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外伝的掌編『シャーナ。母になる』

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turo428

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リンド王国、ノールベルグ城。
王都は平和と落ち着きを取り戻したとは言え、まだ国内には状勢不安な地域が残る。

皇国から婿入りした王配の陽博が、女王の侍従から
「殿下。重要な話があるので、至急に御部屋へと、陛下からの言伝です」
と言われたのは、まだ朝食の前。着替えが終わったばかりの時。
至急という事なので、すぐにシャーナの私室へ向かった。

「何か御用ですか、シャーナ?」
「先程、私事で典医を呼びました」
「……体の具合でも、悪いのですか?」
シャーナは、暗い表情で沈黙する。
「私は、あと数ヶ月で……」
「まさか、何か重い病にでも?」
余命数ヶ月とか、そんな話は聞きたくない。
せっかく異界異国の地にも慣れ、これから幸せな生活が待っていると思っていたのに!

陽博の顔が蒼褪めると、突然笑顔になるシャーナ。
「あと数ヶ月で、子を産みます。私は、身篭ったようですよ」
「……!?」
「貴方と、私の子です。お互い、あんなに緊張していたのが嘘のようですね。こんなにすんなりと――」
「はっ! 栄養のあるものを食べて、体調に気をつけて、公務は無理をせずにしないと。あとはあとは……」
陽博はシャーナの言葉も耳に入らないのか、おろおろしながら部屋をうろうろ。
普段の、冷静で落ち着いた振る舞いとは別人のようだ。

「そんなに驚かれなくても……ちょっとした悪戯のつもりで……。ごめんなさい(´・ω・`)」
シャーナが落ち込んでしまった。
「何も謝らなくても。嬉しくてつい取り乱した……ごめんよ」


普段からゆったりとした服装の多いシャーナだが、乳房や腹部を触ってみると、
確かに僅かに張りが出て来ているようだ。母になる準備は、もう始まっているのだ。
その他の体調の変化も自覚していたらしいが、確信が持てなかったので黙っていたという。

「え、栄養のある物を食べないと……」
あまり肉食を好まない陽博が、ハムやらソーセージやらをいつにも増して食べる食べる。
(身篭ったのは女王陛下で、夫のあんたが余計に食べたら太るだけですよ……)
料理を運ぶ従僕の冷たい視線にも気付かず、気合を入れて食べる食べる。
「殿下、朝餉からあまり大量に御食事になりますと、御身体に差し障ります。何事も程々が肝心です」
そういう遠まわしの注意で、漸く陽博の朝食は終了した。


新暦1544年(昭和19年)の春先の事。
典医や助産婦の介助の下、シャーナ女王は待望の子を産んだ。
産まれたのは女子であり、母子共に健康であった。

男子ならばリンド風の、女子ならばリンド人の語感的に然程違和感の無い程度に
皇国風の名前にしようと、女王夫妻で事前に取り決めが行われていたため、
命名の儀によって幼い王女には『ハルカ(春香)』という名が付けられた。
新緑の香り爽やかな春の産まれである事から、シャーナも気に入ったようだ。

リンド王国に限らず、この世界の多くの王家では男女に関係無く長子に王位継承権が
優先される(貴族では男子にしか相続権を認めない家系もある)のだが、リンド王国の場合――

  • 王と正妃または王と側室の場合
一、王と正妃の間に授かった子(王太子または王太女)
二、王と側室の間に授かった子(王子または王女)

  • 女王と王配または女王と王配以外の男性の場合
三、女王と王配の間に授かった子(王太子または王太女)
四、女王と男性の間に授かった子(王子または王女)

※どれにも該当する子が出産されない場合、過去に遡って最も近い傍系から王が起てられる。

――という優先順位になっている。

このうち(一、三)と(二、四)ではそれぞれ長子が優先されるが、(一、二)の
ような場合では“二”が先に産まれていても嫡子優先で“一”が繰り上がる形になる。
シャーナの場合は“二”から“暫定第一王女”となり、そこから“一”が産まれなかったので女王となった。
王妃から子が産まれていれば、腹違いの弟か妹が次代の王(女王)となっていたかも知れない訳だ。

これが同じ庶子でも男子なら、将来的に王妃から子が生まれても分家の創立などで
新設公爵あるいは侯爵の初代となる可能性が高いのだが、女子の場合は他国の王か
国内外の有力貴族に嫁ぐ事になり、自身の紋章は相手の紋章に吸収されて残らない。

それくらい、男子か女子かで扱いが変わる。

ハルカ王女の場合は“三”の嫡子優先原則に該当するので、産まれた時から次代の女王として遇される。
「今は王位継承権第一位の王女だが、もしかしたら次の王の腹違いの妹になるかも知れない」という
ふらふらした立場で育って来たシャーナにとって、正式な夫との間に産まれた子は安心に繋がる。

政治的には女王として重要な仕事の一つを行ったというだけだが、心の内では
ハルカが大人になるまでに、リンド王国を復興させる決意を再確認していた。

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