVT37はブラックファングと呼ばれ、VB37のSB2Cはイエロークラウンと呼ばれている。
レンジャーのVT17はホワイトタイガー、照明隊のSB2C6機はイエローレイン、ラングレー隊のVFN91はインフィニティーズ、先導機のS1Aは
ヴェルモットの符牒を付けられていた。
護衛戦闘機隊が先導機に連れられて敵機動部隊へ接近する中、艦攻隊は高度100メートルまで下降し、艦爆隊は高度4000まで上昇しつつあった。
ハイライダーが敵機動部隊をレーダーで探知してから10分後、遂に護衛戦闘機隊と敵の上空警戒隊との空戦が始まった。
空戦は、数の多い上に、ヴァンパイ特有の特殊な暗視能力を用いた夜戦を得意とそたレスタン人パイロットの操るベアキャット隊が優勢となった。
敵機動部隊は、夜間攻撃隊が来る前に13騎の戦闘ワイバーンを上げたが、夜間であるにもかかわらず、機敏な機動を行う米戦闘機隊の動きに翻弄された。
機動力においてはベアキャットといえども、ワイバーンには敵わないが、この時は、VFN91はよく奮闘し、照明隊が敵艦隊上空に達するまで敵迎撃騎の
行動を阻害し、ある時は手痛い打撃を与えて海中に叩き落した。
照明隊のヘルダイバー6機は、斜め単横陣の態勢のまま、高度4000付近で敵艦隊上空に接近した。
輪形陣の外輪部に差し掛かった時、敵艦隊は一斉に対空砲火を撃ちあげた。
一瞬の間を置いた後、照明隊の周囲に多数の高角砲弾が炸裂し、破片が機体の表面を叩く。
イエローレイン隊の指揮官であるスリード・クローン大尉は、しきりに破裂する砲弾を見ながら叫ぶ。
夜間攻撃隊の各隊は、それぞれ事前に付けられたコードネームで呼ばれている。
アンティータムから発艦したVT37はブラックファングと呼ばれ、VB37のSB2Cはイエロークラウンと呼ばれている。
レンジャーのVT17はホワイトタイガー、照明隊のSB2C6機はイエローレイン、ラングレー隊のVFN91はインフィニティーズ、先導機のS1Aは
ヴェルモットの符牒を付けられていた。
護衛戦闘機隊が先導機に連れられて敵機動部隊へ接近する中、艦攻隊は高度100メートルまで下降し、艦爆隊は高度4000まで上昇しつつあった。
ハイライダーが敵機動部隊をレーダーで探知してから10分後、遂に護衛戦闘機隊と敵の上空警戒隊との空戦が始まった。
空戦は、数の多い上に、ヴァンパイ特有の特殊な暗視能力を用いた夜戦を得意とそたレスタン人パイロットの操るベアキャット隊が優勢となった。
敵機動部隊は、夜間攻撃隊が来る前に13騎の戦闘ワイバーンを上げたが、夜間であるにもかかわらず、機敏な機動を行う米戦闘機隊の動きに翻弄された。
機動力においてはベアキャットといえども、ワイバーンには敵わないが、この時は、VFN91はよく奮闘し、照明隊が敵艦隊上空に達するまで敵迎撃騎の
行動を阻害し、ある時は手痛い打撃を与えて海中に叩き落した。
照明隊のヘルダイバー6機は、斜め単横陣の態勢のまま、高度4000付近で敵艦隊上空に接近した。
輪形陣の外輪部に差し掛かった時、敵艦隊は一斉に対空砲火を撃ちあげた。
一瞬の間を置いた後、照明隊の周囲に多数の高角砲弾が炸裂し、破片が機体の表面を叩く。
イエローレイン隊の指揮官であるスリード・クローン大尉は、しきりに破裂する砲弾を見ながら叫ぶ。
「ワオ!敵さんの対空砲火が激しいな!」
「連中、俺らが早々とお返しに来たんで、慌てて打ち上げて来てるんじゃないですかね!」
「そうかも知れねぇな!」
「連中、俺らが早々とお返しに来たんで、慌てて打ち上げて来てるんじゃないですかね!」
「そうかも知れねぇな!」
クローン大尉は快活な声で応えながら、眼下の発砲炎を見つめる。
海面は暗くて見え辛いが、敵艦隊は派手に対空砲火を撃ちあげている事もあって、僅かながらも、その姿を見る事が出来た。
海面は暗くて見え辛いが、敵艦隊は派手に対空砲火を撃ちあげている事もあって、僅かながらも、その姿を見る事が出来た。
「輪形陣の外輪部上空からじゃ効果は薄い、もうちょい中まで進んでから落とすぞ!」
「了解です、あっ!!」
「了解です、あっ!!」
後部座席の相棒が思わず声を上げた。
その直後、機体の右斜め後ろからオレンジ色の光が差し込んで来た。
クローン大尉機の右斜め後方を飛んでいた4番機は、高射砲弾の炸裂を至近で受けた。
その直後、破片が右主翼を中ほどから吹き飛ばすと同時に、被弾箇所から火災が発生した。
4番機は右主翼部分を火に包まれながら、錐揉み状態で墜落して行った。
その直後、機体の右斜め後ろからオレンジ色の光が差し込んで来た。
クローン大尉機の右斜め後方を飛んでいた4番機は、高射砲弾の炸裂を至近で受けた。
その直後、破片が右主翼を中ほどから吹き飛ばすと同時に、被弾箇所から火災が発生した。
4番機は右主翼部分を火に包まれながら、錐揉み状態で墜落して行った。
「4番機がやられた!畜生!」
「ク……ここまで来て!」
「ク……ここまで来て!」
クローン大尉は眉間にしわを寄せるが、すぐに気持ちを切り替えた。
「アリーとトニーの弔いのためにも、てめえらの姿はしっかり曝け出してやるぜ。」
クローン大尉は失った部下達の名前を呼びながら、操縦に専念する。
輪形陣外輪部の上空に達したと見た彼は、爆弾倉を開いた。
それまで、280マイル(約450キロ)の速度で飛行していた愛機が、空気抵抗の増大で260マイルにまで下がる。
少し進むだけで、周囲で炸裂する高角砲弾は倍増したかのように感じる。機体の表面は、あちこちが傷だらけとなり、風防の防弾ガラスにも2つ3つと、ヒビが生じていた。
クローン大尉は、機首の下に比較的大型の艦艇が隠れたと見るや、部下達に向けて命令を発した。
輪形陣外輪部の上空に達したと見た彼は、爆弾倉を開いた。
それまで、280マイル(約450キロ)の速度で飛行していた愛機が、空気抵抗の増大で260マイルにまで下がる。
少し進むだけで、周囲で炸裂する高角砲弾は倍増したかのように感じる。機体の表面は、あちこちが傷だらけとなり、風防の防弾ガラスにも2つ3つと、ヒビが生じていた。
クローン大尉は、機首の下に比較的大型の艦艇が隠れたと見るや、部下達に向けて命令を発した。
「丁度いい頃合いだ!全機、照明弾を投下しろ!」
口元のマイクに向けてそう叫んだ後、クローン大尉は照明弾の投下レバーを押した。
爆弾倉に詰められていた6発の照明弾のうち、3発が投下された。
照明隊は、敵機動部隊の上空で2回に分けて照明弾を落とすように命令されている。
撃墜された4番機を除く5機のヘルダイバーは、5分後にもう1度照明弾を投下し、攻撃隊を支援する手はずになっていた。
爆弾倉に詰められていた6発の照明弾のうち、3発が投下された。
照明隊は、敵機動部隊の上空で2回に分けて照明弾を落とすように命令されている。
撃墜された4番機を除く5機のヘルダイバーは、5分後にもう1度照明弾を投下し、攻撃隊を支援する手はずになっていた。
「さて、最初の投下は完了だ。攻撃隊、後は頼んだぜ。」
クローン大尉はそう呟きながら、待機している攻撃隊主力の奮闘を心から祈った。
ゲイ少佐は、照明弾の光に照らし出された敵艦隊を見るなり、満足気に頷いた。
「ナイスだぜ、照明隊!」
彼は立派に任務を果たしてくれた照明隊の居る方向に顔を向ける。その時、敵機動部隊の上空で、1機の味方機が火を噴きながら墜落していくのが見えた。
「……見てろよ。お前の分まで仇は取ってやる!」
ゲイ少佐は、今しも被弾した戦友にそう語りかけた後、攻撃隊全機に向けて命令を飛ばした。
「これより、敵機動部隊に突入する!ブラックファング隊は輪形陣左側の敵竜母1番艦!ホワイトタイガー隊はその後方の敵竜母2番艦!イエロークラウン隊は
敵竜母3番艦を狙え!」
「「了解!!」」
敵竜母3番艦を狙え!」
「「了解!!」」
命令が下るや、攻撃隊各機は一斉に敵機動部隊へと向かって行った。
最初に輪形陣に突入したのは、ゲイ少佐の直率するアンティータム隊であった。
魚雷投下のため、時速320キロ前後の低速で飛行するしかないが、それでも高度30メートル前後の超低空飛行であり、しかも夜間という事もあって恐怖感は
決して小さなものでは無い。
ゲイ少佐を始めとするVT37のパイロット達は、実戦経験豊富な強者揃いばかりであるが、ゲイ少佐自身、この夜間超低空飛行はかなりきついと感じていた。
敵駆逐艦群が、アベンジャー隊目がけて対空砲火を放って来る。
照明隊の投下した照明弾はまだ消えていないため、敵艦の姿がはっきりと見て取れる。
最初に輪形陣に突入したのは、ゲイ少佐の直率するアンティータム隊であった。
魚雷投下のため、時速320キロ前後の低速で飛行するしかないが、それでも高度30メートル前後の超低空飛行であり、しかも夜間という事もあって恐怖感は
決して小さなものでは無い。
ゲイ少佐を始めとするVT37のパイロット達は、実戦経験豊富な強者揃いばかりであるが、ゲイ少佐自身、この夜間超低空飛行はかなりきついと感じていた。
敵駆逐艦群が、アベンジャー隊目がけて対空砲火を放って来る。
照明隊の投下した照明弾はまだ消えていないため、敵艦の姿がはっきりと見て取れる。
「突破されたらやばいから、必死になって撃って来るな。」
ゲイ少佐は、敵駆逐艦の猛烈な対空射撃に対してそう呟きつつ、愛機の高度を更に下げて行く。
計器の針が次第にゼロに近づいて行く。
計器の針が次第にゼロに近づいて行く。
「各機、高度を上げ過ぎるな!敵の魔道銃に食われるぞ!」
ゲイ少佐はレシーバー越しに指示を飛ばす。
眼前の敵艦は、相対距離が1400を切ったと見るや、主砲と共に魔道銃まで撃って来た。
眼前の敵艦は、相対距離が1400を切ったと見るや、主砲と共に魔道銃まで撃って来た。
赤、青、黄色、オレンジ色と、大量のキャンディーを上空にぶちまけたらさもありなん、と言った光景が広がっていた。
キャンディー好きが見ればたまらない光景だろうが、米海軍航空隊のパイロットから見れば、これは死と隣り合わせの世界だ。
下手すれば、このキャンディーの嵐に機体のみならず、自身の体を穴だらけにされて戦死してしまう。
キャンディー好きが見ればたまらない光景だろうが、米海軍航空隊のパイロットから見れば、これは死と隣り合わせの世界だ。
下手すれば、このキャンディーの嵐に機体のみならず、自身の体を穴だらけにされて戦死してしまう。
(俺の部下が甘党から辛党になった原因がこれだ。全く、シホット共も品が無い物だ)
彼は、心中でやや呑気な言葉を吐きながら、愛機を敵駆逐艦の艦首側前方に向ける。
海面が着弾した光弾や高射砲弾で盛んに波立ち、時折、至近に上がる水柱が機体の表面をかすめる。
唐突に、部下の声が響き渡った。
海面が着弾した光弾や高射砲弾で盛んに波立ち、時折、至近に上がる水柱が機体の表面をかすめる。
唐突に、部下の声が響き渡った。
「第3小隊2番機被弾!墜落します!!」
光弾の集束弾を受けた1機のアベンジャーが、エンジン部分と左主翼から火を噴きながら海面に叩き付けられた。
その瞬間、機体内に残っていた燃料が爆発し、海面に飛び散ったガソリンが燃え上がった。
ゲイ少佐の直率小隊は、敵駆逐艦の防衛ラインを突破したが、第2小隊で1機が撃墜された。
18機から16機に減ったVT37は、目標に定めた敵竜母目がけて突き進んでいく。
この時、高度は既に10メートルにまで下がっていた。
駆逐艦の防衛ラインを突破したVT37の前に、今度は敵巡洋艦が立ちはだかった。
フリレンギラ級に属する防空巡洋艦なのであろう、艦体から放たれる砲弾と魔道銃の光弾の量が並みの巡洋艦よりも明らかに多い。
機体に2度、衝撃が走る。
その瞬間、機体内に残っていた燃料が爆発し、海面に飛び散ったガソリンが燃え上がった。
ゲイ少佐の直率小隊は、敵駆逐艦の防衛ラインを突破したが、第2小隊で1機が撃墜された。
18機から16機に減ったVT37は、目標に定めた敵竜母目がけて突き進んでいく。
この時、高度は既に10メートルにまで下がっていた。
駆逐艦の防衛ラインを突破したVT37の前に、今度は敵巡洋艦が立ちはだかった。
フリレンギラ級に属する防空巡洋艦なのであろう、艦体から放たれる砲弾と魔道銃の光弾の量が並みの巡洋艦よりも明らかに多い。
機体に2度、衝撃が走る。
「くそ、食らったか!」
ゲイ少佐は顔をしかめながら叫ぶ。計器を一通り確認するが、致命傷は負っていないようだ。
「せめて、魚雷を投下するまでは飛んでくれよ!」
彼は、半ば懇願するかのよう口調で愛機にそう語りかけた。
敵艦は、海面へ向けて盛んに両用砲弾を撃ち込み、水柱でアベンジャーを叩き落そうとする。
至近距離で水柱が上がり、それをゲイ少佐は巧みに回避していく。
敵艦は、海面へ向けて盛んに両用砲弾を撃ち込み、水柱でアベンジャーを叩き落そうとする。
至近距離で水柱が上がり、それをゲイ少佐は巧みに回避していく。
他の機も見事な動きで回避していくが、それでも犠牲は避けられなかった。
「3番機墜落!水柱を避け損ねました!」
「クソ!これで3機やられたか。」
「クソ!これで3機やられたか。」
彼は歯噛みしながら悔しがった。
これで、VT37は15機に減った事になる。
ゲイ少佐機は、敵巡洋艦の艦尾側から抜けた。追随する小隊の中には、敵艦に機銃掃射を加えながら通過していく機も居た。
これで、VT37は15機に減った事になる。
ゲイ少佐機は、敵巡洋艦の艦尾側から抜けた。追随する小隊の中には、敵艦に機銃掃射を加えながら通過していく機も居た。
(ようし、目標まであと少し!)
彼は、目の前に現れた敵艦を見るなり、口中で呟いた。
VT37隊の目標は、眼前を走る大型竜母であった。
その特徴からして、ホロウレイグ級正規竜母のようだ。
ホロウレイグ級正規竜母は、これまでアメリカ機動部隊の好敵手として幾度も刃を交えて来ている。
大物との遭遇は、何度体験しても心躍る物だ。
VT37隊の目標は、眼前を走る大型竜母であった。
その特徴からして、ホロウレイグ級正規竜母のようだ。
ホロウレイグ級正規竜母は、これまでアメリカ機動部隊の好敵手として幾度も刃を交えて来ている。
大物との遭遇は、何度体験しても心躍る物だ。
「目標まであと1800!」
ゲイ少佐は、目標艦との距離を測りつつ、愛機を敵艦の右舷側中央部へと向かわせていく。
この時、照明弾の明かりが消え、上空が再び暗くなった。
この時、照明弾の明かりが消え、上空が再び暗くなった。
「照明弾が海面に落ちたか……」
ゲイ少佐は、急に暗くなった視界に幾分やり辛さを感じたが、その直後、新たな照明弾が上空で光った。
「おお……こいつは、是が非でも沈めんといかんなぁ。」
でなきゃ、連中の頑張りに報いることが出来ん。
ゲイ少佐はそう言いながら、敵艦を睨み付ける。
ゲイ少佐はそう言いながら、敵艦を睨み付ける。
エセックス級並に巨大な敵艦は、舷側から大量の光弾と高射砲弾を撃ち出しながら30ノット以上の速力で航行している。
また、竜母の前方を行く敵戦艦から放たれる対空砲火もかなり多い。
アベンジャー隊はこの2隻に加えて、後方から敵の巡洋艦や駆逐艦からも対空射撃を浴びせられているため、各機とも損傷を負っていた。
また、竜母の前方を行く敵戦艦から放たれる対空砲火もかなり多い。
アベンジャー隊はこの2隻に加えて、後方から敵の巡洋艦や駆逐艦からも対空射撃を浴びせられているため、各機とも損傷を負っていた。
「距離1400……1200……1000」
ゲイ少佐は、敵艦との距離を目測で測りながら、対空砲火で揺れる機体を懸命に操りつつ、投下地点である距離500メートルに向けて突進を続ける。
VT37は、敵艦の撃沈を確実な物とするため、18機のアベンジャーを2群に分け、第1小隊から第2小隊を前列に置き、第3、第4、第5小隊
(2機編成)を後列に置いている。
敵の対空射撃から生き残った第1、第2小隊の計6機は、左斜めの単横陣を形成しながら敵竜母へと接近しつつあった。
距離900メートルに縮まった時、敵竜母に動きが見られた。
VT37は、敵艦の撃沈を確実な物とするため、18機のアベンジャーを2群に分け、第1小隊から第2小隊を前列に置き、第3、第4、第5小隊
(2機編成)を後列に置いている。
敵の対空射撃から生き残った第1、第2小隊の計6機は、左斜めの単横陣を形成しながら敵竜母へと接近しつつあった。
距離900メートルに縮まった時、敵竜母に動きが見られた。
「畜生!こっちに向かって来るか!」
それまで、右舷の真横を見せる形で航行していた敵竜母が、唐突に右へ回頭をし始めたのだ。
このため、敵艦は第1、第2小隊に艦首から突っ込む形となり、雷撃の難易度は急激に上がってしまった。
このため、敵艦は第1、第2小隊に艦首から突っ込む形となり、雷撃の難易度は急激に上がってしまった。
「畜生!敵もやりやがる。こうなってはやり直しが必要となるが……燃料に余裕が無い今はそれすら難しい……ならば!」
ゲイ少佐は瞬時に判断した。
「第1、第2小隊は敵艦の真正面から雷撃!その間、第3小隊は目標艦の左舷。第4、第5小隊は右舷に回り込み、魚雷を叩き込め!」
部下達から応答の声が発せられた後、指示を受けた各機が所定の位置に向かい始めた。
第1、 第2小隊はそのまま、敵艦の真正面に向けて突進を続けた。
敵艦の艦首から光弾が放たれてくる。だが、光弾はアベンジャー隊の超低空に対応しきれないのか、真上を通り過ぎていくだけだ。
そして、敵艦までの距離が600メートルを切った時、ゲイ少佐は魚雷を投下する事に決めた。
第1、 第2小隊はそのまま、敵艦の真正面に向けて突進を続けた。
敵艦の艦首から光弾が放たれてくる。だが、光弾はアベンジャー隊の超低空に対応しきれないのか、真上を通り過ぎていくだけだ。
そして、敵艦までの距離が600メートルを切った時、ゲイ少佐は魚雷を投下する事に決めた。
「牽制がてらになるが、ここは仕方ない。投下!!」
彼はそう言いつつ、狙いは敵竜母の艦首に定めながら魚雷を投下した。
開かれた爆弾倉から重いMk13魚雷が投下された。
次の瞬間、機体がやや浮き上がった。ゲイ少佐は咄嗟に操縦桿を抑えようとしたが、この時、ある考えが浮かんだ。
次の瞬間、機体がやや浮き上がった。ゲイ少佐は咄嗟に操縦桿を抑えようとしたが、この時、ある考えが浮かんだ。
「少しばかり挨拶だ!」
何を思ったのか、彼は機首を上げ始めた。
敵竜母の甲板よりやや高い所まで上がった直後、機体を水平に戻した。
敵艦からの光弾が激しく放たれてくるが、ゲイ少佐はお構いなしとばかりに、全速力で敵竜母の正面から突っ込んだ。
眼前に、敵艦の黒い艦首と飛行甲板が広がった。
敵竜母の甲板よりやや高い所まで上がった直後、機体を水平に戻した。
敵艦からの光弾が激しく放たれてくるが、ゲイ少佐はお構いなしとばかりに、全速力で敵竜母の正面から突っ込んだ。
眼前に、敵艦の黒い艦首と飛行甲板が広がった。
「隊長!危ないです!」
「なあに!こうするだけだ!!」
「なあに!こうするだけだ!!」
ゲイ少佐はそう答えながら、愛機の高度を飛行甲板から8メートル程上空に固定し、一気に敵竜母の艦首から艦尾付近に抜けようとする。
途中、彼は艦橋に向けて、左手で中指を立てた。
途中、彼は艦橋に向けて、左手で中指を立てた。
「俺達のプレゼントを受け取ってくれ!じゃあな!!」
ゲイ少佐機は一瞬のうちに、敵竜母の艦尾付近に飛び抜けた。
(敵艦の雷撃は牽制みたいな物だから命中は望めんが……あとはあいつらがやってくれるだろう)
彼はそう思いながら、輪形陣の外側に機首を向けた。
直後、機銃手が大声で報告を送って来た。
直後、機銃手が大声で報告を送って来た。
「魚雷命中!敵艦の艦首付近にどでかい水柱が吹き上がってます!」
竜母ランフックは、災厄に見舞われていた。
真正面から突進して来たアベンジャーは、かなりの近距離で魚雷を投下したばかりか、その内の1機が艦首方向から艦尾方向に飛び抜けて行った。
この勇敢なアベンジャーの搭乗員は、明らかにランフック乗員を馬鹿にするような仕草を取っていた事が見張り員の報告で分かったが、その直後、
ランフックは艦首右舷側部分に魚雷を受けていた。
真正面から突進して来たアベンジャーは、かなりの近距離で魚雷を投下したばかりか、その内の1機が艦首方向から艦尾方向に飛び抜けて行った。
この勇敢なアベンジャーの搭乗員は、明らかにランフック乗員を馬鹿にするような仕草を取っていた事が見張り員の報告で分かったが、その直後、
ランフックは艦首右舷側部分に魚雷を受けていた。
ほぼ真正面からぶち当たった魚雷は、艦首の喫水線部分を深々と抉り取った。
この時の衝撃はすさまじく、対空射撃を行っていた水兵5名が海面に投げ出されたほどであった。
艦長は慌てて停止を命じたが、ランフックの左右両舷には、別のアベンジャーが迫っていた。
左右から接近して来たアベンジャーは、2機が途中で撃墜された物の、800メートル程の距離で一斉に魚雷を投下した。
その10秒後、艦首への被雷で運動性能を急激に落とされたランフックは魚雷を完全に避ける事ができず、右舷側に1本、左舷側に2本を受けてしまった。
ランフックは、被雷による浸水と、両舷の被弾箇所から発生した火災によって被害が拡大しつつあった。
大破したランフック以外にも、小型竜母エランク・ジェイキとマルクバが米艦載機の猛攻を受けた。
エランク・ジェイキには、18機のアベンジャーが殺到してきた。
僚艦の援護のお陰で、7機は事前に撃墜できたものの、残った11期がエランク・ジェイキに魚雷を投下した。
エランク・ジェイキは懸命に回避運動を行ったが、2本が右舷中央部に命中した。
2本中、1本は不発であり、有効となったのは残りの1本のみとなった事が幸いとなり、少なくとも沈没は免れた。
だが、この被害で機関部に損害が生じ、エランク・ジェイキは艦隊と行動を共にすることが出来なくなった。
マルクバはランフックとエランク・ジェイキと違い、魚雷攻撃は受けなかったが、代わりに艦爆隊の集中攻撃を受けた。
マルクバには、12機のヘルダイバーが襲い掛かった。
このうち、2機は撃墜したが、残った10機は夜間であるにも関わらず、高度300まで下降してから爆弾を叩き付けて来た。
この攻撃で、マルクバは1000ポンド爆弾3発を浴び、飛行甲板と格納庫に大火災を生じた。
幸いにも、機関部への被害は軽微であったため、火災は2時間ほどで消し止められたが、甲板は使用不能となり、格納庫内のワイバーンも被弾と火災で
10騎が死亡し、8騎が負傷して戦闘行動が出来なくなった。
この時の衝撃はすさまじく、対空射撃を行っていた水兵5名が海面に投げ出されたほどであった。
艦長は慌てて停止を命じたが、ランフックの左右両舷には、別のアベンジャーが迫っていた。
左右から接近して来たアベンジャーは、2機が途中で撃墜された物の、800メートル程の距離で一斉に魚雷を投下した。
その10秒後、艦首への被雷で運動性能を急激に落とされたランフックは魚雷を完全に避ける事ができず、右舷側に1本、左舷側に2本を受けてしまった。
ランフックは、被雷による浸水と、両舷の被弾箇所から発生した火災によって被害が拡大しつつあった。
大破したランフック以外にも、小型竜母エランク・ジェイキとマルクバが米艦載機の猛攻を受けた。
エランク・ジェイキには、18機のアベンジャーが殺到してきた。
僚艦の援護のお陰で、7機は事前に撃墜できたものの、残った11期がエランク・ジェイキに魚雷を投下した。
エランク・ジェイキは懸命に回避運動を行ったが、2本が右舷中央部に命中した。
2本中、1本は不発であり、有効となったのは残りの1本のみとなった事が幸いとなり、少なくとも沈没は免れた。
だが、この被害で機関部に損害が生じ、エランク・ジェイキは艦隊と行動を共にすることが出来なくなった。
マルクバはランフックとエランク・ジェイキと違い、魚雷攻撃は受けなかったが、代わりに艦爆隊の集中攻撃を受けた。
マルクバには、12機のヘルダイバーが襲い掛かった。
このうち、2機は撃墜したが、残った10機は夜間であるにも関わらず、高度300まで下降してから爆弾を叩き付けて来た。
この攻撃で、マルクバは1000ポンド爆弾3発を浴び、飛行甲板と格納庫に大火災を生じた。
幸いにも、機関部への被害は軽微であったため、火災は2時間ほどで消し止められたが、甲板は使用不能となり、格納庫内のワイバーンも被弾と火災で
10騎が死亡し、8騎が負傷して戦闘行動が出来なくなった。
午前2時45分 第5艦隊旗艦ミズーリ
「敵竜母1隻撃沈確実、2隻を大破させり。我が方の損害少なからず。これより帰投す、以上であります。」
フレッチャーは、デイビス参謀長の説明を聞き終えた後、無表情のまま頷いた。
「こちらが空母2隻大破で戦線離脱。対して、戦果は竜母1隻撃沈、2隻大破か。夜間攻撃隊は本当に、良くやってくれた。」
「護衛の夜間戦闘機隊も良く奮闘し、敵迎撃騎を阻止してくれました。夜間攻撃隊の奮闘は、VFN91のお陰でもありますな。」
「護衛の夜間戦闘機隊も良く奮闘し、敵迎撃騎を阻止してくれました。夜間攻撃隊の奮闘は、VFN91のお陰でもありますな。」
ヴォーリス航空参謀もやや浮ついた口調で発言する。
夜間攻撃隊の戦果報告が届くまで、作戦室の空気は重苦しかった。
TF58は、レビリンイクル方面から飛来した敵攻撃隊によって正規空母2隻を戦線離脱に追いやられ、この空母を擁していたTG58.4は航空戦力の
50%を失っていた。
決戦を明日に控え、前哨戦とも言えるこの戦いで、早くも正規空母2隻を戦列から失った司令部幕僚達の衝撃は思いの外大きく、明日の決戦では、
先のレーミア沖海戦並みの大出血を覚悟しなければならないであろう、と言った、幾ばくかの悲壮感さえ感じさせていた。
そこに夜間攻撃隊からの戦果報告が飛び込んで来たのである。
夜間攻撃隊の奮闘は思った以上の物であり、特に、竜母1隻に撃沈確実の損害を与えた事は、明日の決戦において少なからず影響すると考えられていた。
50%を失っていた。
決戦を明日に控え、前哨戦とも言えるこの戦いで、早くも正規空母2隻を戦列から失った司令部幕僚達の衝撃は思いの外大きく、明日の決戦では、
先のレーミア沖海戦並みの大出血を覚悟しなければならないであろう、と言った、幾ばくかの悲壮感さえ感じさせていた。
そこに夜間攻撃隊からの戦果報告が飛び込んで来たのである。
夜間攻撃隊の奮闘は思った以上の物であり、特に、竜母1隻に撃沈確実の損害を与えた事は、明日の決戦において少なからず影響すると考えられていた。
「長官。夜間攻撃隊の戦果を見る限り、敵側も1個竜母群に相当な損害を負っている可能性があります。勿論、夜間攻撃であるため、戦果の有無を判断する
には搭乗員たちから詳細を聞かねばなりませんが、話半分としても、竜母2隻に打撃を与えた事はかなり大きtfいでしょう。戦力の少ないシホールアンル側に
とって、損害比率が我々と同等では不利のままになります。」
「参謀長の言う通りだ。先の攻撃の報復は、きっちり返す事が出来たな。」
には搭乗員たちから詳細を聞かねばなりませんが、話半分としても、竜母2隻に打撃を与えた事はかなり大きtfいでしょう。戦力の少ないシホールアンル側に
とって、損害比率が我々と同等では不利のままになります。」
「参謀長の言う通りだ。先の攻撃の報復は、きっちり返す事が出来たな。」
フレッチャーはそう断言した。
「さて、問題はこれからだな……夜間攻撃隊を収容した後は、もう1度索敵を行い、それから敵機動部隊と敵の基地航空隊に備えなければならん。
明日は、昨日のような索敵失敗を起こす事の無いようにしたい物だ。」
「確かに。」
明日は、昨日のような索敵失敗を起こす事の無いようにしたい物だ。」
「確かに。」
フレッチャーの言葉に反応したヴォーリス航空参謀が、頷きながらそう言う。
「明日こそは、敵機動部隊の本隊に、大群で殴り込みを掛けたい所ですな。」
「そうだな……」
「そうだな……」
フレッチャーは軽く相槌を打ってから、パイプにタバコ葉を積め、火を付けた。
「明日……いや、あと数時間後には再び戦闘か……まさに、決戦だな。」
彼はそう小さく呟いてから、口から紫煙を吐き出した。
レビリンイクル沖海戦は、序盤戦が終了し、結果はアメリカ側がやや優勢となった。
喧騒に包まれた夜は、間もなく終わりを迎える事になるが……真の決戦は、ここから始まりつつあった。